★ 二人暮らし、続行中。 ★
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号105-5245 オファー日2008-11-11(火) 21:31
オファーPC 沢渡 ラクシュミ(cuxe9258) ムービーファン 女 16歳 高校生
ゲストPC1 神凪 華(cuen3787) ムービーファン 女 27歳 秘書 兼 ボディガード
<ノベル>

 キンコンカンコン、と授業終了を告げる鐘の音が、学校中に鳴り響く。それと同時に、教室内や運動場はわっと賑やかになり、生徒達は楽しそうにお喋りをしながら下駄箱や、部室や、図書室といった各々が放課後ライフを楽しもうとする。
 友人と楽しく下駄箱まで喋りながらやってきた沢渡 ラクシュミも、その内の一人だった。今日はどこかに食べに行く? なんて話したり、その内にバーゲンが始まるからショッピングに行こう、なんて話したりしながら、下校する。
「んー……やっぱり、クレープも捨てがたいよね」
 ラクシュミがそういった瞬間、友人は「あ」と声を漏らす。
「何か用があるんじゃない?」
「え、用なんて」
 不思議そうな顔するラクシュミに、友人は「だって」と言いながら校門の方を指差す。すると、そこには神凪 華の姿があった。校門からはネズミ一匹すら見逃さない、といわんばかりに、隙がない。
 ラクシュミは「あー」と言いながら頭を抱える。華がこうして迎えに来るのは、これが初めてではない。一緒に暮らし始めてから、ずっとなのだ。
「最近、ずっとだよね? お姉さんが迎えに来るのって」
「あーうん……だよね」
 ラクシュミは、再びため息をつく。どうして迎えに来るのかと問えば、気が向いたからだとか、たまたま通ったからだとか、それらしい事を言うのだが、結局毎日迎えにきているのだ。既に「たまたま」の域を超えている。
「引越しの整理がまだ終わってないとか?」
「ううん、それはないんだけど」
 友人の問いに首を横に振りつつ、ラクシュミは答える。いきなりの引越し作業だったものの、ラクシュミと華が新しいマンションに付いたら既に引越しは終わっていた。ラクシュミ自身は、何一つ荷を解いていないにも関わらず。
「なら、毎日何してるの?」
「何って……特に何もしてないんだけど」
 へぇ、と友人は不思議そうに小首を傾げた。ラクシュミだって同じ気持ちだ。
「ラクシュミ」
 校門まで行くと、当たり前のように華が話しかけてきた。ラクシュミは肩をすくめつつ「また来たんだ」と返す。
「じゃあね、ラクシュミ」
 友人が華に軽く頭を下げ、去っていく。ラクシュミはため息混じりに「クレープが」と小さく呟く。今日こそはクレープを食べようと思っていたのに。
 その声を拾った華は、歩きだしながら「クレープ?」と尋ねる。
「一体、クレープがどうした?」
「友達と、クレープ食べて行こうかと思ってたから」
「何だ、そんな事か。ならば、今から食べに行くか」
 淡々と言い、続けて「その店はどこにある?」と尋ねる華に、ラクシュミは「そうじゃなくて」と首を振る。
「あたし、友達と食べに行きたかったの」
「クレープが食べたいのだろう?」
「だから、友達と一緒に食べて、他愛もない話とかしたかったの」
 苛々したように、ラクシュミは言う。華は不思議そうな顔を続けている。
「話なら、学校でしていたじゃないか」
「クレープ食べながらはしてない」
 唇を軽く尖らせながら言うラクシュミに、華はため息をつく。
「そんな事を言われても、どうしようもないだろう。ならば、今からその友達と一緒にクレープを食べに行くのか?」
「そんなんじゃなくて」
 ラクシュミは苛々しながら答え、続けて「もういいよ」と言いながら背を向ける。華は小さな声で「やれやれ」と呟き、ラクシュミの後を追う。
 そんなにクレープは大事なのか、と思いつつ。


