★ 分かれ道の先 ★
クリエイター木原雨月(wdcr8267)
管理番号314-7054 オファー日2009-03-14(土) 01:59
オファーPC チェスター・シェフィールド(cdhp3993) ムービースター 男 14歳 魔物狩り
ゲストPC1 ケト(cwzh4777) ムービースター 男 13歳 翼石の民
<ノベル>

 始まりはなんだったか、よく覚えていない。
 きっかけはほんの些細な事で、些細すぎてその詳細も思い出せない。
 いつもの何でもない会話をしていたはずで、なんら変わりはないはずだった。
 ただ異様に苛々して、気が付けばハザードにまで巻き込まれていて、余計に苛立って。

「ったく、面倒くせぇな。バカケトと居るとロクな目に合わねぇ」
「なんだとぉっ!? こっちこそ、チェスターのせいで痛かったり怖かったり痛かったり痛かったりする思いばっかしてるっつーの!」
「ふざけんな、バカケト」
「バカバカいうな、アホチェスター!」
「だってバカだろ」
「またバカって言った!!」

 チェスター・シェフィールド。
 ケト。
 二人はいつになく剣呑な雰囲気をまとい、睨み合った。
 どうしてこんなにも苛立つのか、それすらもわからない。ただ、本当にただなんとなく、異様に苛々して相手の一言一句一挙手一投足がいちいち癇に障る。
 磨き抜かれた廊下に二人の怒声が木霊する。真っ直ぐに続いているらしい廊下は電灯らしい電灯も見あたらないが、とにかくそこを明るく照らし出していた。
「どこまで続くんだ、この味気ねぇ廊下は」
「そんなの俺が知るもんか、ハザードってのはわかるけどわけわからん」
「日本語を喋れよ、バカケト」
「喋ってるだろ!」
「耳元で怒鳴るな」
「怒鳴らせてるのは誰だよ、お前だろ、ふざけんなコノヤロ!」
「巫山戯てんのはテメーだ」
「なんだとーっ!?」
 どうということのない、いつもとそう変わらない会話の筈だ。それなのに、何故こうも苛々するのか。
 それに「何故」と問いかける前に、やはり苛立ちが先行して怒鳴り合う。それがまた歯痒く腹立たしく、二人は相手にぶつけ合う。
 それはとても気味が悪く、気持ち悪く、二人はしばしのにらみ合いの後、顔を背けて一直線の廊下をまた黙々と歩き出した。
 特別何かの罠があるとか、モンスターが出るとかでもなく、ただ長い長い廊下をひたすら歩いていく。それはとても億劫で、ただ互いの息遣いと足音だけが耳に届き、それがまた訳の分からない怒りをふつふつと沸き立たせる。
 チェスターは唇を噛み、強く拳を握った。何を怒っているんだ、俺は。ガリガリと頭を掻き、舌打ちをする。
「なんだよ、その舌打ちは」
 チェスターは眉間に皺を寄せ、ため息を漏らした。駄目だ、今ここで口を開いたらまた訳の分からない怒鳴り合いになる。そんな事をしている場合じゃない。チェスターはもう一度大きく息を吸い、吐いた。ケトの高い声が響く。
「なんだよ! 言いたいコトあんなら、言えばいいだろ! わけわからん、マジで」
「……うるせぇ」
 そうじゃない。
 もっと違うことを言いたいのに、考えるべき事があるのに──
「黙れ」
 ぴた、とチェスターの足が止まる。腹の底から響くような低い声に、後ろを付いて来ているケトも足を止めた。
「は」
「黙れっつってんだよ。さっきっからガタガタガタガタ文句ばっか言いやがって」
 茶色の瞳でケトの深紅の瞳を見返す。その瞳には見たこともないような怒りを露わにした自分が映っていて。しかし、一度流れ出したものは、止めることなど出来なかった。
「いつもいつも大して役にも立たねぇくせに口ばっか達者で大袈裟で、そのたびに俺がどんだけ苦労してるかわかってんのか。マジふざけんな」
 それには一瞬ケトも言葉を無くした。しかしすぐにふつふつとした怒りが込み上げ、喚き散らした。
「なんだよ、全部俺のせいかよ! 違うだろ、チェスターだってお宝に目が眩んで俺が嫌だっつってんのに無理だっつってんのに、暗い中に入って行くわモンスターは目の前でぶった切るわ血が噴き出……ううええええ……とにかくずんずん進んで行った事があるじゃねぇか! 俺が血とか嫌いなこと知ってるクセに、ゾンビがわんさか出てくるゲームやらせたりするしよ、それってアレじゃねぇか、イジメじゃねぇか、俺ばっか悪いみたいに言うけど、チェスターが何にも悪くないってことだってねぇだろ!」
「だからそれがうるせぇってんだ! ベラベラベラベラ、バカみてぇに喋りやがって。ああ、バカだったな、悪かったこのバカケト!」
「バカって言うな! アホチェスター! 今のチェスターだってうるさくないって言うのかよ! マジふざけんなだし」
「キンキン女みてぇに叫ぶんじゃねぇよ! あー、耳痛ぇ」
「誰が女だよ!」
「だから叫ぶなっつってんだ! 大体ゲーセンはお前が行きたいっつーから連れてったんだろうが!」
「あんなに血が出るなんて思わなかったんだよ!」
「そりゃ、お前が悪いんだろ! 俺がンな事知るか」
「知ってるくせに!」
「黙れこのバカケト!」
「またバカって言った! アホアホアホアホアホチェスターのドアホーッ!!」
「あーあー、マジうるせぇ!」
 拳を握り無機質な壁に叩き付ける。
 ダァン! と低い音が響き渡り、びくとケトは首をすくませた。チェスターは肩で息をし、ケトを睨み付ける。それに多少たじろぎながら、やはり怒りが先行するのだろう、負けじと睨み返してくる。
 途端、火が灯るような音がして二人は振り返った。そこには、つい先程まではただの一本道であった廊下に、暗い松明の掲げられた洞窟のような道と、鬱蒼と草木の生い茂る森のような道と、二つの道がぽっかりと開いていた。
 あまりに唐突で突飛な道の出現にチェスターは眉を潜め、ケトは唖然としたようにそれを見つめた。
「……丁度良い。ここで分かれようぜ」
 チェスターの声に、ケトは振り返る。その瞳には冷たい光が宿っていて、思わず眉をしかめる。それにチェスターは鼻で笑った。
「どーせ一緒に居ても、喧嘩するだけだ。ンな気分悪ぃ事は、お断りだね」
 そう言ってさっさと右の道、暗い松明の掲げられた洞窟のような道へと足を向ける。ケトはカッと頬に朱を走らせた。
「ああ、そうかよ! 勝手にすればいいだろ! 俺だって気分悪いことはお断りだね! 疲れるしつまんねーし! せいせいするってもんだよ、そのまんま遭難でもしちまえ、バカヤロー!」


