★ 俺の愛馬はGINMAKU製 ★
クリエイター西向く侍(wref9746)
管理番号252-3323 オファー日2008-06-08(日) 02:05
オファーPC ガーウィン(cfhs3844) ムービースター 男 39歳 何でも屋
ゲストPC1 八重樫 聖稀(cwvf4721) ムービーファン 男 16歳 高校生
<ノベル>

▽俺の愛馬をどうしよう▽

 『何でも屋』であるガーウィンのもとには様々な依頼が飛び込んでくる。
 あるときは花見の場所取りであったり、あるときはジャングル風呂の猛獣鎮圧であったり。そのたびに、彼は現場へ駆けつけることになるのだが、そこには常にひとつの問題があった。
「そろそろ『足』が欲しいよなぁ」
 彼の言う『足』とはもちろん移動手段のことだ。
 ドタバタアクション映画『進入禁止!』から実体化したガーウィンは、映画内で自作のバイクを駆っていた。排気量1000ccの大型で、随所に彼らしい改造が施してあり、一部マニアに好評を博したため、限定生産でガレージキットも販売されたものだ。
 仕事の際、ガーウィンはいつも、その愛馬で現場に足を運んだのだ。
 ところが、たくさんの人々が思い悩んでいるように、銀幕市における実体化はままならないことが多い。彼の場合もご多分に漏れず、相棒にしろ愛馬にしろ、必要なものは何ひとつ実体化していないのだった。
 実体化していないなら、新たに手に入れるしかない。
 ガーウィンはすでに、銀幕市における新しい相棒を見つけ出していた。それは偶然でもあり、必然であったのかもしれない。
 次はバイクの番だった。少なくとも彼にはそう思えた。
「――つってもなぁ」
 ガーウィンは煙草に火をつけ、ソファーに寝転がった。
 まずは先立つものがない。いわゆる、資金不足というやつだ。
 銀幕市にやってきてから、いくつか『何でも屋』の仕事をこなしたものの、ほとんどがまっとうな依頼ばかりで、報酬額はたいしたことなかった。ちなみに、まっとうではない依頼というのも、彼は受け付けており、そちらの方は、この街には同業者も多いせいかあまり依頼が舞い込んでこなかった。
「とりあえず、在庫をチェックしてみっか」
 一本吸い終わり、ガーウィンは起きあがった。



 ガレージ内は雑然とした物置になっており、とても事務所だとは思えない有様だ。もともと機械いじりが趣味のため、電化製品から大型機械まで、あらゆるメカの一部分らしきものがそこら中に散乱していた。
「たしかこのへんに……」
 ガーウィンはぶつぶつ言いながら、ガレージの片隅を、文字通り掘っている。
「おお、あったあった」
 ガラクタの下から金属製の箱が顔を出した。この日のために少しずつ集めておいたパーツが中に保管してあるのだ。
「ベースにするのは……あれでいいか」
 きょろきょろと見まわして、中古の動かなくなったバイクを発見する。知り合いにゆずってもらったもので、もう一度動くようにするには、それこそ造り直さなければならない代物だった。
 それからガーウィンは、黙々と中古バイクをバラしはじめ、使える部分と使えない部分とに分けていった。さらに、金属箱を無造作にひっくりかえし、中のパーツを吟味する。
 額の汗をぬぐい、ふと壁にかかった時計に目をやると、パーツ選びだけで三時間もの時間が経過していた。
「こいつぁ、ひとりだとさすがにシンドイな……」
 冷蔵庫から冷たいビールを取り出し、プルタブを引き起こす。プシュッという威勢のいい音がして、泡が飛び散った。
 ぐびりと一口飲むと、ガーウィンの頭脳に名案が閃いた。
「そっか。あいつに手伝わせりゃいいんだ。さすがアルコールの力は偉大だぜ」
 そうと決まれば、と。ガーウィンは、缶ビールを一息に飲み干し、片手でぐしゃりと握りつぶして、ゴミ箱に放り投げた。



