★ 星砂海岸でサッカー大会ィイイ? ★
<オープニング>

「負けたやとッ!」
 男は、いきなり足を振り上げると目の前のテーブルを蹴った。みな慌てて身体を縮めて、かろうじて難を逃れる。
「このボケ、どの面下げて戻って来おったんや!?」
 男──竹川導次は、革張りのソファから立ち上がった。
 彼の前に座っていた三人は、恫喝の主を見上げた。一人を除いて、二人は導次の手の内の者のようだった。ただし、片方の男は腕を包帯で吊り、もう片方の男は頭に包帯を巻いていた。怪我をしたヤクザである。
 そして、そこは導次の事務所であり、彼の私室でもある。濃茶色の絨毯に、重くて高価そうなソファとテーブル。相手のドタマをカチ割るのに最適な大きなガラス製の灰皿と、扉の前に陣取るコワモテの二人の男もセットだ。
 ガツッ。導次は怒りに任せて、もう一度テーブルを蹴り上げた。
 今度はそれが派手な音を立ててひっくり返る。彼の前に座っていた者たちは、ソファから転げ落ちるように逃げ出そうとしたが、悪役会の頭はそのうちの一人の襟首を掴んだ。
「兄貴、す、すす、スイマセン……。荒っぽいとは聞いていたんすけど、まさか連中がチャカ出してくるとは」
「チャカやと?」
「いくら俺らでも、鉄砲持った相手に丸腰じゃ荷が重いですわ」
「撃たれたんか?」
眉をひそめる導次。「そん時、審判は何しとったんや!?」
「ビビって、そ知らぬ振りですわ。レッドカードもイエローカードもナシで」
「何やと──!」
「キャーキャーキャー! ごめんなさいゴメンナサイ!」
 が、一人が頭を抱えながら甲高い声で叫び出すのを聞いて、導次は続く叱責の言葉を飲み込んだ。相手が悪役会のメンバーではなく、今回の一件を持ち込んだ善良な一般市民であるからだった。
「アタシが変な話を持ち込んだからいけないのよ」
 と、涙目になってクネクネと身体を揺すりながら言うのは、立派な体躯をミントグリーンのワンピースを包んだ人物、である。
 名前はマーガレット・イアム・ワラーナン。通称マギー。いわゆるオカマちゃんだが、彼はこう見えても、れっきとしたスポーツ選手でもあった。
「アタシが砂浜で、あの人たちから勝負を挑まれたときに、素直にセパタクローで対戦すれば良かったのよォ」
 ビーズのハンドバッグから、白いハンカチを引っ張り出して目にあてがう。
「人数が多い方がいいし、ルールが分からないって言われたからサッカーにしたんだけど、あの人たちがあんなに卑怯な手を使ってくるなんて」
 導次は、ひとつ深呼吸をし、その隻眼で“善良な一般市民”をひたと見据えた。
「力になってくれてありがとう。でも、アタシ、もう行くわ」
 ぐずぐずと鼻をすすりつつ、オカッパ頭の男(?)は、丁寧にハンカチをしまい、ハンドバッグを手にドアの方へ向かおうとする。
「──待てや」
 導次は、その襟首を後ろからガッと掴んだ。
 ぐえッ、とマギー。
「あんた、どうするんや。このまま諦めるんかい?」
「だって、もうメンバーが集まらないし……」
「だっても、こうもあるかい、阿呆」
オカマを離すものの、その眼光がここに居ろと言う。「もうこれは、あんただけの話やない。ウチの面子の問題や」
「面子?」
 恐る恐る問い直すマギーに、導次は一転、凄みのある笑みを向けてみせた。オカマを逃がさないように、部下に顎をしゃくると、自分は部屋の隅へと向かう。
 退室することもかなわず。マギーはブルブル震えながら悪役会のボスの動きを目で追った。
 導次は、壁際に立てかけてあったものをゆっくりと手に取り、その感触を確かめてから、振り返った。
 彼が手にしたもの。それは銀色に輝く、ゴルフクラブだった。
「ええやろ、これ。8番アイアンや」
 そう言って、ヤクザの親分は、ニイッと笑う。
「あっ、あのっ、ちょっと待ッ……」
 慌てて、手をばたばたさせながら言うマギー。必死の形相である。
「アタシが誘った試合で、悪役会の人たちが大怪我をしたのは申し訳ないと思ってるわ、でもね、でもね。アタシがやりたいのは、純然たるスポーツの試合であって……」
「ゴルフだって、スポーツやろ?」
「やるのは、サッカーよ!」
 マギーは思い切りよく突っ込んだ。
 導次は、フンと鼻を鳴らす。そして、どうしてコイツは物分りが悪いんだと言わんがばかりの目で相手を見るのだった。
「ええか、サッカーでもゴルフでも何でもええんや。だがな、一つだけ分かっとることがある」
 と、息を止め、言う。

「これは戦争や」

 何か言いかけたマギーを無視し、続ける。「ザンギーガ一味だか、なんや知らんが、その砂浜を占拠してる連中と、俺ら銀幕市民との戦争や!」
「せんそー?」
「また、チームメンバーを集めるんや。必要とあれば、俺も加わってやってもええ」
「そんな、アタシもう怖……」
「逃がさんで」
 首を振り降り嫌がるマギーに顔を近づけて、導次。
 手にしたピカピカのゴルフクラブを握り締め、恐ろしげな笑みを浮かべながら、最後に彼はこう言ったのだった。
 ──これを使うと、よく飛ぶんやぞ、と。


***


善良なる銀幕市民の皆さんへ
サッカーの試合に出てみませんか

 日時:6月21日 14:00〜
 場所:星砂海岸 特設コート

 このほど銀幕市に実体化した「世紀末残虐列伝 キャプテン・オブ・ザ・テンペスト」に出演なさっている砂漠の盗賊団「ザンギーガ一味」の皆さんと、サッカーの親善試合をすることになりました。
 星砂海岸に砂嵐と局地的な荒野のムービーハザードを伴っていらっしゃる方々ですが、スポーツで親交を温め、新たな銀幕市のお仲間として歓迎したいと考えております。
 つきましては、このサッカーの試合に参加してくださるチームメンバーを募集いたします。
 みなさんふるってご参加ください。悪役会の方々もすでに数名ご参加の予定です。
 なお、使用できる器具については、下記連絡先までお問い合わせください。

 夏が来る前に、スポーツで気持ちの良い汗を流しましょう!

 連絡先:
 マギー・イアム・ワラーナン
 TEL:××−××××−××××


種別名パーティシナリオ 管理番号598
クリエイター冬城カナエ(wdab2518)
クリエイターコメントみなさん、ご無沙汰しておりました。冬城カナエです。
がっつりと引退宣言した手前、かなり気恥ずかしいものがあったんですが、また活動を再開させていただくことになりました。どうかよろしくお願いいたします。

というわけで、
得意なジャンルからということで、B級ノリなシナリオをご用意いたしました。
近未来バイオレンス映画から実体化した残虐チームと楽しくサッカーの試合をしてみませんか(笑)。

彼らは映画の中で、核戦争後に砂漠化した荒野をバイクやバギーで走り回り、徒党を組んで近隣の村を襲っていました。胸に七つの傷があったり無かったりする主人公(笑)にボコボコにされる悪役たちなんですが、その主人公が実体化していないため、やりたい放題しています。

現在の彼らは星砂海岸を半ば占拠し、その領域を訪れる人たちにゲームを持ちかけ、ゲームとは名ばかりの残虐プレイで相手をズタボロにし身ぐるみを剥いでいます。どうやら映画の中のように人殺しをすると、とっちめられるということを知り、建前上、サッカーなどのゲームの体裁をとることにしているようです。

彼らはリーダーのザンギーガを筆頭に、チェーンソーや火炎瓶、拳銃やマシンガン、ノコギリや包丁などの武器で武装してスポーツの試合に臨みます。
メンバーの約半数が「ゲヘヘヘヘ」と笑い、もう半分は「キヒヒヒヒ」と笑います。

舞台は砂漠の中にある廃墟の街の広場に作られたサッカーコートです。(砂漠化のムービーハザードが起こっています)地面は固いですが、砂嵐が吹き荒れています。観客の皆さんは、地べたに座って試合を見ることになります。

***

どうか善良な一般市民の皆様。騙されて、この試合に参加してみてください。
銀幕市にはたくさんのヒーローがいます。きっと誰かが助けてくれます。
ヒーローが不在でも大丈夫です。殺されはしませんから(笑)。

力ある市民の皆様も、どうぞこの試合にご参加してみてください。
そして新しい銀幕市民たるザンギーガ一味を、心置きなくブチのめ……いやいや、軽く可愛がってあげてやってください(笑)。

初夏の楽しい日々を、市民の皆様へ。

以下の選択肢などから、プレイングを自由にお書きください。

***

【1】マギーとともに試合に参加する
対策課や街角に張ってあったポスターを見たり、マギーや導次に誘われたりなどの理由で、銀幕有志チームに参加します。(騙されて参加もオイシイかもしれません)
相手チームは銃火器等を使用してきますが、銀幕有志チーム側が武器や魔法等の特殊能力を使用すると審判にイエローカードを出されます。(審判も買収されているのです)
武器を使うときは、審判にバレないようにしましょう。

【2】試合には参加しないが観客として銀幕有志チームを応援する
声援や、チアリーディング、狙撃などでチームを応援します。
妨害行為をするときは、審判にバレないように、さりげなくやりましょう。

【3】ザンギーガ一味の一員として試合に参加する
残虐チームの一員として、試合に参加します。
銃火器や武器の類は使いたい放題です。

【4】観客として試合を楽しむ
観客として平和的に試合を楽しみます。流れ弾に注意しつつ、好きなチームを気軽に応援しましょう。

【5】その他
上記に当てはまらない行動も可です。集まっている人たちに対し、飲み物や食べ物を振舞ったり、商売をすることなども可能でしょう。

★なお、試合の勝ち負けについては、みなさんの投票で決めさせていただきます★
 →銀幕有志チームに投票 = ○を1つ、プレイングのどこかに入れる
 →ザンギーガ一味に投票 = ●を1つ、プレイングのどこかに入れる
……上記のような形で投票をお願いします。(1PCにつき、○●いずれか1つだけ)

※また、試合への参加人数が多かった場合、レッドカードによる退場や怪我等によるリタイアが多くなることが予想されます。大人の事情というやつで、ご笑覧いただければ幸いです。

