★ そんな野菜パニック ★
クリエイター梶原 おと(wupy9516)
管理番号589-4791 オファー日2008-09-26(金) 00:01
オファーPC フェレニー(csap5186) ムービースター 女 8歳 幼き吸血鬼
ゲストPC1 ゆき(chyc9476) ムービースター 女 8歳 座敷童子兼土地神
ゲストPC2 ベアトリクス・ルヴェンガルド(cevb4027) ムービースター 女 8歳 女帝
<ノベル>

 商店街までお使いに来たフェレニーは、どうにか間違わずに商店街までは辿り着いたものの「その先」が分からなくて困っていた。
(お買物……、お使い……)
 パパに頼まれて、お使いに来た。今日の夕飯はカレーだ。カレーの材料を買って帰るのがフェレニーの「仕事」だと、それは理解しているのだが。
 生憎とフェレニーは「買物の仕組み」を分かっていなかった。お金を出したらそれと等価の商品を買える、というのはパパに聞いたが、果たして幾らで何が買えるのか、どこで何を売っているのか……。
 聞きに帰るのが、一番の良策なのは分かっている。分かっているけれど、したくない。
 だってパパは、フェレニーを信じて送り出してくれたのだ。彼女ならばきっと買物くらい何でもなくこなして帰ってくると思って送り出してくれたのに、分からないと帰るなんて恥ずかしいではないか。
(ここは何としても、カレーの材料を買って帰らないと……)
 意気込みだけならば、出かける時から変わっていないのだけれど。実際には商店街の入り口で立ち尽くすしかできていない。どうしようと視線だけきょろきょろさせて様子を窺っていると、
「これ、そこの黒い少女」
「何か困り事かの?」
 唐突に左右から声をかけられ、びくりと身体を竦ませながら振り返った。
 そこにいたのは、女王様風の威厳を纏った華やかな洋装の少女と、黒いおかっぱが可愛らしいどこか落ち着いた印象の和装の少女。二人とも年の頃ならフェレニーと同じくらいだろうが、ひどく対照的な外見のほうが目を引いた。
 その二人も別に知り合いだというわけではないらしく、互いに声をかけた相手をちょっと驚いた顔で見たがすぐにフェレニーに向き直って来た。
「何やら困っておるようだな。余が特別に助けてやってもよいぞ」
「ああ、目的は同じようだの。おぬしが困っておるのなら手を貸そうと思ったが、いらぬ世話じゃったか?」
 どこか威圧的な態度の少女も、和やかに笑っている少女も、どちらもフェレニーの窮状を見かねて声をかけてくれたらしい。
 あまりに嬉しくて目を何度か瞬かせたフェレニーは、寝ておるのかと不審げに問われたそれにふるふると勢いよく頭を振った。
「ありがとう。カレーの材料を買いに来たんだけど、買物の仕方が……分からなくて」
「何だ、そのような事で困っておったのか。安心せい、余がついておる」
「ふふ、頼もしい限りじゃな。わしも同行させてもらっても構わんか?」
 少しくらい力にはなれようとにこやかに言われ、よろしくお願いしますと頭を下げる。
「うむ、苦しゅうないぞ。余はベアトリクス・ルヴェンガルドだ。正式にはもっと長いのだがな、そちらには呼び難かろう」
 特別にベアトリクスと呼んでもよいと笑顔を向けられ、口の中で間違わないようにと名前を繰り返す。
「わしは、ゆき、じゃ。覚えやすい、良い名じゃろう?」
「あの、私はフェレニーだよ」
 遅くなってごめんなさいと慌てて名乗りながら謝ると、気にするなと二人の声が揃う。思わず顔を見合わせて笑い合うと、さてとゆきが切り出した。
「自己紹介もすんだところで、買物をしてしまわねばの」
「それならば余に任せておくが良い。あの店はクリームあんみつが絶品じゃ。その二軒向こうはイチゴミルクが美味いぞ。チョコレートを買う時はだな、」
 嬉々とした様子でベアトリクスが教えてくれるのは、何故か甘い物の店ばかりだった。カレーの材料になるのだろうかとフェレニーが目を瞬かせると、ゆきが小さく苦笑する。
「それはそれでお役立ちな情報じゃがな。ちょこれーと、以外はかれーの材料にならんじゃろう」
「え! チョコレートって材料なの!?」
「そうじゃよ。隠し味に入れることがある」
 へええええと驚いた声は、フェレニーだけでなくベアトリクスからも上げられる。おや、とゆきと二人で彼女を見ると、ベアトリクスは少し赤くなった顔をつんと逸らした。
「余は料理などせん! べ、べつにカレーなどできなくとも甘い物を食べておけばよいではないかっ」
