★ 【遅れてきた文化祭】彷徨うは、メイドで冥土 ★
<オープニング>

「えっ、文化祭?」
 植村は意外そうに聞き返した。
「もう12月ですよ。文化祭っていうと、普通はもっと秋のシーズンに行うもんじゃないですか? 綺羅星学園ではいつもこの時期でしたっけ」
「いや、違うんだけどさ……。今年はほら、いろいろあっただろ」
 浦安映人は、言葉を濁す。
 植村はそれですべてを察した。学園の生徒がかかわったムービースターの殺害事件――そして、それに端を発し、銀幕市民の多くを巻き込んだ騒乱。綺羅星学園は、まさにその渦中にあったのだから、文化祭どころではなかっただろう。
「それで中止になるところだったんだけど、どうしてもやりたいっていう声が多かったらしくて。それで時期をズラして12月にやることになったわけ」
 だから告知のポスターを貼らせてほしいといって、浦安は市役所を訪れたのだった。
「今回は特に学外の人にいっぱい来てもらいたいんだ。いろいろ催しものもあるし、来てくれると嬉しいな。あ、俺は映研で自主製作映画を撮るから期待してて!」

 ★ ★ ★

 ――はぁはぁはぁ
 とてつもなく怪しい荒い息を壁の片隅でする影が一つ。
 綺羅星学園は、そろそろ文化祭の時期であった。高等部は、メイド喫茶なんかをするというので、校内には黒いメイド服を着た若い娘たちが、ちろちろと見られた。
 そして、その壁の影にも黒い影。
 それは、メイド服に身を包ませた女性であった。
 メイドらしく、黒のスカートに白のエプロン。しかし、なぜか片手には鎌。
 黒髪に黒い目でお人形のような美貌であるが、その見た目はどうみても生徒ではない。それも、どうしてか学園の建物の影から、年少の少年たちがグランドで駆けているのを見ているのだ。――はっきりいおう、怪しい。
 こういう人を見かけたら、悪い人も、いい人も、みんな警察に通報するだろう。
「ああん、素敵、素敵ぃ。やっぱり男は十代ですネ! それも半ズボン。素敵ですね。ああん、半ズボンから見える男の子のプリティな足は永久ですね。美少年、いいですね」
「そこまでだ。『死神』!」
 その声と共に銀色のワイヤーがメイドに扮した女性の喉にまきついた。音もなく敵を殺す的確な技。だが、彼女は怯えなかった。片手に持つ鎌を持つと乱暴にワイヤーを断ち切った。断ち切られたワイヤーの先にいた者は身を翻し、彼女の前へと躍り出る。
 それは、殺し屋であった。
 ホラーコメディシリーズの殺し屋である。
一流であるのに、いざというときは頭上から物が落ちるという殺し屋は本日は絶好調にシリアスであった。
「綺羅星学園に通う幼き少年たちの生足にはぁはぁするんじゃない。怪しいぞ。めちゃくちゃ! それでなくてもその目の犯罪をどうにかしろ。お前、自分の年齢を考えてるのか」
「うるせーざますよ。まだ私は二十九ざますよっ!」
 ホラーコメディシリーズの死神が怒りに叫んだ。
 美しかった死神の顔が髑髏となった。
 実はいうと、普段はぱふぱふと厚化粧をしていてばれないのだが、素は髑髏の死神。感情が昂ぶると化粧が落ちて、その髑髏顔が露になるのだ。
「おおっと」
 死神、慌てて我に帰ると、優雅にお化粧セットをスカートから取り出してぱふぱふとしはじめた。そしてものの一分で先ほどの美貌を取り戻した。
「アラ、あなたは、殺し屋ではありませんか」
 殺し屋はコートに手をいれると、ナイフを取り出し、それを投げた。
 死神は笑いながら、それを鎌で地面に叩き落す。その瞬間に殺し屋は特殊ワイヤーで再び死神の身を捕らえた。メイド服をしっかりとワイヤーで締め上げる。
「おおー、スタイルがあらわになって、きゃ、恥ずかしいでございますわ。この姿は! そうおもいざません?」
「えーい、なんでも、そういう変な方向に見るな! ……死神、お前もこちらに来ていたのだな。さぁ、帰ってこい。お前と俺は一心同体、運命共有体」
 そのとき、思いっきり殺し屋の脳天にお盆が落ちてきた。
 殺し屋は、ここぞというところで何かものが落ちてくるという性質を持っているのだ。
「……いやざます」
 きっぱりと死神は言い返した。
「私は、目覚めさざますよ。殺し屋。私は、これからは美少年をめでていきるざます」
「なにを言っている」
「私、ここで、美少年を我が物にして生きるざますよ。こんだけいるんざます。一人ぐらい減ってもいいざますよ」
「よくないだろう!」
「えーい、うるさいざます! ほんと、面白みのない男ざます!」
 殺し屋のワイヤーを死神の鎌が切り裂き、自由になったメイド服の死神は鎌を構える。
「殺し屋、あなたも、メイドで冥土ざますよ!」
「まて、死神!」
「メイドで冥土ざますよ」
「ぎゃあああああ」

