★ はしばみ荘の心★閃★組な日々 ★
クリエイター依戒 アキラ(wmcm6125)
管理番号198-7147 オファー日2009-03-21(土) 18:31
オファーPC 山崎 ペガサス(cefc5481) ムービースター 男 35歳 心★閃★組
ゲストPC1 近藤 マンドラゴラ(cysd4711) ムービースター 男 35歳 心★閃★組
ゲストPC2 土方 ファルコン(crda8433) ムービースター 男 33歳 心★閃★組
ゲストPC3 沖田 フェニックス(cfzr9850) ムービースター 男 20歳 心★閃★組
ゲストPC4 松平 ケンタウロス(cwmf7883) ムービースター 男 27歳 マネージャー
<ノベル>

 活気溢れる銀幕広場から電車に揺られること約20分。程よく人が少なくなった所でバスに乗り換えて更に20分。春の陽気を浴びて競うように背比べをしているたんぽぽとつくしを脇に眺めながらもう20分程歩いた所で、そのアパートは見えてくる。
 『はしばみ荘』
 六畳一間。トイレ共同、フロなし。立地条件もいいと言えないそこは、しかし家賃が一万三千円と良心価格。
 これはそんな『はしばみ荘』に住む、【幕末音楽戦記 MAK★TO】から実体化したムービースター、『心★閃★組』の四人とそのマネージャーの、熱い誠のシャウッツッを広めるライブ……ではなく。その合間の何気ない日常の物語。


 AM 6:00〜
 はしばみ荘204号室。部屋の真ん中に並べられた四枚の布団のうちの一枚がピクリと動く。
「朝であるか」
 敏速、という訳ではなく。だからと言って緩慢でもない動作でむくりと布団から身を起こしたのは204号室の住人の一人、土方だ。ぱちくりと何度か目をしばたかせた土方、しかしすぐに左の腕に気だるい重みを伴う違和感を感じる。
「…………」
 違和感の元は土方にもすぐに分かった。視界が横目にピンク色を捉えたのだ。
「……何をしているであるか? 山崎」
 なんのことはない。同じ部屋に住む山崎が土方の左肩に張り付いているのだ。鮮やかなピンク色の髪の毛にぴょんと跳ねたアホ毛が揺れる。
「〜〜むにゃむにゃ。おいひほぉな大福だよぉ。おっきぃにはあげないよぉ……えへへ」
 目を閉じたまま夢見心地の幸せそうな顔であんむと大きく口を開ける山崎。きらりと光る八重歯が痛そうだ。
「ちょ……! ちょっと待つである! 我輩の肩は大福ではない。食べられないのである」
 齧られてはたまらないと慌てて山崎の口を押さえる土方。もごもごと手の中で何かを言っている山崎をそっと肩から剥がして布団に寝せ、立ち上がる。途中、ちらりと山崎の布団に目をやるが、一度でもその布団に入ったのかと思うくらいに整っている。が、いつもの事なので土方も大した気にせず洗面所へと向かう。
 土方が時間を掛けて丁寧に洗顔していると、向こうから驚いたような大きな声が聞こえ始める。どうやら近藤が起きたようだった。
「うわっ。……ああ、なんだ。山崎か。はは。オレの背中はベッドじゃないぞ。まだ早いからもう少し寝ているといい」
 そのまま洗面所まで歩いてくる近藤。洗顔中の土方に気がついて挨拶をする。
「おはよう、土方君。今日も念入りだな」
 丁度泡を落している最中だった土方が手で代わりに挨拶をする。近藤はその手に、脇に退けてあった土方専用の吸水性の優れたハンドタオルを乗せてあげる。
 ぬるま湯で濯いだ顔をハンドタオルで拭いた土方は、改めて近藤を見て挨拶。
「おはよう、近藤。ありがたいのである」
「いやいやこれくらい。っと、ちょっと済まない。少し借りる」
 入れ替わってばしゃばしゃと顔を洗う近藤。土方はその横で今日の肌の状態に合ったスキンケアを選んでいる。
「うん。いい朝だ」
 キュッと蛇口を閉めて洗面所を離れる近藤。入れ替わり土方が鏡の前に立ってスキンケアを始める。


