★ Magenta Dayのラプンツェル ★
<オープニング>

「ずいぶん、待ったよ。やっと……。やっと君に逢えるんだね、ラプンツェル」
 どうしてもどうしても、君を実体化させたかった。
 舞台が終わり、消えてしまった「君」に、僕を殺してもらうために。

  ★ ★ ★

「――真っ赤、だったんです」
 惨劇は、白昼堂々起こった。
 被害者はムービースターの青年、そして目撃者は、灰田汐だった。
 アズマ超物理研究所へ打ち合わせに行った帰り道、ギンボシ電器の前を通りがかったときに偶然、見てしまったのである。
 端正な面差しの大学生らしき青年が、美しい若い女――生き物のように長く伸びる禍々しい金髪を持った女に全身を絡め取られ、その首筋に鋭い牙を突き立てられているのを。
 悲鳴を堪えて立ちすくむ汐を見て、女は凄惨に笑い、青年の首筋から牙を抜いた。
 その瞬間、傷口から噴水のように吹き上がった鮮血が、店頭にずらりとディスプレイされていたテレビモニタを、べっとりと赤く染めていく。
「マゼンタ病……って、ありますよね。血で真っ赤になったテレビモニタを見て、ぼんやりそんな言葉が思い浮かびました。全然関係ないのに、変ですね。そんな場合じゃないのに――ああ、すみません」
 くずおれるように自席に座った汐は、植村が差し出した水入りのコップを、震える指先で受け取る。

 その女は、汐には殺意を示さずにふいと目を逸らし、血の海で倒れた青年をしばらく見下ろしていた。
 やがて、青年にも興味を失ったようで、敏捷に身を翻し、その場を去ったという。
 我に返った汐はすぐに救急車を呼んだが、青年はすでにこときれ、フィルムに変わっていたのだと――

 女の特徴と手がかりを問う植村に、汐は沈鬱な表情で目を伏せる。
「はたち前くらいの、信じられないほど綺麗なひとでした。蜂蜜いろの金髪で、瑠璃いろの大きな瞳で、抜けるような色白で、顔立ちはSAYURIさんそっくりで」
 ――おそらくは昔、SAYURIさんが演じられたムービースターだと思います。
 汐は言い、植村は心の中でため息をついた。
 
  ★ ★ ★

「どうしてすぐ、わたしに知らせてくれないの? こんな大変なことが起きてるのに!」
 前触れもなく対策課を訪れたSAYURIは、掲示板に貼られた依頼を指し示し、ばん、と、受付カウンターを叩く。人魚姫がびくりとして、鉢ごと後ずさった。
 しかし植村は席を離れずに、視線だけをカウンターに走らせる。
「その必要はないと判断したからです。この事件は、あなたには一切関係ありませんので」
「だって、あの女は『わたし』なのよ? 若く未熟だったわたしが舞台で演じた役――なり損ないの吸血鬼『ラプンツェル』。血も吸わないくせに血を見るのが好きで、戯れに美青年を誘惑しては殺す、性悪な女」
「――SAYURIさん」
 植村はようやく立ち上がり、応接室のドアを開ける。
「これはあなただけでなく、全ての演技者に言えることですが、ご自分が演じた役が実体化してヴィランズに……あるいはムービーキラーになったとしても、演じたご本人には何の責任もないことなんですよ?」
「映画からの実体化であれば、仰るとおりだと思うわ。きちんとした製作姿勢と、俳優の卓越した演技に裏打ちされているからこそ、『ムービースター』は自我を持ち得る。だからこの街で、彼らは自立している」
 SAYURIはスプリングコートをさらりと脱いで、応接室のソファに腰を下ろす。
「でも、あれは舞台だったの。3日間だけの。瞬間芸術である舞台の登場人物は、幕が下りれば消えてしまう。ムービースターが生まれるはずはないのよ」
「ですが、ビデオに残したりとか……」
「それもないはずなの。記録映像は撮らなかったし、とんでもない失敗作として酷評されたから、再演の話さえ持ち上がりはしなかった」
 まだほんの駆け出しで、芸名も今とは違っていた若きSAYURIは、小劇場での舞台とはいえ初めての主役に抜擢され、最初は有頂天で稽古にもひたむきだったという。
 しかし厄介なことに、気の強いSAYURI は昔っから女性に嫌われて敵を作ってしまうタイプで――そしてその舞台の演出家兼脚本家は女性だったのだ。
 女性演出家はすぐに感情的な駄目だしをするようになり、ラプンツェルの性格設定も理不尽に書き替えられた。稽古が進むにつれSAYURIは演技に迷い、方向性を見失った。
 当然舞台は失敗し、演出家はその全ての原因をSAYURIのせいにした。主演女優は美しいだけで、力不足だったのだと。
 しかし、それにも関わらず、舞台上のラプンツェルの蠱惑と儚さを秘めた凄惨な魅力、血まみれの彼女の圧倒的な美しさが、一部で熱狂的なファンを呼んだのもまた事実だった。当時、SAYURI のもとには、おどろおどろしいほどに分厚い「ラプンツェル宛の」ファンレターが何通も届いたらしい。
「それじゃ、まさか」
 植村の顔が、さっと青ざめる。
「……誰かが、自主映画製作代行サービスを使って……?」
「たぶんね。古いチラシやパンフレットからでも作ってしまえるらしいから」
「歪んだ、カーテンコールですね」
「うまいこと、いうのね。そう、だからやっぱり、責はわたしにあるのよ」
 ――駆け出しの新人のころに引き戻されて、舞台のうえでおろおろ立ちすくんで、観客のブーイングを聞いている気分だわ。
 そう呟き、大女優は華やかなおもてを曇らせる。

 哀れなラプンツェル。
 あれは、迷いの中にいた、中途半端なわたし。
 埋み火のような怒りとやり切れなさを、どこにぶつけていいかわからずに、ふらふらと街を彷徨っては、出会う人々を手当たり次第に傷つけていた。

 ★ ★ ★

 ラプンツェル。ラプンツェル。
 おまえの髪を、垂らしておくれ。
 どうか僕を、殺しておくれ。

 わからない。わからないわからないわからない。
 わたしは、どうしたらいいの。
 血は欲しくないの。だけど、きれいな男のひとの血が見たいの。殺したいの。
 それなのに、どれだけ殺してもたのしくないの。
 どうすればいいの?
『穴』に落ちて、「ちゃんとした」ムービーキラーになったら、少しは楽になるかしら。

 ねえ。生きるって、何?
 わたしはどうして、ここにいるの?

種別名シナリオ 管理番号479
クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
クリエイターコメント神無月まりばなです。久しぶりの通常シナリオです。
なしくずしシリーズ、色モノDayのホラーなプリンセスシナリオ第3弾、いきまーす!

