★ 願いよ届け、天高く。 ★
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号105-6563 オファー日2009-02-04(水) 23:24
オファーPC 桑島 平(ceea6332) エキストラ 男 46歳 刑事
ゲストPC1 赤城 竜(ceuv3870) ムービーファン 男 50歳 スーツアクター
ゲストPC2 槌谷 悟郎(cwyb8654) ムービーファン 男 45歳 カレー屋店主
<ノベル>

 頼むよ、と手を合わせられ、槌谷 悟郎(ツチヤ ゴロウ)は「ふむ」と頷く。コトン、と手を合わせているムービースターの前に、カレーを置きながら。
「願い事を書いて納めるといいのかい?」
 ムービースターは頷き、再び「頼む」と頭を下げる。
 悟郎の営むカレー屋「GORO」の常連である彼が言うには、市外にある神社に、願い事を書いて納めれば叶う、という噂があるのだという。ムービースターは銀幕市の外には出られない。だから、悟郎に代わりに行ってきてほしいのだという。
 困った顔をする悟郎の後ろで、元気の良い笑い声が響いてくる。赤城 竜(アカギ リュウ)だ。
「いいじゃないか、悟郎。引き受けてやろうぜ。俺も、手伝ってやるからよ」
 にっと笑う竜に、悟郎も「そうだな」と頷く。
「まあ、別にいいか。引き受けよう」
 にこやかに答える悟郎に、ムービースターは「感謝するよ」と嬉しそうに言い、満面の笑みを浮かべる。
「それで、どこにあるんだい? その神社は」
 何気なく聞いた悟郎に、ムービースターはあっさりと、某日本一高い山の名前を挙げた。大丈夫、行けばすぐ分かるみたいだから、と付け加えながら。
「……本当に、そこなのかい?」
 念を押す悟郎に、ムービースターはこっくりと頷く。そして、カレーを目の前にして手を合わせ「いただきます」と言う。
「願いが叶う神社、か。流石に手厳しそうだな」
 悟郎の言葉に、竜がはっはっは、と笑う。
「ま、その分ご利益って奴がありそうだぜ。なんてったって、願いが叶う、だからな」
 カラン。
 竜がそういった瞬間、カレー屋の扉がベルの音と共に開いた。そして、その先には真剣な眼差しの桑島 平(クワシマ タイラ)が立っていた。
「その話、本当か?」
「あ、桑島さん、いらっしゃい」
「おう……じゃなくて、槌谷。願いが叶うってのは、本当なのか?」
 それは、と悟郎が説明しようとすると、竜が「そうだ」と大きく頷く。
「良かったら、お前もどうだ? 桑島。共に、皆の願いと俺たちの願いを叶えてやろうぜ!」
「よし、乗った!」
 がし、と二人は力強く手を握り締めあう。
「山登り、いいのかなぁ」
 そんな二人を見ながら、ぽつり、と悟郎は呟くのであった。


