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<ノベル>
女は目を見開いて、曇天を睨んでいた。
「ふーむ」
犬神警部はその視線をたどるように上を見上げる。石造りの塔の中ほどに、ひとつだけ開いている窓がみてとれた。
「落死ですか」
小日向悟が訊いた。
「状況はそのようだが……さて」
なんだか、前にもこんなことがあったな、と、警部は女の遺骸の傍にしゃがみこみながら言った。あのときは、しかし殺されたのはムービーハザードの一部である「キャスト」だ。だが彼女は違う。尊い命が失われたことの悼みをこめて、彼はそっと合掌する。
「眩しい、って」
発せられたふるえる声に、悟は振り返った。
「なんです?」
「彼女――、眩しい、眩しくて仕方がないって、ランプの火を消して……それから、なんだか苦しそうで……それなのに部屋の中を走り回ったりして、気がついたら……」
「ずっと同じ部屋に?」
悟の問いに、男は頷いた。
「呪いだわ」
女の声が言った。
「ヘキセンブルグの魔女の呪いよ。『魔女は光を恐れる』って……そうでしょ?」
ざわざわ――と、不穏なざわめきが人々の間を広がっていく。
「落ち付いて下さい」
「みんな、殺されるのか!?」
「い、いやだ、死にたくない!」
「いつになったらここから出られるの!」
「対策課は何してるんだ」
「落ち付いて! ムービーハザードは必ずいつか終わります。それにこれは『ミステリー映画』です。呪いではなく、犯人がいるはずです」
悟が言った。
なぜだかわからないが、悟の力強く聞こえる弁に、しん、と場が鎮まる。
「さあ、みな、一度、部屋に戻ろう。ドアにしっかりと鍵をかけて。男性は、念のために武器になるものを探そう。一緒に来てくれる人は?」
続いて人々に呼びかけたのは、長身の、白人男性だった。
群衆は、慣れた羊のように、その声に従った。
不安と恐怖の中では、たとえはったりでもいいから、はっきりと指図をしてくれる声に人は頼ってしまうものだ。
迷える羊たちを建物へ追いたてながら、彼――ギリアム・フーパーは振り返って、悟と頷き合った。
それは曇天を背景にそびえる、石造りの城だった。
ギリアムは、鎖帷子を着た騎士の装束。悟と警部も、中世風のいでたちである。
かれらが、この陰惨なムービーハザードに巻き込まれて、すでにまる一日が経過していた――。
『ヘキセンブルグの魔女』は、テレビドラマの好評を受けて製作された映画だった。
中世ドイツの森の中に建つヘキセンブルグ城――、ある夜、その城に居合わせたものたちが次々に惨殺されていく。
城のあるじである領主が、かつて城下で行った魔女狩りの犠牲者の呪いであることが暗示されるが、後年、それを人為的な事件ととらえた歴史学者が、数百年の時を越えて真相を推理していく。物語は、現代のアメリカと中世ドイツの出来事が劇中劇形式で二重構造になって進行し、ドイツパートの重厚な雰囲気と幻想的な演出、そしてアメリカパートの推理劇としての面白さで視聴者をくぎ付けにした。
「……やがて、現代のアメリカで、主人公の周辺にも事件が起こり始めます。ギルさんはそちらのパートに出演されたんですよね」
「FBIの捜査官役で。しかしほんの2エピソードだけだよ」
「ファーストシーズンは、アメリカでの事件が解決したところで終わります。つまり肝心のドイツの事件は真相が明かされないままだったわけです。放映中からドイツの事件の謎や真犯人についてはネット上なんかでかなり議論が盛り上がっていて……、そこで発表された『劇場版』で犯人がわかるときたものですから」
「ははあ、それでこの混雑なのか」
控室としてあてがわれた部屋の窓から見下ろすと、十重二十重に建物を取り囲む行列が見えた。
映画『ヘキセンブルグの魔女 The Movie』については、今、悟が語ったとおりだが、その後、日本では興行師たちが大胆な仕掛けをしてきた。
ひとつは、映画の公開を全世界で先駆けて日本からスタートすること。