さて、今回は、前2作とは少し毛色が違います。
SAYURIは、プライベートではわがままで気まぐれな女性ですが、こと仕事となると、むしろ役者馬鹿なくらいに演じることに真摯なひとで、だからこそハリウッドで成功したのではなかろうか、というのが私なりの解釈です。
彼女は、「映画」で演じた役の実体化については、どんなヴィランズが出てこようと覚悟はあると思います。
けれどもラプンツェルは、瞬間芸術である「舞台」で演じた、未熟な頃の失敗作と位置づけていたものです。それが不本意な実体化を果たしてしまいました。

シンデレラと人魚姫は、皆様のおかげで銀幕市に溶け込むことができましたけれども、ラプンツェルに関しては、適応がかなり難しいのではと思います。
ラプンツェルにどう対処なさるかは、PCさまがたのご判断におまかせしたいと思いますが、今回につきましては、ご希望の行動が全採用とはならない可能性をご承知おきください。
皆様それぞれ、ゆずれないものがあると思いますので、考えが分かれた場合は、ぶつかっていただくことも有り得ます。
コトの発端をつくった「彼」を断罪し、ラプンツェルをフィルムに戻すにしましても、何らかの納得をSAYURIに伝えていただければうれしいです。
そういう意味では、難しい依頼となるかも知れません。
今の段階では、結末は決めておりません。皆様と一緒に、私も悩みたいと思います。

ところでラプンツェルは、好きなタイプの少年〜青年を狙う傾向にあります(オヤジ属性はナシ)。該当しそうなかたはご注意のほどを。

それでは記録者は、対策課でSAYURIさんのスプリングコートをハンガーにかけながら、お待ちしております。

参加者
ロゼッタ・レモンバーム(cacd4274) ムービースター その他 25歳 魔術師
クレイ・ブランハム(ccae1999) ムービースター 男 32歳 不死身の錬金術師
ブラックウッド(cyef3714) ムービースター 男 50歳 吸血鬼の長老格
タスク・トウェン(cxnm6058) ムービースター 男 24歳 パン屋の店番
岸 昭仁(cyvr8126) ムービーファン 男 22歳 大学生
小日向 悟(cuxb4756) ムービーファン 男 20歳 大学生
刀冴(cscd9567) ムービースター 男 35歳 将軍、剣士
<ノベル>

ACT.1★依頼
《わたしには、どうすればこの塔から降りられるのか、わからないの。わたし、あなたと一緒に行きたいのに》
 
 ムービースターを己が身で造型し、「生んだ」はずの演技者は、こういった局面では何もできはしない。せめて、掲示された依頼を見た誰かが、協力を申し出てくれるのを待つくらいだ。
 応接室を出たSAYURIは、定宿の銀幕ベイサイドホテルに引き上げるそぶりも見せず、掲示板の横に陣取った。
 新規登録のために市役所を訪れた人々は、殺風景な公的機関には不似合いな、大輪のカトレアさながらの女優に驚き、次々に感嘆の声を上げる。
「あんた、じゃま。かえってよ」
 ベビーピンクの美しい花を咲かせた人魚姫は、『しょくばのはな』たるアイデンティティを侵害されたと感じたらしい。敵意全開で牙を剥き、髪を逆立てる。
 しかし、この少女植物の出身映画においてマッドな女性研究者役であったSAYURIは、たじろくことなく平然と一瞥し、
「観葉植物は黙ってなさい」
 と言ってのけた。
「う」
 その迫力に気圧されて、ウブな新人OLのように人魚姫は固まる。
「こんにちは、人魚姫。あれ、SAYURIさん?」
「よぉ、元気か人魚姫。腹減りすぎてヤバいもん食ってねぇだろうな? 今日の差し入れだぞ。……ん? どした?」
 市役所の空気を一新する、ほっこりと穏やかな声と大らかで陽気な声とが、揃って響いた。入口で居合わせた小日向悟と刀冴が、ともに現れたのだ。
 フロアいっぱいに、焼きたてのパンの香ばしい匂いが漂う。
 我らが将軍は、渾身の逸品たるお手製パン――知る人ぞ知るナイスガイを超リアルに模した等身大のパンを持参しているのだった。
 以前、凶暴な肉食植物『人魚姫』が柊邸に現れたとき(銀幕ジャーナルの後日談コラムには、【まぁメイド事件】と記されている。命名理由について、なぜか市長を含めた関係者一同は口を濁しているが、ハリウッドでも大評判だったジャーナル巻頭グラビアの美麗和風漢女メイドズの艶姿が全てを物語っている)、このパンは事件解決の一役を担ったばかりか、人魚姫の銀幕市適応の役割も果たしたことは未だに語りぐさである。
「うえーん、さとりぃ〜。とーごぉ〜」
 頼もしい上司たちにすがるように、人魚姫は甘えた声を出す。
「おつぼねさまが、あたしのこといじめるのぉ」
「あはは、あのときは喋れなかったのに、ずいぶん成長したね」
「いっぱしの口きくようになりやがって。どうせ自分から喧嘩吹っかけたんだろ? 腹ぺこだと凶暴化しちまうもんなぁ。ほれ食え」
「わぁい、ありがとー。とーごのパン、だいすき」
 パンを前に人魚姫は大喜びで、がむぅぅぅと、生身の人間であれば脇腹に相当する部分にかぶりつく。
 ――がじがじ。
 ――もぐもぐ。
 あっという間に上半身と下半身が分断される。模された人物に同情したくなるようなスプラッタシーンだが、対策課職員たちには、既に日常の一コマだ。それに、気配り豊かな刀冴のこととて、人魚姫への差し入れはいつも『中身』なしのシンプルなつくりであるから、ジャムやクリームが飛び散って対策課のパソコンや書類を台無しになるということもない。
 しかしながら、パンの一部はちぎれて飛んじゃったりする。『ふともも』に該当する部分が、くるくると宙を舞った。
「香ばしい匂いがすると思ったら、噂の漢パンか。いい焼き上がりだなぁ」
 片手でキャッチしたのは、ちょうど、対策課を訪れたばかりのタスク・トウェンであった。
「俺も食べていいかな?」
「だめ。あたしのだもん」
 タスクは刀冴に聞いたのに、応えたのは人魚姫だった。ジェントルなタスクは、残念、といいながら『ふともも』を人魚姫が食べやすい角度で渡す。だが、そのタスクのもう一方の手にも、パンの入った紙袋が抱えられているのだった。
「それ、なぁに?」
『ふともも』を囓りながらも、人魚姫は油断なく紙袋をチェックする。タスクは袋を広げて見せた。
「俺も、対策課のひとたちに差し入れ持ってきたんだ」
 また別の、食欲をそそる香りがふわっと立ちのぼる。
 パンは2種類あった。さくさくの生地にほろ苦いホワイトアスパラと無添加ショルダーベーコンを巻き込んだ、軽食タイプのものと、メロン果汁を加えたデニッシュ生地に、ビターチョコをふんだんにサンドした、メロンデニッシュショコラである。
「これも食べてみる?」
「んー、そんなにいうなら、あじみしてもいいけどぉ。とーごのパン、ぜんぶたべたあとでね」
「うわ、微妙に振られた。刀冴さんがライバルだもんなぁ。じゃあ、人魚姫以外のひとに先にあげちゃうよ?」
 はい、シンデレラ、はい、植村さん、はい、SAYURIさん、と、タスクは実にナチュラルにメロンデニッシュショコラを配っていく。
「ありがとうございます」
 タスクとは知古の汐は、目礼しながらパンを受け取り、見事な出来映えに目を見張った。
「タスクさん。これ、ご自分で焼いたんですか……?」
「いや、自作でもロケエリ産でもないよ。居候先の女の子が、料理教室で多めに作ったのを持ってきたんだ。……疲れてるでしょ? そんなときは甘いものが一番だよ、食べて食べて」
「……おいしい」
 一口食べて、汐はぽろりと涙をこぼす。
「わわっ、どうしたの、シンデレラ。具合悪いの?」
「ごめんなさい。ただ、パンの匂いって、しあわせだなぁって。平和で、おだやかで」
 眼鏡を外して涙をぬぐう汐に、タスクはおろおろする。
(ど、どうしよう。こんなときは、そうだハンカチを……しまった持ってない!)
 助けを求めてあたりを見回し、悟の存在をキャッチしたのと、
「――大変だったね、汐さん」
 SAYURIから依頼内容を聞き、顔を曇らせて掲示板を眺めていた悟が――正確には、彼のバッキー『ファントム』が、悟の声に合わせて汐にハンカチを差し出したのは、ほぼ同時だった。
 必殺バイト請負人たる悟は、ベイサイドホテルの支配人に乞われ、イベントスタッフとして駆り出される機会が多く、SAYURIともパーティ会場等でよく顔を合わせている。個人的に話す機会も多いため、事態の把握も早かった。
「すみません。もう、大丈夫です。おかげさまで、少し落ち着きました」
 バッキーの頭を撫で、受け取ったハンカチで汐は目元を押さえる。
「皆さん、どうか――タスクさん、小日向さん、刀冴さん」
 いったん言葉を切ってから、掲示板やSAYURIから少し離れて佇む、ある人物にも声を掛けた。
「ご協力、くださいませんか? ロゼッタさん」

