★ Game in the Light ★
クリエイター志芽 凛(wzab7994)
管理番号136-2958 オファー日2008-05-01(木) 22:50
オファーPC 梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
ゲストPC1 クライシス(cppc3478) ムービースター 男 28歳 万事屋
<ノベル>

 銀幕市のとある通り。歩道の真ん中で。顔の造作がほぼ同じ青年達が、周りの目も気にせず(というか気付かず)、やかましく叫び続けていた。
 彼らの近くには銃が転がり、そして一人の青年の右腕は赤く染まっているという、よく見れば物騒な光景でもある。
「ホントに俺達の監督と俳優呼んだのかよ! い、いつの間に連絡取ってたんだよ! ていててて……」
 今までの緊張感から解放されたのか、銃弾が奔り抜けた右腕をそっと持ち上げつつ叫ぶ梛織。
 先程まで、とっても珍しい優しさを梛織にみせていたクライシスは、どうやらここ一年分、いや三年分程の優しさを使い切ってしまったらしい。
 いつものように、ふてぶてしい、尊大な態度だ。
「ふん。前、リチャードに付き合って猫探した時に連絡の返事が来てな。来るなら来いって呼んだんだよ」
「……で、いま銀幕市に?」
「そういうことだ」
「……ぐあああああ……」
 さらりと言い放ったクライシスの態度に、梛織はその場でああどうしていつもこの人はこうなんだああああと頭を抱えて俯いている。道行く周りの人の視線が冷たい。
 いつまでも隣でウジウジした態度を取られるのは迷惑だと感じたのか、それともブツブツ呟いている梛織の態度が気に喰わなかったのか。クライシスはこめかみにぴくりと青筋を立て、そして梛織を思い切り蹴り飛ばした。
「こら、俺の話を聞けっ!」
「いてててっ!」
 予期していなかった攻撃に、梛織はバランスを崩して地面をコロコロと転がっていく。それをクライシスは零度の冷たい眼差しで追いかけ、ぐにゃりとその腹を容赦なく踏みつけた。
「ぎにゃっ!」
 腹部を圧迫され、奇声を上げる梛織。そんな彼の様子などお構いなしの様子で、クライシスは偉そうに彼を見下ろす。
「だいたい俺が仕組んだとは言え、……よくもこの俺様に泥を塗ってくれたな。ミジンコ、いやゾウリムシ……いや、ミドリムシからやり直すか? ァアん?」
 その優しさゼロの言葉に、梛織はああと両手で顔を覆った。
「ああ、さっきまでの優しさはどこへ置いてきたの鬼姑」
「何腑抜けた事言ってんだ。優しさなんて、さっきのでここ三年分は使い果たしちまったぜ」
「三年分もー!? 何て心が狭い……!」
「ああ? 今なんて言ったんだ? ……そうか。ミジンコになって、俺様にお前が泳いでいる桶の水を全てぶちまけてやりたいと言ったのか」
「何その派手な聞き間違いぃっ!」
 周囲の冷たい視線にも気付く様子は無く、二人がそのままの体勢でぎゃあぎゃあと言い合っていると、彼らに向かって二人の気配が近づいてきた。
「HEY! 相変わらずデスネ! お二人とも!」
 陽気な声と共に、近づいてきたのは刈り込んだ金髪に、愉快そうな光を光らせる金眼の壮年の男。
「クライシス、梛織から足どけて、ホラ」
 その隣では、黒髪に黒目の男が、クライシスにどけ、と手振りで示しながら梛織に近づいている。仕方なく梛織の上から足を上げたクライシスは、金髪の男に視線を向けた。
「いよ、二ール。監督と言った方が良いか?」
「どっちでもボクは気にしませんヨ」
 そう言って、金髪の男――彼らの映画の監督は、豪快に笑った。
「それにしても、まだくたばってなかったのかよ」
「ボクはまだまだ死ぬ予定ないデスヨ。予定はいつまでも未定デスけどネ! AHAHAHAHA!」
 再び明るい声で笑う監督。その横では、黒髪の男が梛織が起き上がるのを手伝っていた。
「ホラ。大丈夫?」
「あいててて……すいません……」
 梛織は起こして貰いながら、クライシスが監督って言っていたという事は、この人が自分達の俳優? 何て良い人なんだ! と考えていた……が。
「それにしても……。うん」
「……?」
「若い時の俺ッ! 激しく美少年だなあぁー!」
 その男はがしり、と訝しげに見てきた梛織の身体に抱きついた。梛織がこの男に思っていた先入観はこの一瞬で打ち砕かれる。おまけにその男の鼻からは、どうやら興奮しすぎたようで、鼻血が噴き出ていた。赤い噴水が飛び出ている。
「ギャアァアーッ! この人、良い笑顔で鼻血出してるよー!」
 がっちり掴まれた梛織は、手足をジタバタもがきながら叫んでいる。その騒ぎに気が付いたらしい監督が、まあまあ、とその男を宥めながらハンカチを差し出した。どうやら日常茶飯事の出来事らしい。
「……あの人が、俺達を演じた俳優、なんだよな……?」
 やっとの事でその男から解放された梛織は、先程の抱きつきでさらに負傷した腕をそっと庇いながらクライシスに尋ねた。クライシスは事もなげに頷く。
「ああ。確か、アルバート……とか言う名前だった筈だ」
「……あああ……何だかイメージが……」
 梛織はまたその場で頭を抱えて何事かをブツブツと呟いているのであった。


