★ 【謎のキノコ騒動】懐メロを覚えているか? ★
<オープニング>

 キノコである。
 不思議なキノコが引き起こした不思議な騒動は、リオネの予知によって、人々を、銀幕市郊外の山中へと導いた。マルパスが指揮する探索部隊は、霧の中で眠りについていた、巨大な白いキノコ状の怪物を発見する。
 怒りとともに目覚めたものは荒れ狂い、探索部隊は撤退を余儀なくされたという。
 騒然とした夜が、銀幕市を包んだ。落ち着かない夜は、しかし、思いの他、静かに過ぎていった。もっとも、嵐の前の静けさであったのかもしれないが。
 
 翌日、銀幕市のあちこちで、先日のカフェの騒ぎを思い起こさせる、奇妙な事件の数々が報告されることになる。探索部隊の、慌ただしい最後を思えば、それはあまりにも、安穏とした日常の延長に思えたかもしれないような、事件の数々だった。だがそれはそれで、居合わせたものたちにとっては深刻な事態だったり、迷惑であったりして……幾人かの人々を巻き込み、奔走させることになったのだ。

 ★ ★ ★

「明日があるさ〜」
 キノコ騒動があちこちで巻き起こる銀幕市の、はずれ。ここもやはり、ハザードから逃れられなかった。
 額からキノコを生やした、大学生ぐらいの青年が大声で歌っていた。近所の人達は、遠巻きに眺めている。胞子なんて目に見えるものではないから、うっかり近づけば感染しかねない。
「あなたが私にくれたもの〜」
 半泣きで歌い続けるのは、化粧が濃いめの女性だった。同じくキノコを生やしている。
 このキノコ、寄生されると歌い出すようになるようだった。それも懐メロばかりを。年代がばれるので、実年齢を公表していない人達にとっては脅威となる代物だった。
 が、逆に言えば歌うだけで他に害はない。
 不幸なのかなんなのかあまりよくわからない人達は、声を張り上げて懐メロを歌い続けていた。しょせん素人なので、カラオケで上手、程度しかいない。そんなのを聞いていても楽しくない。おまけに、歌詞を間違えていたり同じところを繰り返したりしているので、長時間そばにいるとストレスが溜まる。

 中でも腹に据えかねた一人が、銀幕市役所対策課へ駆け込んだ――。

種別名シナリオ 管理番号26
クリエイター高村紀和子(wxwp1350)
クリエイターコメントキノコ〜、キノコ〜。たっぷ(ry

昭和生まれの私には、平成二桁の時代に生まれた歌が懐メロだなんてまだ信じられません。平成生まれがもう高校生なんて……。時代の流れを感じます。いやまだ二十代ですが。でも、平成と昭和の違いって大きいですよ。
あなたにとっての懐メロは何ですか? 一言お書き添えいただけると(一番好きなフレーズも)、大変助かります。

参加者
犬神警部(cshm8352) ムービースター 男 46歳 警視庁捜査一課警部
<ノベル>

「おや?」
 目が覚めてみれば、犬神警部は回収前の家庭ゴミと一緒に寝ていた。
 ちゅんちゅん、とすずめがさえずり、各家庭から朝食のいい匂いがする。そんな時間帯だった。
「ううむ……事件の匂いがするぞ」
 事件も何も、ただ単に深酒がすぎてへべれけになり、道端で一夜を過ごしただけなのだが。
「怪しい……怪しすぎる!」
 一番怪しいのは、よれよれのトレンチコートを着た彼自身だ。
 気持ちのいい早朝からゴミ収集所に仁王立ちになり、血相を変えている中年のおっさん。犬の散歩をしている少年が、遠回りして横を過ぎていった。
「これは迷宮入りする……お?」
 ぶつぶつと呟いていた犬神警部の動きが止まった。額に、馴染みのない触感があった。鏡がないのでぺたぺたと撫でまわす。結果、わかったことは。
「キノコ?」
 にょっきり生えている。昨夜の行動を必死に思い出してみる。そこにヒントがあるはずだ。
 大手チェーンのファミリーレストランで夕飯を食べた。外に出たら寒さが身に染みて、ふらりと近所の居酒屋に立ち寄った。一杯のつもりが二杯、三杯、四杯と増えていき……気がつけば今に至る。
「キノコ、キノコ、キノコ……おお!」
 思い出せた。道端に松茸らしきキノコが生えていて、酔った勢いで生食した。匂い松茸味シメジ、は松茸なんて香りだけ、という意味ではない。キノコの中で松茸が最高の香り、そして最高の味なのがシメジ、という意味だ。
 ともかく、シメジ味を堪能して、いい気分のまま熟睡した。真冬でなかったのがさいわいだろう。凍死体になったら、自分が事件の当事者になってしまう。警官が被害者、なんて間抜けすぎる。
 ぼりぼりと頭をかいて、犬神警部は自分の部屋へ帰ろうと歩き出し――
 不意に動きを止めた。
 少ない通行人や朝刊を取りに現れた近所の人を観客に、犬神警部は足踏みでリズムを取りだした。
「ペッパーぁ」
人差し指を親指を伸ばした――俗に「田舎チョキ」と呼ばれる左手が、ゆっくりと挙がっていく。
「警部!」
 頭上から右に、そして素早く左に。
 最初が完璧に踊れれば、後は簡単だ。
 ミニスカートやスパンコールの眩しい衣装で踊っていた懐かしのアイドルと、動きだけは本物そっくりに曲を披露する。
 ただし、彼はとてつもない音痴だった。某国民的アニメに登場するいじめっ子に勝るとも劣らない破壊音が、住宅街に響き渡る。
 すずめが落ち、からすが飛び去り、犬が吠え、猫が威嚇する。
 ガラスが震え、たまたま居合わせた何人かが卒倒した。
「そろそろ帰りなさい、と〜」
 高音部もばっちり出る。ただ半音ずれているだけで。
「ペッパー警部よっ」
 フィニッシュ。額から汗がきらきらと、陽の光を反射しながら飛び散った。
 わずかな間に、正気に戻った人達は速攻で逃げる。
「やめてくれ誰か止めてくれ! うわああ、勝手に身体が動くぅぅぅ」
 恥じらいと血行促進で、犬神警部の頬は真っ赤になっている。だが、歌と踊りは一曲では済まなかった。
 次の曲が脳裏をよぎり、この世代といえば条件反射で踊り出す。
「ウ〜〜〜〜ウオンテッド!」
 びし、とポーズが決まる。本物は可愛い子がミニスカートでやるからドキドキするが、こっちは別の意味で心臓に悪い。
 この後、有名なイントロから始まった『UFO』『渚のシンドバット』『サウスポー』などが続く。
 最初こそ恥ずかしがっていた犬神警部だが、ここまでくると楽しくなってくる。同じ阿呆なら踊らなければ損だ。
「今日もまた誰か、乙女のピンチ!」
 銀幕市がピンチだった。



 ――半日後、銀幕市の依頼を受けた助っ人が駆けつけ(耳栓持参)、額のキノコをもぎとって事件は一件落着した。

クリエイターコメント資料調べをしているうちに、すっかり洗脳されてしまいました。
やっぱり彼女たちは偉大です。
公開日時2006-12-09(土) 13:30
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