★ 岡田剣之進の詳細情報について 〜孤高の武士の一日〜 ★
クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
管理番号95-5188 オファー日2008-11-03(月) 22:59
オファーPC 岡田 剣之進(cfec1229) ムービースター 男 31歳 浪人
<ノベル>

 私は記録者である。よって名は秘す。
 銀幕市における記録者とは、ときには記者となって取材活動や情報収集に励み、ときにはライターとして記事をまとめ、ときには映画館に赴いて、フリースペース化している壁にこれから起こりうる事件の周知や協力者募集に関するポスターを貼ったり、銀幕ジャーナル編集部でお茶くみをしたり、給湯室で眼鏡っ娘編集者とおしゃべりしたり、まあそういう仕事をする人々の総称である。
 ともあれ、待ちの姿勢では仕事が来ないため、精力的な営業活動が必要とされる。ことに私のような、さして有能ではない記録者の場合、誰かの記事を書かせてもらおうと思ったらターゲットをロックオンしてストーカーすれすれの情熱でつけ回して(編集部検閲により18行削除)。
 ……と、失礼。私は何も、仕事の愚痴を言いたいわけではない。
 むしろ、自慢したいのだ。
 なぜならば、日々の営業努力の甲斐あって、とある武士のムービースターが「記録者というのも因果な職業だな。ううむ、そんなにお困りか……。ならばいたしかたない、俺のことを書いてもよいぞ?」と云ってくれたのである。
 彼の名は、岡田剣之進という。通称、岡田殿。
 某ハンバーガーショップでアルバイト中の岡田殿は女子高生に大人気であるから、「剣ちゃーん☆〜☆〜♪」というきらきら声に囲まれている光景を目にした銀幕市民も多かろう。
 かの女子高生たちにインタビューしたところ、最初は武士とハンバーガーという異色の組み合わせが物珍しく、どこか見物がてらの感覚だったようだが、やがて、岡田殿の女性に対するジェントルさに感激して通い詰めるようになった――というコメントを得た。
 ……すんばらしい。真にもてる男とはこういうひとのことを云うのであろう。そこんとこ、特に男性読者諸氏には強くお心にお留めおきいただきたい。
 私もつい記録者の本分を忘れ、内職のお手伝いなどして少しでも岡田殿のお役に立ちたいわ〜とか口走ってしまいそうだが、それはぐっと堪える。私の使命は岡田殿の魅力を、ひとりでも多くの読者に知らしめることなのだから。
 
 そういうわけで、本日は物陰から、岡田剣之進氏の一日を密着取材し、レポートさせてもらおうと思う。
 本人には取材許可を得ているし、記事がまとまったならば銀幕ジャーナルに掲載する旨の了承も取ってあるので、日の当たる場所で堂々と情報収集しても問題ないのだが……、いかんせん記録者はすみっこが大好きな恥ずかしがり屋なのだ。
 よって岡田殿のお邪魔にならぬよう、サングラス+黒いショールを真知子巻き(いつもならばお若い読者のために「真知子巻き」についてひと講釈たれるところだが、これは説明不要かもという電波をキャッチしたので省略させていただく。どうしても気になるかたは、博識を誇る某さまや某さまに聞いてください)にして、ひそっとメモを取る次第である。
 
 ──── 午前6:05 下宿先 ──── 
 
 台所から、トントントンとリズミカルな包丁の音が聞こえる。
 香ばしい焼き鮭の香り、ふんわりとした炊きたてご飯、湯気を立てるみそ汁。
 穏やかな朝餉の風景。
 ……割烹着姿でかいがいしく台所に立っているのは、誰あろう岡田殿である。
 食卓を整えてから、この家のあるじの時代劇好き御婦人(70代と思われる)を起こしにいくのが日課なのだ。
「お待たせした。用意が出来ましたぞ」 
 岡田殿は実体化してしばらくは、銀幕市自然公園で寝泊まりしていたそうな。
 そこを助けられたかたちになったので、この御婦人には頭が上がらないのだ。
『男子厨房に入らず』などという文言は、岡田殿の辞書にはない。
 
 ──── 午前7:30 銀幕市自然公園:花壇前広場 ──── 

 竹刀を手に、岡田殿は素振りを続けていた。
 朝食後の日課のひとつとして、鍛錬を行っているのである。
「あら、岡田さん」
 本田さんちの奥さんが声をかけてきた。犬の散歩中に通りかかったのである。連れている「犬」とは、当然ながらペス殿であった。
「おはようございます。いつも精進なさってらして、ご立派でいらっしゃるわ」
「これは本田嬢。今日もお若くてお美しい。このような奥方をお持ちだと、本田殿は気が気ではあるまい」
「んもう、岡田さんたら。3人の子持ち相手にお上手ねえ〜。どうしましょう」
「わん! うわんっ! わうううーん!(訳:ちょっと剣之進! あんたのそれ、ナンパじゃないってわかってるけど、ママさん調子に乗りやすいんだからほどほどにしてよねっ!)」
「おお、阿修羅のごときペス殿の気迫には圧倒されるな。歴戦の剣豪でさえこれほどの殺気は持っていないだろう。近いうちにお手合わせ願いたいところだ」
「わふんー! わんっ!(訳:「殿」つけないでよ。ペス嬢よペス嬢。あたし女の子なんだからね!)