 場所、かわって、ここ、対策課。
「と、いうことで、俺と同じ映画の出身者である『死神』をどうにか止めてほしいんだ。あいつのことだ、そのうち、本気で綺羅星学園の十代の少年たちをかっさらって、美少年宮殿でも作り、毎日を鼻血ではぁはぁして生きるに決まっている」
 真面目くさった顔で殺し屋かいうが、話を聞く植村はなんといっていいのか言葉が見つからなかった。
「あの、その姿は」
「死神の特技だ。あいつは、敵をメイド服に出来るんだ」
 殺し屋、ただいま、メイド服である。美形であるが、殺し屋としての腕は一流。――しかし、その頭上から物が落ちてくるという体質のため三流。な彼は大変鍛えていた。その肉体にメイド服。なんのバツゲーム。はたまた視界の暴力なのだろうか。
「それも、メイド服にされると……ああああああっ!」
「殺し屋さん!」
「ご主人様、どうぞ。紅茶を!」
 殺し屋、にこにこと微笑んで、どこから取り出したお盆にほかほかの紅茶を差し出した。
「はぁはぁ……このように、一流のメイドさん化してしまうんだ。恐ろしい技だ。あ、ご主人様、どうぞ。殺し屋のいれた特性紅茶ですわぁ」
「大変ですね。それは。あ、紅茶……って、なぜか、塩味がするんですが、これ」
「メイドになると一流になるが、それぞれに属性があってな、俺はどじっこ萌え系メイドだ」
 どじっ子、だから、砂糖と塩を間違えたというのか。
「あいつを止めてくれ。たぶん、生足の美少年がいれば、とびつくから。ただし、メイドで冥土に注意することだ。メイドになるとメイドとしての本能に動いてしまうからな」
 そこで殺し屋はため息をつき、つつどじっ子メイドは机を床を拭く雑巾でふきふきしてしまうのだ。まさにどじっ子。
「ただ、その、死神にはひどいことはしないでほしいんだ。ああ、軽く簀巻きにして川に放り込むとかそれくらいならいいが、さすがに骨でも自動車とかに突撃されられたりしたら痛いと思うから」
「それも十分ひどいと思いますが、殺し屋さんと死神さんは」
「夫婦だ」
 どきっぱりと殺し屋は言い返して、メイド服の顔だけは美形の男は照れたようにもじもじした。
「俺は骨マニアでな。あいつの骨しかない中身に惚れた。元々殺し屋と死神は仕事は同じようなものだからな。だから、ずっといい関係であったのに……死神ぃいいい、俺の生脚じゃだめなのかぁあああ」
 ざばぁあああんと殺し屋の頭上から水が落ち、ついでらタライが落ちた。そのタライの裏には×の文字。――だめらしい。

種別名シナリオ 管理番号844
クリエイター槙皇旋律(wdpb9025)
クリエイターコメントさて、本日は、ホラーコメディの死神の悪巧みをとめてください。という同じ映画の殺し屋からの依頼です。
死神はメイド服の日本人形のような美貌を持ってますが、その中身はただの骨。怒ると骸骨の顔が見れます。武器か死神の鎌といってなんでもきっちゃうものですが、基本の攻撃は「メイドで冥土」を言葉に相手をメイド服にしてしまうというもの。それもメイド服になると一流のメイドさん、しかしなんか属性とかあるらしいです。どじっ子メイドとか……
 殺し屋の依頼では、あんまりひどいことはしないでほしいといいますが、反省させるのであれば簀巻きにして川に流すくらいしてもいいらしいです。