  ◆ ◆ ◆

 ケトは森の中を走っていた。
「あーあーもうなんだよなんだっつーんだよアレもうあああーあーあーあああああああああーーっっ!!」
 言葉にならないそれは、怒りではなかった。
 ケトにとってたった一つハッキリとしていることは、チェスターが自分をウルサイと思っていた、ということだけである。
 それはケトにとって、どうしようもないほど悲しいことだった。そんな風にチェスターが思っていたなどとは思いもよらなかった。
 だって、いつだって最後には笑ってくれる彼は、きっと自分と同じで楽しいのだと思っていた。デリカシーがないと知人に家財道具を投げつけられた話をすると、一緒に腹を抱えて大笑いしてくれた。どんなに喧嘩をしても、小突き合って馬鹿笑いして、仲直りして。「うるせェ」なんて、いつも言われていることだけれど、それでも今日のように切なくなったことは、一度だってあっただろうか。
「あーもうわけわかんねーよもう、ホント意味わかんねーあーああーあーああーーーーーっっ!!」
 考えるのは元々苦手だ。浮かんだことは全部口に出すケトだったが、今回ばかりは何も浮かばない。ただぐちゃぐちゃとしたよくわからないものが渦巻いているだけで、それの正体のわからなさに苛立った。
 ごろごろ転がってごちんと木の根に頭をぶつけて、八つ当たりに樹を蹴飛ばしたら何かを押したようで足を取られ、また頭を打つ。じんじんとする頭にまたなんだか腹が立って、樹に飛び上がって思い切り蹴飛ばして着地、そのまま思い切り走った。何かに足を引っかけたが、ひょういと宙返りしてまた走る。どうして走るのかなんてわからない。ただ、とぼとぼ歩くなんて無理だった。喚き散らしながら走る。
「チェスターのアホーーッッ!! 超怖ぇ、この森マジ怖ぇよアホったれぇえええっ!!」