そして、銀幕市においては、このシュタインホテルとタイアップし、そのホールで上映を行うと同時に、プレミアイベントを行うというものである。
シュタインホテルは、まさに劇中のドイツの城を思わせる、欧州の古城を移築して営業しているホテルだ。宿泊とセットになったプレミアチケットは瞬時に完売したという。
ギリアム・フーパーは、この劇場版には出演していないが、TVシリーズの縁で、トークイベントがセッティングされた。
「ギリアム君は出演してない? はあ、それじゃあ、犯人は――」
「そう。俺も知らない。映画も観ていないしね」
ギリアムは肩をすくめた。
「そうか、じゃあ、映画を観ていてわかったら……」
「スクリーンに向かって大声で叫ぶのはやめて下さいね、雪之丞さん」
悟は笑った。
もっとも、それはそれで推理の「参考」になるであろうが。
「じゃあ、俺たちはそろそろ、席へ行きましょう」
「ん、ああ」
「ギルさん、今日はありがとうございました。席をとっていただいたりして」
「なに。楽しんでいってくれ」
そうして、ふたりは部屋を出て――そこはホテルの廊下であるはずだったのだが。
「……」
「おい……」
犬神警部が、ゆっくりと首を巡らせる。
等間隔にゆれる蝋燭の火。石造りの、暗い回廊が続いている。
突如、耳をつんざく悲鳴が、湿った空気を裂いた。
反射的に声の聞こえたほうへ。
階段を駆け降りて、導かれた先は、城壁に囲まれた中庭だった。
「これは――」
熱気が、頬をなでる。
燃え盛る火の中で、突き立つ木材に縛りつけられた人間が、あらん限りの絶叫をあげていた。
嗅覚を刺激する異様な匂いは、むろん、生きながらにして人が焼かれる死の臭気だ。
「水だ! 水はないのか!」
叫んだのはギリアムだ。
そのときになってようやく、人々は自身の着ているものまでが変じているのを知る。
映画の中の世界に閉じ込められたのだ、ということともに。
★ ★ ★
「くそ、対策課は何をしてるんだ」
「外でも同じ時間経過なら、気づかないはずはありませんから……この領域に入ってこれないのかもしれません」
「じゃあどうすれば。……犯人を見つけないといけないのか?」
月光は、奇怪なほど蒼く、その光に照らし出された城は、ぬめるような艶めかしさをともなって見えた。石造りの建築が生を得て、そして、おまえたちを捕えてなぶり殺しにしようとしているのだ、と言っているようにも思える。
城館の入口の階段に腰をおろし、悟と警部は月光が照らし出す前庭を見ていた。
気力のある男性は、かならず複数人で、という条件で、要所の見張りにつくことがギリアムによって提案されたが、応じたものはさほど多くなかった。アメリカなら、立候補者はもっと多かったかもしれないが……。
「火あぶりに……塔からの墜落……。TVシリーズの『ヘキセンブルグの魔女』でも、犠牲者は魔女を思わせる見立てで殺されていきます」
ミステリー映画のハザードなら犯人確保がひとつのキーになるだろう。
だが『ヘキセンブルグの魔女』で、ドイツパートの古城殺人事件の犯人はあきらかにされていない。真相が描かれているとおぼしき劇場版は、しかし、まだ上映されていないのだ。
「一番、俺がおそれているのはね、雪之丞さん」
「ヒナくんにもおそれるものが?」
「それはもちろん……。“ヘキ魔女”では」
悟が、さらりと、タイトルの略称とおもわれる単語を口にしたので、警部は目をしばたいた。そもそも今日の催しに彼を誘ったのも悟であって、ギリアムのつてで席がとれたからだみたいなことを言っていたが、その実、単に件の物語のファンなのだなと、警部は思った。
「当初から、これは人間の犯人がいる事件――つまり推理可能なのか、実は超常現象を描いているのではないかという論争がありました。そうとしか解釈できない描写もありましたから。……後者の場合、この状況でもすこし困ったことになりますね」
「……そうかな」
「え」
警部の反応に、悟は意外そうな声を出した。