 翌日から、ラクシュミの行動が変わった。
 いつものように華はラクシュミの下校にあわせ、校門で待っていた。だが、いつまで待っていてもラクシュミは出てこない。
「何か、居残り作業でもしているのか?」
 小さく呟きつつ、下駄箱に向かう。ラクシュミの下駄箱を見つけて確認すると、すでに靴は上履きに変わっている。
「もう、出た?」
 まさか、と呟きながら辺りを見回す。そこに、華のいる下駄箱に近づいてくる生徒がいた。
「私は沢渡 ラクシュミの姉で、沢渡 霧江と言うんだが、ウチのラクシュミを知らないか?」
「ラクシュミですか? 確か……授業終わると同時に、友達と一緒に下校していたと思いますよ」
「終わるのと同時に?」
「ええ」
 華は時計を確認する。下校時間から30分は経っている。
 ちっ、と小さく舌を打つ。まさか、校門から出てこないだなんて。
「何処に行ったか、分からないだろうか」
「そこまでは……」
 困ったように生徒は言い、下駄箱から自らの靴を出す。彼女も、もう帰ってしまう。
 華は「なら」と小さくいい、生徒に向き合う。
「ここら辺で、おいしいといわれているクレープ屋はどこだろうか」
 生徒は不思議そうに小首をかしげ、学校の生徒間で話題になっているクレープ屋の場所と名前を華に教える。華は「ありがとう」と礼を言い、その店へと向かった。
 店までは学校から近く、比較的分かりやすい場所にあった。中には、学校の制服を着た生徒達がたくさんいる。
「……いた」
 その中に、ラクシュミがいた。友達と一緒に、楽しそうにお喋りをしながらクレープを頬張っている。
 華は店内に入り、真っ直ぐにラクシュミの元へと歩み寄る。先に気付いたのは友人の方で、楽しそうにするラクシュミの前でびくりと震えた。
「どうしたの?」
 友人の様子に、ラクシュミは不思議そうに尋ねる。それとほぼ同時に、ラクシュミの背後に「ラクシュミ」と、華が静かに声をかける。
 ラクシュミは体をびくりと震わせ、ゆっくりと振り返る。そして、華を見た途端その場から駆け出した。
「あ、逃げた」
 友人がぽつりと呟くように言う。華は「何故、逃げる」と頭を抱える。そうして、友人の方に向き直る。
「ここは、前払い制か?」
「あ、はい。だから、食い逃げにはなっていませんよ」
「そうか。悪かったな」
「いえ。追っかけていいですから」
「有難う」
 友人に言われ、華は軽く頭を下げてからラクシュミを追って店から飛び出る。
「ラクシュミ!」
 店から出てすぐ左右を見回すと、左の方へ走っていくラクシュミの姿が見えた。華は「全く」と呟き、ラクシュミを追った。
 暫く駆けて行くと、あっさりとラクシュミを捕まえる事ができた。
「は、華、早すぎ」
 はあはあと肩で息をしながらラクシュミが言う。華は「当然だ」と、言い放つ。
 華が友人と話していた時間があるとはいえ、ラクシュミは普通の高校生だ。ボディガードである華との鍛え方が違う。
「何故、ちゃんと校門から出てこなかったんだ?」
「だ、だって、そうしたらまた待ってるでしょ?」
 ラクシュミの言葉に、華はこっくりと頷く。ラクシュミは「だから」と言って大きく息を吐き出す。大分、呼吸が戻ってきている。
「あたしは、友達と話しながらクレープを食べたかったの」
「別に、それは私に黙ってやる事はなかったのではないか?」
「毎日毎日下校時間に合わせて待っていられてたら、友達とクレープだって食べにいけないよ」
「何故?」
 不思議そうな華に、ラクシュミは「逆に」と言い放つ。
「こっちが聞きたいよ。何で、毎日迎えに来るの? たまたまって言ってるけど、絶対違うし」
「確かに、合わせて待ってはいるが」
「だから、何で? 友達とゆっくり話すことだってできないじゃない」
「話すことくらいできるだろう」
「できないよ! 大体、華は過保護すぎる。お父さんに紹介された居候かもしれないけど、あたしの迎えなんて別にしなくてもいいじゃない」
「そうは行かない」
 華はきっぱりと言い放つ。多少、苛付いてもいる。どうしてこう、上手くことが進まないのかと。
「なら、実力行使に出るだけよっ!」