 それで腹は膨れると断言したベアトリクスに、くちくはなるじゃろうなとゆきが何度か頷いた。
「ただ、かれーの材料を買いにきたのじゃから。関係のないものを買っていくと困るじゃろう」
 のう、と同意を求められて頷くと、ベアトリクスはつまらなさそうに口を尖らさせた。
「で、でもっ、チョコレートは買おうかな……っ」
 かくしあじだしとあまり分かってないまま続けると、ぱっと笑顔に転換する。
「そうであろう?! 余のお勧めだ、驚くほど美味いぞ!」
「そこまで言われると、わしもちと興味を惹かれるのう」
 買ってみるかと面白そうに言うゆきに何度も頷くと、ベアトリクスは嬉しそうにしてこっちだと案内を務めてくれる。フェレニーはゆきと軽く顔を見合わせるとふと微笑み合い、ベアトリクスの後に続く。
「おっ、可愛いお譲ちゃんたち。偉いねぇ、お使いかい?」
 よかったらうちでも何か買って行ってくれよと唐突に声をかけられ、三人共に顔を巡らせた先には黒い長靴のおじさんが立っていた。
「ふむ、魚屋か」
「カレーの材料、売ってるの……?」
「余は魚のカレーより肉のカレーのほうが口に合うぞ」
 よって魚屋は却下だと、ベアトリクスが一蹴する。ひでぇなぁと笑った魚屋さんは、けれど気を悪くした様子はなく、肉屋ならほらと少し先を指差した。
「あそこにあるぜ、ちゃんとお使いできるといいなぁ!」
 応援してるぞと笑顔で見送ってくれる魚屋さんに、ありがとうと手を振る。転ぶなよーとひらひらと手を振ってくれる魚屋さんが教えてくれたまま目指した肉屋で、今度は何の肉を買うのかと問われて凍りついた。
「か、か、カレー用のお肉……っ」
「牛豚鶏とあるが、どうする?」
「え、え!? あ、あの、いつも家のカレーに入ってる、これくらいの、四角い。ころころして、美味しいの……っ」
 何の肉って何と半ば以上パニックになりながら答えるフェレニーに、ゆきがふぅむと考え込む。
「普通であれば、牛肉じゃと思うのじゃが。ちきんかれー、とやらもあるしのう」
「カレーと言ったら牛肉であろう! それ以外は認めぬっ」
 よって牛肉じゃと魚を切り捨てた時と同様にすぱっと決断するのは、何故かベアトリクスだ。フェレニーは分からないと戸惑うばかりなのだから有り難い話なのだが、フェレニーの家のカレーではなくなるかもしれんなとゆきがちょっと笑った。
「後はかれー粉と野菜を買えば、何とかなりそうじゃな」
「チョコレートはどうしたのだっ」
「ああ、そうじゃった。それとチョコレート、じゃな」
 うんうんと頷いているゆきの横で、肉屋のおじさんがカレー用なと笑いながら渡してくれる袋を貰って財布を出した。幾らだからこれだけ貰うぞとお金を取り上げたおじさんは、「お釣り」を財布に入れてくれたので、ありがとうとお礼を述べて肉屋を出た。
後はカレー粉と野菜、と口の中で呟きながら、次はどこに行けばいいの? と二人に聞いた。
「カレー粉……、カレー粉?」
 そんな甘くない物は知るわけがなかろうとベアトリクスが胸を張り、かれー粉のうとゆきも分からなさそうに首を傾げる。
「……先に八百屋に行くとしようか」
 そこで尋ねればいいと提案され、そうだねと何度も頷く。
「ベアトリクスちゃんと、ゆきちゃんがいてくれてよかった。私一人だったら、まだ買物も始められてないよ……」
「そうであろう? 余がいてよかったであろう!」
 嬉しそうにうんうんと頷くベアトリクスを微笑ましそうに見つめていたゆきは、何事も慣れじゃよと優しく笑いかけてくれた。
「これで買物の仕方を覚えたら、次は一人で来られよう? まだ不安であれば、わしでもベアトリクスでも付き合うてやろうほどに」
 のう、と笑いかけたゆきに、ベアトリクスはえへんとばかりに胸を張った。
「余に助けを乞うならば助けてやってもよいぞ!」
「はは、頼もしいことだの」
「あのう、本当に呼んでもいい……?」
 恐る恐る尋ねると、勿論だと声が揃う。
「別に困っておる時だけでなくとも、呼んでくれて構わんぞ」
「余は忙しいから、呼んですぐ来られるとは限らぬが。だが、余が暇な時は相手を務めさせてやろう」
 光栄に思えよと言葉だけを聞けば偉そうなのだが、嬉しそうな笑顔で言われると頬も緩む。ありがとうと今日だけで何度目とも知れないそれを繰り返すと、ベアトリクスが何かに惹かれたように顔を巡らせた。
「何か良い匂いがするな」
「うん? そうじゃな、甘いいい匂いじゃ」