 出発の日、たくさんの願い事が書かれた紙が入った袋を、三人は抱えていた。
「多くないか?」
 そっと口を開いたのは、平だ。
「なんだよ、桑島。どうせだったら、他のスター達の分も持っていこうぜ、と言ったのはお前じゃないか」
 竜がそういうと、平は「それはそうだが」と言って肩をすくめる。
「でも、不思議だよね。これだけの願い事を、わたし達三人が背おうだなんて」
 大きな袋を見て、悟郎が言う。
「ま、確かに責任重大だな」
「やりがいがあるってもんだぜ!」
 うん、と頷く平と、がはは、と笑う竜。
 三人は「よいしょ」と袋を抱え、山を登り始めた。
「にしても、まさか登山になるなんてな」
 平はそう言って、苦笑する。
「でもその分、ご利益がありそうな気がする」
「ははは、願いを叶えて欲しければ、苦労しろって事だな!」
 悟郎の言葉に、竜が笑いながら答える。
 三人はたまにぽつりぽつりと話しつつ、確実に山を登っていく。最初は登山する者が数多くいるのだろうと分かるくらい、道と案内図が綺麗だった。途中途中でベンチやトイレといったちょっとした休憩施設も備わっているので、三人は楽しみながら登山を続ける事ができた。
 だが、それも7分目まで。そこからは道が踏み固められたようにしかなっておらず、案内板にも「ここが、最後の休憩所です」とある。地図と看板を見比べつつ、三人はラストスパートに向けて歩き始めた。
「大分、標高が高くなってきたね」
 悟郎はそう言って、眼下に広がる景色を一望する。山登りを始める際に見上げた山に、今自分が立っているのが不思議な気持ちだ。
「おい、槌谷。よそ見してると、危ないぞ」
 平はそう言って「よいしょ」と坂をあがる。最初は気にもしなかった願い事の入った袋が、妙に重く感じる。
「神社は、まだ上なのか?」
「ああ、さっき看板を見た感じじゃ、更に上っぽかったな」
 平の疑問に、悟郎が答える。
「まだまだ苦労しとけって事だな」
 竜は肩をすくめ、袋を持ち直す。体力に自信があるとはいえ、何十人もの願いと共に登るのは、なかなか大変だ。
「責任ってのは、重いな」
 平はそう言って、小さく息を吐き出す。標高の高さから、どことなく息苦しい。酸素が足りない、と思うほどではないが。
「その分、皆さんの期待を一身に受けてるから」
 ね、と言おうとしたその瞬間、悟郎は足を滑らせる。崖の多い場所だ、一歩足を滑らせれば、あっという間に下へと滑り落ちてしまう。
「おい、槌谷!」
「悟郎!」
 平と竜はそれぞれの荷物を地に置き、慌てて悟郎の下へ駆け寄る。悟郎の荷物を平が慎重に受け取り、悟郎の手を竜がぐっと掴む。
 竜は「はぁぁぁぁ」と息を大きく吸い込み、ぐっと奥歯を噛み締め、強く悟郎の手を握り締める。
 悟郎もそれに答えるかのように、竜の手を強く握り返す。
「ファイトォォォォ!」
「いっぱーーーーつ!」
 がっ! という音と共に、悟郎は竜の手によって、再び山道に戻ってきた。
「大丈夫か、槌谷、赤城さん」
 平が、その場に座り込んでいる二人に話しかける。竜は「おう」と言ってにっと笑い、悟郎は「うん」と言って力なく笑った。
「びっくりしたよ。有難う、赤城さん、桑島さん」
「無事で良かったぜ。な、桑島」
「本当に、気をつけてくれ。ここで現場検証なんて、やりたくないからな」
 どうも平が言うと、洒落にならない気がしてならない。不安そうな顔で見てくる悟郎に、平は慌てて「冗談だぞ、冗談」と入れておく。
「お前が言うと、全く以って不穏だからな。仕方ないか!」
「すっぱり言うな、すっぱりと」
 楽しそうな竜に、平は突っ込む。三人は顔を合わせて一通り笑うと、再び袋を担ぐ。
「それじゃ、行くか」
 平の言葉に、おー、と竜が手をあげる。
「俺たちが希望の星だからな!」
「赤城さん、責任が更に重くなってるんじゃ」
 苦笑交じりに突っ込む悟郎に、竜は「気にするな」と言って笑った。
 それから、時折簡単な休憩を取りつつ、ようやく山頂に辿り着く。眼下に広がる景色に、三人は同時に「おおおー!」と声を上げた。
「やっと着いたな、頂上!」
 竜はそう言って、大きく伸びをする。
「結構かかったからな、ここまで」
 ごきごきと肩を鳴らしつつ、平が言う。
「無事登りきれて、良かった良かった」
 うんうん、と頷きながら、悟郎は笑う。
「そうだ、折角だからビデオ撮ろうぜ、ビデオ」
「赤城さん、ビデオなんて持ってきているのか?」
 怪訝そうな平に、竜は「じゃーん」と言いながらビデオカメラを取り出す。
「これで、登頂記録をとっておこうぜ」
「でも、赤城さん。三脚は?」
 悟郎の疑問に、竜は「あ」と言葉を漏らす。ビデオカメラを固定させておく為の三脚は、持ってきていない。
「なら、そこの岩場に置けばいいじゃねぇか。ほら、貸してみろ」
 平はそう言って竜からビデオを受け取り、岩場においてみる。中を覗いてピントを合わせ、録画ボタンを押す。
「よーし、これでもうばっちりだぜ」
「え、もう撮ってるのかい? 桑島さん」
 驚いたように、悟郎が言う。桑島は「まあな」と言って頷く。
「もういいかな、と思ってな」
「一言言って欲しかったなぁ」
 苦笑する悟郎に、竜が「いいじゃねぇか!」と言って、二人の背をトン、と軽く叩く。
「折角だから、人がしなさそうな事をしようぜ、ばーんとな」
「そりゃいいな。俺たちが、初めてってのがいい」
「でも、一体何を?」
 悟郎の疑問に、竜は二人と手を繋ぐ。左手に悟郎、右手に平。
 何事かと分からない二人に、竜は「アレだ、アレ」と言う。ビデオカメラに聞こえぬよう、こそこそと。
 それを聞いた二人は「本当にやるのか?」「何でそれを」と言いつつも、竜の言われるままに位置につく。
「よーし、行くぞ! せーのっ!」
「扇っ!」
 竜の掛け声と共に、三人は組み体操の扇をする。
 山頂で行われる中年男性三人での扇。恐らく、登山者初の行為だ。いや、間違いなく彼ら以外に行った者はいない。
「中々いい具合に出来たじゃねぇか」
 最初は怪訝そうだった平も、組みたい相互は一仕事終えた顔になっていた。妙にすがすがしい。
「そうだね、やってみるもんだね」
 同じく、悟郎も。
「だろ? こういうのは、やる事に意味があるんだって!」
 竜は誇らしそうに言う。そして揃って笑い合う。楽しそうだ。
「それで、神社って何処にあるんだろう」
 ふと悟郎が呟く。竜と平は「あ」と言い合い、きょろきょろと辺りを見回す。すると、山頂の端の方に小さな祠があった。でもって、その隣には「願い事を入れる箱」なるものまで存在している。噂を聞きつけて訪れる人が、やはりいるという事だ。
 竜はビデオカメラを持って、平と悟郎が皆の願い事が入った袋を箱の中にいれていく様子を写す。
「よし、次は俺たちの番だな」
 全て入れ終えた後、平が言う。
「それじゃあ、わたしたちの願い事はビデオカメラで取らないようにしておかないか」
 悟郎の言葉に、竜が「そうだな」と言って頷く。
「皆に聞かせるのは、なんとも恥ずかしいからな」
「とか言いつつ、こっそり撮るなよ」
 にっと笑う平に、竜は「やらないから、安心しろ」と言って笑い返す。電源ボタンらしきものを、押しながら。
 そうして三人は山頂で横並びになり、息を吸い込む。
「やってやったぞー! おめぇらの願い、叶うぜ! きっとなー!」
 平は、銀幕市の方へ向かって叫ぶ。
「銀幕市民が、楽しく暮らせますように!」
 悟郎は、神社を振り返りつつ叫ぶ。
「みんなの願いが、叶いますように!」
 竜は、空を見上げて叫ぶ。
 三人は一旦息を整える。そして、三人ともが自分ではなく主に銀幕市民の事を思った願いだった事に、笑い合う。
「なんだよ、自分の事だって頼まねぇと」
「そういう桑島さんだって」
「なら、もう一度自分達の願いを言っとくか」
 三人は頷きあい、再び息を吸い込む。今度は、神社の方へと向かい、手を合わせながら。
「あいつの病気が、治りますように」
 平は真剣な表情で、願う。
「腰痛治れ! もうちょっとだけ、売上あがれ!」
 悟郎は手をじりじりと合わせながら、願う。
「今年こそ結婚してやる!」
 竜は決意を打ち明ける。願いと言うか、願望と言うか。いや、願いだ。
 ひとしきり願った後、三人は「ついでに」と言いながら、写真を撮る。竜の持ってきたビデオカメラではなく、悟郎が持ってきたデジカメで。
 ビデオカメラを置いていた岩場にデジカメを置き、タイマーセットして写真を撮る。
 山頂に、ぱしゃ、というシャッター音が鳴り響くのだった。


