★ 心の距離感 ★
クリエイター依戒 アキラ(wmcm6125)
管理番号198-6217 オファー日2009-01-03(土) 19:53
オファーPC ティモネ(chzv2725) ムービーファン 女 20歳 薬局の店長
ゲストPC1 レイ(cwpv4345) ムービースター 男 28歳 賞金稼ぎ
<ノベル>

 キラリキラリと目を彩るイルミネーションに身を包んだそこは、銀幕広場。この日の為にと用意された大きなクリスマスツリーはこの上ないくらいに綺麗なドレスを纏い、その段カットドレスから放たれる光の層は見る者たちを魅了する。
 恐らくは一年のうちに最もペアでの来客が多いこの日は、クリスマス。そんなクリスマスに、中央のツリーからは少し距離をとったイルミネーションの下で、レイは人を待っていた。
 見慣れたコートの下には、見慣れない白のスーツ。遠目に見ただけでもいい物だと分かるそれは、レイにはとてもよく似合う。
「あら、良くお似合いですこと」
 肯定するようにかけられたその声は、ティモネの声だ。今日のレイの待ち人だ。
「そりゃよかった。似合ってなかったら、プレゼントしてくれた人に悪いからな」
 小さく笑って見せたレイに、ティモネは反射的に目を逸らしてしまった。不愉快になった訳ではない。レイにそのスーツを贈ったのは他でもない自分なのだから。ついでにいうと着てくるように指定したのも自分だし、今日の夜を一緒に過ごそうと誘ったのも自分だった。「クリスマスお暇でしょう? 付き合って下さいな」乗り気ではなさそうだったレイに、クリスマスプレゼントにとスーツを贈って着てきて欲しいと言ったのだ。
 ほんの少し強引だったかもしれない。ティモネは今更になって少し思ったが、強く断らなかったという事は、本当に暇だったのかもしれない。まぁいいかと逸らした視線でそのまま辺りを見回した。
「カップルばかり」
「おかげで、待っている間が暇で仕方なかった」
 呟いたティモネにレイが軽口で返す。
「まぁ」
 そういえば以前。同じように待ち合わせしていた時は、レイは待ち時間にナンパをしていたっけ。そんなことをティモネは考える。
 けれど、今は違った。レイはそういうことはせずに自分を待っていたのだ。本当の所は、言葉どおりにカップルばかりで声を掛ける人がいなかっただけなのかも知れないが、そんなことはいい。どうあれ、自分を待っていてくれたのだから。
 それが理由だろうか、単にクリスマスという空気に浮かれているだけなのだろうか。いつもは不愉快になってしまうような台詞も、そんな気にはならなかった。
「ティモネもそのチャイナドレス、よく似合ってる」
 考え込んだティモネの視線を掴んで、レイが言う。口調こそ普段のナンパのような感じのそれだったが、レイは本当にそう思っていた。深い緋色のチャイナドレスは、彼女のスラリとした体型に良く似合い、普段よりも妖艶さが増していた。
「取ってつけたように……でも、素直に受け取ることにしましょうか」
 うふふ、と微笑んでティモネ。
「さて。それじゃ行こうか」
 はっとしたレイ。そっとティモネの手を取り、歩き出す。
 不意に触れられた手に一瞬びくりとしたティモネだったが、振りほどくことはしなかった。変わりに照れ隠しの言葉が紡がれる。
「そんなに急いで。見られて困る誰かでもいたのかしら?」
 冗談交じりのティモネの言葉に、レイはわざとらしく肩をすくめて見せる。
「まいったね、こりゃあ」
 確かに、まいった。
 ほんの一瞬だが。微笑んだティモネに見惚れていた自分に、レイは気がついたのだった。


