★ かの者に祝杯を。 ★
クリエイター唄(wped6501)
管理番号144-8290 オファー日2009-06-10(水) 20:27
オファーPC レイ(cwpv4345) ムービースター 男 28歳 賞金稼ぎ
ゲストPC1 ジム・オーランド(chtv5098) ムービースター 男 36歳 賞金稼ぎ
<ノベル>

 手に持った物はビール、焼酎。決してワインやカクテルといった洒落た酒をジム・オーランドは口にしない。
 女性や若者の喜びそうな類の食料品は喉が乾いていけない。そう、昔からごちているのはジムである。本来は酒ならばどんな物も嗜むのだが、自分自身のキャラクターに合わないと理解して口にしないでいるつもりなのだ。
 少なくとも、人間や生きている物は自分のキャラクターを持っている。
 食事をする時、テーブルマナーを守るか、目の前の料理に素手でかぶりつくかといった選択は、そういった自分を理解した行動のもと、行われる。銀幕市に実体化するという行為自体、既存のキャラクターから抜け出す良い機会なのかもしれないが、映画の中であろうと生活していた自身に変わりはない。
 朝食はあまり食べず、昼食は間食に近く済ませ、夜は酒と共に終わる。ジムの生活は銀幕市に実体化する事によってある種平和を手に入れたといって良かったが、そういった小さな出来事はさして変わらなかった。
 この場所にジム・オーランドとして生きて、目に付いた廃ビルに相棒のレイと住む。男同士の質素かつ干渉などは気にかけない為、洗濯物は放りっぱなし。稀に着るものがなくなってから自らで洗う事もあったが、大抵洗濯機を動かしているのは――電子機器はハッキングで動かしている――レイが使用してい、そういった「生活に関する細かい事」を相棒は映画内よりはするようになったと、今更ながらに思う。

 銀幕市、魔法の街。リオネという少女のかけた魔法の消える前夜。
 6月12日の日付を、廃ビルに置いたジムとレイの技術で作成されたデジタルカレンダーは示している。
 13日を過ごし終わればムービースターは居なくなるのだと、そう思っても実感がわかない。機械混じりではあるが、健康で、身体に異常も多分、無く。特に命を狙われているわけでもない。それでも、死ではなく、ひとつの終わりが近づいていると知れば、どことなく落ち着かなかったし、だからと言ってその終わりに絶望する感覚も不思議と無い。
「少しは落ち着け、ジム。 図体がでかい分、気持ち悪い」
 白い肌に金の髪色、サングラスは視線を隠す分、無表情ともとれるレイから昼間、そう言われた位のものだ。
「てめぇはいいよな。 可愛い嫁さんもらって、幸せだろうよッ」
 ああ幸せだと、しれっと返されジムはレイの言う通り、でかい図体についた筋肉と機械のひとつひとつを駆使しそわそわと動き出す。その横で笑い声をもらす相棒の妻。
 もうすぐこの光景も消えてしまうのか。ふいに思ってもう一度、レイ夫妻を眺めても「気持ち悪い」と飛んでくるだけで終わってしまった。

 兎も角、銀幕市は平和になったのだ。もう、ここに自分たちが敵とみなす相手も居なければ、殺し合う事も無い。
 これで良かったのだと、珍しくセンチメンタルに陥った大きな身体は、次に意を決したように立ち上がると、昼間のコンビニへ、酒を買いに歩いた。
 まだ昼間、もう少しだけ銀幕市の市民とムービースターが共存する事を許された時間の話である。



