★ ハムシーンのピラミッド(過去ログ) 発言 ★
1件あります。1〜1件目を表示中 前へ 次へ
[233] ハムシーンのピラミッド探検記録・総括(第4ターン結果) 2007-04-27(金) 19:07
事務局 【銀幕コモン散策隊】

 砂の流れが、緩やかになった。
『時間の流れをゆるめたですにゃ。今のうちになんとかするですにゃよー。……あ、お礼はマタタビでいいですにゃー』
 そんな声がどこからか聞こえてきた。
「クロノ君か……」
 犬神警部が苦笑を浮かべた。
「マタタビで助かるなら安いもんだ」
 柘榴は使鬼・宮毘羅(クビラ)を用いて、周辺を透視する。
「砂はピラミッドの外から流れ込み、内側へ流れ込んでいます。ピラミッドの下にできた空洞の中へ……」
「仕掛けが作動して構造が変わったのか」
 悟が言った。
「それでできた空間に砂が流れ込んだんだ。じゃあやっぱりここは……『領域外』だったってことですね」
「だがもときた道はふさがれている公算が高いぞ」
 銀二の言葉に、悟は頷いた。
「このチームに、あるのは前進のみ、でしょう?」
「では参りましょう」
 呼び出された使鬼に、皆が乗って、砂の上を移動する。
 カラスは龍水剣を、瑠意は天狼剣を手に、周囲を警戒する。
 砂の流れは止まったわけではない。
 流砂のうえを、一行は、先へ先へと進んでいく――。

【Related】

「予想があたっているかどうかわからないけれど……」
 なにごともトライあるのみだ。
 明日は『牛の角を持つ女神』が描かれたタイルを押しこむ。
 すると、石の舟が振動をはじめた。
 一同は顔を見合わせ、そしてすばやく舟に乗り込む。ちょうど全員乗って頃合といった感じだ。――と、床がズズズ…と開き、舟を飲み込んだ。どういう仕掛けでか、皆を乗せたまま舟は浮遊し、下へ下へと降下していった。
「一応念のため結界でも張っとくか」
 琥礼は呟いて、呪符を舟に貼り付ける。
 香介もナイフを手に警戒を怠らないが、ルカはリラックスした様子で、
「僕らが、招かれざる客でなければいいんだけども」
 とだけ、ぽつりと呟いた。

【PENPEN Leaf】
【紅蓮探検チーム】

「こうなったら前へ進むのみ」
 剣之進はためらいなく、南の通路へ足を踏み入れる。
 薺とラクシュミもそれに続いた。
 『紅蓮探検チーム』もだ。
「ここまで来たからには、先へ進まなくてはもったいないですわよね〜」
 とファーマ。
「ああ。俺が居る限り、誰も死なせはしねえし安心しな?」
 フェイファーが、笑顔で応じた。
「誰かいる」
 ロスが言った。
 通路の向こうからこちらへやってくる人影。
「お?」
 槍を手にした壮年の男。『炮烙<ほうらく>』の続 那戯だ。

【炮烙<ほうらく>】

「そっちと繋がったか」
 那戯は頭を掻いた。
 その部屋では――
「なぁ!? て、提督どうすりゃいいアル…!?重要なアイテムもてあまし気味アルよ!?」
 壷を手に右往左往しているノリン提督。
「ちょっとー、見てないで手伝いなさいよーー!」
 ミイラと戦っているレモン。
 だが紅蓮探検チームの加勢が加わった。
 モミジがケーン、と一声、放たれた狐火に、ミイラたちが炎に包まれる。
 そしてレイラの銃が、正確に、ミイラの頭を撃ち抜いていった。
 かれらが一掃されるのにさほどの時間はかからない。

「さて、どうします」
 宗主は都合18名になった人々を見回す。
「あたしはそのタイルを押す事を進めてみるわ!さぁ、もうこの際どちらかっ押しちゃいなさいっ」
 とレモン。
 まさにそのときだ。
 近づいてくる、低い駆動音。
 そして天井の穴から、石の舟が、『Related』の面々を乗せて降下してきたのだった。
「この舟で上層へ行けるわ。そこからなら出られるから」
 明日が、皆を促す。だが、
「一度に全員は無理そうだけど……」
 宗主の意見ももっともだ。
 そこは何度か往復するしかないということで、薺とラクシュミなど、戦闘力に不安のあるものから先に乗り込む。
 『太陽をいただき、鳥の頭の神』のタイルを押すと、舟は再び上昇をはじめた。