参加者
ベルヴァルド(czse7128) ムービースター 男 59歳 紳士風の悪魔
柊木 芳隆(cmzm6012) ムービースター 男 56歳 警察官
ムジカ・サクラ(ccfr5279) エキストラ 男 36歳 アーティスト
蔡 笙香(caua6059) エキストラ 男 18歳 ジャグラー
朝霞 須美(cnaf4048) ムービーファン 女 17歳 学生
リゲイル・ジブリール(crxf2442) ムービーファン 女 15歳 お嬢様
神龍 命(czrs6525) ムービーファン 女 17歳 見世物小屋・武術使い
クラスメイトP(ctdm8392) ムービースター 男 19歳 逃げ惑う人々
レモン(catc9428) ムービースター 女 10歳 聖なるうさぎ(自称)
梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
クライシス(cppc3478) ムービースター 男 28歳 万事屋
太助(czyt9111) ムービースター 男 10歳 タヌキ少年
キュキュ(cdrv9108) ムービースター 女 17歳 メイド
王様(cvps2406) ムービースター 男 5歳 皇帝ペンギン
昇太郎(cate7178) ムービースター 男 29歳 修羅
スルト・レイゼン(cxxb2109) ムービースター 男 20歳 呪い子
流鏑馬 明日(cdyx1046) ムービーファン 女 19歳 刑事
桑島 平(ceea6332) エキストラ 男 46歳 刑事
ディズ(cpmy1142) ムービースター 男 28歳 トランペッター
玄兎(czah3219) ムービースター 男 16歳 断罪者
神宮寺 剛政(cvbc1342) ムービースター 男 23歳 悪魔の従僕
沢渡 ラクシュミ(cuxe9258) ムービーファン 女 16歳 高校生
吾妻 宗主(cvsn1152) ムービーファン 男 28歳 美大生
フェイファー(cvfh3567) ムービースター 男 28歳 天使
ヴィディス バフィラン(ccnc4541) ムービースター 男 18歳 ギャリック海賊団
サキ(cbyt2676) ムービースター 女 18歳 ヴァイオリン奏者
来栖 香介(cvrz6094) ムービーファン 男 21歳 音楽家
ディーファ・クァイエル(ccmv2892) ムービースター 男 15歳 研究者助手
晦(chzu4569) ムービースター 男 27歳 稲荷神
崎守 敏(cnhn2102) ムービースター 男 14歳 堕ちた魔神
モミジ(cafd6042) ムービースター 男 13歳 妖狐(神社の居候)
サンク・セーズ(cfnc9505) ムービースター 男 28歳 ジャッジメント
エリック・レンツ(ctet6444) ムービーファン 女 24歳 music junkie
サエキ(cyas7129) エキストラ 男 21歳 映研所属の理系大学生
真船 恭一(ccvr4312) ムービーファン 男 42歳 小学校教師
アレグラ(cfep2696) ムービースター 女 6歳 地球侵略軍幹部
ランドルフ・トラウト(cnyy5505) ムービースター 男 33歳 食人鬼
ゲンロク(cpyv1164) ムービースター 男 55歳 ラッパー農家
RD(crtd1423) ムービースター 男 33歳 喰人鬼
風轟(cwbm4459) ムービースター 男 67歳 大天狗
コキーユ・ラマカンタ(cwuy4966) ムービースター 男 21歳 ギャリック海賊団
香玖耶・アリシエート(cndp1220) ムービースター 女 25歳 トラブル・バスター
ルークレイル・ブラック(cvxf4223) ムービースター 男 28歳 ギャリック海賊団
綾賀城 洸(crrx2640) ムービーファン 男 16歳 学生
二階堂 美樹(cuhw6225) ムービーファン 女 24歳 科学捜査官
レオ・ガレジスタ(cbfb6014) ムービースター 男 23歳 機械整備士
槌谷 悟郎(cwyb8654) ムービーファン 男 45歳 カレー屋店主
針上 小瑠璃(cncp3410) エキストラ 女 36歳 鍵師
片山 瑠意(cfzb9537) ムービーファン 男 26歳 歌手/俳優
狩納 京平(cvwx6963) ムービースター 男 28歳 退魔師(探偵)
真山 壱(cdye1764) ムービーファン 男 30歳 手品師 兼 怪盗
夜乃 日黄泉(ceev8569) ムービースター 女 27歳 エージェント
ブラックウッド(cyef3714) ムービースター 男 50歳 吸血鬼の長老格
キスイ(cxzw8554) ムービースター 男 25歳 帽子屋兼情報屋
古森 凛(ccaf4756) ムービースター 男 18歳 諸国を巡る旅の楽師
ギル・バッカス(cwfa8533) ムービースター 男 45歳 傭兵
須哉 逢柝(ctuy7199) ムービーファン 女 17歳 高校生
須哉 久巳(cfty8877) エキストラ 女 36歳 師範
クレイジー・ティーチャー(cynp6783) ムービースター 男 27歳 殺人鬼理科教師
ジャック=オー・ロビン(cxpu4312) ムービースター 男 25歳 切り裂き魔
ティモネ(chzv2725) ムービーファン 女 20歳 薬局の店長
ベルナール(cenm1482) ムービースター 男 21歳 魔術師
ベル(ctfn3642) ムービースター 男 13歳 キメラの魔女狩り
ルウ(cana7787) ムービースター 男 7歳 貧しい村の子供
レイ(cwpv4345) ムービースター 男 28歳 賞金稼ぎ
ジム・オーランド(chtv5098) ムービースター 男 36歳 賞金稼ぎ
シャノン・ヴォルムス(chnc2161) ムービースター 男 24歳 ヴァンパイアハンター
ルイス・キリング(cdur5792) ムービースター 男 29歳 吸血鬼ハンター
清本 橋三(cspb8275) ムービースター 男 40歳 用心棒
アル(cnye9162) ムービースター 男 15歳 始祖となった吸血鬼
ルア(ccun8214) ムービースター 男 15歳 アルの心の闇
浅間 縁(czdc6711) ムービーファン 女 18歳 高校生
神凪 華(cuen3787) ムービーファン 女 27歳 秘書 兼 ボディガード
ソルファ(cyhp6009) ムービースター 男 19歳 気まぐれな助っ人
鷹司 千歳(cmxt9291) エキストラ 女 21歳 教育学部の三回生
ヴァネイシア(cvms3107) ムービースター 女 28歳 皇帝
ロゼッタ・レモンバーム(cacd4274) ムービースター その他 25歳 魔術師
DD(csrb3097) ムービースター 男 24歳 便利屋
旋風の清左(cvuc4893) ムービースター 男 35歳 侠客
フレイド・ギーナ(curu4386) ムービースター 男 51歳 殺人鬼を殺した男
カロン(cysf2566) ムービースター その他 0歳 冥府の渡し守
本気☆狩る仮面 るいーす(cwsm4061) ムービースター 男 29歳 謎の正義のヒーロー
本気☆狩る仮面 あーる(cyrd6650) ムービースター 男 15歳 謎の正義のヒーロー
簪(cwsd9810) ムービースター 男 28歳 簪売り&情報屋
ジョシュア・フォルシウス(cymp2796) エキストラ 男 25歳 俳優
マリエ・ブレンステッド(cwca8431) ムービースター 女 4歳 生きている人形
エズヴァード・ブレンステッド(ctym4605) ムービースター 男 68歳 しがない老人(自称)
岡田 剣之進(cfec1229) ムービースター 男 31歳 浪人
新倉 アオイ(crux5721) ムービーファン 女 16歳 学生
赤城 竜(ceuv3870) ムービーファン 男 50歳 スーツアクター
相原 圭(czwp5987) エキストラ 男 17歳 高校生
チヒロ・サギシマ(cnda6839) ムービースター 女 31歳 ロス市警の刑事
津田 俊介(cpsy5191) ムービースター 男 17歳 超能力者で高校生
クロノ(cudx9012) ムービースター その他 5歳 時間の神さま
シュウ・アルガ(cnzs4879) ムービースター 男 17歳 冒険者・ウィザード
ベアトリクス・ルヴェンガルド(cevb4027) ムービースター 女 8歳 女帝
悠里(cxcu5129) エキストラ 女 20歳 家出娘
岸 昭仁(cyvr8126) ムービーファン 男 22歳 大学生
河野 水漣(chmu9039) ムービースター 男 16歳 学生
秋津 戒斗(ctdu8925) ムービーファン 男 17歳 学生/俳優の卵
七海 遥(crvy7296) ムービーファン 女 16歳 高校生
ファーマ・シスト(cerh7789) ムービースター 女 16歳 魔法薬師
狼牙(ceth5272) ムービースター 女 5歳 学生? ペット?
シュヴァルツ・ワールシュタット(ccmp9164) ムービースター その他 18歳 学生(もどき)
コーター・ソールレット(cmtr4170) ムービースター 男 36歳 西洋甲冑with日本刀
アーネスト・クロイツァー(carn7391) ムービースター 男 18歳 魔術師
皇 香月(cxxz9440) ムービーファン 女 17歳 学生
デゼルト(cvsa1728) ムービースター 男 20歳 滅びの神子
翡翠(cwde8663) ムービースター その他 23歳 夢魔
青宵(cfxu7869) ムービースター 男 22歳 “帽子屋”
成瀬 沙紀(crsd9518) エキストラ 女 7歳 小学生
シルヴァーノ・レグレンツィ(chwr6413) ムービースター 男 21歳 殺し屋
セバスチャン・スワンボート(cbdt8253) ムービースター 男 30歳 ひよっこ歴史学者
ノリン提督(ccaz7554) ムービースター その他 8歳 ノリの妖精
ユージン・ウォン(ctzx9881) ムービースター 男 43歳 黒社会組織の幹部
シキ・トーダ(csfa5150) ムービースター 男 34歳 ギャリック海賊団
ヘンリー・ローズウッド(cxce4020) ムービースター 男 26歳 紳士強盗
<ノベル>

 ──通報を受けたんだよ、ああ。そう。星砂海岸でなんだかデカい戦争がおっぱじまるらしいってな。だから俺はよ、現場に駆けつけたわけなんだ、が! ……それは、戦争じゃなくて、サッカー大会だったんだよ。(証言者:桑島 平、エキストラ 男 45歳 刑事)


 銀幕市にも梅雨がやってきていた。
 だが、この街の中で今日。一箇所だけ、なぜか雨の降らない場所があった。
 星砂海岸である。
 そこには、カラカラに乾いた砂風が吹き荒れていた。砂の上に立てば、海と銀幕市の沿岸を一望できたはずなのに、その風景がいつも違っていた。
 砂浜が広すぎるのだ。
 海水浴場として賑わうことになるそこの一角には、廃墟のような背の低いビルが立ち並んでいる。それはいずれも廃墟のようで、ゴーストタウンのような佇まいを見せていた。砂嵐がコンクリートの壁を舐め、道を歩く人々の服を吹き飛ばさんがばかりに荒れ狂っている。
 入口には、針金や鉄パイプでつくられた門のようなアーチがあり、『ギベット・シティ』と赤いペンキで書かれている。絞首台の街、という意味である。
 この星砂海岸を訪れた者たちは、それを見て首をかしげるのだ。
 ──はて、あれもムービーハザードの一種か、と。

「……?」
 岸昭仁とシュウ・アルガも、足を止めていた。彼らは、海辺の中華料理屋にランチを食べにきたのだったが、当の店が臨時休業中で。仕方なしに、彼らは海岸をぶらついていたのだった。
 ふと昭仁は、桜色のワンピースを着た人物がアーチの下に立っているのを見つける。
「あれ、シュウのトモダチじゃね?」
 言われて、シュウがその人物を見る。……と、相手も顔を上げた。それはオカッパ頭の、女かと思ったらそうではなく──。
「──ゲッ!」
「シュウ!」
 かの人物はマギーだった。シュウとは旧知の仲である。まずい、とUターンする間もなく、オカマは二人に間合いを詰めていた。……砂埃を巻き上げて。
「ひどいのよ、うわぁぁん。聞いてちょうだい」
 素早く二人の手を掴み、腕を引き寄せ、その厚い胸板でがっしりと抱擁しながら。マギーは、えぐえぐと泣き出す。
「ギェェェ、苦しい……」
「マギーじゃねえか。ど、どど、どうしたんだよ。いきなり。な、何かあったのか? 落ち着けよ。話聞いてやっからさ」
「あのね、あのね、ひどいの。聞いてちょうだい……」
 マギーは、二人の少年の身体をようやく離し、昭仁の手を握る。反射的に彼はシュウの腕を掴んだ。そのまま嗚咽を漏らすオカマは二人の少年を廃墟の街の中へと連れていく。
「おや、マギーさんじゃないですか、どうしたんですか」
 そんな三人の前に、ぬっと大きな影が進み出た。食人鬼のランドルフ・トラウトだ。
「ドルフ!」
 マギーは、涙ながらに彼の手も掴んだ。
「──ドルフか、どうした?」
 そんな慌てた大男の姿が目立ったのか、後ろから声を掛けたものが居た。
 振り返るランドルフ。そこに立っていたのはヴァンパイア・ハンター、シャノン・ヴォルムスだった。
「シャノン!」
 マギーは、やはり歓喜の声を上げた。シャノンは、ウッと一瞬ひきつったような顔をしたが、次の瞬間にはオカマに手を掴まれていた。
 えぐえぐと泣きながら、マギーは、そのまま4人を街の奥へと連れていく。

 そして、約3分後。
 5人は真新しいユニフォームを着て、サッカーグラウンドらしき場所に並んで立っていた。

「ええーっ!? 何コレ? ぜんぜん話聞いてないんだけど?」
 いきなりの展開に、昭仁は自分のユニフォームを引っ張りながら周りを見回す。
 砂地のグラウンドだった。他にも見知った顔が何人か、ユニフォームを着てキャッキャッとはしゃいでいるし、グラウンドの脇では観客らしき人々も集まってきていて続々と席が出来ている。
 呆然とする彼の肩を、誰かが後ろからポンと叩いた。
「やはり銀幕市といえば、シルバー。それにブラックとホワイトを合わせてみた。派手すぎず、でも自己主張は忘れないようにね。吸汗性と通気性も抜群だぞ」
 振り返る。そこには派手な帽子を被った男がニコニコと立っていた。“仕立て屋のヴィディー”こと、ギャリック海賊団のヴィディス・バフィランだった。
 どうも、このユニフォームは彼がデザインしたらしい。えらく得意げだ。実のところ、ヴィディスはこのユニフォームで海賊団の生活費を稼ぐつもりだった。
 はあ、そうですか。と相槌を打っていたら、相方のシュウの姿がいつの間にか消えていた。
「いい試合になりそうだな、坊主」
 キョロキョロと相方を探す昭仁に、下から声を掛けたのは服を着たペンギンだった。身長1メートルちょっとのコウテイペンギンの王様だ。同じユニフォームを粋に着こなし、肩をすくめてみせる。
「この街でこんなに大きなサッカー大会が開かれるとはな。サッカー映画出身の俺としては、黙ってられねえぜ」
 と、小さな手(羽根?)で、グラウンドを指しながら言う。無論、ヤル気満々だ。
 昭仁は、ようやく理解した。これからサッカー大会が始まるらしい、と。

「へええ。いいなあ、サッカーか」
 ペンギンの隣りを通り過ぎながら、クラスメイトPは辺りを見回しながら、期待に胸を膨らませた。最近何かと不穏な事件が多かったからな、と、岡持ちを手に、ラーメンを注文した人物を探す。
 居た。縦縞のスーツを着た竹川導次が、グラウンドに仁王立ちしている。
「導次さん、九十九軒ですー」
 声を掛けると、ヤクザの親分は振り返った。
 いつもありがとうござ……と言い掛けたとき、導次は満面の笑みを浮かべ、クラスメイトPの肩に手を置いた。もう片方の手にはなぜか、ピカピカに光る銀色のゴルフクラブがある。
「ええところに来たな、ワレ。最高のタイミングやぞ」
「はい。今日は奇跡的に、ラーメンも伸びずにすみました」
「ラーメンのこっちゃない、お前のことや。実はな、メンバーがな……」

「サッカーの試合か、懐かしいなあ。……実は、学生の頃、サッカー部でね」
 グラウンドを見やりながら、槌谷悟郎が呟く。彼はカレー屋であり、クラスメイトPと同じように、この会場に出前を届けにきたのだった。
「あら、そうなの。へええ」
 背後に気配を感じ、振り返ると。マギーが立っていた。
 実は、メンバーがね、足りなくってね……。そんなことを言いながら、彼はどこからともなくユニフォームを取り出し、悟郎の身体にあてがっている。
「あ、あの。えと、わたしはそういうんじゃなくて」
 相手は聞く耳を持ってくれなかった。そして数分後。彼もあれよあれよという間に、グラウンドに並んで立たされていた。
 今さら、実はサッカー部の“マネージャー”だった、とは言えなかった。

 砂嵐の吹き荒れるグラウンドに、続々と人が集まりつつあった。
 ポスターを見て、久々に思い切り体を動かせそうだと、参加を決めた秋津戒斗や、師弟で参加することにした須哉逢柝と久巳の二人もいる。チームに参加することになったクラスメイトPは親友の梛織がいるのを見つけて喜んだ。
 フェイファーが、同居人の吾妻宗主にサッカーのルールを聞いている横で、来栖香介が、手を使わなけりゃ何してもいいスポーツだよ、と茶々を入れている。
 それでもまだメンバーが足りないのか。マギーが、通りすがりや観客の中からせっせとメンバーを集めている。見ているそばから、DDとセバスチャン・スワンボートの手を引っ張り、フィールドに連れ込んでいた。
 それはそれなりに平和な風景だった。──相手チームが姿を見せるまでは。


 ──え? 試合じゃなくて“死合い”だったんでしょう? 雑魚相手じゃなく、強敵であるムービースターの皆さんとスポーツという大義名分の下に死合えるなんて。実に愉快な催しでしたよ。(証言者:キスイ、ムービースター 男 25歳 帽子屋兼情報屋)


