★ トラブル in スイーツフェスタ ★
クリエイター能登屋敷(wpbz4452)
管理番号174-2151 オファー日2008-02-22(金) 22:00
オファーPC ニーチェ(chtd1263) ムービースター 女 22歳 うさ耳獣人
ゲストPC1 レモン(catc9428) ムービースター 女 10歳 聖なるうさぎ(自称)
ゲストPC2 鳳翔 優姫(czpr2183) ムービースター 女 17歳 学生・・・?/魔導師
ゲストPC3 慧谷 庵璃(cevd2958) ムービースター 女 20歳 剣客
ゲストPC4 花咲 杏(cyxr4526) ムービースター 女 15歳 猫又
<ノベル>

 メロンを凌駕する山間が如き胸が、兎の前に立ちはだかった。灰色の兎はこめかみを微かに動かし、紅玉の燃えるような瞳を吊り上げた。雑踏が動き出した。紛れ込んでいた胸と兎は雑踏に押し込まれるよう動かされ、巨大な胸の持ち主が兎を弾き飛ばした。
「ふぎゃっ!」
「ん……?」
 胸の持ち主はそこでようやく足元の影に気づいた。
 ゴスロリファッションに身を包む強気な面持ちの兎を捉え、女は楽しげに彼女を拾い上げた。
「あらぁ、レモンちゃんじゃないー! どうしたの? こんなところで」
「うっさい、乳デカ女」
「あら? 嫉妬してるの? かわいいー!」
「ふぎゃあああぁぁぁ!」
 ニーチェはレモンの顔にすりすりと頬を寄せた。
 雑踏の女達は何事かと一瞬見やったが、それ以上に甘い香りに誘われて動き始めた。さながらそれは花に群がる蜂にも似ていた。
 デパートの階内で行われているイベントの中でも、特に女の子の集まる甘味フェスタ。甘いものには目がないとはまさしくこのことである。ニーチェの腕を見やれば、彼女は紙袋を二つ持ち、両方とも露出気味な服が詰まっていた。レモンは自分には着れない服に燃え盛る炎のような怒りを感じ、舌打ちした。
「あら、不機嫌?」
「そりゃあ不機嫌になるわよっ! というか、さっさと降ろして!」
 ニーチェに降ろされたレモンは乱れた服を整えた。改めて、ニーチェに向き合う。
「それで? 何であんたがここにいるの?」
「なぁに……? アタシがここにいたらいけないわけ?」
「そうじゃないけど……」
 ニーチェはわざとらしく頬を膨らませて胸を寄せ上げた。
 レモンはこめかみを再び寄せた。ニーチェに悪気がないのは分かっているだけあって、余計にその大きな胸が腹立たしくもなる。
「でも、あまり想像できないもの、ニーチェがここにいるの」
「うん、本当は春物の服だけを買いに来たんだけどねー。だけど……ちょおっと嫌な声が聞こえたから」
 ニーチェは頭から生えている二つの兎耳を動かして見せた。兎の特徴を持つ獣人である彼女だからこそ聞こえた音だった。
「嫌な、声ね」
「そう、まるですんごく太って脂汗を一日中滾らせているピチピチのTシャツを着た男が女の子のチラリズムを見てげへげへにやにやと声を出して笑ってる声……、みたいな」
「それって変態じゃない」
「一言で言うとそうね」
 二人は呆れた顔を見合わせた。
「とにかく、何か気持ち悪い声が聞こえたのよ。レモンちゃんも兎だったらそれぐらい聞き分けてなさいよ」
「ぐ……うっさいわね。あたしは極めて人間に近い兎なの! 甘い香りが漂ってきたら女の子としてそれどころじゃないでしょ!」
 ニーチェは溜め息を吐いて肩をすくめた。レモンはその仕草が馬鹿にされたように思えて声を唸らせた。