 凛は、その最中、そっと数珠をはずして、感覚を広げていった。
 ファラオの精神をもとめて、焦点を広げていく。
「……!」
 それは、ピラミッドの中枢に、なかばまどろみながら存在していた。
 そして、それがふれられないほどに燃え盛る、強い怒りを発しているのを、彼女は知った。

「可能なら『覆いかぶさる姿勢の女神』のタイルを押して、舟がどこに向かうのか確かめたかったけれど……このぶんじゃ、時間がないかしら」
 明日はすこし残念そうだった。
 だがおかげで、下層にいた探検隊は無事、脱出できたことになる。

【クレイジーギャルズ】
【新発売!間違えたら地獄逝き広島風ネコ海苔煎餅レモン味】

「行き倒れしものよ、お主の無念を我が聞き届けよう」
 フードの下からいんいんと響く、カロンの声。
 白骨の上に人の輪郭をもった燐光が灯り、それは語った。
『ハムシーンのピラミッドは墓所にして、死せる王の宮殿。<職人の領域>は王に仕える死者をつくりだすための工場だ。王が眠りから覚め、封印が解かれると、次の封印を施すための力を蓄える必要がある。そのために<客人の領域>が開かれる。客人とはつまり探検家や盗賊たち……、領域に足を踏み入れて、財宝を得て無事に帰ることができるものもいるが、中には命を落とすものもいる。倒れたものたちの血と魂が、ピラミッドの糧となる。そうしてピラミッドは延々と、目覚めと眠りを繰り返している――』
 語り終えた死者は、カロンに導かれ、安息の眠りにつく。

「……我は溢れた死者を冥府へ導こう」
「我輩も王さまの寝床を探しに行きますにゃ!」
「俺もどうにか下層に行ってみたいけど……」
 カロンの意向に、クロノと凌が乗る。ルイスも、
「ここまで、派手にしといて手ぶら戻るのは損した気分だぜ」
 と言った。
「じゃあ、ここで別れましょう。私たちは脱出。そろそろおやつタイムだもの」
 リカがそう言えば、
「んー、じゃあ、ボクが出口まで送っていくヨー。あとでまた戻ってきたいけどネ」
 とクレイジー・ティーチャー。
 縁と七海、さくらをともなって、脱出するものたちは北へと向かった。

【銀幕の愉快なスター達】

「気安く俺に触るな」
 鳴り響く銃声。シャノンの銃撃が、ミイラを蜂の巣にした。どさり、とミイラは今度こそ死を与えられた。
「ふん……」
 手の中のワンドを眺める。
「おーい!」
 梛織の声がした。見れば、ミイラの一体をロープで縛ってずるずるとひきずっている。
 先ほど起きたミイラたちは、壁にワンドを差し込むとそれで役目を終えたのか、そのままの位置で静止している。そのうちのひとりを、梛織は生け捕り(?)にしたようだ。
「話せっかな?」
 と太助。
「やって……みます……」
 西村が、歩み寄った。そして、その魂に語りかける……。

 ここは任せてもよさそうだ、とヒュプラディウスはきびすを返す。そして東の通路へ。クラスメイトPもそれに付き従った。
 ちょうど、『クレイジー・ギャルズ』のメンバーがこちらへやってきたところだった。
「よかった、みんな無事で。こっちの入口は開いてるから」
 と誘導する。

「ここに穴があるな。このワンドは差し込むべきか?」
 シャノンは壁に穴を見つけて言った。
「何か言ってる?」
 太助が問う。
 西村は頷いた。
「この……方たち、は……、封印が解かれると……この鍵をつかって<客人の領域>を開く……係だったの、だ、そう……です。自分たちの……役目は……それだけだと……」
 シャノンは、棒を差し込んでみる。
 一見、変化はないようだが――このとき、外壁では、やはり新たな開口部が開いていたようだ。
「教えて……下さい……ここで、なに……が、行われて……いたの……か」
 西村はミイラに訊ねた。
「…………『王は、追放されて……ハムシーンに閉ざされた……この墓所に……。しかし、王は……死んでも……死ぬことはなかっ……た』……?」

