★ 笛吹きたちへのメッセージ ★
クリエイター龍司郎(wbxt2243)
管理番号938-8389 オファー日2009-06-21(日) 21:00
オファーPC 二階堂 美樹(cuhw6225) ムービーファン 女 24歳 科学捜査官
ゲストPC1 ケイ・シー・ストラ(cxnd3149) ムービースター 男 40歳 テロリスト
<ノベル>

 二階堂美樹の前に、昭和中期の時代の建物がある。ダウンタウン某所、旧公民館。今は、武装テロ集団『ハーメルン』の本拠地。
 夢の女神リオネによって、銀幕市にかかった魔法の終わりが告げられた。銀幕市民は、最後の日々を、思い思いに過ごしている。ケイ・シー・ストラ率いる『ハーメルン』は、マスティマ戦によって傷ついた市街地の修復作業を手伝いながら、普段どおりに訓練を行っているらしかった。夜は夜でケイン・ザ・クラウンのナイトパレードを手伝っているので、多忙だと言っていいだろう。
 だから、美樹が個人的に彼らと会えたのは、6月13日――本当に、最後の日だった。
 両手には、ビニール袋をさげていた。中身はピロシキ、イクラ、ウオッカ……彼らの好物ばかりだ。いくつかは日本のスーパーでは手に入らない料理だったので、美樹が努力して作った。
 古びた引き戸を叩く。中からは、ロシア語っぽい架空の言語が聞こえてくる。
「おお、ジェーブシュカ」
「こんにちは。スミルノフ」
 戸を開けたガスマスクは片腕しかなかったので、誰なのかすぐにわかった。彼はマスクを引き上げて、美樹に笑いかけた。
「よく来たな」
「みんないるの?」
「もちろんだ。現在休憩中だ」
「そう。じゃ、ちょうどよかったわね。いろいろ持ってきたのよ」
「おお、スパシーバ! ЩЩивy%#**! Hh;блт!」
 スミルノフは美樹からビニール袋を受け取ると、中に向かって叫んだ。するとたちまち、ドタドタとガスマスクが十数人集まってきて、美樹の差し入れの奪い合いを始めた。
「ぬあっ、何すんだこのПжйфй野郎!」
「離せ、独り占めすんな!」
「икра! красная икра!」
「ち、ちょっと、あんたたち、子供じゃないんだから!」
「やめないか、馬鹿どもが!」
 集団の後ろのほうから鋭い声が飛んできて、ガスマスクたちの見苦しいケンカがピタリととまった。
「市民からの差し入れは全員に均等に分配する規則のはずだぞ」
「ダ……ダ・ヤア!」
「わかったなら戻れ!」
「ダ・ヤア!」
 ストラの怒声を浴びて、ガスマスクは全員、すごすごと中に入っていった。残ったのはケイ・シー・ストラひとりだけだ。
「プリヴェット、ジェーブシュカ」
「あ……、ええ、こんにちは。みんな元気そうね」
「無論だ。健康管理には気をつけさせている」
「そういう意味じゃなくて」
「上がっていくか?」
「うん」
 ストラはいつもどおりの無表情だ。ガスマスクたちが子供じみているくらいにぎやかなのも、いつものこと。美樹は公民館の中に入った。テロリストたちはガスマスクを顔の上に押し上げて、ウオッカを飲みながら、嬉しそうに差し入れを分配していた。
 美樹がここにきた理由を、ストラは尋ねてくれなかった。尋ねてくれたほうが言いやすかった。
 美樹は彼らに、ちゃんとした別れと、お礼を言うつもりで来たのだ。しかし、彼らのあまりにもいつもどおりの姿を見ると、なぜだかとても言い出しにくくなってしまった。彼らは、今日がどんな日であるかを、何も知らないのではないか――そんな気さえしてくる。
「まあ飲め、ジェーブシュカ」
「こ、こんな真っ昼間からウオッカなんて。しかも『すげえウオッカ』!?」
「気にするな」
「おい、このブリヌイ、貴様が作ったのか?」
「そうよ。味はどう?」
「フクート」
「フクート!」