                     1

 二人の娘の手が同時にミントチョコを多用した西洋菓子へと伸ばされた。ちょうど両の指が触れ合う瞬間にお互いに気づいた彼女達は、動きをはたと止めた。
 お互いが顔を見やった。一人は良家のお嬢様を思わせる清楚な出で立ちに髪を左右にて高く括っていた。対し、もう一人の娘は眼光が鋭かった。藍玉と金緑石に色を汲む双眸がまるで射抜くように清楚な娘を見つめた。オッドアイの娘に対し、蛇に睨まれたカエルのような心持ちの清楚な娘は、すっとおとなしく手を引っ込めた。だが――
「ほら、これ、欲しかったんやろ」
 オッドアイの娘はにこやかな笑みを浮かべた。
 差し出した手に乗る西洋菓子を清楚な娘に渡し、彼女は言った。
「はよう買ってきいや。取られてまうで」

「あ、ありがとうございました」
 先刻の恐怖は拭えたのか、清楚な娘は彼女に深々と頭を下げた。
「気にせんでええんよ。あんた、それが必要やったんやろ?」
「は……はい」
 はにかんだ笑顔のままうつむけた顔は、朱色に染まっていた。
「うち、杏。花咲杏(ハナサキキョウ)って名前やねん。よろしゅうね」
「わ、私、慧谷庵璃(ケイコクアンリ)って言います。よ、よろしく」
 たどたどしい態度なのは、庵璃の性格であった。
「しっかし、彼氏か恋人かへのプレゼントのためかね。お熱いなぁ」
「そ、そんなんじゃ……! あ、あり、ません」
 杏は艶やかな長髪の黒髪を靡かせ、かかと笑った。
 意識が態度に出る庵璃の姿は全てを物語っており、杏はにやにやとからかいながら背中をたたいた。
「なぁに、頑張りぃや」
 外見からすれば年下の杏が庵璃を励ますのも奇妙な光景ではあった。
 しかし、庵璃もとかく嫌な様子を示すわけでもなかった。どちらかと言えば彼女の空気に和み、はにかんだ笑みを見せていた。
 そんな光景を崩したのは女の悲鳴であった。
 割れるような悲鳴が次第に薄れていき、それは何重の層のように重なった。
「な、なんや?」
 杏が訝しげな視線を向けた先には煙にも似た臭気のようなものが漂っていた。フェスタに集まった女達はみなその一点を振り向いた。
「こら、何かあったみたいやな、庵璃は……ん?」
 杏は庵璃の顔を見上げ、言葉を詰まらせた。
 庵璃の表情が見て取れるほどに強張り、鋭い視線を持った。腰に隠されていた短い振りの刀を抜刀した庵璃が、まるで茂みを分ける狐のように駆けた。唖然と見ていた杏も、はっとしてそれに続いた。

                     2

 鳳翔優姫(ほうおうゆうき)も生物学上は女だ。しかして甘味フェスタというものに衝動はないが興味はある。女は甘いものが好きだとはよく聞く話だったからだ。
 だが、来てみて後悔したことは言うまでもない。自分とはまるで次元の違う女達の大群に圧倒されつつ、自販機で買ったコーヒーを飲んでいるほうが何倍も美味いと思えるのだ。実際に食べてみたわけではないが。
 灰と黒で統一された服装は女らしさが一つもない。髪は短めに整えられていた。唯一耳のイヤーカフスが女らしいと言えば言えるかもしれない。黒剣を象ったカフスが照明に反射して煌いた。
「ケーキにチョコにクッキーに……、よく食べれるなあ」
 遠巻きに彼女を見ていた女性達が、彼女の佇む姿を見て歓喜の声を上げた。どうやら男に間違われてるらしかった。
 優姫は飲み干したコーヒーの紙コップを握りつぶし、ゴミ箱へ捨てた。帰ろうかと空ろげな視線を群集から外し、踵を返した。その時、悲鳴が上がった。
 何重もの悲鳴が重なり合い、襲われているということはすぐに理解できた。彼女はすぐに周囲を見回した。
 捜し求めたもの――棒状であれば何でもかまわない――呆気に取られて呆然としていた清掃員が置いていたモップを奪い、彼女は駆け出した。
「すみません、後で必ず返します!」