 八重樫聖稀(やえがし まさき)は綺羅星学園高等部の二年生だ。
 成績も優秀、運動神経も抜群。いわゆる優等生タイプだったが、そのことをいっさい鼻にかけることもなく、人気者でとおっていた。
 その彼が向かう先は、弓道場だ。部活動をしていない聖稀だったが、幼い頃からアーチェリーをたしなんでおり、町道場に通っているのだった。
 家から道場まで、距離はそれほどない。歩いていくのが日課だ。
 道場まであと数メートルといったところで、電信柱の陰から現れた男がいた。真っ赤なワイシャツに派手なピアス、どこからどう見ても関わりたくないタイプだ。
「よぉ!」
 ニカッと笑って片手を挙げる。
 聖稀は速攻で目をそらした。
 赤シャツの男はそんなことなどおかまいなしに、近づいてくる。
「おう、『まさきち』じゃねーか偶然だなぁ。いやぁほんっと偶然偶然」
 口にすると関係者だと認めてしまったことになるので、内心で「偶然じゃないだろ、偶然じゃ」とツッコむ。
「あらら? どうしたんだよ、今日は機嫌が悪いんか?」
 何度話しかけられようと絶対に無視する。そう固く決心して、聖稀は男の脇をすり抜けようとした。
 ひょいっと夏服の襟をつかまれ、器用にくるりと回れ右をさせられる。
 どうして首が絞まらないんだろうと、聖稀はいつも不思議に思う。
「よぉ! まさきち!」
 襟首をつかまれたまま、至近距離で笑顔を向けられ、聖稀はついにあきらめた。
「こんにちは、ガーウィンさん」
「なんだよ、そのしゃべり方は。俺とまさきちの仲じゃねーか。水くせーぜ」
「どんな仲ですか? それより今日は何の御用ですか?」
「別に用なんてないぜ。なにせ偶然会ったわけだしな」
「…………じゃあ、質問を変えます。これから何をするんです?」
「おお! イイこと訊くねぇ。さすが、まさきち!」
「…………」
「ちっ、冷てぇな。ま、いいか。あのな、いまバイク造ってんだよ」
 バイクという単語に、聖稀の白い目が若干ゆるむ。バイクと言えば、男の子であればだれもが一度はあこがれる乗り物だ。
 ガーウィンがにやりと笑った。
「映画の中で乗ってたバイクが実体化してなくてよ。あまりにも不便だから、自分で造っちまおうって話さ」
 聖稀は正直、胸がわくわくするのを止めきれなくなっていた。男子というカテゴリーのご多分に漏れず、機械いじりは嫌いじゃない。小学生のころ、動かなくなったラジカセを分解したこともある。
 満を持してガーウィンが言葉を放った。
「手伝わねぇか?」
 さっきまでの態度はどこへやら、聖稀は一も二もなくうなずいていた。
「アーチェリーの道具を家に置いてくるから、ちょっと待ってて」
 すっかりガーウィンの策略に引っかかっているわけだが、そのような些細なことなど気にならないほどに、聖稀は舞い上がっていた。



▽俺の愛馬は手がかかる▽

「おー、気合い入ってるねー」
 ガーウィンが高く口笛を鳴らしたのは、聖稀が制服姿からTシャツにジャージという戦闘スタイルへと変身していたいからだ。肩にはバッキーの『ぱんた』が乗っかっていた。
「制服に油がつくと落ちないからさ。さ、何からやる?」
 もはや待ちきれない様子の聖稀を、「まーまー」とガーウィンが片手で制した。
「まずは足りない部品集めだ。ついてきな」
 格好よく身を翻したガーウィンが向かった先は、なんと粗大ゴミ置き場だった。さっそく「あーでもない、こーでもない」と、がちゃがちゃとゴミを漁りはじめる。
 聖稀はその背後で目を点にしていた。
「まさきちにはパーツの善し悪しはわかんねぇだろうから、とりあえず使えそうな機械をどんどん掘り出してくれよ。あとで俺がチェックするからさ――ん? どうした?」
「あ?! い、いや、部品買うならお金だすけど……」
 聖稀が遠慮がちに申し出る。
 ぴかぴかの新型バイクが立ち並ぶ専門店で、小難しい横文字で店員と談笑しながら、重厚で力強い金属部品を買いそろえる。そんな想像をしていたものだから、驚きを通り越して、呆然としてしまったのだ。
「ばーか、こうやって手間ひまかけて造るからこそ、特別なもンに仕上がるんだろうが。それになぁ――」
 ガーウィンが立ち上がり、ヘアバンドのおかげで丸出しの、聖稀のおでこにデコピンを食らわせる。
「いてっ!」
 ちょっぴり涙をにじませつつ、額をおさえる聖稀に、
「子供が軽々しく、金で解決しようなんて口にすんな」
 いつもの調子と違って真剣なガーウィンの眼差しに、聖稀も素直に「ごめん」と謝った。
 聖稀の両親は海外で暮らしており、彼のもとには毎月十分すぎるくらいの仕送りが送られてくる。お金に無頓着であることも手伝って、彼はふとした時に高校生にしては金銭感覚が狂ったようなことを口にした。そんなとき、ガーウィンはいつもこうして諫めてくれる。
 ――が。
「さすがに、これは……」
 ゴミを漁る赤いシャツのおっさん。
 誰の目から見ても明らかに怪しい。今すぐ警察を呼ばれてもなんの釈明もできそうにない。スーパーまるぎんのビニール袋を抱えた、通りすがりの主婦たちが、好奇と嫌悪の視線をレーザービームのような威力で浴びせかけてくる。
 その仲間に加わるのは、さすがに抵抗があった。
 と、肩から『ぱんた』が飛び降りた。ガーウィンに並んで、ネジやクギなど小さな部品をせっせと集めはじめる。
「おまえも手伝ってくれるのか? ありがとよ」
 ガーウィンが頭を撫でると、『ぱんた』は心地よさそうに目を細めた。
 聖稀は意を決すると、『ぱんた』を挟むかたちで、ガーウィンの隣にかがみ込んだ。
「見た目からして壊れてるってわかる部品はいいからな」
「わかってる。でも、こんなものがバイクに使えるのかよ?」
 聖稀が手にしているのは、すでに原型がわからなくなっているが、なにかしらの家電製品の一部のようだ。いくらバイクの構造について無知な彼でも、バイク制作に関係ないことくらいは推測できる。
「俺様のバイクをそこらのバイクといっしょにすんなよ」
 不敵に笑うガーウィン。
「ふーん、でもさ、この部品どうやってガレージまで運ぶんだ?」
 ぴしっ。ガーウィンの笑顔が白く固まった。