 突然、ドォォン、ドォォン、とドラの音が鳴り響いた。
 マギーに手をしっかりと捕まれ、捕獲されそうになっていた神宮寺剛政は、その音の大きさに眉をしかめた。
「……っるせえな、聞こえないじゃねえか。サッカーの試合で、それで、なんだって?」
 振り返ると、グラウンドの向こうに砂煙が立ち上っている。目を凝らした時、ブルゥン! と勢い良くエンジン音をさせて、二台のバイクが飛び出した。
 地面に着地し、ぐるぐるとグラウンドを走り回る。車上の赤いモヒカンと、青いモヒカンがヒャハハハと狂ったように奇声を上げている。
 やがて砂嵐が収まると、革ジャン姿の男たちが横一列に並んでいた。
 ザッザッ、とこちらに向かって歩き出す。
 その手には、チェーン・ソー。マシンガンにノコギリ。刀の背で自分の肩をトントンやってる者もいれば、手にしたダイナマイトらしきものにライターで火を付けている者までいる。
「え、演出?」
 ぽかーん、と、普通にサッカーをしに来た戒斗は相手チームの様子に面食らう。どーせ暇だったしまぁいいか、とユニフォームに首を通していたDDは、相手の様子にブッと吹き出した。
「えええ! ちょっと何アレ、これサッカーでしょ!」
 思わず梛織が声を上げている横で、やはりな、と神妙な顔で桑島平がかぶりを振る。刑事の彼は、一般市民からの通報により現場に急行したのだった。
「やっぱりデカい喧嘩があるってのは本当だったんだ──って、オオオィッ!」 
 桑島は相手チームの面子の中に、いるはずの無い人物の姿を見つけて目を剥いた。革ジャン姿の男たちと並んで野球バットを手に立っているのは、相棒の女刑事、流鏑馬明日ではないか。
「お前、刑事だろ、なんでそっちにいんのー!?」
 明日は、辺りを見回し、ちょっと恥ずかしそうにバットを背中に隠しそっぽを向いた。
「これは試合よ、桑島さん。貴方は敵チームのようだけど、試合だと割り切りましょう?」
 ……どうやら、入るチームを間違えたらしい。

 ドォォォン、ともう一度、ドラが鳴らされた。そして、砂嵐の向こう側から、ズン、ズン、と足音を鳴り響かせて、ひと回り大きな影がグラウンドに姿を現した。
 ギーガ様、と革ジャンの男が口を開く。その声に、現われた巨漢は手を挙げて答えた。手にした鎖がジャラジャラと音を立てる。筋肉質の四肢に、頭を半分剃って、残った紫色の髪を逆立てている。耳の上には“ZG”という刺青を、口には嫌な笑いをへばりつかせている。
「ゲヘヘヘ。こんなに集まるとはなァ。最高の気分だぜ」
この男が一味の首領、ザンギーガだった。「ゲームだったら合法的に人殺しができるからなァ……って、いけねェや。つい口が滑っちまった」
 言いながら、自分の足元にいる手下二人の頭を両手でがしりと掴む。頭を掴まれた男たちは、恐怖の表情を浮かべて言った。
 あ、あのギーガ様が、お喜びになっているぞ……! と。

「わーお。どう見ても悪役だよ、ウチのキャプテン。参加するチーム間違えちゃったみたい☆」
 震え上がる手下たちの中で、一人明るい声をあげているのはルイス・キリング。手にはちゃっかりマシンガンが握られている。銀幕有志チームに加わったアルは、その姿を見て大きく溜息を付き、ルアの方は面白がってニヤニヤ見ている。その目は獲物を狙う肉食動物のそれ、だ。
「……」
 ルイスの隣で、アラビアン風のマスクをしたウサギは何も言えず、まごまごしている。顔を隠しているがウサギという時点でレモンだとバレバレだ。
「でも、やるからには全力を尽くしませんと」
 自チームのキャプテンの姿にも眉一つ動かさず。キスイは冷たい笑みを浮かべ、楽しそうだ。悪魔紳士たるベルヴァルドも、無言でその言葉にうなづく。ザンギーガチームにはユニフォームは無いようで、二人ともいつもの扮装である。
 ムジカ・サクラと蔡笙香も、嬉々として銃器の調子を確かめており、エリック・レンツはヘッドフォンを耳に音楽聴き続けながら足でリズムを取っている。海賊のコキーユ・ラマカンタは、一味の手下の笑い方を、ひひひと真似して面白がり、金で雇われた傭兵のギル・バッカスと、侠客たる旋風の清左は、それぞれ目を細めて辺りの様子を伺っていた。イタリア人の殺し屋シルヴァーノ・レグレンツィは、ただ肩をすくめている。
 喰人鬼のRDはフィールドにどっかと座り込んでいる。こちらに加わった方が何かと都合が良いと判断したのだが、その判断は正しかったようだ。何しろ、彼はザンギーガ一味に加わっていても全く違和感が無かった。

「ひょいっと」
 突然、銀幕チーム側にいた玄兎が、ぴょんと飛び跳ねるようにザンギーガ一味の輪の中に入った。一緒にいた晦が驚いて、彼を見る。
「え? クロ?」
「ごっめ〜ん、つごっち。オレこっち側になるね。武器使えるし、こっちの方が面白そう」
 そのあまりにも、あまりな論理に、晦は呆然とした。
「われに連れて来られた、わしの立場はどうなるんや……」

「てか、あんた、なんでそっちに居るんだよ!」
 銀幕チームにいた須哉逢柝は、大声を上げた。一緒に試合に参加するはずだった師匠の須哉久巳が、なぜか反対側に並んでいたからだった。久巳は、にこっと気持ちの良い笑顔で、こっちの方が面白そうだから、と返す。
「だよな、堂々と暴れられる方が楽しいもんなァ?」
「お咎めなしで大暴れできる機会なんかそうそうナイって」
 日本刀を腰に差したままの狩納京平が久巳に同意し笑う。万事屋のクライシスも手にレンタルした拳銃を持ち、さわやかな笑顔だ。
「ねえ、あれ梛織のお姑さんじゃないの?」
 それを見つけ、クラスメイトPがぽつり。梛織は怒ったように、他人です! と返した。

 ピーッと、ホイッスルの音が鳴って。
 銀幕チームの面々も、グラウンドに勢揃いする。恐ろしげなザンギーガ一味に対して、ヒーローたちは少し迫力不足とも言えた。
 ランドルフのような大柄な男性陣はともかくとして。
 ははは、と苦笑している浅間縁に、はりきって準備運動をする沢渡ラクシュミの二人は女子高生だし、太助は狸だし、王様はペンギンだし。モミジは本当は妖狐で、ベルも本当は人体改造を受けた身だが、二人とも見た目は少年だし。キュキュは触手付きだがメイドだし、アレグラはガスマスクを被っているが小さな女の子だ。
 サッカーならガッコでやったことあるぜ! と喜んでいる狼牙は、喋れるけども、犬だし。所在無さげにつっ立っているセバスチャン・スワンボートは、ボサボサ頭で、どう見てもスポーツが得意そうには見えない。
 ぽりぽりと頭を掻いている片山瑠意は、見た感じは一般人だし。髪を纏め、魔術用の杖を持たないベルナールは、気のいいお兄さんにしか見えない。動く鎧のコーターに至っては、まるで器物だ。
 と、言うか、そもそも彼らの手には武器は無かった。


 ──って、いうかサッカーってイケメンのスポーツだと思うのよ。だから私、マネージャーになってもいいかなって思ったのよ。なのに、あの連中ときたら、どうして美形じゃなくて筋肉ダルマなのよ! (証言者:二階堂 美樹、ムービーファン 女 24歳 科学捜査官)


 フレイド・ギーナは、ホイッスルを手に、ごくりと唾を飲み込んでいた。
 彼の目の前にはザンギーガをキャプテンとするチームと、マギーをキャプテンとするチームのメンバーが横一列に並んでいる。この光景をこのアングルで見られるのは、審判だけ。
 そう、彼は審判。それも主審だった。
 金に困っていた彼は、充分すぎる額を手渡され満足していた。ただし、それは先ほどまでの話だ。スポーツの審判ぐらいなら安全だと思っていたのだが、それはどうやら──甘かったらしい。
「ちょ、ちょっと。ねえ、審判さん、武器持ってる人たちが沢山いるんだけど!」
 フレイドは、びくっと声を上げた相手を見る。セバスチャン・スワンボートが、そわそわしながら手を挙げている。彼の視線の先は、ザンギーガ一味が手にしたものに注がれている。
「あ、ああ。あれは武器では……」
「──これは武器じゃねえよ、どこ見てんだタコ!」
弁解しかけたフレイドの横から、チェーンソーを持った男がぬっと首を突き出す。「これは身体の一部だ。俺様は3才の頃からこいつと一緒に過ごしてきた。こいつは俺様の3本目の手なんだよ!」
 ひっ、とセバスチャンが息を呑む。
「なら、審判どの。拙者の刀も同じだな。これは武士の魂であり体の一部だ」
 それなら、と武士の岡田剣之進が口を出す。
 対するフレイドは首を振った。
「馬鹿言っちゃ駄目だろう刀が身体の一部になるわけが、ない」
「何だと!?」
 その言いように剣之進が声を荒げる。
「……まァ、いいじゃねえか許してやれよ、審判さんよォ。ゲヘヘヘ」
 フレイドの上に黒い影が差し、大きな手が彼の両肩にどさっと置かれた。ザンギーガだった。そのまま彼は、腰を折って顔を武士に近づける。
「あとでゆっくり切り刻んでやるからなァ、楽しみにしてろよ、チョンマゲ野郎」
 剣之進は、臆することなく、キッと鋭い視線を返す。
 ──生きて帰れますように、生きて帰れますように。フレイドは心の中で祈りをささげていた。

「まさか、乗ったままグラウンドを走り回るなんて……」
 サッカーの試合だと思ったのに、と、がっくり肩を落とすのはレオ・ガレジスタ。彼はザンギーガに雇われ、銃火器やマシンの整備を行ったのだが、目の前の光景は予想外のものだった。
「連中、たぶんそのまま試合にも使うわよ。あなたのバイク」
 隣りに立つ二階堂美樹は、買ってきたペットボトルを並べながら汗をぬぐう。彼女の方は、マネージャーである。レオも彼女も、ザンギーガ一味のことをよく知らないで、うっかり仕事を引き受けてしまったクチである。
「機械に罪は無いのに……」
「何よ、このパシリみたいな扱いは」
 二人は顔を見合わせる。そしてレオは待機中のバイクを。美樹は、今並べたばかりのペットボトルをじっと見つめる……。
 その後ろには真山壱が立っていた。彼は、どういうわけかザンギーガ一味の監督というポジションにおさまっていた。彼の場合は、うっかり引き受けたというわけではなさそうだった。
 腕組みをして、グラウンドを見渡している彼は、これといった表情を浮かべておらず、何を考えているのかを伺い知ることはできなかった。

 出場者の何人かは、この頃になってようやく、これが“普通の”サッカーの試合ではないことに気付いていた。
「サッカーとは武装してやるものなのか?」
 と、つぶやくベルナールに、アレグラがよく分かっていない様子で元気良く、そうだ! と答えている。異世界出身者と、地球外生命体の会話である。
「まァ要するにボールを、あのゴールに入れればいいんだよねェ」
ワクワクしたように、チャイナ娘の神龍命が目の前に並ぶ一味に向かって言い放つ。「あ、そーそ! 加減できなくて、ぶっ飛ばしちゃったらゴメ〜ン。ボクの拳と脚は、釘バットよりも痛いかもよォ?」
 う、と目の合った男が引いている。命の悪気の無い笑顔が逆に恐ろしかったらしい。
「んー。なら武器は駄目でも、防具はオッケイだろ」
 と、そこで姿を消していたシュウが現われ、チームメンバーにミサンガを配り始めた。“物理攻撃半減”の魔法が込められたマジックアイテムだ。
「わたくし、サッカーというもののルールを存じておりませんけれど……。なかなか過激なスポーツのようですわね」
ファーマ・シストも何かワクワクした様子で、手にした注射器を構えている。「体力に自信の無い方には“マッチョさんβ”がオススメですわ。一瞬でたくましくなれますわよ?」
 が、誰も立候補する者はいなかった。
 崎守敏は、ボールが入用になったら、と。崎守印『B』と刻印されたボールを手にしている。これは魔道具の一種で刺しても壊れないのが自慢の逸品だ。彼はフィールドの脇で砂漠対応のスパイクやボールなどのグッズショップまで開いて商売にいそしんでいた。

「あー、そんなわけで、ザンギーガチームと、銀幕ドリームチームの対戦の始まりやぁ。死人が出ても試合続行、問答無用のデスマッチや!」
 マイクを握り締めたサンク・セーズが叫ぶ。彼はリポーターがいないのを見てありえへん! と勝手に実況中継を始めていたのだ。途端に、キャーとかワーとかいう声が観客席から上がり始めた。
 ドリームチームと勝手に名付けられたものの、一応キャプテンを務めるマギーが、軽く手を挙げると、歓声が沸き起こり、場は大盛り上がりの様相を呈していた。
「……うう、早く終わってしまえ」
 その歓声の中心に立ち、両選手を見渡していた審判のフレイドは、ホイッスルを咥えた。
 そして前触れもなく、いきなり吹いた。
 ピー。唐突に吹かれた笛の音は、歓声にかき消され、ほとんど誰も聞いていなかった。
 ──ゴォッ!
 が、一陣の風が吹き抜けた。銀幕チームの、河童少年こと河野水漣がいきなりボールを蹴ったのだった。ボールは唸りを上げ、風とともにザンギーガチームのゴールネットに突き刺さっていた。
 

 ──きゃぁ〜♪ ザンギーガ一味の皆さんと銀幕市の皆さんのサッカーの試合が見られるなんて素敵! もう夢みたいな組み合わせでしたねっ。試合が終わった後にサインも貰っちゃいました。ZGって。(証言者:七海 遥、ムービーファン 女 16歳 高校生)


 いきなり決まったシュートに、観客席がワァッと沸いた。
「先行点だ!」
 赤城竜は、自作の大きな旗を振り振り、大声を張り上げた。頭には「勝利」背中には「祭」と書かれた鉢巻とハッピ姿で、観客席の一番前に陣取り、暑苦しい応援を繰り広げている。
 のんびりレジャーシートを広げていた真船恭一も、お、始まったな、とばかりにいそいそと座り込む。キャッキャッとはしゃいでいる悠里とベアトリクス・ルヴェンガルドの二人の少女を目にすると、ご一緒にいかがですかと誘った。
「すごいすごい〜」
 二人の少女は手作りのおにぎりや弁当に目を輝かせ、試合に弁当に大忙しだ。
「えー、なんかあの相手方のチームの人たち、怖そう」
 これ、サッカーの試合なの? と、隣り合わせた成瀬沙紀と鷹司千歳が顔を見合わせる。とくに千歳は彼氏のサエキがゲームに関わると聞いて心配顔だ。
「どんなスゴイ技が出るのか楽しみですねー」
 その横で、七海遥が笑顔で言う。さすがムービーファンというべきか、彼女はザンギーガ一味の出ている映画を予習してこの現場に駆けつけていた。どんな反則行為──彼女にとってはアトラクションの一つだ──が出るのかと、わくわくしながらグラウンドに目を注いでいる。
 と、その彼女たち三人の前に、男子高校生がひょいと顔を出し、新品のタオルや応援グッズを手渡していく。相原圭だった。
「サッカーは、前半と後半の45分で、計90分のゲームになるんだ」
 少女たちが、へええと頷くのに満足し、自分のハンカチを使って彼女たちの席を作ってやろうとしている。

