★ ドキドキ恋愛パニック ★
<オープニング>

 こんな気持ちになったの……初めて……あいつのことを考えるだけで……胸が苦しくなっていく……。
「颯太、好きだ!! お前だけを……愛してる!!」
「オレもお前が好きだ!!」
 俺のことを……颯太はぎゅっと抱きしめてくれる。今、俺は凄い幸せだった……。
 いつからこんな気持になったのだろう? そんな疑問が一瞬頭をよぎったが、直ぐに今はこの幸せを受け入れることだけを考え、俺はそして颯太の唇へ、ゆっくりと唇を近づけ……
 (フェイドアウト)

 その日、桃子は銀幕市アップタウンに調査に来ていた。リオネが大規模なムービーハザードがこの辺りで展開すると、予言したのだ。
 そしていつものように「対策課」の他の皆は忙しくて、桃子一人で現地調査に行くことになった。
「まったく……どうしてあたしが……もうめんどくさ〜」
 しかし予言の時刻が過ぎても、アップタウンは静かだ。別に何の異常もない。どうやら予言はガセだったらしい。
 とそのとき、よそ見していた桃子に、どんと誰かがぶつかってきた。桃子は、きゃあ、と可愛らしく悲鳴をあげて、倒れる。
「いたいなぁ……まったくもう……誰よぉ!!」
 見上げると……そこには桃子の理想がいた。つまり、美形の男の人がいたのだ。
「失礼……大丈夫……怪我はない?」
 男の人はそういって、桃子に手を優しく掴んで、立たせてくれる。桃子は男の人をぽーっと見上げる。そのとき、男の人がこう呟くのが、桃子に聞こえた。
「美しい……まさに……理想だ」
 まあ……本当に? こんな格好いい人にそんなこと言ってもらえて、桃子はまんざらではなかった。
「お願いです、どうか俺と……」
 桃子は先も聞かずにうなずこうとした。
「付き合ってください」
 そのとき、気づいた。相手の男の人が、自分を見ていないことに……。
 男の人が見ていたのは、背後の男の人だったのだ。背後の男の人はなんだか、びっくりした顔をした。当然だろう、同性にいきなり告白されたのだから。
「お、オレと……? 急に言われても困るよ……」
 えっ? 突っ込みどころはそこ?
「駄目かな……? その……今までこんな気持になったことないんだ、本気なんだ……」
「だからって……そんな急に……」
「だったら、そこで喫茶店で少し会話しないか? 話して、俺のこと、知ってもらえたら……」
「まぁ……話くらいなら、いいけど?」
 な、な、なんですって!? あたしじゃなくて、よりによって男の人を口説くなんて、どういうつもりよ、この男!?
 しかし周りを見て、ようやく気づいたが、周囲は男の人同士のカップル、女の人同士のカップルが多い。
(まさか……これがムービーハザード!?)
 大変大変、と桃子は急いで植村直紀に報告するため、市役所に戻ろうとした。
 しかし、またゴンと方がぶつかる。今度は……真紅のゴスロリのドレスを着て、赤い日傘をさした女の人だった。
「あら、あなた……あなたはまだあたしの力が及んでないのね?」
 何のこと……? と桃子は尋ねようとした。でも、女の人がぺたっと桃子に触れると、突然そんなことはどうでも良くなった。ただ、目の前に好みの人(女)がいる、口説かなきゃ、という想いでいっぱいになった。
 桃子は普通に男の人が好きなはずなのに、何でそんな想いが沸いてきたのか、今はそんな疑問は疑問はまったく浮かんでこなかった。

「銀幕市のアップタウンで、大規模なムービーハザードが発生しています」
 植村は集まった皆にそう告げる。
 今度はどんなムービーハザードなんだろう? 疑問をぶつけると、植村は珍しく動転して顔を赤くした。
「その……男の人は男の人に、女の人は女の人に想いをぶつけたくなる、そんなムービーハザードだそうです……」
 それを聞いて、一同は絶句する。それはさすがに……嫌。
 皆の気持ちを察したのか、植村は慌てて続ける。
「でも……長時間、アップタウンのムービーハザードの発生している区域にいない限りは、大丈夫みたいです。ただ、長時間その区域にいると、影響されるらしいですけど……。徐々に心が……。それとこのムービーハザードを発生させたヴィランズの女性に近づくと、影響が大きくなるみたいです。特に触られたら、直ぐに影響される可能性が高いです」
 つまりそのヴィランズに触らないで、何とかしないといけないらしい。
「桃子クンが犠牲になったあと、追加情報でムービーハザードはヴィランズを説得なり脅迫なりして、ヴィランズに消させないと駄目みたいです。ヴィランズにはの力はありますけど、それ自体は大したことありません。あくまで、ヴィランズとムービーハザードという要因が複雑に絡み合って、今回の大規模災害を生み出したみたいです。ヴィランズはとあるBL映画に出てきた登場人物で、その映画が彼女の力でBLの世界になってしまう、という陳腐な映画でした」
 つまりヴィランズ自身にこのムービーハザードをやめさせたら解決らしい。一度ムービーハザードが収まってしまえば、これほどの災害を引き起こす力をヴィランズはもっていないらしい。それにBLを広めたいというだけで、悪意はないので、ある意味ヴィランズではなく、ムービースターかも?
「もし影響されても、事件を解決したい、という想いは消えないで残ります。その……もし町で誰かを好きになっても、節度ある行動をして、そして速やかに事件の対処にあたってください」
 その言葉を聴いてから、一同は事件解決のため、銀幕市アップタウンに向かった。