 *


 昼下がりの陽が燦々と、木目のテラスに煌いている。緑のテントが申し訳程度に日除けとなっている、カフェのテラスに彼らは移動していた。
 梛織が四人分のオーダーを頼んでいる横で、監督とアルバートは道行く人々を興味深そうに眺めている。
「ああ、あのスター、ボクも映画で観ましたヨー。あっちのスターは知り合いが監督なんデス」
「へぇ。確かにあのスターは俺も会ったことあるな」
「何だかんだでしっかり仕事してるんじゃねえか」
 クライシスは席にふんぞり返りながら、二人の話に茶々を入れている。
「まあ、そりゃあね。――それにしても、本当不思議だよな。俺が演じた映画のキャラに会えるなんてさ」
 アルバートは、改めて関心した様子で、クライシスの顔を眺めていた。ちなみにアルバートはクライシスより十歳ほど歳をとっているが、歳を経てますます深みを増したようで、クライシスに負けず劣らずの外見を保っているようだ。
「お待たせいたしました。アイスコーヒーをお持ちしましたー」
 ウエイトレスが間延びした声を出しながら、面々の前にアイスコーヒー、紅茶を並べていく。ウエイトレスがごゆっくりどうぞ、の言葉と共に去っていくのを見送って、梛織が改めて口を開いた。
「で、監督とアルバートさんは何でこの町に?」
 かなり真面目に聞いたのだが、監督とアルバートはそれぞれ飲み物を一口啜ってから、いとも当たり前のように答えた。
「遊びにデス」
「若い頃の俺に会いに」
「……アンタらはそれしか言えんのかっ!」
「いやー、若い頃の俺、やっぱいいわー」
 ツッコミどころ満載のセリフに、早速ツッコミプリンセスが突っかかる。隣でクライシスは呆れたような表情を見せて、梛織の話を遮った。
「梛織、ほっとけ。何言っても無駄なのは、俺達が一番知ってるだろうが」
「……――あぁ……」
 梛織は、クライシスの顔とアルバートの顔を交互に眺め、諦めのため息をついた。そしてすぐに表情を引き締め、本題に入る。
「で、今さっきクライシスから聞いたんだけど……俺らの関係って、兄弟ってのはマジ?」
 梛織の言葉にアルバートがきょとんとした表情を見せ、監督の方を向いた。
「あれ、監督、いつの間にそんな設定に決定したんですか?」
「ハ? 違ぇのかよ。俺が電話で聞いた時、そう言ったじゃねえか」
 アルバートの言葉に、クライシスが眉根を寄せる。監督はああ、と手を打った。
「ああ! 梛織が関係を気にしてるから教えろって電話のことデスネ?」
「余計な事は言わんで良いわい」
 クライシスの軽い脅しを監督は意にも介さない様子でかわし、ひょろりと答えた。
「電話で話を聞いた時はクライシスが、敢えて逆の方が面白いかなと思いましてデスヨ」
「ぶっちゃけてカミングアウトするんじぇねえよ!」
 青空の下に、二人のツッコミが綺麗に揃った。それを見ていたアルバートは、まあまあと二人を宥める。
「ほら、監督って結構アバウトな人だからさ。俺の目だって、本当は黒なのに、それだと面白くないからって銀のカラコンさせたくらいだしねぇ」
「面白くないから俺達の目が銀になるのかあっ!」
 ははは、と笑ってアルバートが自分の目を指すのを見て、梛織がツッコミつつ項垂れる。クライシスは監督に、で、と突っかかっていた。
「実際のところはどういう考えなんだよ? あぁ?」
「うーん……そう言われましてもネェ……、まあ同じ人でも、違う人でも、兄弟でも、全部考えてみた、みたいな感じですか、ネ?」
「あああ! それじゃさっぱり訳わかんねえ! もっと的確に、ぴっしりと答えろ」
「ええエエエー……」
 監督は眉根を寄せながらコーヒーカップを持ち上げた。アルバートは、相変わらずニコニコと二人を眺めながらも、疑問を口にする。
「それにしても、だいたい二人は何で関係を気にしてるんだい?」
「……」
 アルバートの疑問に、二人は揃って口を噤んだ。クライシスはむっつりと押し黙ったまま、横目で梛織をちらちらと見、梛織はその視線を受けながらも、しばし沈黙を続けていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「だって……もし俺とクライシスが同一人物だったらさ……、俺の『誰も殺さない』って覚悟は、数年後には無くなっちまうんだろ……?」
 だから……。そう言って口ごもる梛織。その姿を見て、今までおちゃらけていた監督は表情を一変させて、うーん……と黙り込んでしまった。


