★ Mission ∞ 〜KIMODAMESHI〜 ★
クリエイター神無月まりばな(wwyt8985)
管理番号95-2353 オファー日2008-03-19(水) 18:31
オファーPC 梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
ゲストPC1 クライシス(cppc3478) ムービースター 男 28歳 万事屋
ゲストPC2 流鏑馬 明日(cdyx1046) ムービーファン 女 19歳 刑事
ゲストPC3 桑島 平(ceea6332) エキストラ 男 46歳 刑事
ゲストPC4 岡田 剣之進(cfec1229) ムービースター 男 31歳 浪人
<ノベル>

ACT.0★SYUTOME The Mission

 その日、クライシスが銀幕ジャーナル編集部にふらりと顔を見せたのは、別に梛織をからかうネタを全力で探そうだとか、梛織がものすごく嫌がりそうな記事だナこれ! みたいな選りすぐりバックナンバーをまとめて借りて反応を楽しもうだとか、資料室の奥深く三重のロック付き金庫に眠っているといわれる、編集長が女装ムービーハザードに巻き込まれたときの伝説の写真(記録者注:伝説ですんで裏付けはないのよ)を入手してポスター大に引きのばして梛織に見せてやろう三日三晩うなされるぞだとか、そんな意地悪さんな姑根性を爆裂させたわけではなくって、単に、対策課に持ち込むまでもない軽度の事件で、自分は面白そうだけど梛織のほうは涙目で抵抗しそうな興味深い話を記者から聞き出せるといいナ〜と思っただけである。あ、やっぱ姑根性だ。
 そんなお姑さんにジャーナルの眼鏡っ娘記者は、とある情報をもたらした。
「面白そうな話……? そうですね、銀照寺の幽霊話とか、どうですか?」
 銀幕市の北西部、住宅街がとぎれかけたあたりに、『銀照寺』という浄土真宗系の小さな社寺がある。
 その墓地にまつわる、噂であった。
「……ふぅん」
 クライシスはほくそ笑む。
 どこからか、ミッションスタートの笛の音(なんで笛?)が、ぴぃぃ〜〜と鳴り響いた。

ACT.1★事件はお寺で起きている……らしいよ?

 もしも日常生活を脅かす不穏な事態が、日本全国の良き一般市民に発生したならば、頼るのはふつう、世界一有能と言われる日本警察であろう。
 それはもちろん、銀幕市においても例外ではないはずである。んが、いかんせん魔法に掛けられちゃったこの街は、日常と非日常が素敵に無敵に輪舞曲状態である。そのため、ナンかあると市民が駆け込むのは、銀幕署の前に『対策課』だったりするのだ。
 そのため、刑事課の流鏑馬明日と桑島平も、対策課の担当職員の依頼を受け、案件の解決に協力するなど、非日常ゆえの業務も増えている。とはいえ、凶悪犯罪系ムービースターを凌駕するほどの一般凶悪犯は相対的に減少、というか銀幕市の劇場型犯罪者の皆さんてば、なんかここ2年ばかりおとなしくなっちゃったというか、「どんなに頑張ってもさー、ヴィランズがロケエリ展開するみたいな派手なヤマ踏めねぇもんなー。やる気なくなるよなー」と、労働意欲を喪失してるみたいなんである。
 つまり銀幕署が扱う一般犯罪の案件割合は、対策課絡みの事件に押されがちになっている。
 そして、のべつくまなく発生している対策課関係の依頼が、エアポケットに入ったようにぱったりと止んだ日は、明日も桑島も手持ちぶさたになったりするのだ。
 某精神科医とのホットラインになっている明日の携帯が鳴らなければ、なおのことである。
「暇ね……」
「暇だな」
 五月の眩しい日射しが窓からふりこぼれる午後12時半、明日と桑島は、某ラーメン屋から出前したランチセットの、味噌ラーメンをすすり餃子をほおばっていた。
「でも、警察が暇なのはいいことよ」
「まぁな」
 ……しかーし。
 読者諸氏にもお心当たりがあろう。刑事さんたちのこの手の会話は、新たなる事件が飛び込む前兆&嵐の前の静けさだというのが作劇上のお約束であることに。
 ご想像通り、メイヒたんと桑島さんがラーメン食べ終わったとたんに、とある人物が、相談ごとを引っさげて現れちゃったのだった。

