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<ノベル>
銀幕市。
お社にお参りに来ている女性が居た。
探索隊の人達や何より旋風の清左が無事に戻ってくる様に、ひっそりと祈った。
願えば叶う。
そう信じて、……あの人を信じて。
「……どうか、無事で帰ってきてくんなまし」
お願いします、と涙を流し着物の麗人は祈り続ける。
所変わって、ネガティブゾーンの一角、清左を含む探索隊達は窮地に立たされていた。
「これは、どうしたもんだろうか……皆さん……」
「こっちの探索員は気絶してる……あの光が原因?」
清左の問に鳳翔 優姫が答える。
「この囲まれている状況、何とかせねば。このままでは皆の命が危うい。あの光る玉も気になるが、皆の命には代えられないであろう」
と、木村 左右衛門が篭手型のゴールデングローブをはめ、模造刀を握り皆に撤退案を出す。
「逃げるにしたって、どうするよ?このディスペアーの群れじゃそう簡単には、帰してくれそうもないぜ」
そう言って、李 白月は左右衛門に問いかける。
その時、白月はつい見てしまった。
岩陰に隠れた、あの光を。
探索員達に恐怖を与えた、あの丸い光を。
その時白月の脳裏に浮かんだものは……。
母の死……。
通り魔だった。
一瞬で命をこれからを奪われた……。
それを目の前でまざまざと見せつけられた。
そして次にフラッシュバックして見た映像は、自分……闇月が親友を殺した光景。
些細な喧嘩。
その時、親友がバタフライナイフを出した。
そして……闇月は狂気の叫びをあげ、そのバタフライナイフを奪い、親友を滅多刺しにした。
顔すらもズタズタで、かつて親友だったものは、白月の前でむごたらしく横たわっていた。
目映い光となって何度も襲ってくる。
それが引き金となった。
「こんなちっぽけな闇に負けそうになるなんてな……」
白月は、苦悩に耐えられなくなり、その身体をもう1人の自分、闇月に明け渡した。
身体を明け渡す瞬間、白月には聞こえた気がした。
『きゅーぅ。きゅいっきゅきゅー』
と言う友の声を。
白月は、眠りについた。
そして、次に目を開けた白月は獰猛な野獣に変化していた。
「……ここはどこだよ?」
「何言ってんだよ、ここはネガティブゾーンだろ?このディスペアー達を何とかしねーと、帰れないっておまけ付きだろ?」
目つきが一変した白月に驚きながら、シルヴァーノ・レグレンツィが闇月に答える。
「そういや、白月が夢の中で今日は、大変な一日になるとかほざいてたな。そうか、なら俺にも楽しませろや」
そう言うと闇月は棍棒を構えるとディスペアーの群れに襲いかかった。
「オラオラオラオラァ!どうした!?もっと楽しませろやぁっ!」
その姿は、正に血を求める獣。
次々と襲いかかってくるディスペアー達を返り討ちにしている。
「アレは、本当に李なのか?」
あまりの白月の変貌ぶりに、三嶋 志郎がみんなを見渡す。
「あの光が放つ、光で別人格に身体を受け渡しちまったのかもな。ムービースターには極稀にいる」
シルヴァーノが言い放つ。
「それでこれから、どうする?」
シルヴァーノの問に皆が顔を見せる。
今、ディスペアー達は白月が抑えてくれている。
今なら逃げることも可能だ。
しかし、それでは月を置いていかなければならなくなってしまう。
「ねえ、白月君がディスペアー達を抑えている間に僕達であの光の玉の正体を見破ろうよ」
優姫が皆にそう言う。
「確かに、あの光の玉は気になるが危険すぎやしないか?発狂しちまった奴もいる」
志郎がそう言うと、
「しかし、あの玉を調べるというのも、調査に来たそれがし達の使命であろう」
左右衛門がそう返す。
「そうだな、あんな危険なもの、正体も探らないで帰れないよな」
シルヴァーノも言う。
「そうでやんすね。あっし達が正体を探らない限り、第二の被害が出ないとも限らないでやんすしね」
清左も賛同した。
「それじゃ、行こうみんな!白月君が心配でもあるけど、今の白月君に近づいたら、私達も巻き添えくいそうだしね」
優姫がみんなを先導する様に、走り出す。
「お前等、極力あの光の玉は、見るんじゃねーぞ」
駆けていく仲間達に、そう言いながら走っていく志郎の首元にはシンプルなチェーンのネックレス型のゴールデングローブが輝いていた。
光の玉を目指して走り出したものの、走り行く先にはその玉がある。
