|
|
|
|
<ノベル>
クレアは焦燥していた。大口を叩いておきながら、明確な結果を出せていないからだった。
眼前には巨大なゴーレムが、いまだに健在であり……なにより、負傷者が多く出てきている。このままでは、遠からずして全滅の危機に立たされるだろう。通常であれば、撤退の時期を見極めねばならない段階である。
「でも……」
感情が、それを許さない。テッドに大見得をきった以上、何かしらの成果を出しておきたかった。
しかし、現実は非情である。彼女は己の非力さを自覚している。それを補う為に、手勢を連れてきたのだが……数による優位も、突き崩されて久しい。
「もう、駄目ね」
暴れまわる二体のゴーレムに、有効な手立てを打てないでいる。もはや、なりふり構わず、逃げる算段をしなくてはならない。
だが、彼女の上司は、勝手な行動に出た部下の為に、救援を用意してくれていた。
「ねー、仲間のお気に入りの場所なんだ。これ以上壊されるの迷惑だから、おねーさん、手伝ってい?」
鳳翔が、刀を引っさげて、クレアの前に現れる。どこか軽いノリだったが、それはクレアの緊張を緩和させ、安心をもたらす。
「おぉ大きいナ! こいつは転ばし甲斐がありそうだ」
ケラケラ笑いながら、クライシスが嘯いた。それに続いて、西洋甲冑が名乗りを上げる。
「妖怪コーター・ソールレット、義によって助太刀致す!」
武士の魂が入った西洋のプレートアーマーという、奇妙な存在だが――ここで、彼の果たす役割は大きい。
「頭に血が上った勢いのまま、相手を調べもせず独断で攻勢をかける、とはな。……まあ、後は任せてくれたまえ」
ベルナールが、思慮深い魔術師としての顔を見せる。クレアの無思慮な行動を咎めつつも、追求はしない。そんなことよりも、異界のゴーレムへの興味の方が、優先された。
「あー、流石にあれは喰えねぇな。憂さ晴らしだけでも、させてもらうか」
RDは、悪人面を遠慮なく歪めて、暴力的な貌を見せる。それにはクレアも、退いたが、本人は気にしていない。
「――戦う気力が残っているなら、手伝え。俺たちと連携できるだけの戦力は、残っているだろう?」
最後に現れたのは、シャノンだった。彼の言うとおり、少数といえど、まだ手勢は生き残っている。テッドより早く事件を解決する為にも、彼らと協力した方が賢明だと、悟ったのだろう。気を取り直して、正式に要請する。
「では、お願いしましょう。協力して、あのデカブツを始末する。――いいわね?」
全員が、それを受けれた。こうして一度仕切りなおして、戦闘は再開される。
この面々であれば、ゴーレムとて容易に妥当できるのではないか……と。クレアの頭には、そんな楽観さえ生じていたのである。
シャノンは、愛用の銃とFN MAGを持ってきている。威力のある銃でこそ、有用であると判断したのだ。もてるだけの銃弾を用意してきたのは、長期戦を覚悟しているためである。
射程ギリギリから頭に打ち込むが、やはり数発そこそこでは意味が無い。確実を期すなら、どうしても至近距離まで近づく必要がある。
「それで倒せたとしても、一体だ。手が足りない。……ゴーレムを同時に倒すなら、より緊密な連携が必要になってくるな。力押しでいくのも悪くないが、それだと若干時間が掛りそうだ」
ダメージが少なすぎたからか、ゴーレムも大きな反応は示さない。まだ少し、余裕は残されている。シャノンは、この時間を最大限に活用しようと思った。
一旦退いて、ここで彼は一計を案じる。仲間を集めて、改めて話し合った。
「全面攻勢に出る前に、決めておきたいことがある」
頭部を優先的に狙う攻撃班と、攻撃を引き付ける陽動班に分かれることだ。あと、それを確認し、伝える通信役がいれば完璧である。幸い、人手はあった。あとは、如何にして効率的に動くか。その点に掛かっている。