 AM 7:00〜
 ――シャッ。
 小気味のよいカーテンのスライド音と同時に部屋中に春の光が差し込む。
「沖田君、山崎。そろそろ起きる時間だ」
 割烹着姿の近藤がキッチンからひょいと顔を覗かせて言う。
 一向に起きる気配の無い沖田と山崎。近藤はチラチラとガスコンロを確認しながら何度か呼びかける。そこにタイミングよくスキンケア後のメイクを終えた土方が出てきたから、近藤は二人を起こすのを土方に任せて朝食の仕上げに取り掛かる。
「沖田……朝である」
 何度か呼びかける土方であったが、閉じられた目はピクリとも動かない。仕方無しにゆさゆさと身体を揺すってみるが、その仕草はどこか控えめだ。
「起きるである……」
 ゆさゆさ。
「沖田、そろそろ起きる時間である……」
 ゆさゆさゆさゆさ。
「…………」
 ゆさゆさゆさゆさゆさゆさ。
「だァーーーもう。そんな揺すらんでも起きてるわボケ!」
 がばりと布団を跳ね除けて身体を起こす沖田。その左肩にはやはり山崎がくっついている。
「起きていなかったである……」
 ぼそりと呟いた土方に不機嫌そうに沖田が返す。
「起きてたけど目瞑ってただけや。大体朝は飯いらんから起こすなって言ってるやろが。いい加減学べや」
 沖田の方こそ学んで起きて欲しいである……。言いかけた土方の言葉はキッと睨むような沖田の視線に引っ込む。低血圧な沖田は朝は大抵超不機嫌モードなのだ。
「コラ山崎。いつまでも寝てんではよ起きれや」
 左肩に向かって言いながら沖田は山崎を乗せたまま洗面所へと向かう。ふぅ、と小さく安堵して土方は布団をたたみ始める。
「よーし出来たぞおー。……ん? おぉ、二人とも起きたか。おはよう」
 両手に皿を持って台所から姿を見せた近藤。顔を洗って戻ってきた沖田と山崎と鉢合って挨拶を交わす。
「こっくんおはよぉ〜〜。ねぇねぇ今日の朝ご飯はなぁに?」
「おわ……っ、と。こら、危ないだろう。落したらどうするんだ」
 沖田の背中から近藤の背中に器用に飛び移った山崎に驚いて注意する近藤。しかし山崎は特に気にする風でもなく皿の中を見た後に近藤から飛び降り、ちゃぶ台を引っ張り出している土方を手伝いに行く。
「ひっじぃーおはよぉ」
「おはようである」
 そうして朝食の準備が整った頃、突然に部屋のドアが開けられる。
「マツケンさん。丁度いい」
 現れたのは隣の205号室に住んでいる『心★閃★組』のマネージャー。松平だった。
「おい、近藤。勿論飯は出来ているな?」
「丁度今――」
「まぁっつんおはよぉー」
 言いかけた近藤の言葉を追い越すように山崎が松平に向かって駆け出す。そしてそのまま背中に飛び乗る。
「…………」
 もぞもぞと居心地のよい位置を探している山崎を無視したまま、松平は部屋に上がってちゃぶ台の前に腰を下ろす。
「……山崎」
 耐えかねて、松平が口を開く。それと同時に山崎が松平の背中から組んだあぐらの上に移動する。
「わかってるよぉ。食事の時は背中から降りろ。でしょお?」
「さて。それじゃあ」
 ちゃぶ台を取り囲んで全員が座ったのを確認し、近藤が言う。そしてその言葉に続いてみんなで。
「いただきます」
 204号室。毎朝の風景だった。


