★ きっと愛のせいね ★
クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
管理番号95-2690 オファー日2008-04-15(火) 21:23
オファーPC シノン(ccua1539) ムービースター 女 18歳 【ギャリック海賊団】
ゲストPC1 アディール・アーク(cfvh5625) ムービースター 男 22歳 ギャリック海賊団
ゲストPC2 レモン(catc9428) ムービースター 女 10歳 聖なるうさぎ(自称)
ゲストPC3 珊瑚姫(cnhy1218) ムービースター 女 16歳 将軍家の姫君
<ノベル>

 ――前哨戦:乙女三人寄れば文殊の知恵――

(……今日こそはっ!)
 さて。こちら、あなたのカフェ・スキャンダル。ギャリック海賊団席では、いつものメンバーがにぎやかに集っている。
 談笑する海賊団のメンバーから離れ、シノンはひとりカウンターで、何やら思い詰めた顔でミルクティーをぐいぐい飲んでいた。
 ときおり、アディール・アークのほうにそぉっと視線を走らせ――彼と目が合いそうになると慌てて、ティーカップに向き直る。そんなことをずっと、繰り返しているのだ。
 頬を真っ赤に染め、シノンはオーダーを追加する。
「珊瑚ちゃん……。もう一杯、お願い……します……!」
「ちと飲み過ぎではありませぬかえ、しのん。? もうこれで六杯目ですえ〜」
「だ、大丈夫です。あのっ、勇気を振り絞りたい、から……。お願いします」
「わかりましたえ。あまり無理をしては身体に毒ゆえ、これを最後にしなされ」
(記録者注:珊瑚はまるで、小料理屋の女将が、立て続けにアルコールをあおるOL客を気遣ってるかのような口ぶりですが、シノンたんが杯を重ねているのはあくまでもミルクティーですんで)
「……ぬるめにしておきましたえ。火傷には気をつけるのですぞ」
「ありがと……。これ飲んだら……、私、行きます」
 シノンは今、一世一代の決意をし、その景気づけをしているのだ。
 彼女がアディールに絶賛片思い中であることは、銀幕市中が知っている。おそらくはこの記事をお読みのあなたもご存じのはずだ。だが、当のアディールだけがぜんっぜん気づいていない。
 それはシノンの内気さにも起因する。
 とても面と向かっての会話などとんでもなく、アディールと話すときは必ず誰かの背中越しなばかりか、昨日も洗濯中にアディールのものらしき薔薇柄パンツを発見するやオーバーヒートして洗濯かごをひっくり返して石鹸水を浴びて人魚姿に戻り、その尻尾の破壊力で一緒に仕事していた凸凹コンビをうっかりびたーん、ばしーん、と遙かお空にはじき飛ばしてしまい、彼らはまあ慣れっこなので受け身を取りつつ銀幕湾に落っこちて無事ではあったが――つまりそれくらい、シャイなわけである。
 七杯目のミルクティーを一気飲みし、シノンはカウンター席から降りた。
 緊張に足を震わせながらも、アディールのいるギャリック海賊団テーブルに向かう。
(きょっ、今日こそ……。そ、そう今日こそ、ありったけの勇気を出して、憧れのあのひとに、こっ告白……する前に、まず、好みのタイプはどんな女の子なのか……、聞かなくちゃ……!)
 ……て、もしもし? そこからですかい、シノンちゃん?
 全世界66億8千万人の銀幕ジャーナル愛読者(ちょっとここ、編集長の妄想が入ってます)のツッコミをものともせず、シノンは果敢にアディールに接近した!
 右足と右手が同時にぎくしゃく動いてるけど無問題!
「あ、あの、アディィィィィィーーーー」
 なんかいきなり悲鳴っぽい呼びかけだが、アディールは気にせず普通に挨拶を返す。
「やぁシノン君、いいお天気ですね。君から話しかけてくれるなんて珍しいなぁ」
「そっその、しっ、質問が、あっあっ、あって」
「何かな? 何でも聞いてよ」
「おおおお、おっ、こっ、こっ、おこここ好みの、たったっ」
「ああ、お好み焼きかぁ。あまり詳しくはないんだけど、カフェのメニューを見る限りでは江戸前と関西風と広島風があるみたいだよ。機会があったら食べ比べてみたいかな。好みのお好み焼き、なんてね」
 ずざざざざざーーーー! 
 聞き耳を立てていたカフェ中の人々が、各自それはそれは美しくも古典的なポーズでずっこける。
「い、いえ、あの、すっ、すっ、すすすすすすす好きな」
「すき焼きねえ。……ん? 好きなすき焼き、かぁ! やるね、シノン君」
「ええっ? そ、そんな」
「すき焼きってこの世界独特の鍋料理だよね。これもメニューによれば関東風と関西風でレシピが違ってて、関東だと割り下で最初から具材を煮て、関西だと最初に肉を焼きつけてから、砂糖やしょうゆを入れるらしいね。私はあまり甘い味付けじゃないほうが好みかなぁ」
 うがああああーーーー!
 ずっこけ中の人々は、華麗なだめ押しをされて、いっそうアクロバティックなポーズを取ってしまった。
 しかしシノンはと言えば、内容はともかく、アディールと直接話せたという快挙に満足し、舞い上がっている。
(わぁ……。お好み焼きと、すき焼きの、お話しちゃった……)
 