美少年の生足が大好きなメイドの死神。
 そのうち、萌えに任せて少年たちをかっさらってしまうかもしれません。今のうちに懲らしめてあげましょう。
 そしてメイド服で待っている夫である殺し屋の元にかえってくるようにしてあげてください。

参加者
小嶋 雄(cbpm3004) ムービースター 男 28歳 サラリーマン
佐藤 きよ江(cscz9530) エキストラ 女 47歳 主婦
竜吉(czep8291) ムービースター 男 10歳 白龍の落とし子
チェスター・シェフィールド(cdhp3993) ムービースター 男 14歳 魔物狩り
<ノベル>

 対策課には、いつも摩訶不思議な依頼が舞い込む。今日も今日とて、妻である死神にメイドにされてしまった殺し屋が、妻を取り戻したいとやってきた。
 殺し屋の依頼におもしろそうという理由で引き受けてくれた竜吉。その横には渋々のチェスター・シェフィールドが立っていた。あまり気は乗らないようだが、しっかりと殺し屋に捕まってしまった。
「面倒だなぁ……しかし」
「おもしろそうやないか」
 竜吉がにこにこと笑ってチェスターに言う。
「では、あとのことはたの」
「あらあらあ、まぁまぁちょっと、ちょっと、待ってくれない。そのお話」
 対策課の受付が依頼を二人に頼もうとしたとき、いきなりの声に全員が視線を向けると佐藤きよ江が立っていた。彼女の背後には疲れ果てた窓口の顔があった。
 きよ江は、何をまちがったのか「隣の家の犬が煩いからなんとかしてくれ」という対策課とはまるで畑違いの依頼をもってきて窓口を困らせていた。そして、その文句をまくしたてながらしっかりと横の依頼の話を自慢の地獄耳で聞いていた。
 横耳で話を聞きながら、ちらりと横目で美形の殺し屋に将来が大変楽しみなチェスター、竜吉をしっかりと見ていたのだ。そこでメイドという単語を彼女はしっかりと聞いていた。実はメイドに憧れがあったのだ。死神がメイドにしてくれる。これは願っても無いチャンス。
「おばちゃんにも協力させてくれないかしら」
 きよ江が目の前まで寄って来たのに殺し屋は目を瞬かせた。
「協力者は多いほうがいいからな。助けてくれるというのならば、お願いする」
 顔だけは美形の殺し屋――服はメイド服だが、美形に服装なんて関係ない。美形というのにきよ江は大人しく言葉を聞いた。いくつになっても女性はかっこいい男性に弱いものである。
「あのぉ、すいませーん。もしよかったら、俺も協力してもいいですか?」
 全員が振り返り、目を点にした。
 鳩がいた。――いや、体は人間だ。それもスーツを着ている。
 小嶋雄である。
 本日は対策課のコピー機のメンテナンスにやってきたのだ。コピー機のメンテナンス自体はさっさと終わり、対策課の人に今後もお願いしますと仕事の挨拶を終えたところで、社に電話すると、今日はこれで外回りの仕事は終わりとのこと。
 小嶋の前で依頼をしているのをつい聞いてしまったのだ。ちょっとだけ文化祭を覗き見るのも面白そうと思って声をかけたのだ。実体化して日が浅い彼は対策課の依頼がどのようなものなのかあまり知らないのだ。
「あ、はじめまして。俺、こういう者です」
 名刺をいそいそと取り出して、その場の全員に配る。
 全員が名刺を見た。
「コバト、オス?」
 チェスターが恐る恐る呟いた。それに小嶋がけらけらと笑った。しかし顔は無表情である。鳩だから。
「俺コバトじゃなくて、コジマですって。もう勘弁してくださいよー」
 見た目に反して人懐っこいらしい。
「きょ、協力者は多いほうがいいからな」
 見た目のインパクトにやられつつ、殺し屋がなんとか言葉を搾り出した。