 AM 8:00〜
 204号室での朝食を終えると、松平は超高級紅茶で優雅なひとときを過ごす。
 部屋の真ん中に置いたアンティーク椅子に深々と腰掛けて窓の外を眺めながらの一口。煌びやかな朝の光を移して琥珀色に輝く紅茶の一口は何よりも心を鎮める。
 正直に言うと銀幕市に実体化そして市での活動を始めたばかりの『心★閃★組』のマネージャーである松平には、彼ら以上にやらなければならない事が山ほどある。『心★閃★組』のマネジメントは勿論のこと、この世界のありとあらゆる知識の吸収。マスコミ、音楽関係のコネ作りに情報収集。時間があって足りないということは全く無い。
 しかし、この朝のひとときだけはどんなに忙しい日々の中でも優先して取るようにしている。それは彼のスタイルというのも多分にあるが、余裕の無い中で忙しさに追われて行動しても上手くは事が運ばないという彼の自論にもあった。
 よってこの紅茶一杯程のひとときは、彼が一日を上手く運ぶに必要な時間なのだ。
「……ふう」
 ダンボール程の薄壁一枚で隔たれた隣の部屋からのバタバタと騒がしい足音と怒号をどこか別世界に聞きながら紅茶の最後の一口を飲み、小さく息を吐く。
 ――ピッ。
 携帯電話を開いて幾つかのボタンを操作する。耳に当てた先から漏れる呼び出し音。
「――おはようございます。先日のお約束。いい店の予約が取れたので……ええ……ええ。はい。よろしくお願いします」
 ――ピッ。
 ふう。と、電話を切ってからもう一度小さな息を吐き、松平は肘掛に置いてある本を手に取る。『タイプ別 下僕育成 下巻』というラベルの文字をさっと指でなぞり、栞のページを開く。
「それにしても……」
 僅かに、眉をひそめて壁を見やる。
「もう少し静かに出来んのか……あいつらは」
 やれやれ。とでも言うように、松平は本の文字を追い始めた。