 それまでロゼッタ・レモンバームは、遠巻きに睨むように、掲示板の依頼内容を黙読していた。
 紫の双眸には凍てつくような憤りが宿っているが、それを露わにすることもなく、しんと冷ややかに動かない。
 汐の呼びかけに、ようやく隻腕の魔術師はグラスチェーンを揺らして顔を向け、いささか腹立だしげに声を上げる。
「……なるほど。曖昧な自分の苦しみから逃れるための殺人か。中途半端な話だ――何から何まで」
「中途半端が、嫌いなのね?」
 SAYURIがゆっくりと歩み寄る。
「貴方もだろう? それが未熟な頃の自分であれば、なおのことだ」
「どうすればいいかしら?」
「ラプンツェルを探し出して、会うべきだと思う。貴方が」
 SAYURIに向き直り、ロゼッタは告げる。憤りよりも理知が勝る、求道者の声音で。
「ラプンツェルが求めているのは『完璧な自分』ではないか? つまり、現在の貴方だ。貴方の言葉なら耳を傾けるかも知れない」
「……そうね。わたしも、ラプンツェルを一刻も早く探さなければと思っているの。これ以上被害が広がらないうちに」
「はい、こちら『対策課』です。岸昭仁さんですか? 灰田です、こんにちは――ええっ、クレイさんが?」 
 汐の席の電話が鳴った。岸昭仁が切迫した声で伝えてくる内容を、汐は頷きながらメモを取る。
「……はい、はい。そのむね、皆さんにお伝えします。岸さんもこちらに合流なさいますか? わかりました、お待ちしてますね」
 何事かと注視する一同に、汐はメモを読み上げる。
「岸昭仁さんからのご連絡です。今回の事件をローカルニュースで知ったクレイ・グランハムさんが、大変な勢いで飛び出して行かれたのと偶然、すれ違ったそうです。誰よりも先に、ラプンツェルを見つけてみせる。そう仰っていらしたそうで」
「何だとぉ? クレイが!」
 いち早く反応したのは刀冴だった。
 あれは、そう、『魔神』と呼ぶべき存在に、出口なき眠りをもたらされたときのことだ。瀕死の刀冴を救うため、決起してくれた友人たちがいた。クレイはそのひとり――かけがえのない、恩人なのだ。

 ――理由を、問いたい。
 吸血鬼が戯れに人を殺す、その理由を。
 激しい怒りを露わにし、クレイはそう言ったという。

「余程の怒りだね。女性恐怖症の彼が、何のためらいもなくそう行動したということは」
 天鵞絨のように柔らかな霧が、市役所の窓から流れ込んできた。
 それは、SAYURIの前でゆるりと人型を描く。現れたのは、黒いコートに包まれた貴族的な壮年男性だ。彼は優雅に腰を屈めて大女優の手を取り、唇を落とす。
「久方ぶりにカトレアの君にお逢いできたというのに、無粋な場所なのは残念なことだ」
「ブラックウッド。……お久しぶりね」
「おおかたの事情は、我が使い魔から報告を受けているよ。さて、私も美しいラプンツェルを追うことにしよう。ラプンツェルを実体化させた男の探索は、使い魔が上手くやってくれるだろうからね」
 黒衣の紳士はコートを翻し、再び霧となった。丸っこいコウモリに似た彼の使い魔だけが、ぷにぷに可愛らしい姿でその場に留まる。
「ぷぎゅー! ぷぎゅぎゅーむ(訳:はいです! がんばってさがすです)」
 移動するあるじを、使い魔は翼部分をみょーんと曲げ、敬礼で見送る。
「頼んだよ。それにしてもその男には、許し難いほどに愛が足りないね。嘆かわしい限りだ」 
 霧は、何処へともなく去る。ぞくぞくするような声だけを、去り際に残して。
 
 汐との、携帯での通話を終え、昭仁は一層足を速める。
 彼はもともと、この依頼を受けるため、対策課に向かっていたところだった。事件のことを知った下宿の経営者に、むこう1ヶ月分の家賃と引き替えに頼まれた、という事情もある。
 しかし何より、彼はSAYURIのファンだったし、機会を見て彼女に伝えたいこともあった。
 昭仁の知り合いに、休業中の女優がいる。
 彼女は、ラプンツェルを演じていたときのSAYURIを知っていると言った。そんなに親しくはなかったんだけどね、と前置きして、それでも懐かしそうに語った、ある言葉を……。

ACT.2★追跡
《あの綺麗な鳥は、もう巣の中で歌ってはいない。あれは猫がさらっていった。今度は、おまえの眼玉を掻きむしるかもしれないよ》

「クレイが心配だ。ラプンツェルもだ。俺も、探すぞ」
 協力者が出揃ったのを見計らい、刀冴はきっぱりと言った。
「彼女は今、どこにいるんだろう」
 タスクが考え込む。
「目撃現場はギンボシ電器前だったな。まずはそこに向かおう」
 杖を手に、合理的な判断を下したのはロゼッタだった。以前、別件で使用したことのある、記憶を探る魔法――標的の記憶を辿って現在地を特定する方法が、おそらくは今回も有効であると考えたのだ。
「もし、探索に囮役が必要なら、俺、立候補するぜ。ラプンツェルの好みに合うかどうかはわかんねェけどさ」
 合流するなりそう言った昭仁に、SAYURIは苦笑する。
「わざわざ志願しなくても全員、クレイも含めて、危険な囮であることに変わりはないわ。ラプンツェルが狙うのはだいたい、若い頃のわたしの好みと一致してるから。……ああ、ブラックウッドだけは別格だけど」
 若い娘にはなかなか、あの魅力は理解出来ないものよ、と、小声で付け加えて。
「あ、あの、皆さん。できることなら、その」
 汐は一同を見回して何か言いかけた。が、いえ、やっぱりいいです。何でもないです、と、口ごもる。
「ラプンツェルを、助けたいと思う?」
 その気持ちに同調し、悟が後を引き取った。
 汐は目を見張り、次いで、うつむく。
「……あのひと、真っ赤な世界に立ちすくんで、迷って迷って、どうしていいかわからなくて、途方に暮れているように見えたんです。白い塩の世界を彷徨っていたときの、私みたいに。あのとき、タスクさんがホワイトデーのキャンディをくださって、私、とても、うれしかった」
「俺も、喜んでもらえて嬉しかったよ」
 タスクはパン入りの紙袋を抱え直し、汐に頷いた。
「俺はね、本音を言えば、誰も犠牲になってほしくないと思ってる。もちろん、彼女は罪を償わなくちゃならない。だけどそのうえで可能なら、銀幕市がラプンツェルを受入れ……いや、ちがうな、ラプンツェルが銀幕市を受け入れてくれるよう、助けてあげたい。それでも、もし」
 もし、と、タスクはSAYURIに向き直る。
「実体化したラプンツェルがとても辛そうで、SAYURIさんが、彼女を見ているのが耐えられないのなら、代わりに剣を抜くよ」
「そう言ってくれるあなたのほうが、つらそうね。いいひとね、タスク」
 まだ口をつけていないメロンデニッシュショコラを片手に、SAYURIは微笑む。
「でもね、いいひとって、もてないのよ。どんなに美形でも」
「……………そうかぁ」
 がっくり肩を落としたタスクは、さらに追い打ちをかけられた。
「わたし、パンは、流星が焼いたホテルブレッドを食べることにしてるの」
「……………そうかぁ。また振られたかぁ。総料理長がライバルだもんなぁ」
「でも、これも美味しそうね。そちらの軽食タイプのも、いただけるかしら?」
 パンをふたつ受け取り、SAYURIは言った。
「わたしは、生きたままのラプンツェルに会うべきだと思うの。だからお願い――連れてきて」