 相棒は――レイは映画の中で生きていたならば、日常生活においてジムには必要以上に近寄らなかっただろうし、近寄っても空気と同程度の濃度だった筈だ。
 コンビニでは時間を出来るだけ潰し、日の昇っているうちはレイ夫妻を邪魔しないよう、ジムなりに気を使って銀幕市を散策した。帰れば静まり返った廃ビル内を、音を立てないよう、身を小さくしながら買った酒を更に冷やし、胃に入ればその器官が驚愕してしまう程度に冷たくなったお気に入りのビール、焼酎を持って廃ビルの屋上に上がる。
「なんだ。 もう帰っちまったのか?」
 廃ビルの屋上は夜になれば辺り一面に、銀幕市で灯る家々の光が星のように散りばめられる。それはまるで、天と地二つに夜空があるかのような。ひっそりとしていて、しかし騒がしいこの風景でダークグレーのコートが夜風になびく。
 今宵は欠けた月に従う星の数は、天候のせいか銀幕市そのそれが勝っている。
「いや。 居る。 寝ちまったからな」
 レイは相変わらず無表情のまま、横目でジムを一瞥すると月を見上げてから銀幕市の星へ、視線を投げた。
「幸せなんだろうなァ。 今、よ」
 ジムから見て、レイという男はとても小さく見える。背丈、年齢、周りの人間に迷惑をかける回数。元々の人生においても親兄弟代わりの自分が相棒である彼の幸せをこうして間近で見られるとは思わなかった。映画「Dark blue city」の舞台は荒廃した未来、政治は元より民衆の心も腐敗した世界であったから。
 今日、幸せだと何度もレイに確かめるジムに、またかとため息を吐いた相棒の口元は、それでも緩く微笑んでいて、近くへ腰を下ろせばすぐに横から酒を求める手が焼酎を一本取っていった。
「あいつの寝顔を見てきた。 なんだかな、不安なような、嬉しいような、相変わらず食えない顔してやがったが。 ああ、今……今ももちろん幸せだ。 けど、な」
 レイの言う「あいつ」とは彼の妻の事だろう。映画の中に居たならば、会う事も許されない存在と、同じく映画の中に居たならば絶対にしなかったであろう、恋愛を経て彼らは夫婦になったのだから。愛おしいに違いない。
「ん? けど? どうしたよ」
 銀幕市へ来た当初よりもずっと性格的に丸くなったレイに、一人堪えきれぬ笑みを滲ませていれば、彼はまだその続きがあると含みを持たせてそう言うのだ。

「なあ、この街でこうやってあんたと暮らしてこれて楽しかったぜ」
「へっ?」

 なにを言い出すのだと、次にジムが返しそうになる言葉はそれだった。レイを凝視しても、彼は彼なりの恥じらいを克服して言葉にしたのだろう、こちらは見ずに。焼酎をボトルから直に飲みだす。
「てめ……それ、本気で言ってんのかよ?」
「……嘘でいちいちこんな科白吐くか」
 嫌悪を含めてではなく、極めて驚愕した声しか、ジムからは出てこず、返してくるレイの声色が冷ややかに聞こえる。
「あんたとこの街に来て、今まで見なかったモンを見て。 騒がしい連中と知り合って……。 楽しくないわけがないだろう」
 レイの淡々と語る言葉は、実に静かにジムの筋肉質な胸へ落ちてくる。
 この冷淡とも言えるレイの顔は熱い心を秘めていると、映画内のジムですら知っていた事実だ。けれど、今の今まで彼が自分に対して「どう思っているか」というのは聞けるとは思わず。手に持ったビールを取り落としそうになった。
 彼が晴れて恋仲の女性と結婚するに至るまで、ジムは自分が小うるさく騒いでいた記憶しかない。良くてなんでも首を突っ込んでくる親父程度の感覚しかないのだと、映画内よりは平和な銀幕市で、戦う意味を失いつつある相棒として考える事もあったのである。
「お、おう。 そうか、ははははは」
 頬を、口元を支配するような笑みがジムに浮かんでくる。レイは戸惑うような、声を上げた後、薄気味悪い――と彼はこの時のジムをそう表現するしかない――相棒を怪訝に眺めながら。
「なんだ、また――」
 6月12日、この日になってから、レイがジムに投げかけたい言葉は多分「気持ち悪い」か「気色悪い」のどちらかだろう。語尾にそれらを付け加えさせてなるものかと、大きな手に持ったビール缶を乾杯と夜空に掲げるといつもの、至って普通のトーンで言う。