 その前をスルト・レイゼンと、昇太郎のコンビが通過する。彼らは観客の間を縫って歩き、胡麻団子を売りさばいている。簪はその後ろをちゃっかり付いて歩き、烏龍茶などの飲み物を売っている。便乗商売というやつだ。
 猫のクロノは、こっちにもジュースあるですにゃ、と飲み物販売に精を出し、農家ラッパーのゲンロクは、生でも食べられる冷やしトマトときゅうりを、差し入れと称して皆に配っていた。ちゃんとザンギーガ一味の者にまで配っていたが、虫食いを指摘されると、無農薬の証っつーのが分からねえのか! とドチ切れている。
「銀幕チームが優勢だ、さあ、あと1分で締め切るよッ!」
 ギャンブル好きの女刑事、チヒロ・サギシマは札束を片手に声を張り上げた。彼女はこのゲームでどちらが勝つかというサッカー賭博を自ら盛り立てていた。自分は胴元である。
「──賭けるなら、海賊のオッズの方が有利だよ。さあさあ賭けた賭けた!」
 同じようなことを考える者は多いようで、ギャリック海賊団のルークレイル・ブラックとシキ・トーダもそれぞれ自分が胴元となって、賭け事に回りを巻き込んでいた。
 観客席は観客席で、ゲームそっちのけで盛り上がる者たちも、ちらほらと言った具合だ。

「いくわよ、みんな!」
 試合が始まったのを見て、夜乃日黄泉が振り返り声を上げる。うなづくのは4人の少女たちだ。手にはポンポンを持ち、ミニスカートにタンクトップ。この試合のために結成されたチア・ガールズだった。
 久しぶりに満面の笑顔を見せているリゲイル・ジブリールに、彼女に強引に誘われた朝霞須美はスカートの短さが気になるようでソワソワとしている。隣りにいるのは新倉アオイで、何やら不敵な笑みを浮かべていた。
 一番端にいたのは綾賀城洸で。あれ君、男の子じゃないの? とのツッコミをよそに、ミニスカート姿である。が、恐ろしいことに全く違和感が無かった。
「それ、G・I・N・M・A・K・U! 銀幕!」
 日黄泉のリードで、5人はポンポンを手に華やかにチア・ダンスを披露し始める。 脇で、ソルファが尻尾を振りこっそり加わっていたりしたが、即席とはいえ、彼女たちの陣形は巧みで一目を引くものだった。
 いいなあ、ああいうの。と、まだ小学生の成瀬沙紀がうっとり見つめる。そして試合そっちのけで、チアガールズに見とれている男性陣もちらほら。例えば、セバスチャン・スワンボートなどは、須美の姿を見て呆けたように突っ立っている。
 バッ。最後に5人は後ろを向いた。見せたホットパンツの尻には、GINMAKUのアルファベットが眩しく一列に並ぶ。
 そして内外から、うおぉーっと、妙なテンションの歓声が上がった。

「来たァッ」
 観客席からいきなりすっくと立ち上がったのはディズだった。手には愛用の青いトランペット、ブルーノ。熱気につられた彼は、トランペットを掲げて勇ましいマーチを吹き始めた。その音色が歓声とデュエットし始める。階段を登るように、どんどん高まっていくテンション。
 ああ、あいつらも一緒に連れてくりゃ良かった。と、バンドのメンバーたちのことを嘆いたとき、ディズの演奏に澄んだ音色が加わった。
 細く、しかし張りのある音だった。振り向けば、古森凛が笑顔で笛を吹き鳴らしている。ミュージシャン同士、目で会話する二人。トランペットと笛の、不思議なセッションが始まった。
 ディズは会場の皆を興奮させ熱気は早くも最高潮に。凛はその特殊な力で銀幕チームの体力を増強させていった。
「ボクも加わるアルよ〜!」
 そこで何か不吉な声がしたのは、きっと二人の気のせい、である。


 ──まあ、私も銀幕市民だしね。ぶっちゃけ、何があったって、そうそうビビらないって。始めの方はちょっとヤバいかなって思ったけど。(証言者:浅間 縁、ムービーファン 女 18歳 高校生)


「何してんだボケェーッ!」
 ザンギーガが吼えた。近場にいた手下の頭をむんずと掴むと、ゴールキーパーに向かって投げつける! 悲鳴とともに自ゴールにシュートが決まった。──それはボールでは無かったが。
 それが、ようやく試合開始の合図になった。
 ゴガッ。いい音をさせてエリック・レンツのパンチが隣りの男の顔にめり込んだ。
「ええーっ、ちょっと何してんの!?」
 近場にいた審判のフレイドが慌てて止めようとする。
「聴こえねえよ、バァァーカ!!」
 が、彼女は笑いながら鼻血まみれの男をブン殴っている。ヘッドフォンの音楽で外界の音は全てシャットダウンだ。人間らしい思考もシャットダウンらしい。
 慌てて、フレイドが彼女にレッドカードを出していると、また別の笑い声がフィールド上に響く。振り向いた彼の頬をかすめるのは銃弾だ。
「ヒャヒャ、こりゃ面白れェー」
「たまには大っぴらに重火器を乱射してみるのも楽しいデスネー?」
 ムジカ・サクラと蔡笙香だった。手にはごついアサルトライフルを持ち、しっかり腰溜めに構え周囲に弾をばら撒いている。二人は背中合わせで──ということは敵味方無差別に、ひたすら撃ちまくった。
 河野水漣は、おっとと、などと言いながら身軽にそれをかわす。その横で、ひゃぁぁ! と可愛い悲鳴を上げながらモミジが逃げ回っている。
「こっちは味方よ、何してんのよ!」
 同じように撃たれそうになり、怒ったレモンが声を荒げると、二人は声をハモらせて答えた。──だって、面白いんだもん! と。

「すっげえ、マジで? 超楽しそー!!」
 玄兎は、いきなり始まった乱戦に大興奮である。トレードマークの釘バットを構え、我も加わらんとばかりに走り出した。そのまま敵味方構わずに、無差別攻撃の始まりである。ふるったバットが味方の後頭部にヒット! ギャァァアと悲鳴が上がった。
「ボ、ボールは、どこに……ってぇっ、ひぇぇぇ!」
 哀れ、真面目にサッカーをやろうとしていた槌谷悟郎は、この展開に全く追いついていなかった。いきなり目前に迫った釘バットに目を剥いた。
 ブゥン! ホームランかと思いきや、玄兎のバットは空を切った。悟郎は、すんでのところで地面に伏せて、攻撃をよけたのだが……。
「痛たたッ、腰が──」
 命は助かったが、どうも腰をやられたらしい。自爆である。
 
 コロコロ……と、主役のはずのボールが目の前に転がってきた。
 あ、蹴らなくちゃ。流鏑馬明日は慌てて走りだした。勢いをつけてボールを思いきり蹴る。銀幕チームのゴールを狙った……つもりだったのだが、そのボールは左にそれた。そのまま大きな男の後頭部に──。
「あ」
 ボフッ。振り返った男の顔面にボールがめり込んだ。一瞬の間の後、落ちるボール。それはキャプテンのザンギーガであった。
「ムガァァッ!!」
 怒ったザンギーガがボールを蹴り返そうとすると、彼の足元を素早く影が駆け抜ける者がいた。ペンギンの、王様だった。
「へへへっ、いただき!」
 サッカー映画出身の面目躍如か、彼は華麗な身のこなしでボールを奪っていく。ザンギーガはまるでゴリラのように悔しそうなうめき声を上げると、手にした鎖を振り回しながら、もう一度、明日に視線を戻した。
「このクソアマ! どこに向かって蹴ってんだ!」
「待たれい!」
 サッと明日を庇おうとするように、彼女の前に進み出たのは剣之進だ。刀の柄に手をかけてザンギーガを睨む。
「どけ! チョンマゲ野郎!」
 鎖が唸りを上げて剣之進に襲い掛かった。キンッ。澄んだ音の後に地面に落ちるは鎖の切れ端。抜刀した剣之進は、刀を返し上段に構える。
 もう一撃、ザンギーガが鎖を放つ。それが剣之進の刀に絡みついた。武士は刀を引くが鎖が手にも絡みつき、血がにじみ出す。
「今だ! 殺れッ!」
 次の瞬間、周りにいた一味の手下たちが、一斉に彼に向かってマシンガンを向けた。むっ、と剣之進は退路を探すが、明日とともに見事に囲まれていた。
「しまっ……」
 身体を強張らせた二人だったが、銃声ではない轟音がフィールドに響いた。
 ハッと辺りを見回せば、手下たちが地面に倒れていた。なぜか服が焦げている。突然、砂嵐の中から雷が走り、彼らを直撃したのだった。
「──あァ、しまった。間違えた」
 手の中に残った呪符の燃えかすを見つめ、つぶやくのは狩納京平である。先ほどの雷(イカヅチ)は彼の呪符の効果だった。
 彼は頭を掻いてみせながら、「うっかり味方に当てちまったぜ。悪りぃ悪りぃ」
「テメェ、わざとやっただろ!」
 倒れていた男が一人、焦げたマシンガンを捨て、懐からナイフを抜き放った。京平を睨みつけ、飛びかかろうとばかりに地を蹴る。
 グンッ。が、彼は何かにつまづいたように、前のめりに派手にすっ転んだ。そのまま静かになる。
 倒れた男の後ろにシルヴァーノ・レグレンツィが立っていた。さも無関係そうにしているが、ワイヤーを使ってこの男を転ばせたのは彼だった。
 京平とシルヴァーノが、目線を合わせニヤリと笑う。──彼らはザンギーガ一味に加わりつつも、さりげなく彼らを妨害することを選んだのだった。

 一方、王様は敵チームのゴールに迫っていた。ゴールキーパーは交代したRDだ。彼は鬼状態になってゴール前にあぐらをかいて座って、余裕綽々という態度である。
「テメエらにサッカーってものを教えてヤルぜ!!」
 決め台詞とともに放ったシュートが、ゴールに襲い掛かった。猛烈な回転のかかったボールは、王様の能力で、いつのまにか氷球に変わっていた。
「──しゃらくせぇ!!」
 このまま受けると痛そうだと気付き、RDは素早く立ち上がり、ボールを殴るように跳ね返した。正拳突きである。
 ボールは、そのままゴール前にいたDFの男二人を巻き込んで跳ね飛ばした。
「なんのっ!」
 ギャアアという悲鳴を聞きながら、王様はうまく威力の落ちたボールをさらにシュートしようとする。
 が、側面からの殺気を受けてペンギンはサッと身を退いた。もう一秒遅かったら、キスイの放った氷の矢が彼を串刺しにしていただろう。ニィっと笑うキスイ。
「氷の技なら、負けませんよ?」

「ギル、あんたの出番だよ!」
 腕組みをしたままの須哉克己が声を上げる。傭兵は、おう、と声を上げて肩にかついだ大槍でボールをぐさりと突き刺した。
 そのまま大槍を振り回しながら、銀幕チームのゴールに向かって猛然と走り出す。
「──もはや蹴ってすらいねぇし!」
「手は使ってないってか!?」
 ツッコみながらも、身軽に攻撃をかわす梛織。彼の後ろには拳法の構えをとった少女、須哉逢柝が控えていた。喰らえ! とばかりに傭兵の足を狙って足払いを繰り出した。
「チッ!」
 ギルは大槍を振るったが、それは小柄な逢柝の身体をかすめただけだった。ついでにボールが外れ転がっていく。
 逢柝は地面に両手を突いて、宙返りをして着地すると、ボールを蹴った。狙いは──彼女の師匠、克己の顔面だ。どさくさにまぎれてやっちまおうという魂胆であり、まさに日頃の恨みが詰まった一撃だ。
 しかし、ニヤと笑った克己は悔しいほどに楽々と。流れるように腕を回しボールを手で掴み取る。……ハンド、だ。
 そこでようやく、ピーッ、と審判の笛が鳴った。
「君何してんの。今、明らかに人の頭狙ったでしょ」
 駆け寄ってきた審判は、ハンドをした克己ではなく、逢柝を唾を飛ばしながら叱責した。
「ボールは人の頭狙うもんじゃないの。狙うのはあそこ、ゴール! 分かった?」
 その言葉はえらく白々しい。
「……というわけで、君、レッドカードで退場ね」


 ──す、すいませんでした。あのチア・リーディングが、その素敵というか何と言うか。うっかり見とれちゃって、その。観客席に流れ弾とか飛んできたのを、ちょっと防ぎきれなかったっていうか。(証言者:津田俊介、ムービースター 男 17歳 超能力者で高校生)


 えええ! と驚く逢柝に、観客席からブーイングが起こっていた。しかし審判はそれを平然と無視し、ゲームは続行である。その間に負傷した剣之進から晦に選手交代が行われていた。
「あっ、そうや。いいこと思いついた」
 晦はフィールドに入るなり“変身”した。一味風の革ジャンを着た男に、である。それを見て、モミジが驚く。
「お兄さん、狐なの?」
「おう、そうや。……そういうお前も狐、やな?」
話しかけてきたモミジに晦はニッと笑いかける。「あっち側のに変身して、かき回してやモミジろうと思うんやけど、われも一緒にどうや?」
 モミジは、にっこり笑ってうなづいた。
「……? なんや、人数が足らんぞ?」
 監督の導次はフィールドの自軍の人数を数え首をかしげる。晦とモミジが敵チームの者に変身したからなのだが、いきなりの乱戦でその辺、どうでもよくなっていたらしい。たまたま隣りにいたセバスチャン・スワンボートの首ねっこをつかみ、お前、入ってこいやと背中を押す。
「え、なんで俺?」
 
 ピーッ。そこで試合再開のホイッスルが鳴った。
 明日がボールを手近な味方にパスしようとすると、さっと桑島が走り込んできてそれをカットした。危ないからお前、マジでベンチに引っ込んでろ、と明日に言いながら。
「桑島、シュートだ、シュート!」
 観客席で赤城竜が声を張り上げている。桑島はその声に苦笑いする。……なんで乙女の声援じゃねえんだよ、と。
 そのまま足を振り上げボールを蹴ろうとしたとき。
 ──ボールが、ぎょろりと、こちらを、見 た。
「ギャッ!!」
 ボールだと思って蹴っていたものは、一味の手下の生首だった。ゾッとした桑島が仰け反ると、革ジャンの男がさっとその生首を奪っていく。
「おやおや、どうしたんですか。せっかくのペスト・ポジションを」
 眼鏡を直しながら、そう言うのはベルヴァルドだ。言われて、桑島はアッと気付く。今の生首は、きっと彼の幻影だったのだ。