 結局、一度ガレージに戻ってリアカーを引き、いろんな場所で拾い集めたパーツ類をそれに乗せ、再びガレージにやって来た。
「スッゲー!」
 ガーウィンの仕事場に来るのは初めてではない。むしろ多い方だ。ところが、見慣れた風景をも吹き飛ばすほどの勢いが、それにはあった。
 すでに、完成型が想像できるほどに仕上がったバイクだ。まだ中身がむき出しで、エンジンも脇にはずしてあったし、タイヤもついていなかったが、まさしくバイクだった。
「中古品をベースにしてるからな。形だけは、な」
 労働のあとの一服を楽しみつつ、ガーウィンがハンドルを叩く。
「触ってもいいのか?」
 ガーウィンがOKを出す前から、聖稀はべたべたと『愛馬二号』を撫で回していた。
 ガーウィンは紫煙を吐き出しながら、各部分を聖稀に説明していく。もちろん専門用語は使わずに、素人にも理解できるような言い回しで、だ。聖稀も真剣そのものといった表情で聞き入っていた。
「俺、今日からあんたのこと尊敬することにしたよ」
 腕を組んで神妙にうなずく聖稀に、ガーウィンがヘッドロックをかます。
「その言い草だと、今までは尊敬してなかったことになるじゃねーかよ?」
 ぐりぐりとゲンコツを当てられてはいるが、痛みはない。いつもの悪ふざけだ。聖稀も無理に抜けようとはしなかった。「ギブアップ! ギブアップだって、おっさん!」とむしろ楽しそうに笑っていた。
 それから二人は夢中になって作業に取り組んだ。
 もともと器用で勘が良い聖稀は、あっという間に立派な助手となり、ガーウィンを見事にアシストした。ところどころで何を取り付けているのか判断できず、聖稀が質問することもあったが、ガーウィンはそのたびに「あとのお楽しみだ」と言って、詳しくは教えてくれなかった。
 すっかり日が暮れ、油まみれのまま二人でカップ麺を食べた。
「まさきちは育ち盛りだからな」
 そう言って同じカップ麺を三つ押しつけてくるガーウィンに、「栄養のバランスはどうなってんだ? いや、せめて違う種類を三つにしてくれよ」と聖稀が口をとがらせると、
「俺はこれが好きなんだ」
 と、山と積まれた大量の同じカップ麺を見せつけられ、閉口するしかなかった。
 もちろんバッキーの『ぱんた』もお相伴にあずかった。
 『何でも屋』の『愛馬二号』が完成し、あとはカラーリングを残すのみとなった時、夜はすっかり更けていた。
「俺、一回家に電話かけるから。あいつが心配してるといけないし」
 聖稀が同居人に連絡するべく、携帯をポケットから取り出す。
 電話をかける聖稀の声を遠くに聞きながら、ガーウィンは煙草をふかしつつ、ほぼ完成したバイクをぼんやりと眺めていた。
 こいつの色は赤だ。最初から決めてあった。赤は彼のトレードマークであり、はずすことはできない。
 問題は名前だ。
 映画内で彼が乗っていたバイクの名は――
「動かさないのかよ?」
 いつの間にか聖稀が戻ってきている。
 ガーウィンは軽く頭を振ると、床に煙草をおしつけ火を消した。
「火の元には気をつけなきゃな」
 ガソリンタンクのキャップをひねり、ポリタンクから燃料をうつす。気化したガソリンが二人の鼻腔を刺激する。
 このバイクにカギはない。そんな面倒なものを付けるのは趣味ではなかったし、どうせこれを乗りこなせるのは銀幕市広しと言えどもガーウィンだけだ。
「さて、と」
 座席にまたがると、エンジンスイッチを押しアクセルをふかす。途端に爆音がガレージ内に響き渡った。
 そばで見ていた聖稀の腹の底に、エンジンの重低音がずしりずしりとのしかかってくる。力強く、心地よい感覚だった。
 青みがかった黒瞳を輝かせながら、うずうずしている少年に、ガーウィンは「乗ってみるか?」と勧めた。
「おおおお」
 感嘆とも驚嘆ともとれる声を上げ、聖稀はシートから伝わる振動に心を弾ませる。
 彼は当然ながら免許を持っていない。だから、まだバイクを走らせることはできない。そっと目を閉じて、想像することしかできなかった。
 そんな聖稀に、ガーウィンは「今度、後ろに乗っけてやるぜ」と優しい笑みを浮かべた。
「ホントか?! 絶対だぞ! 絶対だからな!」
 聖稀の足下で、『ぱんた』もいっしょに小躍りしていた。
    