  ◆

 まったく苛々する。
 どうしてこんなにも苛々するのか、チェスターにはわからなかった。
 考えなくてはならない事はたくさんある。
 まず、このムービーハザードからどうやって脱出するか。一本道のくせに出口が見えないなど、なんとも悪趣味だ。罠らしい罠も盛りだくさんで、意味深な文字盤やら、ちょっと注意すればすぐに発見できるような糸が張ってあるやら、これまたわざとらしいスイッチが埋め込まれているやらで、チェスターは息を吐きつつそれを無視した。
 しかし、そういった小細工がまたチェスターを苛々とさせた。そもそも、何故このムービーハザードに巻き込まれたかといえば、……
 はたとチェスターは首を傾げた。はて、どうして巻き込まれたのだったか。確かケトが……。
 チェスターは頭を振る。あの赤髪のへらへらした顔が浮かんだ途端、わけのわからない怒りがふつふつと沸いてきたのだ。まったく、どうしてあいつはいつもひと言二言三言と多いのか……
「くそっ!」
 チェスターは洞窟の壁を殴った。
 ──違う。そうじゃ、ないだろう。
 あのお調子者は、いつもと同じように突然やってきただけだ。たまたま宙返りが失敗して、チェスターの後頭部にその膝がクリーンヒットしたのだ。二人して頭を抱え、膝を抱え、悶絶して。いつものように文句を言い合って。
 そうだ、そこまではいつも通りだった。
 そこまで思って、チェスターは咄嗟にその場を飛び退いた。鋭い音がして、土の壁に突き刺さる。見やれば、それは矢だ。
「っぶねぇ。おいケト、またなんか──」
 振り返って、チェスターは目を見開いた。
 ケトが、いない。
 チェスターは自分が動揺していることに驚いた。
 どうしてと思う間もなく、低いくぐもった音が聞こえて、また目を見開いた。
「くっそ、何なんだよ一体! あーったく、殴らせろバカケトォオ!」
 ごんろごんろとでっかい岩が転がり落ちてくる。チェスターですら気付かぬほどの微妙な傾斜に乗って、岩は徐々にスピードを上げていく。
 ああ、そういえば前にもこんな事があったっけ。
 ふっとチェスターはそんな事を思い出し、笑った。
 あの時は、ケトも一緒だった。
 途端に、またふつふつとした怒りが込み上げる。走りながら、叫んでいた。
「馬鹿野郎、なんでマジで付いて来てねぇんだぁああああっ!」
 わかってる。
 わかってるさ。
 こんなに今、苛ついているのは。
 いつだって賑やかでバカみたいに笑ってる、アイツがいないからだって。