種別名シナリオ 管理番号489
クリエイター相羽まお(wwrn5995)
クリエイターコメント こんにちは、相羽まおです。
 初めましての方は初めまして♪。また会えた方は、またお会いできて嬉しいです♪。ふつつかものですけど、どうか宜しくお願いします。
 これがわたしの4目のシナリオとなります。まだまだいろいろ不慣れなことも多いですけど、それでもいいと興味を持ってくださった方は、どうか参加してみてください。

 事件解決にあたっては、ヴィランズの女性を何とかしないといけないです。でも、捕まえようと触ったりしたら……同性に恋をしてしまうようになります。別にそうなっても、事件が解決するまでは。普通に事件解決のために行動はできますけど、そうなるのは嫌、という方はヴィランズに触らないようにしてください。でも、ヴィランズに近づくだけでも、同性にどきどきするようになってしまいます。
 ヴィランズがどこにいるか探して、捕まえる、あるいは抹殺する、という作業が必要になります。ヴィランズは男の子同士の恋愛を見ているが大好きですので、見た目のいい男の子同士がラブラブしている光景が見られる場所を探してみるといいでしょう。

参加者
藤田 博美(ccbb5197) ムービースター 女 19歳 元・某国人民陸軍中士
パイロ(cfht2570) ムービースター 男 26歳 ギャリック海賊団
ウィズ(cwtu1362) ムービースター 男 21歳 ギャリック海賊団
りん はお(cuuz7673) エキストラ 男 35歳 小説家
<ノベル>

 日本のどこにでもある何の変哲のない街……とは、とても銀幕市は言えないだろう。だが、銀幕市であっても、ここ、アップタウンのとある地域は、特に異様だった。
「仕事行くなら、途中まで俺と一緒に行こうぜ、ダーリン? お前の傍を片時も離れたくないんだ」
 という男同士の夫婦ならぬ夫夫が家から出てきたかと思えば……、
「何、照れてんだよ、大介? 人前なんて関係ねえぜ、お前だって、こんなに感じてるんだろ?」
 という男同士のカップルが近所の公園でいちゃいちゃしていたりした。
 藤田浩美はそんな情景をしっかり観察しつつ、目当ての人物を探して回る。
 ――どこにいるのかしら? オネエサマ……。
 擦れ違う女性を見る度にオネエサマかと思って、浩美のハートは高鳴る。そして確認する度にがっかりしてしまう。
 でも、根気良く探した甲斐があって、やがて街の一角に、オネエサマを発見した。
 この季節はまだそんなに日差しは強くないのに、オネエサマは赤い日傘を差して歩いていて、派手に目立つ真紅のゴスロリのドレスを着こんでいた。
「オネエサマ!!」
 浩美はオネエサマに声を掛け、大きく手を振りながら駆け寄っていった。
 オネエサマは立ち止まり、怪訝な表情で浩美を見ている。浩美はやがてオネエサマの目の前に立つ。はぁはぁと息を乱しながら、嬉しそうに喋りかける。
「良かった……オネエサマ、探していたんですよ……」
「あなた……誰?」
 オネエサマは浩美を見て、眉を顰めた。浩美が誰なのか、まったく心当たりがないみたいである。でも、オネエサマが浩美のことを知らないのは当然だ。だって……初対面なのだから。
 だけど、そんな彼女の様子にも構わず、浩美は親しげに彼女の顔を覗き込んだ。
「えっと……私のことが誰だかわからないんですね? でも、いいんです! 今度こそ、覚えていただけたらいいですから」
「だから……あなたとあたし、いつ、どこであったのよ?」
 オネエサマは鋭く突っ込む。しかし、浩美はめげない。
「私は藤田浩美です。ちゃんと覚えていてくださいね、オネエサマ」
 浩美は可愛らしい声でにっこりと笑った。オネエサマは心底困惑した顔をしている。浩美はオネエサマと腕を組んだ。
「オネエサマはどちらへ行くつもりだったのですか?」
「別にどこに行くとは決めてないけど……」
「そうですか? じゃあ……いいところがありますわ。一緒にいきましょう!」
 浩美はオネエサマの腕を引っ張って歩き出した。オネエサマは迷いながらも、一応、浩美に引っ張られるまま歩き出した。

