★ 二人暮らし、絶賛進行中。 ★
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号105-7494 オファー日2009-04-28(火) 13:03
オファーPC 沢渡 ラクシュミ(cuxe9258) ムービーファン 女 16歳 高校生
ゲストPC1 神凪 華(cuen3787) ムービーファン 女 27歳 秘書 兼 ボディガード
<ノベル>

 ドアをじっと見つめ、沢渡 ラクシュミはため息をつく。
「まだかなぁ」
 今度は時計を見る。時計の針は、深夜0時をさそうとしていた。
「折角、紅茶でも一緒に飲もうと思っていたのに」
 湯沸しポットは、とっくの昔に沸騰を終えて保温になっている。先日購入してきた紅茶葉も、ティーポットの中でスタンバイしている。おそろいのマグカップだって、お盆の上に乗っている。
 足りないのは、神凪 華だけ。朝、依頼を受けてくるといって家を出て行き、そのまま帰ってこない。
 こういう事は、特に珍しくはない。いきなり「今日は依頼を受けたから、何かあれば連絡するように」とだけ言い放ち、出て行く。なるべく、寄り道などしないようにと付け加えたりしながら。学校の無い時ならば、家の中にいるようにと言い聞かせながら。
 帰ってくるのは、早かったり遅かったり、時間もまちまちだった。全身擦り傷だらけで帰ってきたり、出かけた時とは全く違う服装になっていたり、何も変わらなかったり。いずれにしろ、華が危険な依頼を受けている事くらいは容易に想像がついた。
「華、いなくならないよね」
 ぽつり、とラクシュミは呟く。
 折角仲良くなったのに、と心の中で付け加えながら。ハヌマーンをそっと撫で、ため息を再びつく。ハヌマーンは相変わらず、何も分かってはいなさそうだが。
「ハヌマーン、華がいなくなったら、寂しいよね?」
 問いかけてみるものの、ハヌマーンは何も答えない。だよね、とラクシュミがもう一度ため息をついた瞬間、ガタン、という音が玄関の方で聞こえた。
「華?」
 ラクシュミは立ち上がり、玄関へと向かう。ドアは開いていない。ドアは自ら開かないようにといわれている為、ラクシュミはもどかしさを抑え付けつつ、ドアが開くのを待つ。すると、ガチャ、と多少乱暴にドアが開いた。入って来たのは、華。
「おかえりなさ」
 は、とラクシュミは息を呑む。華は負傷していた。左肩を右手で抑え付け、肩で息をして。見るからにしんどそうだ。
「華、怪我したの? 大丈夫?」
「かすり傷だ」
 華はそっけなく答え、家の中に入る。が、ふらりと態勢を崩して倒れそうになる。ラクシュミは慌てて華を支えた。
「すまない」
「今はそんな事言ってる場合じゃないよ。ベッドに行ったほうが良いよね」
 ラクシュミの問いに、華は頷く。ラクシュミは華を支え、華の部屋へと向かい、ベッドへと連れて行った。
「傷口を、なんとかしなければ」
 華はそう言い、ベッドから立ち上がろうとする。ラクシュミは慌てて「持ってくるから」と言い、華をその場に留まらせる。
「ええと、濡れタオルと、救急箱がいるよね」
 ラクシュミは呟きながら、必要なものをそろえる。ぬるま湯を入れた洗面器に清潔なタオルを入れ、救急箱を抱えて華の部屋へと戻る。
 華は、着ていた服を脱ぎ、手元にパジャマを置いていた。体が辛いだろうに、少しでもできることを、と動いたようだった。
「もう、じっとしてないと」
「大丈夫だ。タオル、貸してくれるか?」
 ラクシュミはため息をつき、タオルを絞って華に手渡す。華は傷口にそれをあて、少しだけ険しい顔をする。そうして、再びタオルを洗面器に戻した。
「包帯、巻くよ」
 ラクシュミはそう言い、華の傷口を見る。華の言う通り、傷自体は浅い。縫うほどの怪我ではないだろう。
「すまないな」
 華の言葉に、ラクシュミは「ううん」と首を横に振る。ガーゼをあて、包帯を巻いた。血は止まっていた為、包帯まで血が染み出してくる事は無かった。
「一応、鎮痛剤も飲んでおく?」
「いや、大丈夫だ。ラクシュミは明日も学校があるのだから、そろそろ寝ろ」
「私、看病するよ」
「いいから、寝ろ。でないと、強制的にベッドに連れて行くぞ」
 妙な脅しだったが、ラクシュミには有効だ。看病しようとする相手が自分をベッドに連れて行こうとするなんて、本末転倒になってしまう。
 ラクシュミは渋々洗面器を持って立ち上がる。
「もし何かあったら、遠慮なく起こしてね」
「分かった分かった。だから、寝ろ」
 華はそう言い、続けて「あ」と声を出す。
「ありがとう、ラクシュミ」
 ラクシュミは口元を綻ばせ「おやすみなさい」と告げてベッドへと向かうのだった。


