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<ノベル>
少年は、走った。
息が切れる程に。
ただ一つの願い。
親友を助けたかったから。
そんなトオルを空高くから、発見した青年が居た。
空中散歩を楽しんでいた、ケトだ、
走っているトオル少年を横目に見ながら、その先に沢山の子供達の行進が目に映る。
「何だありゃあ、今はああいう遊びが流行ってんのか?」
そう思った時、集団の中の1人の少年が振り返ってケトを凝視する。
すると、スイッチが入った様に、ケトに道ばたの石を投げつけてくる。
「うわっ!うわっ!どうしたんだあいつ等!」
大急ぎで、石の届かない上空まで飛翔する。
「なんだよ、あいつ等、なんかに取り憑かれてるんじゃないか……って、あり得る!滅茶苦茶あり得るじゃねーか!」
そしてふと思い出す。
「そう言えば、距離を取って子供達を追いかけていた子供が居たな。」
よしっと、羽を旋回させる。
「いっちょ、話、聞いてみるか!」
そう言ってケトは、子供達を追っていた少年トオルに近づいていく。
「おーい、そこの坊主!」
「お…俺?」
突然の上空からの来訪者に少し驚きながらも、すぐに我に返って、上空から現れたケトの胸ぐらを掴んだ。
「どうしよう……どうしよう……シンヤが……シンヤ達がおかしくなっちゃった!」
「何があったんだよ?それじゃ分かんねーよ。詳しく、教えてくれよ」
「えっとな……」
トオルは涙をこらえながら話しだした。
木の上から見ていたことを。
シンヤ少年が玉を拾ってから、様子がおかしくなったこと、シンヤがその玉をかざすと他のみんなもおかしくなってしまったこと。
たどたどしくもあったが、友の為に必死で説明した。
「こりゃあ、ムービーハザードにしても厄介だな。対策課に行くか……」
「その、心配は無いわよ。このムービーハザードの件については、対策課が調査していた所よ」
話していた、トオルとシンヤの間に割って入る様にローラーブレードを履いた快活な少女が、話に入ってくる。
対策課から派遣されて来た、新倉アオイだ
「そこの坊やには分からないかもしれないけど、今回の依頼は超ヤバイの」
「と言うと?」
「里見八犬伝って知ってる?その話に出てくる、8つの玉が悪意を持って、この銀幕市に実体化してしまったの。こんなのマジでアリエナクナイ?その一つ一つは意志を持っていて、それぞれの意志で色々な悪さをするはずよ」
「よく分からないけど、その玉のうちの一つがシンヤ達に悪さをさせようとしているって事?」
一生懸命考えながら、結論に達したトオル少年をアオイは撫でる。
「まあ、そう言う事よ。早く、彼等から玉を奪い取らなきゃ」
アオイが言うとトオルに真摯に頷く。
「そこの有翼人種さんももちろん手伝ってくれるんでしょ?」
「まあ、乗りかかった船だし」
ケトが言うと、
「まあ、ここまで来て、女子供だけに任すなんて格好悪いの局地だからね」
ケトの答えにアオイが悪態を付く。
「やれやれ、また随分とやっかいな事じゃないか……」
街はずれの喫茶店でコーヒーを飲んでいた、冬月 真は、街を歩く少年達の目にあまりにも生気がないのを感じ取り、昔培った刑事の勘でこれは事件だと感じ取った。
コーヒー代を払うと、店を出て、電柱の陰に隠れる。
子供達を救うのには、まだ情報が足り無さすぎる。
なにやら尋常じゃない雰囲気を出している少年たちを遠目に見つめ、冬月はどうしようかと思案に耽っていた。
「どうしたもんか……ん?」
少年たちの後を追う一人の少年が、そして少女、有翼人が、彼等を追いかけてきた様だ。
その中の少年のその表情は焦燥に彩られている。
こうなったらもう関わらないという選択は取れない。
あの後を追っている少年は絶対無理をするだろう。
「これだから・・・ムービーハザードは嫌になる」
そう言うと、真は電柱の陰から出て、
「ムービーハザードなんだろ?手を貸すぜ」
そう言うと。
アオイが、
「なっによー、えっらそうに私たちだけで解決出来るわよ」
「そう言うなってお嬢ちゃん、子供達が絡んでんだろ。早く助けてやらないとな」
と落ち着いた雰囲気で真が言うと、
「分かってるわよ!子供達の無事が最優先なんだから!」
そんな中、大人達が話しているのも我慢出来ずトオル少年は子供達に向かって走り出していた。
「マズイ!早く追いかけなきゃ!」
有翼族のケトは、その羽を活かして素速く追いかける。
「こうしちゃ居られないわね!行くわよ!」
「はいはい、頑張りますかね」
アオイと真も続くのだった。
街の中に入った子供達は、何かに取り憑かれた様に、暴れ回った。
カフェの外にある椅子でガラスを割る少年。
手に持ったおもちゃで人々に殴りかかろうとする少年。
闇雲に石を投げつける少女。
どの子供達の目には、生気が無く操られるが如く行動していた。
そんな子供達の暴挙を、大人達はどうすることも出来ず、手近な子供を捕まえようとして反対に噛みつかれたり、引っ掻かれたりしていた。
少年達が見渡せる高台には、シンヤ少年が玉を前の方にかざして、闇色の妖しげな光を発していた。
そこに走ってきたトオル少年が現れた。
「シンヤ!何やってるんだよ!元に戻れよ!こんな事してちゃ駄目だ。みんなで楽しく遊ぼうぜ!」
そんなトオルにちらっと視線を向けると、シンヤは玉を持っていないもう片方の腕をゆっくり上げた。
そうすると、バットを持った少年が横からトオルに殴りかかった。
殴られる!