 204号室では、皿洗いを終えた近藤が洗濯機を回しながら掃除に取り掛かっていた。
「いい天気だ。洗濯物が良く乾きそうだ」
 うんうん。と嬉しそうに頷きながらブオーンと掃除機を引っ張る近藤。
 部屋の真ん中では土方がちゃぶ台の上で衣装デザインを絵に起こしている。
「ねぇねぇひっじぃー。何してるのぉ?」
 その姿に興味を示した山崎がよじよじと土方の背に上ってそこから絵を見る。
「今度のライブで着る衣装のデザインを考えていたのである」
「いしょぉ? 変えるの?」
 うん? うん? と首を左右に傾けながら山崎。
「ベースはいつものであるが、アレンジしたものを幾つか用意しておくと便利であるから……」
「ボクだけいつものなのぉ……? こっくんもひっじぃーもおっきぃも違うの着るのにボクだけ……」
 仲間はずれにされたと勘違いして涙をうるませる山崎。土方が気がついて直ぐにフォローする。
「あ、いや……! そのベースではないのである……。普段はというかいつもはというか…………」
 巧く説明できなく次第にごにょごにょと小声になっていく土方。それでも山崎には伝わったみたいでいつの間にかにこにこと笑っている。
「よかったぁ〜」
 ほっと胸を撫で下ろす土方。山崎はそのまま土方の膝に移動して色鉛筆を握る。
「よぉし。ボクも手伝うよぉ」
 土方がスケッチブックを一ページ破って山崎の前に置くと、山崎は上機嫌でそれに絵を描いていく。
「うー……ん。あ、と少し」
 一方、掃除機を掛けていた近藤。部屋の隅に置いたタンスの隙間のゴミが気になっているようだ。隙間に手を伸ばして唸っていた。
 そんな風にゴミを取ろうとホースを差し込んで試行錯誤していると、掃除機がくるりと角度を変えて丁度近くに座っていた沖田に生暖かい風を送る。
「…………」
 むっとする沖田だったが、怒るのも面倒だったので座ったまま少し位置をずれる。が、隙間の奥のゴミを吸い込むのに夢中な近藤が無理にホースを引っ張り、沖田の後を追うように角度を変えて生暖かい風を送り続ける。
「後にせえや、うっとおしい!」
 耐えかねた沖田。ガスッ。と、軽く蹴り飛ばした掃除機がタンスに当たって音を立て、近藤はびくりと沖田を振り向く。
「……?」
「わざわざ人の前来て気持ち悪い風送るなやコラ」
 はてな顔の近藤にぷち切れで沖田。
「いやしかし、ゴミが」
 言いかけた近藤に沖田が更に怒鳴る。
「大体洗濯物取り出してる最中に掃除機っておかしいやろが。ホコリ舞っとるわ! 洗ったそばからホコリまみれにしてどうすんや」
「む……ぅ」
「それにこんなボロイ掃除機じゃ何度かけたって意味ないわ。全然吸ってないやないか」
 たった今掃除機で巡回してきたルートを指差して沖田。確かに紙埃が落ちている。
「しかしこれは大家さんが気を使ってくれた掃除機で……」
 下手したら十年ほどは使い古されてそうな年代モノのその掃除機は、越して来た時に家具が無い四人に大家さんがくれた掃除機だった。
「んな掃除機の役割をはたしてないもんイランわ! もっと吸引力の変わらないただ一つのものでも持ってこいって言っときや」
「確かに、一度は使ってみたいが」
 掃除機に目をやって近藤。それを見た沖田が何か言いかけるが、違う方向からの声と衝撃にそちらを振り向く。
「どしたのおっきぃ。おっきぃ声だして。あれれ? おっきぃがおっきぃ声。あはは」
 突然沖田の背中に飛びついて来た山崎。自分の言った事が可笑しかったようで声に出して笑っている。
「しょうもない事いってんと、しばくぞボケ」
「あっ。おっきぃイライラしてる? イライラにはねぇ〜。甘いものが一番なんだよぉ! 今すぐ甘いものを食べるべきである!」
 途中から土方の口調を真似て山崎。ちゃぶ台から土方が何か言いた気に山崎を見ている。
「ほほぉ……」
 ぴくりと沖田のこめかみが動く。
「オレが食後に食べようと思ってたプリンを食べたのは何処の何方様やったかなあ! オイ!」
「え。プリン? ボクも食べたいよぉ」
 どこどこ? と首をキョロキョロさせて山崎。
「てめぇが食ったやろが山崎ぃー!! てめっ、もう許さねぇ。今すぐ買って来いや!!」
「えー。一人じゃ行かないよ。おっきぃも一緒に行こうよぉ」
 ゆさゆさと沖田の背中に乗ったまま揺らして山崎。
「行くわけないやろ。誰が片道20分もかけてコンビニまで行くか。ほれ、そこで暇そうにしてる土方と行ってきいや」
「…………っ!」
 何を言うのであるか……。と避難の視線を送る土方。後押しするように山崎も言う。
「ダメだよぉ。ひっじぃーはアレンジの衣装のデザインのベースで忙しいんだよぅ。ボクも手伝ってあげたんだよ。ほらぁ」
 微妙に意味の通じない部分は気にしない事にして、沖田は山崎が誇らしげに差し出した紙を見る。
「……ほう。こらなかなか」
 ふむふむ。と紙を見ている沖田。それが気になって傍に居た近藤も山崎の書いた紙を覗き込む。
「――!?」
「なかなか上手でしょぉ」
 にぱっと笑った山崎に、近藤が複雑な顔を返す。
「いや……。何コレ!? 人? 動物!?」
 そこには失敗した福笑いの様な顔(?)をした生き物の様(?)が身体に植物(?)らしきものを巻きつけてポーズを取っている絵があった。
「何? って、まんま近藤と衣装のデザインやんか」
 何気なしに沖田が言う。
「え!? ここっ、これ、オレ!?」
「うむ。近藤であるな。衣装の方も、なかなか思い切ったデザインである……」
 驚いて返す近藤に、いつの間にか来ていた土方が返す。
「あばばば……」
 あまりのショックにガクガクと小刻みに震えながらよよよとその場を離れていく近藤。まさか自分があんな感じで他のメンバーの目に映っていたというのがショックだったようだ。おぼつかない足取りで洗濯物を入れた籠を持って外へと出ていく近藤だった。


