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<ノベル>
対策課で無料配布されている冊子、『ムービースターの背景を知ろう:世界観総まとめガイドブック』は、日々増え続けているムービースターを網羅し、順調に巻を重ねている。
とはいえ、その膨大な情報をいったいどうやって整理・編集しているのかというのは永遠の謎である。原稿作成や写真撮影に関しては、銀幕ジャーナルに寄稿している記録者やカメラマンがボランティア協力しているという説、いや、対策課職員が残業に残業を重ね全部やってるという説、いやいや実は市長と黒衣の司令官が全て手がけて監修し八面六臂のフォローをしているのだという都市伝説まで乱れ飛んではいるが。
真相はともかく、この『知ろまとめガイド(略称)』は、時々、まるまる1冊がひとつの世界観の紹介で占められることがある。
ひとつの映画から、いちどきに相当数のムービースターが実体化した場合だ。その映画世界と関わりの深い人物は集約して紹介したほうが浸透しやすいし、住民の理解も得やすいからである。
ギャリック海賊団が海賊船ごと実体化したときがそうであったし、『Division Psychic(ディビジョンサイキック)』通称DP警官たちのケースもそれに該当する。ちなみにノーマン小隊とテロ集団『ハーメルン』は、ふたつの対立する世界観が仲良く1冊にまとめて掲載されたため、一悶着あったとかなかったとか。
――さて。
ここに、5人のムービースターがいる。
【幕末音楽戦記 MAK★TO】から実体化した『心★閃★組』関係者、土方ファルコン 、近藤マンドラゴラ、沖田フェニックス、山崎ペガサス、松平ケンタウロスである。
彼らが住民登録をするやいなや、謎の有志で構成される『知ろまとめガイド(略称)』制作委員会は戦慄した。
彼らのイカした世界観と個性的な人となりを紹介するためには、1冊全部をまるっと使用しても足りないかも知れぬ。刊行以来初めての分厚さにするか、でなければ上・中・下巻の分冊だ。記録者が持てる力の限りを振り絞って、銀幕市民にその魅力を伝える必要があるからだ。
しかし、幸いなことに、表現力に恵まれてい皆さんは、住民登録時に記載する世界観設定の記載も優れていた。
ゆえに『知ろまとめガイド(略称)』制作委員会は、このまんまパクっ、もとい、彼らの意思を尊重して、その文言を生かしつつ原稿として使うことに決めたのである。
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┃ 銀幕市役所「映画実体化問題対策課」責任編集
┃『ムービースターの背景を知ろう:世界観総まとめガイドブック』
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--映画名:【幕末音楽戦記 MAK★TO】------------------------------------------
時は幕末。
KET☆→の国より伝来したR☆CKに誠の魂を知ったバンド
『心★閃★組』は、
来たるヴィジュアルバンド『CR☆W VUNE』に対抗するべく、
ニホン國に真実の愛を広めるために立ち上がった!!
今、熱きシャウツッボイスのバトルが始まる!!
…☆★実体化確認済ムービースター一覧★☆……………………………………
・土方ファルコン(33)
心★閃★組のギタリスト。
情熱的なギタープレイとは裏腹に、
普段はどぎまぎしっぱなしのシャイガイ。
ギターを弾く際のアンニュイな表情が、一部のMAR★コーターにウケている。
化粧の所要時間は1時間。週1回エステに通っている。
手先が器用で、ステージ衣装やポスター制作、メイクなども担当。
本名はフローレンス・土方だが、恥ずかしいので秘密。
・近藤マンドラゴラ(35)
心★閃★組のドラム&リーダー(局長)。
ごつい顔に似合わない金髪サラサラヘア。
ドラムなのに、譜面が読めるのが自分だけであるため作曲も担当。
皆には口伝えに曲を教えているが、リーダーらしからぬ扱いをよく受ける。
生真面目で熱過ぎる心を持つ漢。家事をこなす庶民派でもある。
まるぎんのタイムセールは欠かせない。
・沖田フェニックス(20)
心★閃★組のボーカル。マイクに隠し刀を仕込んでいる。
属性はツッコミ。常にケンカ腰のツン青年で年中絶賛反抗期。
メンバーに対してはキレるとすぐに抜刀する激情家。
しかし実のところ一番の常識人で、ツッコむ科白は大体が正論である。
本名は沖田貴彦(オキタ タカヒコ)。
近藤が付けた芸名を超嫌っており「フェニックス」と呼ばれると怒る。
・山崎ペガサス(35)
心★閃★組のベース。本名は山崎みちる。
身長155cm。35歳なのに見た目16歳の驚異の童顔。
少年特有のハニーフェイスを持ち、精神年齢も異常に低い。
属性で言えばデレデレ。
