★ 帰結する場所 ★
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号105-8099 オファー日2009-06-09(火) 15:50
オファーPC クライシス(cppc3478) ムービースター 男 28歳 万事屋
<ノベル>

 世界の隅の、忘れられた町。そこに足を踏み入れた瞬間、クライシスは舌を打つ。
「しけた町だ」
 ぐるりと見渡してみても、何も無い。ぽつぽつと住宅があり、その間に数えるほどの店がある。小さくて、何も無い町だ。
 本来ならば、こんな場所に訪れる用事など無い。別の大きな都市に向かう途中で、乗っていた車が壊れてしまったのだ。車を手配した会社に文句をつけつつ新たな車を頼むと、これから三日程かかるという。それまで、近くの町で待っていて欲しい、とも。
 ならば、と公共交通機関を訪ねると、町にはバスが一応はあるのだという。
 一週間に一度だけのバスが。
 運悪く行ったばかりであり、乗るためには更に一週間かかると聞き、クライシスはより一層の文句をつけると、町に唯一あるホテルを手配してくれ、宿泊費なども負担してくれるという。
「金の問題じゃねぇだろ……」
 クライシスは再び大きな溜息をつき、手配してくれたというホテルへと向かう。見るからに、ホテルと言っていいのか疑問になってくる小ぢんまりさだ。
 軽くうんざりしつつ、クライシスは受付で手続きを行い、部屋へと向かう。旧式の鍵を回し、部屋の中に入ろうとすると、後ろから「どん」と押された。
「なっ」
 文句を言おうとした次の瞬間、ドアが閉まる音がした。ご丁寧に、鍵までも。
「な、何だよ、一体!」
 叫ぶと、目の前には少年がドアに耳を付けたままで立っていた。文句を言うクライシスに「しっ」と人差し指を口に当てた後、ようやく息をついた。
「……突然、すいません」
「本当だナ!」
 髪をくしゃくしゃとしながら、クライシスは言う。少年は再び「すいません」と頭を下げ、じっとクライシスを見つめる。
「あなたは、何でも屋をやっているという、クライシスさんでしょう?」
 少年に言われ、クライシスの表情が一変する。苛々していた表情から、冷たい表情へと。
「何故、俺を知っている?」
 クライシスの豹変に、少年はごくりと唾を飲み込む。そして、意を決したように口を開いた。
「調べさせていただきました。あなたに、依頼したい事がありましたから」
「俺に?」
 少しだけ緊張を解いたクライシスに、少年は大きく頷く。
「僕は、アキトトといいます。僕の親の敵を、取ってもらいたいのです」
「敵だと?」
 アキトトは頷き、一枚の紙をクライシスの前に置いた。白紙の小切手だ。
「それに、好きな額を書いてもらって構いません」
「何だと? お前、どうしてそんな大金を」
 クライシスの問いに、アキトトは説明を始めた。
 アキトトは由緒正しき家柄の人間であり、先日、両親を事故で失った為に家督を継ぐことになった。悲しみにくれる間もなく両親の遺品を整理していたところ、事故に関する不穏な動きを見つけたという。
「調べていくうちに、父の腹心の名が挙がってきました。ですが、彼の周りには中々近寄れないんです。僕が両親の事故を調べている事を知ってから、ますます彼の周りは不穏になっていっていて」
「それで、俺、か?」
「そうです。料金は高いけれど、盗み、殺し、猫探しなど、善悪問わず仕事をこなすと聞いて」
 クライシスは、空白の小切手を見つめる。そして、大きく息を吐き出す。
「随分と、用意が良いな。俺がこの町に来たのは、単なる偶然だというのに」
「違います」
「何だと?」
 きっぱりと否定するアキトに、クライシスは思わず聞き返す。アキトはにこやかに笑い、口を開く。
「仕事を終えたという情報を入手したので、レンタルカーに細工を施しました」
 アキトの言葉に、クライシスはがっくりと項垂れる。
「お前な……」
「失礼は承知でしたが、堂々とお会いするわけには行きませんでしたから。僕が動けば、相手も動き出すでしょうから」
 クライシスは、小さく「なるほど」と言って肩を竦めた。道理で、随分と手筈が良かった筈だ。ホテルの部屋の予約ですら、アキトが手を回したのだろうから。
「一先ずは、分かった。その腹心とやらをとっちめればいいんだろ?」
「はい。そして、僕も同行させてください」
「なっ」
「僕の親の敵、です。だから、是非僕も」
 クライシスは絶句の後、いかに危険かを説明し、自宅で待機しろと諭そうとした。腹心ならば、捕まえて連れて行ってやるから、と。
 だが、アキトは一歩も引かなかった。同行したいと、言い続けたのだ。そうして、最終的にクライシスは「勝手にしナ!」と叫ぶこととなったのだった。


