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<ノベル>
「あぁー……マジ綺麗だな……心落ち着くってか、いい気分だ」
鼻歌交じりに杵間山裾野を散歩をしているのは万事屋の梛織(ナオ)。
散っていく桜の花びらが梛織の鼻の前をよぎるとほのかに春の香りがただよった。
「こういうところで昼寝でもしたら気持ちいいだろなぁ」
そんな梛織の気分をブォンブォンという雑音が消した。
「んだよ、人がいい気分だってときにぃ!?」
後ろを振り向く。
そこにはウィリーをしつつ蛇行運転する大型バイク。
それが、梛織に迫ってきた。
「ちょ、何だよてめぇっ!」
風のように走ってくるバイクをぎりぎりででかわして、後ろ姿に叫んだ。
「飲酒運転上等とふざけやがって、ぶちのめしてやる……」
ぐっと歯軋りをする。
「あ、そこにいるのは梛織さんじゃないっすか」
「ぁん? っと、確か名画座の……」
「此花慎太郎っす」
ばたばたと駆け寄ってきた慎太郎と梛織は挨拶を交わす。
気がつくと、後ろには秋津戒斗(アキツカイト)と太助(タスケ)の姿が見える。
「梛織もアノ『飲酒運転上等!』に巻き込まれた口か?」
ふぅとため息をついて、大型バイクの車輪のあとを眺める戒斗。
「ああいうのが猫や狸、狐もひき逃げするんだよなー」
ぷぅと頬を膨らませ、太助は腕を組んだ。
一区切りついたところを見計らってか、慎太郎は説明をはじめた。
「あの酔っ払いライダーは香港映画のドマイナー作品。『酔えよドラゴン』の敵役っす」
「よえよって……危ない名前だな」
「酔拳の達人の上バイクレーサーという設定っすね。うちにフィルムもあるっす」
「なんつーか、今の日本では公開できない映画だな、それは」
ため息が増える戒斗。
「でも、ほおって置くわけにもいかないよ」
「そっちのチビのいうとおりだ。ああいうのは殴らなきゃわからん」
「まぁな」
「皆さんは逮捕のほうお願いするっす。この辺の一時避難は俺と有志の人に頼んでみるっすから」
此花は3人に託すと、そこから足早にさっていく。被害者を減らすためにである。
「それじゃあ、とっとと迷惑なやつは捕まえようぜ。そのあとは花見だな」
戒斗の一言に太助と梛織は頷いた。
「うぉらぁつ! この水をくらえっ!」
ライダーを見つけだし、用意していた水バケツを戒斗は酔っ払いにぶちかけた。
宙にとんだ水しぶき。
フルフェイスヘルメットが鼻で笑ったかのように見えた。
それをひゅるりとバイクは避ける。
さらに、逃げ遅れた一般人にかかった。
「すまん! おい、待てっ、ヨッパライダー(仮)」
客に謝り、戒斗は走り出す。
勝手に名づけた『酔えよドラゴン』の主人公に向かって……。
「すばしっこいなら、足止めっ! ロケーションエリアを展開する!」
太助も戒斗と並走しつつ、季節外れの落ち葉を頭に乗せる。
ふむ。と念じると、広い丘陵に木が生えだす。
ところどころにしかたっていなかった桜の木が地面からいくつも生えだした。
「……!」
ヨッパライダーの進路をふさぎ、桜の森は取り囲んでいく。
「よし、さすがにこれなら無理だろ」
太助は鼻の下を指でこすりふふんと鳴らした。
「おい、ヨッパライダー。ここまでだぜ?」
3人はライダーを取り囲みだす。戒斗が一歩前に進み、両腕を組んだ。
「この状況なら、逃げられねーだろ。おとなしくしろよ」
ブォンブォォンとエンジンを唸らせてライダーは答えた。
「ふざけているな。話にならん」
梛織がぺっと唾を吐き捨て、かまえた。
「…………」
ブルォォォッ!