【妖霊学園6年3組6班】

「こ、これで厄介払いできるなら……!」
 早くここから出たい一心で、柳は、手に入れた薬壷を女神像の頭の上に置いてみる。
「何か意味あるの……?」
 シュヴァルツは呆れたような声を出した。
 しばし待ってみるが、何も起こらない。
 もうだめだ。
 がくりと膝をつく柳。
 シュバルツは、部屋の中をうろうろと歩き回って……
「ここに石壁の継ぎ目があるな。叩いた音も違う」
 肩の上の蜘蛛が(というかそれがシュヴァルツ自身なのだが――)べしゃり、と溶解液をはきかける。果たせるかな、解けた壁の向こうに新たな通路が延びていた。
「ほら、溶かせば早かった」
 なにか釈然としないが背に腹は変えられぬ。柳はシュヴァルツとともに足早に通路の先を行く。やがて通路は部屋へと至る。ヒヒを抱いた女神像が出迎える部屋だ。
 ちょうどそのとき、部屋の北側の入口から、ぞろぞろと入ってきたものたちがいる。
「っ!」
 柳はあやうく悲鳴をあげそうになったが、それはクレイジー・ティーチャーだった。
 そしてルイスに、カロン、クロノ。再突入組だ。
「入口の時間を巻き戻して開けたのですにゃー」
 自慢げに、クロノが言った。

【暁星団A∴H∴J∴L∴T∴】

 ブラックウッドが進み出る。

「心あらば我が呼び声を聞け、魂あらば我が問いに応えよ。
 我が名はブラックウッド、真の名はL∴A∴である。
 我らは暁天の星の下、知恵の木を登らんとする者なり。
 願わくば汝が御名と知恵とを拝領せん。
 ああ我汝に呼ばわる、汝は何故にして此処に在る」

 女の唇が動いた。
 しかし、声は空気を伝わるのではなく、その場にいるものたちの意識に語りかけてくる。
「異国の客人。礼儀にかなった挨拶に敬意を表します。ですがこれより先は王の寝所へ通じています。許されたものでなければ立ち入ることはかないません。そして――」
 ブラックウッドは彼女の名を問うたのだ。しかし、答えはなかった。
「『名前のないファラオ』に仕えるものに名はありません」
「吸血鬼のアルと申します。よろしければお話を聞かせてください。ここに眠る王が何を思い生きたのか、死して再び生を得て何を成そうとしているのか」
 アルが話しかけた。
「ファラオはこの地に流刑されたのです。すべての史書、碑文から、その名は消されました。……この墓所で、王はただ永い時を眠り、ひととき目覚め、また眠る。それを繰り返しているのです」
 そして女は、ふたりの後ろに控えている面々を見回した。
 油断なくそれぞれの獲物に手をかけ、一部の隙もない戦士たちだ。すなわち理月、芳隆、剛政、刀冴の4人である。
「戦いを望むなら<客人の領域>へお行きなさい。ピラミッドは応えるでしょう。客人が負ければ、この墓所はそれを糧とする。打ち勝てば、いくばくかの褒美を与えることもあるでしょう。……いずれにせよ、ファラオに剣を向けることは許されません」
 一行は顔を見合わせた。
「<客人の領域>とは……?」
「アヌビスが背を向けたのなら、扉が開かれる手はずになっていたはずです。さあ、ここからはもう――」
 そこまで言って、女の顔にはっとした表情が浮かんだ。

