★ ハッピークリスマス ★
クリエイター梶原 おと(wupy9516)
管理番号589-5943 オファー日2008-12-17(水) 00:32
オファーPC ファレル・クロス(czcs1395) ムービースター 男 21歳 特殊能力者
ゲストPC1 コレット・アイロニー(cdcn5103) ムービーファン 女 18歳 綺羅星学園大学生
<ノベル>

 クリスマス。聞いたことはあるが、実際に何をする行事なのかも知らない。
 先日、買い物中にばったりと出会ったコレットと何故かそんな話になると、それはいけませんと勢いよく否定された。
「クリスマスはケーキを食べてお祝いしないといけないんですっ」
 ぐっと握り拳で主張されるそれに、ケーキ、と心中で繰り返す。
 その沈黙をどう受け取ったのか、コレットはケーキの説明をわたわたと始めるので、一応知っている旨は告げたのだが。今度は食べたことがないのだと受け取ったらしく──実際問題、嗜好の範囲で食べたことはないのだが──、クリスマスは一緒にお祝いしましょうときらきらした目で提案された。
「一緒に、ですか?」
「はい! ケーキは用意しますから、場所は提供してくださいね? 私はまだ施設でご厄介になっていますので、お客様をお招きするのは難しいので」
 施設という言葉に引っかかりは覚えたが、敢えて問い返すほどのことではないだろう。彼としても元の世界──こちらでは映画の中、というべきか──であれば誰かを招くような余裕もなかったが、今は対策課で地道に依頼をこなしつつ住む場所も斡旋してもらったので、彼女一人を招くくらいはどうにかなるだろうと判断した。
「分かりました。それでは、私の部屋にいらしてください」
「よかった! 美味しいケーキを持っていきますね」
 楽しみにしていてくださいと続けられたそれは、本当のところ何にも心が弾まない提案だったはずだが。
 コレットが嬉しそうにはしゃぐ姿を見てファレルはどことなく落ち着かない気分になって、ふいと視線を外した。
 何だかざわざわするけれど、別に悪い気分ではないと考えている自分が不思議だった。