 レイのエスコートで二人が向かったのは、レストランだった。
 雑誌なんかでもそこそこ目にする機会の多いそこは、結構値段の張るレストラン。
「よくこんないいお店の予約がとれましたね」
 そんなに早くに誘った訳じゃないのに、とティモネ。ディナーの予約を取ったのはレイだったのだ。
「ん。まぁ、な」
 歯切れの悪いレイの返事に、ティモネは返す。
「もしかして、別の人と来る予定だったんじゃないですか」
「ははっ。まさか」
 苦笑いでそう答えるレイを見て、ティモネはたった今自分が言ったばかりの言葉を後悔する。
 そんな事が言いたい訳ではない。と、思う。なのに、口から出る言葉はそんな言葉ばかりなのだ。
「本当ですか……」
「ん? あぁ、勿論――」
「レイさんは、私の事……」
 ティモネの言葉が途切れる。言い渋るというよりは、言うのが怖いというように言葉を止める。
 そんなティモネに、小さく笑ってレイが言う。
「いやまいったよ。本当言うと、半年前から予約してたんだよ。君と来る為にね」
 それは、レイの嘘だ。本当は確認を取った時にキャンセルで空きが出来た所だったのだ。
 そしてレイは知っている。こういった自分の軽口を、ティモネが好まない事を。
 言葉を失っているティモネに、レイが手を伸ばす。ティモネの頭に手を乗せて、流れる髪を指でなぞる。
 それもレイは知っている。こういった自分の行動を、ティモネが好まない事を。
 だからレイは予測していた。ティモネが自分の手を掴んでその行動をやめさせ、不機嫌そうな目で文句を言うだろうということを。
 けれども、ティモネの反応はレイの予測とは違った。不機嫌そうな顔は予測どおりだったが、その目は不自然に逸らされ、その頬は紅潮している。
「またそんなことばかり言って」
 ティモネの言葉に尖った部分は感じられなく、むしろ――。
「悪い。ちょっとトイレに」
 レイは、席をたった。気がついていない振りをして。


 レストランでのディナーを終えた二人は、聖林通りを歩いている。目的地である遊園地に向かっている所だった。
 目立った会話は無い。と、いうよりも、ティモネがそういう空気を出していた。会話する気分じゃありません。と。
 それはティモネ自身、意図してのことじゃない。ただ、そういう空気を出している自分に気がついていなかったのだ。いつものティモネからは考えられない。それほどに、余裕が無かったのだ。
 しかし余裕が無いのはレイも同じだった。先ほどはいきなりの展開で、少し強引に話題を逸らしてしまった。もう少しスマートに出来たはずだったし、するべきだったのだと。
 そしてティモネは気がついていた。先ほどのレストランでの事。明らかにレイが話題を逸らした事に。
 そんな事を二人は各々で考え、結果、自然と会話は成り立たなくなっていた。
 状況が変化したのは、二人が宝石店の前を通りかかった時だった。
 ピタリと、ティモネの足が止まったのだ。すぐにレイもティモネが足を止めた事に気が付き、ティモネの視線の先を見る。宝石店のショーウィンドウの中、その視線は一際人目を惹きつけるエメラルド。グリーンオニキスのネックレスへと向いていた。
「……綺麗」
 そのティモネの呟きは、恐らく無意識。レイはネックレスからティモネに視線を移し、じっと見ていた。
「あ……ごめんなさい」
 ティモネは自分が夢中になって見ていた事に気が付き、レイに向き直ると気まずさからか小さく笑う。けれどもどうしても気になるのか、チラチラとネックレスを見る。
「気に入ったのか?」
 目でネックレスを指し、レイが訊ねる。
「そうみたい」
 デートの最中に夢中になって見ていた事を恥じるように、ティモネは軽く笑って答える。
「そうか。なら、俺からティモネへのクリスマスプレゼントはこれしよう」
「そういうつもりで言ったんじゃ……」
 レイの言葉に慌てて返すティモネ。分かってるさ。とレイが微笑んで返し、ネックレスを買う為に店の中へと入っていく。
 もう一度、ティモネはショーウィンドウに目を向ける。飾られている沢山のアクセサリの中、グリーンオニキスのエメラルドがやはりこの目を惹きつけていた。


