★ HELP ME! ★
<オープニング>

 金髪の女性が街中を駆けている。
 ウェーブががかったブロンドが聖林通りの舞い散る葉と共に流れていく。
「何で私が追われなきゃならないのよ」
 誰にともなく悪態をついて、背後を振り返った。
 背後から追ってきているのは赤と緑のスーツを着ているイタリア人っぽい。
 さわやかな笑顔と軽やかなステップ。
 彼女には見ず知らずの人間だった。
 赤いスーツを着たオリヴァーが金髪美女に向かって声をかける。
「はははっ、ビーチェははずかしがりやだなぁ」
 笑顔をさわやかに振りまいている。
 スプリンターのような走りをするが、スーツの脇から見えるのはのは拳銃。
 普通のサラリーマンでないことは明白だっであり、通りを行く人も道を譲っていく。
「余計なことを……」
 聖林通りを抜けて、銀幕広場へと一同は遣ってきた。
 金髪の女が振り返れば、追っかけてくる人は増えてくる。どれもこれもスーツにサングラスの外国人。
 どこか怪しい雰囲気をもっていた。
 オリヴァーの隣にいる緑スーツのジュリアーノが横を向いて話かける。
「ビーチェは早いや! 3人で鬼ごっこなんて、久しぶりだね! 兄さんっ!」
「あぁっ、もう! 私はビーチェじゃないっての!」
 ブロンド美女、レディM(エム)はいい加減に頭に着た。
 おもむろに、イヤリングをはずして後ろに投げ捨てる。
 チュドーンと爆発音がし、閃光が周囲を覆った。
 追ってきた男たちはその光と衝撃に吹き飛んで倒れこんだ。
「特性イヤリング型スタングレネードよ」
 閃光防止のサングラスをあげると、そこを抜けて二人は飛び出してきた。
「ビーチェ、なかなか楽しいことをするね!」
「僕らもまけないよ、兄さん!」
 栄養ドリンクを飲むと肉厚が増す二人。
「まったく、なんで私をおいかけてくるの!」
 レディMは悪態をつきながらも逃げる。
 この二人が追うのも仕方ない。
 なぜなら、ビーチェというのはレディMの役者がやった役名なのだから。
 再び駆け出し、全身全霊を込めて叫んだ。
「HELP ME!」

種別名シナリオ 管理番号35
クリエイター橘真斗(wzad3355)
クリエイターコメント とりあえず、何かをねたにしています。
 何とはいいませんけれど。
 ジュリアーノとオリヴァーはイタリアマフィアで、ビーチェという女性と幼馴染というそんな映画。

 レディMを護りつつ、追いかけてくるマフィアを倒してください。
 手下をわらわら呼ぶので、かくれんぼや鬼ごっこな感じにもなります。
 人数が少ないときは、共闘して倒すことが近道でしょう。

参加者
クロノ(cudx9012) ムービースター その他 5歳 時間の神さま
<ノベル>

【一】
「何で誰も助けにこないのよぉっ!」
 あたしはブロンド髪が乱れるのにもいらだちながら、叫んだ。
 マフィアとの追いかけっこはかれこれ、20分は続いている。
 装備の残りはイヤリング型とコンパクト型の爆弾2つだけ。
 そんなこと考えていると、あたしの目の前に黒猫が急に飛び出してきた。
 急いで足を踏み、ブレーキをかけるが間に合わない。
 猫がこちらを向き、声を上げる。
「サインくださいにゃー」
 その猫はなぜかサイン色紙を持っていた。

