★ 魔法薬 ★
クリエイター淀川(wxuh3447)
管理番号873-7361 オファー日2009-04-04(土) 10:58
オファーPC 柝乃守 泉(czdn1426) ムービースター 女 20歳 異界の迷い人
ゲストPC1 二階堂 美樹(cuhw6225) ムービーファン 女 24歳 科学捜査官
<ノベル>

 ――とある実験室。
「で、できた……!!」
 強く拳を握り小さくガッツポーズを決めたのは二階堂美樹だった。数日間、実験室に篭りに篭っていたのはこの薬を作り出すためだ。自然と口の端が上を向くのが製作中の苦労を物語っている。
「後はこれを誰に飲ませるか、よね」
 指折り友人たちを思い出しては連絡を取ってみるがなかなか捕まらない。しかも電話を二回かけたら一度目は普通に呼び出し音が鳴っていたのに二回目は機械の留守番アナウンスへと切り替わっていたり……。実験ってことががばれてる?いやそんな馬鹿な事、と顎に手を当てながら強攻策と言わんばかりに薬を持って友人宅へと向かっていた時だった。
「あれ? 美樹さんじゃないですか」
 道路の向こう側から歩いてくるのは以前、銀コミで出会って以来親しくしているムービースターの泉だ。銀色の髪を揺らし無垢な笑顔を美樹に向けている。軽く挨拶をした後、何かに気が付いた美樹の口が再び上に向く。そしてにっこり笑うと泉にこう告げる。
「実験に付き合ってくれない?」
 その言葉を聞いた瞬間、泉の背中を冷たい物が走り抜けた。擬音にするならまさにゾワワッやゾクゥッと言わんばかりのものが。泉の笑顔が一気に引きつる。もうこの時点で嫌な予感が拭えない。
「だめかしら? もしかして用事だった?」
「い、いえ……特に急ぎではないんですが」
 気のせいか、美樹の目がぎらりを光ったように見え泉は再びあの悪寒を体感するのだった。そして思わず急ぎではないと口にしてしまった。
「じゃ、手伝ってくれない?」
「え、いや、でも」
「でも何? 嫌なの?」
「い、嫌ってわけじゃないですけど」
 凄い剣幕で泉に突っかかる美樹。流石にイヤと言うわけではないが実験と称すものに不安を感じないわけが無い。でも断れる雰囲気じゃない。どうしたらいいかだんだんとわからなくなってきた。頭からひょっこり出ているけも耳がしおしおと元気をなくしていく。
「じゃあ手伝ってよ」
 イエスかノーかで聞かれているものに返事を返さない泉に美樹は更に押しを強めていった。恐ろしいほどの気迫だ。泉はたまらず怯んだ。
「うー……でも」
「じゃあケーキ食べ放題。これでどう?」
「うっ……わかりましたっ! わかりましたよ!」
 ケーキ食べ放題の魅惑に勝てず、ついに泉は陥落してしまった。心の中で地に膝をつけ、がっくりとうなだれていた。実際は頭がうなだれているだけだったが。言質を取った美樹はそんな泉をよそに嬉しそうにガサゴソと自分のかばんの中に手を伸ばし薬を取り出した。
「じゃあ、ハイ。これ飲んで」
 取り出したのは一本の試験管に入った液体。どろっとした少し粘り気のあるようなそんな液体なのだが……
「あのー……緑色なんですけど」
「青汁だと思って!腰に手を当てながらグイッと飲めば問題ないはずよ」
「ううっ……」
 わずかな抵抗も空しく、今か今かと美樹は嬉しそうに泉を見つめている。しょうがないな、と泉は意を決して薬を飲み込んだ。
 ゴクリッ
「……」
「……」
「何もならないですね」
 苦くてすこし酸っぱい魔法薬を飲み込んだ泉は変化の現れることのない状態に疑問符を浮かべていた。実験は失敗に終わったのだろうか……?
「これからよ」
「い、一体何が……」
 自信満々の笑みで美樹が泉をビシィッと指差す。これからどうなるのかわからない泉は浮かない表情で美樹を見ていた。
「猫になれっ!」
「にゃっ?!」
 唐突に美樹が叫んだかと思うと、ぼわんっと煙が泉をつつみ、一瞬にして猫に変身してしまったのだった。
「子供になれっ!!」
「うわぁー! な、なんでこどもになってるんですかぁー!」
 猫になったかと思ったらどんどんと姿かたちを変えられてしまう泉。そんな泉をよそに嬉しそうにいろんな姿を叫ぶ美樹であった。犬、鳥、パンダと色々と姿を変えていく泉。
「うーんふふふ……実験は成功みたいね。それじゃあ行きましょうか」
「ちょ、ちょっとーちゃんとせつめいしてくださいよー」
 有無を言わさずに子供姿の泉の手を引きながら近くにある公園へと足を運ぶ。実験と言うのは『美樹が叫ぶとその姿になってしまう』薬を作ることだった。つまり、実験は成功したのだ。嬉しそうな笑顔に一層輝きが増す。
「ほらー可愛いでしょ? けも耳生えてるんだから」
「ほんとだー」
 公園で遊んでいた子供に泉を見せてみる。小柄で目がくりくりしていて大変可愛らしい上に、けも耳も存在している。珍しそうに子供が泉の耳を触ると泉は恥ずかしさなのか美樹の足にしがみ付いた。
「これが萌えなのよ。覚えておきなさい」
「みきさん、へんなことおしえちゃだめですよ!」
 得意げに子供に萌えを語る美樹に慌てて泉は静止を促した。
「よし、満足! それじゃ次行きましょうか。男になれっ!」
「うわぁ!」
 再び美樹が声に出して変身させる。すると、なんともいえぬ美青年が姿を現したではないか。想像以上の美形に美樹のテンションは嫌でも高まるのだった。
「ちょっと! すごいイケメンじゃない! なんで黙ってたのよ!」
「み、美樹さん……?」
 背中にばしばしと平手を打ち込む美樹。無論予想外のイケメンっプリの表現方法なのだが、若干強めで叩かれた所は赤くなっていた。そして美樹は気がつく。こんなイケメン、元の姿に戻すべきか。否、もったいなさ過ぎる。そこで美樹は一緒にショッピングへ行こうと誘った。泉は断れるわけもなく二つ返事で了承。
「じゃあ行きましょうか」
「もう、しょうがないな、美樹さんってば……」
「なんか言ったー?」
「いえ、美樹さんってば元気だなと」
 思わず口にした言葉にしまったと思い、美樹を見やるが何も聞こえていなかったようで慌てて修正をする泉。その言葉を聞き不思議そうな顔を浮べる美樹だった。