「まあ、俺は接近戦は避けつつ攻撃を加えるか。攻撃を喰らったら一溜まりもなさそうだからな……動き回って撹乱するとしよう」
シャノンは、攻撃を引き付ける役目を己に課した。状況が変われば、攻撃に出ようとも思うが。他の仲間にどう動いてもらえばよいか、その辺りが悩みどころ……。
「アレ擬似的な命入ってるんだよね? 失敗したら術が乱反射して、この辺一体が不毛の土地になる、かも。ッてか高確率でそうなると思う。――流石に、そうなったら不味いよねぇ?」
鳳翔は、術を用いずに、己の肉体のみで勝負する事を決めた。不安定な力よりも、確実に扱えるものを当てにすべきだ。
そして、その場合、自分に向いた任務は、陽動にある。ゴーレムの注意を引き、勝負を決めるフィニッシャーの補助を行なうべきだろう。これで、陽動する役は二人になる。
「鳳翔、誰とでもいいから、連携して動いたほうが利口だ。単独での破壊に不安があるなら、補助に徹した方が効率的だろう」
「……わかった」
シャノンからの提案を、彼女は肯定する。欲を言えば、さらに人員は必要だ。攻撃班よりも複雑な行動が要求される分、個々への負担も大きい。できれば、あと一人は欲しいところだった。
「通信役が入用なら、拙者に任されよ。石像のダメージ調整はスーパー任せておけ。会話の仲介役も拙者がやろう」
コーターが申し出た。彼は、甲冑をバラバラにして動かせる。二体のゴーレムの具合を調整する役として、これほど相応しい人選は無いだろう。
「遠見の魔術を用いれば、私も似たようなことはできるが……コーター殿の気迫、なみなみならぬものがある。お任せして、よろしいかな?」
「うむ、勿論だとも。魔術師にしか、できないこともあろう。ベルナール殿は、その技能を活かしていただきたい」
ベルナールは、打撃無効化の呪文を掛け終わった後に、攻撃に加わることとなった。彼は、魔術を用いて幅広い行動ができるため、いつでも柔軟に動ける位置にいてほしい。
「クレアったか、お前。強いなら手貸せや。手貸すならお前ら如きがこの俺に迷惑かけた事を水に流してやるよ」
クライシスが、クレアの闘争心を焚きつける。挑発に近い言い方だが、彼女もその意図を汲んだようだった。
「わかった。せいぜい失望されないように、働かせていただくわ」
「よし、決まりだな。俺はクレアと一緒に、攻撃に専念するとしよう」
あと一人、もっとも厄介な参加者がいるのだが、彼をどう配置したものか、悩む。
「本当は、他人と協力するのは真っ平だが……これも依頼だ。仕方ねぇ」
RDである。しかし、一度割り切ると、思い切って行動するタイプであるらしい。不満を押し隠しながらも、協力し合うことを了解した。
「だんぜん、攻撃役だな。細かい作業は嫌いなんだよ」
「見た目どおりだな、貴殿は。……しかし、その力。アテにさせていただこう」
ベルナールの言葉に、不敵に笑って見せた。RDとて、腕に覚えはある。与えられた役割をこなす自信は、充分にあった。
そして、彼らは二体のゴーレムと対峙した。本来なら、さらに二手に分かれるべきだが、まずは纏まって当たってみる。
まず動いたのは、ベルナール。参加者全員に呪文を施した後、杖をふるってゴーレムの足元へ魔法を打ち込んだ。
ゴーレムの足下の地面を底なし沼に変え、有る程度沈んだら地面を元に戻し、動きを封じる。
(他の世界の制作者のゴーレムを見る機会が得られるのはこの街ならではだな。しかし、弱点は変わらないらしい)
彼自身、ゴーレムを製作する技術を備えている。それだけに、泣き所は心得ていた。
「ふむ、やはり……」
