★ 今日は短し進めよ乙女 ★
クリエイター依戒 アキラ(wmcm6125)
管理番号198-7546 オファー日2009-05-06(水) 18:47
オファーPC ニーチェ(chtd1263) ムービースター 女 22歳 うさ耳獣人
ゲストPC1 浅間 縁(czdc6711) ムービーファン 女 18歳 高校生
ゲストPC2 アレグラ(cfep2696) ムービースター 女 6歳 地球侵略軍幹部
ゲストPC3 リゲイル・ジブリール(crxf2442) ムービーファン 女 15歳 お嬢様
ゲストPC4 朝霞 須美(cnaf4048) ムービーファン 女 17歳 学生
ゲストPC5 鳳翔 優姫(czpr2183) ムービースター 女 17歳 学生・・・?/魔導師
ゲストPC6 冬野 真白(ctyr5753) ムービーファン 女 16歳 高校生
ゲストPC7 レモン(catc9428) ムービースター 女 10歳 聖なるうさぎ(自称)
ゲストPC8 アルト(cwhm5024) ムービースター 女 27歳 破壊神
ゲストPC9 須哉 逢柝(ctuy7199) ムービーファン 女 17歳 高校生
<ノベル>

「……はぁ」
 目の前の光景に、鳳翔 優姫(ホウショウ ユウキ)は溜息をつく。夏も始まった、休日の午後のことだった。
「あら〜ん。溜息なんてダメよぉん」
 優姫の溜息に、ニーチェが優姫の首に腕を回して横から抱きついて言う。
「溜息だってつきたくなるよ。どうしてこう、ついてないかな」
 ほんの30秒前のことを思い出しながら優姫は言う。
 優姫はニーチェと一緒にケーキの美味しい喫茶店へと向かっていた所だったのだ。ほんの、30秒ほど前までは。
 ところが今はどうだろう。急に何処かの部屋のような場所に投げ出された。考えるまでも無い。ハザードに巻き込まれたのだ。
「ええ、と……」
 後ろからの突然の声に優姫はビクリと動きを止めて振り返る。その優姫の視線をニーチェも辿る。
「あらん。綺麗な子ねぇん」
 早速ニーチェがスキンシップにいく。
「はぁい、アタシはニーチェよん。宜しくね。んちゅ〜Vv」
「え? あ……えぇ、こんにちは。アルトよ」
 訳の分からない状況で急に頬にキスされるも、なんとか状況を飲み込んでアルトは答える。
「きみも災難だね」
 キスされたり抱きつかれたりしているアルトに、冗談交じりに優姫。
 その時、どこか遠くから叫び声のような声が聞こえる。瞬間的に身構える三人。
 しかし叫び声が徐々に大きくなるにつれて、その叫び声がどんな類のものかが分かってくる。
「一名様ごあんな〜いVv」
 楽しそうにニーチェが言うと、叫び声が鮮明になって聞こえる。
「あーーーーーーーーれぇーーーーーーーー」
 ――ボテッ。
 現れたと思ったら急に倒れこんで、その影は言う。
「こうして聖なるうさぎのレモン様はその長い生涯を終えるのであった……」
 レモンだった。目を閉じて倒れこんだまま微動だにしない。
「…………」
 そんなレモンを見守る三人。
 ――むくり。
 しばらくして、レモンが上半身を起こす。
「ここが死後の世界なのね……あら、見たことのあるウサちゃん」
 キョロキョロと辺りを見回した後、ニーチェを見てレモン。
「はぁい、ウサちゃん」
 ひらひらと手を振って返すニーチェ。
「って! ニーチェじゃないのよ!! ……はっ、これはまさか。まさかまさかまさかっ!!」
「うさぎのおうこ――」
「そ。ハザードよんVv」
 んちゅ。とキスをしながらニーチェ。途中まで何かを言いかけていたレモンは、そう。ハザード!! と高らかに叫んだ。
 次に現れたのは須哉 逢柝(マツヤ アイキ)だった。逢柝は現れるなり頭を抱え込んで蹲る。
「あぁ〜〜っ」
 そのあまりに絶望的な声に、思わずアルトが話しかける。
「大丈夫?」
「晩御飯が間に合わない……!」
「……?」
 きょとんと、一同は逢柝を見る。
 実は逢柝は、夕飯の材料を買いに出かけるところでハザードに巻き込まれたのだ。ある出来事の罰として当分の晩飯当番をやらされる事になった逢柝。そんな敏感な時期に晩御飯が遅れたら、あの厳しい師匠のことだ。どんな目に合わされるか分からない。だからこその絶望的な叫びだった。
「晩御飯なんてアタシが御馳走してあげるわよん」
 言いながら逢柝に抱きついてキスをしようとするニーチェ。
「いィ!?」
 急なニーチェの行動に思わず逢柝は顔を遠ざける。
「あ〜ん。逃げちゃイヤンVv」
 その光景はほとんどセクハラギリギリだ。
「あれは恒例なのね」
 アルトの言葉に苦笑いの優姫。
 今度は三人組みだった。冬野 真白(フユノ マシロ)とリゲイル・ジブリールと朝霞 須美(アサカ スミ)の三人だ。三人でショッピングをしている所をハザードに巻き込まれたのだった。
「え……? ここは?」
「ハザード、かな?」
「……の、ようね」
 真白、リゲイル、須美と。
「えーっ! どうしよう?」
「困ったわね」
 突然のことに慌てる真白とは対照的に静かに考え込む須美。その時、部屋を見回していたリゲイルが他の人達に気がつく。
「なかなかいいリアクションね」
 真白を見ながらレモン。
「はぁいVv」
 そしてやっぱりスキンシップを取りにいくニーチェ。
「もしかして、みんなも?」
 ハザードに巻き込まれたの? とリゲイル。
「どうやらそうみたい」
 と優姫。
 最後に現れたのは、アレグラと浅間 縁(アサマ エニシ)だった。浅間は姿を現すなり、辺りを見回してから頭を抑えて言った。
「ありゃ……やっぱりかぁ」
 アレグラと買い物を楽しんでいた浅間。突然現れたハザード空間にアレグラが自ら飛び込んでいくのを見て慌てて追いかけてここに来てしまったのだ。
「ここ、ドコだ?」
 キョロキョロとアレグラ。そんなアレグラの様子を見て、とりあえずは無事でよかった。と安堵する浅間。
「次から次と増えるねぇ」
 と、逢柝。
「1,2,3、4……」
 人数を数えているのは真白だ。
「さて、どうしようか」
 何人かが考え込む。ニーチェはやっぱり新しく来た二人にスキンシップをしにいく。
「とりあえずは、散策? かな?」
 辺りを見回してリゲイルが言う。
 先ほどから立続けに人が増えていたからしっかりと見る余裕がなかったが、ここはとても不思議な空間だった。
 一見して分かるのは、ここが部屋の中ということ。それと部屋の中はきらきらとしていて、とても綺麗だということ。だからだろう。散策という言葉を聞いて興味津々に動き出すものが何人かいた。
「ん? なんだこれ」
 ガシガシ、と何かを足で突付きながら逢柝。そのまま横に回ってぎょっとする」
「……牛!? って、置物か。随分とでかいな」
「これは……腕、輪?」
 須美がハートのモチーフのついたリングのようなものを持ち上げて首を傾げる。
「なんかこれ、キラキラしてて高そうね」
 言いながら木の下で飛び跳ねているのはレモンだ。木にはキラキラしたクリスタルがぶら下がっている。
「綺麗……」
 足元を見て呟くのはアルトだ。アルトの足元には蒼く澄んだ水晶のようなものが幾つも連なっていて、それはまるで神秘的な泉のようだ。
「可愛らしいハザードだね」
 辺りを見ながらリゲイル。その腕にはニーチェがしがみついていた。
「不思議なものばかりね〜ん」
「そう。なんか不思議なんだよね」
 ニーチェの言葉に同意して浅間。近くにあるものに色々と手を伸ばしている。
「不思議? 陰謀だな!」
「怪奇。女好き伯爵の陰謀! みたいなの?」
 アレグラの言葉に、ふふふと笑いながら冗談交じりに真白。
「三流のミステリー小説っぽいわね」
 同じように須美も笑う。薔薇のつぼみを触りながら、造花のようね。と呟いている。
「ないないない。そうだとしたらよっぽどの物好きな伯爵だね」
 僕を入れるなんて。と優姫が胸の前で手を振りながら言う。
「どっちにしても、会ったら蹴り入れてやらなきゃな」
 ははっ、と逢柝。
「でもぉ〜。集まったのは女の子だけなのよねん」
「言われてみればそうね」
 ニーチェの言葉にレモンが頷く。
「それにしてもこの部屋、なんかどこかで見たことあるような気がする」
 うーん、と唸りながら真白が立ち止まって首を捻る。
「そう? 僕は殆んど見たこと無いようなものばかりだよ。見たことあっても、用途は全然分からない。これなんて、何に使うんだろう。こんな大きなグラスじゃ水も飲めないよ」
 置物のように置いてある背丈ほどのグラスのふちに手をあてながら優姫。それをみて須美が訝しげな顔で言う。
「ねぇ、もしかして……それグラスじゃないかしら。インテリアに使うような」
「さすがにちょっと大きすぎるんじゃ……あ、そっか」
 言いかけて、浅間が何かに気がつく。
「とすると。これはマニキュア?」
「これはフレグランス」
 マニキュアの瓶を抱いて浅間と、大きな瓶を軽く揺らしながらアルト。中に入っているフレグランスが揺れ、僅かに匂いが漏れる。
「そう。腕輪かと思っていたこれは、実は指輪」
 その会話に、次々とみんなが気がついていく。
「え、え? どういうことなのよ? 誰か説明しなさいよー!」
 やきもきとしていたレモンが叫ぶ。
「つまりね、どうやら私達……」
 すぅ、と一つ間を置いて、須美は続ける。
「身体が縮んでしまったみたいなのよ」