 ラクシュミはそう言って、再び駆け出す。華は「くそ」と小さく呟き、再びラクシュミを追いかける。
 幸い、人通りの少ない路地のため、人ごみの中にまぎれて逃げられるという事はなさそうだ。
「あたし、嫌だからね。監視されてるみたいで、凄くヤダ!」
「仕方ないだろう」
「その理由を聞いてるの! じゃないと、ずーっと逃げ続けてやるんだから」
 厄介だ、と華は思う。
 なんて厄介な仕事だ、と。
 ボディガードする対象が、自ら危険になると公言しているようなものだ。こっちは守ってやっているのに。
 そう、守ってやっているのに!
――がしっ。
 暫くの追いかけっこの後、再び華はラクシュミを捕まえる。ラクシュミはそれでも逃げようともがく。
 その様子に苛々が頂点に達した華は、ぐっと唇を噛み締めた後に口を開く。
「いい加減にしろ! 私の仕事を邪魔するような事をするな!」
 言い放ってから、華は「しまった」と心で呟く。ラクシュミはきょとんとした顔で、華を見つめている。逃げる様子は、どこにもない。
「……仕事?」
 ここまで言ってしまったのならば、あとは黙っていても仕方がない。華は観念したように、ため息を漏らす。
「沢渡さんの紹介で居候するというのは、嘘だ」
「うん」
 静かな声で話す華の言葉に、ラクシュミはこっくりと頷く。
「本当は、ラクシュミのボディガードとしてやってきたんだ」
「ボディガード……だから、いつも迎えに来てたんだ」
「そうだ。いつ、危険になるか分からないからな」
 口止めされていたのに、と華は再びため息をつく。もう時は既に遅い。言ってしまったのだから、どうしようもない。たとえ、ラクシュミからいやな目で見られることになったとしても。
 だが、ラクシュミの顔に浮かんでいたのは、どこかほっとしたような表情だった。呆気にとられる華に、ラクシュミは「そっか」と頷く。
「なんか、安心しちゃった」
「安心?」
「うん。色んな事に、納得できたからかも」
 ラクシュミはそう言って、にっこりと笑いながら手を差し出す。
「何だ?」
「仲直り! あたし、もう逃げないよ。でもって、ちゃんと校門からも出る」
 華は拍子抜けしたように「そうか」とだけ答え、ラクシュミの手を取る。ただ裏がある事を言っただけで、仕事はぐんとやりやすくなった。
 ボディガードでやって来たことを内緒にしておくという約束は、破ってしまったけれども。
「だったら、別にクレープ食べに行くのも悪くはないよね」
「え?」
「だって、そっと華が守ってくれたらいいんだもん」
「それは、そうだが」
「事前に言っておけば、いいって事だよね」
 悪戯っぽく笑うラクシュミに、華は「多少は」とだけ答えた。ただそれだけで、ラクシュミは嬉しそうに「やったー」と満面の笑みを浮かべる。
「早速、明日クレープ食べに行くから」
 ラクシュミはそう言って、笑う。「またか?」と尋ねる華に、こっくりと頷く。
「全メニュー制覇するって、決めたから」
「なら、その分運動しないといけないな」
 冗談めかして言う華に、ラクシュミは「大丈夫」と言って華を見る。
「その時は、また全力で逃げるから」
「……冗談でも、やめてくれ」
 華の言葉に、ラクシュミは笑った。無邪気なその笑顔に、華は再び大きなため息をつく。
 そんなやりとりも、傍から見れば仲の良い姉妹にしか見えない事を、華もラクシュミも気付いてはいないのであった。


<奇妙な二人暮らしは続きつつ・了>

クリエイターコメント お待たせしました、こんにちは。霜月玲守です。
 この度はプラノベオファーを有難うございます。再びお二人のやり取りを書けて、嬉しいです。

 今回は前回の続きで、更に二人が一つの壁を乗り越える雰囲気を出させていただきました。
 お二人の掛け合いを書くのが、大変楽しかったです。

 少しでも気に入ってくださると嬉しいです。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
 それではまたお会いできる、その時迄。
公開日時2008-11-28(金) 19:10
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