 *


 そこはどこかくすんだ灰色を思わせるセットが組まれた場所だった。
「じゃ、次はシリアスなシーンだからね! 真面目に行くよ!」
 監督の声と共に、その場は一気に冷え込んだ。近くでカメラのファインダーを覗き込んでいる、いつもは監督の言葉の通りに絵を作り出す青年が、その時は珍しく何かを躊躇うような動作をしている。
「どうしたんだい? 次は本番だよ? 気合入れて!」
「監督……」
「ん?」 
「……――やっぱり俺、このシーンには反対です」
 そのカメラマンの言葉に、ただでさえ静かなその場が、水を打ったかのように静まった。
「梛織は、こんな事しないんじゃないでしょうか……」
「うーん……」
 滅多に反対意見など出さないカメラマンの意見に、監督も困ったかのように黙り込んだ。彼らの中心では、アルバートが、静かにその場に佇んでいる。その表情は――無。
 監督はしばらく考えた後、顔を上げた。
「でも、このお話が無いとやっぱり盛り上がらない所があるから、ひとまず撮ってみよう。それからまた、考えようか」
「――分かりました」
 その青年はひとつ頷くと、いつものようにカメラのぴたりとくっついて、カメラと一体化した。
 監督の前にあるモニターに、いくつかの視点からの、梛織が映る。
「それじゃ本番行きまーす! 本番五秒前! 四、三、……」
 カチリ、と音がして、その場の動きが一気に鮮明さを帯びた。
 アルバートが、一気にその表情を梛織へと変化させて、壁へと引きずって叩き付ける。そのまま梛織は、だんっと跳躍して一息に間を詰め、半ば意識を失いかけている相手の首へと手を伸ばした。
 モニターに、アップになった梛織の顔が映る。
 ――そこにあるのは、くしゃくしゃに顔を歪めた表情。
 今にも泣き出しそうな表情だった。
 遠景からの映像では、梛織が震える腕を相手の首に伸ばしているところが映っている。そしてそのまま手を首へと伸ばして……。
「カット!」
 監督はそのモニターを眺めつつ、眉根を寄せながら声を掛けた。立ち上がってその場をうろうろと歩きつつ、何事かを考えているようであった。
 梛織から戻った筈のアルバートは、そのくしゃくしゃの表情のまま、手を小刻みに震わせて立ち竦んでいた。
「ちょ、大丈夫……?」
 意識を失う演技をしていた相手役の俳優は、起き上がってもそのままの表情を見せ続けるアルバートに、困惑の表情を見せる。
 アルバートは声を掛けられても、その表情を崩せず、しばらくの間、その場に立ち尽くしていた。
 つう、と目尻から押さえきれなかった雫がひとつ、零れていく。


