★ はじめてのおつかい ★
クリエイター梶原 おと(wupy9516)
管理番号589-3539 オファー日2008-06-17(火) 19:44
オファーPC フェルヴェルム・サザーランド(cpne6441) ムービースター 男 10歳 爆炎の呼び子
ゲストPC1 ルシファ(cuhh9000) ムービースター 女 16歳 天使
ゲストPC2 レイド(cafu8089) ムービースター 男 35歳 悪魔
ゲストPC3 千曲 仙蔵(cwva8546) ムービースター 男 38歳 隠れ里の忍者
<ノベル>

 きっかけは、些細なことだったのだ。そう、とても些細。ルシファとレイドの二人が薄野邸を訪れた時、たまたま主その他の住人が不在で。お留守番に残っていたのがフェルヴェルム・サザーランドと、千曲仙蔵だけだったというだけ。
 普段であれば、そこに問題の発生余地はなかった。フェルヴェルムとルシファは仲良く談笑し、レイドと仙蔵は微笑ましくそれを見守っていればよかったのだろうから。
 が。今日は何の因果か偶然か、テレビがついていて。放映されているのは、「料理の素人さんでもこんなに簡単にお料理が作れますよー」という簡単料理紹介番組だった。
 そこまではいい。百歩──否、一万歩ほど譲ってそこまではいいとしよう、この際。その後の、料理を紹介しているエプロン姿の女性の言葉がいけなかった。
「テレビの前の僕たち、お嬢ちゃんたち! たまのお休みの日、パパやママに料理を作ってあげてはどうかな!? きっと家族が皆喜んでくれる、サプライズプレゼントになるようっ」
 れっつとらーいと気軽に片手を振り上げた女性が幾分自棄気味だったのは、その台詞のあまりの嘘臭さのせいか、自分もそんな目に遭ったのだから視聴者の一部は巻き込んでやるという意図だったかまでは知らない。
 ただレイドと仙蔵が二人してその放送に殺意を覚える羽目になったのは、嫌な予感がして即座にテレビを消したにも拘らず、食い入るように見つめていたフェルヴェルムとルシファの目がきらきらと輝いていたから。
 話題を変えろ、意識を逸らせとすかさず互いに目配せを送りあったが、時既に遅し。
「今日はお兄ちゃんがいないから、私が料理を作りますね」
「私も私もっ。フェル君、一緒に作ろうねっ」
 まもちゃんたちに喜んでもらおうと大はしゃぎするルシファに、フェルヴェルムもうんうんと大きく頷いている。
「っ、ちょっと待て、ルシファ。作るも何も、そもそも作り方を知らないだろう!?」
「そうだ、二人とも腹が減ったのなら俺が何か、」
「駄目です。お腹が減ったよりも、お兄ちゃんをびっくりさせたいんですから」
 喜んでもらうんですときらきらした目で続けられては、あまり強行に反対もできない。だが彼らの辿るべき未来の暗澹たる様は容易に想像がつき、意地でも止めなくてはとも思う。の、だが。
「レイド、今日はゆっくり休んでねっ。私がフェル君と頑張るから!」
 おいしいご飯を作るねとにこにこしたルシファに告げられ、レイドは言葉に詰まっている。
(レイド殿、ここで負けてどうする!?)