 綺羅星学園までは小嶋の運転する車で向った。
 晴れ渡った空の下に、綺羅星学園の文化祭用のアーチが輝いている。門から一歩入ると屋台が並び、売り子の声が元気よく響く。
「わー賑やかでいいですね。楽しそう」
 小嶋が嬉しそうに声をあげた。しかし無表情である。
「確かにすごいな」
 依頼を聞いたときは、めんどくさいと思っていたが実際に文化祭の現場に行くとチェスターも目を輝かせた。
「エエのお」
 竜吉も顔をほころばす。
「まー、さっさと捕まえてからじゃないと集中して見れないけどさ、ちょっとくらいなら問題ねぇよな」
「そうですよ。せっかくきたんですから。あ、あの屋台、なにしてるんだろう」
 小嶋の目はすでにもう屋台のほうへと向っている。その小嶋の首をがしっときよ江が掴んだ。
「何してるの。いくわよ」
「へ、え、どこにですか。せっかくなんですから屋台を見ましょうよー」
「そんなのあとで出来るでしょう。ここにはあたしの娘が通っているから目撃証言と協力をとりつけるわ」
 きよ江の目は燃えていた。
 文化祭すら見ることもなく死神を捕まえる――そして自分もメイドさんにしてもらうという野望に。
 襟首を掴まれた小嶋は手足を動かして逃げようとするが逃げられない。これはさながら猫に捕まった哀れなる鳩のようだ。
「ほら、行くわよ。あんたたちも」
「あー、わかったよ」
 文化祭の屋台に目移りしていたチェスターは、ここは逆らったら怖い。またあとで見れる。と心の中で思いつつ、頷いた。

 きよ江はパンフレットを片手に高校生の娘のいる校舎に訪れた。
 綺羅星学園に通う娘がいるということで、実はきよ江は学園の文化祭パンフレットを貰っていたのだ。
 校内は出し物で溢れていた。誰の目もついそちらへと向きそうになるが、きよ江の目はもうたった一つの欲望のみ見ていた。そのきよ江の前で下手に道草を食っていたらあとが怖いので三人も素直に従った。
 出し物をしている娘のクラスに行き、死神のことを聞いてみるがさして芳しい情報は得られることはなかった。
「どうしたらいいんでしょうかね」
 小嶋としてははやく文化祭の出し物を見たいので早く捕まえたいと思っている。
「……しっかし、これって夫婦喧嘩ってやつだろう? あんまり手荒なこともしたくないし、上手く捕まえられないかな。投網的な罠を仕掛けるとかしてさ」
「死神ゆうおばはん足が好きなんやろう。そんなんやったらいくらでも見せたるわ」
 竜吉の言葉にチェスターはつい視線を向けた。
 竜吉の生足を餌に置いておき、近づいてきた死神に網をかける。――小さな鳥などを捕まえる初歩中の初歩である。――むしろ、竜吉がいて、その上に巨大な籠を置き、それを木の枝で支えておいて、死神が来たら、その支えている枝を紐か何かでひっぱって
 そこまで考えてチェスターは首を横に振った。
「や、流石に引っかからないよな。……引っかかったらアレだし」
「どうしたん?」
「なんでもない。馬鹿なこと考えただけだ」
 見上げてくる竜吉にチェスターは頭を抱えて言い返した。
「そんなの男子たちに手伝ってもらえばいいのよ。クラスの男の子たちに生足提供してもらうの」
 きよ江がさらりとすごいことを言う。
「娘いるのに、いいのかよ」
「メイドのためよ」
 チェスターのつっこみにきよ江はさらりと流した。
「あんたたちも協力しなさいよ。生足」
「おれ、はエエで」
「え、俺も! ……い、いやだ」
 チェスターは睨まれてもぶんぶんと首を横に振った。
 きよ江がじりじりと迫ってくるが、チェスターはじりじりと追い詰められながらも首を横に振った。
「竜吉だけでもいいだろう」
「念には念をいれて」
「はいはーい。俺は?」
 そのとき全員の目が片手をあげて自分は何をすればいいのかと無邪気に尋ねる小嶋に向った。
 顔は鳩。見た目は人間。――それもスーツのいい年齢をいった男性である。
「あんたは、網をかける役でいいよ」
「そうね。それがいいわ」
 チェスターときよ江が同時にぽんっと小嶋の肩を叩いた。