 コレットと約束をした、クリスマスイブ。彼女が訪ねてくるのは昼を過ぎてからだと分かっていたが、目を覚ました時から何だかひどく落ち着かなかった。
 人を招けるほどには掃除もしてあるし、食事は済ませてから来るはずだから準備をしておくほうが迷惑だろう。する事がないのなら散歩でもしてくればいいとは思うのだが、何故か出て行く気にはなれなかった。
 そわそわと落ち着かない気分のまま立ち上がって部屋をうろつくが何があるでなし、何をしているんだと反省してソファに座るものの何やら気が逸ってぱっと立ち上がり、また部屋をうろつく。何度となくそれを繰り返して自分でも頭を抱えたくなってきた頃、チャイムが鳴ってほっと息を吐いた。
 ドアを開けに行くと二人分のケーキにしては大きな箱を手にしたコレットがいて、こんにちはと微笑みかけてくる。
「……こんにちは」
「今日はちょっと奮発しました。ファレルさんのクリスマスデビューですものね」
「くりすますでびゅー……」
 何かしらいいイメージを受けないとひっそり心中に突っ込んだが、どうぞと中には促しておいた。
 先に部屋に入ったコレットは、何故かくすくすと笑っている。
「どうかしましたか」
「ものすごく片付いたお部屋だなと思って。ファレルさんらしいですね」
「私らしい、ですか」
 それは褒められているのだろうかとぼんやり考えたが、コレットが楽しそうにしているので追求しないで椅子を勧めた。
「お茶を淹れてきます。何がいいですか?」
「あ、私もお手伝いを、」
「部屋の招いたならば、私がホストでしょう。コレットさんは座っていてください」
 そういうものだと聞きましたと片手を上げて説明すると、少し迷った後にありがとうございますと笑顔になったコレットが椅子に座る。
 知らずふいと視線を逸らしつつ、何がいいですかと重ねて問いかけた。
「紅茶をお願いしてもいいですか」
「ダージリン、アッサム、セイロン、ウバ。フレーバーティーならアップル、チョコレート、バニラ、メイプルシロップが。ハーブティーはカモミール、ペパーミント、ハイビスカス、」
 つらつらと茶葉の種類を上げていると、あの、あのうっと声をかけて止められた。
「ああ、失礼、早かったですか? では最初からもう一度、」
「そうではなくて、その茶葉の種類は、」
「すみません、目新しい物がなくて。紅茶の他なら中国茶もありますよ。茉莉花、薔薇、桂花の花茶に、黒茶、青茶、苦丁茶。日本の緑茶も、」
 買った物を思い出して並べ上げると、何故かコレットが何度も目を瞬かせてこちらを見ている。
「──お気に召さないようなら珈琲も、」
 ありますと続けようとしたのに、コレットは小さく頭を振るとやがて堪え切れないとばかりに声を立てて笑い出した。
 楽しそうに笑う姿は不快ではないものの、何がそんなに面白いのだろうと考えていると、ごめんなさいと笑いながら謝罪してきたコレットは目許を軽く拭ってどうにか波を押さえ込んだらしい。それでも華やかに口許に余韻を残したまま、どこか嬉しそうに声を弾ませた。
「それ、全部ファレルさんが用意してくださったんですか?」
「私は普段、茶葉には拘りませんので。誰かを招くならば相応の用意は必要かと、買い求めました」
 ですから淹れ方にはどれも自信はありませんと正直に答えると、コレットは何となくくすぐったそうに口許を緩めた。
「そこまでしてくださったのは嬉しいですけど、残った茶葉が勿体無くないですか?」
「ええ。全部消費するには一年ほどかかりそうですから、気に入った物があれば持って帰ってください」
 是非と少し強く提案すると、コレットはまたくすくすと笑った。
「それでは、欲しい物があれば買い取らせてもらいますね」
「いえ、貰ってください。私はお茶なんて飲めればいいですから」
「でも、それだと無駄遣いさせたことになりますから」
 それは申し訳ないですと憂いたように眉根を寄せたコレットに、構いませんと答える。
「私は幼い頃からずっと、政府の管理下で過ごしてきました。クリスマスも知識としては知っていますが、祝った事はありません。それがおかしいのだ、と気づいて抗ってはみましたが、反乱軍と称されるようになってからも穏やかな生活とは無縁でした。今ここで自由に仕事を選び、自分の意思で武器以外の物を買えるのは喜ばしい事なのでしょう」
 それをしたかったようですねと他人事のように語ると、コレットははっとしたように彼を見て何か口を開きかけ、それから静かに唇を閉じて微笑んだ。
「そうでした。クリスマスパーティーなんですから、楽しまないといけませんよね」
 色んなお茶も試してみましょうねと笑ってくれるコレットに、そうですねと返しながら逃げるようにキッチンに向かっていた。