【二】
 予想外の行動に、ズグッシャァと聞きなれない効果音であたしは地面に倒れ込んだ。
 こんなホームコメディな動きをするなんて屈辱的だった。
 あたしは、いつでもクールで、華麗なエージェントとして売ってきていたのだから……。
 もっとも、ここではそういう仕事はあまりないのだけれども。
「レディしゃん、サインお願いしますにゃー」
 黒猫は色紙をあたしに突き出し、サインをせびってくる。
「今、そんなヒマじゃないのよねぇ。マフィアに終われて……そうねぇ、私をアレから助けてくれたらサインを描いてあげるわ」
 あたしが追っかけてくるスーツの軍団を指差すと黒猫は不敵に笑い立ち上がった。
「朝飯前のカルカン不要にゃ」
 150cmほどの黒猫だが、二足で立ち向かう姿は結構かっこいい。かもしれない。
「吾輩のにゃにゃひゃくはちあるワザの一つ。『これで安心マフィアほいほい』」
 紺色のコートのポケットをまさぐり、黒猫は自分の背丈ほどの砂時計をひっくり返して地面に叩きつけるように置く。
 すると、銀幕広場の床はトリモチに変わってしまった。あたしと、黒猫の足元までね。
「なに、バカやってんのよ! 黒猫!」
「にゃー、毛が、毛が抜けるにゃ〜。ちなみに、吾輩はクロノである。見知りおくがよいにゃ」
 かっこよくポーズをとるが、足をとられてそのままトリモチの海へダイブした。
 そして、数秒前の台詞が繰り返される。全身トリモチまみれでもがいている。
「手間の掛かる助っ人ね」
 あたしはため息をつきながらも秘密の香水でトリモチをはずし、クロノを拾いあげた。
「一緒に逃げるわよ。これじゃあ、どっちが助っ人なのかわからないわね」
 再び銀幕市をあたしは駆けだした。
 今度は手荷物を一つ(一匹)抱えている状態なのだ、一人で逃げるよりさらに大変なのは言うまでもない。
「まったく、手間をかけさせないでほしいわ」
「にゃーの辞書に不可能という字はにゃいけど、無責任という字はあるにゃ」
 ひげをぴんとして決めるクロノを一瞥していると前に緑スーツをリーダーとしてマフィアたちが湧き出てきた。
「ああっ、もう……しつこいっ! どこから湧いてくるのよっ!」
 あたしは色々といらついていたので、イヤリング爆弾を思いっきり緑スーツへ投げつけた。
 だけど、予想外のことが起きた。
 なんと、クロノがあたしの投げたイヤリングにじゃれつきに脇から飛び出したのだ。
「あなた、ちょっとっ!」
「にゃ?」
 光モノに弱いのか、さっとじゃれつきポチっとボタンを押す音が聞こえた。
 
【三】
 BOOOOOM!
 アメリカンコミックさながらの爆発が起きた。一瞬だが、文字が見えたような気がする。
「けほっ、髪も服もススだらけじゃない……」
 あたしはふと、見回すがクロノの姿は見えない。
 しばらく待ち、煙が晴れても黒猫はいなかった。
 探そうかと思ったが、緑スーツの一団は遠慮なくあたしのほうへ駆けてきくる。
「あなたの犠牲派無駄にしないわよ……」
 あたしはそう呟くと、後ろ髪ひかれる思いで、爆発地点から遠ざかる。
「犠牲ってなんだにゃ?」
「見ず知らずのクロノっていう……あんた、何で生きてるのよ!」
「それは企業秘密だにゃー」
 いつの間にかクロノはあたしの隣を走っていた……二足歩行で。
「少しでも心配したあたしがバカだったわ」
 あたしは空を少し見上げて、ため息一つ。
 空は憎らしいほどに青く澄んでいる。
 冷静な頭に戻り、クロノへ視線を向けてあたしは作戦を考えることにした。
「それで、なにか次の手はないわけ?」
 あたしはクロノを睨みつつ聞いた。彼は役に立たないかもしれないが、あたしの装備もそんなにない。背に腹は変えられず、まさに猫の手でも借りたいほどだった。
「ビーチェっ! 鬼ごっこはまだ続けるのかなぁ?」
 疲労の色を見せない赤スーツがビル脇から出てくる。
 ただし、顔から笑顔は消えていた……。
「にゃんか、怒ってるみたいにゃね」
「そーらしいけど、あたしは知らないわよ。人違いなんだから」
 赤スーツを睨みつつ、あたしは念を押した。
「そろそろ遊びも終わりにしようよ!」
 ガチャンとサブマシンガンを用意して赤スーツは駆け出してきた。
「クロノ、何とかできないの?」
「しかたにゃいなぁ、レディしゃんは……」
 クロノは呟きながら、携帯をプッシュした。