『闇の中』
「それにしても。小さくなったのはいいけど、一体ここで何をすればいいんだろうね?」
 自分たちの身体が小さくなってしまったということは理解した面々。そうならばこの可愛い雑貨で溢れた部屋、ドールハウスのような場所で自分たちに何をさせようとしているのかを考え始める。
「待ってればそのうち……っていうのは、やっぱり楽観的過ぎるかな」
 優姫が言う。
「でも、唯一の出口には鍵が掛かっているわ。最終的手段は壊す事になるのだろうけど、外に通じているのかも分からないわね」
 なにか必ずヒントがあるはず、とくまなく見て回っているのは須美だ。
「ぽこ、食べれそう?」
 鞄から顔を出していたバッキーの『ぽこ』に話しかける真白。ぽこはふるふると首を振っている。どうやらあまり食べたくないらしい。
「見た感じ、食べ物が無いのは困るかなぁ」
 あ、別に今すぐ食べたいって訳じゃないよ? と付け加える浅間。
「――そうよっ! 食べ物も、お風呂もないじゃない! 綺麗な所だけど元に戻れないのは困るわっ!!」
 言い放ち、ドアへと走り寄るレモン。
「簡単には壊せなさそうだぜ。さっき蹴ってみたけどビクともしなかった」
「コラーー!! 開けなさいよ!!」
 ドンドンとドアを叩くレモン。急に何かに気がついて叩くのをやめる。
「あれ? なによこれ」
 軽く瞬きをしてドアに顔を近づけるレモン。そこには何か文字のようなものが書かれていた。低い位置に書いてあった為、他の者は気がつかなかったのだ。
「ええと、『闇の中』? なんなのよこれ?」
 レモンがその文字を読み上げた瞬間。突然照明が落ちて部屋の中は真っ暗になる。
「……え?」
「――キャッ!」
「みんな、危険だから動かないで!」
「――ふぎゃっ! す、少し遅かったようね」
 浅間の声に、少し遅れてレモンが返す。どうやら何かにつまずいて転んでしまったようだ。
「アレグラ、アルト。どこ?」
 ひとまず小さい子を近くにと思って浅間が声を出す。アルトは見た目は大人だが、接しているうちに自然と子供としてに接するようになっていた。中身が子供だというのが浅間には伝わっていたようだ。
「アレグラここ。安心しろ」
 リンリン、とベルを鳴らすアレグラ。浅間はベルのあった位置を頭に思い浮かべながらアレグラの元に歩いていってその手を握る。
「私は、ここ」
 指先に小さな光を燈して、アルトが答える。こっちに来れる? 足元に気をつけて。という浅間に小さく頷いて浅間の元へ向かう。
「アタシも怖いわ〜んVv」
 言葉とは裏腹に楽しそうにニーチェが近くの人に抱きつく。
「ひゃっ」
 ニーチェに抱きつかれて思わず声を出してしまったのは須美だ。コホン、と取り繕うように咳払いをしてから須美は続ける。
「ニーチェさん……ちょっと」
「だってぇ、怖いんだも〜ん」
 さらにぎゅうと身体を押し付けてニーチェ。
「ニーチェ、セクハラする前に明かり探すの手伝って。暗いと何もできないよ」
 さらりと優姫。
 ――パアッ。
 そこへ僅かな明かりが射す。
「携帯の明かりって、意外と明るいんだよ」
 えへへ、と自分の顔を照らして見せるのは真白だ。暗くなった時に慌てて取り出したのだ。
「あ、よかった」
 真白の近くにいたリゲイルが真白の腕にしがみつく。暗い場所は苦手なのだ。
「お、蝋燭みっけ。けど、ちょっと勿体無いな、これ。どこかにランプとかもなかった?」
 蝋燭を見つけた逢柝だったが、綺麗な薔薇の蝋燭は火を燈してしまうのが勿体無いような気がしたのだ。
「ランプは……確か」
 少し考え込んで、須美。
「リゲイル。照明が落ちてから動いて無いなら、貴女の近くにランプがない?」
「え、うん。探してみる」
 須美の言葉を聞いて、リゲイルと真白が携帯の明かりで周りを探してみる。
「あった」
 ランプを見つけて、明かりを灯す二人。
 パアッと、橙の灯りが部屋に広がり、何処からかオルゴールの音色が聞こえる。そして側にあったステンドグラスの1ヶ所だけ色の違う光の陰の辺りで、クリスタルの魚が跳ねた。


