★ A waxing moon ★
クリエイター志芽 凛(wzab7994)
管理番号136-650 オファー日2007-07-20(金) 23:03
オファーPC 梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
<ノベル>

 
 日差しがいよいよ増し、暴力的とも言っても良い程の昼下がり、梛織は澄んだ青いガラスの器から、素麺を箸でつまんでは口へ運んでいた。そのままガラスの器の中の、素麺に添えた氷がじわりと溶けていくのをぼんやりと見やる。
 何よりも肌に纏わり付く湿気、そしていよいよ凶暴さを増してきた真夏のそれも真昼の太陽を受けては、さすがの梛織も今、外に出る気は起きなかった。彼の常人よりもやや鋭さを帯びた銀の瞳も、その持ち主の疲れを反映してか、少しばかりその鋭さを潜めているようである。
 最後に残った素麺をつまみ上げながら、今日の午後は何をしようか、と頭を巡らせてみる。今日はまだ、彼が映画から実体化してからも続けている万事屋としての依頼もないから、この前買ったミステリー小説の続きでも読もうか。そこまで考えた時、来客を告げる音が梛織の耳に届いた。
 誰だろう? 依頼人か? 梛織はガラスの器を台所の流しに置くと、早足でドアの元に向かった。
 ガラスの器の氷が再び少し溶け、カラン、と小気味良い音を立てた。



「無人のマンション?」
 やはり訪れた客は、万事屋としての梛織への依頼人であった。依頼人の若い男性に、梛織はお茶を出しつつ話を聞く。
「はい……私の家の近くに、今はもう使われていない古いマンションがあるのですが……。最近、その場所で、主に夜になると誰かの叫び声や、何かが壊される音がするんです……」
「え……」
 梛織は目を瞬いた。――何だか、非常に、とてつもなく嫌な予感が漂っているのは気のせいだろうか……。
 若い男は梛織の心の呟きにもちろん構う事無く、出されたお茶をすすっている。
「それで、この前……、肝試しのつもりでそのマンションに入って行った若者達がいたのですが、その人達が内部で何者かに襲われて怪我をしてしまったんです……」
 つまり、そのマンションの中には。
「お願いします! そのマンションの中の幽霊を何とかしてくださいぃっ!」
「そういう事は、その道の奴に頼めっっ!」
 彼の叫びに、梛織は即座に力一杯拒否のツッコミをいれた。
 確かに、梛織は万事屋だ。手先は器用なので、今までほとんどの依頼を淡々と、難無くこなしてきた。
 けれども。今回の相手は幽霊(多分)だ。超常現象(彼が実体化したのも超常現象だが)だ。というか第一そんな依頼、今まで聞いた事も無いのだ。やってられるか! という訳である。
 ところが。
「でもおぉぉぉぉぉぉ……、他に頼む人がいないんですよおぉぉぉぉぉぉ……。そこを何とかお願いしますうぅぅぅぅぅ……」
 どうやらその男性、そうとう困っているらしい。ついには梛織の足元にすり寄ってきて、ひれ伏してくるではないか。
「……」
「助けてくださいぃぃぃぃぃ……」
「……」
「お願いしますうぅぅぅぅ……」
「……」
「おね」
「……――あ――もう分かったからっ! 受ける! 受ければいいんだろっ、その依頼っ!」
「本当ですか? ありがとうございますっ!」
 男性の粘りに、ついに沈黙を決め込んでいた梛織は、半ばヤケクソで叫んだ。
 まあ、丁度良い暇潰しにもなるし、お金も入るし、一石二鳥だ。受けて損になる事はないだろう。
 それでも拭いきれない、何とも言い難い敗北感を抱えつつ、彼の午後は過ぎていった。