頑丈とはいえ、あそこまで大きければ、重量も相当なものだ。上手い具合に足首までは捉えられた。これなら少々小突いた程度でも、バランスを崩してしまうだろう。
「はぁッ」
鳳翔がその隙に接近し、力任せに足を薙ぎ――。
跳ね上がった足に、シャノンが追い討ちをかける。銃弾は彼の思うままに動き、絶妙な時間差で、ゴーレムを引き倒した。
……これで、攻撃さえまともに当たれば、転ばせること自体は、さほど難しくないことが証明されたといえる。問題は、これからだった。
「――ち、やはり、そうそうすんなりとは破壊させてくれないみたいだ」
鳳翔が、舌打ちと共にそう評す。
地に倒れ、一時は無防備な姿をさらしたゴーレムだが、即座にもう一方がそれを守るように立ちふさがる。またこれも転ばせてしまえばよいのだが、その間にもう一方が体勢を立て直すだろう。
「すると、やはり同時に無力化する必要が出てくるのであるな。……良し! 拙者の見せ場が来たぞ」
コーターには、鎧をばらけさせ、個々を操作する能力がある。この状況、それを有効活用しない手はなかった。
「妖怪流……ミサイル頭突きィッ!」
自分の頭を投げつける。宙に浮いた頭は、そのままゴーレムを空中から見下ろす位置につき、敵の状態を正確に把握できるようになる――が。
「うわ、キモイ」
「異様だ」
「おお、すげぇナ。……主にネタ的に」
「重力とか、法則とかに喧嘩売ってやがるぜ。あれは」
「まあ、役に立ってくれるなら、いいのだろうが……感想に困るな」
見た目が非常にアレだった。その声をあえて無視して、コーターはさらに特技を披露する。
「妖怪流、ロケット居合いィィィ――!」
胴体から、ガントレットと刀だけが凄い勢いで飛んでいく。それも、両腕を。
二体同時に相手にするには便利だろうが、やはり素直に賞賛するには憚られる。しかし、有効なのは間違いない。ある意味では……一時とは言えど、誰もがその体を張った戦術に、心を奪われたのだ。
「凄い漢だ」
RDが、思わず呟いた。
しかし、ここはすでに戦場、気を引き締めて挑む。コーターに負けじと、二手に分かれ、おのおのが連携して挑む。せっかく、文字通りに体を張ってくれているのだ。無駄にするのは、色々な意味で申し訳ない。
シャノンがぎりぎりまで近づき、ゴーレムの攻撃を誘う。それをきわどくも避けながら、牽制に射撃。慣性の働く点を見極め、微妙にバランスを崩させることも忘れない。こうして、完全に一体の注意をひきつける。
「今だ!」
「応!」
クライシスは鍛え抜かれた脚力と身軽な動きで攻撃を躱しつつ、大きな体特有の動きの隙を突き――彼らしい、攻めの姿勢で攻撃を繰り出した。
「速いことは速い。だが、単調に過ぎるな」
後手に回ったゴーレムが反撃移るも、シャノンの援護がそれを鈍らせる。クライシスは振るわれた拳を避けそれに乗り、そのまま疾走、頭に蹴り入れ、ここぞとばかりに銃を連射。
「まだ足りないか……?」
最後に渾身の蹴りを叩きつけた後、華麗に体術を駆使、反撃を食らう前に離脱する。
ゴーレムの頭には、至近から浴びた銃弾で穴が開き、一部分は蹴りによって粉砕されていた。全力で放った一撃だ。効いてもらわねば困るが、ベルナールの魔術が無ければ、蹴りつけた足にも大きなダメージが来ていただろう。
「ふむ、よい塩梅だ。今度は、もう一体のほうを調整してくれ」
クライシスの行動を観察したコーターが、そう呼びかける。これに応えたのは、鳳翔とRDだった。
「用意はいいよな」
「聞くまでもねぇ」
二体目を前に、鳳翔が撹乱を目的とした行動に移る。もとより頑丈さには自信があった。足元で飛び回りながら、刀を持って斬りつけていく。コーターの片腕も、微力ながら力を貸してくれていた。