「リーダー、自分のぶんをどうぞ。差し上げます」
「貴様の取り分だ。貴様が食え」
「自分はリーダーに食べていただきたいのです!」
「おい、どうしたエミール。うまいぞ、食えよ」
「ちょ、スミルノフ! こぼれてるこぼれてる」
「おおおお」
「おい、それは自分のピロシキだ!」
 言えないままで終わりそうだ。それではいけないのに。
 今日で、最後なのだ……。
 ウオッカがなみなみと注がれたグラスを持ったまま、美樹は唇を噛みしめた。ガスマスクたちの喧騒が遠のいていくようだ。だが、その奇妙な静けさのおかげで、美樹は彼に気づいた。テロリストがひとり、仲間の輪の中にも入らないで、壁に背をあずけてぼんやりしているのだ。
 彼は『ハーメルン』の中ではいちばん若い。確か、名前はエミールだ。
「どうしたの? おなかでも痛い?」
 美樹が話しかけると、若いテロリストは物憂げな顔を向けてきた。
「いや……」
「ごめん、悪いんだけど、これ飲んでくれない? 昼間から飲むにはちょっと多くって」
「ノル・ニェ。飲みたい気分じゃないんだ……」
 彼は大きなため息をつき、楽しく飲んで騒いでいる同志たちを、うつろな目で見つめた。
「われわれは、今日、死ぬんだろ?」
 エミールのつぶやきに、美樹は息を呑んだ。
「それは……ちがうわ。消えるだけよ……魔法が、終わるから」
「死ぬのと同じことじゃないか。自分は怖いよ。ここでリーダーや同志と一緒に生きていたい。ずっと。町から出られなくてもいいんだ。ただ、生きていたいんだ」
「……」
「ああ、くそ! やっぱりそいつをくれ。酔っ払ったら気がまぎれるかもしれない」
「そ、そうよ。ほら、グッと一息!」
 エミールはだいぶまいっているようだった。その気持ちは、美樹にもわからなくもない。
 ムービースターは消える。それは、誰もが『死ぬ』という言葉が、重く忌まわしいものであるから、あえて避けただけなのではないか。彼らはみんなカタチを失って、誰と話すことも会うこともできなくなるのだ。
 エミールの言うとおり、『死ぬ』のとどんな違いがあるだろう?
 エミールは、美樹が渡したグラスを一気飲みした。かなりの量の『すげえウオッカ』が入っていたハズだ。ソレを一瞬で飲み干したものだから――エミールはたちまち酔っ払ってしまった。ちょっとやそっとの酒では酔わない彼らだが、今日のエミールの精神状態がよくなかったせいだろう。
「チクショウ! ヤツに報復してやる!」
 エミールはガスマスクをかぶり、突然そう叫んで、立ち上がった。銃まで掴み取り、美樹を押しのけて。楽しく騒いでいた他のガスマスクも、さすがにエミールの異変に驚いて振り返った。
「え、ちょっと……きゃあ!」
 ゴオッ、と吹き荒れた砂嵐が、美樹の視界をふさいだ。
 エミールがロケーションエリアを展開したのだ。
 ヘリのローター音や、戦車のキャタピラ音が聞こえてくる。砂と白煙の中、美樹は手を伸ばした。エミールのブーツが見えた気がしたのだ。
「エミール。エミール、落ち着いて! どうしようっていうの? 報復って、誰に!」
「あの夢の神だ。ヤツの魔法のせいで、われわれは死の影に怯えなければならない。報復してやる。この恐怖を味わせてやる!」
「エミール……!」
 若いテロリストは、砂埃の中に消えてしまった。伸ばした手が、むなしく空を掴む。
 が、次の瞬間、美樹の顔にガスマスクがかぶせられた。視界がいくらかマシになり、呼吸はラクになる。自分の顔を覗きこんでくる黒づくめのガスマスクの姿も、ちゃんと見えた。
「ケガはないか、ジェーブシュカ」
 ストラの声だ。ガスマスクをかぶられた上にこの砂嵐では、声でも聞かなければ誰なのか区別がつかない。
「大丈夫、ありがとう」
「ハラショー。このロケーションエリアを展開したのはエミールか」
