★ 宵闇の小道 ★
クリエイター水華 月夜(wwyb6205)
管理番号853-6170 オファー日2009-01-02(金) 01:48
オファーPC コレット・アイロニー(cdcn5103) ムービーファン 女 18歳 綺羅星学園大学生
ゲストPC1 植村 直紀(cmba8550) エキストラ 男 27歳 市役所職員
<ノベル>

「うーん、困ったなぁ。どうしよう……」
 とある冬の日、すっかり日も落ちて闇に包まれた裏路地の前を、コレットはそう呟きながら行ったり来たりしていた。
「入らなきゃ見つからないし、でも怖いし……」
 でも探さなきゃ、ううんやっぱり怖い。
 心の葛藤そのままに行ったり来たりを繰り返すコレットは、偶然通りかかった人物から声を掛けられた。
「コレットさん? どうしたのですか?」
「あっ、植村さん」
 通りがかったのは、市役所帰りの植村。彼にしては早い帰りだが、それでも定時は大幅に過ぎている。
 植村に声を掛けられたコレットは、自分の目的を言っていいものか数瞬迷った。だって、今こうしている理由は――。
 だがしかし、自分一人ではどうにも出来ないからこそ今まで意味もなくこの場所を往復していたわけで。
「え、えっと……」
 だったら正直に手伝って貰った方がいいよねと、コレットは口を開いた。
「植村さんの所に持って行こうとした夜食のお弁当、路地で落としてしまったみたいで……」
 怖くて一人では探しに行けなくて、と少々声を沈ませながら続けるコレットを植村は優しく見守って。
「それで、あの……探すのを手伝って貰っていいですか?」
 おずおずと、内心では渡す相手に落としたそれを探すのを手伝ってもらうなんてと少し自己嫌悪も入りつつ。コレットのそんなお願いを、植村はやっぱり優しく引き受けたのだった。

 とはいえそこは真冬の夜の裏路地、しかもここは銀幕市。
 色んな意味で何が起こるか分からないその闇に踏み込む恐怖は、並の幽霊屋敷を軽く凌駕する。
 まあ、さすがにハザードで実体化する本物の幽霊屋敷ほどでは――。
 ちうちうちうちうちうちう。
「きゃっ」
 ガッターン。
「うわっ」
「何見とるんじゃいわれぇ。目が1つしかなくて何が悪いんじゃぁ」
「ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんですけど……」
「う〜え〜む〜ら〜さ〜ん。こ〜の〜ま〜え〜は〜ど〜う〜も〜」
「うっわぁ……って、ああ、この前の」
 えーと、やっぱりいい勝負かもしれないです。
 幸いバイオレンスな出来事には遭遇せずに済んでいるものの、暗闇時々申し訳程度の灯り、所によりネズミが走り抜けたり物が倒れたり妖怪に出くわしたり幽霊が植村さんのお世話になっていたりエトセトラエトセトラ。
 こんな真冬に納涼なんていらないと思う余裕もなく、2人で驚いて驚いて、時々プチパニックになったりもして。
「んー? 妖怪に何か用かいぃ〜?」
 それでも何度も続けば慣れてくるもので。
「え、えっと。近くでこれくらいの包みを見ませんでしたか?」
 人の良さそうな裏路地の住民に声を掛けられ、コレットが思いきって聞いてみたところ。
「あー、それならぁ、ここからもう少し先に落ちていたなぁ〜」
「本当ですか?」
 目撃情報を得ることが出来た。やはりこの路地で落としてしまったらしい。
「ありがとうございます。早く見つけちゃいましょう、植村さん」
「そうですね」
 気持ち足取りが軽くなった2人を見送りながら、ふとその妖怪は口にした。
「あーでもぉ〜、ヤクザなネズミが目を付けていたなぁ〜」
 しかしその声は、コウモリの大群に遭って悲鳴を上げていた2人には届かなかった。

 キィキィうるさいコウモリのトンネルを何とか抜けた2人は、ようやく探していた包みを見つけることが出来た。が。
「あーあ……」
「食べられてしまっていますね」
 器用に開けられた包みの中のサンドイッチには既にネズミが数匹取り付いていて、何故かサングラスとくわえ煙草のネズミには「ごちそうありがとな」なんて言われてしまったり。
「残念」
 そう呟いてとぼとぼと歩き出すコレット。植村もついてくるが、申し訳ない気持ちがいっぱいで振り返ることも出来ない。
 植村さんのために作ってきたのに、落としてしまって探すのを手伝って貰って、なのに結局駄目になっていて。
「コレットさん」
「植村さん……ごめんなさい、わざわざ探すのに付き合って貰ったのに……」
 気持ちが落ち込むと、悪い方へ悪い方へと考えてしまうのはよくあることで。そもそも落とさなかったら良かったんだよね、植村さんをがっかりさせてしまったかなと沈んでいく気持ちは最近の別の失敗まで思い出させて。
「気にしなくて良いですよ。これはこれでいい気分転換になりましたし」
 際限なく沈みそうな心を、しかし植村の言葉はさっとすくい上げてみせて。
「それに、わざわざ作って頂いただけでも嬉しいですから」
 その言葉が気を遣ってのものか本心からのものかは分からないけれど。でもその優しさはきっと本物だから。コレットを支えてくれているものだから。
「……じゃあ、さっきのサンドイッチの代わりに何か夜食作っても良いですか?」
 暖かい気持ちを向けてくれる人の前でいつまでも落ち込んでいるのは、それこそ申し訳ないよねと。努めて笑顔を保ちながら、植村の方に振り返りながらコレットはそう告げる。
「それはもちろん。……え、作る?」
「はい。植村さんの家で」
「うーん……ま、そうしますか」
 付き合いは長いし兄と妹のような関係の様な関係ではあるけれど。それでも数瞬迷ってから、まあ大丈夫でしょうと植村は頷いた。少し前にもこんな事ありましたねと思いながら。


 裏路地を抜けると、ほのかに空が白くなる。
 それは街灯の灯り、あるいは月や星明かり。多分お店のネオンサインなんかも混じっている。
「何か作って欲しい物ありますか?」
「そうですね……」
 夜食のメニューを話ながら、2人は近くのスーパーへと足を伸ばす。この時間なら閉店前の割引品が並んでいることだろう。
「あ、そうだ」
「?」
 ふと、コレットは思い出す。植村に、大事なことを伝え忘れていたことを。
「さっきは一緒に来て貰ってありがとうございました。とっても頼りになりましたよ」
 それは、感謝の気持ち。笑顔を向けられながらそう言われた植村は。
「それはよかったです」
 と、やはり笑顔をコレットに返したのだった。

クリエイターコメントこんにちは、水華です。
お待たせしてしまいましたがプライベートノベルのお届けです。
少々どころか今回は納期ギリギリ……。

あちこちで捏造を加えたりしていますが
楽しんで頂ければ幸いです。
もし何か気になる点などありましたらお気軽にご連絡下さいませ。
この度はオファーありがとうございました。
それでは、今回はこれにて失礼します。
公開日時2009-02-04(水) 19:20
感想メールはこちらから