  ★ ★ ★

 

 甘美な感情で満たされた、幸福な過去。
 もう取り戻せない、失った時間にまつわる、ひとの記憶。
 しかし、それに執着すればするほどに、甘美だったはずの記憶は変質し、幸福は悲嘆に塗り替えられる。
 妄執は歪みをもたらす。美しい追憶は毒を孕む。
 自主映画製作代行サービスを利用するものは、そしてそれに翻弄されるものたちは、追憶を司るムネモシュネの『毒』に侵されているのだ。
 そんな事情を、ロゼッタは知らない。知る必要もない。
 一同は、ギンボシ電器前にいた。
 未知なるものの思惑がどうあれ、禁忌の魔術は冷徹にことわりを貫き、記憶の痕跡を辿ることができる。存在に揺らぐものの、迷いの道筋を。
 ロゼッタはすぐに、ラプンツェルの現在地を特定した。

「『穴』だ。彼女は、『穴』に向かっている」

「冗談じゃねぇぞ。もしラプンツェルが『穴』に身を投げやがったら……。そうしたら」
 昭仁の声が震える。
 彼らは、つい先日発生した、伏姫の事件についても聞き及んでいた。
 監視所に人がいなかった空白の日に、伏姫は穴に身を投じた。銀幕市に八つの玉が飛び散ったのだ。
 衝撃的な出来事に、市内中が未だにざわついている。事件はまだ収束していない。
 あれ以来、監視体制は強化されているはずだから、投身の隙を見つけることは難しい。

 ――だが。万一。
  
 一同は、走り出す。
 残酷な想像に青ざめている暇はなかった。
 
  ★ ★ ★

 天候だけはすがすがしく、晴れ渡った日だった。
 杵間連山の新緑が、目に眩しい。
 高いフェンスと、ものものしい有刺鉄線、そしてプレハブの仮設小屋が視界に入った。
 そして、金髪をなびかせて立ち止まる女の、後ろ姿も。
 
「良かった。まだ無事……」
 ラプンツェルを確認し、タスクは安堵しかけたが、
「クレイさん!」
 しかしすぐに、その声は緊張で強ばる。
 彼女が歩みを止めたのは、その行く手に障害物が存在したからだ。
 レイピアを構えた、クレイである。
「なぜ、殺す」
 クレイの青い瞳には、燃えるような怒りが宿っている。
 彼はかつて、親友を吸血鬼に殺された。ラプンツェルの犠牲になった青年が、親友に似ていたわけではないけれど――思い出したのだ。
 哀しみや喪失感よりも、もっと心を締め上げるものを。
 親友と過ごした、朗らかな笑い声に満ちた日々を。
「なぜ、殺す!?」
「……?」
 小首を傾げるラプンツェルに、クレイはなおも問う。
「答えろ! 何故、貴様は人を殺す?」
「……なぜ?」
「そうだ。何故? ただの戯れか?」
 ラプンツェルは途方に暮れた顔で、力なく首を横に振る。
「……それは、わたしが知りたいことなの」
「それが答か。ならば、容赦せぬ!」
 レイピアが一閃し、鋭く空を斬る。金髪がひとふさ、さくりと落ちた。
 クレイは剣の角度を変えた。鋭い切っ先はまっすぐに、ラプンツェルの白い喉を狙っている。
「危ない!」
 叫んだのは昭仁だ。ラプンツェルにではない、クレイに放った言葉だ。
 しゅるる、と、目にも止まらぬ速さで髪が伸びる。クレイの手首ごと、レイピアが絡め取られる。
 動きを封じられたクレイの上半身を、金の鞭のようにしなりながら、さらに巻き取ろうとしたその瞬間。
 ラプンツェルめがけ、昭仁が思い切り体当たりをした!
 が……。
 その決死のアタックは、ひらりと身軽にかわされてしまった。
「うわわわわわーーーーー!!!」
 勢い余った昭仁は、顔面から有刺鉄線に突っ込むところだった。両腕をタスクと悟に支えられ、危うく踏みとどまる。
 すでにラプンツェルの髪は、クレイの腕と腰と両足をまんべんなく拘束していた。
 もがくクレイを引き寄せて、その肩に白い指先を食い込ませる。
「こうせずには、いられないの……。殺したく、ないのに」
 吸血鬼の鋭い牙が、五月の陽光にきらめく。
 クレイの首筋めがけて、ラプンツェルは牙を立てた。

「……くッ」

 激痛を押し殺しながらも、それでも漏れる声音。逞しい首筋から流れて滴り、衣服を濡らしていく鮮血。
 しかしそれらは、クレイのものではなかった。
 全身をぎりりと金髪に巻き上げられたまま、クレイは茫然とする。いったい何が起こったのかわからない。
 牙を立てている当のラプンツェルさえもが、不思議そうにまばたきをした。
 
 ――刀冴だった。
 クレイを庇い、彼の身代わりに我が首をさらし、ラプンツェルの牙を受けたのは刀冴だったのだ。

「そんな……」
 少し、髪の力が緩んだ。からん、と、レイピアが地に落ちる。
「なぁ、クレイ。俺に免じて、ラプンツェルを始末するのはナシにしてくれねぇか? どうしてもっていうなら、俺は【明緋星】を命の恩人のあんたに向けることになっちまう」
「そんなことより、貴様、私を庇って」
「気にすんな。こんなの、どってことねェ。あの魔神野郎に比べりゃ、かわいらしいもんだ」
 刀冴は痛みをものともせず、首の筋肉を緊張させた。これで吸血鬼は、牙を抜くことができない。
 ラプンツェルはあべこべに拘束されたのだ。刀冴から離れようとして離れられず、狼狽している。
「さぁて、お嬢さん。この体勢じゃお互い話づらいったらないが、こうでもしなきゃ、あんたとじっくり逢い引きできないんでね」
「刀冴さん。何て無茶を。痛むだろうに」
 牙を突き立てられたままの首筋からは、激しい出血が続いている。駆け寄ったタスクは自分の服を裂き、その血を拭った。
 しかし刀冴の口調は、ここが住まいの古民家で、まるでラプンツェルが彼を訪ねてきた大事な客人であるかのようだ。あるいは、もうひとりの自分に語りかけるかのような真摯さというべきか。
「あんたは、本当は一体何を望んでいるんだ?」
「……ほんとう、は?」
 くぐもった声でおうむ返しに呟き、ラプンツェルは視線を宙に彷徨わせる。
「生きてるってのは、てめぇがてめぇの足で立つってことだ。あんたは、どうだ? 生きてるって言えるかい? ……生きてるって、言いてぇのかい?」
「それは私も、聞いてみたいね」
 ロゼッタが、冷静さを崩さずに問う。
「本音はどこにある? 生きたい様に生きればいいんだ。『ラプンツェル』という名を捨てるのもいい。その忌々しい髪を切ってしまうのもいい。壁は、ぶち壊すためにある」
「……ラプンツェル。存在の自由が奪われることは、苦しいし、哀しいと思う。だけどもし、キミがそれを自覚して助けを求めているのなら、信じてほしい。この街には、キミを守りたいと考える人々もいるんだよ」
 ――そのときだった。
 ラプンツェルの視線を捉えた悟が、静かに話しかけたのを合図とするかのように――