 遊園地に着いた二人を出迎えたのは、眩しすぎるほどのイルミネーションの世界。完全にクリスマス仕様へと姿を変えた遊園地は、文字通りに別の世界へと迷い込んだかのように煌びやか。
 プレゼントの事もあってか一気に元気になったティモネは、少しばかりはしゃいでいるようにも見える。ゆったりと歩くレイを押すようにしてアトラクションへと乗り込んでいる。
「これ……乗るの?」
「勿論?」
 戸惑っていたレイをコーヒーカップに押し込んで自分も乗り込むティモネ。
「お手柔らかに」
 ぐるぐると回り始めるカップ。最初こそ回る視界に戸惑っていたものの、すぐに物足りなさを感じてハンドルを回す。
「ゴーゴー」
 基盤となっている回転に加えて、コーヒーカップ自体の強い回転。視界はぐにゃんぐにゃんに回り、すぐに遠心力に身体が取られる。
「きゃあ」
 でも、それが面白いのだ。ティモネの口から出た声も、どこか黄色い声。
「これは、飛ばしすぎじゃないか」
 気がつけばハンドルも全開。勢いよく回るカップ。遠心力に耐え切れずに身体を傾けたティモネを支えるレイ。きゅうと密着する身体の温かさで、ティモネは気がついてレイを見る。にこりと、レイは笑った。
 アトラクションを終えてカップから降り、目が回ってふらふらなティモネをレイが支えて歩く。
「今度から、コーヒーはゆっくりかき混ぜる事にしよう」
「……?」
 呟いたレイに、ティモネははてな顔。
「ミルクの気分を味わったよ。あれじゃあミルクが可哀想だ」
 ははと笑ってレイ。気がついてティモネも可笑しそうに笑う。
 そうして次々とアトラクションを回り、少し休憩にと座ったベンチ。飲み物を買ってくるとレイがティモネの注文を聞いて売店へと向かう。
「ふう」
 ティモネが漏らした吐息は、勿論溜息ではない。はしゃいで笑って、純粋に楽しんで少し疲れたのだ。
「少し、とばしすぎたかしら」
「ぶみゅう」
 ティモネが呟いた時、突然横に置いた巾着袋から顔が生えてそう鳴いた。アトラクションの最終に落っこちないようにと巾着袋に入れていたバッキーのアオタケだった。
「あら。アオタケもそう思う?」
 問いかけるティモネ。
 実際。雰囲気は良かった。純粋に楽しかったから、少しばかりはしゃいでいるのが自分でも分かっていた。
「ぶみゅぅ」
 ティモネを見上げて力なく鳴いたアオタケの言葉は、ティモネには伝わっていたのだろうか。ティモネはふっと口を緩めて消え入りそうな声で答えた。
「分かっているわ」
 その表情は、どこか悲しげに見えた。


「へぇ、そうなんだ。それじゃあ誰にも誘われなかったからクリスマスにバイトいれたんだ」
 飲み物を買いに売店へと来ていたレイは、ナンパの最中だった。
「俺だったらこんな美人を放っておかないけどな」
 一応言っておくと、元々ナンパ目的で売店へと来た訳じゃない。仮にも他の女性とデート中だ。レイだって分かっていた。
「またまた〜。お兄さんいいの? 手に持った二つの缶ジュース。連れの人を待たせてるんじゃないの?」
 ただ、反射的に声を掛けていた。理由があるとすれば、売店の店員が寂しそうな目をしていた事と、それとその女性が綺麗だった事だろうか。
「あぁ。これは君を誘う為に買ったものさ」
 もう一つ加えることがあるとすれば、レイにとってそれはナンパをしている、とまではいかないものだった。寂しそうにしていたから声を掛けたのだ。別に本当にこのままティモネの元に戻らずに売店の彼女と何処かへ行くなんてことはほんの少しも考えてはいなかった。電話番号を聞くくらいはするかもしれないが。
「迷うなあ。お兄さん、遊んでそうだし」
 けれど、傍から見ればそれはナンパに見えてしまうだろう。まして、ベンチで待たされていた連れの女性から見るならば。
「はは。そうもストレートに言われると傷つくなあ」
 そう。ティモネは見ていたのだ。飲み物を買うだけにしては遅いレイが心配になって売店まで足を運び、遠目から楽しそうに話している二人を見てしまったのだ。
 すぅ、と。本当に静かに、身体の温度が下がっていくのをティモネは感じていた。ティモネはそのままピクリともせずに数秒間二人を見た後、ゆっくりと踵を返した。
 そしてレイが話を切り上げてベンチへと戻った時、ティモネの姿はそのベンチには無かった。
「……?」
 辺りを見回してティモネの姿を探すレイ。が、近くにそのような姿は無い。
 トイレかなにかかな。そう思い、レイはベンチに座ってしばらく待ってみるが、一向にティモネが戻ってくる気配は無い。次第におかしいと思い始め、そして気がつく。
「……まさか」
 先ほどの売店での出来事を、もしもティモネが見ていたとしたらどうなるだろうか。
 起こるであろうことを考えるレイ。すぐに答えは出る。
 もしもティモネがあの場面を見ていたのなら、逃げるか帰るか。とりあえずその場で待つという事はしないだろう。
 携帯電話を掛けてみる。が、当たり前のように通じない。帰られていたらお手上げだ。とりあえずレイは遊園地内を探してみる事にする。
 何かアトラクションに乗っている、というのは考えられないだろう。レイが見るティモネは、何か嫌な事があっても、それを別のことで発散するタイプには思えない。とすると、人ごみに紛れるタイプか人ごみを避けるタイプ。とりあえずは見つけやすい後者を想定して探す事にする。
「厳しいね、どうにも」
 歩き出し、ぼそりとレイが呟いた。