『水を求める魚』
「きゃっ」
 ランプに灯りが灯った時、近くで跳ねたクリスタルの魚に真白は驚いて思わず小さな叫び声をあげる。
 優姫や逢柝なんかは、魚の動きと真白の悲鳴に反応してすぐに警戒するが、それ以上何も起こらなかったので近づいてみる。
「どう見ても本物じゃないな」
 クリスタルの魚を手にとって逢柝。
「ウサちゃんは肉食じゃないから、魚は食べれないのよねぇ〜ん」
「僕もクリスタル製の魚は御免かな」
 しばらく目をパチパチしていたニーチェ。ようやく光りに慣れてきたのか冗談交じりに言い。それを優姫が返す。
「明るくはなったけれど、状況は変わらないわね。クリスタルの魚が増えただけ」
 逢柝から魚を受け取って須美。アルトが横から手を伸ばしたのでアルトに渡す。
「綺麗なお魚。何処から来たの?」
 話しかけるアルト。が、答えは帰って来ない。
「クリスタルだけに口は堅そうだね」
「あははっ」
 なんとなく言った真白だったが、思いのほか笑いがおこったので恥ずかしさから顔を赤くして俯いてしまう。
「でもビックリしたね。急に電気が消えるんだもん」
「そーよ! このドアの変な文字を……あら?」
 リゲイルの言葉にドアの文字を見るレモンが、違和感に気がつく。
「文字が無いわよ。さっきは確かにあったのに」
「見間違い? じゃ、なさそうだよね。電気が落ちたタイミング的に」
 と浅間。
「文字ならここ、あるぞ!」
 アレグラが足元を指して言う。確かにそこには、何か文字のようなものが浮きあがっていた。
「……を……る」
 読もうと試みるが読めないアレグラ。横に居た浅間が替わりに読む。
「『水を求める魚』」
「……」
 浅間の言葉を聞き、みんな考え込む。
「……おかしいわね。さっきまでこんな文字、あったかしら」
 床に浮かび上がっている文字をなぞりながら須美。引っかいたりこすったりしてみる。
「なかった気がするわね〜ん。結構目立つしぃ」
 とニーチェ。
「なら、それがヒントってことか?」
 逢柝がアルトの持つ魚を見ながら言う。
「水が欲しいの?」
 と、アルト。やはり魚は答えない。
「やっぱり口は堅いわね」
「も〜。須美ちゃん!」
 小さく笑って冗談交じりに言う須美に真白が照れながら講義する。
「水なら一応あるけど……あ、エン大丈夫? でもこれじゃないよね」
 肩にかけたカバンを開けてミネラルウォーターを取り出す浅間。途中でバッキーの『エン』の様子を見てから続ける。
「参加者の誰かが水を持ってないと解けない。っていうのは変だもね」
「水を求めるのは魚だけど、その次に魚を求めるのは猫よ!」
 急に叫んでレモン。見るとドドーンと効果音が出そうなポーズで猫のぬいぐるみを掲げている。
「…………」
 だから何……? とは誰も言えなかった。
「ほら、食べなさいよ食べなさいよ」
 アルトの持っている魚に猫のぬいぐるみをぐりぐりと押し付けるレモン。アルトはどことなく切なそうな表情で魚を見ている。
「魚を水に戻すっていうことかな? でも水なんて……」
 真白がキョロキョロとあたりを見回す。
「やっぱり、これかなぁ」
 リゲイルが水晶、もといビーズの泉の所まであるく。
「ん〜……本物の水と魚がない以上、これくらいしか思いつかないしなぁ」
 と浅間。
「とりあえず、入れてみる?」
「魚、泳ぐ!」
 アレグラが手を伸ばしたので、アルトがアレグラに魚を渡す。アレグラはクリスタルの魚を抱えてビーズの泉まで行くと、魚を泉の中に戻してその中を泳がせる。そしてまたも何処からかオルゴールの音が聞こえたかと思うと。
 ――パシャン。
 大きく魚が跳ねる。
 するとビーズの泉の水面から、その飛沫が薔薇のつぼみの造花へと跳ねる。
 そしてその水滴がつぼみの中へと滴り、ゆっくりと造花が花開いた。