                     3

 悲鳴のもとには男が一人いた。気だるげに倒れる女性達に囲まれた男は、まるで玉座に座る王のようにティーカウンターの椅子に腰をかけていた。一見すれば優男風の若者である。恍惚の笑みを浮かべて女性達を眺めながら、男は両手を差し出した。開かれた掌に臭気のようなものが吸い込まれていく。発信源は女性達だ。フェスタに集まる女性達は生気を吸い取られたかのように虚ろげな眼差しになると、そのまま支えを失った棒のように倒れ込んだ。
「くく……女というのは嗜好の味だな」
 男は指に絡みついたクリームでも舐めるよう、指先を口に含んだ。
「ったく、変態の声が聞こえたと思ったら本当に変態とはね」
「ああ、気持ち悪い」
 男に口を挟んだのは、女達の先頭に立つ二人の――いや、一人の女と一匹の兎であった。
「なんだ? 貴様ら」
「なんだじゃないわよ、この腐れヴィランズ。女の怒りを買っておいてただで済むと思ってんじゃないでしょうね」
 ニーチェの言葉を合図とし、レモンは構えていたカボチャを象る杖を地に叩きつけた。
 瞬間――光芒が地を這った。溢れ出る神々しい光が彼女を包み込み、それは膨れ上がる風船のように大きく変化した。弾け飛んだ光の下に晒され白銀の髪。左右を括った髪が腰にまで届き、強い意志を感じさせる紅玉の瞳が男を睨みつけた。
「さあ、始めるわよ、ニーチェ」
「まかせときなさい」
 お互いの掌に歪曲した空間が出来上がり、姿を変えた。
 天使の羽を彷彿とさせる白きエンジェルガンを手に、二人は地を蹴った。ニーチェはまるで跳ねる兎のごとく跳躍し、レモンは上空へと広げた翼で舞い上がる。ヴィランズは一瞬肝を抜かれた感覚に陥ったが、狂気に錯乱したかのように声を高々と震わせた。
「ハハハハッ!! 戦闘の興奮は俺の好みだともっ!」
 ニーチェのエンジェルガンから放たれた銃弾を避けたヴィランズは、先刻と同じように掌を広げた。
 だが――次の瞬間には左の腕を断たれていた。
「なに!?」
「甘い、です」
 庵璃の静かな声が告げた。
 まるで風が切るように、彼女の刀が腕に身を任せるままヴィランズの身体を裂いていった。加えて、炎が舞う。横合いから放たれた業火の炎はヴィランズを包み込み、炎上した。黒いチョーカーを首に巻いた娘がニーチェに続くよう、跳躍した。妖しげに生え出た猫耳と尻尾が揺れる。
「うちの炎はあついやろー」
 だが、炎に包まれたヴィランズはそれを物ともせずに掻き飛ばした。左手は失ったが、右腕は生きている。ヴィランズは右掌を広げて彼女らの力を吸い取り始めた。
 エンジェルガンを構えたニーチェ、そして庵璃と杏は次第に薄れていく意識と意欲に負けそうになった。
「くそ……!」
 ニーチェは舌打ちして倒れ込む寸前だった。
 刹那――一閃。倒れ込みそうになる苦痛の庵璃のものではない。無彩色に統一された服が彼女らを越えてモップを構えた。途端――ヴィランズの右腕は鋭利な刃物で斬られたかのように地に落ちた。
「ぐああああぁぁ」
「突貫ではなく、機を待つして敵を討つ。兵法の基本だよ」
 優姫はモップをヴィランズの顔面に突きつけた。
「さあて、どうする?」
「……殺す」
 声はヴィランズのものではなかった。優姫も妙に思ったらしい。声は上空から注がれたものだった。そこには天使のような姿とは裏腹に怒りに打ち震えるレモンの顔があった。般若と言って過言ではないかもしれない。
「胸か、やっぱり胸なのか! 胸のない女はエネルギーを吸うほどの価値もないと言うのかー!」
 自分の貧弱な胸を見下ろして彼女は涙を浮かべた。しかして顔と構えは解かれていない。ヴィランズも呆気にとられていた。おそらく上空のため視界に入らなかっただけで、別に胸は関係ないのだろうが……今のレモンにそんなことは言い訳にしかならないだろう。
「こなくそおおおおぉぉぉ!!」
 レモンは、エンジェルガンの魔力の銃弾がヴィランズを粉々にするまで、引き金を引き続けた。