「何にもまして厄介なのは人間の犯人だよ。自分はそう思う。敵が怪物なら、それこそバッキーに食わしてしまえばいい」
「そう――ですか」
やや間をおいて、悟はくすくすと笑った。
「雪之丞さん、面白いです。やっぱり」
「はあ? そうか? ……ところでな、ヒナくん。ずっと気になっているんだが、火あぶりはともかく、墜落は魔女と関係ないんじゃないか?」
「ああ、あれは……作中へのオマージュかも。『魔女は光を恐れる』というフレーズが出てくるんです。2番目の死者は光を眩しがっていたって――」
「そこだよ。見立てなら、まさにそういう部分こそを犯人は大事するはずだ。あの事件は……実は毒殺なんじゃないだろうか」
「毒殺」
「死因は落下による全身打撲だったかもしれないが……それ以前に薬物を投与されたとしたら。たとえばトロパンアルカロイドという薬品は副交感神経を麻痺させて異常な興奮を呼ぶ。それと、散瞳効果がある」
「そうか、瞳孔が開いて、光が眩しく感じられるように!」
悟は息を呑んだ。
「そうですよ、雪之丞さん! なんで気づかなかったんだ、ここに、ほら!」
そして駆け出すと、前庭に茂っている草むらにしゃがみこんだ。
「ベラドンナだ。この毒草を使ったんだな……、やはりこの事件には、人間の犯人がいるんだ」
月光を受けて、悟の瞳に宿るのは、まぎれもない希望の閃きだ。
懐中電灯の光が2本、闇の中をさまよう。
時に重なり、時に離れ……その輪の中に浮かび上がるのは、得体のしれない鉄の器具の群れだった。
「……なんか、ヘンな匂いしますよね、この城の中って」
ギリアムが念のためにと、城内の見回りを敢行した。
同行してくれた勇気ある青年は、しかしその実、かなり腰がひけているようで、恐怖をまぎらわすためか、しきりとどうでもいいことを喋り続けていた。
「灯りにつかわれている油の匂いだろうな。獣脂かもしれない。そういえば誰も面倒を見ていないのに油が切れないとは……都合よくできている」
ギリアムは、そのおしゃべりに付き合う程度には人間ができていた。ハリウッド人には稀なことである。
「これ……何なんでしょうね」
「知らないほうがいいだろう」
「ええ?」
その部屋を埋めているのが、中世の拷問具であることはあきらかだった。
「この部屋は封鎖したほうがいいかもしれん」
ギリアムは呟いた。
道具立てからして、ここにあるものが殺人の凶器や演出に使われるのはいかにもありそうな話だ。
「……一度、戻ろうか。ライトの電池も心配――」
そう言って振り返った、その時。
「……」
コロコロ……と、ついたままの懐中電灯が転がって、ギリアムのローファーの爪先に触れた。
「ヘイ」
ギリアムは闇に向かって呼びかけたが、返事はなかった。
慎重に、ライトを拾い上げ、スイッチを切って、ベルトに差し込む。そして、さきほどまで同行者がいたほうへ、光を投げてみるも、そこに誰もいないのを見て取った。光を下へ。床に積もった埃のうえに、なにかをひきずった跡をみる。それは、鉄の処女が置かれた角を曲がって続き……
弾かれたように、ギリアムは駆け出していた。
「……っ! ……!」
もがいている、四肢を見つけた。
青年は、その木の枠から自分の頭を引き抜こうとしているようだ。
鉄の処女については知らなかった彼でも、それなら知っていただろう。そう……、ギロチンだ!
しゅりん、と金属がこすれ合う音。
死を告げる刃が、解き放たれて自由落下を見せた瞬間!
「……ッ!!」
ギリアムは拾った懐中電灯を放り投げていた。
間一髪、投げたライトは落ちた刃の下に挟まり、半分ほど刃を食いこませて、それを止めた。
駆け寄ったギリアムは、さるぐつわを噛まされた青年が失神しているのを見る。
そして、闇の中を遠ざかっていく足音――
「待て!」
それを追って走り出した。
拷問具室を飛び出て、回廊へ。光の輪の中に、何者かが角を曲がるのを見る。
さらに追うギリアム。
――と、その足元で、床が消えた!