 銀幕市のアップタウンにある図書館――ここでも愛の営みは盛んに行われていた。
 りいはおはそんな光景を興味深そうに見ながら、このムービーハザードの原因であるヴィランズの女性を探して、図書館の中を歩いていた。
 本棚を曲がろうとしたところ、本棚の影に隠れていたらしく人が突然目の前に現れ、その人とドンとぶつかってしまった。お互いに床に尻餅をついて、倒れてしまう。
「いたた……」
「大丈夫ですか?」
 りいは涙目になりつつも、相手の方を心配して窺う。相手は高校生くらいの男の子だった。黒髪で、目がくりくりしている。
 男の子はりいと目が合うと、ぷくっと頬を膨らませた。
「もう……気をつけろよな。前くらいちゃんと見てあるけよッ!」
「すみません……俺、こう見えても、結構ドジですし……」
 りいは申し訳なく思い、一生懸命謝る。でも、それ以上言葉が出てこない。
 でも、男の子はそれを聞いて、りいに興味を持ったようだ。りいのような大人がドジというのは、意外だったのだろう。こいつ、可愛いな、という顔で、男の子はりいの顔を覗き込んだ。
「へえー、大変だな。ところでお前、何の本、探してたんだ?」
「いえ……本ではないのですけど……ちょっと人を……」
 どこまで言っていいのか分からず、りいは言いよどむ。でも、男の子はさばさばとした態度で当たり前のように言う。
「ふうん……そっか……じゃあ、俺も手伝ってやるよ」
「えっ、えっ……?」
 りいは驚いて、男の子をまじまじとみる。男の子は悪びれず、座り込んだまま、にへら、と笑みを浮かべてみせた。それから男の子は立ち上がる。そしてりいに向かって手を差し出す。
「ほら、掴まれよ」
「あ……はい」
 戸惑いながらも、りいは男の子の手を握った。何だか照れくさくて、掌が熱い感じがする。男の子はりいの手をひっぱって、りいを立たせてくれた。
 でも、手はまだ握られている。りいはこのどきどきを隠すように、下を向いた。
 りいは男の子に対して、頭をぺこんと下げる。
「すみません……本当にお世話かけてしまって……」
「いいよ。お兄さんみたいな格好いい人の手伝いができるなんて、俺、幸せだよ」
 男の子はにこにこ本心から言っているように言う。こういうことをさらりと言える辺り、ムービーハザードの影響下なのかもしれない。このどきどきも、きっとムービーハザードの影響なのだ。りいは必死に自分に言い聞かせる。
 りいが混乱している間に、男の子は振り返ると、手を振って、りいの正面を歩いていた男の子に呼びかけた。
「おーい、つかさー! こっちこいよー」
「悟、また格好いいお兄さんをナンパしてたんだね」
 冷ややかにいいつつ、司と呼ばれた男の子はこちらにやってくる。いかにもクールな外見の男の子だった。でも、クールだけど、可愛い、という感じがした。
 ――どういう関係だろう?
 とりいは2人に興味を持つ。
 しかし悟と呼ばれた子は、りいの様子に構わず、手を放すと今度は、ぎゅむぎゅむとりいの腕に抱きついてきた。
「それでお兄さん? どんな人を探しているの?」
 そんな悟の挙動が可愛いな、と考えつつ、りいは答える。
「あ、りいでいいです。えっと……赤いゴスロリのドレスを着た女の人を……」
「それなら、俺、見たよ?」
「えっ、どこでです?」
 りいは思わず勢いで、間近から悟の顔を覗き込んだ。しかしそんなりいをはぐらかすように……悟は悪戯っぽく微笑んだ。
「キスしてくれたら、教えてあげる♪」
「えっ!?」
 キス……いいのかな、こんなに簡単にしてしまって……。でも、これくらいなら……。小説を書く参考にもなるし……。
 そんな風に迷っているりいを、悟は愉快そうに見ていた。やがて、笑顔で首を振ってみせる。
「う・そ。お兄さんの困った可愛い顔が見たかっただけだよ」
 やれやれ、とりいは溜息を吐き出す。それから改めて尋ねた。
「それで……その女性はどこにいましたか?」
「この建物の、スポーツセンターのプールに入っていくところを見たよ。本当についさっき見たから、今行けば、多分中にいると思うよ」
 スポーツセンター……りいは納得する。男の子の胸の飾りは見えるし、ビキニタイプのパンツを男の子が履いていたらふくらみまで思う存分堪能して見ることができる。えろい。確かに腐女子の考えそうな場所だった。
 りいは2人に別れを告げて、早速スポーツセンターに向かった。