 最悪な気分。
 そうティモネは感じていた。
 この日を楽しみにして、着飾って。普段は滅多にしない化粧まで薄く施して。そうしていざデートが始まるとはしゃいで。
 そんな自分が馬鹿みたいで。
 逃げ出した後、未だ帰らずにこうしている自分が惨めで。
 最悪な気分。
 ベンチから逃げ出したティモネは、未だ遊園地内にいた。夜景の丘という、名前の通りに銀幕市の夜景を一望できる場所だ。
 ムードのあるその場所は、人は結構いるのだが、面積の広さと人口密度の低さからうまく人ごみを避けれるいい場所だった。
「…………」
 ベンチに座り、夜景を見るティモネ。
 けれども、ご自慢のその夜景は微塵も綺麗になんて見えない。ただ黒の中に光が点在しているだけ。
「ちょっといいかな?」
 不意に掛けられた声に、ティモネはどきりとして振り返る。
「一人? 暇そうだね」
 そこにあったのは見知らぬ顔。数秒間、止まる思考。一体自分は何を考えていたのだろうとティモネは苦笑する。
「ナンパですか? 随分とお暇ですこと」
「はははっ、手厳しい」
 苦笑いで言うそんな仕草が誰かと重なって、ティモネは余計に不機嫌になる。
「もしかして嫌な事あった? こんな日を嫌な記憶で終わるのは勿体無いよ。俺でよければ、楽しい記憶にする手伝いをするよ」
 にこりと笑ってそんなことを言う男。勿論ティモネはそれがこの男のやり口だということを分かっている。こんな日に一人で遊園地に来るものなんて、よほどの物好きかこの男のようにナンパしに来た人間、それに対となるナンパ待ちの人間くらいだろう。そして一人でいるのは、それらに加えて、ペアで来たけれど悶着あって別れたペア。よほどの物好き以外は、この男にとって都合がいいのだ。
 いつもだったら有無を言わさず一閃するティモネだったが、この時はふとした考えがよぎった。
 別にお返しというわけではないが、向こうだって楽しくやっているんだ。自分も楽しくやるのもいいかもしれない。
「そうですね……」
 えっ。と、期待に満ちた表情を男が見せる。
「やめておきますわ」
「…………」
 落胆したようにして去っていく男。ティモネは気がついたのだ。もしも今の男と過ごしても、楽しくないんだということに。何故ならば……。
「……ふう。探したよ。頼まれたお茶もすっかり冷えちまった」
 探していた声はきっとその声。
 探していた姿はきっとその姿。
「何しに来たんですか」
 けれども、ティモネの口はそんな言葉を紡ぐ。
「何しにって、そりゃあ」
 優しげにティモネに笑いかける、そこにはレイの姿があった。
「帰ってもいいですよ……元々無理に誘ったんですし」
 ぷいと後ろを向いてティモネが言う。そう。元々レイは乗り気では無さそうだった。そこにティモネが無理を言って誘ったのだった。
「ティモネを置いては、帰らない。帰るときは……一緒に、笑ってだ」
 口調こそ軽く言ったレイのそれは、体裁などでは決して無い。レイ自身そうしたいとの、本心が混じっていた。
「だったら――っっ!」
 昂ぶった感情にティモネが振り返って叫ぶ。ぎゅっとバッグを握って感情を押さえ込む。
「だったらどうして……っ! こんな日にナンパだなんて。信じられない」
 辛そうに、口惜しそうに言葉を搾り出すティモネに、レイは危機感を感じていた。どうすれば、いいのだろうかと。どうすれば適度に距離を置いたまま、彼女を慰める事が出来るだろうかと。
 だからレイは別段意識したわけじゃなく、言葉の繋ぎとしてそれを言った。
「悪かったよ。まさかティモネがそんなにヤキモチを焼いてくれるなんて思ってなくて」
「――っ!」
 びくりと、その言葉にティモネは反応した。
「ヤキモチ……ですって――!?」
 昂ぶった感情はもう止める事も出来ずに、ティモネはぎゅっと掴んでいたバッグを振り上げる。そしてそのまま、レイに向かって振り下ろす。
 レイにしてみれば余裕を持って避けれるスピード。けれどもレイは、身じろぎせずにそのバッグを肩で受け止めた。力もいれずに身構え無しで受けたその衝撃に、レイの眉がピクリと動く。
「私が、どんな気持ちで……っっ!」
 再びバッグを振り上げるティモネ。しかしそれは振り下ろされる事は無く、ティモネの手からぽろりと落ちた。
「どんな気持ちで……っく、貴方なんか、に……」
 ――ぽとり。
 落ちたバッグの上で音を立てたそれは、涙だった。