 ★  ★  ★



「うーわー。こりゃ本当にある意味で肝試しだな……」
 そしてその日の深夜、彼は目的のマンションの前にいた。夏とはいえ、やはり夜は涼やかだ。肌を撫でていく風が心地よい。空を見上げると、そこには幾ばくかの雲が流れ、それを照らし、影を彩る上弦の月が踊っている。
 そして、彼の目の前に鎮座しているマンションは、本当に廃墟と言って良い代物であった。その、五階建ての一般的なマンションは、白い壁の塗料が所々剥げ落ち、窓には亀裂、更には割れ落ちている物もある。時々、風が通るからかマンションの部屋に残されたカーテンが翻り、さらにいらぬ妄想をかきたてさせる。
 思った以上に不気味な建物に、知らず梛織の背中に冷や汗が伝った。例え彼が百戦練磨の万事屋だとしても。怖くない怖くないと首を振っていても。人間怖いものは必ずあるものである。
 あちこちに錆が浮かび上がっている郵便受けを横目に、恐る恐るマンションの中へと足を踏み入れていく。
 彼の黒のブーツが音が、壁に天井に反響し、よりマンションの静けさが浮き彫りになる。
 梛織は右太腿にくくりつけていた小さなバックから、携帯用の懐中電灯を取り出した。カチリ、という音と共に、床に小さな光の輪が広がる。
 マンションの中も外と同じように、廃れた光景が広がっていた。むしろ外よりも廃れているかもしれない。外と同じく、壁紙はあちこちが剥がれ、ドアには錆が広がり、崩れ落ちているものもある。天井には所々穴が空き、配線が見え隠れしていた。
 とりあえず、一階を隈なく見て回る事にする。梛織が立てる靴音以外に聞こえてくるのは、カーテンが翻る音、そして蛇口から滴る水滴の音。
 
 コツ、コツ、コツ、コツ

 もう大分帰りたくなってきた時、丁度上の階の部屋辺りから、ふと規則正しい靴音が聞こえてきた。
「……上、か?」
 ぼそりとひとつ呟くと、彼はやや小走りになりながら、階段を駆け上り、二階へ向かった。一階とほぼ同じ構成の廊下を通り抜け、先程音がしたと思われる場所に向かう。
「……あれ……?」
 腐りかけた木の床が広がる部屋で、梛織はその場に立ち尽くした。そこには彼以外、誰もいなかったからだ。目の前の窓からは月の光が差し込み、彼の姿を密やかに映し出している。
「……おかしいな……、ここにいたと思ったんだけどな……」
 誰もいないその部屋で、ぼそりと呟きながら窓ガラスに目をやって、彼はそのまま文字通り硬直した。
 その窓ガラスは上部が破れていて、まともに残っているのは下の部分だけだったのだが、そこには、彼以外にも、人間の身体と思わしきモノが映りこんでいたのだ。
「……」
 そろそろと振り返る。
「――ギャ――! 出た――!」
 次の瞬間、大の男ともあろう彼が、情けないことにそこにいたモノに思わず絶叫してしまった。残念ながら。
 そこには、ひとりの女性が立っていた。元はそれなりに綺麗な顔をしていたのだろうが、今、その顔は額から鮮血を溢れさせ、黒々とした長い髪で覆われていた。白いシンプルなワイシャツも鮮血で溢れかえっている。そして肌全体が人間にあるまじき青白さなのが、余計に恐ろしい外見に仕立て上げている。
 彼女は、その叫びを聞いて、床から目線を上げ、そして鋭く梛織を睨み付けた。
「……あなたが……」
 その言葉と共に、彼女の姿は一瞬で掻き消えた。だが、梛織の精神が彼女の姿を見つける前に、彼の身体が反射的に右足を振り上げ、後ろへ回し蹴りを放った。 
 丁度梛織の背後に回っていた彼女は、予想外の攻撃に対処しきれず、低いうめき声と共に、窓ガラスへとその身を叩きつけられる。
 盛大にガラスが割れる音が響く中、それに負けないぐらいの勢いで梛織の心臓の鼓動は鳴り響いていた。
(――何か幽霊に当たっちゃった気がする……! ていうか女の人だった……! 俺としたことが……! でもあの外見じゃ手加減とか無理……!)
 迷走を続ける彼の脳内をよそに、彼女はゆらり、と立ち上がる。その手には、銃が握られていた。
「――!」
 言葉を上げる前に再び身体が反応、咄嗟に右足で思い切り床を蹴り、左、右と斜めに跳躍しながら後退する。その後を追うように銃弾が撃ちこまれていく。
 銃弾が切れたのか、ふと銃撃が止んだ。彼女はひとつ舌打ちをして、弾倉を抜く。そしてその隙に梛織は。
 ――その部屋から走り出した。それはもう、寿命が縮まるくらいの勢いで。
(ど、どうしよう! どこに逃げれば良いんだ? でもあれをなんとかしなければ俺の面目が……!)
 階段を駆け上り、廊下を走り抜ける。その間にどうやら最初の恐怖は去ったようで、まともな思考回路に戻っていく中、どうやってこの修羅場をくぐり抜けようかと考え始める。