 しっとりしたヴェールのような霧が、立ちこめた。
  
  ★ ★ ★

「女性の髪は象をも縛るという言葉の通りだね。だがそろそろ、解放してあげたまえ。彼らを、そして、自分を」
 ブラックウッドのヴェルベットヴォイスが、優しい音楽のように柔らかに落とされる。
 霧は指揮者の如く巧みな腕となり、ラプンツェルの髪からクレイの身体をさらりと解きはなった。同時に、突き立てられたその牙は、刀冴の首筋からもするりと抜ける。
「そしてもう一つ、乱れ髪は乱れた心を映すとも言う。君は、存在もこころも極めて不安定のようだけれども、足りない部分は焦らず補って行けば良いはずだ」
 ブラックウッドは、困惑するラプンツェルをその胸に抱きしめた。父親のように慈愛に満ちた仕草で、蜂蜜色の髪を撫でる。
「さあ、聞かせておくれ。君の望みを」
「わたし――わたしは」
 しばらく顔を埋めていたラプンツェルは、やがて、ぽつりと呟いた。

「ちゃんとした吸血鬼に、なりたい」
 ――誰かの血を吸うことに意味を見いだすことができて、やみくもにひとを殺したりしない吸血鬼に。

「いい子だ」
 壮年の吸血鬼は、漆黒のコートの中にラプンツェルをくるみ込む。生まれたばかりの同族をあやす如くに。
「大丈夫、上手くやって行けるとも。上手くやるための術は、私が手ほどきして差し上げよう」
「ブラックウッドさんがそう言うんなら、出る幕ねぇなぁ。まぁ、一日一回くらいは囓らせてやるとして、その前に」
 タスクがくれた布で首の傷口を押さえながら、刀冴は左手でラプンツェルの顎を掴み、ぐいと自分のほうを向かせた。
「ちぃと覚悟しろよ。今からあんたの厄介な性質を和らげる、とっておきの魔法を使うぞ」
「ほう……!」
 世にも珍しい台詞を聞いたという風に、ブラックウッドは声を上げる。
「将軍閣下。それをひとは『愛』と呼ぶのではないのかね?」
「俺は朴念仁だから、そんな超上級魔法にゃ縁がねぇよ! 【創麗王】第五節『輪廻光』をかけるんで精一杯だ」
 刀冴はあっさりいうが、それは被術者の意識を残したまま、別の存在へと創り換える魔法――術者の身体を壊しかねない高度な技である。

 ――光あれ。
 詠唱された呪文は、似ても似つかぬ文言だったが、おそらくはその言葉が一番ふさわしいだろう。
 その瞬間、ラプンツェルを中心にして同心円を描き、杵間山麓中を眩しく輝かせた、刀冴の『輪廻光』の鮮烈さは。

  ★ ★ ★

「ぴゅぎゅう。ぎゅう?(訳:ねこさんこんなひとしってるですか?)」
 同時刻、ブラックウッドの使い魔は、聖林通りの歩道でシャム猫に聞き込みをし、さらに銀幕ふれあい通りの花屋の店頭でミニ薔薇に事情聴取をするという、八面六臂の大活躍をしていた。
「ぷゅぎゅ、ぎゅぎゅ?(訳:おはなさんこんなひとしってるですか?)」
 動植物ネットワークは侮れない。情報収集はことのほかはかどった。
 使い魔はほどなく、ラプンツェルを実体化させた男の詳しい情報を持ち帰ることになる。

ACT.3★舞台
《わたしはおまえを世間から引き離し、うぶなままにしておいたのに、おまえはわたしを瞞したんだね》

「あのねぇ、あなたたち……」
 銀幕ベイサイドホテルの自室で待機していたSAYURIは、刀冴の怪我と魔法使用による憔悴という事態はあったにせよ、一同の帰還と首尾にひとまず安堵した。そのうえで額に手を当て、ため息をつく。
「……確かにわたしは、生きたまま連れてきてと言ったわ。だけど何なのよ、この好待遇ぶりは。甘やかし過ぎじゃないの?」
 てっきりラプンツェルは、その危険度から考えても、厳しく手足を拘束されて連行されるだろうと思っていたのだ。
 なのに彼女は、ブラックウッドにうやうやしくお姫様抱っこされ、刀冴や悟やタスクに保護者さながらに労わられ、ロゼッタと昭仁とクレイを付き従えるようにして、スイートルームにお越し遊ばされたのである。
「クレイ、あなたこれでいいの?」
 いきなりSAYURIから話しかけられたクレイは、女性恐怖症大全開で2メートルほど後ずさってから、
「……少し、頭が冷えたのでな。ラプンツェルがもう、やみくもな人殺しはせぬと言うのなら、私もレイピアを収めることにする」
 と、ぼそりと言った。
 その隣で昭仁も呟く。
「俺もさぁ、人を弄ぶみたいに殺すやつにはあんまり同情できないって思ってたし、今でもそうだよ。でも、こうなってみると、やっぱこんな美人、バッキーに食わせるのは勿体ないよなぁ……。な?」
 昭仁に笑いかけられ、ラプンツェルはにこりと微笑みを返した。
 SAYURI は面白くなさそうにああそう、と呟いてから、刀冴を見る。
「皆さん、包容力がありますこと……。刀冴も刀冴だわ。もっと自分を大切にしなさいよ」
 しかし刀冴は、すでに回復の兆しを見せている傷口を撫でながら、
「性分なんでなぁ」
 と言うのみだ。
「カトレアの君には、この展開がご不満と見える」
 微笑むブラックウッドに、SAYURIは肩を竦める。
「そういうわけじゃないけど。……そうねえ、あんなことしでかしたくせに無邪気な顔で、素敵なひとたちに優しくされてるから嫉妬してるのかもしれないわね。わたしと気の合わなかったあの演出家も、きっとこんな気持ちだったのよ」
 わたしも大人になったってことかしら。――ようやく。
 聞き取れぬほどかすかに言ってから、依然お姫様抱っこ状態のラプンツェルに顔を向ける。
「で、ラプンツェル。ここまで皆を巻き込んでおいて、自分の身の振り方は決まったんでしょうね?」
「ちゃんとした吸血鬼になりたいのだそうだよ。彼女は私のもとに引き取り、指導しようと思う。それでいいね?」
「――はい」
 こっくりと素直に、ラプンツェルは頷く。
「それは願ってもないことだけど、あまり甘やかさないでね、ブラックウッド。メイド見習いにでもして思い切りこき使って頂戴。罪を忘れさせないで、被害者と親しかったひとたちがもういいって言うまで毎日謝りに行かせてね。……それに、メイドだけだと待遇良すぎるから、ボランティアで銀幕市中の公共機関のトイレ掃除と建物周辺のゴミ拾いと草むしりもさせること。それから」
「SAYURIさん」
 まだまだ続きそうなSAYURIの駄目だしをやんわり遮ったのは悟だった。
「この事件はまだ、終わってないですよ。新しい舞台の開幕は、これからです」
「どういうことかしら?」
「ラプンツェルを実体化させた男の糾弾が、まだということだ」
 ロゼッタが言い、タスクがうんうんと拳を握りしめる。
「殺して欲しくて、何も知らないラプンツェルを呼び出すなんて、酷すぎるよ」
 スイートルームの真ん中に置かれたテーブルには、男の詳細なプロフィールをプリントアウトしたA4用紙に、顔写真が添えられたものが置いてある。