 二日後、クライシスはアキトを庇いつつ、廃屋にやって来ていた。アキトから依頼を受けて、たった二日間で、様々な事があった。
 様々な事、と一言で言えばたやすい。しかし、その様々な事の中に「警察に追いかけられる」や「マフィアに追いかけられる」や「とにかく色々追いかけられる」が含まれているのだから、たまったもんじゃない。
 ようやく幾多の困難を乗り越えた後(逃げ切れた、とも言う)に、裏切った腹心が隠れ家としている廃屋を突き止めたのである。
「このドアの向こうに行けば、この依頼は終了だ」
「まだ終わってません。敵を、取るまでが依頼なんですから」
 怪訝そうに言うアキトに、クライシスは「そりゃそうだナ!」と言って笑う。しかし、アキトは笑わない。顔を曇らせたまま、握り締めた手をカタカタと小刻みに震わせている。
「怖いのか」
「怖く、なんて」
「怖いんだろう?」
 クライシスの問いに、アキトはぐっと唇を噛み締める。無理もない。たった二日間で、様々な場面に遭遇してきたのだ。今まで、アキトが経験した事も無い、人から追いかけられたり、殺意を持って接してこられたり、悪意むき出しにされたり。
「無理はしなくていい。それが普通だ」
「クライシスさんは、怖くないんですか?」
「怖くない、といえば嘘になるな」
「クライシスさんでも?」
「当然だ。この俺でも、恐怖に駆られる事くらいある」
 嘘っぽい、と言って、アキトは笑った。クライシスは「失敬だナ!」と言った後、こん、と軽くアキトの頭を小突く。
「無理はしなくていい。俺は俺の仕事を全うするだけだし、お前は親の事を思い続ければいい」
 クライシスの言葉に、アキトは「あ」と言ってから再び手を握り締めた。
 親の敵を取る。たったこれだけの事を胸に抱き、ここまでやって来たのだ。クライシスを町に来るように細工をし、共にギリギリのところを動き、ようやく目的である腹心の所まで辿り着いたのだ。
「渡した銃は、持っているな?」
 クライシスが尋ねると、アキトはポケットから小さな銃を取り出した。護身用に、とクライシスがアキトに渡したものだ。クライシスは「よし」と頷き、ドアを蹴り開ける。

――だんっ!