 次の日、華は熱を出した。怪我による発熱だ。
「私、やっぱり今日は学校休む」
 ラクシュミは華から受け取った体温計を見て、そう告げた。
「何を言っている。学校へ行って来い」
「ヤダ。看病する!」
「学校へ行け!」
 ラクシュミは必死に「看病するの!」と主張したが、華は断固としてそれを拒否した。そして最終的に、華は玄関からラクシュミを蹴り出した。
「ちょっと、華!」
「行って来い!」
 バタン! 勢いよく、ドアが閉まってしまった。
 ラクシュミは大きなため息をつきつつ、登校する。友達から挨拶されたり、話しかけられたりしたのだが、頭に上手く入ってこない。授業も勿論、上の空。
(華、大丈夫かな)
 シャーペンをぶんぶんと振りながら、ラクシュミは思う。ノートと教科書は広げてはいるものの、内容がさっぱり中に入ってこない。周りのクラスメイト達は、教科書にチェックを入れたり、ノートをとっていたりすると言うのに。
(今日は、早く帰ろう)
 ラクシュミはそう心に決め、視線を教科書とノートに移す。
 やっぱり、手は動かなかった。


 ようやく授業終了の鐘の音が鳴り響き、ラクシュミは鞄を持って立ち上がった。
「ラクシュミ、今日はクレープ寄ってく?」
 友人がいつものように話しかけてきたが、ラクシュミは「ごめん」と答える。
「今日は早く帰らないといけないから、また今度ね!」
 バタバタとラクシュミは答えながら走った。下駄箱で靴を履き替えることすらもどかしい。
「そうだ、缶詰とか買って帰ろうかな。フルーツの缶詰だったら、華も食べやすいと思うし」
 ラクシュミは呟き、靴を履いて駆け出す。通学路の途中にあるスーパーへと向かい、桃や蜜柑といった缶詰を目に付いたものから籠に入れ、レジを済ませる。ずっしりと重い袋を抱え、後は帰るだけだと早足に歩く。
「華、大人しく寝ていたらいいんだけど」
 心配そうに呟き、はやる気持ちを抑えながら歩き、まっすぐに家へと向かう……はずだった。

