★ Heaven Only Knows ★
クリエイター鴇家楽士(wyvc2268)
管理番号103-4205 オファー日2008-08-21(木) 07:45
オファーPC トリシャ・ホイットニー(cmbf3466) エキストラ 女 30歳 女優
ゲストPC1 ジョシュア・フォルシウス(cymp2796) エキストラ 男 25歳 俳優
<ノベル>

(これ、あの子に似合うかしら? でも、こっちの方が素敵かも……)
 トリシャ・ホイットニーは、頭の中で少年に服を着せたり、ポーズをとらせたりしながら商品を吟味する。この後、まだ少なくとも二着は買わねばならない。子供たちを平等に扱うのは、彼女の主義だ。
 綺羅星ビバリーヒルズに程近い場所にあるこのデパートは、売り場も広く、静かで、品質の高いものが揃っているので彼女のお気に入りだった。もちろん、それなりの値段はするのだが、彼女にとっては大した問題ではない。
 彼女は手にした二着の服を見比べてから小さく頷くと、また別の服を探し始めた。少なくとも、あと四着は買わねばならない。それは、宝探しをするようで、少しワクワクした。


 ジョシュア・フォルシウスは、ショーケースを覗き込みながら、ゆっくりと歩く。柔らかな照明の下で、シルバーのアクセサリーが艶やかに光る。この店のアクセサリーは、どれもセンスが良く、彼は気に入っていた。様々な輝きが、彼の目を楽しませてくれる。
 ふと、彼の目がひとつのペンダントに留まった。見たことがない形だった。
「そちらは新作になります。ご覧になりますか?」
 落ち着いた物腰の店員が、穏やかに声をかけてくる。ジョシュアは笑顔で頷く。
 店員がショーケースの鍵を開けるのを見ながら、彼は少しだけ胸が高鳴るのを感じた。大人になっても、宝箱を開けるのは、ワクワクするものだ。
 店員がアクセサリーを布張りのトレイに載せて、静かに差し出してくる。ジョシュアはそれを受け取り、色々な角度から見つめた。流線型のフォルムに、小さな雫のようなブラックオニキスが嵌め込まれ、その周囲に、上品に文様が彫られている。銀の質も高く、良い出来だった。
「これ、いただきます」
「ありがとうございます。少々お待ちくださいませ」
 ジョシュアがそう言ってトレイを渡すと、店員は笑顔で礼をし、店の奥へと向かった。


 トリシャは服の入った袋を片手に持ち、玩具売り場へと向かった。売り場はやはり広く、子供連れでも見やすいような配慮がなされている。
 彼女は立ち止まり、少し周囲を見回した。すると、柔らかい色彩に目を引かれる。そちらへと向かうと、木で出来た玩具が幾つか置いてあった。天然木を使い、職人がひとつひとつ手作りしたものらしい。手に取ってみると、優しい手触りで、ほのかに良い香りがした。
 でも、これは少年たちには少し子供っぽすぎるかもしれない……そのようなことを思った時、周囲がざわつき始めた。顔を上げると、売り場の中に、不恰好な覆面をつけた男たちが入ってくるところだった。
「全員動くな! 金を出しておけ」
 そう叫ぶと、男の一人が天井に向かって、持っていた銃を発砲する。悲鳴が上がり、ざわめきが増す。
「大人しくしろ!」
 男の怒声で、辺りは再び静かになる。どこからかすすり泣く声が聞こえた。
(どうやら、少し楽しいことになりそうね)
 そのようなことを思いながら、トリシャは素早く周囲に目を走らせた。
 覆面の男は二人。それぞれ、手に銃を持っている。もしかしたら、まだ他にも仲間がいるかもしれない。彼女がそちらを窺いながら、そっと移動しようとした時、片腕を何かが掴んだ。
 振り向き、覆面をつけた男の仲間が自分の腕を掴んだのだと理解したと同時に、男の身体が大きく揺らめいた。


