★ 買出しクエスト ★
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号105-7131 オファー日2009-03-17(火) 03:20
オファーPC ヴィディス バフィラン(ccnc4541) ムービースター 男 18歳 ギャリック海賊団
ゲストPC1 ノルン・グラス(cxyv6115) ムービースター 男 43歳 ギャリック海賊団
<ノベル>

 びっしりと品名の書かれている紙を見つめ、ヴィディス バフィランは「多いな」と小さく呟く。
 ギャリック海賊団恒例の、買出しである。海で過ごす事の多い海賊団だからこそ、町につけばたっぷりと品物を買いだめしておく。何回かに分けて行うものの、大人数の海賊団を長期間養うだけの品物を積んでおくためには、一度の量は自然と多くなる。
「相変わらずだな、この量」
 ひらひらとメモを揺らし、ヴィディスは呟く。それを「どれどれ」と言いながら、ノルン・グラスは覗き込む。
「確かに、こりゃ凄い」
 ノルンの言葉に、ヴィディスは何も答えない。なんと返したらいいか、分からない。他の仲間相手だったら、冗談の一つでもいえるのに。
 返答のないヴィディスを気にする事無く、ノルンは「よし」と一言言い、メモをヴィディスの手から奪う。そして、ぴりぴりと半分に裂き、一方をヴィディスに渡した。
「手分けしようぜ。そっちは任せた」
「お、おう」
 ノルンは「じゃあ、また後で」と言って市場へと向かって行った。ヴィディスはメモを握り締め、はあ、と小さくため息をついた。
 ノルンが入団してきたのは、ついこの間だ。自己紹介をされ、名前と大体どんな者なのかは聞かされた。ただ、それだけだ。個別に話をしたことは、まだない。
 そんな中、買出しの指名がヴィディスに回ってきた。しかも相手は、入団して間もないノルンだった。ヴィディスには、どう接していいのかがいまいち分からずにいた。だからこそ、この状況は多少気が楽になったが、何となく気まずかった。
「折角の、仲間なのにな」
 ぽつりとヴィディスは呟く。縁あって、同じ船に乗る事になった仲間だ。ノルンはどう思っているのかは分からないが、少なくともヴィディスは仲良くなりたいと思っている。
「一先ず、買い物しつつ考えるか」
 そう言って、一つ目の品物を買いに行こうとしたその時、どん、と誰かにぶつかった。慌てて「悪い」と言ってそちらを見ると、小さな少年がその場に尻を着いている。
「大丈夫か? 悪かったな」
 少年は何も言わずに立ち上がり、走り去ろうとする。が、その腕をヴィディスにつかまれる。
「その前に、ポケットのものを返してもらおうか」
 にっと笑いながら言うと、少年は小さく舌を打ちながらポケットから財布を取り出す。典型的なスリだ。
 ヴィディスはそれを受け取って、元の場所に納める。少年はばつが悪そうに、顔を背けている。
「そんな顔するなら、こういうのはやめろ。お前でも出来る仕事くらい、あるんだから」
 ヴィディスの言葉に、少年は何も答えずに腕を振り払い、走って逃げていった。ヴィディスは「全く」と苦笑し、少年の背中を見つめる。
 その時だった。いきなり、視界から少年の姿が消えたのだ。
「どういう事だ?」
 ヴィディスは、慌てて少年の向かった先へと向かう。少年が消えた辺りに、狭い路地がある。恐らくは、そこに引き入れられたのだろう。
「……くそっ」
 嫌な予感がし、ヴィディスは路地に入る。すぐ傍に、少年はいた。ただし、ぐったりとして男たちの手につかまれていた。
「おい、何をしているんだよ」
 ヴィディスの問いに、男たちは顔を見合わせる。そうして、じりじりとヴィディスに近寄る。ヴィディスは応戦しようと、剣を手にしようとするが、それよりも先に後ろからの衝撃が訪れた。
「気をつけろと、言っただろう」
 薄れ行く意識の中、後ろから声がした。
「殺したか」
「いや、眠ってもらっただけだ」
 声たちが笑う。ヴィディスは意識を保とうとするが、意思に反して体が重い。
 そうして、何時の間にか真っ暗な世界に落ちて行くのだった。