 きよ江が文化祭のどこからか借りてきた。またの名を強奪した網をチェスターと小嶋に渡すと、罪もない男子生徒たちに協力を言い渡し、ほぼ強制的に生足提供させていく。
 彼女をとめられる者もはたぶんこの世にはいない。
 それもきよ江は美醜という差はなく、ほぼ、捕まえた男子生徒全員を生足としたのでなんだかすごいのも交じっている。
「美少年の生足のはずが、なんか、ごっついおっさん顔の生足もあるんだが」
「足やったらええんやろう?」
 チェスターのつっこみに美少年というものがわからない竜吉が無邪気に笑って言う。
「……まぁ、竜吉がいれば大丈夫か」
 全うな美少年である竜吉がいれば来るだろう。たぶん。――チェスターは生足にひんむかれていく生徒たちを見つつ、しかし、この罠だと見え見えの現場でもくるだろうかと考えた。普通は警戒するだろうが……聞いた限りの性格的なことを考えると。

「生足、ハァハァ、生足」
 きよ江によって生足にされていくと男子生徒の騒ぎの端っこで黒い影が小さな声を漏らしていた。それはそろそろと、一応は見つかることを警戒して近づいてきた。
 そして全うな美少年の竜吉の後ろから現れた。
「なまあしぃ〜」
 死神が竜吉の生足めがけてやってきた。猫に魚。犬に骨。死神に美少年の生足。
 死神が嬉しそうに竜吉の生足をよだれをたらさんばかりの視線を向けている。触られるのも慣れている竜吉は動じることもなく。
「死神ゆうおばはん出たでー」
「うおっ。本当に出た」
「わ、きれいな人ですね」
 チェスターと小嶋がそれぞれに感想を漏らす中、きよ江は逞しい体格の柔道部部長を生足にひん剥いているところであった。だが、死神が来たというのにいち早く反応した。
 すぐさまにひん剥いていた生徒をほっぽり出して死神のところへと走った。
「さぁメイドにしてちょうだい!」
 胸を張ってきよ江は言った。
「お、おい。メイドになったら困るだろう」
「そうですよ。きよ江さん。捕まえるんですよね?」
 チェスターと小嶋が突っ込む。
「なにいってるの。あたしはメイドになるためにきたんだからね。さぁメイドにしてちょうだい」
「生足、生足。全うな美少年の生足。はぁはぁザマス」
 きよ江のことなどまるで眼中にない死神は竜吉の生足に息を荒くしていた。
「ちょっと、こっちを見なさいよ」
「えーい、うるさいザマスよ! 人が趣味に没頭しているときにぃ!」
 カッと死神が怒りながら振り返る。怒りで感情が昂ぶってせっかくの化粧が剥げ落ちてしまい、見事な髑髏顔。
「……ぎゃ! 髑髏が素顔なんですか……ちょっと怖いかも……」
 小嶋が震えながらきよ江の後ろに隠れた。それに反して竜吉はにこにこと笑っている。
「怖くないのかよ」
「なんや知り合いによう似とんねん。吃驚したりすると、骨っこになるんやでー。そっくりやろう? 骨になったら区別つかへんし」
 チェスターの問いに竜吉は笑って言う。その言葉に死神は自分がついうっかり髑髏になってしまったことを悟り、慌てた。
「はっ、私としたことが、いけないザマス」
 死神は懐からお化粧セットをとりだすと、髑髏の顔にぱふぱふと化粧を施し美女の顔に戻った。
「それでお前たちは、なんザマスか。人の楽しみのときに出てきて!」
「対策課から依頼されたんだよ。……おい、あんた、殺し屋があんたのことを探してたぜ。戻ってやれよ」
 チェスターの言葉に死神の顔が歪んだ。
「いや、ザマス! あんな掃除してもものが落ちてきてこける、食べ物音痴で何も食べてもうまいとしかいわず、日々武器ばっかりめでているような男! それも夜は仕事で深夜にうろちょろしては仕事だめだめでかえるような男ザマスよ!」
 殺し屋、いいところ、まったくなし。
 死神が、愛想を尽かすのも仕方がないかもしれない。
「それに、美少年でもないし、生足ないザマスし!」