そう思って目を瞑った、トオルだったが不思議とその痛みは無かった。
「大丈夫か?お前?俺は、太助。散歩してたら、こんな事になってて、びっくりしたよ」
トオルが目を開けると、顔だけ狸で身体全体をスライム化させた、太助が、トオルをまじまじと見ている。
「……ありがとう、俺、トオル。でも、シンヤがシンヤが!あいつが持ってる玉が持っている玉が全部悪いんだ!何とかしてくれよう!」
トオルの心からの叫びだった。
「とおる、よくがんばったなぁ。よし、一緒にやるぞ!しんやの心を取り戻すんだ!」
そう言うと太助は、子供達の持っている武器になりそうなものを片っ端から、その、スライム上にした腕ではじき飛ばしていった。
そうこうしているうちに残りの3人も街の中に入り、周りの状況を見て、溜息を付く。
「なんか、超やばくない」
「俺、空から、このピンで子供達を引きつけるよ」
アオイの声にケトが自慢のジャグリングに使うピンをどこからともなく出して、空に登っていく。
「俺達は、子供達の保護だ!くれぐれも怪我させるなよ!」
真が言うと、
「そんなこといちいち言われなくても分かってるわよ!」
アオイがそっぽを向いて、その方向にいる子供達を、おとなしくさせようと動く。
「とりあえず、トオルを護らなきゃな。一緒にいるのはムービースターか……」
真の目の前には、身体をスライム状にして大きな膜を作り、護り、少年達を助ける為、気絶程度の柔らかいダメージをその触手で与えている太助が居た。
「トオル!」
呼ばれ、太助に護られながら誠の声に振り向くトオル。
「トオル、お前はどうしたいんだ?」
「どうしたいもこうしたいもないよ、ただシンヤをみんなを助けたいんだ!」
トオルは真の問に真摯に答えた。
「なら、他の子供達の事は、任せろ。お前は、その玉を持っているシンヤを助けるんだ!」
「うん、分かってる!」
神妙な面もちでトオルが頷く。
「えっと、お前、なんて、言うんだ?」
そして太助に問う。
「そうか、太助。トオルのことはお前に任せた。無傷でシンヤの所まで連れていってくれ。そして、シンヤの持っている、玉をシンヤの手から引き離してくれ。出来るか?」
「もちろんだ、トオルは俺が護る。それで玉をシンヤから奪い取ればいいんだな」
「そうだ、任せたぞ」
そう言うと、鎮は太助達に後を任せ、まだ暴れ狂っている少年達の所へ駆けた。
一方、ケトは、ジャグリングのピンを器用に地上に投げ、少年達の暴走経路を封じていた。
「それにしても、これじゃいたちごっこだぜ。早く、元凶を退治してくれよ」
このままでは、何時か子供達の暴走を許してしまう。
一刻も早く元凶を破壊しなければ。
そう、『仁』の玉を!