「……!」
落とし穴とは古典的な……と、思ったが、ここは「こういう世界」なのだろう。
数メートルの下の底には、鉄のトゲが逆さに生えている。その数十センチ上方で、ギリアムは両手両足をあらん限りにつっぱって身体を支えていた。額に汗がにじむ。撮影のないときでも週2回のジム通いをさぼっていなくて本当によかった、と彼は思った。
しかしこの後どうする?
力を抜けば一巻の終わり。だが助けがくるまで持ちこたえられるか?
ギリアムはじりじりと身体をずらしていった。壁に落ちくぼんだ石組の欠けを見つけたのである。深呼吸――。誤れば、死ぬ。ジーザス……と小さく呟き、そして片足がそこに到達するや――
気合いの発声とともに、彼は両手を離した。
同時に、めいっぱい腹筋の力をふりしぼって身体を丸める。
片足を窪みにかけて、壁にぶらさがった状態になってから、大きく息をつき、足を離して倒立姿勢で床の上へ。そして棘の合間へ足を下ろす。……助かった。
あらためて上を見上げる。
声を出してみたが、果たして誰かの耳に届いたかどうか。
「まいったな。だがこういう場合、映画なら……」
周辺の壁を探る。
「ビンゴ」
石のひとつをずらしたところに、抜け穴があった。
もぐりこんで、這い進む。
その先には、果たして、小部屋につながっていた。
何もない、石牢のような部屋だ。だが少なくとも、扉があった。
ギリアムはようやくたどりついた出口に駆け寄り、その扉を開けた。
「――!?」
危機また危機を乗り越えて、最後に油断があったのか。これで助かる!と思った次の瞬間に何かが起こるのも映画のお約束だった。
突然、顔に霧状の液体を吹き付けられた。凄まじい痛みが、ギリアムの視界を奪う。
どん、と体当たりをされ、彼は床の上に転がったが、目の痛みはそれどころではなかった。涙が止まらない。どうやら催涙スプレーでやられたらしい。
重い音が近づいてくる。
それが、吊天井の降りてくる音だと、ギリアムは気づけただろうか?
せめて認識できさえすれば、先ほどの抜け穴に逃れることもできたかもしれないが、今の状態ではそれも無理だ。天井はゆっくりと、だが確実に、ギリアムのもとに降りてくる――。
「ギルさん!」
「な、なにをするんだ、私は」
「うるさい! 殺人及び殺人未遂現行犯で逮捕する!」
ごう――
どこからか、ひどく冷たい風が吹き込んでくる。
頬にあたる冷たいものは……雪だ。
ようやく回復しかけた視界の中に、ギリアムは悟の姿を見る。
★ ★ ★
「おつかれさまでした」
ちん、とグラスが触れ合う。
シュタインホテルは、もとの平穏な姿を取り戻した――。
どういうしくみか、ムービーハザードの終了とともに、殺害された被害者も無傷で発見されたのは、僥倖というよりなかった。あのまま事件が解決しなければ、その死は確定していたのかもしれないが。
解決――、あれが解決といえたのか、若干の疑問符は含むにせよ、ひとまずは、ホテルのバーで労をねぎらっても許されるだろう。
「助かったよ」
ギリアムはマティーニを片手に笑った。
「今回は、雪之丞さんが大活躍でしたね」
カシスオレンジで喉を潤し、悟が言う。
「手錠を久々に使ったな!」
ブルドックを流しこみながら、犬神警部は誇らしげだ。
「まさか……犯人がふたりいるとは驚いた」
ギリアムが唸る。
「それも――まさか彼が」
「あのあと、すぐにあの男を探そうって、ヒナくん言ったよな。あれはどうして?」
「それはだから、ベラドンナの茂みの中に、映画会社の社章が落ちているのを見つけたからですよ」
「でもベラドンナの毒を使ったのは『ヘキセンブルグの殺人鬼』だろ?」
「ええ、だから彼はそれを確かめにきたんですよ。ベラドンナを摘んだあとがあるかどうか。毒草が使われることは、映画のプロモーターである彼は当然知っていますから」
「ハザードの出現を予期していた?」
「それはないでしょう。ただ、偶然、これが起こって、自分も巻き込まれた状況で、とっさに思いついたんです」