「手っ取り早く、片付けられれば一番なんだけど。ああ、でもせめて、もっと汎用性のある魔術を習得していれば……」
ベルナールのように、器用な魔術が使えれば……とも思うが、無いものねだりをしても仕方がない。 また、鳳翔の肉体は、この中でも特別に優れているわけではない。得物を手にしても、ゴーレムを破壊するのは至難の業だった。――そこで、RDの力が活きる。
「ふんッ」
身長5メートル、体重1トンオーバーの体格は、力比べをするには充分である。鳳翔に気を取られていたゴーレムは、抵抗する間もなく大地へと押さえつけられた。単純な力勝負では、RDに分があったらしい。
「――やったな」
小回りの効く彼女だからこそ、こうも上手くひきつけられたといえる。また、ゴーレム自身には学習機能もなく、プログラムどおりの動きしかできなかったことも、今回は幸いした。
「ごぉッ……ぐ」
とはいえ、いつまでも押さえ込まれているほど、それは大人しくない。暴れに暴れて、RDの拘束を解こうと試みている。まだまだ彼の体力には余裕があるから、脅威とはなりえないが……全力を尽くさねば、拘束の維持は難しい。また別に、攻撃役が必要となってしまった。
「RD殿、しばらくそのまま押さえつけていられるか?」
「誰に向かっていってやがる。後一時間は余裕だ!」
コーターが、他の仲間へと援護を要請すべく、周囲を見回す。
シャノンとクライシス、それに復帰したクレア一党が、もう一体に掛かりきりになっていた。ひそかにコーター自身も加勢していたのだが、彼らが派手に動いている為か、まるで目立っていない。
残っているのは、ベルナールのみだが……?
「詠唱?」
なにかしら呟いているのが、耳(生身ではないが概念としては存在している)に入った。
そして、RDが押さえつけている片手が、唐突に崩壊した。次に右足、左足と、順々に崩れていくではないか。
「石造りであるのだから、土系統の魔術で干渉できるのが道理。……なるほど、再生を行うにしても、同時に、一度に、しかも瞬時に再構成することはできないのか。いや勉強になった」
ベルナールは、己の魔術の結果と、それによる修復過程を観察した。遠目の魔術まで使い、細部にまで目を通したのである。そして、結論。
「これならば、一撃で頭部を破壊するのはわけもない。あとは、いかにして同時にしとめるかだが……」
「ベルナール殿ベルナール殿」
「うん? 何かな、コーター殿」
思考に集中していたところを呼び止めたが、不快には思われなかったようである。
「今の所、RD殿と鳳翔殿が押さえてくれている。合図があり次第、ゴーレムの頭を破壊していただけるかな?」
「おお、勿論だとも。――任せていただこうか」
ベルナールの了解を取り付けると、その場の二人に伝える。後しばらく我慢してもらい、シャノンたちと連携して仕留めるのだ。
「わかった。それまでこいつに妙な動きをさせないように、見張っておくよ」
「まあ、いいだろう。面倒だが、こいつはここで抑えてやる」
鳳翔とRDは、快く賛成してくれた。残る問題は、あと一体のゴーレムである。あちらには、RDのような馬鹿力の持ち主はいない。その分、作戦の出来が問われることになろう。
彼らを信頼していないわけではないが、コーターは心配だった。
シャノンとクライシスは、限界を感じていた。
体力、銃弾、戦力。ともに不足はないし、巨大石像を抑えるだけならば、いくらでもできる。問題は、火力だった。
「参ったな。すぐに再生してきやがる」
意外、といってよいだろう。破壊されれば、修復する――と、聞いてはいたが。常時再生するなどという情報は、知らない。
実際、映画の中ではそこまで強力な再生する描写はなかった。すると、これは後付された性質だというのか――?