 アクセサリーショップから出た後、ジョシュアは紳士服を扱っている店が集まっているエリアへと移動した。その中のショップで、ふと目に留まったシャツを手にとってみる。ショッキングピンクの生地に、得体の知れない物体が、ゴールドで殴り書きのように描かれている。
(バッキー……?)
 良く目を凝らしてみると、どうやらバッキーを模しているのではないかということが分かったが、ジョシュアにはその良さがいまいち分からない。こういう服も売れるのだな、と彼は何となく感慨深いものを感じた。
「いらっしゃいませ〜。こちらに鏡がありますので、宜しかったら合わせてみてくださ〜い」
「はい。ありがとうございます」
 店員から声をかけられ、とりあえず返事をし、振り返ると、その店員は、今ジョシュアが持っているシャツと同じものを着ていた。しかも、とても似合っている。ファッションの世界は奥深い。
 その時、何かが弾けるような音がした。
 銃声だ。
 そう思うのと同時に、ジョシュアは走り出していた。


「ぐはっ!」
 くぐもった悲鳴を上げて、床に倒れ付したのは覆面の男の方だった。トリシャが反射的に投げ飛ばしたのだ。男は、何が起こったのかわからず、呆然とし、苦しげに息をしている。
「おい、どうした?」
 男の一人が、派手な音を聞きつけてやって来る。
「あ、あの女が」
 倒れていた男が痛そうに身を起こし、トリシャを指差した。後から来た男が、ゆっくりとトリシャに近づいてくる。
 トリシャは油断なく構えながら、男たちとの間合いを取った。男たちの動きを見るに、体術などの心得はなさそうだ。しかし、銃を持っている。射撃にはそれなりの自信はあるものの、周囲を巻き込まずに、上手く切り抜けられるか……そう考えながら、ホルスターのリボルバーに手をやる。
 男の一人が、こちらに向かって銃口を向けたその時、物陰から金髪で長身の男が飛び出し、手刀で銃を叩き落した。この機を逃す手はない。トリシャも隣の男の銃を蹴り上げる。銃は弧を描き、高く飛んだ。その時には、金髪の男が、素早くもう一人の男の銃も奪っていた。
 そこで、トリシャと金髪の男の目が合った。男の顔には見覚えがある。俳優のジョシュア・フォルシウスだ。
 ジョシュアは、こちらに手を差し伸べて来る。トリシャはその手を取り、そのまま二人は走り出した。
 玩具売り場を出ると、二人は走りながら周囲の状況を確認した。あちらこちらから、ざわめきや叫び声が聞こえる。覆面の男たちは、思ったよりも多いようだ。
「助けてくれてありがとう、ジョシュア。私はトリシャ」
 途中で小さな休憩所を見つけ、覆面の男たちがいないことを確認してから、二人は立ち止まった。
「トリシャ――もしかしたら、トリシャ・ホイットニー?」
「ええ」
「噂よりずっとお綺麗ですね」
「ありがとう」
 変化の女優と謳われるトリシャだから、噂ではどう言われているのかが分からなかったが、微笑みながら言うジョシュアの言葉を、素直に受け取ることにした。
「さて……貴女はどう思われますか?」
「烏合の衆ね。統制が取れていない」
 ジョシュアの問いに、トリシャは腕を組み、答える。
「そうですね」
 ジョシュアもそれに賛同した。トリシャは少し視線を落としてから、再び顔を上げ、口を開く。
「……私が囮になるというのはどうかしら? その間に、あなたがボスを見つける」
「それでは、貴女が危険です」
 ジョシュアが難色を示すと、トリシャは首を振った。
「でも、悪くない案だと思わない? それに少なくとも、私はここにいる大勢の人たちの中では、その役を上手にこなす自信があるわ」
「しかし――いや、迷ってる時間はなさそうですね。わかりました。お願いします。でも、絶対に無理はしないでください」
 近づいて来る足音を聞きつけ、ジョシュアは渋々ながらも頷く。トリシャは優しく微笑むと、口を開いた。
「大丈夫。あなたも気をつけて」
 そして、彼女は駆け出す。


 ジョシュアは一呼吸すると、動いた。まずは、首謀者をどのように見つけ出すかが問題だ。
 だが。
 銃声が響く。その時にはすでに、ジョシュアは近くの柱の陰に身体を潜り込ませていた。護身用に持っていた銃を、油断なく構える。視線を巡らせるが、相手の姿は見当たらない。
 しかし、ハンガーにかかっている洋服が不自然に乱れ、その隙間から光るものが覗いているのを、ジョシュアは見逃さなかった。躊躇わず、トリガーを引く。耳を震わせる音とともに、男の悲鳴が上がった。殺すつもりはないので、今のも致命傷にはならなかっただろう。目的は、首謀者の居場所を聞き出すことだ。
 ジョシュアは男へと足早に近づく。すると男は、目の前にあったハンガーを、洋服ごと思い切り押した。キャスターがついていたため、それはかなりのスピードでこちらへと向かってくる。ジョシュアは身体を捻ってそれを避けると、慌てて逃げていく男の背中を見送った。もし深追いして、待ち伏せされていたのでは意味がない。
 これからどうするべきかと考えていた時、ジョシュアの背中で、再び銃が放たれる音がした。