「何だろう……、クレープかな?」
 美味しそうな匂いだねとフェレニーも匂いを辿るように顔を巡らせ、近くのワゴンでクレープを焼いているのを見つけた。
 ふと目の合ったワゴンのお姉さんが、おいでおいでーと手招きする。どうしようかと二人を窺うと、既にベアトリクスはそちらに向かっている。
「ベアトリクスちゃん……!」
「まぁ、この匂いには負けるじゃろうなぁ」
 美味そうだとしみじみ頷くゆきに促されてワゴンに近寄ると、ベアトリクスが財布と睨めっこをしていた。
「買い食いはするなと言われたからな……」
 余を誰と心得ると財布に向かって悪態をついているところをみると、どうやら足りないのだろう。フェレニーは同じく財布を覗くものの、この後に買う物が幾らするかが分からなくて貸すことができない。せっかくお礼ができるかも知れないと思ったのにとしゅんとすると、ゆきが懐を探って財布を取り出した。
「すまん、わしも今はそんなに持ち合わせがない」
 三人分は無理じゃと残念そうに言ったゆきの言葉で、ベアトリクスが盛大な溜め息をついた。
「えーと、因みに一人分なら皆で出せるのかな?」
 お困り中のところをごめんねと笑いを堪えたようにお姉さんが問いかけてくるので、ゆきが各人の財布を覗いて二人分は大丈夫そうじゃよと頷いた。
「そっかー。よし、じゃあ可愛らしいお譲ちゃんたちに免じてお姉さんが二人分奢っちゃおう!」
 喜べ少女たちとお姉さんが気前のいいことを言ってくれるので、思わず全員にぱぁっと笑顔が広がった。
「本当にいいんですか……っ」
「うむ、余の威光はクレープ屋にまで広まっておるのだな。誉めて取らす!」
「ありがとうじゃ。今度はちゃんと買いに来よう」
「うん、何か面白い取り合わせのお嬢さんたちだし。次はお父さんとかお母さんやお友達とも来ようねー?」
 商売上手な私と自画自賛しながら、お姉さんはフェレニーたちに一つずつクレープを渡してくれた。ありがとうと声を揃えると、どう致しましてと笑顔で返してくれるのが嬉しい。
 皆で街路樹の周りにあるベンチに腰掛けてクレープを食べながら、八百屋さんでどんな野菜を買うべきかと話していると、もうそろそろ食べ終わるという頃に悲鳴が聞こえた気がして立ち上がった。
「何か起きたようじゃの」
「余の食事を邪魔するとは許し難い……、余が直々に制裁を加えてくれよう」
 憤然として宣言したベアトリクスは、しっかりクレープを食べ終わってから悲鳴の聞こえたほうに向かう。ゆきとフェレニーも急いで食べてしまうと後を追い、逃げてくる人たちを横目で見ながら騒ぎの中心に向かうと、何かが跳ねるようにして飛んできた。
 咄嗟にフェレニーが受け止めたそれは、オレンジ色の見慣れた物体。人参──だと思うのだが。うきょきょきょきょー! と奇声を発するそれを、食べたいと思う人間はそうはいないと思う。
「な、何故に人参が喋るのだ!?」
「うむ、これは軽く心の傷になりそうな事態じゃのう」
 九十九神というわけでもなさそうじゃと、フェレニーが持ったままの人参を覗き込んだゆきが面白そうに言う。つくも……? と首を傾げてフェレニーが聞き返す前に、ハザードですぅっと叫んでいる誰かを見つけた。
「早く誰かを寄越してください、俺には無理ですぅぅぅっ」
 対処のしようなんてと悲鳴混じりに誰かと電話で話しているらしい男性は、対策課の人のようだった。
「何だ、これはムービーハザードか。これ、そこの男。余に説明してみよ」
「へっ? あ、あああのお嬢ちゃんたち、見ての通りここは危険だから帰ったほうが、」
「誰がお嬢ちゃんか! 余を誰と心得る、」
「ベアトリクスちゃん、ここは話がややこしくなるから……っ」
 先にお話を聞こうねと宥めるフェレニーにベアトリクスを任せたゆきは、飛んでくる野菜を払いながら男性に近寄って行ってにっこりと笑った。
「わしらはたまたま通り縋っただけじゃがな、ムービーハザードであれば役に立てるやもしれん。知っておることがあれば話してくれんか?」
「っ、ひょっとして君たちムービースターなのかい?! よかった、手を貸してもらえるかなっ。野菜が意志を持つムービーハザードが展開しちゃったらしいんだ、とりあえず全部捕まえてこのダンボールに押し込めたら後はこっちで何とかするからっ。お願いします、野菜の群れを捕まえてください!」
 ぱんと顔の前で手を合わせて正に拝むようにして頼んでくる対策課の人に、ベアトリクスも機嫌を直したらしい。