「ちょおおおっとシノン! あんたピュア過ぎて超面白い会話になっちゃってるわよ」
 ことここに至り、ようやくストレートにツッコミを入れてくださったのは、我らがアイドル聖なるゴスロリ美うさぎ、ライバルは某大女優なレモン様である。
 ずっこける姿さえも神聖にしてエレガントなレモン様は、翼を駆使して空中で「サモトラケのニケ」風ポーズをお取りになっていらっしゃったが、その強靱な精神力でいち早く立ち直ったのだ。
「あ、レモー。こんにちは」
 無邪気ににこにこ挨拶するシノンに、レモンは咳払いをし、自分の隣の椅子を指さす。
「話は聞いたわ。っていうか、しょうもないギャグまでまるっと聞こえちゃったわ。そこに座りなさい。あたしに何か相談があるでしょう。あるはずよ、ないとは言わせないわ!」
 シノンは素直にカウンター席に戻り、小首をかしげる。
「えっ? えと……? あ、そうだ、お好み焼き……。江戸前と関西風と広島風……ってどう違うの……?」
「そうじゃなくてね。ラブの進展についてよ。片思いの女子の守護天使レモン様に頼りなさい願いなさい祈りなさい相談しなさい!」
「レモーて、恋のキューピッド……?」
「そんな属性ないけど、気合いでなんとかしてみせるわ。あんただって、このままの関係でいいとは思ってないんでしょ?」
「はい……。もうちょっと、前進したいかなって……」
「でしょ。お好み焼きとすき焼き話してる場合じゃないのよ」
 珊瑚ー。あたしに『春咲パステルケーキ』とスペシャルハーブティーね、と、レモンは片手を上げる。
「はいな、只今」
 オーダーを置きながら、珊瑚姫が言う。
「ですがれもん、以前とある知人から聞いたのですが、聞き間違いというのは深層心理を反映している部分もあるそうな。ですから、いましがた得た情報は有益なのではありませぬか?」
「どういうことよ?」
「あでぃーるは心の底で、自分好みの美味なお好み焼きとすき焼きを食したいと考えているのです。そのような料理を振る舞えば、たちまちしのんにふぉーりん★らぶ♪ なのではないですかのう〜?」
「へぇ、言うわね。あんたって、ラブ関係まるっきり苦手だと思ってたわ」
「何を仰いますか。妾は大奥で生まれ育ったのですえ。幾多もの美女たちがあの手この手の策を弄し、将軍たる父上の寵を争う閉ざされた世界で、どろどろな権謀術数に巻き込まれてきたのです。あれはいつのことだったやら、我が母上のらいばるであったお中臈の藤凪(ふじなぎ)が」
 声を潜めた珊瑚はレモンの耳元で、その半生にまつわる、わりとどうでもいいエピソードを長々と語り始めた。
「(中略)……そして藤凪による母上と兄上の暗殺計画は失敗に終わり、大奥を追われました。ですが今思えば、藤凪は父上より兄上を好いていたのやも知れませぬ。妾はおなごゆえ、お家騒動系の暗殺とは無縁ではありましたが、代わりにそれはもう、幼少時より女ごころの深淵を嫌と云うほど見せられて」
「なぁんだ。つまり耳年増ってことね。実践には役立たないんじゃない?」
「ううむ。その辺はれもんと同じれべるですかのう?」
「なんですってぇ」
「何にせよ、ぴゅあな乙女の片恋ほど美しいものはありませぬ。そして他ならぬしのんの頼みとあらば、妾も全力全開ふるすろっとるで助太刀しましょうぞ!」
「そうね、シノンにこんなに頼まれちゃ、力を貸すしかないわよね。あたしも一肌脱いじゃうわ」
「これ、あでぃーる。明日、乙女による新作お好み焼きとすき焼きの試食会を行いますゆえ、万難を排して参加してくだされ」
「そうよ、来ないとただじゃおかないわよ」
「ははは。君たちのお誘いなら、断れないな」
「え、ええっ? えっえっ? あ、あのレモー、珊瑚ちゃん……」
 シノンちゃんがひとことも頼んだり相談したりしないうちから、スクラム組んだレモン&珊瑚姫によりあれよあれよと話は爆走し、何故か乙女三人による『極めろ! お好み焼き&すき焼きの神髄を! 〜アディ限定試食会〜』が開催されることになったのである、が……。