 しかし。
 怪しげな気配を感じて、足に急ブレーキを掛けて止まった彼の前に、ひとつ足音。そして彼女が現れた。
「……え?」
 息をつく間もなく、彼女が突っ込んでくる。その青白い右腕を思い切り身体を捻ってかわし、そのまま勢いをつけ、靴の底で彼女の身体を蹴り飛ばした。手応えと共に、跳躍、くるりと宙を回る。
 宙に舞い上がった瞬間に、床を幾つもの銃弾がすれ違った。
 足音軽く着地し、再び掴みかかってきた腕を肘を立て、そのまま振り抜いて払う。彼女は防御が上手くいかなかったようで、壁が立てた音と共に盛大に横手に投げ出される。
「……ぐ……が……」
 微かに、彼女が呻くような声が聞こえてきた気がするが、それも一瞬のことで、すぐさま再び睨みつけられ、銃弾の嵐が梛織に降り注ぐ。
 再び、右、左に移動し、さらにはコンクリートの壁に隠れて銃弾をやりすごすが、壁に隠れた時、相手から目をくらますと同時に、自分からも相手が見えなくなった為に、一瞬、反応が遅れた。
「しまっ……!」
 壁から、彼女が至近距離で出現。彼が今いる地点には、目の前に身を隠していた壁があり、横手に入り口があるにはあるが、そこには彼女がいる。左手には、ベランダへの窓があり、そして右手には元の入り口があるが、そこに行くまでには彼女を越えていかねばならない。
 梛織は胸中で激しく舌打ちし、右手を向いた。

 ガシャ――ン!!

 彼は、そのまま左足で踏み込み、後頭部を両腕で覆いつつ、後ろのガラスを思い切り破っていった。
 いくつものガラスの破片が闇夜に舞い散り、上限の月に照らされ、宝石のように輝いている――それは儚いひと時の生命のように。
 どうやらシャツで隠れている部分はガラスの破片から逃れられたようだが、腕の部分にはガラスの破片が刺さったり、破片に引っ掻かれ、いくつもの、細長い、紅い線が両腕に飛んでいるのが見える。
 頭に走る鋭い痛みに構う事無く、ベランダの手すりに飛び乗り、そして、上の階の淵に手を掛け、思い切り力を掛けて移動する。
 力を入れた為に幾つかの傷から、血が噴き出ていく。
「くっ……!」
 歯を食いしばりながらも何とか屋上に移り、手についた埃とガラスを軽く掃うと、腕に刺さったガラス片をひとつひとつ抜いていった。  ガラスが床に叩きつけられて立てる繊細な音が束の間訪れた静寂に響く中、梛織はとあるものを床に見つけ、それを拾い上げた。
 
 よくよく見ると、それは古びた警察手帳だった。中を開いて、彼はその内容に驚愕する。
「これって……」
 名字はかすれてしまっていて読み取ることが出来なかったが、名前にはリツ子と記されていた。そして、その顔写真は、先程対峙したあの女性と寸分違わぬ――血とかさらに増殖した髪の毛などを除けばの話だが――顔であった。
 
 つまり、あの女性は――。

「!」
 銃声と同時に反応して動いた彼の頬を銃弾が掠めていき、鮮血の珠が飛び散っていく。それは月光に煌き、黄金色に変化して消えていった。
「……リツ子、さん……?」
 梛織の前にどこからともなく現れた彼女に、彼はおそるおそる声を掛けてみた。彼女は一瞬びくりと肩を震わせ、そして明らかに瞳に憎悪の力を込めて彼を見る。
「……あなたが、……私の家族を……っ!」
 喉から声を震わせると、再び銃を手に彼女は襲い掛かってくる。何とか銃口を見て先読みし、半ば反射的に身体を動かし、銃撃を避ける。
 