「シンヤ!」
「ト…オ…ル」
子供達の壁を越えて、ようやく高台にいるシンヤの側に着いた時、トオルは息も切れ切れだった。
「大丈夫か?とおる?」
「俺は、大丈夫……早くシンヤを助けて……」
友を思う力が全ての原動力だった。
そんなトオルに向かってシンヤは、玉をかざした。
「シンヤ、一緒に帰ろう……」
トオルの表情は変わらす、シンヤを呼び続ける。
「お前のことだけを思って、ここまで来たシンヤにはそんなもの効くもんか!」
太助が言う。
「くっ……」
そう言い、シンヤは玉を持って逃げようとする。
「ちょっと待った!逃げるのはここまでにしましょう!」
だがそこに待っていたのは、子供達をロープにくくりつけてきたアオイだった。
自慢のローラーブレードのスピードを活かして先回りしてきたのだ。
「あなたの玉、『仁』の玉みたいね。人を思いやり、慈しむ玉。でも、ムービーハザードに侵された今、その玉は、災厄でしかない!」
アオイが言うとその隙をついて、太助がそのスライム状に伸ばした手でシンヤの手から、『仁』の玉を弾き飛ばす。
玉がコロコロと地面に転がると同時に、シンヤが倒れ込む。
「シンヤ!」
すかさず、トオルがシンヤを抱き起こしにかかる。
そして、コロコロと転がった『仁』の玉はアオイの前で止まった。
「ゝ大法師の話も聞いたし、伏姫を可哀想にも思うけど……今のあたしには銀幕の街を守りたいと言う思いの方が強いのよ!」
そう言って、アオイはかかと落としの要領で、自慢のローラーブレードを振りかざし『仁』の玉を破壊するのだった。
『今は、小遣い欲しさじゃない!この街が好きなんだもん』
アオイの切なる思いで『仁』の玉は破壊された。
そうして、玉が破壊されると、シンヤがトオルの腕の中で目を覚ます。
「あれ……トオル……何で?俺達かくれんぼうしてたんじゃ……」
「いいんだよ、シンヤ。帰ってきてくれてありがとう」
トオルは我慢していた涙を流した。
「よかったんだな、とおる」
そう言って太助も狸の姿に戻るのだった。
「ふう、それにしても今回は厄介だったな。子供相手じゃ拳をふるう訳にも行かないからな」
真が荒れた街を片づけながら言う。
「本当にね。これじゃあ、怪獣相手の方が楽かもね」
続けてケトも言う。
「それにしても、アオイの最後の蹴りは、凄かったな」
太助が言うとアオイは、
「本当に凄いのは友達を思い続けたあの子の力だよ……」
そう言う、アオイの視線の先には二人仲良くゴミ拾いをしている、トオルとシンヤの姿があった。
固くて見えない、思いやりという絆を持った二人の姿が。
★ ★ ★
ゆるゆると陽が沈んで行く。
生温い風が臭気を運んで行く。
まるでそこにあるすべてのものが、それの場所を知らせるかのように。
ゝ大法師は山を歩いていた。
昔と、同じように。
あの時も、彼女を捜して、こうして山の中を歩いた。
「──伏姫様」
そして、見つけた。
川が流れている。
川。
そう、川の向こう側……。
そこに、姫がいる。
そして傍らには、ボロボロにひび割れた『義』と書かれた玉。
「金鋺大輔殿か……また来たのかえ」
美しく豊かであった黒髪は、今は白く振り乱されている。
ふっくらとした可愛らしい唇は、乾涸びて割れている。
「殺しに来たのかえ、金鋺大輔。それとも、また外してくれるのかえ?」
にぃ、とわらうと唇は引き攣れ、ぷつりと切れて血が滲んだ。
ゝ大は俯いた。
「その名はあの時、捨て申した。……姫様を殺してしまった、あの日に」
言うと、女は笑った。
森が不気味にざわめき、その声を掻き消して行く。
「金鋺大輔、金鋺大輔よ。私を殺しただと? 殺しただと! 貴様、貴様が殺したと! ひひひ、笑わせるな、笑わせるでないぞ、貴様が殺したなどと!」
目は赤く血走り、瞳からは赤い涙が幾筋も幾筋も零れ落ちていく。
「一思い、一思いに殺せぬなら銃など手にするでない、愚か者。迷うておる、迷うておるのだろう、金鋺大輔? 知っておる、知っておるぞ、貴様、私に懸想しておったろう。ひひひ、ここで叶えてやろうか、我は生き返った! 幸せか、幸せであろう、八房もおらぬ、貴様のものになってやろうかぁあははっはははははっ!」
ゝ大は唇を噛む。
思い出されるのは、鈴を鳴らしたような愛らしい声。
春の花が咲くような、優しい笑顔。
空は血色に染まっている。
俯いていると、すぅと細い枯れ木のような白い手が、ゝ大の頬に伸びて来た。目の前には、自分を見上げる少女。