 AM 11:30〜
 太陽もいい高さまで上がってきた昼前。はしばみ荘の前の花壇に水やりをしていた近藤は、タクシーが近くに止まったのに気がついた。と、同時に自分たちの部屋の横の部屋からいつものより高そうなスーツに身を包んだ松平が姿を見せる。
「マツケンさん。お出かけかい?」
「ああ……」
 軽く返事をして松平。タクシーに乗り込もうとした足を翻して近藤の前に立つ。
「おまえもそんなことをしている暇があったら早く次のライブ用の新曲を完成させるんだ。ちゃんと進んでいるのか?」
「あ、いや……まぁ。ぼちぼち」
 苦笑いで返す近藤。松平が続ける。
「売込み中の今が一番大事な時期だ。一秒だって早く曲が出来上がればその分チェックや練習にに回せる時間が増える。だから――」
「その……なんというか、すんません。はい。分かって……」
 そうして軽く10分程タクシーを待たせてからタクシーに乗って去っていく松平を見送った後、近藤が部屋に戻るとみんなは労いの言葉をかける。
「お疲れさん」
「こっくんお疲れさまぁ」
「お疲れ様である……」
「皆、聞いてたなら出てきてくれたって……」
「…………」
 非難の目で見る近藤の視線から全力で逃げる3人。
「まぁ、いいか。ところで皆。お昼ごはんは何にしよう」
 そろそろいい時間だ、と近藤が尋ねる。
「アイスー!」
 真っ先に答えたのは山崎だ。ぴょんと近藤の背中に飛び乗って一緒に買いに行こうとせがむ。
「ははっ。アイスじゃお腹は膨れないぞ、山崎」
「えーボクは膨れるよぅ」
「我輩は豚足がいいである……」
 コラーゲンが……。と土方。
「ピーマンとにんじんとトマト以外なら何でもええや」
 嫌いなもの以外なら、というのは沖田だ。
「ふむ……」
 顎に手を当てて一通り考えた後、おもむろに冷蔵庫を開ける近藤。とりあえずアイスは除外するとして、豚足は冷蔵庫に入っていない。と、そこで賞味期限の近い焼きそばを発見する。
「昼は焼きそばにしよう」
「にんじん抜きな」
 すかさず沖田が言う。
「しかし沖田君。にんじんを抜くと焼きそばの具がキャベツしかない……それに好き嫌いは出来るだけ無くしたほう……あ、はい。入れないから、睨まないで」
「おっきぃ!!」
 ガバッ。と、沖田の背中に衝撃が。勿論山崎だ。
 なんや? と首を曲げて返事をする沖田に山崎が続ける。
「おっきぃ。こっくんが焼きそば作ってる間にアイス買いにいこぉ」
「嫌や」
 即答する沖田。近藤と土方が何かを察してそれぞれの作業をしにいく。
「ぇー。ボク、アイス食べたいよぉ? いい天気だし」
 その言葉に沖田が答えないでいると、食べたい食べたい食べたい。と山崎が沖田の背中で身体を揺らし始めるものだから、仕方無しに沖田は言う。
「あーもう、しゃぁないな」
 しぶしぶと玄関から出る沖田とその背中の山崎を見て、近藤と土方はほっと胸を撫で下ろすのだった。

