★ ハイテンションツリー ★
クリエイター梶原 おと(wupy9516)
管理番号589-5970 オファー日2008-12-19(金) 21:09
オファーPC 玄兎(czah3219) ムービースター 男 16歳 断罪者
<ノベル>

 本当に大丈夫か、と、それはしつこく念押しされて、大丈夫だと請け負ったのに。本当の本当に本っと〜〜〜〜うに大丈夫か!? と重ねて念を押された。
「だいじょーぶまーかせとけーい、オレちゃんちょー理解してるっしー。玄兎様に任せておいたら百万馬力だっぴょーん!」
 お前はどこぞの鉄腕か、違うよな百人力って言いたいんだよな、信じていいんだなと何故か半ば泣きながら確認され、それそれと指したのに家主の憂いはさっぱり晴れた様子はなかった。それでも出かけなくてはならない事実が覆らない以上、家主は居候兼アルバイトの玄兎に後の全てを託す、以外に道はなく。
 それでも時間ぎりぎりまで任せて大丈夫なんだな!? を繰り返していた家主は、思いっきり後ろ髪を引かれまくったまま出て行った。
 いつも店番を頼まれる時は、居候仲間がいるからここまで心配されることはなかったのだが。生憎とその彼も今朝から親父殿に呼ばれたとか何とかで出かけており、不在。
 即ちこの店は家主が戻ってくるまでの三時間、玄兎の天下、玄兎の城!
「てんなっいっのー、クリスっマスーの飾りつっけ〜♪ たいじょぶじょぶ、ウサちゃんパワーでぱーっとやってどぎゅーんってなって、どどーん! に決まってるんだぜい!」
 家主がいれば、その不穏な擬音をやめろーっと全身で突っ込むところだろうか。
 とはいえ突込みが一切いない今、ボケ倒し天国──果たしてそれは天国なのだろうか──が、そこには待っていた。



 頼まれ事は果たす。必ず果たす。それが玄兎のオレちゃんポリシー。
 とはいえそれはあくまでも「玄兎基準の果たし方」なのであって、頼んだ側が意図した結果になるとは限らない。
 ふふふふ〜んと鼻歌交じりに跳ねるような足取りで部屋に戻った玄兎は、家主と居候仲間がきっちりと用意していったクリスマスの飾りに目を向けた。あまり気乗りのしなさそうな声で、義理か何かのように「おおおおおお」と、棒読みで声を発しながらゴーグルを額まで上げ、オーナメントの数々の前にしゃがみ込んだ。
「おおお、おおお、おおおおおおお。クリスマスーは赤緑ー。オレは蛍光ピンクなんだぜーい。おおお。オレちゃん、いい子だっしー。ちゃんと飾るしー。あ、でも赤緑ならクロ様が飾られといたらいいじゃん? オレオブジェ。オレオブ、……オーナー、……オブ、──オレメントー!!」
 ひょっほーいと両腕を突き上げて叫んだはいいが、既に手には飾りの数々を握り締めていた。力一杯、握り締めていた。
 ひでぇよと抗議の声が聞こえてきそうな綿の出た雪だるまや、変形した金色の飾り玉なんかが勿論上から降ってきて、仕返しとばかりにぽこんと玄兎の頭に当たった。
 何だとばかりに過剰に反応した玄兎はびくりと顔を上げ、きょろきょろと天井を見回した後に足元を見た。途端にまだ辛うじてお行儀よく並んでいるオーナメントに向き直った玄兎は、すちゃっとゴーグルを付け直して雛鑑定士並みの真剣さで色々と取り上げては眺め始めた。
 ぺいぽいと右に左に次々とオーナメントを投げ捨て、やがて行き当たったサンタクロースにきらんと目を輝かせた。
「赤い爺ちゃんはサンタクロースでちょーレンジャー! 世界平和は無理でもオレちゃんの平和は守るんだぜい。行けー、サンタレンジャー、トマトン!!」
 ウヒャヒャヒャと笑いながら小さなオーナメントに自分平和を託した玄兎は、先ほど自分が投げたせいで攻撃してきた仮想敵に向かってサンタクロースを投げつける。とおう、てえい、と投げた後に掛け声がかかるのはご愛嬌だろう。
 けれど名づけまでして自分の平和を押し付けたにしては結果には興味がないらしく、雪だるまにぶつかってころんと転げた赤いお爺ちゃんを見捨ててまた何かしら物色している。
「世界のおあげを守る為ー、トマットトトーは今日もちょー頑張るー。おあげを横取りする悪い子は、真ん丸狐に代わってお仕置きよー」
 よーよーよーと自分でエコーをかけている玄兎は、取り上げた橇をしげしげと眺め回す。
「そこまでだ! ぴろろろろん、悪者が現れた! 世界のおあげはこのソリントン将軍が頂いたー!」