「……どうしました? まるぎんの店長さん」
 刑事課を訪ねてきたスキンヘッドの壮年男性を見るなり、明日はついそう言ってしまった。なんとなれば、彼は、銀幕ふれあい通り角でスーパーを営業している人物によく似ていたからであるが……。
「いや、違うぞ明日。このひとは、銀照寺の住職だ」
「ああ……。じゃあ、店長さんのお兄さん? 店長さんて、お寺の息子だって聞いたことあるけど……」
 そう、実はスーパー『まるぎん』の店長の実家はお寺であった。読者諸氏はそんなん初めて聞いたよと仰るであろうが、銀幕ジャーナルの記録者向け資料にはこっそり記載されている事実だ。でも全然ストーリーの根幹に関わらないので、覚えなくていいのよ。
 ともあれ、桑島に勧められた椅子に、住職は腰を降ろす。
「とにかく話を聞こう。しかしよく似てるなぁ」
「いや、私のほうが長身でスリムで声も良いと、銀幕市の奥様がたからの評価も高いのですよ」
 銀照寺の住職は、たしかに自己申告通りの美声であった。この声でお経を読んだらさぞ映えるだろうと思われる。
「なのに何故、弟にはしっかり者の奥さんがいて、拙僧は未だに独身なのでしょうか。教えてください若くて美人の刑事さん」
 桑島のほうはスルーし明日だけを見つめて訴えるあたり、やっぱこの住職、店長のお兄ちゃんだけのことはある。
「あの……。そういう相談なら、銀幕署ではなくて『綺羅星マリッジセンター』へ行かれたほうが」
「あそこはセレブ御用達の結婚相談所だから入会金も高いし男は年収差別があるので……。いえ、結婚相談じゃないんです」
 こほん、と咳払いをし、住職はようやく本題に入った。
「実は……、ウチの墓地に幽霊が出るという噂が広がってしまって……」
「……幽霊、ですか」
 聞いたとたん、明日の表情がすうと冷ややかになり、声に抑揚がなくなった。
 メイヒたん、そーゆーの超怖いからなのだが、傍目には、非常に冷静な落ち着きを保っているように見える。
「でも、そういう噂はお寺だとどうしても出てくるでしょうし、お墓に怪談はつきものですよね?」
「それが、ありがちな範疇を超えているんです。今までの目撃例だけでも、『わたしの足、どこにあるんでしょう』と言いながら現れる白い着物の半透明の女性、調子はずれの手鞠歌を1番から10番までエンドレスで歌い続ける6歳くらいの女の子、『先輩! 第二ボタンください!』と詰め寄ってくるお下げ髪にセーラー服の少女、ロココ調に髪を結い上げて羽扇を持ち『パンがないならお米をお食べ! その方がダイエットにもいいのよ』と叫ぶドレス姿の女性、大日本帝国陸軍将校を名乗る男性、西洋風鎧姿の騎士――概して女性のほうが能弁なようですが、和洋入り交じって何が何やら」
「そんな……。ひどいでっちあげですね」
「ま、実際に出るんで仕方ないんですが。そういうものに興味を持つ若者もいるんですね。夜遅く、肝試しに来られたりして困ってるんです」
「そうですか。そんな噂を真に受けて……。わかりました、今夜から、巡回ルートに銀照寺さんを追加しますね」
 メイヒたんの耳は、住職がさらっと言いやがった『実際に出る』の部分はキャッチしなかった。
 あくまでも、無軌道な若者の暴走を憂う公務員のスタンスである。
「若いやつらの深夜の肝試しは、風紀上も安全上もよろしくねぇよなぁ」
 桑島のほうは、幽霊なんか全然ちっともまるっきり怖くない。
 そんなわけで明日と桑島は、市民を守る警察官として、肝試し阻止のため、銀照寺のパトロールを請け負うこととなった。