「そうよ。死ぬのが――消えるのが、怖いって……」
「……」
 ストラはすこしの間押し黙った。
 彼の後ろでは、銃を構えて身構え、周囲を見回すガスマスクがいる。さっきまでロシア料理とウオッカを口にしながら大騒ぎしていたのに、すがすがしいくらいの切り替えの早さだ。
「同志よ。エミールが酔って血迷った。捜索し、発見次第ただちに拘束せよ。行け!」
「ダ・ヤア!」
 ストラは振り返り、ガスマスクたちに命令した。テロリストたちはキレイに声を揃え、煙の向こうに消えていく。ストラだけがこの場に残り、美樹の前で片膝をつく。
「私もまだまだだな。アメリカを倒すためのシステムに、兵器になったつもりでいた。だが私にも、最期を恐れる感情は残っていたということだ」
 ストラは静かに言った。
「同志は私と感情や心を共有している。エミールは私の恐怖に反応したのだろう。すまない、ジェーブシュカ……私は覚悟しているハズだったのだが……」
「謝らないで。私も、すごく、怖いの」
 美樹はストラの腕を掴んだ。
「また、ブレイフマンみたいに……いなくなっちゃうのよ。今度は、みんなが。あなたまで消える。せっかく……友達になれたのに。しかも、最高の友達よ」
 ストラはいつか、美樹のことをドレルクと呼んだ。ドレルクが何を指す言葉か、そのときの美樹にはわからなかった。帰って『静寂の要塞』を見直して、ようやくその意味を知ったとき、彼女はひとり赤面したものだ。
 物騒な銃声が聞こえ、無線が聞こえてきた。
『ドラグノフより報告! エミールを発見。こちらに発砲してきます!』
「応戦は許可しない。位置を報告せよ。私が行くまで何もするな!」
 ガスマスクに無線が内蔵されているのか、ソレは美樹にも聞こえた。ゾッとする報告だ。こんなときに同士討ちが始まりかけている。
「スチルショットを持ってきているようだな」
「あ……、うん。こんなこともあろうかと、ね」
 美樹は反射的な苦笑いを浮かべた。
「エミールを無傷で拘束するには、そのスチルショットが必要だ。われわれは貴様に協力を要請する」
「喜んで」
「ハラショー。私の後ろにつけ」
 ストラの背中に張り付くようにして、美樹はスチルショットの準備をしながら歩いた。肩の上のバッキーは、ときどきケホンと咳きこんでいた。
 遮蔽物に身を隠し、待機しているガスマスクたちの姿が見えてくる。
「来るな! チクショウ、近づいたら撃つぞ!」
 エミールはAKで弾丸をバラまいている。今のところ誰にも当たっていないが、ハーメルンの弾薬は尽きないのだ。ロケーションエリアの効力はあと20分以上もつだろう。その間にきっと誰かがケガをする。
「酔って錯乱してはいるが――あのときのブレイフマンでも、私の命令には反応した」
 ストラは美樹に耳打ちした。
「私がエミールに動くなと命じる。従うのはほんの一瞬かもしれん。ジェーブシュカ、機を逃すな」
「ダ・ヤア」
「ハラショー。理想的な返答だ」
 ストラが笑ったのがわかった。
 美樹がスチルショットの引き金に手をかけたとき、ストラがひときわ大きな声で命じた。
「命令だ、エミール! 動くな!」
「!!」
 エミールはやはり、ストラの命令に逆らえなかった。ビクリと凍りついたその身体に、美樹のスチルショットの光線は、簡単に命中した。
「動け!」
 ストラは続けざまに、他の同志にはそう命令した。
 ガスマスクたちはスズメバチの大群のように、いっせいにエミールにおどりかかった。


 エミールはがんじがらめにされているが、仲間からやさしく声をかけられている。ストラは彼を1発殴ったが、ソレだけだった。
 いつの間にか公民館の外に出てしまっていたようだ。すっかり日も暮れ、夜空が広がる外に、美樹とハーメルンは立っていた。
「協力感謝する。これは礼だ。飲め」