 彼の黒い髪がサラ、と音を立てるかのようになびき、闇の月に彼の姿が映りこむ。鮮やかに金鏡に反射する、朱と漆黒の色彩。
 
 そうこうしている内に、銃倉に仕込まれていた銃弾が底をついたようで、彼女は舌打ちをひとつついて、銃を床に投げ捨てた。
 少しばかり動きに余裕が出来た梛織は、おそるおそる疑問に思った事を彼女に尋ねてみる。
「家族……?」
「そうよ。私の大切な家族を殺したのは、あなたでしょうっ!」
「……は?」
 どうやら、彼女の返答を踏まえて考えてみると、自分は激しい勘違いをされているようであることが分かってきた。
「いや、俺、違うからっ!」
「何が違うのよっ!」
 彼女は叫びと共に右足で蹴りをいれてくる。何とか左足で横に蹴り飛ばして防ぎ、後退。二人の間に幾ばくかの距離が出来る。
「俺がリツ子さんの家族を殺すわけないだろ?」
「……あなた、じゃない……?」
 梛織の言葉に彼女は一瞬、毒気を抜かれたような表情を垣間見せた。
「そもそも俺は、リツ子さんの事を知ったのだって今日ここに来てからだし」
(依頼がなければ一生知らなかっただろうけどな……)
 彼は束の間、苦笑を見せた。そしてすぐさまそれを引っ込め、真面目な表情に戻る。
「だからさ、もうこんな事はやめろよ。色々他の人にも迷惑がかかってんだしさ」
 何とか依頼を果たさなければならないし、個人的な想いも含めての言葉だったが、どうやらそれが彼女の怒りに触れてしまったらしかった。
 彼女は一瞬で梛織の前に移動すると、彼が防御する間もなく、彼の首を両手で掴み、締め上げた。
「……ぐっ……」
「そんな事……。貴方に……言われたくないわっ……! ……私の気持ちが貴方には分かるのっ……?」
 大事な、何よりも大切な人がこの手から零れ落ちていってしまった、この喪失の痛みが、悲しみが。
 両手でギリギリと締め上げられ、呼吸が苦しくなっていく中で、梛織は必死に彼女の言葉を反芻した。
 家族。それは彼にとって、ある意味で羨ましく、そしてある意味で未知の言葉。
「……分から……ない。……だって、俺には……身内なんて、……誰一人、いないから……」
 彼は「Mission7」という映画から実体化したムービースターだ。もし、その映画に続編があって、彼の家族が出てくるのなら、梛織は家族と一緒に実体化していたのかもしれない。
 けれども、その映画は一回きりだった。映画の中ではその設定で良かったのかもしれないが、この銀幕市に実体化する時、彼と一緒に実体化した家族はいなかった。
 彼には無条件で頼れる人は存在しなかった。
 彼はその時、孤独だった。たったひとりで。未知の世界に放り出されて。
 自分とすれ違うのは、幸福そうな笑顔を浮かべた夫婦に、手を繋がれたまだ三歳くらいの子供。
 お互いに長年の月日を積み重ねてきた老夫婦達。
 ガラスの向こうには、仲良く四人でテーブルを囲んで食事をする親子達。
 その透明なガラスが、どれほどの厚さの壁に見えたことか――。
 
 気が付くと、彼は無意識に笑みを浮かべていた。
「……?」
「……逆に、聞くけど……、家族を知らない……辛さを……アンタに……理解、できる?」
「……」
 その言葉に、彼女は瞳を瞬き、翳りを見せた。そして徐々に腕の力を緩めていき、遂には梛織の首から手を放した。
 開放された梛織は激しく咳き込みながらも、ややいたずらっぽい笑みを見せた。
「……っても、俺には頼れる友達も弟も出来たからなー。今じゃそんな事考える暇もないけどな」
 脳裏に浮かぶのは、兄のように頼り、慕っている友人、そしてついつい甘やかしたくなる弟の姿。
 例え本当の身内がいなくても、彼には銀幕市で得たかけがえのない「身内」がいるから。
 今はもう、昔、自分の周りに見えていた壁は、消えてしまっていた。

「……アンタは家族と一緒に暮らしたかったんだろ?」
 梛織はそう言いつつ、銃をその手に握った。とある依頼でとある方が寄越してきたベレッタM84である。
「……なら、家族に会わせてやるよ」
 そして、そのまま彼は銃の引き金を引いた。

 ダ――ン!