 どかーんと不吉な効果音と共に橇を投げ、すかさず追いかけてキャッチするとそのままの勢いで店内を走り回る玄兎を止める者は、不幸にしてまだない。
 ウヒャヒャヒャと声を立てて笑いながら橇を持った手を振り回し、ソリントン将軍が如何におあげを奪っていくかを滔々と語っている。
「危ない、クリスマスのトマト! クリストマー! ソリントン将軍は襲い掛かった、がんがん行こうぜ!」
 言いながら橇を投げ捨てた玄兎はまたオーナメントが転がっている場所に戻り、無造作にトナカイを取り上げた。
「トマトンジャーを助けるのは、オヤバ・カーン。クキャキャキャキャ、つーかちょー赤くないっしー!!」
 全然駄目じゃんと自分が選抜したくせに批難されたトナカイは、もう好きにしてくれとばかりに投げ槍に玄兎の手の中にいる。今助けるぜーいと間延びした様子でトナカイを振りかぶった玄兎は、あ、と小さく呟くと投げるのも忘れてトナカイを取り落とし、部屋の中でも常に背負っている兎リュックをごそごそと探り始めた。
 散らばったオーナメントがもし口を聞けたなら、もう何が出てきても驚かない。といった心境かもしれない。
 周りの様子に頓着する気配もない玄兎は、どこに行ったかなーと小さいはずのリュックの中をごそごそと探り続けていたが、やがて目当ての物に辿り着いたらしい。ぴたりと手を止めると、ひどく嬉しそうに、にいと口許を緩めた。
「おーれーちゃーんーくーれーよーんー」
 ちゃらららっちゃちゃーと効果音までつけながらまるで誰かに見せびらかすように取り出されたのは、言葉のままにクレヨンだった。
 まさかと戦々恐々としたのは、取り落とされていたトナカイだろう。明らかに色が違うと咎められたのはそれだけなのだし、赤いクレヨンは間違いなく全身に塗りたくられるはずだ。
 それでもただのオーナメントに逃げ出せるはずもなく、玄兎の気のすむまま赤く染められるのも覚悟していたのだろうが。何故か玄兎が手にしたのは、金ぴかの星だった。
「ほっしー、星ー。金ぴかぴかだけどー、オレちゃんはピンクー。つーかピンクのほうがかっこいいっての。兎はピンクが似合うんだぜー?」
 何やらよく分からない主張を、奇妙な節をつけて歌い上げながら玄兎は星を構えた。
「クロ様ピッチャー第一球、投げましたストライーク!!」
 投げると同時に審判まで下す器用な一人野球の結果、星は店の入り口近辺の壁にぶつかって景気よく壊れた。よしよしとばかりに頷いた玄兎は泰然とそれに歩み寄り、星だった物の残骸の側にしゃがみ込んだ。
「オレってやっぱし天才じゃーん。あったまいー」
 さすがー♪ と声を弾ませた玄兎は、無造作に星の欠片を拾い上げる。大きさは違うが砕けた頂点を二つ持ってクレヨンの側に戻って寝転がり、徐に赤を持ってがしがしとそれを塗り潰し始めた。
 相変わらずの鼻歌に合わせて足を揺らしながら作業は続き、やがて微妙に金が見えなくなった頃。満足そうにした玄兎は今まで放置していたサンタクロースをもう片手で引き寄せると、クレヨンを投げた手で再びリュックを探る。
 今度は何の効果音もなくずるりとセロハンテープを台ごと取り出し、胡坐をかいて座り直すとサンタクロースの頭に赤く塗った星を置いてぐるぐるとテープ巻きつけ始めた。
 どうやらサンタクロースに、獣耳を付けたかったらしい。星の頂点は言われてみればそう見えなくもないが、無駄にテープが巻きついているせいであまり原形は留めていない。
「ちょーかーんせーい! 第二形態トマットン。トトトトトトマットーン」
 スペシャルなヒールなんだぜーいと子供が飛行機の玩具をそうするようにぶーんと勢いをつけて空を飛ばせるような動作をしていた玄兎は、どかーん! と叫びながら横着にそれを投げた。
 さっきから名前も形態も様々変えられている哀れなサンタクロースは、商品が並んでいる陳列棚にぶつかってご丁寧にも上から下まで商品を叩き落して床に落ちた。
 投げた瞬間から違うことに気を取られていた玄兎は、商品が落ちる音に相変わらずびくりと反応して、そろそろと振り返った。
 今までも散々と暴れ回っていたのだ、店内は当然のように凄まじい惨状が繰り広げられている。
 本来であれば今頃は綺麗に飾られたツリーが、ちかちかとクリスマスを教えて光っていただろう静かなはずの店内が、この短時間でどうしてここまで荒れ果てる事ができるのか。