「最初からそう言うておればよいものを。まぁよい、今日の余は機嫌がよい、寛大にも野菜捕獲に手を貸してやろうほどに!」
「それでは、わしは虫取り網でも持ってこようかの。フェレニーの分も持ってこようか?」
「あ、ううん、私は影君が……」
 おいでと声をかけると、フェレニーの影からゆらりと人型を取った影が持ち上がった。ゆきは頼もしいなと笑顔になると、網を探してくると片手を上げると慌てず騒がずのんびりと歩いていった。
 大物、と尊敬の眼差しでゆきの背中を見送ったフェレニーは、ゆらゆらしている影に野菜を捕まえてと頼んだ。
 こくりと小さく頷いた影は、無造作に伸ばした黒い手で奇声を発しながら飛び回っている野菜を片端から捕まえていく。影の中に留まりきらなくなってくれば、対策課の人がこれと示したダンボールに近寄って、どさどさと投げ入れてすかさず蓋をしている。
「むむ、やるな、フェレニー。余とて負けてはおられん」
 フェレニーに感嘆の目を向けたベアトリクスは空中に魔法陣を描いて、出でよシルフィールと呼びかけた。ひゅると風を纏って現われたのは、風の精霊らしい。野菜を捕まえよと命令された風の精霊は優雅に頷くと、遠く離れていこうとしている野菜たちを追いかけ出した。
「おお、順調のようだの」
 わしも負けてはいられないなと呟きながら戻ってきたゆきは、多分に一緒に貸してもらったのだろう水槽みたいな虫篭の中に幾つも野菜を放り込んでいる。
 悲鳴を上げて逃げ惑っていた大人たちもフェレニーたちが次々と野菜を捕まえて行くのに気がつき、噛まないのかとか、怖くないのかとそろそろと尋ねながら戻ってきた。
「分からん連中よな。野菜に噛まれたところで何の支障がある?」
「悪夢を見る以外の支障はなさそうじゃよ」
「あ、そっちにも行きそうだから気をつけてください……っ」
 如何せん、野菜の数が多すぎて彼女たちの手を逃れた野菜が、うきょきょきょと叫びながら向かっていく。影君と急いでフェレニーが指示したけれど今一歩間に合わず、どうしようと思った時に奇声を発した大根は向かっていた先のお姉さんに打ち返された。
「あたしに襲い掛かっていいのは、金持ちのいい男だけと決まってるのよ! お嬢ちゃんたちが頑張ってるのに、きゃーきゃー言って逃げてらんないわっ」
 気持ち悪さに怯むばかりと思わないことねと何だか震えた声で笑うお姉さんが打ち返した大根を受け止めた影を見上げ、隣で驚いた顔をしているゆきやベアトリクスと目を合わせる。その間に、あんな小っさい子だけに任せとくわけにはいかねぇと何やら奮起したらしい大人たちがわらわらと寄ってきて、取り溢してしまう分のフォローに回ってくれた。
「皆でやれば、それだけ早くすむのう」
「で、でも余の精霊が一番沢山捕まえておるぞ!」
「うん。ベアトリクスちゃんもいてくれるから、早く終わるんだよ」
 いきなりの野菜パニックで一時は逃げ回るだけだった人たちが、今は協力して動いている。それが何だかすごく嬉しいことのように思えて、フェレニーは満足そうに笑った。
「今日ね、ここにお使いに来てよかった! ゆきちゃんにもベアトリクスちゃんにも会えたし。すごく楽しいねっ」
「当然だ、余と会えたのだからな!」
「ふふ。仲良きことは美しきかな、じゃな。とりあえず早く事を終わらせて、お使いに戻らねばの」
 これが終われば美味しいカレーが待っておるぞと笑うように言ったゆきの言葉に、フェレニーはうんと大きく頷いた。


 本当ならトラウマになってもおかしくないほどの「初めてのお使い」は、それでも楽しく賑やかな印象で幕を閉じそうだった。

クリエイターコメント小さいお嬢さん方の、初めてのお使い……! ハザードまで治めちゃう素敵なお嬢さん方とのオファー文を拝見して、ほくほくと書き進めたら案の定、字数が……。
あまりに長くなりすぎましたので、ここで切らないと冗長になるだけだと思い、上記のような〆になりました。

書かせて頂く側としましてはものすごく楽しんで書かせて頂いたのですが、主にほのぼのお三人様に重点を置きましたので物足りないと思われるところもあるかと思いますが、ちょっとでも楽しんで頂けましたら嬉しい限りです。
素敵なオファーをありがとうございました!
公開日時2008-10-10(金) 18:40
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