★ 有意義な一日 ★
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号105-6526 オファー日2009-02-01(日) 09:28
オファーPC シャノン・ヴォルムス(chnc2161) ムービースター 男 24歳 ヴァンパイアハンター
ゲストPC1 エリク・ヴォルムス(cxdw4723) ムービースター 男 17歳 ヴァンパイア組織幹部
<ノベル>

 ピンポン、と軽快な音が部屋中に響いた。エリク・ヴォルムスが「はい」と答えながらインタフォンに出ると、そこにはにこやかに笑う兄、シャノン・ヴォルムスの姿があった。
「兄さん」
 手をひらひらと振るシャノンに、エリクは慌ててドアを開く。
「どうしたんですか、いきなり」
「今日、休みにしただろう?」
 シャノンの言葉に、エリクは「ええ」と言って頷く。
 シャノンの立ち上げた会社、ヴォルムス・セキュリティにて、エリクも働いている。そんなエリクに、昨日シャノンは「いつも頑張っているからな」と言って、休みを与えたのだ。
「うん、だから、今日は一緒に食事でもどうかと思って」
 にっと笑うシャノンに、エリクは「分かりました」と応える。部屋の中にいったん戻り、コートと必需品を手にし、再びシャノンの待つ外へと向かう。
「店は、もう決めてあるんですか?」
「ああ。久々にイタリアンとか食べたいな、と思っていてな」
 嬉しそうに言うシャノンに、エリクは「そうですね」と言って笑う。
「僕も、イタリアンが食べたくなりました」
「だろ? そういう気分だよな」
 二人は顔を見合わせ、ぷっと吹き出す。
「お前、気を回しすぎだ」
「兄さんこそ、そういう気分って何ですか」
 くすくすと笑いながら、二人はイタリアンの店へと向かっていくのだった。


 シャノンの言うイタリアンレストランは、予約なしですぐに席に着くことができた。適当に料理と飲み物を頼んで行くと、あっという間にテーブルの上が料理で一杯になる。
「食べきれるんですか?」
「違うな、食べるんだ」
 シャノンはそう言って、小皿に肉をよそう。エリクは苦笑交じりに「はい」と頷き、肉や野菜を満遍なく取っていく。
「お前、綺麗に取るな」
「兄さんは、もっと野菜を食べないと」
 綺麗に盛り付けられた小皿を見てシャノンが言うと、エリクがさらりと返した。シャノンは「う」と言葉を詰まらせ、小皿に取っていた肉を口に放り込む。
「別に、野菜を取らないからって、死ぬわけじゃないし」
「生死の問題じゃないんです。体にとって必要なバランス、という意味ですよ」
「がっつり力をつけられるじゃないか、肉なら」
「力をつける補助をするのは、野菜ですよ」
 にこにことエリクが言うと、シャノンは「そっか?」と不満そうな顔をする。だが、次に小皿に盛る際には、生ハムサラダもしっかりとよそった。
 若干、生ハムが多いような気がしたが。
 エリクは不満そうな顔をしながらも野菜を取るシャノンを見て、顔を綻ばせる。シャノンはそれに気付き、エリクに「何だ?」と問いかける。
「いえ。僕が、よそいましょうか?」
 エリクの申し出に、シャノンは「いい」と首を横に振る。そして、小さなため息をつきながら、ざく、とサラダをフォークで突き刺す。
「野菜も、大事なんだろ?」
「はい」
 シャノンは「やれやれ」と小さな声で呟き、野菜を口にする。エリクはそれを見てにっこりと笑い、自らも食事に取り掛かる。
「……イタリアンな気分、だもんな」
「なりましたね、そういう気分」
 嬉しそうに、エリクが言う。シャノンはレタスを飲み込み、ため息混じりに口を開く。
「次は、焼肉でもいいよな」
「そうですね。それなら、野菜焼きも取らないといけませんね」
「お前……」
 すかさず言うエリクに、シャノンは一瞬呆気に取られた後、肩をすくめる。
「どうしましたか? 兄さん」
「拘るな、お前」
「兄さんを思ってのことですから」
「お前なぁ」
 どうやらエリクと一緒だと、焼肉に行ったとしても、肉ばかり食べるというわけにはいかないようだ。
 しかし、こうして二人で食事をする事は楽しい。仕事ではなく、プライベートで二人一緒に過ごす事は余りない事で、食事を共にする事だってあまりない。だからこそ、この時間は楽しく、貴重で、嬉しいものだった。
「兄さん、彩りにはパプリカがあるといいですよ」
 たとえ、エリクがにこやかな顔でサラダのパプリカを勧めてきたとしても。トマトならば食べられるのに、とエリクに聞こえないように呟く。肉ばかり食べてやりたいが、エリクがそれをさせない。
 それすらも、楽しい一時の一部であるけれど。
「食事が終わったら、散歩にでも行くか」
 エリクに指摘されたパプリカを口に入れながら、シャノンは言う。一瞬だけ、顔が歪む。
「散歩、ですか」
「ああ。ちょっとした腹ごなしになるぞ」
「そうですね」
 エリクは頷き、小皿に取っていたパスタを口にする。
 パスタは冷めてしまっていたが、その美味しさが変わる事はなかった。