「ヒャハハハ!」
 両手に火炎瓶を持った男は、ドリブルしながらフィールドを正面から突っ切った。目の前にいたクラスメイトPに向かって火炎瓶を何本も投げつける。
 ヒィィィィ! と盛大な悲鳴を上げて、彼はバタバタと逃げ出す。が、三歩といかないうちに派手にすっ転んだ。彼を狙った火炎瓶は発火して、その頭上を越え、観客席へヒューっと飛んでいく。一つが観客席のそばに落ち燃え上がると、キャーとチアガールズたちが悲鳴を上げた。ほかにもなぜかティモネが悲鳴を上げている。
 売り子として歩いていた簪は、おっと、と言いながら懐のリボルバーで火炎瓶を撃ち落としていた。
「おやおや、危ない」
 タキシード姿の青年、青宵は自分の方に向かってきた火炎瓶に手を伸ばし、その炎のエネルギーを吸い取って消した。パシッと残骸を受け取る。
「危ないじゃないか! しかも火炎瓶なんて、これはサッカーだろう!」
 怒って声を上げたのは真船恭一だ。すっくと立ち上がり、審判に抗議をしようとしたところ──ゴンッ。その額に火の消えた火炎瓶がヒットした。
「真船さーん!」

「メ、メガネ、メガネ……」
 フィールド場のクラスメイトPは、二回目の火炎瓶を食らって、頭がアフロ化していた。しかも眼鏡を落としてしまい、あわあわと地面を探している。
「どけ! カスども!」
 火炎瓶男は、一応手は使わずゴールに迫った。その脇をダイナマイトを持った男と鎖鎌を持った男が併走している。
「ルイス、手っ伝いっまーす☆」
 ドガガガ……ッ。その男たちの後ろから、バイクに乗ったルイスが躍り出た。宙にジャンプして目下の三人にマシンガンを掃射。ヒェェエと逃げ回る相手の頭上に着地すると、バイクを回転させて数人を跳ね飛ばした。
「ちょっとお!」
 秋津戒斗は抗議をの声を上げながらも、さっとその場から飛び退いた。岸昭仁はすんでのところで逃げ出した。
「あれっ、コントロールが効かねぇや」
 ルイスは近場にいた一味の男たちにさらに突っ込もうとして、バイクのトラブルに気が付いた。軽やかな身のこなしで、あっさりバイクを乗り捨てる。と、その車体が勝手に走り、見事に数人を轢いていった。そして最後にバイクは場外で派手に爆発、炎上だ。
 後には、倒れた一味が数人と、背中にタイヤの跡を付けた桑島平とセバスチャン・スワンボートが、ピクピクしながら転がっていた……。

「悪いけど、ゴールをいただきよ!」
 そんな惨状の中を、アラビアンマスクなレモンが駆け抜けた。ボールを奪い、無事な面子を探すと、ギル・バッカスがいた。
 行くわよ! と、レモンは彼にパスをすると、ゴールキーパーに自作のエンジェル銃を向ける。撃つ気だ。当然、彼女もサッカーを完全に勘違いだ。
「シュートを決めたいなら──拙者の屍を超えて行け!」
 受けるのは、動く鎧のコーター・ソールレットである。刀を構えてゴール前に陣取っている。
「斬り捨ててくれるわ!」
「斬っちゃだめだよ、斬っちゃ!」
 と、梛織がツッコんだが届いていない。
 ギルがボールを蹴った。レモンがエンジェル銃を撃った。奇妙なしゃぼん玉のような物体と、ボールがゴールを襲う。
 コーターは自分の足を投げつけてしゃぼん玉にぶつけ、ザンッ、と刀でボールを一刀両断にした。
「まだまだ!」
 ギルはどこからともなく取り出した、崎守印『B』と刻印されたサッカーボールを掲げた。振りかぶり──蹴った! それはコーターの死角に唸り声を上げて突き刺さる。
 ぐわっ、と声を上げたコーターの身体をばらばらに粉砕しながら、シュートが決まった。
 
 ワーとか、助けてーとか、よく分からない歓声が上がった。

「おおっとお! キーパーがばらばらや! これで同点ゴールが決まったでえ!」
 サンク・セーズが実況中継を盛り上げるものの、応援席からはブーイングの嵐だ。
「きさまら! 覚えているが良いぞ!」
 と、ベアトリクス・ルヴェンガルドが怒り、フィールドに迫ろうと席を立つ。
「ちょ、危ないよビイちゃん。しかも、それ悪役のセリフだよ!」
 彼女を止めようと、ツッコミしながら悠里も席を立った。
「何よ! あいつら卑怯な手ェばっかり使いやがってェェエ!!」
 そこでいきなり怒り出したのは香玖耶・アリシエートだった。立ち上がり、取り出したのは二つの玉。口にするのは精霊の真名。彼女の両手を中心に、身体が淡く発光しはじめる。
「え? お嬢さん?」
 たまたま隣りで観戦していたアーネスト・クロイツァーが彼女の異変に気付く。
 が、遅かった。
 ゴゴゴゴ……と、地鳴りが沸き起こったかと思うと、フィールドに風が吹き荒れ、その中央から巨大なクリーチャーが飛び出してきた。香玖耶が召還したサンドワームが、サッカーに乱入したのだった。ど真ん中に陣取った巨大な芋虫は、手近な人間を跳ね飛ばし、暴れまわっている。
 慌てて風の精霊を呼ぶアーネスト。被害を防ごうとするが、場内はまさに大混乱である。

「すげえ。これ使うまでも無かったな」
 ルイスが手に爆弾を持って、にんまりしている。彼はきっちり自分には被害の及ばないところに立って、暴れ狂う巨大芋虫を見ていた。
「メガネ、メガネ……」
 どんっ、とその後ろ足に誰かが頭突きした。メガネを探していたクラスメイトPだった。
 ん? と振り返ろうとしたルイスの手から爆弾が、ぽろっ、と落ちる。
「あ」

 ドォォォーン! と、盛大な音を立てて爆弾が爆発した。


 ──メディーック!! (証言者:梛織、ムービースター 男 19歳 万事屋)


 ひとまずサンドワームは、香玖耶とアーネストの魔法で収まったが。
 魔物がいなくなった後のフィールドは死屍累々だった。
 プスプスと煙を上げて倒れている者、地面に埋まっている者。銀幕チームもザンギーガ一味も、同じように仲良くみな、ぶっ倒れていた。
「こりゃひどいな」
 黒い狩衣姿の青年、翡翠がつぶやく。彼は周りの人間に被害が出ないように、物理攻撃を跳ね返す結界をはっておいたのだった。同じように攻撃を防いだ青宵と、そして超能力を使って観客席の警護に当たっていた津田俊介のおかげで、かろうじて観客席には被害は及んでいなかった。

「僕たちの出番ですね」
「ええ」
 その中で、すっくと立ち上がるのはサキ、ディーファ・クァイエルのコンビである。彼らはいつの間にか出来ていた救護班ブースに立っていた。
 ふんわり広がったスカートの爽やかなストライプワンピースの可愛らしいナース服のサキに、水色十字を腕に模した白の看護服姿のディーファは、運ばれてくる負傷者に次々に手当てを施している。
「しゃあないなあ……」
 そして、それに加わったのは針上小瑠璃だ。彼女は店から持ってきた救急箱を開けて、どちらのチームの負傷者の面倒も見始めた。
「ほら、動きなや。痛いんは一瞬だけや」
 一応キャプテンのマギーを含む、銀幕チームの何人かが怪我のために運ばれ、ここで手当てを受けることになった。彼らはシュウ・アルガのマジックアイテムのおかげで、爆発に巻き込まれサンドワームに跳ね飛ばされた割には、みな元気だった。
 ちなみに観客なのになぜか巻き込まれた悠里、敵チームに加わっていたレモンもヒクヒクしながら運ばれていた。二人は、喜々として怪我人の手当てをし始めたファーマ・シストにブチューッと注射器を刺されている。
 明日は、場内に乱入してきて自分を助けてくれた友人のランドルフ・トラウトに礼を言っている。

「ごめんなさい。アタシ、もうダメ」
「ぬうう……」
 そんな面々を、導次は唸りながら見つめていた。キャプテンのマギーがいきなりやられたのだ。
「すいませんすいませんすいません、僕のせいで……!!」
 そこへクラスメイトPが駆けつけた。彼は土下座でもせんがばかりに導次の前に進み出ててペコペコと、そのアフロ頭を下げて謝罪しようとする。
 だが、あれだけのトラブルに見舞われたのに、なぜか彼は擦り傷程度で済んでいた。導次は、鋭い眼光を向け、はたとそのことに気付くと、にんまりと笑った。
 少年のアフロ頭をがしっと掴む。
「よし、決めたで。お前が次のキャプテンや」
「ええっ!! なんで僕が」
 思わぬ言葉に、驚いて相手を見上げるクラスメイトP。
「ええか、この惨状を見ろ。この場に求められている能力。それは最後まで生き残ることなんや。今、それができるんは、ジョージ、お前だけや!」
「リチャードです」
「……どっちでもええ、とにかくお前がキャプテンや」
 お前の両肩に、この銀幕市の命運がかかっとるんや。導次は無理矢理話をまとめ、クラスメイトPの肩をゆさぶった。

 同じように、ザンギーガも唸っていた。審判は一人救護班行きにされたし、カネに見合わんとギル・バッカスは帰ってしまうし、玄兎もテレビ番組を録画し忘れたとかで勝手に帰ってしまったし、須哉久巳は飽きたの一言で居なくなったし、ルイス・キリングが居ないのは、きっと爆発でケシズミになってしまったに違いない。
 相手チームのスパイと思われた狩納京平とシルヴァーノ・レグレンツィは、さっさと退場にしてやったが。どうも人数が足りない。
「ま、まかせときなよ。大将」
 けらけらと笑いながら言うのは、海賊のコキーユ・ラマカンタだ。実は、彼も爆発にまぎれてこっそりと一味の手下を何人か救護班送りにしていたのだが、もちろん秘密にしていた。ここにもスパイが一人、である。

「うーんと、野球なら分かるんだが」
 一方、新しい審判にはサエキが収まっていた。ルール本を片手に読み込みながらの即席審判である。
「ヤバイ奴はみんな退場にしていいから」
 その彼に、主審のフレイド・ギーナがアドバイスしている。彼は爆発からもちゃっかり逃げて。しっかり無傷だ。
 また、さっさと終われとばかりにいきなり試合再開のホイッスルを吹く。

「あっ、やべ」
 スルトと昇太郎から胡麻団子を買っていたDDは、笛の音を聞き、慌てて団子にパクついた。もぐもぐと団子を食しているDDを微笑ましく見ながら、スルトと昇太郎は爽やかな笑顔である。
「なんでも有りとは、愉快な競技やな、サッカーって」
「ああ。皆頑張ってるな……。俺らも負けて入られないな」
 ……ここにもサッカーを勘違いしている者たちが二人。
「──もらったァッ!」
 と、いきなりDDの背後から手が伸び、胡麻団子の袋をかっさらった。ハッと振り返ったDDの前にいたのはマシンガンを手にしたムジカ・サクラ。彼は袋を顔の上へ。あーんと言いながら、転がってきた団子をパクリと一口で食べる。
 てめぇ、ぶっ殺す!
 ジャキン、とDDの肘から骨で出来た刃が突き出た。いきなりドチ切れたDDが、ムジカに向かって飛び掛ろうとしたときに、蔡笙香は面白がってマシンガンを撃った。サッと伏せてかわすDD。彼の後方には、RDが座っていて。何発かが彼のこめかみ付近にめり込む。
 ヌガアアアッ! と叫んだのは、DDか、RDか。はたまた両方か。
「甘いもんは正義だぜ!」
 弾の切れたマシンガンで、DDの刃を受けて笑うムジカ。その言葉はもはや意味不明だ。
「ピー! ピー! ノリノリアルよ、なははははー!」
 その回りで空を飛び、笛を吹きまくる、大きな虫っぽいものが一匹(?)。ノリン提督だった。
 この生き物を見た者たちは、いきなりなんかとにかくムカついた。
 ボコボコに殴りあうムジカとDD。こちらに向かって走ってくるRDを止めようと、震えながら津田俊介が立つ。
 それを見て、なんだか知らねえがやっちまえとばかりに一味の男たちが数人、俊介に飛びかかろうとする。ノリの妖精効果だ。
「ひいい」
 俊介は超能力で彼らとRDがこちらに来ないようにその場に留める。
「おっ、カワイコちゃんみっけ」
 しかもついでに脇見してチアガールズに近寄っていくものたちもいた。一番近い須美の足に手を伸ばそうとして、パシッとリゲイルに手を叩かれている。
「須美ちゃんには、ぼさぼささんがいるんだよっ!」
「あっち行けって、コノヤロ!」
 アオイが自分の胸の中に手を突っ込む。ええっ? とそこに視線を釘付けにされた男に向かって、彼女は取りだした水風船をボコッとぶつけている。

「ギーガ様、キーパーが」
 場外乱闘へと走っていくRDを見、一味の男が声をあげる。ザンギーガはチィッと舌打ちした。
「クソッ、仕方ねえ。こんなこともあろうかと、スゴ腕の助っ人を呼んであるんだ! ──先生! 先生!」
 振り返るザンギーガ。
 ゆらり。フィールドに姿を現したのは、黒の着流しに腰に刀を帯びた浪人だった。用心棒の清本橋三である。
「『ごーる』とやらを守れば良いのだな?」

「クク、ゲームを忘れるとは。おめでたい人たちだ」
 ザンギーガ側のキスイは、ほくそ笑みながらボールをキープした。ドリブルを開始しようとして、ハッと何かに気付いて高く飛び上がる! 
 着地してみれば、後ろにいた仲間が足を切り裂かれて倒れている。
「へえ、遊んでくれるんだね? うん、悪くない。こういうのも悪くないよね」
 影の中にちらりと見える何か。ジャック=オー・ロビンが、姿を消したまま刃物化した手で足を切り裂いたのだ。
 シャッ。キスイは氷の矢を放つ。かわすジャック。
 やりますねえ。キスイは口端を吊り上げる。彼は自分で言ってるそばからゲームを忘れ、この新たな敵との死合いにのめり込んでいった。

「ちょっと、みんな何やってるの!」
 場外乱闘があちこちで勃発している中で、ツッコミようがなく声を上げる梛織。
 ダダダダッ、とそんな彼を、クライシスがマシンガンでいきなり銃撃した。
「梛織! これが俺の愛だ! 受け取れ!」
「何が愛だボケ!」
 逃げ回りながらも声を張り上げる梛織。クライシスは高笑いで、どんどん銃火器を使い捨てながら回りの標的を追い掛け回している。もちろん敵味方の区別などない。