自分の中に封じ込めていた負の感情を引きだしてしまう、光の玉が。
見ない様に見ない様に近づいてもどうしても視界の中に入ってきてしまう。
その、負の光にまず最初に屈してしまったのは、先頭を走る優姫だった。
彼女の体躯が前のめりに崩れ落ちる。
優姫は夢を見ていたあの日の夢を。
自分の魔力が暴走した時のことを……。
自分はただみんなを護りたかった。
ただ、敵の力が強すぎただけ……。
僕には、まだみんなを護るだけの力が足りなかっただけ……ただそれだけ。
それでも、護りたかった。
力が欲しかった。
だから、僕は禁忌の呪文を使った。
まだ、僕が手を出しては、いけないもの。
僕が御しえる訳のないもの。
それでも使った。
みんなを護りたかったから。
その結果……敵は消えた。
跡形もなく。
その代償として、僕の愛する街を焦土と化して。
僕は、泣き崩れた。
僕の護りたかったものは、もう無い。
僕自身の手で消してしまったから。
三日三晩泣いた。
友を親しい人々を失った悲しみで、他に何も出来なかった。
自分の無力を呪った。
夢の中で僕はもう歩けない。
このまま、ディスペアーの餌になるべきだと思った。
その時、光が差した。
仮面を被ったとある道化が現れたのだ。
そうあの時もそうだった。
笑顔の仮面を被った道化が現れて、ジャグリングを見せてくれた、手品を見せてくれた、笑顔になって欲しいと言った。
「どうしても笑えない時は、我の様な笑顔の仮面を付ければいい。何時か本当のお主になるからのう」
そう言って、風の様に去っていった道化。
僕に笑顔をくれた道化。
そうだ!
僕は笑顔でいなくちゃ!
そう思った瞬間、優姫は目を覚ました。
「大丈夫ですかい?鳳翔の姉さん?」
心配そうな顔で清左が頭を支えている。
他のみんなもみんな一様に不安げな顔を見せる。
それを見て、優姫は、
「僕なら大丈夫!僕には笑顔の力が有るもん!だけど、あの光の玉は絶対に壊さなきゃいけないって分かったよ」
優姫が新たな決意を持って歩き出す。
その言動に安心したのか他の仲間達も優姫に続くのだった。
光の玉が近づくに連れ、優姫以外のメンバー達の心にざわめきが生じ始めた。
光の玉に近づくにつれてざわめきは大きくなる。
だが光の玉を視界に入れない訳には、いかない。
一瞬の油断だった。
群れを離れたディスペアーの攻撃を避ける際、はっきりと見てしまった。
玉を見てしまった、左右衛門が膝を突く。
押し寄せる波。
苦悩と後悔、同時に左右衛門に降りかかる。
親友だと思っていた。
掛け替えのない親友だと。
だがそれは、それがしだけが思っていたことなのだろうか。
それがしは、不正を働く上役を斬った。
だが、親友の証言さえ有れば、問題もなく処理された筈だった。
だが、親友は、それがしが親友だと思っていた男は、私を裏切った。
出世欲の為に、それがしを上役を斬った大罪人だと証言した。
その時、それがしの世界は真っ暗になった。
親友だと思っていても所詮他人なのだと。
信頼を裏切られたそれがしは、自暴自棄になった。
だがその時光が灯った。
素浪人になったそれがしは、また、友と呼べる男と会った。
その男は何事にもあけっぴろげな性格だった。
それがしと同じく、元武士だと言っていた。
酒の弱い奴で、良くそれがしが長屋まで連れて行ったものだ。
だが、そんな幸福な日々も長く続かなかった。
夜半過ぎそれがしはいつもと同じく奴と一緒に飲んでいた。
それは、一瞬だった、後ろから刀の一振り。
奴は、背中から大量の血を流し倒れた。
それがしは、直ぐさま友を斬った浪人を追った。
河川敷、奴は血を拭う為にそこに居た。
それがしは、何故友を斬ったのか問うた。
『お役人さんが、あいつは邪魔だから消しておけって。金貨積んだのさ』
悪気もなくその男は、言った。
『何なら、あんたも金貨にしてやろうか?元役人なんて居ても居なくても同じであろう』
その男は笑いながら言った。
それが、最後の記憶。
いや、その男に斬りかかったのは覚えている。
数刻後だろうか気が付いた時それがしは雨に打たれ、身体を袈裟斬りにされていた。
生きているのが不思議だった。
だが、それがしにはそんなことを考えている余裕はなかった。
友の元へ行かなければ。
痛みをこらえ、友が斬られた場所まで向かった。
しかしそこに友の姿は、無かった。
あの男は役人から頼まれたと言っていた。
証拠隠滅の為に運ばれた。
それがしは直感した。