 食後、イタリアンレストランを後にした二人は、川沿いへと赴いた。さわさわと流れる水の音が心地よい。
「寒くないか?」
「大丈夫です。兄さんこそ、大丈夫ですか?」
「ああ。……あ、ちょっと待ってろ」
 シャノンはエリクにそう告げると、近くにあった自動販売機へと小走りに向かう。あたたかいコーヒー缶を二つ購入し、一つをエリクに渡してやる。
「あると、違うだろう?」
「有難うございます」
 両手で缶を包み込むようにもつと、じんわりとしたぬくもりが手の中に広がっていく。エリクは缶を開けながら「あの」と口を開いた。
「兄さん、聞いていいですか?」
「ん、何だ?」
「どうして、両親と共に僕を殺さなかったのですか?」
 エリクの問いに、シャノンはただじっと目線を返す。そして、暫くたった後に缶コーヒーの蓋を開け、一口飲む。
「殺せるはず、無いだろう」
「どうしてですか?」
「お前には、罪が無い」
 きっぱりと、シャノンが言う。エリクをじっと見つめる顔は、短い言葉には入らぬ思いがこめられている。
 口の中が、コーヒーのせいで、苦い。
「エリクには、諍いなんてものとは、無関係な日々を送って欲しかった」
 シャノンはそう言って俯き、缶コーヒーをぎゅっと握り締める。ほわ、と中から白い湯気が出ている。
「俺は、後悔しているんだ。無関係な日々を送って欲しいと思っていたのに、実際は巻き込んでしまったから」
 ぎゅう、と更に強く缶を握り締める。
 頭の中を流れるのは、後悔と自責の念。
 諍いとは関係のない日々を送って欲しかった。実際には巻き込んでしまった。それらは全てシャノンが願い、そして引き起こしたことだ。
 エリクには、罪が無かったというのに。
 俯いたままのシャノンの傍に、エリクは近づいて「兄さん」と話しかける。優しく、穏やかな声で。
「僕は、自分で選んだんです」
「エリク……」
「繋がりを、消したくなかったんです。だから僕は、選んだんです」
 エリクの言葉に、シャノンはゆっくりと顔を上げる。そこにあるのは、にこやかに笑う、エリクの顔。
 シャノンは「はは」と笑い、ぐいっとコーヒーを飲み込む。既に冷めてしまった、コーヒーを。
「なら、今は、幸福なんだな」
「え?」
「あの時……映画の中では、対立以外の選択肢を取れなかった。他に選ぶことなんて、できなかった。だけど、ここに来てから、そうではなくなった」
 あ、とエリクは気付く。
 映画の中で、繋がりを消したくないからと選んだエリクの道は、シャノンとの対立以外には続いていなかった。諍いと無関係でいて欲しいと願うシャノンの気持ちと、繋がりを消したくないというエリクの気持ちは、互いが対立しあうという選択肢以外は存在していなかったのだ。
 だが、ここは銀幕市。二人が対立しなければならない理由はどこにもない。また、対立しなくともつながりは消えない。
「銀幕市では、こうして一緒にいられる。幸福だと、思う」
「そうですね、兄さん」
 二人は、顔を見合わせる。
 こうして共にいる事は、映画の中では叶わなかった事だ。二人の気持ちを尊重しつつ、そしてまた対立する事もない。
 なんて幸せで、穏やかな日々なのだろうか。
「もう、大分遅くなってしまったな」
 シャノンはそう言い、缶に残っていたコーヒーを飲み干す。そして、空き缶をゴミ箱に向かって投げる。缶は弧を描いた後、カラン、と音をさせてゴミ箱に入った。
「ナイスシュート」
 エリクの言葉に、シャノンはにっと笑う。
「帰るか」
「はい」
 エリクもコーヒーを飲み干し、ゴミ箱に向かって投げようかと少しだけ考えた後、普通にゴミ箱まで行って捨てた。
「投げないんだな」
「ええ。入らなかったら、残念ですし」
 それに、と付け加えながら、エリクは目を閉じる。シャノンが投げた缶が描いた弧が、銀色の細い月のように、まぶたの裏に焼きついている。
「こういうのは、根性で入れるんだ」
「根性、ですか?」
「ああ。入れ、と強く念じれば、案外入るんだ」
「適当に言ってませんよね?」
「まさか」
 二人はそんな他愛も無い話をしたり、笑い合ったりしながら、マンションへと向かう。すると、あっという間にマンションに着いてしまった。
「もう、着いてしまいましたね」
 残念そうに、エリクが言う。シャノンは「あっという間だな」と言った後、エリクに向き直る。
「じゃあ、おやすみ」
 くるりと踵を返そうとするシャノンに、エリクは慌てたように「兄さん」と声をかける。
「もう少し、一緒にいませんか?」
「もう少し?」
「はい。折角の、休日ですし」
 エリクの言葉に、シャノンは笑う。「分かった」と答え、がしがし、とエリクの頭を撫でる。
「じゃあ、今日は泊まって行くか」
「いいんですか?」
「ああ。休日は、最後まで楽しまないとな」
 にっと笑うシャノンに、エリクは「はい」と頷く。
「じゃあ、紅茶を入れますね。先日、美味しい紅茶の葉を買ったんです」
「それは楽しみだ」
 笑い合いながら、エリクの部屋に二人は入る。久々の休日に、貴重な兄弟の時間。確かにもう終わるのは勿体無いかもしれない、とシャノンは思う。
「有意義な日だ」
 エリクの入れてくれる紅茶を待ちわびながら、小さな声でシャノンは呟くのだった。


<紅茶の香りを受け止めながら・了>

クリエイターコメント お待たせしました、こんにちは。この度は、初めてのオファー、有難うございました。
 兄弟二人で過ごす、のんびりとした一日を描かせていただきました。映画では対立するしかなったお二人が、銀幕市で優しい時間を過ごされているのが嬉しかったです。
 少しでも気に入ってくださると嬉しいです。ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
 それでは、またお会いできるその時迄。
公開日時2009-02-19(木) 18:40
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