 ──まあ、なんだ。ウチのラクシュミも死ななかったし。他に戦死者も出なかったからいいんじゃないのか。銀幕市なんだし。(証言者:神凪 華、ムービーファン 女 27歳 秘書兼ボディーガード)


「やあ、すごい。見に来て良かったねぇー?」
 柊木芳隆は中華チマキとビール片手に、ニコニコしながら観戦していた。
 だが、リゲイルたちチアガール隊のところにまで場外乱闘が広がっているのを見ると、んー、と呟いた。そして立ち上がる。
 どうしたんだい? と、隣りに座っていた女が声を掛ける。海辺で中華料理店をやっている友人の女で、たまたまこの場で会い、一緒に観戦していたのだ。
「ちょっと飲み物でも買ってくるよー」
 柊木はニコッと微笑んで、女が連れている小さな男の子の頭をなでた。そのまま人込みの中へ姿を消していく。

「行っくよー!」
 タッとボールを取り、神龍命がドリブルしながらザンギーガ一味のフィールドに攻め込んだ。
 死ねや! と刀を持った男が斬りかかってきた。サッと華麗にかわす命。
 もう一人、脇からチェーンソーが迫っていた。が、その男は木刀を持った仲間二人になぜか後ろから殴られて気絶していた。
 その二人は、一味に化けた晦とモミジだった。目を合わせてニッと笑う。
 続けて3人の男が命に迫る。命は跳んで攻撃を避けつつ、前方へパスを出した。ベルナールがボールを胸で受け取って、そのままドリブルを続ける。
「吹っ飛んじまえ!」
 その彼に敵がダイナマイトを投げつける。ベルナールは横にパスを出し、代わりに向かってきた敵の顔に、ボコッと靴を当てて倒した。
「すまない、靴紐が緩んでいたようだ」
 もちろん、わざと、だ。しかし宙にあるダイナマイトは生きていた。
 プシュッ! プシュッ! その時、二つのダイナマイトが宙でいきなり凍結した。そして三つ目のダイナマイトは、導火線を飛んできたナイフに斬られて落下した。
 明らかに観客席からの飛び道具である。
 審判のフレイドはそれに気付いて、どこのどいつだ! と客席を見る。──が、目の前に突然、狸が躍り出てきて、やいのやいのと踊った。
 太助である。フレイドは、どけ! と言おうとしてふと、そのふかふかのおなかに目を留める。アレ、なんか触りたい気がしてきた……。

 フィールドではアレグラが、ボールをキープしていた。彼女はトテトテと前方へと走っている。その姿を見、がんばれーなどと棒読みで応援しながら、皇香月は観客席でこっそりナイフをしまった。この距離でも導火線を切るなどお手の物だ。
「このクソガキが!」
 懲りずに一味の男たちがワッとアレグラに飛びかかる。しかし、ギャーと悲鳴を上げたのは男たちの方だった。振り回した彼女の手が弾みで伸びて、男たちを殴る蹴るしたのである。
「子供、やんちゃ。許してやれ! ……ごめんなさいする」
 よく分からないままにしても、とにかく謝ってゴールをめざすアレグラ。
 が、コケた。

「グワハハハハ!」
 アレグラの昔のボスっぽい笑い声を上げながら、ザンギーガがボールを奪い、一気に銀幕側のゴールを目指した。
 前に太助がいた。しかし、関係なかった。
「死ねェェエエイイ!」
 蹴ったボールが唸りを上げて、回転しながら跳んだ。そのボールは、太助を巻き込んで銀幕ゴールに一直線だ。
「ワ! 来た来た」
そこで、緊張感なくゴールキーパーをしていたのは狼牙だった。「あれ、取っていいんだろ? 信号を温めるんだろ?」
 シベリアン・ハスキーは一部意味不明なことを言ってから跳んだ。宙の太助の首ねっこをうまく掴むが、威力をうまく殺すことができない!
「おっととと!」
 バランスを崩しかけた狼牙だったが、グンッと突然何か見えない力にひっぱられるように体制を持ち直した。うまく太助とボールを連れたまま地上にスタッと着地する。
 アブねえアブねえ、と息をつくのに、太助がサンキュ! と礼を言っている。
 そして観客席では、シュヴァルツ・ワールシュタットがホッと胸をなでおろしていた。今のサポートは彼だ。加えて彼は、信号じゃなくて“親交”だよ、と密かに狼牙にツッコんでいた。

「お、良かったねー。今のシュートは防げたんだねぇー」
 と、自分の席に飲み物を手に柊木が戻ってきた。連れの女が、今のが【氷結弾】かい? と尋ねたが、彼はにっこり笑って、何が? と返していた。
 そんなわけで、チアガールの周りに居た男たちは、足を撃ち抜かれて呻いていた。【氷結弾】のついで、だろう。
「にゃはは、捕まえてごらんなさいアルー」
 RDは、ノリの妖精がとにかくムカついて堪らないらしく、三次元モグラ叩きよろしく、あちこちの地面に拳を叩き込みながら妖精を追い掛け回している。
 一方、場外乱闘の主役、DDとムジカの殴り合いはまだ続いていた。それは甘いものを巡る壮絶なバトルだった。
 DDがムジカの腹を蹴った。ムジカはバランスを崩しつつも銃を相手に向けた。そしてためらいもなく撃つ。
 ──キンッ。
 だが、その銃弾が叩き斬られて、地面にぽろりと落ちた。
「その辺にしとけや」
 それは、刀を抜いた、昇太郎だった。
 どちらかが、邪魔すんな! と声を荒げようとしたとき、さっと昇太郎の後ろからスルトが顔を出した。
「二人とも、甘いもの好きなんだろ? 胡麻団子好きなだけ奢るから。な、まあこのへんで」
 DDとムジカは顔を見合わせる。
 甘いものがあるなら、まあ戦う理由もない、か?
「あの、俺、胡麻団子愛好会ってのやってんだ。良かったら入らないか?」
「入る!」
 思わず二人は即答していた。
 番外編、胡麻団子争奪戦、決着。


 ──ボールを持った奴は射殺しろ、持ってない奴はこっそり刺しちまえ。……それが、彼らの基本戦略だったみたいですよ。(証言者:古森 凛、ムービースター 男 18歳 諸国を巡る旅の楽師)


 次に攻めに転じたのは、沢渡ラクシュミだ。爆発後に交代で加わった彼女は無傷で、ごく普通にドリブルで走りこんでいく。
 そのいかにも弱そうな女子高生に、一味の面々が舌なめずりして銃を構える。
 もう一人の女子高生、浅間縁がその様子を見て目を光らせた。サッと観客席にいる古森凛と目で会話。
 彼女は素早く、近くにいた神宮寺剛政に声を掛けた。
「神宮寺さん、右に飛んで! 早く!」
 言われた通り剛政が飛ぶと、すぐにザンギーガが、撃ち殺せ! と叫ぶ。
 間一髪、ラクシュミがいたところにたくさんの銃弾が撃ち込まれた。が、その弾を受けたのは剛政の方だった。
 痛てェェ! と叫ぶ剛政を背に、縁が不敵な笑みを浮かべ一味に向き直った。
「駄目だね〜、サッカーはチーム戦だってこと忘れちゃった? ――あんたたちはもう、死んでるわ」
 縁は、凛から相手の戦略を聞いて、防戦に転じたのだ。無傷のラクシュミは、ありがと! と礼を言いどんどんと前へ攻め込んでいく。
「ちょっと、何なの今の!」
 一方、弾除けにされた剛政が怒って縁に詰め寄る。縁は苦笑いしながらパタパタと手を振った。
「ごめん、神宮寺さんなら大丈夫かと思って! どんまい!」
「どんまいはお前だよ!」

 うまく敵の包囲網を向けたラクシュミは、同じように併走してきたベルにパスを出す。ベルは小柄な身体を生かしてスイスイと一味の攻撃をすりぬけ、ゴールへと迫っていく。
「クソガキ! こっちだ。こっちへ来い!」
 両方の手に包丁を構えた男が叫ぶ。が、その影から何かが鎌首をもたげた。蛇のような黒い何かが、するするっと男の足に絡みついた。
「ゲェッ!?」
 突然男は地面につっぷし、バタバタと暴れている。その、ギャァアアとかいう悲鳴の横を、口笛を吹きながら片山瑠意が走り抜けていく。
「や。俺、只のファンだし? 何もしてないし?」
 蛇のような黒い何かの正体は、彼の召還したアポピスだった。

「よっしゃ、ええ感じになってきたやないか」
 ベルのサポートに走り込む剛政が、前方にいた男をぶん殴って星にしているのを見て、導次が満足そうに笑う。
 その両脇にロゼッタ・レモンバームとヘンリー・ローズウッドがいる。悪役会つながりでこの場に呼ばれた二人だった。
「君もけっこうヒマだよね」
 冷めた様子で導次に言いつつ、ヘンリーはパチンと手を鳴らす。すると一味の手下たちの銃火器がボンッと暴発した。
「ほんとに、ヒマだよな」
 合いの手を入れるロゼッタ。ロゼッタの方は、一味がベルに向かって撃った弾を魔術で風を起こし、他の一味の者に当てている。

「ちょ、やりすぎじゃない? 本当に死んでないよね?」
 撃たれて倒れて、地面をのたうちまわっている男たちのそばを駆け抜けながら、さすがに心配になってきた縁が言う。
「大丈夫だよ」
併走していた瑠意が、笑顔で答える。ほら、あれを見て、と、救護班のあたりを指差す。
 そこには「遺体一時保管場所」というブースが新たに出来ていた。夏の海岸だというのにその場所だけがひんやりとした冷気に包まれていた。
 横には幽鬼のようにひっそりと佇む冥府の渡し守──カロンがいて、運び込まれた死体に何か気合いを入れている。
 そして、ひょこっと生き返った男が、イヤイヤしてもう帰りたくないと叫んでいるのを無理矢理フィールドに戻している。
「──死んでも生き返ってるみたいだよ」
 ブーッ、と縁は盛大に吹き出した。


 ──ウヒャヒャハハ! そこでボクが一気にそいつを(ピー)したらケケケ、もうヒヒヘヘ、ヒャハゥゥウウ! (証言者:クレイジー・ティーチャー、ムービースター 男 27歳 殺人鬼理科教師)


「はーい、いいかナ、ボク? ボールを渡してくれるかナ!?」
 クライシスが高笑いしながらマシンガンを構える。銃を向けるのは今ボールを持っているベルだ。が、少年は止まることなくクライシスの正面に走りこみ、マシンガンの先にチョンと足をついて、そのまま空高く跳躍した。
 飛び上がった彼は、くるりと回転するようにゴールに向かってボールを蹴る。
 ザシュッ! 
 しかしそのボールが一刀両断された。清本橋三が、チン、と刀を納めている。
「やっぱり斬ったんかい!?」
 ツッコむ梛織。
 その脇を、ボールをドリブルしながら走りこむ少年が二人。アルとルアだ。
「あれっ、ボール……」
 彼らが操っているのは崎守印『B』と刻印されたボールである。審判、ゲーム止めなくていいのかな? と梛織は振り返った。すると、脳天を撃ち抜かれた審判が一人、ちょうど遺体安置所に運ばれている最中だった。
「死んでるしー!!」
 観客席で、頭を掻きながら銃を納めるソルファ。うっかり撃ってしまったらしい。
 主審のフレイドは青ざめて立ち尽くし、もう一人の審判のサエキは寝転がりながらルール本を読むのに熱中している。

「死ねェェエッ」
 一味の男たちが5人ほど、包丁やノコギリを持って彼らに襲い掛かった。
 アルとルアは目配せし合い、パッと左右に散った。アルはノコギリをかわし男の股下を通して、ルアにパスを出す。ルアはフンと鼻を鳴らし、ボールをかかとで上空に蹴り上げて、包丁男をクリア。一緒に巻き上げた砂ほこりにまぎれて、こっそり男の耳下に噛み付いている。ボールを拾ったアルは、迫る男にボールを蹴り当て、怪力で跳ね飛ばした。跳ね返ってきたボールを受け取るのはルア。アルは包丁を振るってきた最後の男に軽く触れ、生気を奪いとった。男はへなへなとその場に崩れ落ちる。
「出たぁ! アル選手とルア選手の、ものすごい連携プレイや!」
「……あの二人は元々自分同士ですから、スーパープレイもお手の物ですわね」
 実況中継するサンク・セーズに、チアリーダーから一転、ピンクのスーツに着替えた夜乃日黄泉が解説を加えている。

「来い、ゴメス!」
 二人の前に、ザンギーガともう一人副官らしい巨漢が立ちふさがった。ゴメスというこの男は、はちきれそうな筋肉の腕にアサルトライフルを二丁構え、ジャキッと二人に銃口を向けた。
「あのガキ殺したら、軍曹に昇進だぞ」
「マジすか、ボス? キヒヒ」
「──助太刀いたしやす」
 その隣りにサッと立ったのは、旋風の清左である。腰の刀の柄に手を触れ、迫り来る少年たちの姿に、その隻眼を細めた。
 スラリと抜き放った刀の刀身が光る。おおっ、と声を上げるゴメス。清左はそれを見て、いきなり横に刀を振るった。
 ガッ。いい音をさせて、ゴメスのみぞおちに清左の一撃が入った。峰打ちだったが、巨漢は腹を押さえ、気を失ってゆっくりと地面に倒れてしまった。
「おんや、どうも調子が悪ぃ」
 その横で首をかしげる清左。うっかり間違って味方に攻撃してしまったと言わんばかりだ。ブンッと刀を振ると、お? などと言いながら、今度は刀の柄でザンギーガの咽喉を突こうとし──。
「何してやがんだテメエ!」
 ──止められた。ザンギーガが鎖を絡め、清左の刀を宙に留めている。アルとルアが迫っている中、二人はギラリとにらみ合う。
「悪党らしくすりゃまだ可愛げのあるものを、悪党なりの見栄も矜持も捨てて、すぽーつを隠れ蓑にするたぁ、見下げ果てた野郎どもだ、てめえらは」
 周りに聞こえないように、低い声で凄む清左。
「ムッ?」
 だがその時、背後に殺気を感じて、清左は刀を離し飛び退いた。振り下ろされる刀。それは、清本橋三の一撃だった。
「義理と人情の渡世人が……血迷ったか?!」
 ザンギーガを懲らしめようとした清左を誤解した模様である。まずい、と渡世人は懐からドスを引き抜く。
 間髪入れず、清本が動いた。下段からの素早い突きだ。そのあまりのスピードに清左は肝を冷やし、思わず本気で刀を弾こうとドスを──。
「ぎゃぁああ……ッ」
 アレ? 斬っちゃった?
 よろけ、ふらつきながら、清本はその場にどう、と倒れた。ザンギーガすら見惚れる、見事な斬られっぷりだった。驚いた清左が声を上げる。
「旦那、しっかりしてくだせぇ! 斬っちゃおりませんよ!」
 ゴギッ。
 と、そのザンギーガのこめかみに、何か長い棍の先がめりこんだ。
 清本の隣りに、どうと倒れるザンギーガ。
「やっべ〜」
その横にスタッと着地するのは棍を構えた、コキーユ・ラマカンタだ。ニカッと微笑み、「うっかり、キャプテンをやっちまったよ。オイ、大丈夫かい? ボス」