 ――決戦:愛は混沌なりき――

 そんなわけで、当日。
 カフェ・スキャンダルには『本日、やんごとない事情により貸し切りですえ〜』と筆文字で書かれた張り紙がなされた。
「なんだかよくわからないけど、ごちそうしてくれるなんて光栄だね」
 レモンと珊瑚から脅迫され、強制参加を余儀なくされたアディールであるが、それでも上機嫌でテーブルに座っている。
 そして今、お好み焼きとすき焼きを巡る愛の戦い(あれ、そうだっけ?)の幕が、切って落とされたのだ。
「ではまず、お好み焼きから行きますえ。まずは鉄板に薄く生地を張り、次にきゃべつと肉を乗せ、残った生地を回してかけて裏返し、焼いて仕上げた江戸前風ですえー」
「さあシノン、出番よ。今こそ、美味しくなる魔法をかけるのよ!」
 アディールの前に置かれたお好み焼きに向かってステッキを構え(注:構えてるだけ)レモンが言い放つ。
「えっ? えっ?」
「うむ。妾もねっとで調べてみましたえ。何でも『めいどかふぇ』というお屋敷では、愛くるしいお女中たちが、あるじの食事がいっそう美味になるよう魔法の呪文を唱えるそうな」
「いくわよー」
「いきますえー」
「……え……、魔法の呪文って……?」

「「さんはい、愛は右手に、勇気は左手、ふたつ合わせて未来が見える☆ 夢と希望をこの手に乗せて、おいしく、おいしく、なあぁぁ〜〜〜〜れ♪」」
「お、おいしく、なぁ〜れ……?」

 アディールは、なんか妙なこと言いながら珍妙なポーズで青のりとかつおぶしを振りかけてる三人娘を特に気にするでもなく、出されたお好み焼きを素直に食べ始めた。
「いい匂いだね。……うん、美味しい!」
「当然ね。魔法がかかってるもの」
「当然ですえ。魔法がかけてありますゆえ」
「……よかった、です……」
 あんのぉー、びみょーに目的がずれてるような気がするんですけどぉ、と、そろそろ読者がいやんな予感を感じ始めたあたりで、『それ』は起こった。

 ぽん。
 ぴょこん、ぱふっ♪

 ……勘のいい読者は最初からお気づきかも知れませんが、珊瑚姫が料理に使用したキャベツは、まるぎんの特売野菜コーナーから買ってきたものでありまして。
 そして本日の効果(?)は、どうやらロップイヤー風のうさ耳の出現のようでございまして。
 なので、アディールには、まあなんだ、薄茶色でふかふかの垂れ耳がね、言いにくいんだけどその。

「はて? 垂れうさ耳が生えましたな」
「……かわいいじゃない」
「………!!!(パニック起こしておろおろ)」

 垂れうさ耳を引っ張りながら、アディールはしきりに感心している。
「そうか、江戸前風お好み焼きってこういう食べ物なんだね」
 三人娘は「なんかあたしたち、別方向行ってる?」的なことを思わなくもなかったが、もう後に引くわけにもいかず、矢継ぎ早に、関西風お好み焼き→広島風お好み焼き→関東風すき焼き→関西風すき焼きと、連続技を繰り出していくのだった。
 もちろんその都度、美味しくなる魔法つきで。

【続・お好み焼き編】
「ほれ、お好み焼きは『じゃぱにーず・ぴざ』と云うではありませぬか。まぁみぃむぅから貰ったるっこらをとっぴんぐして、広島風をいたりあん風にあれんじしてみましたえ〜」
「子猫たちがまるぎんに納入してるルッコラ!? 食べたらにゃーにゃー言っちゃうアレ?」
「これもなかなか美味しいにゃー」
「えっ、えええっ!?(パニックが止まらない)」