 家主や居候仲間がいたら呆然として眺めるしかできないだろう光景を、玄兎は軽く首を傾げて不思議そうに眺める。
 オレちゃん超魔力でいつもぴんと立っているはずの兎耳が、くたり、と頼りなく倒れて玄兎の戸惑いを伝えてくるかのようだった。
「あー。……ドロボー?」
 いつの間にとぼそりと呟く声が、どこまでも本気っぽい。これはちょっと困ったことになったんじゃないか? とばかりに玄兎の視線がふらりと泳いだが、次の瞬間に兎耳はぴょこんと元気に立ち上がった。
「まいっかー! オレちゃんは飾り付けしなくちゃだしー。うさちょんもクリスマスーって言ってるじゃーん」
 お仕事お仕事ーと腕を振り上げると、今まで散らかしたオーナメントを適当に拾い上げて商品の落ちた陳列棚に並べてみたり、出入り口近辺に罠のように並べてみたり、玄兎独特の感性で飾り付けを始める。
「すげ。オレ天才じゃん? つーかちょー天才じゃーん? オレちゃんのセンスに皆ダツボーするんだぜぃ、ダッポー」
 何だそれと自分で言っておきながらアヒャヒャヒャと力一杯笑った玄兎は、そろそろその作業に飽きたらしい。笑いが収まるとはぁと大きな溜め息のように息を吐き出し、まだ少し手にしていたオーナメントを投げ捨てた。
 飾っり付ぅけーと呟くように歌っているあたり、まだ飾り付けの使命を忘れたわけではなさそうだった。
 その割に用意された飾りに見向きすることもなく、さっき出したクレヨンを持ってうろうろし始め、画用紙の束をどこからともなく引っ張り出すと嬉しそうにしてまたごろりと横になった。
「赤、あっかー。ぐりぐりー、みにょーん、とーおーう。こんこんけんけんこんこんー」
 楽しそうに歌いながらクレヨンを握った手を一生懸命に動かし、どうやら画用紙に何か書きつけているらしかった。
 紙からはみ出すから注意する、という発想は、無敵芸術兎様にはないらしい。豪快に機嫌よく描いている、それはどうやら玄兎の知り合いの姿らしい。居候仲間に始まり、家主他、今まで銀幕市で出会った面々を次々と描いている。
「かんせーい!」
 言いながら次々と紙を取り替えていくのだが、半分以上はみ出している場合もあるので紙を単独で見ると誰かよく分からないことも間々あったが。楽しそうな兎様にそれを突っ込むのは野暮というものだろう。
 そうして粗方描き終わった玄兎は満足そうにそれらの紙を取り上げ、未だにしょんぼりと緑のままだったツリーに突き刺すようにして飾り出した。
「銀幕ツリー。の、ちょーかーんせーい! クロ様作のちょーごーかバージョンじゃーん。勝てる奴なんかいないんだぜーい」
 上出来上出来と何度となく頷いた玄兎は、ふあ、と大きな欠伸を漏らす。
 誰に止められることもなく色々遣り尽くした満足感からか、急激に眠気が襲ってきたらしい。ふああああ、と声を張るようにして欠伸を漏らすという器用をこなすと、ゴーグルを押し上げてぐしぐしと目を擦った。
「オレちゃんもー眠いー。むねいー、むねむねー。ふああああ……、おやふみ」
 欠伸交じりに誰にともなくそう断りを入れると、ごろんとその場で横になって一瞬後には爆睡している。
 所要時間、三時間。それを凄まじく有効利用して「オレ的飾りつけ」をパーフェクトにこなした玄兎は、ひどく満足そうにすやすやと眠っているが。
 数分後に急いで帰って来た家主や、親父殿を連れて帰って来た居候仲間が店内の惨状に言葉もなく立ち尽くした後、玄兎ー!! と怒鳴りつけるのを、まだ知らない。


「オレちゃん、ちょー頑張ったー」

クリエイターコメントすみません、明らかに大暴走。悪乗りしすぎました……。でももー、すっごい楽しんで書かせて頂きましたっ。
兎様の愛らしさを認めるのに必死で、残された惨状は詳しく描写すると帰って来た方々が可哀想な事もあって(エ)割愛。
一人遊びがやたらと上手そうなイメージがありますが、あくまでも自分の為ではなく、店の為の頼まれ事を頑張っている感が伝わって……いるかどうか、甚だ書いた本人が疑問を覚えるところですが。
気持ちそれを意識して書いた事だけは、こっそり姑息に主張してみたり。
とにかく、書いててひたすら楽しかったです。こっちも激しくテンションの上がる、素敵オファーをありがとうございました!
公開日時2008-12-24(水) 02:00
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