ACT.3★依頼、発生

 ――さて。
 場面変わって、こちら真昼の銀照寺である。
「……住職? 住職は留守か?」
 岡田剣之進は、ときおりこの寺に座禅に来ている。ティッシュ配りもハンバーガーショップでのアルバイトも一休みしての修行である。
 かつて釈迦は菩提樹の下で坐禅をし、七日七晩の禅定ののちに、悟りの境地に入ったという。
 禅の目標は「我に在る菩薩」を「見」るところにある、のだそうだ。武士殿、やるときはやるのである。
 しかし、今日は住職の姿が見えない。
 勝手知ったる寺のこととて、別にひとりで座禅を組んでもかまわないのだが、いちおう断りを入れねばと声を掛けてみたものの、誰の返答もない。
「あー、剣ちゃんだー。こんなとこで何してんの?」
「お店にいないんだもん。つまんなかったから帰ってきちゃったよ」
 かわりに境内から響いてきたのは、色とりどりのビーズをこぼしたようなきらきらした声である。
 見れば、ハンバーガーショップによく来る女子高生たちであった。いまどきの娘さんらしく思い切りよく制服のスカートを短くしている彼女らは、剣之進がハンバーガーを売っている図が物珍しくて仕方ないらしく、彼を見るためだけに店にやってくるのだ。岡田殿もなかなか隅に置けない。
「おお、今学校の帰りかな? あんたたちこそ、何で寺に?」
 剣之進は愛想良く答える。もー住職なんかどうでもいいっていうか、座禅なんかしてる場合じゃないっていうか――いやいや、うら若いおなごに話しかけられて冷たい態度を取るなど言語道断、武士の矜持に関わるというものである。それそれ、そうなのである。
「んー、このコのカレシがねぇ、最近、友達とここで肝試ししてるらしいのね」
「なんかいろいろ幽霊出るから超刺激的とか言ってぇ。信じられないー」
「夜、騒がしいから住職さんも困ってるんだって。銀幕署に相談に行くっていってたよ」
 寺の裏手に広がる墓地をそっと覗いて、少女たちは顔を見合わせる。
「昼だと平気かなって思って見に来たけど、なんかねー」
「夜になったら幽霊出るって思っただけで、怖いよね」
「誰か、退治してくれればいいのにー。そしたらカレシも肝試しなんかしなくなるし、お寺も静かになると思うんだけどなぁ」
「じゃあね、剣ちゃん」
「またお店行くねー」
 言いたいことだけ言って、女子高生たちはさっさと帰ってしまった。
 んが、ふぇみにすとを自認する武士殿にとって、これはれっきとした依頼である。誰が何と言おうと、そうなのである。
「よし、おなごたちからの幽霊退治依頼、俺がしかと引き受けたぞぉぉーー!」

 † †

「やっぱり、幽霊と言ったら肝試しだよナ!」
「嫌だぁぁぁーーーー!!!」
 そんなこんなで、お姑さんクライシスに首根っこ押さえられて抵抗しながら絶叫しているのは、誰あろう我らがツッコミプリンス梛織たんである(たん付けッ?)。
 しかしまあ、この展開を見るに気の毒だけど梛織さん絶対逆らえないよねクライシスさんに引きずられて銀照寺行っちゃうよねそんであーんな目やこーんな目に遭っちゃうよねうわぁ可哀想、と、読者諸氏は胸の前で両手組んで思ったであろう。
 ……うむ。聞きましたか梛織さん。読者の期待を裏切ってはいけませんよ。