「ああっ! さっきの女!」
 出会い頭に叫んだのは、さきほどトリシャに投げ飛ばされた男だった。覆面は被っていても、興奮しているのが伝わってくる。
「あら、私のジュードーの真似事で投げ飛ばされた人ね。またお会いできて光栄だわ」
 本当は真似事などではないのだが、からかうような口調でトリシャが言うと、男はさらに怒りの温度を上げた。
「このアマぁ! ぶっ殺す!」
「では、ごきげんよう」
 トリシャは笑みを崩さず、優雅にお辞儀をすると、近くにあった上りエスカレーターに乗り、駆け上がった。
「いたぞ! こっちだ!」
 覆面男の呼ぶ声に、仲間が集まってきたらしい。複数の足音が近づいてくる。囮役を買って出たトリシャにとっては、好都合だ。そして、狭いエスカレーターを何人もが上ろうとするならば、縦に並んで上ってくるしかない。
「しまっ――!」
 男が気づいた時にはもう遅い。トリシャはひらりと舞い上がると、一番前の男の肩を押し倒すように蹴り、そのまま下の階に着地した。後ろで悲鳴と痛そうな音がする。振り向くと、三人の男たちが伸びている。
「さてと。もっとたくさん引きつけないとね」
 そう呟くと、トリシャは腰から銃を引き抜き、天井に向けて放った。


「ふん。外したか」
 能面を被った男が、興味がなさそうに呟く。まるでジョシュアが避けることを知っていたかのような口調だった。ジョシュアは嫌な気配を感じ、とっさに横に跳んだのだ。
「俺は単細胞だから、こういうのは苦手でね」
 男は、そう言って銃を投げ捨てると、大きく伸びをしてから動く。ジョシュアの身体は、反射的に動いていた。
 その横を、拳が通る。
 速い。
「避けたか……まあいい」
 男は、またも興味がなさそうに言う。
 今度は、ジョシュアが動いた。身体を沈ませ、拳であごを狙う。男は、後ろに飛んでそれを避けたが、それをジョシュアの左足が追った。だが腹に掠りはしたものの、すんでのところで避けられる。男は床に着地すると同時に跳躍し、身体を回転させながら足技を繰り出してきた。ジョシュアはそれを左手で払い、間合いを詰める。男はバランスを崩しながらも後ずさると、右足を蹴り上げて来た。ジョシュアは身をのけぞらせて避けようとしたが、男の足先があごを打つ。ジョシュアは急いで後ろへと跳び退った。頭が少しくらくらしたが、特に問題はなさそうだった。
 だが、落ち着く暇もないまま、男の拳が鳩尾を狙って放たれる。ジョシュアはその手をつかみ、勢いを利用して、そのまま男を後ろに投げ飛ばした。男は背中から床に打ち付けられ、苦しげな呻きを上げる。
「兄ちゃん、強ぇなぁ……」
 ジョシュアは、寝転がったままの男に、銃を向けた。
「貴方たちのリーダーの居場所を教えてください」


「――っ!」
 爆音とともに、男の銃が弾き飛ばされる。トリシャはうろたえている男を後目に、銃を素早く拾うと、先ほど売り場から持ってきた薄手のトートバッグに入れた。銃は回収しておかないと、後々厄介なことになる。トートバッグには、もう何丁もの銃が収められていた。トリシャを追ってきた男たちは、彼女が女である事に油断し、次々と打ち倒されていた。もう、追っ手は見当たらない。
 ジョシュアはもう、首謀者を見つけてくれただろうか。
 そう思いながら、自分もとりあえず移動しようとした時、目の端に影が映った。それは、またもやあの覆面の男だった。手には銃を持っている。
 トリシャは、慎重に男に近づいていく。もう流石に、三度も油断してくれることはないだろう。その時、また目が人影を捉えた。
 小さな影。
「待って! 危ない!」
 トリシャの制止の声も届かず、気づいていないのか、少年は、覆面の男の方へと走っていく。
 そして、覆面の男が振り向いた。