 +++++++++

 吉川治朗。37歳。独身。
 マンションにひとり暮らし。両親は他界。
 先月までギンボシ電器に勤めていたが退職し、現在は無職。
 退職理由は「恋人に殺してもらうため」。
 ギンボシ電器側は、過剰労働が精神的負担を招いたと判断し、規定額以上の退職金を支払った。

 以下は、使い魔が聞き込みしたシャム猫談である(翻訳済)。
「あたし、ベランダから見たことあるわ。あのひと部屋中に、綺麗な金髪の女の子の古い写真を引き延ばしたものをぺたぺた貼ってて、ずっと話しかけてるのよ。『ずいぶん待ったよ。やっと君に会えるんだね、ラプンツェル……。だけど、どうして他のやつを殺すんだい? 僕はここにいるのに。早く君に殺してほしいのに――気づいてくれないのなら、迎えに行くよ』って……』

 +++++++++

 吉川の写真をクレイは険しい目で睨む。
「まったく理解出来ない。その男の歪んだ願いと行動は」
「死にたきゃ勝手に死ねよバカって、面と向かって言いてぇ」
 昭仁も、そう吐き捨てる。
「……死ぬよりも辛い方法で、断罪してやればいい」
 凄惨なほどに声のトーンを落とし、呟いたのは刀冴だ。ブラックウッドが低く笑う。
「私も同様のことを考えているよ。……さて、その手段について、道すがら悟君と話したのだが」
「ラプンツェルの精神的リハビリを兼ねて、一日だけの公演を行ってはどうでしょうか? 彼女には充実した舞台を、幸せな『ラプンツェル』を演じることが必要だと思います。会場はそんなに広くなくていいので、このホテルの中ホールを借りることが出来れば」
 手帳を取りだし、悟は企画を説明する。SAYURIは、雷に打たれたかのような表情になった。
「彼女を――舞台に立たせるの?」
「はい。主役の『ラプンツェル』として。必ず吉川はおびき出され、観劇にやってくるでしょうけど、彼女は僕が――僕たちが守ります」
「悟……。わたし、それは……、考えてもみなかったわ。だけど、そうね。とてもいい企画ね」
「SAYURIさんには、脚本と演出をお願いします」
「わたしが……?」
「僕もブラックウッドさんも、できるかぎりお手伝いしますから」
「待って、ちょっと待って、考えをまとめるわ」
 SAYURIは両頬に手を当て、しばらく目を閉じていた。
 やがて、その双眸は自信に満ちた輝きを持って開く。

「じゃあ、こうしましょう。タイトルは前の公演と同じ『ヴァンパイア・レッスン』。だけどストーリーは、ホラーミステリだった前作とは全然違う、明るいものにするわ。キャストも選りすぐりの人材で固めるの」

 ――当然、ここにいる皆は出演してくれるわね?
 大女優は演出家の顔で微笑み、新生『ヴァンパイア・レッスン』の公演が決定したのである。

 ちなみに、ストーリーラインはファンタジックなラブ・ロマンス。
 テーマは『愛』であった。

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   *〜* 一日公演『ヴァンパイア・レッスン』のご案内 *〜*
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  銀幕市の皆様へ

  いつも当ホテルをご利用いただき、ありがとうございます。
  バレンタインのチョコレート教室にはたくさんのご参加をいただき、
  本田総料理長をはじめ従業員一同、感謝しております。
  
  さて、今回は、当ホテルに宿泊中の大女優、SAYURIが脚本・演出を
  手がける舞台に、皆様をご招待させていただきます。
  選び抜かれたキャストが演じるラブ・ロマンスを、どうぞひととき
  お楽しみください。
  
 【ストーリー】
  吸血鬼ラプンツェルは、記憶を失って人間の世界で暮らしていたところ、
  村の青年に救われる。異国の貴族の令嬢だと考えた青年は、村を訪れた
  世継ぎの王子と警護の近衛隊長に彼女の保護を願い出る。
  身元がわかるまで、客分として城で暮らすことになったラプンツェル。
  彼女を巡って展開される、王子と、宮廷魔術師と、王宮錬金術師の
  恋の行方は?
  吟遊詩人が讃える彼女の美貌は、各国の宮廷と、長老格の吸血鬼のもとへ
  伝わり、やがて――運命の歯車が回り始める……。
  
 【キャスト】
  記憶喪失の吸血鬼………ラプンツェル
  村の青年(語り手)……小日向悟
  吸血鬼の長老格…………ブラックウッド
  世継ぎの王子……………タスク・トウェン
  近衛隊長…………………刀冴
  宮廷魔術師………………ロゼッタ・レモンバーム
  王宮錬金術師……………クレイ・ブランハム
  吟遊詩人…………………岸昭仁
  
  脚本・演出 SAYURI
  脚本補佐  小日向悟
  演出補佐  ブラックウッド

 …―…―…―…―…―…―…―…―…― 協賛 銀幕ベイサイドホテル 
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「皆、演技しようなんて思わなくていいのよ。地でできる役を割り振ったから」
「女性との絡みは勘弁してくれ〜〜〜!!!」
 満足気なSAYURIに、クレイだけは最後まで抵抗した。なにせラブロマンスゆえ、登場人物は全員、多かれ少なかれラプンツェルと至近距離で語らったり、舞踏会で踊ったり、ときには抱擁などしなければならないのである。
「何を言うんだね、王宮錬金術師クレイ殿。君はラプンツェルの出自に疑念を持ちながらも、彼女に惹かれる自分を止められないという大事な役回りだよ。揺れる男心をきちんと表現してもらおう」
 結局、王宮錬金術師は、ブラックウッド演出補佐にみっちりとラブシーンのご指導をいただくことになった。