 その晩、乾杯、という三人の声がオデン屋に響いた。
 願いを託したスター達をGOROに集め、ビデオカメラの映像を流して見せた。皆、無事に自分達の願いを持って言ってくれた事を喜び、口々に礼を言ってきた。
 とても誇らしく、嬉しい時間だった。
「扇もばっちりだったって言われたしな」
 はふはふ、と大根を食べながら竜が言う。
「いや、それはいいが……思い切り願い事、聞かれちゃったな」
 スジ肉の串をひらひらとさせつつ、平が言う。
「赤城さん、電源ボタンじゃなく、音声のみのボタン押しちゃってたから」
 つるつるするコンニャクに苦戦しつつ、悟郎が言う。
 三人の叫びは、ばっちりビデオカメラの音声として残されていた。三人の恥ずかしいと思っていた銀幕市民への熱い思いが、結果として皆に伝わってしまった。
 それも勿論、スター達から感激されたのだが。
「たまには悪くねぇな、山登りっつーのも」
 平が言うと、竜は笑いながら「よし」と拳を握り締める。
「それじゃあ、次は世界一の山に挑戦だな!」
 力強く言う竜に、悟郎は慌てて「それはちょっと」と突っ込む。
「でも、そうだな。またこうして三人で美味しいお酒を飲めるなら、いいかもしれないね」
「俺は、山登りじゃないものを求めるがな」
 しみじみ言う悟郎に、平はあっさりと言い放つ。竜は「おい」と平に突っ込む。
「さっきは良いって言ったくせに」
「世界一の山は、ちょっとな」
 肩をすくめる平に、悟郎は「確かに」と同意する。
「山登りと言うか……また銀幕市の人に喜んでもらえる事が出来たら、いいと思うな」
 悟郎の言葉に、平と竜は頷く。
「その時は、俺も協力するぜ」
「勿論、俺もな!」
 三人は酒の入ったグラスを掲げ、もう一度乾杯をする。
 銀幕市の為に乾杯、と。


<心地よい疲労感を感じつつ・了>

クリエイターコメント お待たせしました、こんにちは。この度は、オファーを頂きまして有難うございます。
 男の方はいつまでたっても少年のような心を持っている、という話を念頭に置いて書かせていただきました。山登り、お疲れ様です。
 少しでも気にって下さると嬉しいです。ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2009-03-10(火) 19:50
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