【四】
♪タラッタタッタタラッター! 
 アップテンポのBGMが流れだす。
 たとえるなら、巨大ロボットアニメ。
「な、なんなの!」
 ヒューと空を切る音がなり、空をみあげれば黒い点が大きくなってくる。
 そして、やってきたはふざけたカラーリングのロボットだった。
『ニャンダバー、見ッ参!』
 猫型巨大ロボが雄雄しく着地した。
「なんだ、このデカブツは!」
 赤スーツの目の前に巨大猫型ロボが立ち上がっている。あたしでもびっくりするわ、これ。
「さぁ、ニャンダバー! マフィアもろとも町を壊してしまうにゃ。修理は市が吾輩に頼みにくるので、問題なし!」
「そんなわけあるかっ!」
 思わずハリセンでクロノをはたいていた。
 クロノにロボを戻させ、やはり逃げだした。
「はぁ、ちょっと待って。さすがに疲れたわ」
 気づけば広場に逆もどりしていた。
 さすがのあたしもくだらない逃走劇を繰り返して、身も心も疲れたわ。
「にゃんともはや、やはり歳にはかてにゃぁぁぁ!」
 何かをいいそう担ったクロノの髭をこれでもかとあたしは両手で引っ張った。
「ひげがぁ、吾輩の髭がもげるにゃぁ〜」
 真昼の銀幕広場に猫の叫びがこだました。
「とにかく、この現状どうにかしないとね」
「そういえば、レディにゃんはお得意の変装とかしないのかにゃ?」
 クロノのぼそっとした一言にあたしははっとなった。そうよねぇ、変装すればよかったのよ。
「何で気がつかなかったんだろ。でかしたわよクロノ。あとで、サインでも猫缶でも買ってあげるわ!」
 変装道具を取り出すが、ボロボロだった。
「あの爆発! 前言撤回! あんた、なにしてくれたのよ!」
 あたしはクロノの首をつかんでぐらぐらと揺らした。
「脳が〜、脳がシェイクされるにゃぁ〜」
「一度、混ぜて組みなおしたらまともになるわよっ!」
 あたし自身、こんなに怒ったのは初めてだった。クールビューティのイメージが崩れるとは思いつつも止められない。
「やっと追いついたよ、ビーチェ……ぜぇ」
「手こずらせてくれたな……はぁ、ぜぇ」
 走り回っていたのはマフィアたちも同じなのか、緑スーツも赤スーツもそのほか下っ端さんも息を切らせていた。
 人違いなのにご苦労様。
「何度も言うようだけど、あたしはそのビーチェではないわ。だから、ほっといて頂戴」
「本当に違うのか?」
「貴方たちの言うビーチェが爆弾とか使うならべつでしょうけど」
 赤スーツと緑スーツはああでもない、こうでもないと話しあいだした。
「ねぇ、クロノ。このまま逃げられない?」
「そうしたいのはやまやまにゃんだけど……」
 向こうは話し合いにキリがついたようだ。
「30分たったのでロケーション効果なくなったにゃ」
 そのとき、砂時計の砂が落ちきった。
「さんざん振り回してくれたお礼をさせてもらうよ」
 カシャンと赤スーツがサブマシンガンをリロードすると、銀幕広場はイタリアのスラム街へ変化していた。
「さーて、にゃーはこれで……」
 くるりと踵を返すクロノの尻尾をあたしはつかんだ。
「ここまで着たら最後まで付き合いなさいよっ!」
 ぐいっと尻尾をひっぱるが、クロノはいやいやをして逃げようとしていた。
 その間にもサブマシンガンを構えた男たちは近づいてくる。
「マタタビあげるから、何とかしなさいっ!」
 あたしがそういったとき、クロノの耳がピクンと反応した。
「一年分でよろしくにゃ」
 そして、クロノはコートからベルを取り出すと鳴らしだした。
『にゃんともはやっ!』
 どこから来たのか同じ台詞を数十、数百のクロノが唱え、スラム街を一瞬で埋め尽くしていく。
「な、なんだ……お、おぼれ……」
 クロノの軍団は波になりマフィアたちを飲み込んでいく。
 しばらくして、波がはれるとそこにはマフィアたちの成れの果て――プレミアムフィルム――がポツンと地面に転がっていた。

【五】
 そして、あたしは猫にもみくちゃにされながらも生きていたようで……。
「今日は最悪の一日だったわ……」
「レディしゃん、レディしゃん」
 くいくいとクロノがあたしのズボンをひっぱりだす。
 そちらへ顔を向けると、クロノは笑顔で色紙をさしだした。
「約束のサインお願いしますにゃ。マタタビ一年分の契約書もかねて」
 あたしはその色紙に自分の名前を殴り書いた。


クリエイターコメント今回はありがとうございました。

こてこてのギャグはあまり書かないのでちょっとシクハクしました。

クロノさんの飄々とした姿が再現できていればと思います。
レディMが大分崩れてますが、コレが本来の姿ではないです。
そうだと思います、むしろ、そうであってくださいっ!

とまぁ、そんな感じでしたがいかがでしたでしょうか?
感想などメールなりでいただけたらと思います。

それでは、また出会う日までごきげんよう。
公開日時2006-12-23(土) 09:00
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