  ★ ★ ★

 広報期間が短かったのにも関わらず、公演会場の中ホールは満席だった。
 客席には見知った顔もちらほら見える。
 嶋さくらも浦安映人もいたし、盾崎編集長と七瀬灯里はどうやら取材に来たようだ。
 サングラスをかけ、端の席に座っているのは柊市長だ。人目を避けるようにしているため、灯里は向けようとしたカメラを引っ込める。
 非常に異色なカップル(?)としては、東博士を伴った汐という組み合わせが見受けられた。汐は、業務外出として認められたうえでの観劇である。
「わぁ……。タスクさんて王子様役なんですね。ぴったり……。小日向さんが語り手で、村の青年役ってとても似合うし、ロゼッタさんの宮廷魔術師も、クレイさんの王宮錬金術師も、岸さんの吟遊詩人も、刀冴さんの近衛隊長もとっても『らしい』し、ブラックウッドさんはこれ以外あり得ないし、どうしよう、私、この中から誰か選べっていわれても選べない」
 シンデレラ心をくすぐられ、すっかり目をハート型にしている汐の隣で、東博士がばりぼりと頭を掻く。
「誰もそんなことは言わんぞ。ムービースターのデータ収集の参考になると言うから来てみれば、何だこの甘ったるさは。我輩は忙しいというのに」
「いいえ! 博士には必要なんです。『愛』がテーマの、この舞台を見ることが!」
「どうしてだ」
「博士は全然気になさってませんけど、アズマ超物理研究所に反感を持ってるひとって多いんですよ。その一因が、博士の研究対象に対する愛情の不足です。もっとムービースターを情緒で理解し、愛してくださらないと協力も得にくいですし、結果として研究もはかどりませんよ」
「………ぬ。しかし……」
 大変な難問を突きつけられた顔で博士が黙り込んだとき、開演のベルがなった。
 場内が暗くなる。
 タイミングを見計らったかのように、荒んだ印象の男がひとり、のそりと立ち見席に現れた。

 ――吉川治朗だ。
 出演者たちはそれを舞台のそでで確認し、そして幕が上がった。

  ★ ★ ★

 透き通るような歌声が流れる。さやさやと緑が揺れ、少女のシルエットが逆光で浮かびあがる。
 村の青年は語る。村を視察に来た、王子と近衛隊長を前にして。
 森の奥深く、湖のほとりで気を失っていたあの少女を、見つけたときのことを。
「妖精だと、思いました。だから彼女は、人里には留まらないだろうと。いつかは僕のもとを離れていくのだろうと、その覚悟は最初からあったんです。ですから、殿下がお城に迎えてくださるのなら、彼女のために喜ぶべきなんでしょう」
「記憶を失っている彼女に、『ラプンツェル』と名付けたのは君なんだってね。どうしてその名を?」
「たとえ魔女に理不尽な仕打ちを受け、運命に翻弄されたとしても、やがては自分の力で幸福をつかめるように、と」

 ひと目で少女に心を奪われた王子は、青年から彼女の身柄を預かり、城に連れ帰った。
 近衛隊長は決して賛成ではなかったのだが、王子の提案を尊重し、身元が判明するまで客分として置くことを不承不承受け入れる。
「だけどなぁ殿下。調べた限りじゃラプンツェルは、この国の貴族の娘じゃねぇぞ。宮廷魔術師と王宮錬金術師からも、得体の知れない女を王子に近づけるなって言われちまった」
「そんなこと言ってるけど皆、ラプンツェルが歌うと聞き惚れるし、舞踏会に出てると踊りたそうにしてそわそわしてるじゃないか。近衛隊長だって舞踏会は苦手なくせに、最近の出席率の高さときたら」
「……あー、うん、それは、まあ。俺は殿下を守らにゃいかんわけで」

「……そんなに、わたしがお嫌いですか? 信用できませんか?」
 ラプンツェルに哀しげな瞳で見つめられ、王宮錬金術師は狼狽える。
「……いや、ただ私は」
「おまえがいったい何者なのか、気になるだけだ、ラプンツェル」
 宮廷魔術師が静かに言う。
「そしてたぶん私たちは、おまえが記憶を取り戻すのを恐れている」

 庇護を受けることを嫌う流浪の吟遊詩人が、この城にしばらく留まったのは、ラプンツェルがいたからだ。
「あんた、大層な美人だな。それに、いい声だ。一緒に歌ってみないか?」
「ええ、喜んで」
 彼らの二重唱と、吟遊詩人が称えるラプンツェルの美しさは、いつしか遙か異国へと届く。
 
「その少女は、我が同胞かも知れないね」
 吸血鬼の長老格が、動き出す。
「彼女に会いに行かなければ」

 舞台は生ものだ。
 観客を前に演じることで、発見と変化は生まれる。
「思い出したわ……! わたしは吸血鬼……。誇り高い始祖から分かたれた不死者だったのよ」
 物語は進む。
 やがて、記憶を取り戻したラプンツェルが、高らかに叫ぶ。
 
 新しいストーリーに同調した瞬間、彼女の迷いは払拭された。
 ムービースター『ラプンツェル』の、誕生である。

  ★ ★ ★

 嵐のような喝采に包まれて、幕は降りた。
 3回目のカーテンコールが終わり、あらかたの観客が立ち去っても、吉川だけはその場に留まる。
「誰だ……。僕の邪魔をするのは。やっと僕は彼女に会えたのに……。やっと彼女に殺してもらえると思ったのに……」
 頭を抱え、吉川は客席でうずくまった。

「死は自由かも知れない、でも誰かの生を邪魔しちゃいけない」
 おごそかに響く、語り手の青年の声。
 吸血鬼の長老格が、声を重ねる。
「君が本懐を遂げても、彼女はその後も迷いながら、この地で生き続けなければならない。君はそこまで考えたのか。それでも彼女を、真実愛していると言えるのか」
「彼女に、おまえを殺させはしない」
「彼女は、おまえを許しはしない」
 王宮錬金術師と宮廷魔術師が唱和する。
「愛していると言うのなら、彼女を笑顔に変えてみせろ。それができなければ――」
 哀しみに満ちた、王子のささやき。
「あきらめるんだな」
 吟遊詩人の、果断な言葉。
「てめぇに、ラプンツェルに殺してもらうだけの価値があるとでも思ってたのかよ?」
 近衛隊長の、激烈な断罪。

 再び、場内の照明が消えた。
 客席は闇に沈む。
 突然、男の頭上に、突き刺すようなスポットライトが浴びせられる。
 怯える男を恐るべき力で抑え込んだのは、待ち焦がれたラプンツェルではなかった。

「ラプンツェルはどこだ? どこにいるんだ。ラプンツェル!」

 役者と観客が反転する第二幕。
 ブラックウッドは男と『従者』の契約を交わす。
「これで君は死ねない。私がこの街に在る限り、自ら死することは許さないよ」

「ラプンツェル。ラプンツェルー! ここに来てくれ。僕のそばにいてくれ」
 ひとならざるものに変わってもなお、喉も枯れよと、男は叫ぶ。
 舞台に佇むラプンツェルは、怪訝そうに刀冴を見る。
「客席に誰かいるの? 声が聞こえるのに、何も見えないわ」
「見えねぇのなら、そりゃあ、見なくていいってことだよ」
 
 男は永遠に、ラプンツェルに近づけない。どんなに傍に寄ろうとも、気づいてもらえない。
 刀冴がラプンツェルに、魔法をかけたので。

 ――『その男だけが一切見えなくなる魔法』を。
 
ACT.4★終わりと始まり
《ラプンツェルは、もうおまえのものじゃない。おまえはもう二度と、あの娘に逢うことはあるまい》

 中ホールの外で出演者たちを出待ちしていた汐は(東博士はさっさと帰ってしまっていた)、彼らから事の顛末を聞いたうえで対策課に戻り、植村に報告した。
 そして植村は、ラプンツェルの救済が成ったこと、事件の発端となった男が彼らにより断罪されたこと、自主映画製作代行サービスの暗躍による派生事件が、これで終焉したことを知る。
 追憶の毒・ムネモシュネ――代行サービスの女性社長に憑依していたと思われる「それ」が姿を消したことは、別の事件に関わったひとびとと、ドクターDから聞いている。
 ならば、ひとの想いが実体化を加速させ、存在の正誤を突きつけられるような悲劇はもう、起こらないのだろう。
「……終わって、よかった」
 自分に言い聞かせるように、植村は言葉にしてみる。
 胸の奥深くから立ち上ってくる、得体の知れない不安を隠すように。