 兄ちゃん、と呼ばれて目が覚めた。最初はぼんやりと、徐々に頭がはっきりとしてきた。
「ここは」
 ぽつりと呟くと、再び「よかった」と声をかけられた。声のするほうを見れば、スリ未遂の少年が心配そうに覗き込んでいた。
「大丈夫、兄ちゃん」
「ここは、何処だ?」
 辺りを見回すと、薄暗い部屋に放り投げだされているようだった。明かりは小さな窓から差し込むだけで、電灯はない。体は縛られていないものの、入口には鍵がかかっているようだった。
 ヴィディスは改めて、少年を見る。かすり傷はあるが、大きな怪我はない。
「ここ、人身販売する所みたいなんだ」
 少年は俯き、ぽつりと告げる。確かに、部屋のあちこちに少年少女がぽつりぽつりと座っている。俯き、皆諦めたような表情をしている。
「人身販売、だと?」
「皆、孤児なんだ。行く場所ないだろうから、構わないだろうって言われたって」
 その言葉に、ヴィディスは拳を握り締める。なんだそれ、と呟いて。
「ここで、全員なのか?」
「ううん、まだ他にもいるみたい。他の子が、教えてくれたから」
 少年の言葉に、部屋の子ども達が誰ともなく泣き出した。ヴィディスは「くそ」と吐き出すようにいい、少年に目線を合わせる。
「いいか、必ずチャンスが来る。それまで、耐えろ」
 だむ、と踏みしめると、ぎい、と床が動いた。ヴィディスは動きを足の裏で感じ、気付く。
「ここは、船なのか」
 よく見知った感覚だ、とヴィディスは呟く。何故か、勇気付けられるとも。
「一先ず、様子を探るしかないか」
 部屋をゆっくりと一周しながら、ヴィディスは言う。部屋の中には、これといって情報はない。
 ならば、とヴィディスはドアへ近づく。見張りでもいれば、情報を聞き出せるかもしれない。
 ごんごん、と多少乱暴にドアを叩く。すると、外からぶっきらぼうな「ああん?」という声が聞こえてきて、ぱか、とドアにある小窓が開いた。暗くてよく分からなかったが、ドアには格子の付いた小窓がついていたのだ。
 そこから中を覗き込む男に、ヴィディスは「なぁなぁ」と声をかける。
「トイレ、行きたいんだけど」
「そこでしろ、そこで」
「それは恥ずかしい」
 きっぱりと答えると、男は「何だと?」と、苛々したように尋ね返す。
「そういう時は、さっさと連れて行ってくれたらいいんじゃないか? そんなに逃げられたくなけりゃ、お前がついてくりゃいいだけだし」
「俺はここから離れるわけには」
 男は言いよどむ。もう一押しだ。
「別に、他の奴でもいいぞ。そうすりゃ、お前はここから離れなくていいし、俺も恥ずかしくない」
 ヴィディスの言葉に、男は少し迷った後「おい、新入り」と声をかけた。近くに、新しく入った仲間がいるのだろう。
「トイレに行きたいんだとよ! ついていって、見張ってろ」
 新入りと聞くと、ノルンを思い出す。そういえば、連絡一つ入れていないのだが、心配されているだろうか。
 ヴィディスがそう思った時、徐に扉が開いた。どうやら、新入りとやらが一緒に行ってくれるらしい。ヴィディスは口元だけで笑む。
(情報を聞き出してやれる)
 新入りとはいえ、この船に乗っている者だ。多少の知識くらいは持っているだろうし、情報だって手に入れやすそうだ。
「じゃあ、行くか」
 腕をつかまれ、外に出る。薄暗い部屋から明るい場所に出て、一瞬ヴィディスは目がくらむ。何度か瞬きをし、ようやく目が慣れてきてから、新入りとやらを見る。
 見て、絶句する。
「さっさと行って、すぐ帰って来るんだぞ!」
 見張りの男が声をかける。それに「はいはい」と答え、ヴィディスに小さく囁く。
「落ち着け」
 ヴィディスはその声を聞き、男に分からぬようにそっと頷く。
 腕を掴んでいるのは、ノルンであった。


 トイレの近くにある部屋に鍵をかけ、二人は状況を確認する。とはいえ、トイレと偽ってきているのだから、短時間ではあるのだが。
 まず、ノルンはヴィディスが連れ去られる場を偶然目撃したのだという。慌てて飛び出てはどうしようもないと、情報収集を行い、結果この船に乗せられたのだと突き止めたのだという。
「出港は今晩だ。仲間を呼ぶ時間はないと判断したから、俺単身で乗り込んだ」
「新入り、といわれていたな」
「港で、偶然昔の傭兵仲間に会ってな。ツテで仲間にしてもらった」
 ヴィディスはその手際の良さに感心する。
「だけど、他にも囚われている子ども達がいるんだ。置いてはいけない」
「分かっている。だから、保安隊に情報を流しておいた。夕刻、薬物取引が行われると」
「夕刻か」
 ノルンの言葉に、にやりとディヴィスは笑う。それはつまり、夕刻に騒ぎが起こり、その隙に子ども達を逃がせといっているようなものだから。
「じゃあ、行くか」
「おう」
 二人は目を合わせ、夕刻に、と言い合うのだった。