(だが俺は、ルシファの笑顔には……っ)
 逆らえない俺には無理だ後は任せたと早々と戦線離脱するレイドに、仙蔵は思わず拳を震わせる。料理くらい挑戦させてやろうと頷くには、あまりにも不安が大きすぎる。今感じているそれを積み上げれば、きっと世界一の山よりも高くなるに違いないのだから。
「し、しかしだな、何も今日でなくともよいのではないか? そう、そうだ、確か食材が何もなかったと思うがっ」
 どうにか引き止めたい一心で紡いだ仙蔵の言葉は、正に火に油。燃え盛っている炎に、ドラム缶で灯油を注ぎ込んだようなものだった。
「じゃあ、お買い物に行かなくっちゃ!」
「そうですね、お買い物に行きましょう」
 意気投合して盛り上がっている二人を止められるものなど、もはやなく。気がつけば仙蔵は必要な材料と店の場所を書いたメモをフェルヴェルムに手渡しており、落とすなよと何度も繰り返したレイドがルシファの持つ可愛らしい猫の顔をしたショルダーバックに入れている。
「いいか、くれぐれも気をつけるんだぞっ。買い物をしたら即座に帰って来るんだ、いいな?」
「やはり俺も一緒に、」
「駄目ですよ、レイドさん。ルシファさんと二人で行ってきますから、待っていてください」
「うん、レイドも仙蔵さんも、ゆっくり休んでてね」
 頑張ってくる、と意気込んで嬉しそうににこにこと告げる二人に逆らえたなら、そもそも話はここまで進んでいない。それでもこれが止められる最後のチャンスと敢えて止める言葉を紡ごうとするより早く、ご機嫌な二人が見上げてくる。
「それでは、行ってきます」
「二人とも、楽しみにしててねー」
 ぶんぶんと大きく手を振って、フェルヴェルムとルシファは仲良く手を繋いで歩いていく。内心ものすごくはらはらしながらそれを見送っていた仙蔵の横で、レイドがそういえばと呟く。
「似合っていたから気にもしていなかったが、今日のフェルは犬じゃなかったか……?」
 言われて辛うじて窺える前方を慌てて確かめると、ダルメシアンと呼ばれる犬種の着ぐるみを着て、布製の耳と尻尾が歩くのに合わせてひょこひょこ動いているフェルヴェルムを見つけた。
 可愛らしいわんこ着ぐるみの少年と、にゃんこショルダーを下げた警戒心ゼロのほんわか少女の二人連れ。
 これでは浚ってくださいと言っているようなものだと気づいた二人は大慌てで家の中に戻り、目当ての物を手にすると即座に後を追いかけていた。


「フェル君がご飯を作ってあげたって知ったら、きっとまもちゃんも喜んでくれるね」
「ルシファさんが作ってあげたら、レイドさんも喜ばれますよ」
「うん、頑張ろうね!」
「はい、頑張りましょう」
 保護者二名のはらはらどきどきに欠片も気づいた様子もない二人は、繋いだ手を揺らしながらほんわかのんびりといった空気を醸し出して歩いている。が、あまりにのんびりしすぎていて、行くべき道を間違ったりしているのだが本人たちは気づいた様子もない。
 その微笑ましい二人から二百メートルほどの距離を保って見守っている──傍から見れば付回している──仙蔵とレイドは、対照的にものすごく胡散臭く不審者極まりない。何故かトレンチコートとサングラスといった基本的にして怪しさ全開の変装と、道が違うのを教えるべきかどうかを迷っているせいで挙動不審この上なく、いつ通報されてもおかしくない状態だった。
 その間にものんびりしたフェルヴェルムとルシファは違うほうへずんずん進んでいて、耐えかねた仙蔵が出て行く一瞬前にフェルヴェルムが不安げに辺りを見回した。
「もうそろそろ、着いてもいいはずなんですけど……」
「ふえ? お店……、ないね?」
 どうしてだろうと首を傾げるルシファと、困ったように地図の書かれたメモを見下ろすフェルヴェルム。そこへまたお約束のように柄の悪い男たちが、へらへらして二人に近づいていく。
 思わず足を踏み出しかけたレイドを仙蔵が慌てて止めている間に、何か可愛いのがいるなぁと声をかけながら男たちが二人をぐるりと取り囲んだ。
「なんだぁ、ちまちまメモなんか持って。お使いかぁ?」
「お嬢ちゃんとわんころでお使いかよ、保護者は何やってんだっつーの!」
「こーんないかにもな格好でふらっふらしてっから、俺らなんかに絡まれんだぜー?」
 災難だよなぁと何が面白いのかげらげらと笑い出す男たちに、フェルヴェルムはさすがに警戒した色を浮かべてルシファを庇うように前に出る。気づいたらしい男たちがより声を張り上げて笑うのを他所に、一人分かっていないらしいルシファがちょこんと首を傾げた。
「フェル君のお友達?」