 川沿いの道に伸びる不自然な影。
 上半身だけやたらとボリュームがある影は、山崎が沖田の背に乗っているからだ。
「しっかし態々暑い思いしてアイスを買いに行くってのもおかしいわ。んなの近藤辺りに買ってこさせればいいんや」
 コンビニでアイスを買った帰り道、ぶつぶつと愚痴りながら沖田。山崎は早くもアイスを食べている時のことを考えているのかとても幸せそうだ。
「まだ春だってのに、あっついなぁ……。なんやコレ、喧嘩売っとんのか」
 確かに、春というには暑い日だ。ここ最近にしては一番の気温を記録する程という予報の今日は、下手すると遥かアスファルトに陽炎まで見えそうだ。
 ポチャリ。
 足に当たって弾けた石がころころと転がって川の中へと落ちる。日の光で程よく温まった水面に波紋が走る。
 そんな様子をぼんやりと見つめながら、沖田は帰りの道を歩く。
「……あ」
 そこで唐突に気がつく。
 慌ててコンビニの袋を確認する沖田。思ったとおり、袋の中のアイスは早くも溶け掛かっていた。
「家まで持たんな。しゃあない。食べながら帰るか」
 袋の中から山崎のアイスを取り出して肩越しに差し出す沖田。それを受け取った山崎が目を輝かせて沖田に尋ねる。
「え、もう食べていいのぉ?」
 溶かしてもしゃあないしな。その沖田の言葉が言い終わる前に、山崎はアイスを開けて取り出し――。
 ――ベチャ。
 地面へと落ちていった。
 ピタリと、沖田の足が止まる。
「……」
 つまりはこういうことだ。
 山崎の選んだアイスはコーンの上にクリームの乗っているタイプのアイスで、コーンの部分を持った時に、暑さで緩んでいたクリーム部分をそのまま全部落してしまったのだった。
 残されたコーン部分と、その中の申し訳程度のクリームを見て一瞬固まる山崎。肩越しに見ていた沖田も同じように固まっている。
「落しちゃった……」
 幸せそうだった顔が一瞬にしてしょんぼりと。山崎。
「あーもう。ほんっとおまえはそそっかしい奴やな」
 ことさらに声を張って沖田が続ける。
「しゃあない。オレの半分分けたろ。今度は落すなや」
 言いながら、沖田は自分の分のカップアイスの中身を、付いてきたへらで半分程山崎のコーンの上に移す。不安定に乗ったそれを、沖田はもう一度、落すなや。と念を押してから残ったカップのを食べ始める。
「おっきぃ。ありがとぉ!」
 ぎゅっと後ろから抱き付いてお礼を言い、分けてもらったアイスを食べる。しょんぼりとした表情もどこへやら。幸せそうに笑っていた。


 PM 1:30〜
 昼食が終わり各々がまったりとした時間を過ごした時、近藤が思い出したように立ち上がって何かを配り始める。
「何であるか……?」
「めだかじゃくし!」
 訊ねる土方に帰ってきたのは、山崎の声だった。いわゆる、譜面だった。近藤が作曲途中だったそれを皆に渡したのだ。感じを掴んだり、意見を聞いたりする為に。
「次の新曲なんだが、どうだろう?」
 真剣な面持ちで近藤。
「どうと言われても……読めないのである……」
「こんなの渡されても分からんの知っとるやろ。鼻歌でリズムを刻めや」
 申し訳無さそうに土方と、続いて当然のように沖田。メンバーの中で譜面を読めるのは近藤だけなのだ。だから作曲は基本的に近藤が担当している。
「うーん、それじゃあ」
 コホン、と小さく咳払いしてから鼻歌でリズムを伝える近藤。ニ、三度通しで聞かせた後、適当な所で一度切り、残りの三人が復唱。というのを繰り返していく。
「うーん。このサビの直前。もぉ少し激しくしていったほうが盛り上がるんじゃないかなぁ?」
「出だし、こりゃ無いやろ。この雰囲気の曲なら最初から引き込ませてくべきや」
「この部分、『♪〜〜〜♪』こうするのはどうであるか……?」
 基本は近藤に任せている三人だが、意見はおよそ遠慮せずに言う。
 思うことがあるのをあるのを出さないでいるよりも、時間が掛かろうと何度やり直しになろうと思っていることを全て吐き出したほうがいい曲が出来上がるのをみんな知っているからだ。
「……よし! ありがとう皆。参考になった。後の仕上げは任せて……っと、そうだ」
 ちらりと時計を確認する近藤。夕飯の買い物に行かなければ行けない時間だった。そろそろ出なければ特売の時間に間に合わない。
「ん? こっくんお買い物ぉ? はいはいはーい。ボクも行くぅー!」
 やはり近藤の肩に飛び乗って山崎。わかったわかった。と山崎をなだめながら近藤は準備を進める。
「近藤。我輩も広場まで一緒に行くのである。今日は週に一度のエステの日である」
「沖田君はどうする? 一緒に買い物に」
「行かん」
 言いかけた近藤にピシャリと沖田。何でたかが買い物にそんな大勢必要、と。
「それじゃあ行ってくる。沖田君。留守番宜しく頼んだ」
「はいよー」
 床に寝転んでマンガ本を広げた体勢のまま沖田が適当に返すと、一度は閉じられた玄関のドアがそっと開く。
「なんや、忘れもん?」
「いや、言い忘れた事があって」
 顔を覗かせる近藤の言葉に注意を向ける沖田。
「知らない人が来ても鍵を開けちゃダメだぞ」
「わかってるわボケ!!」