 日が傾きかけた頃、甲板にいる人身売買のボスは「おい」とノルンに声をかけた。ノルンは「何ですか?」と言いながらも、そちらを見ない。
「お前、仲間になる気なんてねぇんだろう?」
 ボスの言葉に、甲板にいた全員がはっとしてノルンを見る。
「何故?」
「お前、船内を歩き回っていたそうだな。掃除するわけでもねぇ、見物といわんばかりに。だが、お前が見て回った後、鍵が開いている場所が見つかった」
 びくり、とノルンは体を震わせる。
「いずれも、主要な場所ばかりだ」
「見て、閉め忘れただけかもしれないぜ?」
 振り向きもせずに言うノルンに、がははは、とボスは豪快に笑う。
「目だ、お前の目だよ! お前は俺に従事する気なんてねぇんだよ。仲間? 違うね、俺の敵となる為に、ここに来たんだろう!」
 ボスの言葉に、甲板の者達が一人、また一人と銃や剣を手にし始める。
「中々、いい目をしている」
 ノルンはそう言い、振り向く。振り向き様に、近くで剣を構えていた者達の足元を、すくってやりつつ。
 がしゃん、ばたん、と続けざまに音がした。転がされた者達は、何が起こったか分かっていない。気付けば、転んでいたのだから。
 ゆらり、と構えを取るノルンに、ボスは再び豪快に笑った。そうしてひとしきり笑い終えた後、低い声で「やれ」と指示をした。
「うおおおおお!」
 威勢のよい声に、ノルンは小さく笑う。剣を持って振り回す者には、ひらりとかわしていなしてやる。銃を撃とうとする者には、素早く銃を持つ手を手刀で叩き、銃を叩き落してやる。
 組み辛い。
 数々の戦闘をこなしてきた者達であっても、そう思わせられる動きをノルンはする。
「ほらほら、どうした?」
 にやり、とノルンは笑う。すると、甲板を這いつくばっていた一人が、銃を手にしてノルンに向ける。ノルンはそれに、気付かない。ノルンの死角で、彼は倒れたまま銃を向けているのだ。
「取った!」
 彼が勝利を確信した次の瞬間、彼の指はぴくりとも動かなかった。見れば、手は指一本動かせぬよう、硬く糸が絡まっていたのだ。
 蜘蛛の巣に、よく似たモチーフで。
「残念。俺が取っちまったな」
 に、と笑いながらヴィディスが言う。ボスはヴィディスを見「なっ」と声をあげる。確かに、鍵のかかった部屋に入れておいたのに。外には、見張りがいたはずなのに。
「早かったな」
「音がしたんで、合図だと思ったんだ。子ども達は、先に逃がしておいた」
「なら、後はぶっ飛ばすだけだな」
 さくさくと会話する二人に、ボスは「待て!」と声を荒げる。
「鍵は、鍵はどうした?」
「こいつに、取りに行ってもらった」
 ヴィディスが取り出したのは、ただのハンカチ。ハンカチが小さな人型のようになっている。そうしてそれは、まるで小人のように、動いた。
 物が、まさに、生きているのだ!
 ボスは「まままま、待て!」と再び叫ぶ。
「見張りは? 見張りは、どうしたんだ!」
「あいつらなら、他の仲間と仲良く抱き合ってるぜ」
 鍵を盗まれた事を知った見張りの男は、慌てて近くにいた仲間を呼び寄せた。そして、次の瞬間、ヴィディスの裁縫箱の針によって、二人の服は縫い合わされてしまったのだ。
「ここに至るまでにも、いただろう!」
「皆、仲良いんだな」
 にやり、とヴィディスは笑う。ノルンは「お見事」と言って笑い、だむ、と甲板を踏みしめる。
「行くぞ、ヴィディス!」
「おう、ノルン!」
 二人は声を掛け合い、各々が武器を手にし、向かっていく。
「ギャリック海賊団を敵に回すと、痛いメみるぜ!」
 うおおおおお、という声が、船上に響くのだった。


 港で、二人はハイタッチを交わす。遠くに、今にも沈みそうな船が見える。
「子ども達も無事逃がせたし、よかったな」
 ヴィディスの言葉に、ノルンは「そうだな」と言って笑う。
「お前も無事だったしな」
 くしゃ、と帽子の上からノルンはヴィディスを撫でる。ヴィディスは「よせよ」と言いながら、本気で嫌がっているようには見えない。
 結局、ボロボロの状態になった人身売買団体を保安隊は捕まえる事となった。半壊した船に、疲れ果てた人々を見て、保安隊は何があったのかを尋ねる。が、彼らは答えない。
 答えられない。何が起こったのか、未だによく理解していないのだ。
「それじゃあ、帰るか。すっかり遅くなってしまったしな」
 伸びをしながらいうノルンに、ヴィディスは「そうだな」と答えつつ、ふとポケットに手を突っ込んで気付く。
 くしゃりという、紙の触感。
 買い物リストの載っている、紙。
「……買出し、してない」
 ぽつりと呟くヴィディスに、ノルンもはっと息を呑む。
「俺もだ」
 二人は顔を見合わせ、大声で笑い合う。
「ま、明日また行きゃいいよな」
「そうそう、今日はよく頑張ったんだからな」
 口々に健闘を称えつつ、二人は港を後にする。向かう先は、一つしかない。
 彼らが所属する誇り高き海賊団、ギャリック海賊団の船である。


<買出し任務以外をこなし・了>

クリエイターコメント お待たせしました、こんにちは。この度はオファーを頂きまして、有難うございます。
 最初はぎこちないお二人の関係が、親子のような関係になるまでを書かせて頂きました。掛け合いを書くのが、大変楽しかったです。
 少しでも気に入ってくださると嬉しいです。ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
 それでは、またお会いできるその時まで。
公開日時2009-04-01(水) 18:30
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