「行くぞ、ルア!」
「行くよ、アル!」
 一方、二人の少年は素早いパス回しでゴール前に迫っていた。DFはあと数人、GKの清本も倒れた。アルは右足を、ルアは左足を振り上げる。
『一心同体デュアル・シュート!』
 必殺技よろしく叫びながら、二人は同時にボールを蹴った。回転を加えられたボールは回転しながら砂嵐を巻き起こす。残っていたDFの男たちも、悲鳴を上げながら巻き込まれ跳ね飛ばされていく。
 唸るボールがゴールに迫る!
 ──ガシィィッ!!
 だが、そのボールをゴール前で、受け止めた者がいた。シュゥゥウ……と、煙の出るボールを持ち、その男はニィッと笑った。

「ヤァ! ボクのポジションってココでいいんだよネ!?」

 クレイジー・ティーチャー、だった。
 殺人鬼理化教師は、ボールをポンと地上に落とす。あ、手の皮剥けちゃった、などと言いながら、自分の指を2、3本むしり取って打ち捨てている。
 ピーッ!! と、そこでホイッスルが鳴った。
 今にも気絶しそうに真っ青になった審判のフレイドが、レッドカードを持ってクレイジー・ティーチャーに向けている。
「たっっ、たた、退場ォッ!」
「待てッ」
 むくり、とザンギーガが起き上がり、フレイドの首を捕まえた。
「落ち着け、あいつはウチのチームの最終防衛ラインだぞ!」
そのまま、恐慌状態に陥ったフレイドをシェイクしながら、ザンギーガは何やら耳元で言い聞かせる。「……いいか、もう前半戦が終わる。だからその前に──」

 しばらく。ウンウンと何度もうなづいたフレイドは立ち上がり、びっしょりと汗をかいたまま、言い放った。
「反則が追いつかないので、一気に行きます。味方攻撃した人、レッドカード、退場です。ソコとソコ!」
 と、指差すのはコキーユと清左。二人は不満そうな声を上げるが無視された。
「それから不適切なプレイをした人、君」
「え? わたし?」
 指差された浅間縁が、きょとんとする。
「場外からの手引きは違反です。それから君も、味方を盾にしたからレッドカード!」
 ムッとした様子で沢渡ラクシュミ。なんでよ! と声を上げる。
「君も、退場!」
 と、彼が最後に指差したのは、狼牙だ。
「何で、おれ?」
「動物がサッカーしちゃダメに決まってるだろう」
 エエーッと、声が上がった。
「うるさいッ! 狸も狐もダメッ! 退場!」
 ──退場、退場、タイジョォーッ!
 フレイドの声が場内に響き渡り、ブーイングの嵐の中、恐るべき前半戦はこうして終了した。


 ──不満でしたね。彼らから美味い“食事”が出来ると聞いたのに。仕方ないので、彼らからデザートをいただいてから帰りました。……どんなデザートかって? フフフ、知りたいんですか? (証言者:ベルヴァルド、ムービースター 男 59歳 紳士風の悪魔)


 ようやく迎えたハーフタイムである。
 観客席では、クロノがチアリーディングを披露していた。他の時間軸から呼び出したクロノたちが勢ぞろいし、ニャアニャアとやかましく踊っている。
「それを貸すですにゃ!」
「今は組み体操じゃないですにゃ!」
 ……自分同士のはずなのに、ぜんぜん揃っていなかったが。

「彼らはいわゆる正義の味方だよ、こちらが卑怯な手を使えば相手はもっと強くなる」
 ザンギーガ一味の陣営では、監督の真山壱がおだやかに話をしていた。
「なあ、どうだろう? それならサッカーとはいえ、正義の味方たちを真正面から清々堂々と負かす事が出来たら……。きっと物凄ーく気分が良いって思わない?」
 が、首領は逃げようとする手下を捕まえて戻すのに精一杯だ。話など全然聞いていない。何だか人数が減っている気もするし、ベルヴァルドも、クライシスも、一味以外のメンバーは、みな飽きたとかつまらないとかそういった理由で姿を消していた。
 残った面子は震えながら、ペットボトルを飲んでいたが、何人かが悲鳴を上げながら、水! 水! と走り回っている。何か盛られたのか、あら大変などと言いながらマネージャーの二階堂美樹がケラケラ笑っていた。
 そんな様子を見つめながら、審判のフレイドはあふれ出る汗を拭いていた。自分は生きてここから帰ることができるのか──。嫌な予感ばかりが脳裏をかすめる。
「おう、後半戦も頼むぜぇ。キヒヒヒ」
そんな彼に、ゴメスが声を掛けている。注射器を差し出しながら、「ビビッてんならコイツが効くぜェ? チャイナタウンでくすねてきたんだが、なかなか──」
 要らないですッ。フレイドは逃げるようにその場を後にした。トイレにでも行くかと廊下に出ると、その背中に声を掛ける者がいた。
「失礼、少々お時間を頂いても宜しいかな。3分もあれば充分なのだけれども」
 古風なスーツをまとった壮年の男性──ブラックウッドだった。

 なんでしょう、とフレイドが尋ねていると、その脇を、ピンクのスーツを着た女が通り過ぎていった。神凪華だ。彼女は、三人目の審判の首根っこを掴みずるずると引き摺っていた。
 無理ですぅ! 一度退場にした人を元に戻すなんてェ! と、彼が嘆願していたが彼女は全く聞いていない。そのまま二人の姿は闇に消えていく。
 フレイドの顔から血の気が引いた。
「安心したまえ。君に危害を加えるつもりはない」
 相手の様子を見て、ブラックウッドはさりげなく彼の肩に手を回し、歩くように促す。
「さて、間違っていたら済まないのだが。君は、ここから帰りたがっている。……違うかな?」
「そ、そりゃもちろんだよ」
 思わず素の口調で答えるフレイド。
「なのに、そう出来ないのは──主に、金銭的な理由からかな?」
 フレイドがうなづくのを見て、ブラックウッドはにっこりと微笑んだ。
「そうか。良かった。私は君の力になれそうだ」
 彼は、ひどくゆっくりとした動作で、懐から紙片を取り出してみせる。それは小切手だった。もちろん額面には0がたくさん並んでいる。
 フレイドの目は歓喜に光り、ブラックウッドの目は怪しく光った。
「ひとつ、お願いがあるのだがね……」

 数分後。
 フレイドはグラウンドに立ち、何事もなくピーッと笛を吹いていた。
 サエキはまだルール本片手であり、もう一人の審判は、また違う者に変わっている。
「後半戦の始まりや!」
 サンク・セーズの声に、ワァァと歓声が上がる中、銀幕チームは、戦略からメンバーを一新。ほぼ無傷で且つ“死なない”面子が勢ぞろいしていた。
「銀幕チームは選手の層の厚さを見せ付けていますわね」
 夜乃日黄泉が解説を加えた。一応のキャプテンのクラスメイトPが、恐る恐る来栖香介にパスを出し、香介はドリブルをしながらいきなり走り出した。
「ボールを使った格闘技ってなァ! よく言ったもんだぜ」
 チェーンソーを持って襲い掛かってきた男の顔面に膝蹴りを食らわせ、右から襲ってきた別の男には、バッキーのルシフを投げつける。
「ルシフ、食ってこい!」
 バッキーの姿に、一段階高い悲鳴を上げて、男たちが逃げ回る。
「くるたん、パスだ!」
「うるせぇ!」
 シャノンが呼びかけると香介は怒って彼にボールを蹴った。シャノンがかわすと、ボールは地面に落ちていたリンゴの木箱に跳ね返り、敵チームの男に渡ってしまった。
「どけどけェーッ」
 両手の拳銃をブッ放しながら一直線に銀幕チームに向かう男。が、いきなり後ろからの突風に煽られたかと思うと、盛大に転んでしまった。後頭部を打ち白目を剥く。
「だーっはっはっは!!」
 それを見て、観客席の風轟が膝を叩いて大爆笑した。手には天狗の羽団扇がある。「幸運の女神様とやらに嫌われておるようじゃのう!!」
 ……もちろん、突風は彼の仕業だ。
 近くにいた敵がボールに食らいつくと、待ってましたとばかりに正面から香介が飛びかかった。相手を押し倒し、いきなりマウントポジションでタコ殴りである。
「ボール持ってた相手にだから、いいんだよな」
 ハーフタイムに買収された審判フレイドは笛を鳴らさない。サエキも見ている。もう一人の審判だけが、笛を吹こうとした。
 その彼の前に、ふらりと深緋色のチャイナドレスを着た女が現れた。太古の女皇帝、ヴァネイシアだ。
「おや、これがサッカーなる遊戯かえ?」
 ゆっくりと身体を傾けるとスリットから白い膝が覗き、そして太腿が露になっていく。思わず審判の目線はそこに釘付けになった。
「どのような遊びなのか、わたくしに教えてくれぬかの?」
 手を伸ばし、彼の笛を持った手をゆっくりと握って、自分の指を絡めていく。ぽかんとだらしなく口を開けて、目の前の妖艶な女を見つめる審判。ああ彼女の瞳と言ったら! 吸い込まれてしまいそうだ……。

 そして、空いたボールを狙って吾妻宗主がサッと動いた。彼に気付いた敵が慌ててナイフを向けたが、宗主は微笑し、難なく身体を滑り込ませるように男の脇を抜ける。ついでにスリの要領でナイフを奪い取った。
「クソッ!」
 怒った男は代わりに銃を抜き、引き金を引こうとする。が、引けない。
 えっ? と男が銃をガチャガチャやっている間に、宗主はどんどん走っていく。
「……なるほど」
 観客席で、デゼルトが息をつく。銃の不発は彼の言霊の仕業である。近くで風轟が妨害工作をしているのを参考に、自分も試してみたらしい。
「宗!」
 声をかけられ宗主は、フェイファーにパスを出した。天使は羽根を見せてはいないものの、飛ぶように軽やかにフィールドを駆け抜けた。
 ──ダダダダッ。銃弾が追いかけてきたが、彼は難なくそれを握り掴んだ。
 ニッコリ笑って手の平からボロボロに潰れた銃弾を見せると、一味の何人かは恐慌に陥って、銃器を放り出して逃げ出した。

 次に迫ったのは火炎瓶を持った男だ。
 ヤケクソになったのか、メチャクチャに火炎瓶を投げてくるのに、フェイファーは指を鳴らして次々に消火していった。が、その隙に別の男にパッとボールを奪われてしまった。
「いただき!」
 その男がボールを蹴りだそうとした時、上空に影が差した。ハッと見上げようとした時、ドルゥゥン! というエンジン音と共に彼は見た。
 空を舞い、迫り来るバイク。運転席には金髪の男レイ。そして後部座席に乗った白衣の女──ティモネが釘バットを自分に向かって振るうのを。
「さあ、遠慮なさらないで。ヒーローの代わりに私が言わせてあげますよ――」
「ぶべらっ!」
「──とね」
 男もろとも、釘バットでボールを打つティモネ。彼女は先ほど飛んできた火炎瓶により鞄ごと財布を燃やされて、復讐の機会を虎視眈々と狙っていたのだった。

 審判のサエキが一応それを止めようかな、と声を上げようとした時、彼の背後で爆発が起こった。
 あのリンゴの木箱に、火炎瓶の一つが当たったのだ。
 ギャアァァとか、熱いィイとか、叫びが上がり、箱の中から不死鳥のように飛び出した者がいた。
「銀幕市の愛と平和を守る正義のヒーロー、本気☆狩る仮面るいーす! 素敵に無敵に見参!!」
 燃やされてアフロになった頭は七色。特攻服は焦げ焦げだ。怪しい仮面をつけた男はくるくると華麗に宙を舞い、地上に着地した。その後ろには、小さな声で、本気☆狩る仮面あーるも見参、と言う似たような生き物が、いつの間にか立っていた。
「ヒイイイ!」
 その唐突さと、奇抜さと、怪しさに、一味の者たちは皆恐慌状態に陥った。目の前の者を殲滅せんと、マシンガンを乱射する。
 サッとあーるは身を翻すが、るいーすは見事に蜂の巣にされた。
 いきなりやられてるし! と誰かがツッコむ。
「目指せ、600点!」
 と、違うところで声が上がった。あれを! と、見れば、るいーすが無傷で立っていた。蜂の巣にしたはずなのに……。また男たちの何人かが逃げ出した。

 一方、あーるは早くこの場から帰りたい一心で、駆け出した。ぽつんと落ちていたボールに駆け寄るスピードはあまりに凄まじく、誰の目にも映らなかった。
 真紅の蝶々仮面を押さえながら、いきなりGKのクレイジー・ティーチャーの目前に迫る。
 蹴った! カナヅチで砕かれた!
「ヒヒヒヒャハハハ、なんだコレ、壊れちゃったヨォォ!? ヒャハハ」
 そこに審判のフレイドがやってきた。新しいボールを持ってきたのだが、それを地上に置こうとしたところで──彼は、災難に遭った。
「私に任せなさぃっ。それっ☆」
 そこに、るいーすが走りこんできたのである。まだフレイドの手の中にあったボールがカッと炎に包まれた。アチチッと彼が手を離すと、服にまで引火しする。そして彼の懐にあった何かの紙切れも燃え出してヒラヒラと宙を舞った。
「ア゛ーッ!!」
 フレイドの悲痛な叫びもおかまいなしに、るいーすは足を振りかぶった。
 蹴った! GKが炎上した!
 文字通りのファイヤーボールを受け止め、クレイジー・ティーチャーが炎上した。だが本人は相変わらず狂ったように笑い続けており、スポーツを全身で楽しんでいる様子だ。燃え盛る炎の中から楽しぃネェェーッと叫びが上がる。
「す、すすいませーん」
 その脇を、クラスメイトPがそそくさと走ってきた。また新しいボールをドリブルしている。
 蹴った! ゴールにコロコロと入った!
 ──でも、誰も見ていなかった。