  ◆ ◆ ◆

 走って走って走って、喉が痛い。
 叫び疲れたっていうのもあるかもしれない。
 森の中を駆け抜け、洞窟の中を駆け抜け、けれどその瞬間、目があったほんの一瞬、ほっとした。
「ばっかやろ、俺を殺す気っ!?」
「ふざっけんな、こっちはあんなデカイ岩に一人で追い掛けられてマジ疲れてんだよ!」
 額をごりごりとぶつけ合って怒鳴り合って、二人は肩で息をした。
 二人が駆け抜けてきた道は、どうやら繋がっていたらしい。道がぶつかったところで脇道に飛び込み、チェスターを追い掛けていた岩はつい先程までケトが走ってきた森へと転がっていった。その際、ケトの髪を掠って行ったのである。
「へーっえ、ほーっお! そりゃオメデトー、よかったな!」
「意味わかんねぇこと言ってんじゃねぇぞ、バカケト!」
「だからバカって言うな!」
 ぎゃんぎゃんと言い合いをしていると、どどぉん、という地響きと共に巨大な壁が崩れ落ちた。反射で身構える二人。それを横目に見やって
「「ふんっ!!」」
 まるで小学生である。
「ふはははははは! ここまで来るとは驚いたぞ、褒めてやろう」
 轟音の向こう、高圧的と言うには間抜けすぎる声に、二人は顔をしかめて土煙の向こうを見やった。
「それぞれの罠を潜り抜け、二人して辿り着けた輩はお前達が初めてだ」
「罠ぁ? んなモンなかったけど」
 ケトが言うと、ほう、とその間抜けな声は感心したような声を出した。
「片方の道で罠に掛かると、反対側の道で罠が発動するようになっているのだ。なるほど、森を抜けたに関わらず無傷とはそういうことか」
 土煙はまだ収まらない。微かに影が見え、それはどうやら人の姿をしているらしい。
 チェスターはひくりと眉を上げる。
「ってことは」
 ケトはびくりとチェスターを見やる。
「俺が矢で串刺しにされそうになったり、あのでっかい岩に追い掛けられたのはてめぇのせいかゴルァバカケト!」
 腰の獲物を引き抜き、引き金を引く。持ち前の反射神経で、ケトはそれを避けた。壁にめり込んだ弾丸が白い煙を上げている。ケトは青ざめ、それから真っ赤になって叫んだ。
「ああああっぶねぇだろ! 当たったら痛いじゃ済まねぇじゃんか!」
「黙れバカケト、いっそ当たれ!」
「なにぃーっ!!」
 二人のやり取りに、また高らかに笑うのは間抜けた声の主である。土埃がようやく切れ、その姿が露わになった。
「はっはっは、そうだ、怒れ! そしてそれがお前達を死に導くのだ!」
 そこに現れたのは、道化。
 派手な衣装に白塗りの顔、赤い丸鼻、手足がやたらと長い、ピエロである。
「「うるせぇ黙れっ!!」」
 チェスターの自動小銃が火を噴き、ケトのクラウンの道具がその下顎にクリーンヒットする。派手に吹っ飛んだピエロはカエルが潰れたような声を出してもんどりうった。
「いぎぎ……な、なぜだ……この空間には仲違いをする力が働いているはず……それなのにどうしてお前らはそんなに息が合っているっ!?」
「はぁ?」
「ふざっけんな、どこがだよ」
「ぐえっ」
 同時に足蹴にされ、しかしこのピエロ、どうやら非常に打たれ強いらしく、鼻血を垂らしながらゆらりと立ち上がった。
「おのれ……おのれおのれおのれ、ここではこの私が王だ、王に逆らう者には死あるのみ!」
 色々と喋ってくれるのは手間が省けて良いと言うもの、しかしこの苛々の原因がこのハザードにあるとするならば、やる事は一つと決まっている。
「ったく、うぜぇな」
「そりゃこっちの台詞だっての」
「もういい、お前との決着は後にしようじゃねぇか」
「はっ、そりゃいーねぇ。とりあえず」
 ちきりと弓矢を構えるケト。チェスターは口端を歪めて照準を合わせた。
「「てめぇを黙らせるっ!!」」
 弓矢が放たれ、二人は駆け出す。ピエロは長い腕を振った。ナイフが二本、いや三本。チェスターはその軌道を読み、体勢を低くして叩き落とし、そのまま駆け抜ける。