『香りの無い花』
 その瞬間、誰もが目を奪われた。
 輝く魚はキラキラと澄んだ泉で高らかに跳ね、その飛沫の一滴が薔薇のつぼみへと滴る。
 つぼみは朝露に濡れた花のようにぷっくりとした水滴を奥へ奥へと導く。そしてつぼみはその水滴を吸い、ゆっくりと花開く。
「綺麗」
 それはとても綺麗で。でも、同時に。何かの違和感を全員が感じていた。なんだろうか。とても大切な。
 ――カタン。
 不意の物音は、何かと何かがぶつかる音だった。はっと目が醒めたように振り向いたそこでは、リゲイルのバッキーである「銀ちゃん」が雑貨を使って遊んでいた。
「美味しそうだけど、造花じゃ食べられないしぃ〜、花のいい香りもしないわねぇん?」
 ニーチェが造花の花びらを指でなぞりながら言う。
 そう、先ほど全員が感じた違和感。それは香りだった。一般的な造花がそうであるように、その花にも香りが無かった。
 真白が造花に近寄って、その香りを嗅ごうとしてみる。さっきその目で見たのは、まぎれもなく花。香りの無い花なんて珍しいと、そう思ったのだ。
「思ったとおり、次の謎解きにはその造花が関係しているみたいだよ」
 硬く閉ざされた宝石箱の表面にある文字をなぞりながら、優姫が続ける。
「『香りの無い花』っていうと、造花だよね?」
「香りの無い花? をどうすれって? 集めればいいのか?」
 逢柝が空いている瓶に造花を詰める。
 しばらく待ってみるが、何もおこらない。
「あ、もしかして。これ」
 そう言ってリゲイルが藤籠を持ってくる。
「香りの無い木と香りの無い花で」
「なるほど」
 造花を藤籠に移す。が、同じように何もおこらない。
「なんでこれ、匂いない?」
 アレグラが造花を触りながら言う。
「匂いが無い? だったら、つければいいのよ!!」
「これの出番かな? これも薔薇だし。これの香りを造花の香りの変わりに。ってこと?」
 薔薇の蝋燭を見ながら浅間が言う。
「そうよ! きっと薔薇の香りがするのよ」
「香りをつけれるものなら、もう一つあるわよ」
 と、須美がフレグランスを持ち上げようとしているアルトをみて言う。
「部屋を香らせるか、花を香らせるか。だね」
「問題は、間違えた場合にペナルティがあるかどうかね」
 優姫の言葉に、須美が考え込んで答える。
「須美ちゃん。楽しそうだね」
 ふふ、と嬉しそうに笑ってリゲイルが言う。
「……えっ? あ……」
 リゲイルに言われて、この状況を楽しんでいる自分に気がつく須美。ハザードに巻き込まれ、最初こそ冷静にしていたものの、このハザードが謎解きのハザードだと分かると、俄然楽しくなってきたのだ。
「こ、これは……早く戻ってショッピングの続きをしたいからよ!」
 照れたように早口で須美。そんな可愛らしい仕草にリゲイルと真白が目を合わせて微笑む。
「ペナルティかぁ。今までの感じだと無さそうだけど、蝋燭は温存しておいた方がいいかもしれないね。とりあえずそっちは何度でも使えそうだし」
 フレグランスを見ながら優姫。それを聞いてアルトがフレグランスを造花に垂らそうとフレグランスの瓶を持ち上げる。
「ん」
 小さな掛け声で持ち上げると、そのまま造花に向かって歩いていく。フレグランスと言っても、身体が縮んでいる今では、両手で抱えなければならないほどだ。
 造花の元まで来たアルトは、静かにフレグランスを傾ける。みんながその瞬間に注目する。
「あっ」
「あ」
「あちゃ」
 アルトと、その周りの声が一瞬。
 その手から、フレグランスの瓶が滑り落ちる。
 ――バシャァン。
「だっ、だいじょうぶ!?」
 みんながアルトに駆け寄る。
「……」
 言葉無しに、アルトは固まっている。
 そして。
「ご、ごめんなさい……」
 今にも泣き出しそうな目で、そう言う。本当は泣き出したくてたまらないアルトだったが、母親がそばに居ない今、必死で大人ぶろうと押さえ込んでいるのだ。
 その時、例のオルゴールの音色が部屋中に響いた。見ると、アルトの手から滑って落ちたフレグランスの瓶は、その中身をちゃんと造花にかけていた。造花に香りがついたのだ。
「ほら、正解だよ!」
 浅間がアルトに向かって言う。
「中身はまだ残ってるんだし、細かい事は気にすんな」
 転がっているフレグランスの瓶を立てながら逢柝。
「そーそー。気にしちゃダメよん」
 慰めるようにおでこにキスをするニーチェ。
 ――ガタッ。
 オルゴールの音が止み、大きな宝石箱が開いた。