「ああ、俺もな。 レイ、てめぇとここで生活した……家族としての記憶は一生モンだ。 ま、俺らは長生きしそうだが、でも一生モンだ」

 今度はレイがなにを言いだすのだと、そんな顔をしている気がしてジムは白い歯を出しながら言う。
 元が無表情か、作ったような顔をしたレイだ。眉を平行にして、サングラスの下は相変わらず分からない、けれど口元がどことなく力を持たない。そんな、彼らしからぬ表情を見分けられるようになっただけ「家族」としては大進歩だろう。
「何を……わかりきった事を言ってるんだ」
 レイが口にするとは、思えない回答が聞こえてくる。
 あの廃退した世界の、ジムがまだ16であった時に出会った少年は。
「言うようになったじゃねぇか」
 目の前で見るも立派に生き、素直ではないものの笑顔を浮かべるまだになったのだ。ぐっと、こみ上げてくる歓喜にも哀愁にも似た感情に、ジムは自らも老けたものだと苦く思いながら豪快に笑った。
 ジムとレイの関係もある種、進化しているのだ。銀幕市が一つ一つの苦悩を乗り越えたように、自分達も今まで囲っていた自分というキャラクターを超えて、進化していく。
「なあ、ここでおめぇやあのちっこいイルカが笑って暮らせた、それだけで俺は満足だよ」
 笑い声をひとしきり響かせた後、ジムは低い声を穏やかに沈ませながらそう言った。
 天には月と星、地にも無数の光が見える。眺めながら飲むビールは苦く、それでいて心地よい。
「そうだな」
 否定するわけでもなく、レイは焼酎を飲み続けている。横顔は、とても穏やかだ。
「俺も、てめぇも、こうやって楽しませてもらったじゃねェか。 ……あの嬢ちゃんも、楽しかったとおもってくれりゃいいなぁ」
 次に飲み込む筈のビールが缶の中に残っておらず、ジムはもう一つと取って蓋を開ける。
 語る言葉は考え深く、奥深い声を染み込ませたように夜空に響く。その横でレイはこめかみに拳を置き、拭う様な仕草をして、頷きたいのか、笑いたいのか、出し切れない感情を押し殺した声を出すと。
「……そう、だな。 ああ、そうだよな」
「ああ」
 頷くジムはレイの足元にもう一本の焼酎を置く。
「ま、しかし、俺たちはこれからも同じ道に居るわけだ」
 置かれた焼酎を迷い無く開け、口にして。レイはジムに向かい、改めて視線――サングラス下の視線が本当に合っているかは分からないが――を合わせる。
 ああ、こいつはまたおかしな事を言い出すな。観賞めいた言葉を吐き、レイを労わっていたジムも次に来る言葉へ身構える姿勢を見せたが。
「頼りにしてるぜ、お父さん」
 ふいに放たれた彼の言葉に、全てが一時停止した。

 お父さん? お父さん。お父さん!

 目の前に居るのはレイである。「レイ」と名のつく別人ではない。
 金髪にサングラスに地肌は白い。ぶ厚く見えるコートを着て、小生意気なレイだ。銀幕市に実体化し、丸くなり、嫁ももらえたラッキーな男だがその生意気さだけは変わっていなく、妻への幸せは口にしてもジムに対して「家族」を認識させる言葉を吐くなんて考えもつかない。
「おいどうした、お父さん。 おまえは俺を頼りにしちゃくれないのか?」
 再度言われて背中から力が抜けるようだった。鳥肌が立つというのはこういう事を言うのだろう。
「お父さんはやめろ、気色悪りィ……」
 座り込んだ廃ビルのコンクリートから、冷気が体内に回ってしまったように、ジムは口先だけでレイへ返す。
「気に入らなかったか……。 じゃあ、お兄さん?」
「うえええ、てめぇ、その呼び方どこで覚えてきやがったんだ……」
 その辺で、と仕草で示してくるレイがなんとも忌まわしい。
 言い方自体に嫌悪しているわけではないが、いい年の男に言われたい言葉でもない。どうせ面白がって言っているのだろうと、レイを睨めば矢張り、口元をにやつかせながら上機嫌に飲んでいる。
「お父さんかお兄さんだろう、俺たちの関係は。 なあ?」
 あからさまに笑いながら発音しているレイの声は、所々で聞き取れず彼自身も照れ隠しをするように首を傾げた。
「気色わりぃからそれやめれ。 馬鹿弟が」
 お父さん、お兄さんと、頭の中を回る単語に思考をかき乱されながらも、ジムは些細な仕返しを放つ。

