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<ノベル>
暗がりの中スポットライトの下に一匹のウサギがいる。
ウサギは豪華なつくりをしながらもウサギらしさをのこした椅子に座り、ケーキを食べていた。
「ちょ、ちょっと早いってば……いや、コホン。あたしの名前はレモン。君達、宇宙人というものは知っているわよね?」
ケーキを食べていたウサギは気だるそうな様子を押さえ、話だす。
「今日はあたしの出会った宇宙人”ネティー・バユンデュ”についてお話するわ。宇宙人に対する価値観が変るかもね?」
レモンが問いかけをしたあと、スポットライトが消失した。
「ぎゃー、勝手に消さないでよ! ラビット流星拳!」
ドガガーンと暗闇の中が騒がしくなる。
そんなこんなでこの物語ははじまるのであった。
〜ケース1:アブダクション〜
「ここは危険です。多少時間はかかりますが安全を優先することが論理的であるといえます」
「まぁまぁ、ありがとうございます」
ネティーが道路で立ち往生しているお婆さんを背負い、歩道橋へと連れて行く。
その様子をレモンは手帳にメモをしていた。
「どうしたの? ネティーさんストーキングして……それともお婆さんの方?」
バイトに行く道だったのか通りがかりの浅間 縁がレモンに声をかける。
「アブダクションだわ!」
メモを一通り書き終えたレモンがくわっと顔をこわばらせ叫んだ。
「は? いきなり何をいいだすのよ」
縁は劇画調のようにみえるレモンにたじろぐ。
「説明してあげるわ、アブダクションとは宇宙人による誘拐のことよ。きっとUFOにつれていき発信機など埋めむに決まっているのよ!」
「あー、まぁ、がんばって……ね?」
説明をはじめるレモンを励まし、縁はバイトへ向かった。
入っては消えていく、まるで自分の胃袋のような財布のため縁は今日もがんばるのである。
「到着しました。目的の場所まではこちらへ300m進み、その前にある信号を左折してください」
お婆さんを下ろしたネティーは端的かつ正確な案内を説明した。
「ああ、そうかい。これはお礼だよ」
飴玉をネティーに渡すお婆さん。
会話が成り立っていないと突っ込む人間は誰もいなかった。
〜ケース2:キャトルミューテーション〜
「生命体を確認しました。ネコと呼ばれるものと想定。種別不詳『野良』と認識します」
ネティーは長々とネコを解説する。
手を伸ばして掴み上げ、高い高いをするとネコはみゃぁおと鳴いた。
「ゴミ捨てゴミ捨てーと……あ、ネティーさん、こんちわ」
「縁、こんにちわですにゃ」
「なぜ語尾が変わってるのよ……」
「赤ん坊にたいして『でちゅ』とつけるようにネコにたいしては『にゃ』をつけるのが地球人の慣習であると学びました」
ネティーの間違った地球文化の原典を縁はすごく知りたいとこのとき思う。
しかし、それを今追求するわけには行かない縁はバイト中の身だ。
がんばれば美味しいまかない昼食が待っている。
「あ、ごめん。ゴミ捨てしなきゃいけないから猫をあっちに連れてってくれる?」
「わかりました。お勤めご苦労様です」
間違っていないのだが、微妙な励まし方をしたネティはそのまま野良猫を両手で抱き上げながら縁から離れていった。
「キャトルミューテーションだわ!」
ゴミを捨てようと思ったとき、ゴミ箱の蓋が開き、中からレモンがでてくる。
「まだやってたの?」
「宇宙人らしい世界征服の第一歩なのよ! あの猫は内臓を抜かれていろいろ調査されてしまうんだわ。動物虐待反対!」
「世界征服なんてないない……それに普通に和んでいるだけじゃないの」
縁はレモンをゴミ箱からだし、残飯を代わりに入れた。
「い、いままでもこうだったのかな?」
「当たり前じゃないの……このままストーキングするなら体洗っていった方がいいんじゃない?」
「ふ、ふんっ。丁度お昼食べにかえるところよ。別に縁にいわれたからじゃないんだからねっ!」