『収穫祭』
 オルゴールの音が止むと、宝石箱の蓋が開いた。その中から蜂の置物が飛び出してきて、ピタリと造花に止まる。
 そこで蜂は蜜を集めるような動きをしてから再び飛び、クリスタルの木まで飛んでからその枝の一本で羽を休める。するとポトリポトリと実っていたクリスタルのいくつかが落ちてきた。
「アルトのおかげで次に進めるようになったよ。ありがと」
 浅間がアルトの目を見て微笑む。それが嬉しくて、アルトも同じように返した。
「さて、みんな。次の文字探しだねー」
 次はどっこかなっ。と歌うように口ずさみながら浅間が次のヒントを探し始める。その姿を目で追っていたアルトも文字を探し始めたので、他のみんなも探し始める。
「ねぇねぇ。ちょっとちょっと」
 文字を探している途中、浅間とニーチェが優姫を呼ぶ。
「ん? 見つけた?」
 近寄ってきた優姫に、ニーチェはにやにやと楽しそうな笑みで言う。
「ちょぉっと動かないでねんVv」
 訝しげに首をかしげた優姫を、浅間とニーチェはその辺の可愛らしい雑貨で飾り立てる
「ちょっと、何してるの」
「いいからいいから」
 キャッキャと騒ぎながら優姫を飾っていく二人。小さなビーズの連なったものはネックレスに。バングルをベルトにして斜めに下げる。
「似合わないってば……」
「これ可愛い〜v」
 これは抗議しても無駄だろう。と判断した優姫はしばらくされるがままでいたが、逢柝が黄色い声に様子を見に来た時に、その腕を取った。
「ほんとごめん。タッチ」
 そう言って逢柝を二人に押し付けてその場から逃げ出す。
「あっ、優姫、まてっ!」
 ようやく逢柝が優姫の意図に気がついたときには、既に遅い。今度は逢柝が飾られる番だった。
「似合わないって」
「いやいや、超似合うって。マジでマジで」
 優姫と同じ事を言う逢柝だったが、当然そんなこと通じない。しばらくの間、逢柝は解放されることは無かった。
「あったわよぉん」
 文字探しを再開し、文字を見つけたのはニーチェだった。えーっとぉ。とニーチェは文字を読み上げる
「『収穫祭』? 秋は食べ物が美味しくなる季節なのよねんVv」
 楽しそうな調子でニーチェ。
「やっぱりそうきたかぁ。ということは――」
「これは……収穫物を一ヵ所に集めればいいのかな」
 先ほど木から落ちたクリスタルの実を見て言った優姫に、浅間が声を被せて言う。そしてその手で何かを掴む。
「ちょっと! なにするのよ!!」
 それはレモンの耳だった。そのレモンの非難を聞こえない振りで浅間は続ける。
「リゲイルー。さっきの藤籠どこにやったっけ?」
「あ、これ? どうするの?」
 藤籠を浅間に渡して首を傾げるリゲイル。そりゃぁ勿論。と浅間は答える。
「収穫物を入れるに決まってるじゃん。あとは果物を適当にー」
 ぎゅうぎゅうとレモンを藤籠に押し込みながら浅間。
「ちょ、ちょっとちょっと! あたしは収穫物じゃないわよ!! 縁! あんたわざとやってるでしょ!?」
「え、あれ? ごめんごめん。気がつかなかった」
 あははと笑って浅間。そんな二人の遣り取りに周囲からも笑い声がおこる。
 ――ドン。
 その時、浅間の目の前に大きな牛の置物が置かれる。
「肉、収穫、召し上がれ!!」
 アレグラだった。にこにこと笑顔で浅間を見ている。
「え……」
 苦笑する浅間。そんなに食いしんぼに思われてたんだ……と軽くショックを受ける。
「ふふふ、いい気味よ……!」
 小声で言ったレモンが走り出し、カボチャモチーフの置物を掲げる。
「収穫祭。つまりハロウィンね!! ハロウィンといったらこれしかないじゃない!!」
 言いながらカボチャを頭に被るレモン。同時に魔法で自分を含めたみんなの衣装をハロウィン風に変えてしまう。
「……わ」
 天使になった真白。他の人は、と顔を上げて目に映った須美を見て言った。
「あ、やっぱり」
「?」
 その言葉を聞いて須美が自分の格好に気がつく。見事な小悪魔スタイルだった。
「……!? ねぇちょっと! やっぱりってどういう意味よっ!」
 当然のように抗議する須美。
「なんとなく須美ちゃんは小悪魔かなー、って。うん、可愛いよ」
 途端に恥ずかしくなる須美。行き場の無い照れを誤魔化す為に手に持っていた杖のようなものを真っ赤な顔で床に投げ捨てている。
 リゲイルは魔女に逢柝は海賊の衣装になっている。ニーチェはやっぱりうさぎで浅間は妖精だ。
「うわぁ。見えない」
 包帯でぐるぐる巻きになっているのはミイラ男でアレグラだ。
「あぁ……なんかもう、メチャクチャだね」
 ドラキュラになった優姫がクリスタルの実の前で呟く。
「これは食べれるの?」
 と、優姫の隣で猫のアルト。
「どうだろ? 食べてみたら?」
 冗談交じりに言った優姫だったが、本当に齧ったアルトを見てぎょっとする。
「硬い……」
 ガチガチで齧る事が出来なかったようで、しょんぼりと肩を落すアルト。その姿はまんま子供のようで、優姫はなんだか微笑ましくなる。
 ――リンリン。
「さて。そろそろ進めるぞー」
 散々騒ぎ終えたタイミングを見計らって、逢柝がベルを鳴らして叫ぶ。はーい。とみんなで返事をしてレモンが魔法を解く。
「これしかないよね。さっき木から落ちたばかりだし」
 優姫がクリスタルの実を藤籠に入れてテーブルに置く。
「…………」
 しかし、待ってみても何もおこらない。
「え、うそ。これじゃないの?」
 みんなの気持ちを代弁したように浅間が呟く。
 その時、レモンが突然口笛をふきだす。
 むしろ怪しい。
「レモン、出しなさい」
「ギクッ! なな、なんのことかしら」
 ピューピューと口笛を吹くレモン。動揺からか、効果音すらも自分で言ってしまっている。
「…………」
「あはは……じょ、ジョークよジョーク」
 やがて周囲の沈黙に耐えられなかったのか、レモンが懐からクリスタルの実を一つ取り出して籠へと入れる。持ち帰ろうと思っていつの間にか一つ拝借していたのだった。
 レモンがクリスタルの実を籠へと入れると、オルゴールの音が流れ出す。正解の合図だ。
 ――バサバサッ。
 木に止まっていた小鳥が、大きくその羽を広げて飛び立った。