 商店街へとやってきた二人。ちゃっかりと腕を組んだりしている。傍から見ればなんとも熱々なカップルに見える。美樹も乙女ゲームのデート気分を堪能していた。泉は楽しそうな美樹を見てそれはそれでいいかな、と思い一緒に買い物を楽しんでいた。それはとてもほのぼのした一日であった。
 しかし、事態は急変する。
「きゃあああ!」
「何?!」
 遠くの通りから悲鳴が聞こえたのだ。二人は考える間もなしに自然と戦闘態勢をとっていた。声のした方へと駆け出していくと向かいから被害女性と思われる女性と犯人と思われる男達が走って来た。
「ひったくりよー! 誰か捕まえてー!」
 運よく犯人はこちらへ向かってきたので、美樹は捕まえようとするが、手馴れた手つきで美樹をかわすと共になんと美樹のバッグまでひったくっていったのだ。まさに一瞬の出来事だった。
「ちょ……! 私のバッグまでっ!」
 風の様に去っていく犯人達を目で追いつつ被害者の女性を気遣う二人。そして、
「許すまじ……! 泉、追うわよ!」
「はい!」
 泉に声をかけ走り始める美樹。泉もその後を追う。街の人ごみをするりと抜けていく犯人複数人と二人。しかし、相当場慣れしているのか一向に犯人との距離が縮まることが無い。二人の顔に焦りが見え始める。
「美樹さんっ、俺に提案がッ……!」
 一向に進展しない展開を打破するため、泉がある提案を美樹に伝える。聞いた美樹は頷くと
「わかったわ、じゃあこの二つ先の十字路で」
 そう言い走る足を止めた。
「了解!」
 その泉の了解の合図と共に美樹が泉に「チーターになれ」と叫ぶ。たちまちに煙が泉を包み中から銀色のチーターが現れた。その脚力は今までの比ではなく、軽々と犯人グループを一つの箇所へと意図的に誘導するにはもってこいの変身だった。そしてその誘導された場所とは十字路。そう、美樹に指定されていた十字路である。
「そこまでよ!」
 美樹が叫び一箇所に集められて居た犯人達の足元へとバケツの中にはいっていた液状の何かをぶちまける。するとたちまちに液状だったものがゲル状になり、更に酷い粘着性をもつ状態へと変化した。あっけに取られていた犯人達は逃げようとするが恐ろしいほどの粘着液に足を動かすことすら出来ない。
 なんですかこれ……と言わんばかりに鼻をフンフンとさせる泉。
「とりもちすぺしゃる」
 ふふん、と自慢げにポケットの中に入っていたタブレットを見せる。これを水の中に入れ、激しい動き(この場合はぶちまける事)を与えると見る見るうちに粘着性を持つと言うものだと説明した。
「痛い目見なきゃわからないでしょ、こういう輩は」
 やれやれと肩をすくめ呆れた美樹。泉もチーターの姿で地面に座った。
 しかし安心した美樹の背後に突如人影が現れ、美樹を捕らえたのだ。その人影は美樹の手をひねり上げ、首元にナイフを突きつけた。
「そこまでだ」
 どうやら、待っていても一向に来ない仲間を見に来たところ、とりもち辺りで発見したらしい。そして隙をうかがっていたのだった。さらに美樹の腕をひねる。
「くぅ……!!」
「さっさと仲間を逃がせよ……さもねーとその顔に傷が付くぜ?」
 首筋に這わせたナイフをゆっくりと顔へと這わす。その道跡には赤い道筋がジンワリと滲んだ。