レモンが縁に耳を掴んで持ち上げながらも最後の抵抗を試みる。
結局ツンデレなだけという突っ込みは禁止だ。
「あなたもお腹がすきましたかにゃ」
二人のやりとりなどしらずに、ネティーはマイペースで野良猫と一方的な会話を楽しむ。
「にゃーお」
猫の鳴き声にネティーは満足そうに笑った。
〜ケース3:ミステリーサークル〜
「宇宙から見た地球にはこういうものが描かれているといわれています」
ネティーが地面にナスカの地上絵を描き始めた。
「うわー、お姉ちゃんすごく綺麗な絵が描けるんだね」
「すごーい」
その様子を神社の鳥居の影から離れてレモンは眺めていた。
「仲間への信号だわ!」
ネティーの宇宙人らしい行動によいよ驚愕しだすレモン。
ただ、ネティーはムービースターであるため宇宙に彼女の仲間がいるかどうかは不明だ。
「まだ、ストーキングしているの? あんたも暇ね……」
道路の角を曲がってきた縁がレモンに近づこうとするが、何かを思い出したかのように離れる。
「ちゃ、ちゃんと体洗ってきたわよ。着替えているんだからわかるでしょ!」
言われてみれば、赤いレモンのゴシックロリータ服は黒いものに変わっていた。
いや、それ以前に尾行にその格好はないだろうと縁は心の中で突っ込みをいれる。
「ネティーさーん!」
そして、何を思ったかレモンの隣で縁はネティーを呼び出した。
「何、呼んでいるのよ! あわわっ」
あわてたレモンは急いで茂みの中にダイブする。
「はい、何でしょうか? 縁」
「バイトが終わって暇だからちょっと遊ぼうかなって」
「地球の遊びというものが私にはわかりません。縁、教えてください」
「そっか、君達もお姉さん達と遊ぶ?」
ネティーの絵を見ていた子供達と目線をあわせ縁が声をかける。
「遊ぶー」
「僕もー」
男の子と女の子は一緒に喜びだした。
「じゃあ、簡単なのでケンケンパでもしよっか。円をいくつか書いてくれる?」
「円をいくつも‥‥こうでしょうか」
縁に頼まれたネティーが地面に円を描き出すが、二重の円にしたり、鍵のような突起がついたりしてUFO特番でみかけるような図形にしあがる。
「何を描いているの?」
「ミステリーサークルだわ!」
ネティーに聞いたはずの縁だったが、答えは鳥居傍の茂みから聞こえてきた。
「普通に円を描くのよ、こうやって」
縁が見本のように丸を一つ、それにつなげるように丸を二つ、そして丸を一つ、さらに二つと規則ただしく描いていく。
「規則正しい並びのようですが、これはどうやって遊ぶのでしょうか?」
「こーやるんだよ、けんっ、ぱっ」
女の子が一つだけの丸を片足立ちで踏み、二つ並んだ丸を両足を開いて踏んだ。
「ああやっていいながら踏むからケンケンパね。じゃんけんで勝ったら進めたりするものなのよ」
「実に興味深い遊びです」
ネティーは縁の説明をうけ、子供達の輪に入りだす。
4人が楽しく遊んでいる中、レモンは一人茂みの中に身を潜めていた。
「さ、寂しくなんかないんだからねっ!」
その言葉は自分に言い聞かせるような一言だった。
〜ケース4:直接介入〜
静かな夜。
銀幕ジャーナル編集部に静かな足音が忍び寄る。
「ロック……解除」
ネティーの顔が月光によって夜の編集部玄関に浮かび上がった。
Sf映画『スターガーディアン』より実体化した『ディテクター』と呼ばれる携帯電話のような機械で編集部の警報装置を解除して入っていく。
カツンカツンと靴音が響き、ネティーの影が揺れた。
監視カメラもあるが、一時的に妨害電波を発生させてすべて沈黙させている。
「本日のレモンさんの宿泊拠点はここだと教えられましたが……」
泥棒というには堂々とした様子でネティーは一部屋ずつディテクターのサーモグラフィーで中の熱源を確認してさがした。
階段を上り、仮眠室へとネティーはたどり着く。
「熱源反応、確認。レモンさんのサンプルと整合しました」
ディテクターの反応がレモンの存在をしめした。
ギィと扉を開けて中へと入る。