 そこらへんは趣味が大いに関与している。
「なぁ、死神のおばはん、旦那おるんやったら、旦那に尽くさんで何が女房やねん……! おいらの居た時代やったら、捕まって罰受けるところやで」
 竜吉が真面目な顔をして死神を見ていう。その言葉に死神は一瞬ぐっと詰まったようだ。
「だって、だって、殺し屋は……だめだめザマスよ。私だって、少しは遊びたいザマスよ。なのに家にいればいいっていうザマスよ!」
「なにいってるの。主婦を甘く見ちゃだめだよ!」
 きよ江が反論した。
 主婦であるきよ江の心を死神の文句に刺激されたらしい。腰に手をあててきよ江が死神を睨みつける。
「そんな落ちてきたゴミは本人に拾わせて、出しにいかせればいいのよ! なんでも美味しいなら明日の残りとか食べさせればいいし、ラクじゃない! 主婦はね、いいように旦那をコントロールして持ち上げて、使うものなのよ」
 熱い主婦道語りである。
 一緒にいる男たちには、将来自分たちも結婚したら、こんな扱いを受けてしまうのだろうかという未来への不安をちらりと植えこんでしまっているが。
「さぁ、だからメイドにしてちょうだい」
 そして結局はメイドに話をもっていく。
「何ザマスか、それ……いやザマス」
 ぷいっと死神は顔を背けた。
「なんでよ!」
「望まれてやるのはなんとなくつまらないザマス。このコメディの血がいやがる奴らにこそ、メイドにさせるべきというてるんザマス。……そうたとえば、お前たちのような男たちとか!」
 びしぃと死神はチェスター、竜吉、小嶋を指差した。
「メイドで冥土ざますよー!」
 死神は呪文と共に大きく鎌を振り下ろした。とたんに三人を白い煙が包み込んだ。そのときに根性と執念で三人の中にはいったきよ江。
「な、なんだ。て、わぁ!」
 白い煙は一瞬で退いたが、そこから現れた四人は見事なメイド服。
 チェスターは足まですっぽりと隠された長い黒スカートに白いエプロン。
「なんだよ。これ。……メイド服って、俺なんかがこんなもの着て、誰が喜ぶんだよ。お、お前らみてるんじゃねぇよ。……知り合いに見られたら、くそ、恥ずかしい。じろじろ見るな。お前等のためになってるんじゃないんだぞ! ふ、ふん!」
 チェスター、デレ多めのツンデレデレデレメイドの出来上がりである。
 その横にいる竜吉も可愛らしい黒のメイド服に頭には可愛い猫耳がついている。猫耳メイドらしい。
「んん? めいど? 冥土の土産とか冥途か? え、ちゃうのん? やったら、なんやろか……それにこの服装、歩きづらいなぁ」
 反応はあんまり芳しくない。というのも、竜吉はメイドというものがいまいちわかってないからだ。
「勘弁してくださいよー」
 この中で一番動揺している小嶋。しかし顔は無表情。
 小嶋の服装はなんとミニスカート。胸もレースがあしらわれている。いわゆる萌え系メイドさんである。ちゃんとひらひらのスカートにはピンクのリボンもついていて、頭にもリボンは忘れられていない。
 しかし、顔は鳩、体は二十八歳の男性の体である。
 シュールな小嶋メイドの破壊力に一瞬、時間が止まった。
「……死神、わざとなのかよ。このメイドの属性とかは」
「ランダムザマスから、私にも、メイドの属性は決められないザマスよ!」
 チェスターに睨まれて死神は思いっきり否定した。
「さぁ、きりきりいくわよ」
 きよ江はきりりっとしたメイド服である。――メイド長属性らしい。ちゃんとかっこよさアピールのため伊達眼鏡もつけている。
 死神メイドとメイド長きよ江がにらみ合い、その横ではツンデレデレデレメイドのチェスターと可愛い猫耳メイドの竜吉。
「このままだと、なにがなんだかわからなくなる。こ、こうなったら、俺のロケーションエリアで!」
「お、おい、何するつもりなっ」
