★ デジャヴとジャメヴの境界線 ★
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号105-2127 オファー日2008-02-17(日) 23:43
オファーPC クライシス(cppc3478) ムービースター 男 28歳 万事屋
ゲストPC1 梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
<ノベル>

 指定された場所には、大きな屋敷が建っていた。巨大な門を見上げ、ぴゅう、とクライシスは口笛を吹く。
「こりゃ、すごいナ!」
 呼び鈴を押し、門に設置されているカメラが動く音がし、通される。何もかもが圧倒される出来事ばかりだ。
 門をくぐって更に奥へと進むと、ようやく玄関が見えた。重厚そうな扉が、静かに開かれる。クライシスが一切手を触れていないにも関わらず開いたという事は、中から操作をしているということだ。逆に言えば、操作しなければ開かないという事で。
(門をくぐりぬけたとしても、この扉で阻むって事か)
 大層なつくりだな、とクライシスは苦笑をもらす。そんな奴が、一体どういう依頼なのかとも思いつつ。
「……お待ちしていました」
 広い玄関ホールに立っていたのは、少年であった。


 梛織(ナオ)は、マグカップにコーヒーを注ぎながら「何処いったんだ?」と呟く。気付けば、同居人であるクライシスの姿がなかったのだ。
「全く、出かけるなら出かけるって、言っていけばいいのに」
 ぶつぶつと呟きながら、マグカップのコーヒーに口をつける。ふうふうと冷ましていると、がちゃりと玄関の方から音がした。
「あ、帰ってきたか?」
 梛織は呟き、保温状態になっているコーヒーメイカーを見る。もう2、3杯分くらいはありそうだ。
「ただいま」
「お前、出かけるなら出かけるっていうメモでも……」
 残していけ、と言おうとした梛織の言葉は、クライシスの後ろから聞こえる「お邪魔します」の声に失われる。
「初めまして」
「え、子っ……」
 梛織は呆然としながら、クライシスと少年を何度も見比べる。「なっ」だとか「えっ」だとか、言葉にならぬ声を発しながら。
「おい、落ち着け」
「落ち着けって、お前が言うな! というか、お前……」
 妙に落ち着き払ったままのクライシスに、梛織はきっぱりと言い放つ。
「幼児誘拐は、立派な犯罪だ!」
――ぱしーんっ!
 クライシスの平手が、見事に梛織の左頬をヒットする。思わず、少年がパチパチとささやかながらも拍手をするくらい、見事な平手打ちである。
「何するんだよ?」
「落ち着け。別に俺は、誘拐なんてしてない」
「じゃあ、その子はなんなんだよ?」
 梛織がびしっと人差し指で少年を指差すと、その指をびしっとクライシスにはたかれる。
「人を指差すな」
「あーもう、いい加減に説明しろよ!」
 叫ぶ梛織に、少年が「あの」と口を挟む。
「僕は、クライシスさんに依頼をしただけなんです」
「依頼?」
「はい。僕の家出を、手伝っていただけるように」
 少年はそう言い、自らの名を名乗る。そうして、銀幕市に住んでいるのならば誰でも知っているような、資産家跡取り息子なのだと告げた。
「で、そのお坊ちゃまは」
「ハルト、と呼んでください」
「……ハルトは、何で家出なんて。まだ子どもだろうが」
 梛織が言うと、ハルトは「もう10歳です」といいながら、軽くむっとする。
「まだ、10歳だ! 全く、これからどうすんだよ」
 頭を抱え込む梛織に、クライシスは「簡単だ」と言って笑う。
「この家で飼えばいい」
「飼えません」
「ちゃんと、俺が面倒を見るから」
「ダメです。元の場所に返してらっしゃい……ってか、飼うとか言うな!」
 どっかーん!!
 梛織の鋭い突っ込みとともに、玄関の方から爆発音が響いた。
「おお、ついにお前の叫びは爆発まで引き起こすようになったか」
 軽く小ばかにするかのようなクライシスの言葉に、梛織は「んな訳あるか!」と再び突っ込む。
「何だよ、一体!」
「あ、おそらくは僕を連れ戻しに来たのではないでしょうか。僕の家出依頼をクライシスさんに行ったのは、ちょっと調べたらわかる事ですし」
 冷静に、ハルトが言う。梛織は「冗談!」と叫ぶと、クライシスが窓を開けて飛び出す。
「ほら、さっさとずらがるぞ!」
 クライシスの言葉に、ハルトと梛織が続けて窓から飛び出す。しばらくすると、後ろの方から「逃げたぞ!」という声が響いてくる。
「よし、ファーストコンタクトははずしたな」
「そうだなって……あれ?」
 梛織は走りながら、考える。今、こうしてクライシスとハルトと共に逃げているのだが、この行動は果たして正しいといえるのだろうか。
 今、家に押しかけてきたのは別に自分に危害を与えるためではない。ただ、ハルトを連れ戻しにきただけなのだ。
 つまり、ハルトを返し、クライシスを差し出しながら「こいつが犯人です」とか言えば、自分は別に逃げる必要は無かったわけで……。
 たり、と汗をかきながら、同じく走って逃げるクライシスをゆっくりと見る。クライシスは鼻で「ふふん」と笑い、にやりとする。
「気付いたようだな、梛織。こうして逃げた時点で、お前はもう仲間だ」
「お、俺は今からでも!」
「残念だな。もう取り返しはつかねぇよ」
「うわ、ちっくしょう!」
 梛織の叫びが、空へと響いた。