 遙か天空から、あるいは暗い地の底から、銀幕市を見つめている禍々しい気配。
 すでに非日常の坩堝であるこの街が、いっそう不安定になっていく気がする。
 今まで正常に起動していた目の前のパソコンが、いきなりマゼンタ病に罹患するような心もとなさ。
 愛すべき銀幕市民の顔が、不意に浮かんでは消える。
 何かに祈ろうとした植村は、しかし、祈るべき神などいないことに気づいた。

  ★ ★ ★

「ムネモシュネの〈毒〉の残滓は、存外に健闘したようだ」
「これはこれで見ものだったが、教訓にも参考にもならぬな」
「そろそろ次の出し物を見たいものを、誰も腰をあげてくれぬとは情けない」
「勿体ぶるのもいいかげんにしろ、アトラース」
「そうとも。貴様はすでに動いているではないか」
「そう急かすな。もう少しの辛抱だ。可愛いプレアデスからの報告がくるまで、な」
「それは、福音なのだろうな?」
「われらにとっては。まあ、見ているがいいさ。夢が〈罪苦〉に変わってゆくさまを」

  ★ ★ ★

「公演の成功に、乾杯」
 一同が、グラスをかざす。
 ベイサイドホテルのラウンジで、彼らは舞台衣装のまま、ささやかな打ち上げを行っていた。
 一日公演イベントが大好評だったため、気をよくした支配人が総料理長に伝えたので、気合いの入った料理がテーブルを埋め尽くしている。
「悪くない絡みぶりだったぞ、王宮錬金術師」
「……宮廷魔術師もな」
 クレイとロゼッタに挟まれ、ラプンツェルはおぼつかない手つきで海鮮サラダと格闘していた。が、やがて、ひゅーーーん! とフォークを飛ばす。そのフォークは皿をかすめてワイングラスに当たり、そしてグラスは床に落ちて粉々に砕けた。
 皿の上のオードブルからは、パルマ産生ハムが1枚ひらんと舞い上がり、タスクの頭の上にぺしっと乗っかる。
「……えーと」
 生ハムを乗せたまま、タスクはラプンツェルの肩に両手を置いた。
「あのねラプンツェル。聞きたいことがあるんだけど」
「なあに?」
「もしかして君……、ドジっ娘?」
「……?」
 質問の意味がわからぬラプンツェルの代わりに、SAYURIが憮然と答える。
「わたし、こんなにそそっかしくなかったわよ。刀冴の魔法の影響じゃないの?」
「俺のせいかぁ?」
「ならば将軍閣下には責任を取っていただくべく、ラプンツェルの生活指導のために我が家に通ってもらおうかね。但し、彼女との交際は、私の許可を取ってからにしてもらうよ」
「何でそういう話になるんだよ!」
「あ、お似合いかも」
「悟まで何いいやがる」
「そうよ刀冴。自分を大事になさいね」
 ふふ、と、SAYURIはシャンパングラスを灯に透かす。迷いに満ちていたかつての自分が、歩むべき道を見いだして、おずおずと手探りを始めているのを見つめながら。
「SAYURIさん、あのさ」
 大女優の横顔に見惚れていた昭仁が、思い出したように身を乗り出す。
「今日、客席に、俺の知り合いが来てたんだ。SAYURIさんは覚えてないかもしれないけど、最初の公演のとき、ちょい役で出てた女優で、右目に泣きぼくろのある」
「ああ! 魔女の手下役のひとね。堅実な演技の、いいアクトレスだったわ」
「彼女が言ってたんだよ。『あの時、舞台は失敗で劇評もさんざんだったけど、主演女優はベストを尽くしてた。私たち、やれるだけのことはやったと思う』って」
「……そう。彼女は今、どうしてるの?」
「ちょっと体調を崩してて休業中なんだ。SAYURIちゃんは頑張ってね、ってさ」
「じゃあ、彼女に伝えてくれる? 身体が回復したら、ハリウッドにいらっしゃい、また共演しましょう、って」

 舞台はやり直しがきかなくて、どんなに悔やんでも取り返しがつかなくて、まるで人生のようだけれど。
 迷った過去があるから、今を歩いていけるのだろう。

 忘れない。絶望して彷徨った、愚かしい自分のことを。
 忘れない。彼らが今日、身を挺して示してくれたものを。
 たとえ明日、何が起こったとしても。

 SAYURIは軽く手を挙げる。彼らへの感謝に代えて、新しいシャンパンを注文するために。

クリエイターコメント大っっっっ変、お待たせいたしました!
オープニングを提示した段階では、ラプンツェルが救われる確率は非常に低く、重苦しい結末も覚悟していたのですが、そんなバッドエンディングは、皆々様のビッグスケールの愛に打ち砕かれましてございます。
この「愛」を体感してほしくて、東博士まで客席に引っ張ってきましたよ。
そんなわけで、ラプンツェルの身柄は、ブラックウッドさまにお預けすることになりました。ご迷惑でございましょうが、文字通りまるっとさしあげます(私のほうではモブNPCとしても使用いたしませぬ)ので、今後の扱いにつきましては、どぞご自由に。

★ロゼッタ・レモンバームさま
ラプンツェルの探索では、事件現場から「記憶」を辿る、という効果的なアプローチをいただきました。冷静かつ理知的な立ち位置でありながら、その行動に情熱を感じた記録者でありました。

★クレイ・グランハムさま
辛い過去をふまえ、真っ向からラプンツェルの曖昧さを糾弾したお姿に心が痛み、やがて剣をお収めくださった雄々しさに惚れ惚れと。SAYURIさんとは温泉ぶりですが、まだ苦手でいらっしゃる模様。

★ブラックウッドさま
超メガトン級の愛CBMに撃ち抜かれ、記録者は全面降伏でございます。躾の行き届かぬふつつかもので、メイド業務を仕込むのは大変かと思いますが、ご指導ご鞭撻のほど、どぞよろしゅう……(ラプンツェルを置いて逃げる)

★タスク・トウェンさま
タスクさまがいらっしゃると、パンに不自由しなくていいですな(それ?)。随所で、優しい人柄が溢れる展開となりました。王子様役なのは、シンデレラも言ってますが一番ぴったりだったからでございます。

★岸昭仁さま
せっかく囮に立候補くださったのに、なぜか貧乏くじパワーが発動し、有刺鉄線に激突しそうになって申し訳ありません。お伝えくださった女優さんの言葉を、今回の締めとさせていただきました。

★小日向悟さま
ラプンツェルのために舞台を設ける、という、素晴らしい発想にひれ伏しました。おかげさまで、記録者の想像を超えた素敵舞台が開演の運びとなりました。劇中劇のストーリーを考えるのと、キャスト表作成がものすごく楽しかったです。

★刀冴さま
刀冴さまがいらっしゃると、パンに不自由しなくて以下略。そりはともかく、あらゆる意味で度肝を抜かれました。過激さも黒さも包容力も、ブラックウッドさまとは別方向にビッグスケールですよ将軍閣下ったら。

それでは皆様、お疲れ様でした! 
また、銀幕市のどこかでお会い出来ますことを祈りつつ。
公開日時2008-05-23(金) 19:00
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