「……私を見られぬか。さもあろう、のう、金鋺大輔」
いとおし気に頬を撫でる手。
ギリギリと爪を立てて、その頬を赤く染めた。
「まっか、まっかにならんとのう、貴様、貴様もならんとのう、目を、目を閉じるな、閉じる出ない、貴様、貴様が閉じるでない、見よ、見よ、貴様の罪を見よぉおおおおお!」
ゝ大はただ目を閉じてされるがままに引き裂かれた。
頬の肉が削られ、白い骨が覗く。
女は笑いながら削り取った肉を握り潰す。それから滴る血を赤く長い舌に絡ませて笑い続けた。
まっかだ。
「うまくいかぬのう。残った玉も『義』の玉のみ……ふふ、義はよいのぉ、戯れは面白かったか?」
『義』の玉はふよふよと弱い光を放つ。それに、女は笑った。
「そうかそうか、ふひひひひひぃい……我も、我も戯れたいのう、のう、金鋺大輔? 降りたい、降りたい、ここから出してくりゃれ」
削られた頬から流れる血が胸に降りてくる。べったりと血塗れた上に、女は頬を寄せた。ゝ大は動かぬまま静かに言い放った。
「……なりませぬ」
削られた肉の隙間から空気が漏れる。垂れ下がった皮がその空気に揺れた。
女は笑う。
「なりませぬ! なりませぬだと! ひひひい、金鋺大輔、貴様は変わらぬ! 変わらぬ変わらぬ変わらぬ、ではまた殺し損じるがよいぞぉおひいいいいいっ!!」
笑う。
甲高く。
風が。
生臭い風が運んでゆく。
今度こそ。
間違いは起こしてはならぬ。
「損じるがよいぞ! 貴様は私を殺せぬからなぁっ! ふひひひひ、今度は自ら死んでやらぬぞ、生き恥を晒せと申した者共にものど者共に思い知らせてやらねばなららならないのだからぁああああ」
今度こそ。
ゝ大は銃を構える。
間に合わなかった。
また、間に合わなかった。
だから、今度こそ。
為損じぬよう、こうして。
「なんじゃぁ、黒い筒を私に向けるとは、不忠者めが、手柄も上げられず帰ることもせず挙句私を殺し損ねた損ねた筒をまたたたまたまた向けたむけるむけるまたたまたまた」
額に。
指に力を込める。
引き金を引く。
筒が。
天を撃った。
ゝ大は目を見開く。
『義』の玉。
ぼろぼろにひび割れた『義』の玉。
『義』とは正義。
義の者は命令では従わぬ。
義の者は奴隷ではないからだ。
義の者は自らの義の為に義を尽くす相手の為に義を貫く。
『義』が選んだのは。
「いひぃひひひいあああはははははっ! 損じた損じたぞ、また損じたぞ、金鋺大輔、それでこそ貴様きさまさまよよおおぉおおいひひいひひひひ」
伏姫。
ぞぶり。
腹。
腹に。
腕。
細い。
枯れ枝のような。
声。
笑い声。
笑い声。
「さらば、さらぁばばかなかなまま金鋺だ大だいだいすす輔ぇえええ、あは、ははは、はは、は、」
銃声。
笑った顔。
醜く引き攣れ深紅に染まった顔。
ゝ大はじっと見つめていた。
ひび割れた『義』の玉は、二度同じことをする力は残されていなかった。
笑い声。
銃声。
銃声。
銃声。
銃声。
銃声。
銃声。
銃声。
銃声。
銃声。
「今度こそ、おさらばです。……伏姫様」
『義』の玉は粉々に散って。
笑い声の主は干涸びた黒い灰になって。
消えていく。
溶けていく。
生臭い空気を一掃するような風が吹いて。
がしゃり。
銃が地に落ちる。
崩れ落ちる。
山伏姿の男。
「……姫様」
流れる。
瞳から。
溢れる。
次から次へと。
止めども無く。
ごろり。
転がった。
夜が来る。
空には。
満天の、星。
笑った。
そこには。
一つのフィルムと、一丁の銃が残った。
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クリエイターコメント | 参加者の皆様ご参加ありがとうございました。
【銀幕八犬伝〜仁の章〜】お送りしました。 如何でしたでしょうか? 『仁』の玉は皆さんの活躍で破壊されました。 書いていて、冴原が思ったのは、「やっぱり友情って大事だな」ってことです。 皆さんも、周りにいる友達は大切にしてください。 かけがえないものですから。
今回はコラボレーションシナリオにお誘い有り難うございました。
誤字脱字、感想、ご要望等ありましたらメール下さると嬉しいです。
それでは、また銀幕の世界でお会いしましょう。 |
公開日時 | 2008-06-07(土) 19:00 |
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