 AM 5:00〜
 広場まで電車に乗ると言った土方と途中で別れた近藤と山崎は、激安タイムセールで有名なスーパーに足を運ぶ。
 店内に入ってみると、中は同じくタイムセール目当ての主婦層で混雑している。幾つかあるセール品の出現ポイントにはどこもバッチリ人だかりが出来ていて混じるのには勇気が要りそうだ。
『さぁさぁお待たせしましたタイムセールのお時間です。まず最初は、野菜コーナー。ほうれん草。一袋10円!! 一袋10円でー。あーございます。こちら50袋限定――』
 店内放送で野菜コーナーと聞こえた瞬間。人の波が野菜コーナー目掛けて移動する。一目散に我先にと走る集団は怪我人が出そうだと見ていてひやひやする程だ。
 完全に出遅れた近藤と山崎は、ほうれん草は諦める事にして今のうちに精肉コーナーに移動する。しかし同じ事を考える人は多く、そこには既に結構な人だかりが出来ている。
『つづいては精肉コーナー。豚バラ肉100g29円!! こちらは限定30パック――』
 店内放送で辺りに緊張が走る。商品が出てくる入り口は既に人でぎゅうぎゅうで今以上進めそうに無い。必死に手を伸ばす近藤だが後一歩が届かない。
「……くっ、山崎、頼む……!」
 待ってましたと言わんばかりに近藤の肩からするりと降りると、小さな身体を活かして人の隙間を縫って進んでいく。
 やがて店員が品切れの合図をして次の放送が始まり、精肉コーナーからどっと人が移動すると、近藤の目の前には山崎の得意そうに笑った顔が映った。なんと100g29円の豚バラ肉を二パックも手に入れていたのだ。
「よし。それじゃあ次だ!」
「おぉ〜」
 改めて気合を入れる二人であった。


 PM 6:00〜
 昼食に高級ホテルのレストランで音楽関係者とランチを取っていた松平。その後も別の場所でコネ作りや顔出しなどをしていたら、気がつけば陽も落ちかける時間となっていた。
 月末までにやっておきたい予定を手帳で確認した後、今日はもう帰るかなと考えてタクシーを呼ぶ。
 そこへ丁度、エステサロンでの予定を終えた土方が、その仕上がりに満足しながら銀幕広場へと歩いていたのとばったりと会う。
「一人か? あぁ、エステか」
 顔だけで挨拶をしてから話しかける松平。
「そうである。マネージャーは……」
 松平の言葉にこくりと頷いて返す土方。
「私はこれから帰る所だ。乗っていくか?」
「それは助かるのである。満員電車は嫌である……」
 電車は丁度帰りのラッシュの時間だ。満員電車が苦手な土方は、松平の提案に心底ほっとしたようにタクシーに乗り込んだ。