「壊していく端から修復されてしまうのでは、どうにも難しい。せめて、いっせいに、三人の火力を集中できれば話は別なのだろうが……」
しかし、今はそんなことを疑問に思っている場合ではない。
ベルナールは、魔術を用いて、相手の防御力を無視することができる。しかし、こちらはそうはいかない。どうしても、力ずくで頭部を破壊しなければならないのだ。
さらに一つ、問題がある。ゴーレムの動きは単調だが、速い。一瞬たりとも気が抜けぬ状況が続いており、どちらかが危険を覚悟で陽動を行なわない限り、頭部まで近づくのは困難だった。
「大型の火器も用意してきたんだけど、これは連射がきかないし。……といって、攻撃だけに意識を割けるほど、余裕も無いしね」
クレアは現状を分析したが、楽観などできない状況にある事を、改めて認識するのみだ。
シャノンとクライシスは、常に動き回りながら、急造にしては素晴らしいコンビネーションでゴーレムを追い詰めている。
クレアも手勢に命令を下しつつ、遠距離からライフルで頭を狙っていくのだが……何度あてても、致命傷には至らない。
「状況は、芳しくないか」
「! ……コーター、とかいったかしら。驚かさないでくれる?」
頭の部分だけで、コーターは飛んできている。現代社会を生きているものに、これを驚くな、という方が間違っているだろう。
「あちらは、だいたいカタがついたぞ? ここのゴーレムを押さえ込めば、一網打尽にできる」
「それは良い知らせね。でも、残念なことに、こちらは人手が足りないの。せめて、あと二人でもいてくれたら、前面攻勢に出られるのに」
しかし、向こうの人員を割くことはできないのだ。だからこそ、クレアは歯がゆく思う。
「ほう、二人、でいいのか」
「ええ、でも不可能でしょう? だって、彼らにそんな余裕なんて」
「――そうか、二人でよかったのか。実は四人ばかりこちらに向かってきているのだが」
「……はぁ?」
ほうけたように、クレアが声を上げる。
「いや、一人は怪我をした連中のところに向かったか。……こっちの現場には、三人が向かっているぞ」
「そんな、どうして」
「別の班からの、救援だろう。……うむ。そういえば、この依頼に入る前に、そんなことを言っていたような気もするな」
現実として、貴重な戦力がこちらに来ているのだとしたら、それを利用しない手はない。クレアはすぐさま思考を働かせようとしたが、その前に。
「――おい」
「え、なに?」
クライシスがここまで退避して、クレアに語りかける。それまではシャノンに負担がのしかかるだろうが、そこまでしても伝えたいことがあるのだろう。
「ちょっと考えがある。付き合ってくれるか?」
「ことと次第によるわ。知ってる? こっちに救援がきてくれるんですって」
「そいつは喜ばしいな。だったら、確実だ」
そうして、二人は打ち合わせた。――これで、確信する。ゴーレムを打ち倒す秘策が、ここに完成した。
「コーター? もうすぐ総攻撃をかけるから、向こうとタイミングを合わせる必要があるの。――わかるわね?」
「言っただろう? ハイパー任せておけ。ばっちり連絡をつけてやろう。安心して、戦うがいい」
「そう。見た目は可笑しいけど、あなたって便利ね。いてくれてよかったと、本気で思うわ」
ここに体があれば、クレアの言葉に、飛び上がって喜んで見せるのだが。ともあれ、こうして反攻は開始された。
他の依頼からの救援班が、ゴーレムから少し離れた地点で、トラップを仕掛けている。これは彼らの中に、この手の悪戯が得意なものがいたこともあって、迅速に完了する。
あとはトラップの場所まで、おびき寄せる必要があったが――これには、救援班から一人、申し出てきた者がいる。シャノンとは浅からぬ縁がある者で、色々思うところはあれど、一番危険な部分を担当してくれるのだそうだ。
「……これで、三人とも攻撃が可能になったか。いや、頑張るものだ」
シャノンは、どことなく嬉しそうな顔を見せた。他のものには、その胸中など推し量れそうも無いが、とにかく仕事が捗るならば何も問題は無い。
「――頃合だ。そろそろゴーレムがトラップにかかるぞ」
クライシスが言うように、救援班は上手い具合にゴーレムをひきつけていた。