『逃げた小鳥』
 バサバサと、頭上を小鳥が飛んでいる。
「なーんとなくやることが分かったけど、やっぱ文字探さないと駄目なのかこれは」
 飛んでいる小鳥を見ながら面倒そうに逢柝が言う。
「次は何処かな〜」
 逢柝とは対照的に、リゲイルはうきうきとした調子で文字を探している。
「あった!」
 そして見つけた。五つ目のお題はステンドグラスに浮かび上がっていた。
「『逃げた小鳥』」
 読み上げるリゲイル。
 ああ、やっぱり。とみんなで小鳥を見上げる。小鳥は部屋の中を所狭しと飛んでいる。
「あれを捕まえて鳥籠に。っていうことかな」
 優姫の呟きに浅間が答える。
「『水を求める魚』の応用かな? 捻くれた考え方をしなければ、そうなるよね」
 まさかそんな世知辛い話じゃないだろうし……。ボソリと続けて、ちらりと猫のぬいぐるみを見る。
「まさか……そんなのみんなに見せられないよ」
 アルトちゃん、アレグラちゃん、真白さんなんて絶対。浅間の呟きが聞こえていた優姫は同じようにボソリと返す。
「でも、捕まえるって言っても……」
 真白が小鳥を見つめて困ったように言う。それに須美が同意する。
「ええ。ちょっと簡単には捕まえられそうにないわね」
 あちらこちらに素早く飛んでいる小鳥を見ながら言う。
 ――キイ。
 アルトが鳥籠を開け放して留め具で固定する。
「還る場所がないなんて、寂し過ぎる」
 自由を求めて飛び立った小鳥。その小鳥がいつでも還ってこれるようにと。
「向こうから戻ってきてくれるといいんだけどね」
 とリゲイル。
「籠の中に餌を置いたらいいんじゃない?」
 そう言って果物を中に入れるのはレモンだ。
「まぁこのまま待ってても仕方ない。自分から戻ったらラッキー。くらいに考えて捕まえるか」
 言い放って小鳥の真下まで行く逢柝。小鳥の高度が下がったところをジャンプして捕まえるつもりだ。
「アタシ、肩でもなんでも貸すわよ〜ん」
「そんなこと言って、変な所触ったりするつもりじゃないよね?」
 ニーチェの提案に訝しげに優姫が返す。
「やだぁ。そんなことしないわよんVv」
 ほんとかなぁ……。といいつつも、ニーチェの肩を借りる優姫。
 しかしやはり舞台が空では小鳥のほうが有利だ。あと少しというところまで手が届いたと思ったらすぐさま小鳥は逃げてしまう。
「鳥捕まえる、まかせろ!」
「降りてきなさいよ!!」
 小鳥の下でジャンプしていたアレグラとレモン。上ばかり見ていたから二人でぶつかってしまう。
「うー」
「あいたた」
「ちょっと大丈夫? 二人とも」
 尻餅をついて頭をさすっている二人。そこで急にレモンが立ち上がる。
「あー。もう許さないわっ! 大人しくしてたらつけあがって。いいわ! やってやろうじゃないのよっ!!」
 高らかに叫んでレモンは背中から天使のような羽を出す。滅多に使う事はしないが、レモン本来の能力だ。
「おぉ」
 それを見て周りから歓声があがる。空対空。俄然勝ち目が出てきた。
「覚悟しなさいっ!」
 言い放って羽ばたくレモン。スピードは小鳥よりも速い。あっという間に小鳥に追いつく。
「ほうら捕まえ――ふぎゃっ」
 ベチャッ。という音とともに壁に張り付くレモン。心配そうに見ている下の者たちの中に数名、笑いを堪えている者もいた。
「ふ、ふふ、ふふふふ……このあたしを本気にさせるとは、やるじゃないのよ」
 再び、果敢に飛び立つレモン。
 ――ベチャッ。
「もう許さないわっ!!!」
 ――ドカッ。
「今に見てなさいっ……!」
 ――ゴツン。
「痛くなんか……」
 ――バキッ。
「いい加減に捕まりなさいよバカー!!」
 大声に怯んだのか、何度目かのトライでようやく小鳥を捕まえる。
「ふふふ……手強い敵だったわ」
 ゼエゼエと激しく息をつきながら小鳥を鳥籠へと入れるレモン。周りから拍手が起こる。
「これで違ったら、報われないよね……」
 しかしそんな心配も杞憂で、正解のオルゴールが鳴り出す。
 どうだ。とポーズをとっているレモンの上。鳥籠に止まっていた蝶がひらひらと羽ばたいた。


『囚われの翅』
 ひらひらと飛び立った蝶はゆっくりと空を散歩し、そして蜘蛛の巣籠に引っかかった。
「あ……」
 思わず呟くものの、文字を探すまでは勝手に助けていいものなのかが分からず、まずは文字を探す作業に入る。
「あれ、これってもしかして」
 見つけたのは真白だ。しかし、見つけたのは文字の端だけであった。多くの部分は宝石箱の下敷きとなっていた。
「これをずらせばいいんだな」
 3人がかりでようやくずらすと、文字が現れる。
「『囚われの……』」
「はね。滅多に使わない字だね『囚われの翅』」
 リゲイルが詰まったところに、優姫。さらに続ける。
「もう、翅と翼なんてどっちでもいーじゃん」
 少しイライラした調子で言う。慣れない空間で終わりの見えないお題に、そろそろ精神的な限界が近づいてきたのだ。
「囚われ……というよりは、自分から入って行ったけど……。助けるっていうこと? それともなんか標本とかにでもするってことかな?」
 針刺しのクッションに座り、浅間。
「蜘蛛の巣籠を壊すのよ! きっとこのアイテムが封印の鍵になっているはずだわ」
 何か武器はー。と探し回るレモン。その時アレグラがマリア像にレースを被せて目隠しをして叫ぶ。
「人質だ!」
 みんなが振り向いた所に、もう一声。
「キャー!」
 マリア像には翼がついている。つまりアレグラは一人二役で、『囚われの翅』を再現しているのである
「人質を解放しなさい! 何が望みなのっ!!」
 ノリノリで演技に混ざるレモン。牛の置物に半身隠れて銃を構えるポーズを取っている。
「ふふ。卵と飛行機を用意するんだ!」
「く……っ。仕方が無いわね。今すぐ卵を」
 そんな二人の遣り取りに小さな笑みを浮かべた後、須美は蜘蛛の巣籠を見る。
「やっぱりあの蝶を解放しろっていうことね」
 ぱたぱたと、蜘蛛の巣の中で蝶はその羽を羽ばたかせてもがいている。
「空を飛ぶって、どんな気持ちなのかしら」
「気持ち良さそうだよね」
 アルトの呟きににこにこと真白が返す。少し考え込んでアルトがこくりと頷く。
「ま、ちゃっちゃと助けちまおうぜ」
 逢柝の言葉に、そうね。と須美が台になるようなものを探す。
「そんなの探さなくても、手伝うわよ〜んVv」
 言いながら須美を抱き上げるニーチェ。
「あ、いえ。台があれば……」
「だ〜めVv。このままするのよぉん」
 渋々とそのまま作業を進める須美。蜘蛛の巣籠から蝶を剥がすと、やはりオルゴールの音色が響く。
 蝶は再びひらひらと、蝋燭の合間を飛んでいった。