「……なせ」
「あ?」
 先ほどまで獣の形をしていた泉は薬の効果が切れたのか、人型に戻っていた。しかしその姿は男性時そのものでその低い声は怒りに溢れているようだった。
「その汚い手を美樹から離せといっている!」 
「泉……」
「誰が汚ねぇ手だ!! クソが!」
 その言葉に舌打ちをし、犯人も腹を立てたようでおもむろにナイフを美樹に向けて振り下ろした。
「美樹ッ!!」
 一気に間合いを詰める泉。そしてずっとやられっぱなしは癪に触ったのか、美樹も犯人に捨て身のタックルを仕掛ける。不意打ちだったのか犯人はよろめき、美樹と犯人との間に距離が開いた。
「私の大切な人に触るなっ!」
 その隙を見逃さない泉。犯人の腹にブローを決めた後、間髪居れずに次の手を犯人に決めていく。その強さは歴然のものであった。
「泉!!」
 気がつけばもう犯人は気を失っていた。恐らく美樹が声をかけ止めなければそのまま殴り続けていただろう。はっとした泉の視線はやっと美樹を捕らえた。
「美樹さん大丈……」
「超カッコイイんですけど! ホントにテレビとか映画の話みたいにスーパーヒーローみたいで!」
「え?」
 自分が置かれていた状況など忘れたかのように泉の両肩をガシリと掴む美樹の目はまるでアイドルか何かを見ているかのように頬を紅潮させながら目はキラキラと輝いていた。
「キュンときたっていってるの。だからこのままで居てね」
「ええ?!」
 余りのイケメンっぷりにそのまま男性で居てくれと頼む美樹。余りの事で泉は驚き目を見開いた。尻尾も気のせいか毛が広がっている気がする。
「あ、そうだちょっとコレ言って!結構真面目に」
 小さな紙になにやらせっせと文字を書く美樹。書き終わったところでそのまま泉へと渡す。物凄くエエ顔で。なんだろうと胸に一杯の不安を抱えそのメモを見てみると……
「え、なんですかコレ……『ずっと私のそばにいてくれ、美樹』……?!」
「だめー、もっと心を込めて言って!」
 思わぬ台詞に泉の顔は一気に赤くなる。大体なんでこんな事を言わなければというと、それ乙女ゲームの好きなキャラの台詞なの、と語尾にハートマークがつかんばかりに美樹は言い放つ。
「恥ずかしいですよ! ちょっと聴いてます?」
「言ってくれないと割り勘にするからねー」
「ええっ?! それはダメですダメです!」
 そんなやり取りをしながらも二人はやたら楽しそうにケーキ屋へと向かうのだった。きっと二人はとても仲良しだから、たとえ男でも女でも何処にいても何があっても楽しい事を知っているから心から笑って歩いているのだ。

 結局、その台詞を言ったかどうかは二人だけの秘密という事で。

クリエイターコメントお待たせしました!
なんだか物凄い波乱な1日になりましたが(特に泉さんが)楽しんでいただければ幸いです。
ピンチのときに現れて颯爽と助けてくれる騎士さんはかっこいいですよね。
目がキラキラするのも頷けます。
ほれてまうやろーってやつですよね!(笑)

このたびはオファー誠に有難うございました。
公開日時2009-05-01(金) 19:00
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