三人は距離と速度を調整し、気付かれないように接近していく。
「どうした? こっちだ!」
若い男の声が、聞こえた。例の、牽制を買って出てくれた者の声だ。そして、ほどなくしてゴーレムがバランスを崩し――。
「行けぇッ!」
倒れた。
その好機を逃さず、クライシスとクレアが同時に駆け出す。そしてゴーレムが再び起き上がろうとしたところで、彼は直前で停止。勢いよく走りこんでくるクレアと向かい合う。
「そらよッ!」
そして彼女の跳躍と合わせて、クレアをゴーレムの頭に向けて蹴り上げる。はたして彼の蹴りの衝撃は、彼女を上まで押し上げるのに充分だった。
「食らいなさい……」
彼女の手には、ロケットランチャー。こういう日の時の為に、体力は作ってきている。反動が怖かったが、それも計算のうち。
至近距離で、ぶっ放す。
「くぅ――」
爆風と反動で、意識が飛びかける。空に舞い、地面に激突するかに思われたが、これをクライシスがキャッチ。まさに、映画の中のような演出であった。
「次は、俺の番だな」
時間差で、シャノンが突貫した。ヴァンパイアの身体能力を持って、頭上まで駆け上がる。そして火力で穴の開いた頭に、さらなる追撃を打ち込んだ。
彼が持つ中でも、最高の威力を誇る火炎弾。それを惜しみなく、また絶え間なく、雨のように放ち続ける。
「ベルナール殿、今だ――ッ!」
コーターの指示によって、ベルナールが魔術を行使。RDに押さえつけられていたゴーレムを、瞬く間に崩壊させる。
それは、シャノンがゴーレムの頭部を破壊しつくすのと、ほぼ同時のタイミングであった――。
「喰わせろ」
仕事が無事に終わったあと、RDが真っ先に口にしたのが、この言葉である。
報酬として、喰らってもいい奴がいたなら喰わせろと、そういう意味であるらしかった。
「……あいにくと、死人は出ていないの。勘弁していただけるかしら?」
「だったら、お前を喰わせろ。美人……? っつうにはちょうとトウがたってるが、充分喰える味だろう」
「ごめんなさい、タイプじゃないの。おとといきてくださる?」
ならば、無理矢理にでもせまってしまおうか、とRDは一歩踏み出す。――が。
「こーら。女性に向かって、そんな言い方は無いだろ? つうか、そもそも喰うな」
鳳翔が、RDの前に刀をちらつかせる。これ以上欲をかくなと、警告するように。
「まったくだ。女性には、もっと紳士的に接するべきだ。貴殿は少し、欲望に正直すぎる。異性に好かれるには、理性に教養というものが――」
「何の話してるんだテメェは」
ベルナールがなにを言っているのか、RDは本気でわからない。彼にとって人間は食料であり、ベルナールの言うような感情など、最初から持ち合わせていない。
元々、クリーチャーとして生を受けた身である。そんな常識など、知ったことではないのだろう。
「悪役会、敵に回してみるかい?」
「……そうよな。貴殿は、銀幕市で生きる事を受け入れたはず。そうでなければ、依頼を受ける立場にはなかろうからな? ――よこしまな願いは、押さえ込んでおくことだ」
この鳳翔とベルナールの言には、RDとて返す言葉が無い。本音を言うなら、決まり事など無視して思うがままに行動したいのだが……一斉にかかられたら、勝ち目がないことは解っている。
「――ふん。ああ、わかった。わかったとも」
渋々と、RDは退いた。
安心したように、クレアが息を吐く。
「まあ、人肉は無理だけど。獣肉ならご馳走してあげるわ。せめてものお礼として、ね」
「喰わねぇよりましだ。遠慮なくいただくぞ」
「もちろん。……さ、戻りましょう」
ここで、クレアは己の非力さと、未熟さを痛感した。彼らの超人的な力を前にして、自分にはなにができるのか。これから、なにをすべきなのか。
それについて、思いを致すのだった――。
|
クリエイターコメント | 二つ目の依頼、完了。 他の依頼と比べて単純な分、プレイングが上手く合致してくれていました。 全員の行動パターンを組み合わせて作り上げましたが、いかがでしたでしょうか? 意見などがあれば、遠慮なく。お気軽に、ご相談ください。 |
公開日時 | 2008-02-29(金) 19:20 |
|
|
|
|
|