 コレットが持ってきたケーキは一応ピースではあったが──これがホールならどうして二人で食べ切るのだろうと危惧していたが、ピースを繋げるとホールになりそうなほどには数があった──、その上にどれも可愛らしい物体が乗っている。
 どうやらそれはクリスマスに纏わる様々らしく、チョコレートのトナカイやマジパンのサンタクロース、砂糖菓子の柊やベル等々、いかにもなクリスマスケーキ。らしい。
 言われてみれば街中は今どこもそんな風にごてごてと飾り立てられていて、パーティーと称するからにはそこまでするのが礼儀なのだろうか、と、今更になって思い当たる。
 顔を上げて部屋を見回せばいつも通りの殺風景で、ケーキのような無駄な華やかさが欠片もない。
「すみません、パーティーらしさがないですね」
 思わず謝罪すると、大事そうにケーキを取り上げていたコレットはきょとんとした顔をする。それから彼の視線を追って部屋を見回し、要は気分です! ときっぱり断言した。
「クリスマスはお祝いをしようという意思が大事なんですよ。パーティーを開くと決めて、一緒にケーキを食べたらそれはもう十分にパーティーですから」
 だからよしですと頷きながらケーキを皿に乗せ、どうぞと彼の前に置いてくれた。
「確かに施設では、子供たちが一杯飾り付けをしますけど。あれは、クリスマスを当日前から楽しみたいが故の行為ですからね。それに飾り付けのお手伝いをしたりするいい子には、サンタクロースが来るんですよ」
 彼に教えてくれながらコレットが取ったケーキには、砂糖菓子の柊が乗っている。マジパンのサンタクロースは、まだそちらの数のほうが多い箱の中。
 ファレルが一瞬目を伏せたコレットを眺めていると、ぱっと笑顔になった彼女がそれでは食べましょうと声を弾ませた。
 美味しいですよと勧められるので一口だけ食べると、予想通りに甘い。それでも何かしら真剣な顔つきで、どうですかと尋ねてくるコレットが覗き込んでくるからふいと視線を外した。
「美味しくなかったですか……!?」
「いえ。……甘いです」
 食べられますと引き続き口に運ぶと、まだ少し窺うように彼を眺めているのでどうぞとケーキを示した。
「コレットさんも食べてください」
 なくなりますよと続けると、ほっとしたように笑ったコレットが食べ始めるので、ファレルも内心で安堵の息をつく。
 そのままケーキを食べ進め、コレットが次のケーキを選ぶ時も真ん中にいるサンタクロースは避けられた。
「サンタクロースは嫌いですか」
 何気なく尋ねると、コレットは動作を止めた。それからすぐに、そんなことはないですけどと目を付しがちに答えたコレットは二個目のケーキを一口食べて、でも、と続けた。
「施設の経済状況では、皆にプレゼントを配る余裕なんかなかったんですよね。でも幼い……サンタクロースを信じていた頃は、それを知らなくて」
 俯きがちにケーキを見たままぽつぽつと語るコレットは、どこか苦く笑って溜め息に似た息を吐いた。
「私がいい子じゃないから、サンタクロースは来てくれないんだって思っていた頃もありました……」
 今はそんなことないですよとぱっと笑顔に戻って顔を上げたコレットに、そうですかと一つ頷く。
 こんな時はかける言葉を思いつけない自分が嫌になるが、コレットは何も言わないファレルにちょっとだけ嬉しそうにして二個目のケーキを彼の前に置いてきた。
 赤いサンタクロースが、チョコレートの上に鎮座している。
 ファレルはフォークでそれを掬い取ると、白い雪みたいに粉砂糖を被った彼女のケーキの上にサンタクロースを移動させた。
「こんな老人が、クリスマスの一夜だけに世界を回るなんて無茶ですよ。毎年、きっと配る地域が限られているんです」
 毎年街が一つなら確率は低いですねとぼそぼそと続けると、コレットは目を瞬かせてファレルを見た後に飛び切り嬉しそうに笑った。



 コレットが持ち込んだケーキを二個ずつ食べて、ファレルが大量に買い揃えた茶葉を面白がって幾つか試した後、お腹一杯! と満足そうに笑ったコレットがどこかはしゃぎすぎていたような気もする。それでもサンタクロースの話をしている時のような様子が払拭されたのはいいことだと思い、用意していた物を取りに行って戻ってくると、ソファでうつらうつらしている姿を見つけた。
 彼の為に色々と頑張ってくれたせいで疲れたのだろうと思うと、起こす気にはならない。知らず口許を緩めながらそっと近寄り、ソファの肘掛を枕にしている彼女の傍らに靴下を提げた。
「Merry Christmas」
 小さくファレルが呟くと、コレットがふうと口許を緩めてくれたのが嬉しくて、知らず彼も口許を緩めていた。

クリエイターコメントオファー文から、どこまで捏造する気だろう。と自分突っ込みは入っておりますが、楽しんで書かせて頂きました。
人の招き方が分からなくてちょっとばかり暴走されるお姿などが書きたかったのですが、どこまでやっていいのか匙加減が難しく。意図されたお二人様になっていればいいのですが、かなりどきどきしながら判決を待っている気分です。
クリスマスというよりは、一定距離を保ちつつ想いを寄せるお姿に重点を置いた話になりましたが、ちょっとでも気に入ってくださいましたら幸いです。
素敵なオファーをありがとうございました。
公開日時2008-12-24(水) 02:00
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