しかしベースを持てば人格が182度ほど変化。チーム1のドSと化す。
やる事なす事、全て悪意は無い。無邪気イズ凶器。
・松平ケンタウロス(27)
心★閃★組のマネージャー。芹沢、山南に続いて三人目。
前任者はトンズラしたため、無理矢理マネージャーを押し付けられた。
天邪鬼な性質であり、好きは「嫌いではない」。
楽しい、面白いは「つまらなくはない」。
心★閃★組の事は勿論「嫌いではない」。
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…☆★ロケーションエリア★☆……………………………………………………
敵、味方関係なく、その場にいる全員が『心★閃★組』特設ステージ、
ライブハウCHUに巻き込まれる。
「誠」の字が入った羽織りを着用の上、
強制的にMAR★コーター(バンドのFAN)となるのである。
なお、ライブにはノリノリで参加しなくてはならない。
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それでも、上記の内容をまとめるまでには『知ろまとめガイド(略称)』制作委員長、記録者α(アルファ)が、「土方さんの本名、記載して良かったんでしょうか……。ご本人は伏せておきたいんですよねぇ……。ああ胃が痛い」と言って胃薬を飲むわ、委員長補佐の記録者β(ベータ)が「近藤さんのサラサラの金髪、素敵ですよね。王子様のようなステージ衣装も似合うんじゃないかしら」と、うっとりするわ、お茶くみ担当の無名の記録者が「ああ沖田くん! わかる、わかるわその気持ち! ブッ飛んだ、もとい個性的なメンバーに囲まれてひとり常識人として正論を言い続けるってしんどいわよねわかるわ私もそうだものこれ以上はないくらいの常識人だものうんうんうんむぎゅー?」……自分が常識人だなどと神をも恐れぬ暴言を吐いたため、「おっと失礼、手が滑りました」の言葉とともに、裏情報蒐集担当の記録者Ω(オメガ)に口にガムテープを貼られたり、記録者ΩはΩで、山崎ペガサスの写真を見ながら「35歳にしてロリショタキャラを張れるとは童顔にも程がありますが、ロリショタは正義だと常々奥さんが言ってますので良しとしましょう」と評したそのときに、取材から帰ってきた新人記録者Σ(シグマ)が、「大スクープです! マネージャーの松平さんに、心★閃★組のことどう思いますかってインタビューしたら『嫌いではない』って言ってました!」と胸を張り、どこにどう突っ込んでいいのかそれとも聞かなかったふりをするべきなのか記録者一同ため息をつき、かろうじてΩだけが「山崎さん同様に、Σくんに悪気がないのはわかっています」と、黒い笑みでぽんと肩を叩いたり――まあいろいろあったようである。
★★ ★★★ ★★
ある日のことだ。
マツケンさんこと松平マネージャーから提案を受け、「それは素晴らしい!」と賛同した近藤局長により、『心★閃★組ゲリラライブin銀幕広場』イベントが決定した。
……ゲリラなので、当然のことながら市役所の許可も取ってなければ、銀幕署に根回しもしていない。
「……ゲ?」
「リラぁ?」
「ライブやてェ?」
化粧にこだわるシャイガイ土方の反応 → 「人前に出るのは苦手なのである……」と呟いて顔を伏せる。
無敵ロリショタ山崎35歳の反応 → いろんなことをあんまり気にしないため、それまで近藤の膝の上にちょこんと乗っかっていたが、とりあえず土方の膝へと移動し「大丈夫だよぅ、ひっじぃー」とにこにこ。
絶賛反抗期な若き常識人沖田の反応 → 「っていうか松平と近藤、もう決定済みなんかい! んなの非常識ちゃうんかッ」と突っかかりながらも、「……練習せんとあかんやろ」と、腕組みをする。歌うことが好きな沖田としては、実体化してから今までなかなか人前で歌う機会を得られなかったため、内心ワクワクな出来事であるようだ。
いろいろあったが、そんなこんなで、銀幕市民に誠の心を伝えたいと願う近藤局長のパッションと、芸能プロやレコード会社やテレビ局関係者に営業をかけたい松平マネージャーの目論みは実を結び――
M A K ★ T O !!!
M A K ★ T O !!!
ゲリラライブの幕は、切って落とされた。
近藤の熱いドラムの音が響き渡る。
山崎の表情が変わった。ベースの低音は凶悪なまでに冴え渡ったが、土方はそれに翻弄されるでもなく、キレの良いタッピングで速弾きをこなしている。
展開されたロケーションエリアの中、心★閃★組へのシュプレヒコールが繰り返された。
沖田の伸びやかな甘い歌声が、銀幕広場を席巻していく。
――曲は『ハイテンション★STAR』
君が手に入れたのは 守るための剣
眠りの森を抜けて 逆風に顔を向けろ
望むものなどない、なんて 斜にかまえてないで
オレたちと行こう あの高みまで
High Tension!
心閃かせ
Revolution!