 ばたばたばた、と商店街を駆けていく。たまたま商店街あげての特売日だったらしく、道には所狭しと出店が立ち並んでいる。
「こんだけ人がいたら、物騒な行動には出れないだろうからな」
 にっと笑いながら、クライシスが言う。梛織は「そうかもしれないけど」といいながら、飛んできた肉まんをすっとよける。
「迷惑かけまくってるのはどうかと思うけど」
「何をいまさら」
 クライシスは「ふん」と笑いながら、びゅんと風を切ってきた投げ縄からハルトをよけさせる。
「あ、お二人とも。ほかほかの団子が」
 ハルトの言葉に、二人はくるりと振り返ってから飛んでくる団子をばしっとつかむ。見事に、串の部分を。
 ハルトはクライシスに抱えられたまま拍手をし、しきりに「すごいですね」と感心する。
「食べ物を無駄にするのはよくねぇな」
 クライシスはそう言い、団子をハルトに手渡す。ハルトは「あ、いただきます」といいながら、団子に食らいつく。あまりにいい食べっぷりに、梛織は自らが取った団子もハルトに手渡す。
「にしても、どうしてハルトを連れ戻しに来た奴らは、しきりに出店商品を使ってくるんだ?」
 梛織の疑問に、ハルトは「そうですね」と口をもぐもぐさせながら答える。
「彼らはボディガードや雇われ警備員ですから。仕事上で発生した被害金は、全て僕の家が支払う事になっているからですよ」
「いやいや、そうじゃなくて!」
 お金の問題じゃない、と突っ込む梛織に、クライシスが「言い訳になるからだろ」とあきれたように言う。
「後で警察が来たとしても、出店の商品が飛び交っているだけならただの喧嘩だと言い張れるだろ? 万が一ハルトに当たってもいいようにってのもあるだろうしな」
「そこまで考えてるなら、投げないで欲しいよな」
「全くだ。食べ物を粗末にするのは」
「それはもういい!」
 梛織が突っ込むのと同時に、今度は前からも黒服を着た男達がやってきた。ハルトは彼らを見て「あ」と呟く。
「お二人とも、本格的になるかもしれませんよ」
「え、何でだ?」
「僕の家じきじきに抱え込んでいる、私設武装隊がやってきましたから」
 ハルトの言葉に、クライシスと梛織は同時に「は?」と尋ね返す。そして、それとほぼ同時にガチャリという重く冷たい音が響く。
「やばっ!」
 クライシスはそう言うと、梛織に「飛び込め!」と叫びながらハルトを抱えた。梛織はその声に先導されるように、クライシスと同時に右側にあったガラス張りの店へと飛び込む。
 がっしゃーん!
 タタタタタタ!
 二人がガラスを割って飛び込む音と共に、銃弾が軽快に打ち込まれる。
 梛織は自らの体についたガラスの破片を振るいつつ「おい」と低い声を出す。
「どういう事だ? 言い訳はもういいのか?」
「いいみたいですね。あの銃弾、一応麻酔銃なんですけれど」
「麻酔銃としての役割よりも、れっきとした殺しの道具として働いているけどな」
 ハルトの言葉に、冷静にクライシスは突っ込む。なるほど、麻酔銃とは思えぬ銃弾幕が張られている。クライシス達を追いかけてきていたボディガードや雇われ警備員が、それぞれ「うお」とか「わあ」とか言いながら、ばったばったと倒れていっている。
「死なないようにはなっているみたいです。痛いですけど」
「痛いだろうな。見ているだけで、めっちゃ痛そうだもんな」
 どこからどう突っ込めばいいのか分からない梛織がそういうと、クライシスが「梛織!」と叫ぶ。梛織が慌てて振り返ると、今度は刀を持った黒服の男達が立っていた。慌てて男達のいない方へと逃げようとすると、クライシスの後ろにも男達が立っている。
 つまりは、すっかり囲まれたという事で。
「ええい……しつこい!」
「いい加減にしやがれ!」
 梛織とクライシスは、同時に叫び、同時に男達に蹴りを食らわせる。
 左足を主軸とした右足の回転蹴りを、ほぼ同時に。
 二人の蹴りを受けた男達は、ばたばたとその場に膝をつく。
「お二人とも、よく似た技を使うんですね」
 ハルトの言葉に、梛織は怪訝そうに「そうか?」と言い返す。クライシスは肩をすくめ「俺の方が多く倒してるけどな」と付け加える。
「いえいえ、お二人ともすばらしいです」
 嬉しそうにハルトが手を叩くその瞬間、男の一人が「うおおお」と叫びながら突進してきた。それを呆気なく梛織が交わし、ついでに足をすっと出して躓かせる。
 すると、男は綺麗に引っかかり、刀を持ったままハルトの方へと倒れこむ。そのままでは、ハルトの体を突き刺さんばかりに。
「ばっ……!」
 梛織は慌てて倒れる男を蹴飛ばそうとしたが、他の男に阻まれてそれがままならない。ハルトはというと、目を大きく見開いて刀をじっと見ている。
 咄嗟の事で、足が動かないのだ。
「ハルト!」
 クライシスの声と共に、ぼたり、と赤い血がクライシスの左肩から滴り落ちる。
 ハルトをかばった際、刀に突き刺されたのだ。
「おい、クライシス!」
 目の前の男を蹴飛ばし、梛織が声をかける。クライシスは「バーカ」と言い、ハルトの頭をぽんと叩く。
「大丈夫か?」
「は、はい。クライシスさんは」
「こんくらい大丈夫だ。まあ、ちょっと徹底的に面倒にはなったが」
 クライシスはそう言い、目の前の男を蹴る。背中から、ハルトの「でも」という声が聞こえる。
(おとなしくしてればいいのに)
 いざとなったら動けなくなるんだから、じっと、大人しくしていればいい。それなのに、少年という生き物はそれを守らない。
 ハルトだけじゃなくて、クライシスと共にいた少年も。そういえばよく似ているし、とクライシスは苦笑をもらす。
(全く……)
 頭を軽く振り、クライシスは「梛織」と声をかける。
「きりがないから、行くぞ!」
「どこにだよ?」
 梛織の疑問に、クライシスはハルトを見て、にっと笑う。
「もういいよな、ハルト」
 ハルトはしばらく考えた後、申し訳なさそうな表情をしながら微笑む。静かに「はい」と頷きながら。