 ──── AM9:00 銀幕市自然公園:ベンチにて ──── 

「これ剣之進、ちょうど良かったわい。作り過ぎてしもうたから持ってきた。きんぴらゴボウは好きかえ?」
「剣さんに食べてもらおうと思うて、うまい豆大福を取り寄せしてみたぞ」
「わしは半纏を縫うてみた。これから寒くなるからのう。背中の【武】の刺繍が渋いじゃろ?」
「かたじけない。美子嬢、光子嬢、桐子嬢」
 80代の美子嬢、90代の光子嬢、100は越えているはずの桐子嬢からの差し入れを、岡田殿は押しいただくように受け取った。
 銀幕市の御婦人は、御達者揃いである。

 ──── AM10:25 スーパーまるぎん食料品売場 ──── 

「大変よ、山口さん。今日の特売の目玉商品、『クラウンメロン』なのよぉぉ!」
「なんですって佐賀さん。あれってメロンの最高峰でしょ。自然の芸術品っていわれてて、すごく甘いのよね」
「値引きしたって高いんじゃないの。だってクラウンメロンは1玉3万円するっていうじゃない」
「それがね鳥取さん。なんと特別価格で(ぴ〜〜〜)円になるそうなの!」
「「「えええー! 本当なの、高知さん!!!」」」
「いくつくらい用意してあるのかしら」
「ひとつだけかも知れないわねぇ」
「……だったら、みんなライバルね!」
「……そうね」
「負けないわ……」
「わたしだって」
「お話中失礼する。山口嬢、佐賀嬢、鳥取嬢、高知嬢。先ほど店長から聞いたところによれば、限定10個限りということだ」
「まあ! ありがとう、岡田さん」
「それなら、頑張れば4人全員、買うことが出来るわね」
「いつも教えてもらって悪いわね」
「岡田さんはタイムセールのときは買い物しないのに、わざわざ来てくれて」
「おなご同士が争い、傷つくのは見ていられぬのでな。4人で力を合わせれば目的のものを手に入れられよう。御武運を祈る」

 ──── PM13:00 某ハンバーガーショップ ──── 

「やほー、剣ちゃん。いちど午前中に来たんだけど剣ちゃんいなかったから、また来ちゃった♪」
「もー、亜里沙(ありさ)ったら、今日はどうしても剣ちゃんに会いたいって、わがままー」
「だーってぇ、剣ちゃんの顔見るとほっとするんだもん」
「……おや? どうなされた、亜里沙嬢。目が赤いようだが」
「この子ね、悩んでるみたい。同じクラスの彼氏と揉めててさぁ」
「あいつ、自分勝手で空気読めなくて。あたしのこと振り回してばっかりなのぉ」
「亜里沙だって自己中じゃん。ひとのこと言えないよ」
「でもあいつのほうがひどいもん。も、いい。別れる」
「それは早計であろう」
「……剣ちゃん」
「ひとは皆、我の強きものゆえ、お互いの歩み寄りが必要なのではないか?」

 ──── PM17:00 カフェ・スキャンダル ──── 

 ハンバーガーショップの店頭で女子高生の恋愛相談に乗ったりなどしながらも、岡田殿は無事に今日のシフトを終えた。そして今、カフェ・スキャンダルのテーブルで日本茶をすすっている。
 バイト帰りにはカフェに寄り、しばしの休息を取るのが彼の日課だ。お茶を飲みつつツインテールのウエイトレス嬢と世間話をするのが、ささやかな癒しのひとときなのである。
 今日もまた、他愛のない話題に花を咲かせながら、岡田殿はなにげなく他のテーブルに視線を走らせた。
 ――そして何故か、ある席で止まった。

 岡田殿の視線の先を、すみっこのテーブルにいた記録者は追う。
 紅茶とケーキのセットをはさんで向かい合い、なごやかに笑いあう老夫婦――
 岡田殿はしばらく彼らを見ていたが、やがて、何事もなかったように、ウエイトレス嬢との談笑に戻った。

 その心中を、記録者は知るよしもない。
 おそらくあの老夫婦は岡田殿のご両親と同年代なのであろう……と、云うことくらいしか。

 ──── PM19:00 銀幕広場 ──── 

「寂しいというわけではない。懐かしく思いはするが」
 記録者に聞こえる声で岡田殿は云い、カフェを後にした。
 岡田殿はゆっくりと、銀幕広場に向かって歩き始める。
 記録者は、少し離れてついていく。

 広場は今日もまた、さまざまな世界からやってきた人々で満ちている。
 そのひとりを見やり、岡田殿は云う。
「たとえば、あの剣士。背格好が友人と似ていて、なかなか趣がある」
 ――帰りたいと、思いますか? あなたがいた世界に。
 問うても詮無いことを記録者は問い、そして武士は答える。毅然とした声音で。
「うむ。いつか必ず、生きて帰る。それまではこの街で精進を重ね、必ずや武士の中の武士になってみせようぞ!」

 武士道の骨組みを支えた鼎足は、知・仁・勇である。
 これはもの知らずの記録者が、ごく最近知り得た一節だ。
 そして、岡田殿を取材すればするほどに、この漢は「武士道」を極めておられるのではないかと――すでに彼は武士の中の武士であろうと、そう思わずにはいられない。


 ――Fin.

クリエイターコメントこのたびはオファーありがとうございました!
作中での描写に反して、記録者は岡田殿からストーカー許可を得たわけではないのでありんすが、えーと、事後承諾?
やりすぎなくらいのつきまといぶりを、果たして武士殿は仁の心で許してくださるでしょうか……。
公開日時2008-11-26(水) 19:20
感想メールはこちらから