 ティモネは泣いていた。昂ぶった感情を律することが出来ずに、気がついたら涙が頬を伝い落ちていた。
 そしてその涙を止める術を、ティモネは知らなかった。だから一度流れ出してしまった涙は――。
「……えっ」
 不意に感じたのは、身体がふわりと浮き上がった感覚。
 気がついたら、ティモネはレイに抱き上げられていた。まるでお姫様を抱き上げるように、どこまでも優しく。
「ちょっ……と?」
 ティモネは自分がレイに姫抱きされたという驚きで、自分が泣いていたということなんて一瞬で忘れて声をあげる。
「……黙ってろ」
 少しだけ荒いレイの言葉は、でも優しく。
 レイはティモネを抱いたまま歩き出す。当たり前だが回りは人だらけ。カップルばかりだが、反応は小さくない。
「降ろして、恥ずかしい」
 顔を紅潮させて言うティモネに、レイは微笑んで返す。が、降ろす事はしない。
 そのまま少し歩き、ティモネも大分落ち着いた。レイが通るたびに道が開き、視線が突き刺さるのは少し恥ずかしいが、嫌という訳ではなかった。
 やがて着いたのは観覧車。案内スタッフは、姫抱きのまま観覧車に乗り込む姿に幸せそうな苦笑を漏らし、それがティモネには可笑しかった。
 ――ガゴン。
 重い音を響かせ、観覧車が上っていく。
 向かい合って座る二人。ティモネはうふふと笑ってレイに話しかける。
「ねぇ、レイさん」
「ん?」
 外を見ていたレイの視線がティモネに向く。ティモネは含み笑いで先を続ける。
「どうして、私が丘にいるって分かったんですか?」
「さぁ。なんとなく、いる気がした」
 そうですか……。と、ティモネ。そして続ける。
「なんで、今日はデートの誘いにOKしてくれたんです?」
「……ん?」
 少し困って、レイ。
「ティモネに誘われて断る奴なんていないさ」
 軽口を意識して、レイはそう答える。
 そうですか……。と、先ほどと似たような返しのティモネ。その違和感に、レイはどこか嫌な予感を感じる。
「レイさん」
 再びティモネの言葉。レイが返事を迷っていた所に、ティモネは続けた。
「私の事、好きですか?」
「――!」
 答えに、窮する、レイ。ティモネを見ると、僅かに笑みを湛えてはいるが、その目は本気だった。
 10秒……20秒。そんな時間が永遠にすら長く、レイは感じる。好きか嫌いかはこの際別な場所に置いておいて、深い関係になるべきかならないべきかということなら、ならないべきだとレイは考えていた。
 ティモネは目を逸らさない。レイはちらりと視線をはずして外を見る。もう結構な高さまで来ていた。
 すう、と。レイは小さく息を吸って、ポケットからグリーンオニキスのネックレスを取り出した。ティモネのクリスマスプレゼントにと買ったものだ。
 レイは立ち上がってそのネックレスをティモネにかける。質問をはぐらかされたティモネは抗議の声をあげる。
「ちょっと、まだ答え――」
 そのティモネの声を遮って、レイはティモネの額にキスをした。
 予期せぬレイの行動に呆然とティモネ。レイはさらに声を掛ける。
「よく似合ってる」
 席に戻ったレイが微笑む。
 ――途端に、ティモネの中で衝動がこみ上がった。そしてそれを止める術を、ティモネは知らなかった。
「――なっ」
 何を? 立ち上がったティモネにそう訊ねようとしたレイだったが、それを最後まで言う事は出来なかった。
 その口を、塞がれたからだ。ティモネの口で。
 ティモネはレイに、キスをした。いつだったか二人でしたバードキスよりも、もう少しだけ先の。
 唇を離して、呆然としているレイの顔をティモネが見つめる。
 うふふ。と、含み笑い。そして。
「私を泣かせた。仕返しです」
 いたずらっぽくそう言って、そのままレイに抱きついた。
「随分と大胆な仕返しだ」
 ようやく紡いだ言葉に、レイは自分でははっと小さく笑う。釣られてうふふとティモネ。
「綺麗」
 その言葉はティモネの言葉で、見ていた景色は観覧車からの夜景だった。
 見ていた方角は夜景の丘で見た夜景と同じ方角。けれども、その景色は全然違うようにティモネには思えた。黒の中の光だったものは、色を持ち、熱を持ち、そして人々の想いを持った。それはとても綺麗で。見ているだけで涙が出そうになってしまう程だった。
 ティモネは抱き合ったレイの温もりを感じながら、ずっとその夜景を眺めていた。