「狂ってるとしか思えんが」
「かもしれないですね。『殺人鬼』の犯行に便乗して、ハザードの中でギルさんを殺す。そのハプニングで……映画を宣伝しようだなんて」
犬神警部に手錠をかけられ、≪吹雪の山荘≫の雪風にあおられながら、プロモーターの男は弁解をまくしたてていた。しかし、催涙スプレーの缶や、城内の見取り図を隠していたことは、言い逃れできそうになかった。催涙スプレーは自衛のためといいわけしたとしても、ハザードの出現が予期できないのになぜ持っていたのかという話になる。悟の推測では、ハザードが起きなかった場合、それで、ギリアムの「襲撃事件」を演出するつもりだったのかもしれない、とのことだった。
「確かに宣伝にはなるだろう。俺はセカンドシーズンにも出てないからあとの撮影にも支障はないしね。殺されるにうってつけのキャスティングだ」
と、ギリアム。
「そう、あれって」
ふいに、憤ったように、悟が言った。
「おいおい、俺も知らなかったよ」
ギリアムが肩をすくめる。
映画『ヘキセンブルグの魔女 The Movie』では……、結局、犯人は特定されずに終わるというものだった。そして本編のあとに、TVシリーズ『ヘキセンブルグの魔女 セカンドシーズン』の予告がついていた。このことは、ハプニングとともに、大いにファンの間で物議を醸すことになる。
「しっかしなあ……」
「雪之丞さん」
気の抜けたような声を出した警部に、悟はくぎを刺した。
「誰にも言っちゃだめですよ」
「うう……」
「警部なら話しても信じてもらえないんじゃないのかい」
ギリアムがまぜかえした。
3人が3人とも、どこか釈然としない顔をしているのは……映画が真犯人を教えてくれなかったからではない。
その逆だ――。
「な、なにをするんだ、私は」
「うるさい! 殺人及び殺人未遂現行犯で逮捕する!」
手錠をかけられたプロモーターの男をひっぱる警部。
悟がギリアムを助け起こし、わめく男に引導を渡した、その直後だった。
「!?」
3人は見た。
男のうしろに立つ影を。
吹雪の中で、それは、中世の処刑人がもつ手斧を振り上げ……
そう――
この事件に犯人はふたりいる。
ヘキセンブルグ城の殺人鬼と、便乗してギリアム殺害をくわだてた男と、だ。
あたかも『ヘキセンブルグの魔女』そのままに、ふたつの事件が交錯する。
斧は、一撃で男の首を斬り飛ばした。
鮮血が、雪を染める。
それは、真の殺人鬼の尻馬に乗ろうとした男への、罰だったのかもしれない。
「候補の一人ではあったんですが、まさか」
「『ヘキセンブルグの魔女』の犯人が」
「あいつだったとはなあ」
ムービーハザードが消えたあと、プロモーターだけは、その遺骸も見つけることはかなわなかった。
あとにはなにも残らなかったと言っていい。
ただ、3人だけは……、殺人鬼の顔を見た。
知ってしまったのである。
『ヘキセンブルグの魔女』の真犯人を。
おそらく、これから放映されるセカンドシーズンで、その正体に徐々に迫る物語が展開するのだろう。
製作関係者を除けば、犯人を知っているのは、世界でこの3人だけ。
「まあ、とりあえずだな」
警部が言った。
「今夜は飲もう!」
不本意なネタバレなど、いっそ忘れてしまえばいい。
かれらの談笑する声が、遅くまで、古城ホテルのバーにさざめいていた。
(了)
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クリエイターコメント | お待たせしました。 古城ミステリ……になったかどうかはわかりませんが、作中作『ヘキセンブルグの魔女』は、そんなドラマ観てみたいなあ、というリッキー2号の妄想です。 企画をお探しの映画会社の方、ご連絡はツクモガミネットまでお願いします(笑)。 |
公開日時 | 2009-01-14(水) 19:50 |
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