「違います、知らない人たちです」
「ふえ? じゃあ、お友達になりたい人たち?」
 お友達が増えるのかなぁと目をきらきらさせるルシファに、違うと思いますやめておきましょうとフェルヴェルムのほうが必死に止めているが、ルシファは無邪気ににこにこと笑って、あのねと声をかけている。
「私たち、このお店に行きたいんです。場所、知ってますか?」
「ルシファさん、地図がありますからっ」
 私が探しますと猫のショルダーを引っ張って男たちに近づけないよう努めるフェルヴェルムに、すげぇ忠犬がいると男たちはますます笑う。中の一人がルシファに手を伸ばしかけ、仙蔵がレイドを止めるのに全力を注がねばならなくなった時。
「がき相手にひびらしてんじゃねえ!」
 横合いからルシファに手を伸ばした男を蹴飛ばして押し遣ったのは、仙蔵と同じほど体格のいい男だった。フェルヴェルムとルシファの二人を合わせても身長も体重も敵わなさそうで、既に人を二三人殺しているのではないかといった面相をしている。ルシファは吹っ飛んだ男に驚いた目を向けているが、フェルヴェルムはその彼女を庇うように前に出て精一杯怖い顔でその男を見上げる。
「ルシファさんを苛めたら、私が承知しません……!」
「ふえ? フェル君?」
 どうしたのと尋ねるルシファに振り返らず睨みつけている──つもりだと思う、どこまでも可愛らしくしか映らないが──フェルヴェルムに、その強面の男が手を伸ばした。
 咄嗟に殴られると身構えたフェルヴェルムのダルメシアンな頭をがしっと捕まえた強面の男は、楽しそうに笑いながらそのまま乱暴にぐしゃぐしゃと撫でた。
「おう、可愛らしいわんころだと思ったが、一丁前に男だなぁ」
「身体張って女の子を守るたぁ、見上げたもんだ!」
 可愛らしく小っせぇのに偉いぞ坊主! などといきなりわいわい盛り上がる男たちに、フェルヴェルムは何が起きたのかときょとんとしている。ひでぇよリーダーと蹴り飛ばされた男が半べそで起き上がり、ちょっとからかっただけじゃんなぁ、と同意を求めてくるのに目を瞬かせていると、近寄ってきたその男はフェルヴェルムの手からメモを取り上げた。
「このまま真っ直ぐ行っても辿りつかねぇぞー、ここ」
 痛そうに蹴られた腰を抑えつつも案内してやるよの提案は、どうやら本気で親切心かららしい。
「うわあ、ありがとう!」
「いいってことよ。こんな可愛らしい嬢ちゃんと坊主じゃあ、また俺らみてぇな連中に絡まれかねねぇからな」
「つーか坊主、何で着ぐるみなんだ?」
「ただでさえ目立つのに、悪目立ちしすぎだぞ、坊主」
「そうそう。世の中、俺らみてぇな親切な奴らばっかじゃねぇんだぜー?」
 もちっと警戒心ってもんをだな、と滔々と語って聞かせながら、男たちは本当に店まで案内を務めてくれる。とりあえず街中での大量虐殺は免れたらしいと戸惑って力を抜いたレイドをまだ取り押さえつつ仙蔵が息を吐き、片手で宥めるように肩を叩いた。
「人間、外見で判断してはいけないようだな」
「ああ……、いやだが、フェルはともかくルシファは無警戒すぎる」
 言いながらも目を離さないレイドの視線を追いかけ、ごつい野郎どもに可愛い可愛いと頭を撫で回されて複雑そうにしているフェルヴェルムと、猫のショルダーを褒められて自慢そうに見せているルシファを眺め、仙蔵は思わず大きな溜め息をついた。
「見守るというのも、骨の折れる作業だ……」


 フェルヴェルムたちが無事に店まで送ってもらったのを見届け、何度か不審者通報をされそうになりながら買い物を見守った仙蔵とレイドは、二人がもう間違えようのないところまで帰って来たところで大急ぎで先回りし、薄野家に辿り着いた。
「まさか、あそこまで戻って来てさすがに迷うことはないだろう」
「ああ。だが、すぐにも帰って来るということだ。早くこれらを片付けないと、尾けていたとばれてしまう」
 それはまずいとトレンチコートを脱ぎ、サングラスを外しているレイドを見つけた仙蔵は、同じくそれらを外しながら首を捻った。
「今更だが、眼帯の上から色眼鏡をつけたのでは見え難くなかったか」
「見え難かったが。それがどうかしたか?」
 かける必要性はなかったのではないか、と暗に尋ねたつもりだったのだが、真顔で聞き返されては突っ込み難い。変装には必須だからな、とぼそぼそと呟くと、首を傾げつつもそうだなとレイドが同意した時、インターホンが鳴った。
「ただいまー!」
 ドアを開けてご機嫌な様子で帰って来た二人の声で慌てて手にしていたそれらを片付け、いかにも部屋でそわそわと待っていましたといった様子を取り繕って顔を出し、出迎える。