▽俺の愛馬の名前は――▽

 ガーウィン、聖稀、そして『ぱんた』までもが白いマスクを顔につけていた。ガレージの窓や入り口を開け放ち、換気も万全だ。
「準備はいいか?」
「OK」
 ガーウィンの合図で一斉にカラースプレーを吹きつける。最後の仕上げであるボディーの塗装だ。
 ここは塗装工場でもなんでもないので、市販の小さなスプレー缶を使って、各ボディーパーツひとつひとつに色をつけていくしかない。地道な作業だった。
「にしても、赤かよ」
 そこまでしか口にしなかったが、聖稀の顔には「趣味ワリィ」という続きが書いてある。
「赤は俺のトレードマークだ」
 なぜか胸を張るガーウィン。
「あっ、そう」
「うおっ! 冷てぇな、まさきち」
「ぎゃっ! こっちにスプレー向けんなよ! って、『ぱんた』にスプレーがっ?!」
「おー、かっこよくなったじゃねーか、『ぱんた』」
「黒と白に、赤まだら柄って、ぜんっぜんかっこよくねーだろ! 洗ってこい、今すぐ責任取って洗ってこい!」
「えー」
「『えー』って、子供かよ、おっさん!」
 ガーウィンが「かっこいいのになぁ」などとつぶやきつつ、仕方なしにバッキーを風呂場へとつれていく。聖稀は一人と一匹を最後まで見届けると、床のうえに腰を下ろした。
 聖稀にとってガーウィンは不思議な存在だった。
 部品集めのときのように、まるで父親のように自分の間違いを正してくれたりもする。しかし、こうしているとどちらかと言えば兄のような感じだ。
 頭で考えてもはっきり結論が出る問題ではなかったが、父親にしろ兄にしろ、大切な存在であることにかわりはないのだろう。
 そこまで考えて、なぜだか妙に腹が立ってきた。ガーウィンが自分にとって大事な人だと無条件に認めてしまうのは非常にシャクだったのだ。
 それは、いわゆる反抗期に若者が抱く感情に近かったろう。そして、大半の若者がそうであるように、彼もまたその気持ちが愛情の裏返しであることに気づかない。
 ふと聖稀の天才的頭脳に、めちゃくちゃくだらない悪戯が浮かんだ。
 きゅぴーん。聖稀の両目がアヤシイ光を放つ。