 萌えメイド、それは、漢字を変えれば燃えメイド。そう、今は萌えと燃えをあわさった小嶋は必要以上に燃えていた。この事態を自分がなんとかするのだと彼の燃えるメイド心は刺激されていた。半分、この状態に自棄になっているのもあるが。
 ぱちんと小嶋が指を鳴らすとどこからともなく音楽が流れだし、そして天井からはミラーボール。先ほどまで学校の教室であったのが、見事なディスコホールにかわった。流れる音楽に、その場にいた者たちの手足が勝手に動き始めた。
 その中でプロ並の鳩独特の首の動かしと巧みなステップで踊るふりふりメイド服の小嶋。服装もさることながら、そのダンスも人の眼を集める。
「ハト☆ダンス! 三十分踊り続けるんです」
「さ、三十分も」
 その場にいた生足の男子、綺羅星学園の女子生徒、メイド服になってしまったチェスター、竜吉、きよ江と死神、その中央で踊るふりふり萌え燃えメイドの小嶋。
 ほぼ三十分、とにかく踊り狂った。不運にも出し物を見に来た客も見事に影響を受け、三十分の間に校舎の中にいた一部の人間は音楽に合わせて、シュールに踊りつつけることとなった。
 音楽が終わり、景色が校舎に戻ると、全員が、その場に崩れた。
「はぁはぁ、よ、よえやく終わった。お、お前たちのためになんておどってな、ないんだからな」
「っ、ふーふー、いいエクササイズだったわ」
「ええ汗かいたなぁ」
 ばてているチェスターときよ江に対してきらきらと輝く汗を拭う竜吉。丁度いい運動だったらしい。
「はぁはぁ、死神さん、ど、どうですか。つ、疲れたでしょう。これで、もう、馬鹿なことする、ことも……ないでしょう」
 小嶋は荒い息で言った。
「ううっ……け、化粧が落ちるざますぅ」
 死神は床に倒れたままである。よほどにダンスで体力を消耗したらしい。なにせダンス中は化粧が落ちないか気にして、片手にパフをもってパフパフしながら踊っていたのだから。女の美に対する意地とは恐ろしい。
「けど、私だけ遊べないのは、いやザマス」
「なにいってるの」
 よし江が荒い息を整えつつ、ばてている男子生徒たちを指差した。
「子供のクラスメートなら、かっさらわなくても自由自在に生足にできるのよ!」
 かなり、いや、相当に間違った説得である。しかし、死神はその言葉に稲妻にあてられたような衝撃を受けたように口を開けて放心した。
「そ、そうザマスか! 子供がいれば、そのクラスメートたちは好きにできるザマスね! わかりましたザマス。師匠! 私、心を入れ替えて、がんばるザマスよ!」
 死神はきらきらとした目できよ江を見つめた。きよ江もメイド長の姿でにこりと微笑みかける。二人は無言で抱きしめあった。いろいろとつっこむべきことはあるが、死神ときよ江の二人の友情にどう声をかけたとしても無駄である。一応は、無事に解決したし、今回はこれでよしとしておくしかない。
「なんか解決したみたいやで。よかったな。心いれかえるて」
「いろいろとつっこむところはあるけど……疲れた」
 つっこむことをチェスターは放棄した。
「……どこか見に行くか。……騒動の分まで楽しもうなんて思ってないんだからな」
「ツンツンデレデレのままですね。あ、俺もいきます。俺も見たいです」
 小嶋が嬉しそうに片手をあげた。
「けど、その前にこの服装を元にもどさんとアカンなぁ」
 竜吉が笑って自分のスカートを持ち上げて言った。

 まだ太陽は明るい。
 とりあえず、メイド姿を治したら、この騒動の分まで文化祭を楽しむのも、悪くないはずだ。

クリエイターコメント今回は、参加、ありがとうございます。
メイドで冥土〜と歌いながら書きました。
楽しかったです。
公開日時2008-12-27(土) 16:30
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