                     4

 ヴィランズが消滅した後のフィルムを片手に、ニーチェは肩で息をするレモンを哀れんだ。
「いつか成長するわよ」
「うっさいっ!」
 レモンは涙目にニーチェの胸を見て叫んだ。再び杖を地面に叩きつけて光芒を浮かばせる。光が彼女を包み込み、まるで先ほどの逆再生を見ているようにレモンの姿はもとの灰色の兎へと変化した。
「うわあ、これ魔法やろ? えらい綺麗なもんやな」
「杏さんの妖火とはまたちょっと違いますね」
「兎……?」
 それを見ていた杏を初めとする三人は、人間から兎へと姿を変えたレモンを珍しげに見下ろしていた。
「そ、そんなに見ないでよ」
「でも、レモンさんも来てたなんてちょっと驚きです」
「そう言う庵璃はまたなに? プレゼントの材料でも買いに来たの?」
「え、えーと……」
 レモンの冷やかした目に頬を染めた庵璃は俯いた。戦闘のときとは大違いである。
「さてと、折角こうして何か集まったことだし、お茶でもしますか!」
 ニーチェは笑顔を振りまいて初対面にもかかわらず彼女たちを連れ出した。
「いや、僕は、あんまり甘いものは……」
「いいのいいの。こういうのはいるだけでもオーケーなの」
「うちも参加するー!」
「お、ノリがいいわね」
 跳ね回る杏と気が引ける優姫を彼女は押し進めた。
「ほら、あんた達もさっさと行くわよ」
「あ、はい。レモンさんも、行きましょう」
「分かったわよ」
 餌に釣られる魚のように、庵璃の笑顔に釣られるままレモンも追った。

            エピローグ『男には理解できないざわめき』

「おいしい……」
「でしょー!」
 優姫のつぶやきにニーチェはすかさず反応した。テーブルを囲んで紅茶とケーキを食べる彼女達の中でも、特にニーチェのテンションは高い。中でも優姫に甘いものを進めるのが楽しいようだった。
「紅茶と合わせれば、ケーキも甘ったるいものではないんだね」
「そりゃあそうよ! 今は甘くないケーキとかもあるぐらいだからね」
 ニーチェは得意げに胸を張って答えた。
「ふぎゃああ、それあたしのモンブランっ!」
「いいやないの。減るもんでもなしに……」
「減るー!」
 レモンの前に並ぶモンブランを悪びれる様子もなく、杏は食べ続けた。
「ほ、ほら、レモンさん、他にもありますから」
「チョコケーキっ!」
「いただきー!」
「ふぎゃああぁぁ!」
 庵璃があやすように差し出したケーキを杏は奪い取っていった。
 まるで動物同士の追いかけ合いである。実際に兎と猫なわけだが。
 お茶会とは女性同士の親睦を深めるものであるのだろう。ニーチェが優姫や杏の胸のサイズを測ろうと手を不気味に動かしているのはその定かではないが、いつにも増して彼女たちは楽しそうであった。

クリエイターコメントうーむ、女性ばっかりの登場人物に色気で卒倒しそうな能登屋敷です。
この度はプライベートノベル依頼、ありがとございます。

女同士の絡みには兎角恥ずかしさを覚えるものの、何となく男性ライターの書くそういう行間が楽しいのかなとも思ったりします。
魅力的で動き回るキャラクター達が、それぞれに光る個性を出し切れていれば、これ幸いです。
個人的に獣人が多くて属性的にも楽しめたら、とも願いつつ……。

それでは、また機会があればご依頼ください。
ご意見、ご感想等ございましたらお気軽にご連絡ください。
ありがとうございました。
公開日時2008-02-25(月) 19:10
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