 クライシスが向かったのは、ハルトの屋敷だった。なんてことはない、少年は非日常というものを味わってみたかったのだという。
 広く大きな屋敷は、不自由なく生活できる。だがしかし、実際に自分ひとりだけで外の世界というものを見たことは無かったのだ。
 だからこそ、家出をして外の世界を見たかったのだという。
「じゃあ、さっさとあのボディガードやらと一緒に帰っても良かったんじゃねぇか?」
 梛織の疑問に、ハルトは「とんでもない」という。
「それでは、外の世界を見ただけになります。体験したわけでも、心躍らせる冒険があったわけでもないのに」
 心躍るねぇ、と梛織は苦笑をもらす。
「僕は楽しかったですが、クライシスさんに」
 ハルトはそう言って、ちらりとクライシスの左肩を見る。屋敷の者によって巻かれた包帯が、痛々しい。
 クライシスはハルトの目線に気付き「なんてことねぇよ」と答える。ついでに、ぽん、と軽く頭を叩いて。
「こんなのはすぐ治る」
「でも」
「そんなに心配なら、綺麗に治ったところを見せてやろうか?」
 冗談交じりに言うクライシスの言葉に、ハルトはにっこりと笑って「是非」と答える。拍子抜けしてしまったようなクライシスの表情に、思わず梛織は吹き出してしまった。
 必ず治った証拠を見せると約束した後、二人はハルトの屋敷を後にする。その帰り道、ぼんやりと夕日を眺めるクライシスに梛織は「なぁ」と話しかける。
「映画の世界が、恋しくなった?」
 梛織は、クライシスがハルトくらいの少年と共に過ごしてきたことを知っている。だからこそ、同じような状況に陥った今回で、映画の世界を思い返したのではないかと思ったのだ。
 梛織の問いに、クライシスは「さぁな」とだけ答える。
「それよりも、今日壊したものの請求書は、あの家に送っとけよ」
 相変わらずのクライシスに、梛織は「はいはい」と答え、足早に歩くクライシスの後を追った。
 クライシスは「もういいよナ」と呟き、包帯を取ろうとしていた。それが「早くハルトに会いたい」と言っているように見えて、梛織は思わず吹き出してしまうのだった。


<その後、右足の蹴りが飛んできて・了>

クリエイターコメント はじめまして、こんにちは。
 この度はプラノベのオファーをいただきまして、有難うございます。

 デジャヴとジャメヴ、という言葉がしっくりくるお二人だな、と思って、タイトルをつけさせていただきました。
 テンポよく進むように心がけましたが、いかがでしたでしょうか。お二人と一少年の掛け合いのプレイングが素敵でしたので、とても書いていて楽しかったです。
 少しでも気に入ってくださると嬉しいです。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
 それでは、またお会いできるその時迄。
公開日時2008-03-07(金) 20:20
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