「お帰り。少し遅かったようだが」
「ごめんなさい、少し道に迷ってしまって。でも、すごく親切な方たちが案内してくださったんですよ」
「そうなの! 皆ね、優しかったんだよ!」
 褒めてもらったのと猫のショルダーを自慢げに見せるルシファから荷物を受け取り、もう少し警戒心を持てと言いたいやら違うやら。とりあえず楽しそうに話すフェルヴェルムたちに、疲れただろうから料理は俺たちがとさり気なく提案した仙蔵は、恨めしそうな視線で射られた。
「駄目ですよ、料理も私たちがやりますから休んでてください!」
「レイドもだからね! 今日は、私とフェル君が作るの。ねー?」
「はい、頑張りましょうね」
 ねー、と顔を見合わせて笑顔になる二人に、負けっぱなしに勝てっこない仙蔵とレイドは今回もまた言葉を失う。買い物を見守るだけでもはらはらしたのに、これ以上の拷問がまだ待ち受けているらしい。
 フェルヴェルムがいるから火の扱いは大丈夫としても、最大の難関は刃物だろう。メニューを聞けば先ほどの番組がやっていた簡単カレーとは答えられたものの、テレビと違って材料は皮を剥いてもないし切ってもない。
 キッチンに大勢いても邪魔だから部屋に戻っていてほしいをやんわりと伝えられたものの、怪我をしないかそっちのほうが気になって仕方ない。買ってきた食材を冷蔵庫に片付ける振りをして様子を窺っていたが、ルシファが包丁を持ったまま、ころっころとまな板の上を転がるジャガイモを追いかけているのを見れば最後、限界だった。
「頼むから、俺たちにも手伝わせてくれないか……!」
 もういっそ土下座してもいいくらいの勢いで詰め寄る仙蔵とレイドに、フェルヴェルムは複雑そうな顔をする。
 二人でやりたいという気持ちは尊重したい、できることならそうさせてやりたいと思う。が、できればそれは自分たちの知らないところで、彼らではない別の人間を巻き込んで──本気で二人でされては大変困るので──やってほしいと思う、心から。
「でも、私たちだけでできます」
「ああ、できるのは分かる。分かるんだが、……俺たちも手持ち無沙汰なんだっ」
「さっきの料理番組でも、アシスタントがいただろう? メインはフェルとルシファが作ることにして、それを手伝うのなら構わんだろう、な?」
 お願いだから手伝わせてくださいと必死の体で頼み込む二人に、フェルヴェルムとルシファは顔を見合わせてちょっと考え込み、仕方がなさそうに笑った。
「しょうがないなぁ、少しだけですよ?」
「レイドも仙蔵さんも、お手伝いだけだからね?」
 一杯は手伝っちゃ駄目と釘を刺しながらも許可してくれることにほっとして、助かると本気で礼を述べると二人はまたちらりと目を見合わせて楽しそうに笑った。
「仲間外れは、寂しいもんね?」
「ええ。お二人も仲間に入れてあげましょう」
 ものすごく仕方がなさそうに、まるで子供の我儘を許容する親みたいに。大人ぶって嬉しそうなフェルヴェルムとルシファが可愛らしいから、人の苦労も知らないでー! と言いたい気持ちもどこかに飛んで、仙蔵とレイドも軽く苦笑を交わした。
「材料を切るのは、俺とレイド殿でやろう。鎮殿が戻るまでに、支度を済ませたいのだろう?」
「そうでした。急ぎましょう」
 はたと我に返って急いで料理に取り掛かるフェルヴェルムに、ルシファともども危険な作業が回らないように気を使いつつも着々とカレーは出来上がっていく。
 そろそろ皆が帰ってきそうな時刻には、多いに楽しんだ様子の二人とそれを見守る二人の努力の結晶は、美味しそうな匂いを立てていた。

 ルシファと二人で作ってびっくりさせたい気持ちはあったけれど、こうして皆で作ったご飯を、帰って来た皆も一緒に仲良く食べられるのはどれだけ嬉しいだろう。
 幸せな一日の締め括りを思って、フェルヴェルムはひどく幸せそうに笑った。

クリエイターコメント 可愛らしい話をオファーくださいまして、誠にありがとうございました。頂いた依頼文のイメージを壊さないよう頑張りつつ、ものすごく楽しんで書かせて頂きました。
 ダルメシアンなお姿をもうちょっと上手く生かせればよかったとか、はらはらする保護者様に力を入れすぎたかなと反省点もありますが、できる目一杯で書き上げました。御心に叶っているといいのですが。
 読んだ後に、ちょっとでもほんわかしてもらえたなら幸いです。素敵なオファーをありがとうございました。
公開日時2008-07-08(火) 21:00
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