「またお酒……」
 ストラは無表情で、美樹にショットグラスを渡してきた。当然、無色透明のウオッカが注がれている。しかし今度は、美樹はソレを一息にあおった。普通のウオッカだった。
「あなたたちと一緒にいるときは、お酒で大騒ぎしてるか、銃を持って戦ってるかのどっちかね」
 美樹は強いアルコールでヒリヒリする唇をなめて、笑顔を見せた。ストラも、口の端をすこし吊り上げて……笑ったようだ。
「こんな展開にも、せっかく慣れたのに……今日でおしまいだなんて」
「物事には終わりがある。終わらない映画など、誰が見る? 人生にも終わりがある。一生を映画だけを見て過ごすワケにはいかない。終わりがあるとわかっているからこそ、人は安心して鑑賞できるのだ」
「そうね」
 美樹は息をついた。
「ありがとう」
 やっと言えた。
「最初に会ったときは、あなたたちは、やっつけなきゃいけないだけの悪役だった。ソレが、こんなことになるなんて。あなたたちを、好きになっちゃうなんて」
「……」
「ブレイフマンのことは、もっと好き。大好きだったわ。気がついたのが遅すぎた。彼が死んじゃったあと。バカよね? あのときからずっと、あなたたちがいなくなるってわかったときも、彼のことばっかり考えてるの。彼のことが忘れられない……あなたたちがいなくなっても、ずっと忘れられない……」
 気づけば、他のガスマスクたちも、エミールも、みんな、美樹を見て黙っているのだった。静かに、彼女の告白に耳を傾けていた。誰も彼女の言葉をさえぎらず、また、はっきりとした相槌も打たず……。
 ただ、聞いてくれている。
「お願い。もしもよ、また、彼に会ったら。天国でも、映画の中でも、どこでもいいわ。ブレイフマンに会えたら、伝えてほしいの。大好きだったって」
 美樹はストラの腕を掴み、視線ですがりついた。ストラの表情が、静かに動いた。彼はかぶりを振る。
「ジェーブシュカ。貴様が自ら伝えるべきだ」
「そんな。できないわよ。だって彼はもういないのよ。もう会えないんだから!」
「いや。また会える。明日にでも」
「え?」
「われわれの存在は夢ではない。貴様ら人間が創り上げたモノだ。われわれはフィルムと現実の中にいる。『静寂の要塞』を、われわれのプレミアフィルムを見るがいい」
 何も答えられずにいる美樹を、ストラは抱きしめた。
「ブレイフマンは言っていた。『威勢のいい女もいいものだ』と。私も今ではそう思う。貴様に涙は似合わない。忘れろとは言わん。われわれを騒々しい、滑稽な思い出にしてくれ。約束だ……愛しいジェーブシュカ……」
 そして、頬にキスをしてから、静かに離れた。
 テロリストたちがガスマスクを顔の上に押し上げて、ストラと同じことをしていった。全員が。美樹ひとりに。そして、軽く手を振り、そう遠くはない公民館に帰っていく。
「ダ・ザーフトラ、ジェーブシュカ!」
 また明日。
「ダ・ザーフトラ! スパシーバ! ありがとう! さよなら……!」
 美樹は力いっぱい手を振った。
 彼らが、肩を叩き合い、小突き合い、笑いながら去っていく。
 映画の中では、彼らはそんな『終わり』を迎えられなかった。
 けれど美樹の目の前の現実では、彼らは楽しげで滑稽な最後の姿を見せてくれていた――。




『ハーメルン』全員のプレミアフィルムは、公民館の畳の上に、整然と並んでいたという。一本の空っぽのウオッカのビンと、人数分のガスマスクと一緒に。






 ジューンブライドにはまだ間に合います――。
 目に飛び込んできたのはそんなコピー。
 しかし、時はもう、6月の下旬だ。どう頑張っても、今から恋人をつくってプロポーズされて(プロポーズして)結婚式を挙げるには、時間があまりに足りなさすぎる。