 *


 監督は、かつての映画でカットしたシーンを思い浮かべながら、目の前にいる、本物の梛織を見ていた。
 さて、一体どう説明すれば良いのだろうか。あのシーンの事を説明する訳にもいかないし、まさか時間内に収まらなかったからなんて事は、さらに説明不可能である。
 彼の頭の中で試行錯誤している中。その外側で、話は進んでいた。
「じゃ、その、本当は俺らの関係は……」
 梛織がごくりと息を呑むかのような表情で、じっと二人の表情を伺っていた。監督の心情はいざ知らず、アルバートはにこにこと答える。
「まあ、決まってないとも言えるんじゃない?」
 ぽかり。梛織はその答えに口を半開きにした状態で固まった。クライシスは半ばこの答えを予想できていたのか、コーヒーをゆっくりと啜っている。
「…………じゃあ……?」
 どうすれば。そんな顔を見せた梛織に、穏やかにアルバートは言った。
「でもさ、それは逆に、自分達の好きな関係でいれるってことだとは思わない?」
 彼は一口、紅茶を飲むと、何だか腹が減ってきちゃったな、とぼやいた。
「好きな関係……?」
「そう。だってここは銀幕市なんでしょ?」
 アルバートの言葉に。梛織はハッと、何かに気が付いたかのような表情を見せた。まじまじと正面からアルバートを見つめる。アルバートは、梛織の視線に気が付くと、にこり、と慈愛のこもった表情で微笑んだ。隣では監督もうんうん、と頷いている。
 この世界で生きている限りは、彼らの人生なのだから。設定なんかに捕らわれず、自分の意思で生きて欲しい――。アルバートも、監督も。二人の「親」として、心からそう思っていた。
「――それにしてもデスネ。もう、そんな理由で殺し合いなんかしないでくださいネ」
 監督は、少しだけ眉根を寄せた。アルバートもそうだ、そうだと首を縦に振る。
「そうだよ。若い俺達の顔なんかに傷がつくなんてっ!」
 がしり。嗚呼、と叫びながら、アルバートはクライシスと梛織の両方の身体に抱きつこうとしていた。だがクライシスはひらりとそれを避け、梛織がアルバートの標的となる。
「ぎゃあああっ! この人なんかマジ泣きしてるよおぉぉ!」
「だからそいつはそういう奴なんだって。行動読めよ……」
 ため息をついてコーヒーを飲むクライシスの前で、しばし梛織をがっちり掴んで頬ずり(?)をするアルバートの姿があった。
 やがてようやく満足したのか、アルバートは律儀にぎゃあぎゃあ叫び続けている梛織から身体を離した。梛織は解放されたことに、ほっとため息をつく。
「ああ、何かあんた達といると、体力吸い取られる気がするよ……。さて、冗談はさておき」
 彼はそう言って、監督とアルバート、二人の目を交互に見つめた。かつて監督のアバウトさ加減から生まれた、どこか涼しさを放つ銀の目が、ひゅっと力を帯びる。
「じゃあ……、クライシスが俺の何かだからって、俺もこうならないといけない、なんて考えなくても良いんだよな? 俺は俺の思うように生きて、良いんだよな?」
 ほんの一瞬だけ、梛織の脳裏に、今朝の悪夢が甦った。
 自分が、大切な人を殺す夢。
 だが今なら。それはただの幻想だと、確信を持ってそれを跳ね除ける事が、出来る。
 今二人に聞いた事だって、それは疑問ではなく、確認なのだから。
 アルバートも、監督も。梛織の言葉の真意に気が付いているのだろう。二人とも、ハイ、とかおう、とか言いながら頷いた。その隣でこっそり状況を見ていたクライシスは、持ち上げたカップの中で、ほんの僅かに口元を釣り上げている。
 ふと、クライシスの前を白いゴミのようなものが飛んでいった。ふと何が飛んでいるのかと、目をそれに取られ、よく目を凝らして見ようとする。
 ――ふわふわ。そんな擬音がぴたりと合いそうな表現で、それは飛んでいる。

「キミ達は、ボクの最愛の息子達デス! この町では自分が生きたい様に自分の意志で生きて欲しい。これがボクのキミ達への一番の願いデスヨ」
「そうそう。映画の設定なんかに捕われなくて良いんだから。若い頃っ」
「ギャーッ!」
「ぐふおっ! 若い頃の俺に殴られたあぁ!」