 ──特に後半戦が凄かったわ、まさにデスマッチね。勝利のポイントは、生き残ること。ただそれだけよ。(証言者:夜乃 日黄泉、ムービースター 女 27歳 エージェント)


「野郎ども! 一気に行くぞ」
 分が悪いと察したのか、ザンギーガは手を挙げた。自分はバイクにまたがり、たくさんのボールを手下に持たせ、ウオオ! と叫ぶ。銀幕チーム側に総攻撃をかけたのだ。
 レイと相棒とジム・オーランドが男たちの前に立ちふさがる。身体の何割かをサイバー化している彼ら二人は見た目よりずっと素早く、ずっと力強かった。ボールもろとも男たちを跳ね飛ばしていく。
「ボール持ってる奴、かかってこい!」
 ジムなどは、一人の頭を掴んで振り回しながら、他の男を寄せ付けない。
「ん。武器は使ってない、な」
 満足そうに審判二人はうなづく。

 と、一つのボールが場外へ飛び出した。そのボールは祖父とともに観戦していた幼い少女、マリエ・ブレンステッドの頭上に迫った。
「きゃっ」
 少女は可愛らしい悲鳴を上げ、慌てて手にしていた傘を奮った。ドガッ。あまり似つかわしくない音をさせて打ち返されたサッカーボール。それが手下の一人に当たった。男はギャッと悲鳴を上げてそのまま倒れ、動かなくなった。
「お爺さま、サッカーってこわいあそびなのね」
 祖父のエズヴァード・ブレンステッドはニコニコと微笑みながら、そうだね、と応える。
 そして、彼がひらりと手を返しながら、ああ暑いとつぶやくと、フィールドを走っていた男が一人、いきなり回りの味方に銃を乱射し始めた。
 ヒィィイ、手が勝手にッ!!? 背後に悲鳴を聞きながら、エズヴァードは孫の背中に手を置いて、もう少し後ろで見ようと囁いている。彼の操り糸なら、銃を乱射させるなどお手の物だ。

「失礼いたします……ッ」
 触手メイドのキュキュが、ここぞとばかりに進み出る。彼女は何本もの“足”を使って無数のボールを次々に奪っていく。これも武器ではないから反則は取られない。彼女は、全てのボールを奪い取ると、前方にいたランドルフ・トラウトにパスを出した。
「この化け物が!」
 男が一人、彼女からボールを奪おうとスライディングをかけてきた。
 が、キュキュのピンク色の触手が彼の身体に絡み付き、その威力を止めた。そしてズルズルと、徐々に彼を“足”の中に取り込んでいく。
「ギーガ様、助けてェッ、ギャヒィィッ……」
 ああ、これ以上は残酷すぎて!

「よし、ここは私に任せて下さい!」
 ボールをもらったランドルフは一直線にフィールドを失踪する。まるでラクビーのように迫り来る男たちをタックルで跳ね飛ばし、誰も寄せつけない。
「くっ、ゴメス、行くぞ!」
 ザンギーガはバイクを翻し、副官を呼んだ。──が、返事が無い。
「ボス、助けてーッ」
 振り返れば、ゴメスが遠くで黒塗りの車に押し込められているところだった。
 その車の後部座席には、ユージン・ウォンの姿がある。──あ、そういえば、さっきチャイナタウンで何かくすねてきたとか言ってたな……と、審判のフレイドが思い出した時、車はゴメスを拉致してそのまま走り去っていった。
 さすがのザンギーガも青ざめた。
 
「どうだろう、ギーガ君。僕の言っていたことが分かってきたかな?」
監督の真山壱が、ふらりとザンギーガの横に立った。「いくら反則をしたって……」
「──ムガァァ!!」
 だが、説得は効かなかった。ザンギーガは雄叫びを上げると、いきなり観客席に向かって走った。そして物陰にいた小さな男の子──ルウを見つけると、これ幸いとばかりに、ガッと摘み上げて高々と掲げた。
 きゃああっ、とルウが悲鳴をあげる。
「そこのデカブツ! このガキの命が惜しかったら、そのボールをよこせ!」
「何てことを!」
 さすがに足を止めるランドルフ。
 が、その脇から黒い影がサッと進み出た。シャノン・ヴォルムスだ。
「ぱぱ!」
 自分の養子を人質にとられ、彼はすでに相当頭に血を昇らせていた。が、それを外には見せない。どこからともなく愛銃を取り出すと、ピタリとザンギーガに向けた。
「その子を下ろせ。3秒待ってやる」
「何言ってんだボケェ! 離すわけねーだろタコ!」
 ──タ……ンッ!
 数えだす前に、ザンギーガは手を押さえルウを離してしまった。ルウはギュッと目をつぶったが、誰かの腕に抱きかかえられていることに気付いた。そっと目を開ける。そこにはシャノンの笑顔があった。
「もう大丈夫だぞ、ルウ」
「チクショウ、誰だ!?」
 ザンギーガの腕からは血が噴き出していた。誰かが観客席から彼を銃撃したのだ。
「……過激と言って良いんでしょうかね。こういった試合は」
 もう一人のシャノン──彼を演じた俳優である、ジョシュア・フォルシウスが人込みの中でこっそり銃を納めていた。何事もなくにこにこと笑っているが、銃撃したのは彼である。ジョシュアは満足したように人込みの中に溶け込み姿を消した。

「クソッ、こうなったら!」
 手下に逃げられ、ザンギーガはたった一人になっていた。焦った彼はさらに走る。そしてルウの代わりに、別の小柄な人物を捕まえ、首根っこを掴み上げた。
「この女の命が惜しかったら──」
「へっ?」
 それは──チアガールズのメンバー、綾賀城洸だった。
 自分の足がぶらぶらと宙を蹴っているのを見ても、彼はある意味冷静だった。
 僕は女じゃないです、と主張するよりも、ここはキャーッと悲鳴を上げといた方がいいのかな? などと人事のように考える。
「──テメェ、うちの生徒に何してくれるんじゃゴルァァアア!」
 が、洸が悲鳴を上げる間もなく、ザンギーガが最後までセリフを言い終える間もなく。白い影が猛然と走りこんできた。
 クレイジー・ティーチャーだった。目を見開くザンギーガ。その頭のZGの文字めがけて、殺人鬼はカナヅチを、大きく振りかぶった。
「死ねェェエエエ!!!」

 打った! ホームラン、だった。

 どう、と倒れるザンギーガ。
 終わったのか、と誰かが言った。
 一瞬の静寂。

「死ね死ね死ねッ! ヒャハハハ!!」
 倒れたザンギーガに向かって、クレイジー・ティーチャーはさらに攻撃を加える。
 人質に取られていた洸は、というと、彼は力強い腕に抱かれて助け出されていた。誰? と、目を開ける。
「大丈夫かい、キミ? 怪我しなかった? ンン?」
 それは、本気☆狩る仮面・るいーすだった。至近距離で、漆黒の蝶々仮面をつけた男がニッと笑う。
「あ、ありがとうございます……」
 と、洸は礼を言ったが、何だかビミョーに嬉しくなかった。


 ──そう。あの夕焼けが、きっと奇跡を起こしたんです。(証言者:綾賀城 洸、ムービーファン 男 16歳 学生)


「ギーガ君」
 殺人鬼の攻撃から助け出されたザンギーガに、真山壱が静かに声を掛けた。
「もう分かったよね? こっちが反則しなければあっちだって反則はしないよ。その方が僕達が勝てる確立が高い、でしょ?」
「ウ……、俺たちは負けたのか?」
「いや、まだ少し時間が残っているよ」
 ザンギーガは、地に膝をついたまま、真山を見上げる。
 その顔に夕日が射した。
「君たちに足りなかったのは……」
「──そうだ! 愛、だ!」
 いきなり横から誰かが口を出した。えっ? と真山が振り向くと、そこには祭りハッピ姿の赤城竜が仁王立ちしていた。彼はずっと暑苦しく応援していたのだが、とうとう感極まって、観客席から駆けつけてきたのだった。
 真山が、何言ってんの、と止めようとすると、ザンギーガが、カッと目を見開いた。
「そうか! 愛! 俺たちに足りなかったのは、愛だったんだ!」
「ちょっ、いや、ええっ?」
 ザンギーガは立ち上がり、赤城の手を取った。
「俺は目が覚めた。今さらになって、自分に足りないものに気づくとは!」
「いいって! 誰にも間違いはあるもんさ」
 うおぉーと号泣するザンギーガを、赤城は優しく抱きしめた。
「……さっき、CTにボコボコにされて、頭をやられちゃったのよ」
 呆然とする真山の肩を、縁が後ろからトントンと叩いて言う。
「愛! いいじゃないですか、愛!」
 そこでクラスメイトPが感激したように走ってきて、二人の手を掴んだ。
「そうです! スポーツは愛なんです。友情なんです、そしてきっと正義なんです!」
「リチャード! 君まで頭をやられたの!?」
 梛織が遠くでツッコんだが、親友の耳には届かなかった。
「残りは10分あります。さあ、ゲームを続けましょう!」
「でも……」
ザンギーガは顔を曇らせる。「俺には手下が、もういない」
「何言ってるんですか、ここは銀幕市ですよ! 仲間はたくさんいます」
「るいーすとあーるもいるよ☆」
「そして、ノリ、アルよ!」
 無視。
「そうだ、お前は一人じゃないんだ!」
「一人じゃない……そうだったのか、俺……」
 ザンギーガは涙すら浮かべ、鼻をすすった。

 ありがとうありがとう。みんなありがとう。

 そんなわけで、奇跡が起きた。
 夕焼けとともに訪れたミラクル空間に巻き込まれて。生き残った面子は、残り時間を愛に満ちたサッカーを続けたのだった。
 試合は17対91で、銀幕チームの勝利に終わり、そして日が暮れた。
 いろいろあったが、皆、いい笑顔だった。
 スポーツで親交を温めあったのである。

「ところで……」
 並んで礼をし、お互いのスポーツマンシップを称えあった面々を迎えながら、真山はザンギーガに声を掛ける。
「そもそも君たち、スポーツの試合をふっかけるなんてこと、どうして思いついたの?」
「嫌だな、カントクゥ。あんたが教えてくれたんじゃねえか。スポーツってことにすれば、殺りたい放題だぞって」
 つやつやの顔になったザンギーガが、いい笑顔で言う。
「え、僕そんなこと言ってないよ」
「そうだっけ? あ、じゃあもう一人のカントクの方か」
「監督は僕一人でしょ」
「あれ? もう一人いなかったっけ?」
「いないよ」
 首をかしげるザンギーガ。真山も首をひねった。確かに言われてみれば、もう一人いたような気もする。
 気のせい、か?
 なんとも釈然としないものの、それなりにいい試合にもなったし、まあいいか。真山はひとまず自分の気持ちを落ち着けた。

 そして、彼ら、ザンギーガ一味は晴れて銀幕市の一市民となった。
 それぞれ、スポーツで気持ちのよい汗をかいた銀幕市民たちは、夕日を見つめながら、満足して家路についたのだった。


 ──うふふ。上出来だったんじゃない? アムネシオス。あなたの能力が本物だってこと、よく分かったわ。(証言者:?、? 女 ?歳 ?)



                         (了)

クリエイターコメント総勢117名のサッカー大会になりました。ご参加ありがとうございました!!

穴探索や、レヴィアタン討伐作戦が開かれようって時にみなさんこんなことしてたらしいですよ(笑)。

素敵なプレイングが多く、全てを採用したくてとても迷ったところ多かったのですが、やはり実際に身体を動かす方(=試合に参加される方)を優先させてもらいました。
全ての方にオチをつけられずに申し訳ありません。
あっ、それから投票により勝ち負けを決めましたが、本当に17点:91点でした。

キャストは以下のようになっております。敬称略で失礼します。
重ね重ね、ご参加をありがとうございました(^^)。

──────────────────────
■銀幕チームに参加
クラスメイトP/晦/モミジ/秋津 戒斗/桑島 平/岡田 剣之進/岸 昭仁/槌谷 悟郎/王様/須哉 逢柝/河野 水漣/梛織/神宮寺 剛政/神龍 命/太助/沢渡 ラクシュミ/浅間 縁/DD/ベルナール/セバスチャン・スワンボート/狼牙/アレグラ/片山 瑠意/アル/ルア/シャノン・ヴォルムス/ランドルフ・トラウト/キュキュ/吾妻 宗主/フェイファー/来栖 香介/ベル/ティモネ/レイ/ジム・オーランド/本気☆狩る仮面 るいーす/本気☆狩る仮面 あーる
▲キーパー
コーター・ソールレット

■ザンギーガ一味に加わる
ベルヴァルド/ムジカ・サクラ/蔡 笙香/レモン/クライシス/流鏑馬 明日/玄兎/エリック・レンツ/コキーユ・ラマカンタ/キスイ/ギル・バッカス/須哉 久巳/狩納 京平/ルウ/ルイス・キリング/旋風の清左/シルヴァーノ・レグレンツィ
▲キーパー
RD/クレイジー・ティーチャー/清本 橋三
▲マネージャー、メカニック
二階堂 美樹/レオ・ガレジスタ
▲監督
真山 壱

■実況中継、アナウンサー
サンク・セーズ/夜乃 日黄泉

■審判
フレイド・ギーナ/サエキ

■試合に、専用グッズを調達
ヴィディス バフィラン/崎守 敏/シュウ・アルガ/ファーマ・シスト

■観客だが、試合に関与
柊木 芳隆/ディズ/ジョシュア・フォルシウス/香玖耶・アリシエート/ロゼッタ・レモンバーム/津田 俊介/シュウ・アルガ/シュヴァルツ・ワールシュタット/アーネスト・クロイツァー/皇 香月/デゼルト/翡翠/ノリン提督/ユージン・ウォン/ジャック=オー・ロビン/ヘンリー・ローズウッド/古森 凛/風轟

▲審判に対して色目や妨害
ソルファ/ヴァネイシア/神凪 華/ブラックウッド

■観客、商売をするなど
昇太郎/スルト・レイゼン/ゲンロク/簪

■観客としてゲーム観戦
真船 恭一/鷹司 千歳/マリエ・ブレンステッド/エズヴァード・ブレンステッド/赤城 竜/相原 圭/悠里/ベアトリクス・ルヴェンガルド/七海 遥/青宵/成瀬 沙紀
▲チアガールズ
朝霞 須美/リゲイル・ジブリール/綾賀城 洸/夜乃 日黄泉/新倉 アオイ/ソルファ/クロノ

■賭け事にいそしむ
ルークレイル・ブラック/チヒロ・サギシマ/シキ・トーダ

■救護班
カロン/サキ/ディーファ・クァイエル/針上 小瑠璃
公開日時2008-07-04(金) 20:30
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