 それでは舞台を一転し、満月の照らし出す深夜の墓地へと参りましょう。
 皆様、おきばりやす。
 
ACT.4★夜の墓場の大騒動

 懐中電灯もいらないほどの、月明かりである。
 鬱蒼と茂る境内の樹木を縫い、白銀の光に浮かび上がる社寺は、昼間の穏やかさとはがらりと様相を変えていた。静謐な墓地に佇む石柱は、現世ではないどこかへの道標のようにも見える。
 ゆらりと異形のものが現れて手招きしても不思議ではなく、たしかに、ある種の冒険心をそそりそうな吸引力を持ってはいる。
 好奇心旺盛な若者たちは、今夜もいそいそと肝試しに来た。
 しかーし、今日の銀照寺は公式非公式を含めて警備体制が違う。
「もう、夜も更けたわ。安易な気持ちの外出は危険よ。お寺にも迷惑だし」
「おまえらとっとと帰れっ! 風呂入って寝ろ!」
 彼らは境内に足を踏み入れるなり、パトロール中の明日と桑島に遭遇した。そして思いっきり諫められ、お説教もされて、渋々肝試しをあきらめたのだった。
 市民に助けを求められた警察官としては、ひとまずこれで義務を果たしたことになろう。
「こちらも引き上げましょうか」
「連中は帰ってくれたし、もう俺たちの仕事はないだろうな。墓地の様子をざっと確認して終わりにするか」
 刑事コンビはすでに撤退ムードだった。特にメイヒたんのほうは、なーんかさっきから、白っぽい人影みたいなものがふわふわしてるよーな気になっていて、(月明かりが乱反射してるのね。こんなに目がちらつくなんて、疲れてるのかも知れないわ……)とか思ってたので、引き上げるのに大賛成だったのだが……。
「ありゃ。墓地に幽霊がいるぞ」
 桑島さんたらひどい。いきなりそんなことをはっきりきっぱり。
「そんなもの見えないわ。気のせいよ」
 ぴきーんと硬直しつつ、メイヒたんもはっきりきっぱり返す。
 しかし、見えないと主張し続けるのは無理があった。なぜならば、桑島さんの視線の先には白い着物姿で足のあたりが半透明な女性がいて、しかも、むこうのほうから近づいてきて、あまつさえ話しかけてきたからである。
 住職から聞き及んでいたとおりの台詞で。

「わたしの足、どこにあるんでしょう?」
 ひた、と幽霊に見据えられて、メイヒたんピーンチ! 読者も固唾をのんでいるぞ。
「落とし物をなさった場合は、すみやかに遺失届をご提出くだいね。あなた、お名前は?」
「鞠花です」
「……そう(すんごく不吉な響きだと思ったが顔には出さない)。ああ、ご住所は言わなくても結構です。遺失届は、警察署、交番、駐在所、どこでも受付してますし、ネットからの電子申請にも対応してますから」
 明日は、白い着物の女性を、いきなり現れた生身の市民だと思いこむことにより、この場を切り抜けるつもりらしい。超絶技巧のボケに、桑島は冷静に突っ込む。
「いや、申請されても担当が困ると思うぞ。落としたわけじゃないしな」
「……そうですか……。わかりました。もう少し自分で探してみます」
 半透明の鞠花は、素直な性格のようだった。何となく納得したようで、すう〜と消えていく。
「身のこなしの素早いかたですね。夜道は暗いですから、お気をつけて」
 明日は平然と(見かけ上は)手を振って見送った。
 