「……ティモネ?」
 観覧車が終着に近づいた頃、レイは小さな声でティモネを呼ぶ。
 その返事は無い。耳元から漏れる安らかな吐息に気がついてはいたが、ティモネはレイと抱き合ったまま眠っていた。
 いろいろあって疲れたのだろう。起こすのも可哀想だとレイはティモネを優しく姫抱きして観覧車を降りた。入ってきた時も同じ状態だったし、大丈夫だろうと。
「どうしたものか」
 自分の胸に頭を預けて気持ち良さそうに眠るティモネを見て、レイはそっと呟く。
 まぁ、いいか。
 考えなければいけないだろう。
 けれど今は。幸せそうに眠っているティモネを送り届けるまでは、まぁいいだろうと。レイは遊園地を後にした。

クリエイターコメントこんにちは。依戒です
プライベートノベルのお届けにあがりました。

ええと、うーん……。
て、照れる!
ラブですよラブ。微ラブ?
と、一人悶えている依戒なんて放っておいて先へ行きましょう。
長くなる叫びなんかは後ほどブログにてあとがきという形で綴らせてもらいますので、良ければ見に来てくださいませ。
と、いうことでここでは少々。

だ、だいじょうぶでした!?(何が)
なんか色々広げて書いちゃいましたけれど、変な部分がなければ幸いです。

あ、最後となってしまいましたが。
この度は、素敵なプライベートノベルのオファー、有難うございました。
自分にはなかなか無縁のお話し(泣)、楽しんで書かせていただけました。

それではこの辺で。
PLさま。ゲストさま。そして読んでくださった誰か一人でも、ほんの一瞬だけでも、幸せな時間だったと感じてくださったなら。
私はとても嬉しく思います。
公開日時2009-01-29(木) 18:40
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