浅葱色の夢を見よう
★★ ★★★ ★★
「……うん、まずまずの出来だと思いますが、如何でしょう? 観客も多いし、メンバーのノリもいい」
ロケーションエリアの範囲外に陣取っていた松平マネージャーは、スーツ姿で双眼鏡を構える。
今日の観客数をまるで某野鳥の会のようにカウントしては、傍らの銀幕テレビ局プロデューサーに話しかける。
心★閃★組は、映画の中でこそ、そこそこ名の通ったバンドであったのだが、実体化後は映画の知名度のせいかどうか、仕事が殆どなかった。
ツテもなければコネもない。あたりまえだが事務所もない。全く一からのスタートだった。
――彼らの仕事が、自分の日々の生活に直結するのだ。
そう、うそぶきながら、松平は日々の売り込みを絶やさない。
街のいたるところでゲリラライブを行わせているのも、まずは知名度の向上のため。口コミ効果を狙ってのことだ。
幸いなことにこのプロデューサーは、心★閃★組メンバーのキャラクター性に興味を持ってくれたようである。
音楽バラエティ番組のゲストの仕事が、本日の収穫となった。
ちなみに記録者αは、ゲリラライブの様子を取材に来ていた。
心★閃★組に仲間意識を持ったらしい某武士が「これぞ武士の魂」と深く頷いたり、某ツッコミ王子と某悪魔の従僕は身の危険を感じ「……とにかくロケエリ範囲外に出よう!」とダッシュしたり、うっかり巻き込まれてしまった某ツンデレ女子高生と某ハト人間は見事にMAR★コーター化し、「誠」の字入りの羽織を着てノリノリだったり、銀幕署の某女刑事が「……困るわね。許可も得ずこんなところでライブをしては……」と厳重注意をしたり、怒られた心★閃★組はライブを中断し、近藤局長はメンバー代表で警察に怒られて「はい、ええ、すみません、まったく仰るとおりで。ご迷惑をおかけしまして」と低姿勢だったり、いつだってデレ部分を見せない松平マネージャーは、「メンバーが勝手にやったことだ。私は知らん」とすがすがしくとぼけたりしたのであるが。
それを『知ろまとめガイド(略称)』に記載できるかどうかは、また別の話である。
★★ ★★★ ★★
打ち上げを兼ねて飲みに行く彼らの後を、そっとつけていったのは無名の記録者だった。
『知ろまとめガイド(略称)』とはまた別件に、自分の記事を書くときのためである。
【無名の記録者取材メモより】
・土方ファルコンさんについて
下戸のようである。しかも、オレンジジュースかメロンソーダしか飲めないっぽい。下戸に定番のウーロン茶は苦いから苦手みたいだ。でも33歳シャイガイは、ええ年こいて甘いソフトドリンクを注文するのも恥ずかしいようで、水ばかりちびちび飲んでいる姿に目頭が熱くなる。
・近藤マンドラゴラさんについて
気配りの漢だ。金髪サラサラ揺らしながら、みんなの面倒を見てる。水と間違えてうっかりお酒飲んで泣き出した土方さんを介抱したりとか。山崎くんと沖田くんが料理を奪い合うのを仲裁しようとして双方からとばっちりくらったりとか。
・山崎ペガサスさんについて
必ず誰かの膝の上にいる。うっとおしがられても気にしないでデレデレを貫く姿はロリショタの鑑。沖田くんとデザートのプリンを争って対立するさまが可愛いので、記録者、写真撮りまくり。
・沖田フェニックスくんについて
常に喧嘩腰なツン青年であるが、「オレがしっかりしなければ!」という直情が垣間見えて好もしい。左頬のバッテン傷や、膝のバンソウコや、つうか基本生足といういでたちがまだ少年期を脱していないボーダーな色気というか記録者落ち着け。
・松平ケンタウロスさんについて
絶賛料理奪い合い中の山崎さんと沖田くんに「……山崎。年相応の節度を持て」とか「沖田、やかましい。静かにしろ」とか言いながらも、冷静にスケジュール表をチェック。
(さて、今度のゲリラライブは、いつ頃にしようか)
マネージャーは、すでに次の一手を考えている。
STARが、この街で輝くために。
★★ ★★★ ★★
君が見いだしたのは 涙を散らす弓
絶望の目を射抜き 熱情を取り戻せ
傷つきたくない、なんて うずくまってないで
オレたちと翔ぼう 彗星のように
High Tension!
心閃かせ
Sensation!
浅葱色の夢こそ誠
――Fin.
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クリエイターコメント | 大変っっっ、お待たせいたしましたぁぁぁ! この度は、心★閃★組ゲリラライブの記事という大役を仰せつかり、誠にありがとございます。不肖、無名の記録者、歌詞を捏造させていただきました。近藤リーダーがきっとかっこいい曲をつけてくれたと私信じてる!
激動の銀幕市ですが、記録者も心★閃★組の皆様のご武運をお祈りしております。 |
公開日時 | 2009-05-17(日) 08:30 |
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