 闇夜に銃声が響く。その銃弾は、突然出現した銃に対応できなかった彼女のほんの僅か横を通過して、後ろの壁に突き刺さった。驚愕で身動きができないのか、そのまま硬直している彼女に向けて、ふと口の端を上げた。
「なーんてね。折角銀幕市に実体化出来たんだから、家族の分まで生きなよ。……これからでも楽しい事はあるんじゃない?」
 梛織は銃を元の場所に装着しなおすと、もう戦意のなさそうな彼女を見て、大丈夫そうだ、と後ろを向き、ひらひらと手を振りながらその場から去っていった。

 月が彼の後姿を煌々と照らし、床にはぼうやりと黒い影が浮かんでいた。


 ★  ★  ★


 ――。
 ――――。
 ――――――。
 自宅に戻るのも遅かったので、その朝、随分と眠りこけていた梛織だったが、自らの鼻腔にふんわりと、何かの匂いを捉え、ぼんやりと目を開けた。
「……味噌汁の匂い……?」
 まだぼうっとしている頭で、その匂いの正体を突き詰めてみる。さらに耳が、一定のリズムで鳴っている音を捉えた。
「……包丁の音……?」
 ああ、そうか朝食か。朝だもんな。そう一瞬考え、そのままガバリと勢いよく起き上がった。
「え? ええ?」
 彼は一人暮らしである。そして、ムービースターであるが、彼の出身はそんな魔法とかのファンタジックな映画ではないので、勿論魔法なんて使えない。だから犬や猫が人間の料理を始めることなんて到底この家では見ることができない。

 ――と、言う事は。

「誰か、いる……?」
 梛織は出来るだけ静かに、音の元へと向かって行った。
 台所に忍び寄ってみると、そこにはひとりの女性が、どうやら朝御飯の準備をしているようであった。鍋からは湯気が立ち、既に平皿には卵焼きがふんわりと、美味しそうに載っている。
 女性がふと、梛織の気配に気が付いたのか包丁の手を休めてこちらを向いた。
「……え……リツ子さん……?」
 その女性は、昨夜あの古びたマンションで対峙したはずのリツ子であった。どこをどうしたのか、顔に流れていた血は綺麗さっぱり拭き取られ、黒髪も何とかして整えたようで、後ろでひとつに括っている。
 でも、やはり肌の色は同じなので、どことなくホラーな雰囲気が台所には漂っていた。
 彼女は名前を呼ばれると、ニッコリと笑った(人が見たら気絶しそうな表情だが)。
「ど、どうして……?」
「ほら、私、幽霊でしょ? この世に呪縛がないと成仏しちゃうから」
 梛織の問いに彼女はそう答えると、たちまち青白い頬を薔薇色に染めた。

(お、俺を呪縛にするなぁぁぁ! ていうかこんな事ならいっその事成仏してくれ……!)

 梛織は自らの言った言葉に激しく後悔しつつ、折角自分にしては上手く決めたつもりだったのに、どうしていつもいつもいつも結局はこんなことになるんだろうか、と思い悩むのであった。

クリエイターコメントお待たせ致しました、ノベルをお届けさせて頂きます。
今回、梛織様の考えているコンセプトと、ノベルが合致しているとよいのですが…。刑事という事で、銃VS生身という、どこかファンタジックな戦闘シーンになってしまいました。えへ。私は書いていて楽しかったです。怪我させてしまってごめんなさい。きっと傷は浅いと思いますよ。うん。

それでは、オファーありがとうございました。またいつか、銀幕市のどこかでお会いしましたらば、その時はどうぞよしなにしてやって下さいませ。
公開日時2007-08-02(木) 23:00
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