「投げナイフってのはさぁ」
 チェスターが叩き落としたナイフをパッと拾い上げ、ケトは地面を蹴る。
「こーやって……やるんだよっ!」
 鋭い風切り音とともに、白刃が煌めく。ナイフはピエロの頬をかすめ、足を掠め、腕を掠めて後ろの壁に突き刺さる。その一瞬を、チェスターは見逃さない。走りながらその腕に照準を合わせ、引き金を引く。轟音と悲鳴。ケトが顔をしかめる。もんどり打つピエロを蹴り飛ばして、チェスターは銃を構えた。
「お、おい、別に殺さなくても」
「はぁ? お前、状況考えてもの言ってるか? こいつを倒さなきゃ、ハザードから出られねぇんだぞ」
「そりゃ、……わかってる、けど……けど!」
 眉間に皺を寄せるケトに、チェスターは大きく息を吐いた。
「嫌ならあっち向いてろ、バカケト」
「なっ、お、チェスター!」
「大体お前は口先ばっかで気に入らねぇんだ。これくらいでぎゃーぎゃー言いやがって」 
 言いながら、チェスターはピンを振り上げたピエロの腕を踏み付けた。
「ぐあ」
「こ、これくらいっ!? こいつがいっくら変態だからって、そんな冷たいこと言わなくたって」
「じゃあ、一生この中にいるってのか? 俺は嫌だね。ったく、お前はずっとそうだ。口先ばっかで、いざという時に役に立たねぇ」
「なっ! なんだとぉっ!? いっつも命令口調で高いところからもの言いやがって煙かバカか! バカか、バカだなこのバカチェスターッ!」
「おぶっ!」
 勢い余って、ピエロの腹を踏み付ける。
「そりゃお前がだろうが、バカケト!」
 その足を踏み付けようと足を振り上げ、しかし機敏なケトはそれをさっと躱した。
「ごはっ」
「バカって言うな! バカって言うヤツがバカなんだ、このバーカバーカ!」
 やられたらやり返す、ケトも負けじとその足を踏んでやろうと足を伸ばす。もちろん、そう簡単に踏み付けられるチェスターではない。
「げふぅ」
「だったらお前もじゃねぇか、バカケト!」
「ぐへぁ」
「なんだと! チェスターと一緒にすんな、このブアイソ!」
「げはっ」
「マジむかつくお前、風穴開けてやる!」
「ぅぐっ」
「やれるもんならやってみろ、バーカ!」
「あふんっ」
「「キメェ、うるせぇ、黙れ!!」」
 二人の蹴りが綺麗にその顔にヒットして、ピエロはばったりと倒れた。空間が大きく歪む。怒鳴り合っていた二人ははっと顔を上げる。瓦礫の向こうに銀幕市が見えた。二人は今度は我先に、と駆け出す。
「お、おぼれぇ……ごのばばでずむどおぼうなぁっ!!」
 ピエロは何かのスイッチを押し、その姿を一巻のフィルムへと変じた。
 瞬間、地面が揺らぐ。
「え」
 先を走っていたケトは突然の床の消失に、まるでスローモーションで世界が動いているかのように見えた。耳には轟音と、それからよく知った声。落ちる。次の瞬間、背中に強い衝撃を受け、ケトは前方に投げ出され、転がった。後ろで轟音が鳴り響き、そろそろと目を開けるとそこは銀幕市だった。そして隣には、同じく転がったチェスター。
「お、おい、チェスターっ?」
「耳元で叫ぶな、うるせぇ奴だな」
 左腕を庇いながら、チェスターは起き上がる。ケトは自分がまったくの無傷であることに気付いた。
「ふ、ふんっ、別に心配なんかしてねぇよ! ただっ……ただ」
 ケトはくるりと背を向ける。
「ただ……その、ありがとよ」
 ぼそぼそとした声は、しかしチェスターの耳には届いている。チェスターも片眉を上げながら、その頭を小突いた。

 空は晴天。
 春らしい暖かな陽射しが、今日も二人を照らしている。

クリエイターコメントお届けが大変遅くなり、本当に申し訳ありません。せめて少しでもお楽しみ頂ければと願うばかりです。
公開日時2009-04-22(水) 19:10
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