【すき焼き編】
「あでぃーるは甘くない味付けが好みと云うておりましたゆえ、料理酒には、ろーえんぐりんのかるう゛ぁとすを使いましたえ」
「あれも、うさ耳効果あるじゃないよ! ……あ、もうなってるからいいのかしら? ……でも」
「ははは、何かこの耳、五分おきに立ったり垂れたりするんだけど?」
「……!!! ……うさ耳、ぴょこぴょこ……(パニック無限大。超悶絶)」

 アディールのうさ耳がせわしなく垂れ耳になったり立ち耳になったり語尾がにゃんこ語化するたびに、シノンはおろおろあわあわ動揺していた。メニューが一巡したあたりで、ようやくレモンが計画の暴走を認識する。
「あのねぇ珊瑚。あんたのトンデモ料理で場をカオス化してどうするの。ラブはどこよ?」
「うむう。混沌の中から生まれてきませぬかのう?」
「その確率は低いと思うわ。現実的に行きましょ。……ねぇ、あんたの相棒の発明家、こんなときのためにこっそり、厨房に使える薬置いてない? 惚れ薬とかさ」
 レモン様のシビアな軌道修正に、珊瑚もふと我に返り、厨房の棚を探る。
「某発明家はそーゆーのは邪道だと常々申しておりますが、そう云いながらも何やらこそこそと、かふぇのうえいとれすに飲ませていた、一見栄養どりんく風の瓶がたしかこのあたりに……」
 すぐに、ラベルつきの小さな瓶を発見した。
「ありましたえ。これを飲んで最初に手を触れた人物に一目惚れするそうですえ〜」
「それよそれ。すき焼き作り直して、入れちゃいましょ」
「効果は弱く、数時間で切れるらしいですがのう」
「いいのよ。要はきっかけでしょ? 薬が切れても『あなたが好き』と告白した事実は残るじゃない」
「ほほお。れもんと同じようなことを、昔、藤凪も申しておりましたのう」
「まだそのエピソード引っ張るのー!?」
「れもんを見ていると何故か藤凪を思い出しまして……。口ではきついことを云いながら根は気の良いおなごで、器量も頭の回転も宜しいのですが、ちと……」
 最後まで聞かずにレモンは瓶の蓋を取り、その中身を、作りかけの鍋にどばどばふりかけた。
 そして、
「あ、いけない。味が薄くなっちゃう」
 味見のためにスプーンですくってなめてから、はたと気づく。
「やだ、これ、どれくらいの量で効果がでるのっ?」
「一滴で十分ですえ。ちなみにこれは、一目惚れ効果以外に、性別変化・性格変化・むーびーすたーの場合は職業設定変化まで伴うため、失敗作として封印するとかしないとか」
「それを早く言ってくださいよー!」
 すでにレモンの外見と口調は、エステに行って儚げな美形に変わったと評判の某対策課職員を銀髪にしたような、いかにも生真面目っぽい好青年に変化している。
 ……策に溺れてしまうところがれもんそっくりでしたのう。
 中臈を懐かしく思い出しつつ、珊瑚は瓶に貼られたラベルを眺めた。

 ★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★
 効 果:品行方正な好青年化
 一人称:私
 二人称:貴方
 語 尾:〜です、〜でしょう、〜ですか
 職 業:銀行員
 ★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★

「レモー! 大丈夫……?」
 好青年化したレモンを心配し、シノンが腕に触れて顔をのぞき込んだものだからさあ大変。
 一目惚れ効果、発動!
 銀行員レモー青年は、シノンの両手をがしっと握りしめてプロポーズする。
「なんという可憐で美しいひとだろう! 貴方が好きです。結婚してください。お給料三ヶ月分の婚約指輪はいますぐニコニコデパートの貴金属売り場に走って買ってきますから!」
「あ、あの……、えっ? えええっ?」
 カオス度当社比五割増になってしまった現状に、さすがの珊瑚も考え込む。
「うう〜む。これはちと困りましたのう……。おお、そうですえ〜!」
 やがて何かひらめいたらしく、もう一度厨房の棚を探し、別の小瓶を手に取る。
(毒をもって毒を制すと申します。効果を中和するため、こちらの薬もれもんに飲ませてみましょうぞ)

 ★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★
 効 果:美青年ヴィランズ化
 一人称:俺
 二人称:てめぇ
 語 尾:〜だぜ、〜だな、〜だよな
 職 業:悪の宇宙艦隊を率いる艦長
 ★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★★☆★