 濡れた『ぱんた』にドライヤーをかけてやりながら、ガーウィンは昔を思い出していた。彼にとっての昔とは、映画『進入禁止!』の中での話だ。
 彼は銀幕市に実体化することによって多くのものを失った。仕事場もしかり、相棒もしかり、バイクもしかり。実体化してすぐは、それらの喪失感にだいぶ悩まされたものだ。
 でも今は違う。この銀幕市で、新しい何かを手に入れたからだ。新しい仕事場、新しい相棒、そして新しいバイク。
「よし! いっちょあがり。これで、まさきちも文句ねぇだろ」
 きれいになった『ぱんた』を抱いて、聖稀のもとへ戻る。
 すると、コソコソとうごめいている聖稀の背中が目に入った。
「なにやってんだ?」
 背後から声をかけると、びくっと全身をふるわせた聖稀が、どこから持ってきたのか絵筆を取り落とした。
「お、お、おかえり」
 あわてて絵筆を拾い、不審な態度で何かを背中で隠すようにする。
 ガーウィンはジト目で聖稀を睨むと、素早い動きで彼の背後に移動した。
「ギャー! 俺様の愛バイクになんつーことを!」
 バイクの横っ腹に装着するボディーパーツの隅っこに、小さく、愛くるしいパンダの絵が描いてあった。レッドボディーにホワイトインパクト。
「えへへ」
「『えへへ』じゃねーよ! 『えへへ』じゃ!」
 再びヘッドロック発動。『ぱんた』が二人のそばで応援する。
「そもそもなんでパンダなんだ? かわゆすぎるだろ!」
「赤く染められた『ぱんた』の恨みを主人の俺が代わりに果たしただけだ!」
 やっぱりどちらも楽しそうだ。
 ひとしきり暴れたあと、肩で息をしながら、二人とも床に腰を下ろしていた。
「ちゃんと消すから」
 聖稀が立ち上がろうとすると、ガーウィンがその肩を押さえた。
「べつにいいさ。これはこれで、な」
 最初から冗談のつもりでいた聖稀は、一瞬きょとんとして、ガーウィンが本気だとわかり、少しだけ頬を赤らめて、もう一度腰を床に落ち着けた。なんだか自分の行動がひどく幼稚なものに思えたのだ。
 恥ずかしさも手伝って、聖稀は話題を別の方向にもっていく。
「いつ乗れるかな?」
「そうだなぁ。塗装が乾くまで二〜三日かかるかもしれねぇな」
 ガーウィンはその日もう何本目かわからない煙草に火をつけた。
「あのさ、こいつの名前、何にするんだ? まさか『愛馬二号』じゃないんだろ?」
 ガーウィンの返事は「うーん」と、なんとも歯切れが悪い。
「映画の中じゃ、なんて名前だったんだ?」
「映画の中、ねぇ」
 煙草のけむりを天井に向けて吐き出す。
 ――映画の中でのバイクの名前。
 ――彼がもはや失ってしまったもの。
 ――二度とは手に入らないもの。
 ガーウィンは聖稀に対してニカッと笑いかけ「忘れちまった」とだけ言った。
 聖稀が「なんだよ、それ」と苦笑する。
「まぁ、いいじゃねーか。それより、こいつの名前だろ?」
 ――銀幕市でのバイクの名前。
 ――新しく手に入れたもの。
 ――これから手に入れるであろうもの。
「そうだなぁ。レッド・ファイアー――」
「うわっ! 安直?!」
「――GINMAKU」
「って、レッド・ファイアー・GINMAKU?! 長っ! しかも、最後だけアルファベット?!」
「じゃあ、略してRFG。またの名を、まさきんぐ」
「略してもカッコワルっ! つーか、まさきんぐの意味不明だし!」
「よーし、さっそくネームを刻まないとな」
 勢い込んでボディーにネームロゴを描き込もうとするガーウィンと、「せっかく格好いいバイクなんだから、早まらない方がいいって!」と必死に止める聖稀。
 二人のやりとりはしばらく続いたが、最後はガーウィンが勝利し、パンダの絵の上に大きく『レッド・ファイアー・GINMAKU』と、これまた絶妙に格好いいロゴマークを描いた。
 聖稀は「俺もうこいつの後ろには乗らないからな!」と絶望的に叫んでいるが、きっと数日後にはガーウィンと一緒に杵間山ツーリングを楽しんでいることだろう。
 その夜、『何でも屋』のガレージからは、楽しげな喧噪がいつまでも流れつづけていた。

クリエイターコメントここに男のロマンをお届けします。
やっぱりバイクは男のロマンです。ロマン。

特にギャグ指定などもありませんでしたので、珍しくほのぼのと書いてみました。
苦手ジャンルなので上手く書けているか不安ですが……

最後はお任せということで、こうなりました。
自分のネーミングセンスの無さに乾杯!

誤字や口調間違いなどありましたら、遠慮なくお申し出ください。
素敵なオファーをありがとうございました。
公開日時2008-06-13(金) 22:10
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