 ふわり、ふわり。
 よく見ると、それは白い羽をつけた、タンポポの綿毛だった。
 もうタンポポの綿毛が飛ぶのも、そろそろ終わりだろうか。そんな事を思ったクライシス。
 その時、ぶわり、と強い風が吹いた。
 風を受けて、クライシスの頭上遥か上を白い綿毛が飛んでゆく――。
「それにしても……」
 梛織が再び二人をしみじみと眺めながら呟いた言葉に、クライシスは空に目を向けていた視線を元に戻した。
「俺この町に実体化した時、身内なんていないとか思ってたけどさ……、ちゃんと立派なお父さんがいたんだな」
 かつて実体化したばかりの頃、ただひとり通りを歩いている時、すれ違う親子を見た時のような思い。その時はいる筈なんてない、と思っていたけど。
 今、目の前に。自分を見返りなしに心配してくれる人がいる。
 その気持ちは、何だか歯がゆいような、くすぐったいような気持ちが織り交ざっていた。
「……俺、こんな親父嫌だ」
 梛織がしみじみとしている所で、ぼそりとクライシスの呟きが零れる。梛織の気持ちを台無しにするその言葉に、梛織が半ば涙目になってツッコミを入れた。
「確かにそうかもしれないけどッ! ここは折角俺がしみじみとした気持ちになってるのに何その呟きッ!」
「……今若い頃の俺に『確かにそうかもしれない』って言われた……」
「あ……」
「あーあ……」
「まあまあ、落ち込まないデス。クライシスが『うわーおとうさーん』って抱きつきにくるよりかはマシデス」
「……」
「こらそこ! 考え込むな!」
 何だかんだでしんみりした空気は一瞬で消え去り、再びその場はワイワイと騒がしい空気に包まれていた。
 だが、それは彼らには一番似合う空気なのかもしれない。
 遠くで、白い綿毛が飛んでいく。
 ふわふわと。そんな音を立てながら。


 *


 すっかり彼らの前に置かれているカップの中身が空になった所で、そろそろ時間だし、ということで四人は椅子から立ち上がった。
 その時、ふと梛織が思い出したかのように監督へと尋ねる。
「そういえば、監督はもう映画は撮らないの?」
 梛織の言葉に、監督は微笑を浮かべて首を横に振った。
「作らないデスヨ。ボクは自分の持っている力を全てキミ達の映画に注ぎました。……これ以上ない映画を二つも生み出せて、満足デス」
「……へぇ……」
 梛織が監督の言葉に感心している横で、クライシスがまたぼそりと呟く。
「――資金不足とか、言わねえよな……」
「……それは言うな。禁句だ……」
 アルバートがクライシスの肩を軽く叩いて、しみじみと呟く。ちなみにアルバートも監督と同じ理由で、これ以外の映画には出演していないのだ。
 ――それほどまでに、梛織とクライシスは監督とアルバートにとって、かけがえのない存在なので、ある。
「それじゃ、またデスネ。梛織、どうしても気になるなら、二人関係を兄弟設定にしますデスヨ」
 監督の言葉に、梛織が笑顔で、首を振った。
「もう迷ったりしないから大丈夫! それに――こんな弟、お断りだよ!」
「ふん、俺もこんな兄貴、勘弁だナ!」
 梛織の言葉にクライシスも微笑を浮かべる。
「そうだ。今度はルフトの俳優も連れて来いよ!」
 クライシスは思い出したかのように振り返って、そう告げた。監督もそれに片手を上げて、ハイハイ、と答える。
「ええ。また、遊びに来ますヨ。その時はヨロシクデス」
 そうして二人は時々小突きあいながらも、肩を並べて通りを歩いていった。
 ――光の差す、大通りへ。
 その光が差す背中を眺めながら、ぼそりとアルバートは呟いた。
「……監督、本当のこと言わなくて良かったんですか?」
 かつてあの二人を演じた俳優の言葉に、監督はしみじみとした表情で、頷く。
「ハイ。彼らが自分の意志で生きてるんデス。ボクらがとうこう言うなんて、野暮デスヨ」
「……ですよね」
 二人も不思議な笑みを浮かべて、その場から静かに立ち去っていった。

 ふわり、ふわり。

「あ、また綿毛だ。さっきと同じやつか?」
「? さっきと同じやつって?」

 

クリエイターコメント大変お待たせ致しましてすみません; ノベルをお届けさせて頂きます。
今回の第二話は、和気藹々と、光に溢れているイメージで描かせて頂きました。途中の演技のシーン、銃にしようか手にしようか悩んだのは内緒です(?)
今後、ふたりの関係はどうなっていくのか、それは銀幕市ならではの未来、ですねvv

それでは、素敵なオファーありがとうございました! またいつか、銀幕市のどこかでお会いできることを願って。
公開日時2008-05-28(水) 19:00
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