 † †

 で。
 梛織とクライシスのほうはと言えば。
 ただいま、クラシックスタイルなお下げ髪にセーラー服の少女幽霊が出現いたしまして、「先輩! 第二ボタンください!」と詰め寄られている最中でございます。
「うわ? びっくりした」
「第二ボタンとか言われてもなぁ」
 うるうるした瞳で見つめられ、梛織もクライシスも、幽霊というよりは見知らぬ可愛い女の子から告られたみたいな当惑顔である。
「うーん。ごめんね。この服のボタン、予備がなくてさ」
 愛用の黒いジャケットを引っ張る少女を、梛織はなだめすかす。
「俺もボタンはやんない。特に第二ボタンはナ! 好きな子にやるもんだって風習があるらしいから、なおさらだ」
 クライシスは俺様全開口調で冷たくあしらう。
「……え〜〜〜? 茉莉奈、先輩に第二ボタンもらえないと死んじゃう」
「もう死んでるじゃん。て、まさかそれが死因じゃないだろうね? だったら」
 きつい言い方だったかな、と、ツッコミプリンスは気遣いを見せたが、セーラー服の茉莉奈ちゃんは、ぶんぶんと首を横に振る。
「ううんー。あのね、卒業式に憧れの先輩にボタンもらいに行ったらね、もう他の女子に制服どころかワイシャツまで全ボタンを引きちぎられてて、茉莉奈のぶん、残ってなかったの」
「モテる先輩だったんだ」
「卒業して就職して結婚して子供が生まれて孫ができても、先輩に第二ボタンもらえなかったことだけがずっと心残りでね。だから99歳で大往生したあとも、ボタンもらえるまでこの年でこの格好のまま、成仏できないんだー」
「なるほど、事情はわかった」
 クライシスは大きく頷くやいなや、梛織のジャケットの、上から二番目のボタンをぶちっと引きちぎった。
「俺のボタン〜〜〜〜!?」
「ほら、やる」
 ひょいと空中に放り投げたボタンを、茉莉奈ちゃんは手を伸ばしてキャッチする。
「ありがとう、先輩」
 嬉しそうに微笑むセーラー服の少女の姿は、月光に溶けるように薄れていく。
「これで『成仏』できたってことか。うん、いいことをした」
「あのさクライシス。このジャケット1点もので、だからもう取り寄せもできなくて」
 俺のボタンーーー! という絶叫が、墓地にこだまする。
 その声は、明日と桑島の耳にも届いた。
「あら? 梛織さんとクライシスさん」
「明日さんと桑島さんだ。……助かった」
 何がどう助かったのかはともかく、クライシスとふたりっきりで肝試しするよりは事態が好転したような気がする。
 梛織はようやく、ほっと息をついた。
 
 † †

 めでたく(???)ミッションコンビと刑事コンビが合流を果たしたとき。
 剣之進は、腕利きの剣士らしい活躍をしていた。
 墓地に足を踏み入れた武士殿の前に最初に立ちふさがったのは、中世ヨーロッパ風の鎧を纏った騎士である。
「私の姫を奪ったのはそなたか! 決闘を申し込む」
 と叫ぶなり、斬りかかってくる。
 剣之進は、
「姫は俺を選んだのだ。あんたには渡さん!」
 と、ええと、当該の姫君がどこのどなたでいまどこにいらっしゃって彼女の意思はどうなのかとかそんな細かいことはおいといて受けて立ち、あっさり負かしてしまった。そして騎士はといえば、
「無念だ……。しかしそなたのように強き剣士なれば、かの魔王より姫を守ることも出来よう。あとは任せたぞ」
 自己完結して神の御許に旅立っていったのだ。
 そんでもって入れ替わりに、
「我ハ大日本帝国陸軍ノ将校ナリ! ……格好だけな。この衣装はアメ横で買ったんだ」
 みたいな、なんか……、ちょっと……、武士殿的には幽霊だろうが生身だろうがあんま関わりたくないタイプのかたが出現した。
 剣之進はほんの一瞬も逡巡せず、
「軍人を模するなら、節度と覚悟を心得よ」
 大変すがすがしい剣さばきで容赦なく一刀両断。幽霊を刀で退治できるの? とか、あのー、敵意はなかったんじゃ? 云々は気にしない。どうせ相手は男だし。
 ――そして、今度は。
「おーほほほほっ! パンがないならお米をお食べ!」
 高ビーな笑い声と、むせかえるような薔薇の香水。
 羽扇をくゆらしながら姿を見せたのは、ロココ風のゴージャスドレスに身を包んだ女性である。
「うむ、はんばーがーもたまには良いが、基本は米食だな」
 武士殿は大きく頷いて、刀を鞘におさめる。
「その方がダイエットにもいいのよね」
「米は腹持ちが良いからな。すたいるを気にするおなごは、すべからく米食に切り替えるべきだと思うぞ」
 さすがはチョコレートダンジョンでチョコモンスターのボクっ娘カマキリと話し込んだ実績をもつ岡田殿。相手の素性がどうあれ女性には超ジェントルである。
 ふつーに話を続けていたところ、ミッションコンビと刑事コンビのほうが気づいてやってきた。
「……大立ち回りがあったようね。テロリストが侵入したのかしら? 至急SATの要請を」
「せんでいい。SATは幽霊相手の訓練は受けてないだろうしな」
「桑島さん、結構ツッコムね」
「俺がフォローしないとメイヒのボケが大気圏を突き抜けそうだからなぁ。梛織も幽霊とクライシスを向こうに回して頑張ってるじゃないか。苦労してんだろ?」
「わかってくれる? いいひとだね桑島さん!」
「そっか。刑事さんたちの会話、ボケ×ツッコミ漫才だけじゃなくて、相棒的フォロー要素もあるのか。俺がしょっちゅう梛織を気遣ってフォローするのに似てるナ!」
「クライシスがいつ俺をフォローしたぁぁ! 第二ボタンーーー!」
「……おのれ! 見目麗しいおなごに憑く幽霊がそこにもいたか! 覚悟!」
「俺は人間だ! 銀幕署の桑島だ! 刀を抜くなぁ!」
  