『星見』
 蝋燭の合間を飛んでいった蝶は、しばらくひらひらと飛んでいたものの、途中で動かなくなってしまう。
 しばらくじっと見ていた一同だったが、それ以上動きが無いと分かると拍子抜けしてしまう。
「これだけ……?」
 と、リゲイル。今までは、何か次のお題に関するものが連動して動いていたのだが、今回は動きが無い。
「の、ようね。文字を探してみましょう」
 全員で文字を探し出すと、それは直ぐに見つかった。
「ふっふっふ。このレモンさまの目は誤魔化せないわよ!」
 ドアの前で仁王立ちでレモンが言う。そこには文字があった。
「一度出た場所だから次は無い。その油断を突いてきたみたいだけど、相手が悪かったわねっ!!」
 ええとなになに。とレモンが文字を覗き込む。
「『星見』」
「星見?」
 思わず、全員で上を見る。当たり前だが天井があるだけだ。
「うーん……」
 何も変化の無い天井に見切りをつけて、優姫は辺りの雑貨を見回す。
「困ったな、見当もつかない」
 呟いて優姫は須美を見る。目が合った須美は小さく首を振って言う。
「考えるしか、なさそうね」
 それからしばらく、各自考えて思い思いに行動する。
 星見ということは、空を見ろということなのかなぁ。と考えた真白は、全ての壁を注意深く見ながら歩いている。どこかに目立たない窓とかが無いかどうかのチェックだ。
 アレグラと逢柝は、キラキラと見えるものをガラス箱に集めている。
「星、きらきら」
 そう言ってクリスタルの実を詰めていき、逢柝はその隙間にパールのネックレスや光のあるアクセサリ類を詰め込んでいる。
 その様子を見ていたリゲイルが、ぽんと手を叩いて手鏡を抱くと、それをランプの所まで持っていく。そしてランプの光を手鏡で反射させて、二人の作ったガラス箱の中へと光を当てる。
 ガラス箱の中でクリスタルやアクセサリがキラキラと輝く。
 しかし、例のオルゴールは鳴らない。
「かーーっ。ダメかぁ」
 髪の毛をくしゃっと混ぜる逢柝。リゲイルはしょぼんとして手鏡を戻す。
 優姫は初めはキラキラと見えるものを探していたのだが、普段からこういう可愛い系の雑貨に接する機会の少ない優姫には、ほとんど全てのものがキラキラと見えてしまうのだった。
「発想の転換……発想の転換……イメージ、イメージ…………」
 呪文のように何度も呟いて、それぞれのアイテムの使い道を考えていく。
 須美も考えては試し、考えては試しを繰り返していた。クリスタルの実をランプの所まで持っていって光を通してみる。プリズムを通った光は七色の光になって先を照らす。その光で天井を映してみるも、視覚以外の変化が現れず、須美は小さく息を吐いて戻っていく。
 ニーチェは、考えているみんなの所を回っては、誰かに触れながら一緒に考えている。
「だいたいさ。星見って言っても星に関係するものとか無くない?」
 業を煮やして浅間が言う。
「確かにそうよねぇん」
 うーん、と何度も唸って思考を重ねていた浅間。今日の占いは見て無いけど、きっと最悪なんだろうなぁ。と連想したところで気がついた。
「星座……!」
「?」
 はてな顔のみんなに浅間は言う。
「ええと、星座って何があったっけ?」
「星座? みずがめ座とか?」
 突然の問いかけに、とりあえず頭に浮かんだ自分の星座を言ってみる優姫。
「みずがめ座、みずがめ座……っと」
 呟きながら辺りを見回し、あった。と小さく叫んで小さな瓶を手に取る浅間。そしてその中に泉のビーズを入れる。
「みずがめ座っぽくない?」
「なるほどね。他には」
「はーい。うお座」
 クリスタルの魚を掲げて真白が言う。
 アルトが牛の置物を指す。
「おうし、だめ?」
「いや、駄目じゃない。うお座におうし座。どんどんいこう」
 これはもしかして。とみんなで探し始める。
「これが乙女座ね」
 須美が指すのはマリア像だ。
「それじゃあこんなにはど〜ぉ?」
 手鏡を縦に立てて、ニーチェはその横にアレグラを呼ぶ。
「双子座Vv」
 確かに斜めから見るとアレグラが二人に見える。
 しかし、どんなに探してもそこまでだった。
 残る星座はどうしても思いつかない。
「星、星、星、星見! 星見って星を見ることよね?」
 と、レモン。
「よし、あたしが星見してやろうじゃないの!」
 気合を入れて上を見るレモン。
「――って、上を見上げても星なんてないじゃないっ!!」
 が、直ぐにドン、と地面を踏む。自分でボケて自分でのツッコミだ。
「うふふ」
 そんなレモンを見て可笑しそうにアルトが笑う。
「星なら、沢山あるじゃない」
 そう言って地面に散らばるビーズを浮かせ、空に並べる。
「おぉ〜。すごいじゃない。そんなことも出来んのね」
 レモンの言葉ににこりと笑って、アルトはランプの灯りを消す。
 すると辺りは真っ暗になり、上にはビーズのほのかな発光だけ。まさしく星空だった。
 ――そして、オルゴールの音色が響き渡った。
「!!」
 一斉にみんなが驚く。
 真っ暗な星空の中、キラキラした2つの光が鏡とギフトボックスに射す。それはまるで、夜空に見る天使のはしごだ。きらきらと光の粒子が飛び交うそれは、本当に今にも天使が降りてきそうで。
 言葉が、出ない。
 綺麗だとか優美だとか幻想的だとか。そのどれか一つでこの今を表す事が出来ない。だからこそ言葉が出なかったのだ。
「ここにきて、二択?」
 やがて我にかえると、優姫が光の射している鏡とギフトボックスを見ながら言う。
「時限爆弾の赤と青みたいなもんか?」
 逢柝が縁起でもないことを言う。
「あの時は鏡の中に出口がある、なんてパターンもあったっけ」
 言いながら、浅間は鏡に近づく。以前に似たような謎解きハザードに巻き込まれたことを思い出してなんとなく近づいたのだ。
「きっとこれはクリアしたご褒美よ!」
 中には何かプレゼントが入っているに違いない。とワクワクした気持ちでレモンはギフトボックスへと近づく。
 そして、浅間は鏡、レモンはギフトボックスへと。同時に触れた。
 その瞬間。二人はそれぞれ触れた鏡とギフトボックスに吸い込まれるように消えていった。
「――っ!!」
 それを見て動きを止める残りの面々。どちらか片方だけだったならば、みんなそっちに入ればいいのだけれど、最初に二手に分かれてしまった。仕方が無い、みんな思う方へいこう。という結論になる。
「綺麗な石かセミの抜け殻、入ってる?」
 と、アレグラはギフトボックスに触れる。
「どっちにする?」
「うーん。こっちかな? なんか鏡を通して世界が繋がってる! みたいな気がしない?」
「そうね。じゃあ鏡に」
 真白、リゲイル、須美は鏡へ。
「……こっち」
 ちらりと後ろを見てから、アルトはプレゼントボックスへと触れる。大人ぶろうとしたが、興味が抑えられなかったのだ。
「一緒に入ってぇんVv」
「言うと思った。どっちに入る?」
「う〜ん。それじゃあこっち」
 優姫の腕に抱きつきながら、ニーチェはプレゼントボックスへと入っていく。
「4:5。それじゃあたしはこっちだな」
 最後に鏡へと触れるのは逢柝だ。単純に鏡のほうが4人だったからだ。