 弟。
 馬鹿でも、弟という言葉に、一瞬レイも時が止まったように、表情を硬直させる。
「ジム、あんたが言っても気持ちが悪い」
 ため息混じりにレイが言って、顔半分を覆うように手で頭を抱えて口にする。自分たちのキャラクターには似合わないと。
「ああ、だろうな」
 同じように頭を抱える姿は似ているが、お互い「父」「兄」「弟」と言い合うのは慣れない。じゃれ合うように言い合ってから、似合わない虚しさに思わず苦い時間が訪れてしまったが、また数分と経たずにやってくる。
「ま、言葉じゃ似合わねェが、俺はてめぇを家族だと思ってるさ」
 ふう、と肺から抜けるように息をついた後、ジムが口にする。それは、分かっていて分かりにくい事だ。
「同感だ」
 家族だと思っていながらも、口にしなければ伝わらない。口にしても似合わない二人が始めて聞く、お互いへの評価にレイも頷いて乾杯の仕草をとる。
「信頼してるぜ、今も、今までもな。 相棒」
 どこまでも素直な言葉をレイに向けると、当の本人は一度肩を竦め、むず痒いとでも言うような顔で眉間に皺を寄せた後。
「なんだか素直すぎて気色悪い」
 その一言も、レイにとっては素直な言葉だろう。ジムにそう投げかけてはいるものの、彼は口元を薄く緩めながらも喉に溜めた笑みを零している。
「はっ、ははは! だな、最後の日に大雪でも呼んじまいそうだな」
 ムービースターが消える日に、大雪が降ったならどれだけの人間が驚くだろう。あり得ない話と、他愛も無い話でジムとレイの時間は過ぎていく。
 眼前には銀幕市の家々が宿す小さな灯火。これから先、この街で暮らしていく者、それの叶わなかった者達の宿す光。それらはあまりにも当たり前にありすぎて、廃ビルの屋上に居るジム達はただ酒を飲み交わすしかなかった。

 この先の話も、難しい話もあえて、しない。少しだけ理解できる大きな事実が分かっているから。
 ただ、ジムは心の底から願っているのだ。レイの、相棒の大切な女性が、自分にとっても大切な友人がこれから先、少しでも良い人生と幸せを紡いでくれる事を。
 出会った友人と仲間に、最高にスリリングで、身の踊るような出来事がこれからも起こる事を。

 映画内に居る規定のキャラクターではない、お父さんと言い始めるレイと、馬鹿弟と吐くジムのように、新たな二人で居られたこの街に、幸あれ。


END


クリエイターコメントレイ様/ジム・オーランド様

始めまして、プラノベオファー有難うございます。唄です。
まず、タイトルは描写させて頂きましたお二人と、レイ様の奥様に向けて付けさせて頂きました。
今回ジム様からの視点という事で、映画内の主人公という位置をなるべく強調し、かつレイ様との関係を上手く描写出来ていたらと思っておりますが、如何でしたでしょうか?
プロットではもう少し長くするか、シンプルにするか悩みましたが、綺麗に纏まるようにしつつキャラクターと銀幕市に居るお二人を上手く描写出来ていれば幸いです。
序盤は少々捏造してしまいましたが、イメージを壊していなければと思います。
また、やってはいけなかったという場面等御座いましたら申し訳御座いません。
それでは、また、いつかお会いできる事を祈りまして。

唄 拝
公開日時2009-06-14(日) 21:00
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