雨の中それがしは、痛む身体のことを忘れむせび泣くしかなかった。
「あの奇怪な光の仕業か、……それでも此処で膝を折るわけには、いかぬ、おちつかねば」
友の為に、そして銀幕市の為に。
「……左右衛門さん大丈夫?」
優姫が不安そうに顔を覗き込む。
「大丈夫であるよ。少し嫌な夢を見せられただけでな。あの球体、早く壊さねばな」
左右衛門が言う。
球体まであと少しと迫っていた。
一行は迫り来る苦悩と心の中で闘いながら、進軍を進めた。
そしてあることに気付く。
「あの球体、何かにぶら下がってないか?」
シルヴァーノが言うと確かにその玉は、何か太い紐の様なものにぶら下がっている。
皆がその紐の様なものを見る時に、志郎ははっきりと玉を見てしまった。
この近距離だ。
目を離すことも出来ない。
志郎に襲いかかってきたものは、自分の人生が架空の出来事、『映画』だったという現実だった。
俺がかつて、歩んできた人生が、それが現実のものではなく、俺自身の存在意義の置き場が無くなってしまったじゃないか。
俺が闘ってきた事も、苦しんできたことも全ては、誰かが作った架空の話なんだろう。
「そうならば、何処にいればいい……俺は」
自問自答を繰り返し、思考が蛇に巻かれた様にがんじがらめになっていく。
俺が積み上げたものは何も無かった。
これが事実だ。
少なくとも俺はそう認識した。
弟を殺した犯人も映画で知ることになった。また、どうやって俺がその犯人を殺したのかをも見た。
知るべきじゃなかった。
座学で習った。
『無力化するべき相手の目を見るな。知ろうとするな』
その教訓は本当だった。
だが、まだ俺には光がある。
残念ながら俺の人生で得た教訓だけは、どうやら形を失わずに済んだ。
そして、俺の五体は満足だ。
二本の足も健在だ。
この足を失っても、這ってでも生きてやる。
俺が何時死ぬかは俺が決める。
それが、映画の登場人物だったとしても。
「三嶋の旦那!三島の旦那!しっかりししてくだせい!」
清左が志郎の肩を揺する。
「いや、ちょっとした、立ちくらみだ。ただのな……俺は、俺だしな」
そうこうしていると、光の玉が紐の様なものに揺られて移動し始めた。
そして、一行の前に現れたのは、巨大なチョウチンアンコウだった。
「こいつが悪夢の元凶か……さしものあの光で罠を張って俺達を待ってたってとこだろう……餌を求めてな」
志郎がサバイバルナイフを構えて言い放つ。
他の皆も自分の得物を手にするが、あの光の玉、チョウチンアンコウの提灯の光を浴びると心にざわつきが蠢き出す。
「それでは、こちらから行かせてもらうでござんすよ!」
清左が一気に詰め寄り地を蹴って、その刀を振り下ろそうとした瞬間。
チョウチンアンコウはその提灯を清左の前にかざす。
その光が清左を包み込んだと同時に、清左は落下してしまう。
そして、清左の意識は過去へと戻される。
その昔、侍だった俺には、親友が居た。
『菊井』というかけがえのない親友が。
無二の親友だった。
剣の腕は、奴の方が上だったのを覚えている。
だが、それ以外はからっきしの不器用な奴だった。
それでも、何故か気が合って、いつも一緒にいた。
一緒に年をとるものだと思っていた。
しかし、ある日何の前触れもなく、俺の前から姿を消した。
それから、しばらく経った頃だろうか。
巷で辻斬りが話題になったのは。
俺は、その辻斬りの凶行を止めたかった。
だから、あの日辻斬りが出るという橋に向かった。
数刻経ち、満月がてっぺんに来た頃だろうか奴は、現れた。
深く笠を被って表情は読みとれない。
その男は、笠の裾からちらりと俺を見つめると、一気に間合いを詰めて斬りかかってきた。
俺は、直ぐさま刀を抜いて、それを防いだ。
そのまま刀を弾き、その反動でその男の笠が飛んだ。
その下の素顔は、
「……菊井!」
『……問答無用!死ねい!』
迷いのない刀の振りだった。
だから……だから……俺は斬った。
親友だった、菊井を……。
「お前は、俺より強いはずじゃなかったのか?何で俺はお前を斬らなきゃならなかったんだ……?」
満月の中の慟哭……。
物言わぬ死体となった親友の亡骸を抱いて、物言わぬ親友に問いかけるのだった。
償えない、許される筈が無いと懊悩していた、この街に来て彼等家族と会うまでは。
暖かかった。
そして思い出した。
大切な者を守る為に技を磨くと菊井と誓った幼い頃を。
彼が望むか分からない。誓いを果たしたいと思うのも自分の為だろう。