 † †

 そして五人の戦士(ん?)が一堂に会すことにより、その場はいっそう、珍妙な盛り上がりを見せた。
「いやいや失礼した。しかしこのように皆と直接話をするのは得難い機会だ。良い月夜であるし飲み明かしたいところだが、花見の季節が終わってしまったのは残念だな」
 武士殿はまるで宴会席に来たかのように、墓地の空きスペースに悠然と胡座をかく。
「おーっほほほほ。なんて楽しい方々なのかしら。ちょっと待ってね、お友達を呼んでくるわ」
 マリリーン、と名乗ったロココ風幽霊は、すっと姿を消したかと思うと、6歳くらいの女の子幽霊を伴ってまた現れた。
「この子、まりえって言うの」
「よろしくー!」
 不吉っぽい名前の女性しか出ないのか! と一同、ボケ属性もツッコミ属性も心をひとつにして思う。
 そんなギャラリーには斟酌せず、まりえは手鞠をつきながら歌い始めた。

 銀幕てまり、てんてまり♪
 ひとつとせー、銀幕市、男性人口多いのね〜。濃い男のひとがいっぱいね〜♪
 ふたつとせー、タクシー運転手さんもマニア向け〜♪ カフェのウエイトレスさんどこ行ったの〜?
 みっつとせー、いつも忙しい対策課〜、美形の無駄遣いね〜〜♪
 
「……ずいぶんリアルな実情を反映してる歌詞だね」
「ぜんぜん手鞠歌っぽくないけどな」
 身につまされるような顔で梛織は突っ込み、クライシスは腕組みをする。
 しばらく無言でトンデモ手鞠歌を聴いていたクライシスは、やがてぼそりと言った。
「なあ、まりえ」
「なぁに」
「おまえ、音痴だな」
「………………hんkymっknうわぁぁぁぁぁんっっ」
 お姑さん、シビア。
 あまりのことに、まりえちゃんは泣きダッシュし、どっか行ってしまった。
 消え際にこてっと転んだので、飛んだ手鞠が梛織の顔面を直撃するというおまけを残して。

 その後。
 マリリーンが新たなるお友達を呼び、岡田殿は女性に親切に男性には斬りかかり、なおもSATを呼ぼうとするメイヒたんを桑島さんはツッコミ力で押しとどめ、梛織たんは息切らしながらも律儀に幽霊とお姑さんにツッコみ、マイペースなクライシスは、いい感じのミッションだナ! と上機嫌で――

(何だか今夜は一段と、墓場が騒がしいな……)
 床についていた銀照寺の住職は、目をこすりながら起きあがり、様子を見に外へ出た。

 ……当分、安眠妨害されそうな光景が展開していることは、知るよしもなく。
 

 ――Fin.

クリエイターコメントもんのすごーくお待たせいたしましたぁぁぁ!
ミッションコンビさま、刑事コンビさま、岡田どの。この度は肝試し(????)お疲れ様でしたー。
世間では、ともに危機に遭遇して乗り越えると結束は固まり、ときには恋も芽生えると云われております。
恋はともかく、皆様がたに深い友愛が芽生えましたことを強引に確信しつつ、この記事を鬼の編集長に提出したいと思います。
これからが記録者の肝試し……きゃぁぁぁ〜〜ごめんなさぁぁ(銀幕ジャーナル方向から悲鳴)
公開日時2008-05-29(木) 19:30
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