「……れもん、喉が渇いたでありましょう。これをお飲みなされ」
「これはご親切に。ありがとうございます」
 爽やかな笑顔を見せて、好青年レモーは小瓶の中身を一気飲みする。
 ……みるみるうちに。
 その品行方正ぶりはかき消え、がらっと態度が変化した。
 凄みのある視線の、ふてぶてしくも荒っぽい――ヴィランズに。
 効果は中和されず、上書きされたのだった。

「……ほう。あんた人魚か。べっぴんさんだな、どうだ、俺の女にならねぇか? そこの垂れうさ耳野郎よりは、俺の方がいい男だぜ?」
「ええええ、ああああのっっっ……。すみません、離してくださ……」
 レモー艦長がシノンの手首を掴んで厨房から現れたとき、アディールはまだカルヴァトス入り関西風すき焼きを食べているところだった。
「君がどこの誰かは知らないが、聞き捨てなりませんね」
 手にしていた箸を置き、立ち上がる。
 いきなり乱入した見知らぬ男に、シノンが絡まれていると思ったのだ。
「私を、垂れうさ耳野郎呼ばわりするのは構わない。だが、シノン君の意思も問わず、強引に自分のもの扱いしないでもらいたいね」
「あ……」
 シノンの頬が、ほんのり紅潮する。
「ほほー。うさ耳状態でも、あでぃーるはかっこいいですのう」
 珊瑚はちゃっかり椅子に腰掛けた。傍観者を決め込むつもりなのである。
「……ふん。横取りしようったってそうはいかねぇ。俺はこの子が気に入ったんだよ」
 レモー艦長がにやりと口を歪め、アディールを睨み返す。んもー、堂々たる悪役ぶり。
 ――と。

 対峙するふたりの「衣装」に、変化が起きた。
 レモー艦長は、その設定に似合った、ごっつい兜つきバイキング風味のいでたちをスペースオペラっぽくアレンジしたような服になり、アディールはといえば。
 銀の鎧に、見事な紋章付き(海賊団のドクロマークに見えなくもない)の盾、鋼鉄のバスタードソードを携えた、騎士のすがたになったのである。
「わわ……、あれれ……?」
「あ〜〜れ〜〜〜!?」
 シノンと珊瑚が同時に驚く。
 どうやら、レモー艦長のほうは薬の追加効果による作用で、アディールは、関西風すき焼きに入っていたネギが原因であるらしい。が、この際理由はどうでも良いのだ。

 レモー艦長が光線銃らしきものを構え、アディールがバスタードソードをかかげて――
 ふたりは、シノンを争って決闘を開始してしまったのだから。

 ――終戦:いつか気づく日が――

 カフェ・スキャンダル内を縦横無尽に移動し、レモーVS.アディのバトルは延々と続いている。
「珊瑚ちゃん、ど、どうしよう……」
「今日は貸し切りにして正解でしたのう〜。ま、ほうじ茶でも飲みなされ」
 おろおろが止まらないシノンを自分の隣に座らせて、珊瑚はことっとテーブルに湯呑みを置いた。
「……レモー、せっかく、相談に乗ってくれたのに……」
 シノンは気遣わしげにレモー艦長を見る。銀髪のヴィランズは、あの人魚は俺のものだぁ! と叫びながら光線銃をぶっ放し、アディールは避けながらその手元を剣で狙い、たたき落とすことに成功していた。
「みいら取りがみいらと云いますか、薬が切れても『あなたが好き』と告白した事実は残りますからのう。ですがそれも、しのんとあでぃーるが仲良しさんになれば報われますゆえ、れもんも本望と云うもの」
「……珊瑚ちゃん」
「あでぃーるはなかなか手強い殿方ですのう。しのんの気持ちに気づくには、まだまだ時間がかかるでしょうが、少しは前進したのではありませぬかえ?」
「……え?」
「ほれ、呼んでおりますぞ」

 見れば、またもレモー艦長がシノンに近づこうとしている。
 それを阻むようにして、アディールが振り返り――
「シノン君! 私の後ろへ!」

「……は、はい……!」
 シノンは駆けだして、アディールの背に隠れたのだった。


 ――Fin.

クリエイターコメント長らくお待たせいたしましたっっっ! おまかせをいいことに、貸し切りカフェ・スキャンダルinカオス全開無限大にて展開させていただきました。
シノンさまの片思いと、なかなか気づかないアディールさまの関係は大変にロマンチックで、記録者のすれた心も洗われるようでございました。
レモンさまもレモー艦長もお疲れ様でした。身体を張った恋のキューピッドですな。漢らしいわ。
公開日時2008-06-11(水) 19:30
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