 土方と松平の二人がはしばみ荘に戻った時、既に晩御飯の準備は出来ていた。
「ひっじぃー。まぁっつん。おかえりぃ。今日はぁー。鍋だよぅ!」
 見るとちゃぶ台には既に鍋の準備が出来ていて、二人が来たらすぐに鍋を始めれる状態になっていた。
「おお。今日はなかなか豪華であるな……」
「当たり前だ。この私が指示したのだ。程度の低い鍋など許される訳がないだろう」
 色々な食材が所狭しと並べられている鍋を見ての土方の呟きに松平が返す。
「こっくんと一緒に頑張ったんだよぉ」
 山崎のその言葉どおりに、鍋の具材の半分以上はタイムセールで安く買えたものだった。
「さて。皆揃ったし、食べ始めようか」
 火の通り難いものはあらかじめ入れておいたので、すぐに食べれるものを足して鍋を始める。
「あ、そぉだ聞いてよおっきぃ」
 近藤の膝の上で山崎。
「なんや?」
「プリンが安かったのに、こっくんボクとおっきぃの一つずつしか買ってくれなかったんだよぅ」
 ぶー。と頬を膨らまして言う山崎に、近藤はよそったご飯を隣に回しながら笑って返す。
「だって山崎は沢山買ってもすぐに食べちゃうだろ」
「人のモンにまで手ぇつけるしな」
 付け加えた沖田の言葉にだってぇと山崎が返す。
「だってぇ。食べて食べて。ってプリンがボクに言ってる気がしたんだもん」
「んな訳あるかボケ!」
「ぇー。ひっじぃーは信じてくれるよね?」
「……!? 我輩に振らないでほしいである……」
「じぃー……」
「そんなにきらきらした目で見ないで欲しいのである……」
「あはははっ」
 六畳一間。トイレ共同、フロなし。立地条件もいいと言えないそこは、しかし家賃が一万三千円と良心価格の『はしばみ荘』
「……? もう肉が切れたであるか?」
「あっ! 松平、てめっ! なんか静かだと思ったら黙々と肉ばっかり食ってやがったなコラ」
「当たり前だ。これは私に食べられる為の肉だ。おまえはそうだな……これでも食ってるといい」
「うがっ、やめや……! オレの皿ににんじん入れるのやめや! ……って、そこぉ! 隙を突いて最後の肉を奪おうなんて10年早いわ!」
「あっ。何するのおっきぃ。ボクが先に取ったんだよぅ」
「んなの食べた奴の勝ちや」
「我輩も肉、食べたいである……」
「ははっ。喧嘩しない。肉はまだまだあるから」
「むぅ。それじゃあボク、おっきぃのプリンも食べちゃうもんねぇ」
「てめっ! ちょっと待てや!!」
 銀幕広場までの所要時間は一時間。一番近くのコンビニですら徒歩20分と割と厳しいものがある立地条件でもあるが。

 なかなかどうして、住めば都である。

クリエイターコメントこんにちは。依戒です。
ワイワイ楽しい日常プラノベのお届けにまいりました。

まずは何をおいてもお礼を。
この度は素敵なプライベートノベルのオファー、ありがとうございました。
考えるだけで楽しく、幸せな日常。わたしも沢山の幸せを感じながら綴る事ができました。

さて。それではいつものように長くなるお話は後ほどブログにて綴るとしまして、ここでは少し。

・時系列や密度の関係もあり、全てのネタを拾うことができませんでした。申し訳ないです。
どれも楽しそうなネタだったのですけど。

・登場時の名前の部分。芸名にするか少し迷いましたが、ライブではない日常パートということで、苗字(?)のみの表記としました。紹介の部分だけでも書いてある方がいい! 等ありましたら、言ってくだされば表記しますのでお気軽に!

・焼きそばに入っているキャベツの芯はどういう訳かとても美味しい気がします。


と、それではこの辺りで。
書いていて自然と顔がほころんでしまう楽しい時間を、ありがとうございました。

オファーPLさまが。ゲストPLさまが。そしてこのノベルを読んでくださっただれか一人でも。
ほんの一瞬でも、幸せな時間だったと感じてくださったなら。
私はとても嬉しく思います。
公開日時2009-05-15(金) 22:00
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