「分からない?」
「ああ」
 ジョシュアの問いに、能面の男は、ゆっくりと頷いた。
「見りゃ分かると思うが、俺たちは適当に集められた。指示を出す男もいる。だが、ボスには会っちゃいねぇ」
「それはどういう――」
 ジョシュアが再び尋ねようとした時、足音が聞こえた。素早く身構えるが、その主はトリシャだった。走ってきたからか、荒い呼吸をしている。
「トリシャ、どうしました?」
「男の子が人質に取られたの。今、覆面の男と一緒に、エレベーターでエントランスホールに向かってるわ。何とか先回りしないと」
「分かりました。急ぎましょう」
 二人は急いで、エントランスホールに向かう。


「そこをどけ! このガキがどうなってもいいのか!」
 階段を使ってエントランスホールに先回りはしたものの、トリシャもジョシュアも、動けずにいた。少年を見殺しにすることなど、もちろん出来ないが、ここを通せば逃げられてしまう。
「助けて! ママぁ! パパぁ!」
 堪えきれなくなったのか、少年が泣き始めた。
「うるせぇぞこのガキ! ぶっ殺されたいのか!」
 緊張が辺りに張り詰める。買い物客や店員も、固唾を飲んで見守っていた。
 一瞬の沈黙。
「ぷっ」
「くっ」
 そして、その張り詰めた空気を破ったのは、トリシャとジョシュアの笑い声だった。
「なんだ貴様ら!? 何がおかしい!?」
 覆面の男はその様子に戸惑い、声を荒げる。少年は、呆然としていた。
「……ごめんなさい……だって私たち、プロなのよ……?」
「……ええ……そこそこキャリアは積んでいるつもりですし……」
 まだ二人とも完全に笑いが収まらず、肩を震わせている。
「なんだ!? いったい何の話をしている?」
「すみません。つまり、こういうことです」
「――何を!? 来るなっ! ガキを殺されてもいいのか!」
 口からたくさんの唾を飛ばしながら後ずさる男と少年に、ジョシュアは大股で近づくと、銃を少年の額に当てた。
「チェックメイト」


「いいか、お前ら! 俺が負けたのは演技力の問題であって、力の差じゃないからな! 俺に演技力があれば、絶対勝ってたんだからな!」
 今回の強盗事件のリーダーである少年が、連行されながら、噛みつかんばかりの勢いでトリシャとジョシュアの二人に言う。警察に聞いたところだと、子供のように見えるが、実際は違うらしい。その容貌を利用し、今までにも幾つか事件を起こしたらしかった。
「さあ、どうかしら?」
「それは、神のみぞ知る――というところですね」
 そう返した二人に、強盗団のリーダーは、悔しそうに声を上げ、うな垂れた。
「それじゃ、お買い物の続きをしないと」
「私もまだ見たいものがあったんです」
 二人は、デパートに戻ろうとして、ふと立ち止まる。
「私たち、歓迎されると思います?」
 デパートの中では、二人ともかなり派手に暴れまわった。
 強盗団を何とかするためには仕方なかったとはいえ、色々と被害が出たかもしれない。感謝はしてくれるだろうが、複雑な気持ちではあると思う。
 トリシャは小さく肩をすくめると、明るく笑った。
「それは、神のみぞ知る――なんて、入れば分かることよ」
「そうですね」
 つられて、ジョシュアも微笑む。
 そして二人は、再びエントランスホールへと足を踏み入れた。

クリエイターコメントこんにちは。鴇家楽士です。
この度はオファーをいただき、ありがとうございました。
お待たせ致しました。ノベルをお届けします。

最初、トリシャさんとジョシュアさんはお知り合いなのかで迷ったのですが、特にそういった記述がなかったので、ああいった出会い方にさせていただきました。
また、お二人とも、初めて描かせていただいたので、PLさんのイメージ通りにいっていると良いな……と思います。
あとは、敵なども色々とやってみたのですが、ノベルを少しでも楽しんでいただければ幸いです。

それでは、ありがとうございました!
またご縁がありましたら、宜しくお願い致します。
公開日時2008-09-02(火) 22:30
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