「お?」
 最後に出てきた逢柝を見て、みんながほっとした顔を浮かべた。
 結局、鏡を選んだ人もギフトボックスを選んだ人も、同じ場所に出たのだ。
 銀幕市聖林通り。ハザードから脱出したのであった。
「ふぅ。よかった」
 胸を撫で下ろした逢柝。けれど、重大な事に気がついた。あたりはもうとっくに夕暮れ。今から材料を買って夕飯を作っても間に合わないだろう。
「ねぇね。このまま帰るのも、なんか勿体無くなぁい?」
 ニーチェが切り出す。
「??」
 みんながニーチェを見る。
「実はアタシ。ハザードに巻き込まれる前はケーキを食べに行こうとしてたのよねん」
 まさか、と顔を輝かすのが何人か。
「折角だから。みんなでいかなぁい? これも何かの縁よねVv」
「行く行くっ!」
「わーい」
 リゲイルと真白が即答する。途中から既に期待していたのである。
 声には出さないものの、アルトも明らかに期待の表情だ。
「確かに、縁ね」
 苦笑しつつも須美も頷く。
「ニーチェさん……!」
 感激したようにニーチェに抱きつくのは浅間だ。
「あら。感激〜Vv」
 浅間から抱きついてきた事に同じように感激するニーチェ。そのままニーチェのてが浅間の太腿に――。
 ――スパァァン!
 伸びる寸前に、叩き落された。
「んも〜Vv。アトちょっとだったのに〜」
「危ない危ない」
 残念そうにニーチェ。余裕の笑みを見せる浅間。
「こ〜なったら絶対に触ってやるわよん」
 じりじりと間合いを取り合う二人。そして今にもニーチェが飛びかかろうとしたところで。
「ストーップ。ほら、日が暮れちゃわない内に行くよ」
「はぁ〜い」
 優姫の声によって歩き出す事になった。
「卵もあるか!」
 嬉しそうに優姫について言うのはアレグラだ。
「え、卵……? 言えば出してくれると思うけど」
「よーし! 食べまくってやるわー!」
 腕まくりをしているレモン。
「喫茶店? 持ち帰りはできるよな?」
 しきりにそれを確認している逢柝は、どうせもうご飯作りは間に合わないので、ケーキで師匠のご機嫌を取るという作戦に移行したのだ。
「ねぇねぇ。何てお店?」
「それはまだ秘密よんVv」
 リゲイルの質問に笑ってニーチェ。
「最初の文字だけでも!」
「う〜ん。そーねぇ」
 ハザードの疲れなんてなんのその。
 嬉しそうに笑いながらケーキ屋へと向かう姿は。
 やっぱり、女の子たちである。

クリエイターコメントこんにちは。依戒です。
プライベートノベルのお届けにまいりましたー。

そう。まず最初に。
この度はプライベートノベルのオファー、ありがとうございました。
騒がしく、楽しい。女の子たちの物語を楽しみながら書かせていただきました。

さて。長くなることは後ほどブログにてあとがきという形で綴らせてもらうとしまして。ここでは少し。


もうほんとう。プレイングを組み立てていくのが楽しかったです。
それと会話文も。人数が多かったこともあり、わいわいと幸せな時間でした。

あと、怖いのは呼称の問題ですね。
これちがうー。というのがあればどうぞ遠慮なく。


さてそれでは最後に。
オファーPL様が。ゲストPL様が。この作品を読んでくださった方が、ほんの一瞬だけでも幸せな時間と感じてくださったのなら、私はとても幸せに思います。
公開日時2009-07-01(水) 09:40
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