 ぼんやりとした憧れを抱いて、美樹はブライダルショップを見上げていた。
 6月の雨に突然降られて、雨やどりに飛び込んだのがこの店の前。これで二度目だ。三度目かもしれない。雨がやむまで、また、このウエディングドレスとにらめっこだ。
(神様ってけっこうイジワルかもね)
 はあ、とため息をついた彼女の視界に、亡霊の姿が飛び込んできた。
「……!!」
 ウエディングドレスを飾る円柱状のガラスに、美樹の後ろに立つ男の姿が映ったのだ。
 ものすごい勢いで振り返る。
 男は亡霊ではなかった。黒い傘をさして、そこに立っていた。
 身体にまとわりつくような湿気が、美樹の感覚や思考の中から、残らず吹っ飛んでしまった。傘をさして目の前に立っているのは、ケイ・シー・ストラ……ではない。でも、雰囲気がよく似ている。40代間近の白人男性だ……。長身で、服を着ているのに、その身体ががっちりした筋肉質であろうことがうかがえる。
「ミキ・ニカイドーさん、ですね」
 傘を突き出して雨から美樹を守り、彼は外国語訛りの日本語で言った。
 聞き覚えのある声。
 美樹の目から、勝手に涙が出そうになった。
「ブレイフマン?」
 男はちょっと笑ってみせる。
「わたしは、セルゲイ・ナボコフ、といいます。『静寂の要塞』で、ブレイフマンを、演じました」
 美樹の身体に電撃が走った。そんな気がした。
 彼はブレイフマンと同じ顔をしていて、同じ声をしている。彼とは違う人生を歩む、彼とは違う人間だけれど――彼は……。
「今は、アメリカで、テレビドラマの俳優を、しています。映画の出演は、あれっきりです。だから、とても思い出深い、映画です。銀幕市に、『ハーメルン』が実体化した、と聞いて、銀幕ジャーナルを取り寄せて、ずっと、ウラジーミルと、一緒に、アメリカで、見守っていました。いつか行ってみようと、日本語も、勉強しました」
「……ウラジーミル?」
「わたしの、親戚です。ウラジーミル・ナボコフ。ケイ・シー・ストラを演じた、わたしよりも有名な、ハリウッド俳優です。わたしが、映画に出られたのは、彼のおかげです。ブレイフマン同様、わたしも、ウラジーミルを、とてもしたっています。彼に忠誠をちかう同志を、演じるのは、とても簡単でした」
 ブレイフマンの顔を思い出そうとしても、どうしてもハッキリ思い出せなくて、しまいにはストラの顔ばかりが思い浮かんでしまうことには、ちゃんと理由があったのだ――。美樹は棒立ちのまま、まったく動けなかった。セルゲイの顔を見上げて、泣きだしそうな気持ちを抑えるので、精一杯。
「あなたが、ブレイフマンのことを、とても好きでいてくれたことを、知っています」
「あ……」
「『また会えたな、ジェーブシュカ』」
 美樹は、ブレイフマンと同じ顔と声の男に、抱きついていた。傘が落ちた。
 彼は違う。
 けれど、彼になれるのは彼しかいない。だったら、彼は彼であるとしか言えないのでは? もともとムービースターは、誰かが演じていた存在なのだ。彼らは、フィルムと現実の中にいる。
「会いたかった。会いたかったよ」
 美樹は彼の腕と雨の中で、わんわん泣いた。もう、細かいことも、天下の往来で泣きわめくことの恥ずかしさも、どうでもよくなっていた。
 彼は会いに来てくれたのだ。
 ストラが約束したとおり、また、会えたのだ。
 

クリエイターコメント龍司郎はなるべく機械的なWRであろうとしました。けれど無理でした。
私のNPCをこんなにも愛してくださった二階堂様に、お礼としてこのノベルのエピローグをお返しします。蛇足だと感じましたら、申し訳ありません。
本当にありがとうございました。
公開日時2009-07-18(土) 21:30
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