――ぼよんっ。

 ラクシュミは、何か柔らかいものにぶち当たり、前へ進めなくなってしまった。慌てて後ろに戻る。
「い、今の、何?」
 ゆっくりと後ずさってみると、目の前に柔らかそうな球体が広がっていた。道一杯に広がっているその丸いものは半透明で、よく見ると周りの人々も困ったようにその球体を眺めていた。
 道一杯に広がっているせいで、車も立ち往生している。半透明になっている向こう側でも、こちら側と同じような現象が起こっている。
「あ、対策課の人」
 向こう岸に、対策課の人が見えた。つまり、これはムービーハザードなのだ。
「ちょっとあなた、大丈夫ですか?」
 声をかけられて振り返ると、そこには対策課の女性が立っていた。「突っ込んでいたようだけど」
「あ、なんかぼよんとしただけだから」
 変な回答とは思ったが、それしか言いようがなかった。対策課の女性は「良かった」とほっと息を吐き出す。
「何があったの? ハザードみたいだけど」
「あれ、見えますか?」
 ラクシュミの問いに、女性は球体の中心部分を指差す。そこには、スイッチボタンがぽつりと落ちている。ぽちっと押したくなるタイプのボタンだ。
「あれのせいなの?」
「誰かが押しちゃったみたいで。押した人は、そのままぼよんと押し出されただけで、怪我は無かったのですが……」
 それは中々面白い光景だっただろう。
「あ、そっか。代わりに、またあのボタン押せなくなっちゃったんだ」
「そういう事です。色んな人があのボタンを再び押そうと挑戦したんですが、誰も到達できなくて」
「バッキーに食べさせたりしたら、どうかな。ね、ハヌマーン」
 ラクシュミはそう言いながら、鞄からハヌマーンを取り出す。女性は「それは」とだけ言い、俯く。
「食べきれないみたいなんです。たくさんのバッキーが頑張ってはいたんですが」
 女性はそう言い、ぐるりと辺りを見回す。なるほど、満足そうなバッキーを連れた人が沢山立っている。
「じゃあ、やっぱりあのスイッチを押して、そのスイッチ自体を食べてもらわないといけないのかな」
 ラクシュミは呟き、ふと気付く。
 スイッチを押した人は、外にぼよんとはじき出されたという。今も尚、それは続いている。
 だが、道に存在するガードレールや空き缶は、そのまま空間内に入っている。つまり、無機質なものだけははじき出されていないのだ。
「よーし」
 ラクシュミは呟き、スーパーの袋をがさがさと探る。中から小さな蜜柑の缶詰を取り出し、構える。
「あなた、一体何を?」
 不思議そうにする女性にラクシュミは何も答えず、振りかぶって投げる。すると、缶詰ははじき返される事なく、空間を突き抜けた。
「いっけぇ!」

――がっ!

 ラクシュミの気合とともに、缶詰は丁度スイッチに着地する。ボタンが押され、空間がふっと消滅する。
「ハヌマーン!」
 声をかけると、ハヌマーンはスイッチを食べ始める。他のバッキーは動かない。既に満腹になってしまっているから。
 暫くし、ハヌマーンはぺっとフィルムを吐き出したのだった。


 帰宅したラクシュミから話を聞き、華はがっくりとうなだれる。
 目の前には、凹んでしまった蜜柑の缶詰が置かれている。
「……どうしたの? 華」
 話し終え、ラクシュミは落胆する華に尋ねる。「傷、痛くなった?」
「そうじゃない。私は、お前のボディガードだ」
「うん、知ってる」
「お前を守る為に、ここに来たんだ」
「そうだね」
「それなのに、お前が大変だった時、私は暢気に寝ていて。ボディガードとして、役立たずだった」
 ラクシュミは華の言葉を聞き「何だ」といって笑う。
「そんな事、全然気にしなくていいよ」
「何故?」
 訝しげな華に、ラクシュミはただ笑って返した。
 華はラクシュミを、仕事の対象相手としか思っていないのかもしれない。だが、ラクシュミは違う。
 華を、姉のように思っているのだ。
「早く回復してよ、華」
「それは当然だ。しっかり、ラクシュミをガードしなくては」
 真面目に答える華に、ラクシュミは「そうじゃないよ」と言って、苦笑する。
「まあ、いいや。何でも良いから早く回復して……今度は、パフェでも食べに行こうよ」
 笑いながら言うラクシュミに、華は小首を傾げつつも「ああ」と頷いた。
 ラクシュミは「そう決まったら」と言い、華をベッドへといざなう。
「早く休んで休んで! 缶詰、持って行くから」
 華は「分かった」と答え、立ち上がってベッドへと向かう。ラクシュミはそれを見、缶詰を持って台所へと向かう。皿に出す為だ。
 部屋に戻る前に、華はラクシュミをちらりと見る。
 ラクシュミは、何処となく楽しそうにしていた。華の心配など、全く気付いていないかのように。
「パフェ、か」
 華は小さく呟き、改めてベッドへと向かった。
 今はとにかく、早く治す事が先決だ、と思いながら。


<二人暮らしが自然に進行しつつ・了>

クリエイターコメント お待たせしました、こんにちは。霜月玲守です。
 三度目となる二人暮らしのプラノベ、オファーくださいまして有難うございます。

 三度目は、お二人の関係が自然に、優しいものに進行しているイメージで書かせていただきました。密かに、親交と進行をかけています。

 少しでも気に入ってくださると嬉しいです。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2009-05-23(土) 20:50
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