 ごおおおおおおおおおお

 唸り。
 それは風の音だ。
 通路の暗がりの奥から吹き付けてきたのは、凄まじい突風だった。その風の中に、女の姿は消えていく。
「!」
 ブラックウッドさえ、腕で顔を覆った。
 刀冴と理月が、剣を手にすばやく前へ出て、ブラックウッドとアルをかばう。
「なんだこりゃ……。くそ、おいジジイ、どうすりゃいい!」
 剛政が声を張り上げる。
「……なんだって? ……おい、この先には出口はないとよ」
「王の寝所だと……言ってたな」
 理月は、闇の彼方を見据えた。そこには何も見えはしないが、この風が、先に待つものの、侵入者への拒絶の意思であることはあきらかだった。
「どうする?」
 刀冴はブラックウッドを振り返った。
「王の眠りを妨げることは本意ではないが……」
「でも後ろの入口は閉まってしまったのでは?」
 芳隆が言った。
 言ってから、彼ははじかれたように振り返り、銃を構えた。
「誰だ!」
「入口ならもう開いてますにゃよー」
 再突入組だ。
「ナニこれ? なんでこんなに風吹いてんの?」
「ちょ、CT、顔の肉はがれてる、はがれてる!」
「ここが下層かぁー……」
 凌が興味深そうに、ブラックウッドたちのいる通路の中をのぞきこむ。
「ん――」
 その頭上を、なにかがものすごいスピードで飛び去っていく。
「い、今の!?」
「……死者の……怨嗟」
 カロンが呟く。
 それはあとからあとから、風に乗ってびゅんびゅんと、飛んできた。そしてかれらの後ろへ……ということはつまり、ピラミッドの外へ出ていくのだった。

  *

「現時点で、いったん、探索を休止する」
 マルパスが宣言した。
「各隊、無事か?」
「【PENPEN Leaf】【Related】【暁星団A∴H∴J∴L∴T∴】【炮烙<ほうらく>】【銀幕の愉快なスター達】【紅蓮探検チーム】【新発売!間違えたら地獄逝き広島風ネコ海苔煎餅レモン味】【妖霊学園6年3組6班】、いずれも異常なし、【クレイジーギャルズ】は一部負傷者といえば負傷者がいますが問題ありません。【銀幕コモン散策隊】は…………未帰還です」
 報告に、しんとした沈黙が落ちた。
 ピラミッドから期間したものたちのあいだにどよめきが起こる。
 まさか……そんな。

「……」
 マルパスは、ぐっと奥歯をかみしめた。
 そして。

 次の瞬間、マルパスは消えていた。

 誰もが目を疑った。
 司令の姿がない。
 マルパスは消えて、彼がいたところの地面に、ぽっかり穴が開いている。
 そして、穴は音を立てて広がり、ベースキャンプの机や椅子を呑みこんでいく。交錯する悲鳴。空を飛ぶことができるものはとっさに空に逃れ、周囲の地面が大きく地盤沈下を起こしたのだということを知る。
 陥没した地面の底では、犠牲者たちの中心で、『銀幕コモン散策隊』の6人の、砂まみれの姿があった。

「助かった」
 呆然と呟くカラス。
 マルパスは、さっきの姿勢そのままで立っていた。まっすぐにストンと落ちたようだ。軍靴の下には、八之銀二の頭があった。


 ★ ★ ★

 新たに開いた無数の開口部の中――<客人の領域>は、実にオーソドックスな迷路であり、適度に罠があり、適度に宝石だの何だのといった品物が眠っていた。まるで盗掘を誘っているようでもある。
 マルパスは、しばらく、誰もピラミッドに近寄らないようにと言ったが、その後、好奇心旺盛な市民たちの中には、こっそりとピラミッドを訪れたものが少なくなかったようだ。中には、なんらかの品物を入手して持ち出したものもいる。
 あのとき――
 ピラミッドの奥から解放されたなんらかのパワーが、市にどんな影響を及ぼしたのかについては、現状では未詳である。

「『対策課』でもうすこし、ピラミッドについて調べてみたいと思う。スパークランド監督がハリウッドから、原作に関する詳細な資料を取り寄せてくれたようだ。なにかわかったら報告する。場合によってはまた諸君の力を借りることになるかもしれない」
 できればそうならないことを願いたいが、とマルパスは締めくくった。

 以上が、ピラミッド探検隊が体験した出来事の、ここまでの顛末である。


 
前へ 次へ