 大きな音が響き、ドアが蹴破られた。それと同時に、部屋の中から銃弾の嵐が飛び交う。
「アキト、隠れていろ!」
 クライシスはそういうと、隙間を縫って銃を撃つ。タン、タン、と規則正しく放たれる銃弾は、着実に銃弾の嵐を止ませていく。
 銃声、叫び、呻き声。
 聞こえてくる音だけで、クライシスが的確に銃を持った人間を仕留めている事が分かる。間に「ひぃ」という情けない声が響いてくるのは、アキトの目的である両親の敵、裏切った腹心だろう。
 暫くすると、銃弾の嵐は止んだ。クライシスが全員しとめたのだ。クライシスは「ふう」と一息つき、様子を伺いながら中に入る。後ろには、アキト。
「ようやく見つけ出したぜ」
 こつ、と踏み出す。目の前には、銃を構えるクライシスを見て「ひぃ」と叫び声を上げる男がいる。既に、ボディーガードとして雇っていた者達は、皆床に伏せてしまっている。
「アキト、間違いないか?」
 ボディーガード達が皆倒れているのを改めて確認してから、クライシスはアキトに尋ねる。アキトは男を見、眉をしかめた後に「そうです」と頷く。
「この人が……こいつが、僕の、父さんと母さんを……!」
 アキトが叫ぶと、男は「は、はは」と笑う。
「お前、そうか……お前さえ、お前さえ殺しておけば」
 男は乾いた笑いを浮かべ、言葉を綴る。
 両親の下で働く事に、嫌気が差していた事。ばれないように横流しをしていると、それがばれた事。問い詰められたので開き直り、証拠を見せろといえば「証拠ならある」といわれた事。その証拠を奪う為、両親を殺した事……。
 傍で聞いているクライシスでさえ、耳を覆いたくなる数々の事実に、アキトはじっと耐えていた。そして「そうか」と最後に呟く。
「父さんが言っていた番号は、あなたを告発する証拠の入った金庫の鍵だったんだ」
 アキトの言葉を聞いた瞬間、男が「うおおお」と叫び、アキトに襲い掛かってきた。クライシスは咄嗟に男の足を撃つ。男は悲鳴をあげ、唸り、じろりとアキトを見る。
「殺せ」
 びくり、とアキトが震えた。男は痛む足を抱え、唸りながら、じろりとアキトを見つめていた。
「俺はもう、破滅だ。だったら、そう……さっさと終わらせてくれればいい」
 男の言葉に、クライシスは「どうする?」とアキトに尋ねる。
「お前が殺さないなら、俺が殺してやってもいいんだぜ?」
 アキトはゆっくりとポケットに手を入れ、あの小さな銃を取り出す。銃口を男に向け、唇を噛み締める。
 が、アキトは引き金を引かず、ゆっくりと銃を下ろした。
「いいんです。敵を取るというのは、殺す事じゃないから」
「いい判断だ」
 クライシスはにっと笑い、男を縛り上げる。床に転がっている、倒れたままのボディーガードたちも一緒に。
「後は、警察に任せるか」
「いいんですか? その、クライシスさんは……」
 恐る恐る言うアキトに、クライシスは「いいんだ」と言って、ぽん、とアキトの頭を撫でる。
「お前が決めた事だからナ!」
 遠くから、警察のサイレンが響いてきた。


 その後、クライシスはアキトに何も告げずに町を出た。レンタカーを運転しながら、胸のポケットから一枚の紙を出す。
 白紙の小切手だ。
 クライシスはそれを眺め、口元を綻ばせる。暫く眺めてから、それを大事そうに懐へと再びしまう。
 まるで、宝物みたいに……。

「お姑さん、夕飯だよー」

 クライシスは、はっとする。
 見つめる先のテレビ画面では、美しいテーマソングと共に、スタッフロールが流れている。手元にあるのは「Return The Mission」と書かれている、DVDのパッケージ。
「もうすぐ、帰るからな」
 パッケージに映る少年を見つめ、ぽつりとクライシスは呟く。そして、自分を呼ぶ声に「すぐ行くから、待ってろ!」と言い返す。
 どたどたと歩きつつ、胸ポケットにそっと触れた。
 皺の入った、白紙の小切手が入っている、胸ポケットに。


<帰る場所を思い・了>

クリエイターコメント お待たせしました、こんにちは。霜月玲守です。
 今回は、クライシスさんお一人でのプラノベをオファーいただきまして、有難うございます。

 映画内の世界を、好きなように書かせていただきました。
 少年の名前は、以前のノベルと対になるように名づけてみました。安直ですいません。

 少しでも気に入ってくださると嬉しいです。
 ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
公開日時2009-06-19(金) 18:10
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