梛織の構えに呼応するかのように、ライダーはフルスロットルへアクセルをいれた。
大きく唸ったバイクは梛織へウィリーで襲い掛かった。
「ちっ!」
襲ってきた鋼の獣を梛織はよけた。
そのとき、桜の森に変化ができた。
景色がすべて、灰になってちる。
「相手も使ってきたか、ロケーションエリア!」
灰が固まり、コンクリートの高速道路が生まれた。
舗装された道へ飛び出すバイク。
一気にヨッパライダーは3人の間を抜けて走りだした。
「あの野郎……」
「いや、これで今日はロケーションエリアは使えない」
「そうか、追いつければ勝てるな」
「俺が車に変身するから、それに乗って!」
太助がスポーツカーに変身する。
「俺、免許もってないんだけど……」
「安心しろ、『万事屋』梛織にできないことはない」
梛織は運転席に乗りこみ、戸惑う戒斗を助手席に促した。
「よし、いくぞっ!」
ガッガッとギアを変えて発進する。
視界から『飲酒運転上等!』が消えぬように……。
蛇行運転を繰り返すライダーに追いつくのは難しくはなかった。
「おぴい、ヨッパライダー(仮)ここが年貢の納め時だ!」
「古臭い言い方だな」
ヨッパライダーは背中をひっくと動かして、手に持っていたバーボン製火炎瓶を投げつけた。
キキィッと、梛織のハンドルさばきでよけるもブオォッと炎が道路に上がる。
「アルコール濃度が高いとよく燃えるな」
「んなこと言ってる場合じゃねぇだろ! うおぅっ!」
いくつあるかわからない火炎瓶をよけつつ梛織は時計を見みる。
「30分たつな……おい、戒斗。運転をかわれ」
「はぁ? 俺免許ねーって」
「まかせたぞ」
梛織はそういうとハンドルを離し、ボンネットへ乗り出す。
「ったく、太助。お前の方でもサポート頼むぞ」
助手席からハンドルを握り、あわあわと制御をする。
「加速だ」
梛織は陸上選手のようにしゃがみ、ライダーを見据えながらいった。
グンッと速度が上がる。
そして、火炎瓶が飛んでくる。
梛織が飛ぶ。
そして、火炎瓶をけり返した。
軌道を変えた火炎瓶はライダーのバイクにあたり燃えだす。
『酔っ払い運転には情け無用っ』
スポーツカーのままの太助が梛織を回収しつつ横からライダーを跳ね飛ばした。
それと同時に景色が元に戻る。
「30分ジャスト。お疲れさん」
人間に戻った太助とともに、戒斗は梛織の肩をそっと叩いた。
「さぁて、ヨッパライダー(仮)二度とこんなまねしないよう約束してもらうぞ」
水をかけたあとに縛り上げ、戒斗は詰め寄る。
ライダーは頭をゆらゆら揺らしながら何も答えない。
「おい、聞いてんのか?」
ガクガクと肩を揺らす戒斗。
ライダーは俯きになる。
びくびくと背中が震え、おなかを抱えだす。
「大丈夫かな?」
太助は戒斗の裏から心配そうにライダーを覗き込む。
そのときだ。
「オウェェェェェ」
形容しがたい何かがヘルメットからあふれだし、地面を汚した。
「うわぁぁ……」
「さすがにアレだけの走りをしたあとに頭をシェイクされればな」
「話にならん。山吹、食ってしまえ」
ぽいと戒斗は山吹を投げつけ、ライダーを食わせた。
「おーい、よかったっす。もう、夜になるっすが花見の準備できたっすよー」
「夜桜か。まぁ、そういうのも悪くないな」
「お酒のめないけど、甘酒とかほしいなー」
「山吹は腹いっぱいだが、俺は空いたしな。よぅし、食うぞっ!」
此花の案内で花見会場へ向かう一同。
桜の香りが、心地よくにおった。
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クリエイターコメント | 遅くなりましたが、納品させていただきます。
酔っ払いとの戦いを描きましたがどうでしたでしょうか? ギャグが最近メインになってますが、今後ともお付き合いいただけたらと思います。
では、また運命のめぐり合うときまでごきげんよう
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公開日時 | 2007-04-16(月) 23:10 |
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