だから許されるとは思わない。
だがあの世で友と再会したら誇りをもって言おう。俺はお主との誓いを死ぬまで貫いたと。
信じた者、大切な者を守る為に、如何なる敵にも立ち向かったと。
「俺には、帰る場所があるんだよ……こんな所で死ぬ訳にはいかんのよ!」
清左は刀を杖代わりに立ちながら、苦悩を封印するのだった。
希望という鍵をかけて。
一方、シルヴァーノは、自慢の魔剣がどうにかゴールデングローブの効果を受けない範囲だったので優位にチョウチンアンコウと渡り合っていた。
「これなら魔法が使えない制約なんて平気だな」
その時、反対側で闘っていた左右衛門の怒声が響いた。
「アルヴァーノ殿避けるんだ!」
ちょっとした油断だった。
アルヴァーノの元にチョウチンアンコウの提灯の光が浴びせかけられた。
「うわっ!」
闇の中だった。
一体の悪魔が狂ってしまった。
その悪魔は、シルヴァーノの親友が誓約していた悪魔だった。
突然狂った。
親友はそれを止めようと必死だった。
もちろん自分も手伝った。
だが、その暴走は止まらず、最後には誓約者と同化して、自我のない化け物と化そうとしていた。
だから、俺はこの手で悪魔と親友を殺した。
悪魔と同化したら、親友の魂は救えない……けれど殺した罪は消えない。
だが、涙は流れなかった。
罪の意識には苛まれている。
だが、泣けない……。
涙を流すことすら許されない罪。
それが自分にかせられた罰。
だが、その時声が聞こえた。
誰のものか分からない。
『ありがとう』
自分が救われた言葉。
誰の言葉だったかは分からない。
悪魔の声だったのか、れとも心を壊された親友の言葉だったのか……。
だけど、俺は救われた。
だから、俺は今ここにいる。
「俺には、まだやらなきゃいけないことがある」
「シルヴァーノ君、大丈夫?」
倒れた、シルヴァーノを気にかけ優姫が二本の刀を手に持ち、シルヴァーノに近づく。
「シルヴァーノ君……泣いてるの?」
そう言われて驚いたのはシルヴァーノだ。
「俺が泣いてる……」
目をこすり。
「涙だ……何で今頃」
「大丈夫?」
優姫が気にかける。
「大丈夫だこの借りは、きっちり返してやるぜ」
チョウチンアンコウの光は一度克服してしまえば、あとは心のざわめきだった。
こうなれば、武芸に熟練した探索隊の敵では、無かった。
だが、触れられたくない過去を表面化された探索隊の怒りは、絶大だった。
ムービースターの集団というのもあっただろう。
巨大チョウチンアンコウは鋭い牙をもがれ、なまめかしい鱗をズタズタにされ、その巨体を沈まない海に横たえるのだった。
それと同時に周りを覆っていたディスペアーも逃げて行く。
「あいつ等、餌が逃げない様、檻の役割もしてたんだろうな」
志郎が言う。
そんな話をしていると、単身ディスペアー達と闘っていた、白月いや闇月が走ってきた。
「どうやら、ここのボスは倒せたみてーだな。俺もひとしきり暴れられて満足だぜ」
そう言って、唇を下でペロリと舐める。
「それじゃ、面白かったし、白月にこの身体返してやるかね。これからも白月は俺が護ってやるしよ。あばよ」
そう言うと、闇月は倒れ込んだ。
「あれ、ここは?」
「白月殿、お帰り。もう戦闘はおわったよ。」
清左が優しく言う。
「……あ……また闇月が……」
そう言って下を向く白月。
「まあ、いいじゃねーか。とりあえずこの探索報告を持って、銀幕市に帰ろうじゃねえか」
シルヴァーノが言うと皆頷き、帰路へつくのだった。
この罠の張られた森の調査報告を持って。
今回の探索が銀幕市の平和に繋がる様に祈りを込めて。
自分達には、待っている人達が居るのだから。
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クリエイターコメント | こんにちは、冴原です。 【ネガティヴゾーン探索】お疲れ様でした。 今回は心情重視と言うことで、皆さんの気持ちの伝わるプレイングがとにかく凄かったです。 ネガティブゾーンの攻略はこれからが本番ですから皆さん頑張ってくださいね。
誤字脱字、感想、ご要望等ありましたらメール下さると嬉しいです。
それでは、また銀幕の世界でお会いしましょう。 |
公開日時 | 2008-06-28(土) 20:00 |
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