「むにゃぁ……あたし、もう食べれにゃい」
レモンは机の上でうつぶせになって寝ていた。
顔の下には書きかけの『宇宙人ネティーのせいたいかんさつにっき』という名前の書類がある。
「興味はありますが、用件をすませましょう」
ネティーの手がレモンの顔のほうへ伸びた。
ちょうど、レモンの目がゆっくりと開きだす。
二人の視線が交じり合った。
「ぎゃー! アブダクション!? キャトルミューテーション!? こんな記録とったのがまずいのならもっていっていいわよ! だから、命だけはお助けぇー!」
恥も外聞も夜だということも関係なしにレモンは大きな声で夜の仮眠室で叫ぶ。
しかし、はっと気がついたときにはネティーの姿はなかった。
残ったのは白いハンカチのみ。
「これは、茂みに潜ったときに落としていた……」
泣き止んだレモンは白い自分が落としたハンカチを摘み上げた。
〜ラストケース:真実〜
「ネティー?」
「何でしょう、レモン」
縁の背中に隠れながら、レモンが耳と顔をひょっこりのぞかせてネティーへとたずねる。
「あの……白いハンカチ……ありがとう」
「茂みに落ちていましたので、ディテクターで皮脂のDNAを行ったところレモンとわかりました」
レモンの礼に対して、事務的にも聞こえる口ぶりでネティーは答えた。
「私が補足するとネティーはちゃんと心配してだんだよ? あんたがストーキングしているのもわかっていたのにあえていわなかったんだからさ」
縁は隠れているレモンをネティーの前へと出す。
「この銀幕市の慣習がいかようなものなのかわかりませんでしたので、こっそりと返しにいったのですが逆に驚かせてしまったようで申し訳ありません」
レモンの前にネティーが頭を下げた。
「あたしこそ、ごめん……」
耳をぺこんとたらし、レモンもネティーに謝る。
「はい、二人とも謝ったからこれでこの話はおしまいおしまい。私のバイトも休みだから一緒に遊ぼうか」
二人の手をつかんだ縁は共に握手をさせて、交互に顔を見て微笑んだ。
「私はもう一度ケンケンパがしてみたいです」
「あたしはケーキが食べたいわ」
ネティーとレモンは縁の手を掴んでそのまま神社へと向かう。
「はいはい、わかったから引っ張らないでよ」
縁は手を握り返して二人についていった。
再び真っ黒な闇の中、スポットライトが照らされる。
その下ではレモンが縁と共に買いにいったケーキを食べていた。
「以上があたしの知っている宇宙人の話。な、なによ。勘違いじゃんとかいわないでよね!」
豪華な椅子の上に座ったレモンがケーキのクリームを口元につけながら頬を赤く染める。
「今回の教訓は先入観をもってはいけないということよ。あんた達も宇宙人とかにあっても先入観もって接しちゃだめよ。それじゃあ、次の事件であいましょう」
口元のクリームに気づかぬまま、レモンは話を締めくくり、スポットライトが消えた。
「ちょっと、何で口元のクリーム注意しなかったの! ラビット流星拳!」
暗闇の中、レモンの叫びと共にズガァンと言う音が響く。
新たな事件が始まったかもしれないが、それはまた別の機会に……。
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クリエイターコメント | どうも、お久しぶりです。 窓を開けて急に注文が来たことに驚きを隠せません。
久しぶりの銀幕作品となりましたがいかがでしょうか? プライベートノベルはWRとお客様とのコラボレーション色が強いと思っていますが今回の味付けはどうですか?
味わっていただけたならうれしく思います。 銀幕も終了とのことで、精一杯残りを盛り上げようと復活していきますので何かありましたらいつでもどうぞ。
それでは、運命の交錯するときまで、ごきげんよう |
公開日時 | 2009-01-25(日) 19:40 |
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