 プールは沢山の水着の男の人で溢れていた。
 りいは目のやり場に困ってしまう。周囲の男の人の上とか下とかを意識してしまって、居心地が凄く悪い。早くここから離れたくて、りいは急いで目当ての女性を探した。
 プールサイドで水に脚を付けて座るようにして、女性が2人いた。2人とも長髪で、1人は大学生くらい細身な子、1人はいわゆるナイスバディの大人の女性だった。
 りいが注目したのは、ナイスバディの着ている水着だ。赤のスカート付きでフリル付きの、ゴスロリ風の水着だった。
 彼女に違いない、と確信して、りいは2人に近づく。
「あの……?」
 よくよく見ると、ナイスバディたちはプールにいる男の子たちをさり気なく鑑賞していたみたいだった。りいが声を掛けると慌てて罰が悪そうに視線をさまよわせ、それからりいと目を合わせる。ナイスバディは警戒した様子でりいに尋ねた。
「あらぁ……あなたは? 何かしら? あたしに何の用?」
 りいはナイスバディの警戒を解こうと、にっこり微笑んだ。
「俺はりいです。君のことをずっと探してたんだ。君がこのムービーハザードを起こしているヴィランズですね?」
 しかし、その言葉は逆効果だったみたいだ。ますますナイスバディは警戒した態度を取る。ナイスバディは座っているお尻をずらして、りいから心持ち身体を離すと、顔を顰めてみせた。
「あたしはヴィランズじゃないわよ。それはムービーバザードでこうなったのを楽しみながら鑑賞させてもらっているけど、ムービーハザード自体はあたしのせいじゃないし、それにこのムービーハザード自体、誰にも迷惑かけてないじゃない。むしろ皆、幸せになっているわ」
「そうよ! オネエサマをヴィランズ呼ばわりしないでよ! オネエサマはね……タイトルすら忘れたマイナーBLアニメ映画で超脇役だったけど……一応、悪役ではなかったわ! むしろ目立たなさ過ぎて、人畜無害だったわ!」
「それ、フォローになってないわよ!」
 ナイスバディ……改めオネエサマはげしっと大学生の女性をプール目掛けて蹴り落とした。大学生は溺れて、あっぷあっぷと水を掻く。大学生は器官に水が入ったのか、こほこほ咳をしながら、オネエサマに抗議した。
「ちょ、オネエサマ、ひどーい!!」
「酷いのはあなたよ」
 オネエサマはふうと溜息を吐き出した。
 りいはプールサイドから大学生に手を差し出す。
「どうか、掴まってください」
「……あ、有難う」
 大学生は素直に手に掴まる。りいは大学生を引き上げた。りいも男の子だ、女の子1人くらいなら引き上げる力はある。
 それからりいはオネエサマの方へ向き直った。そして内心の想いを告げる。
「正直この事件が誰の責任か、何て、完成ありません。僕は知りたいのです」
「何を?」
「何故女性はBLを好むのか、ということを」
 りいはきっぱり言った。
「はあ?」
 間抜けな声を上げて、オネエサマは聞き返した。
 りいは前々不思議だったのだ。何故女性は、自分(女性)が関係ない恋愛物語を好むのか、それが凄く疑問であった。小説家として、BLの本質を理解したかった。
「何故BLなのですか? 何故♂×♀ではなく、♂×♂なのですか?」
「何故って……あたしに理由聞かれても答えにくいけど……」
 オネエサマは本当に困った顔をする。しかし、りいは容赦なく、オネエサマに突っ込む。
「自分が好きな理由、分からないのですか?」
 オネエサマは色々思考を巡らしつつ、ぽつぽつと思った言葉を口にした。
「ええ……そんなこと改めて考えたこと、なかったわ。好きなものは好きだとしか、答えられないわよ。でも……そうね、違うかもしれないけど……あたしが女だから、あたしじゃない性だから、自分ではなりえないものに対する憧れじゃない? あと、好奇心もあると思うわね」
 それでは納得はできない。オネエサマ自身もはっきりそう、と断言したわけではないし、それにもっときちんと分かりやすい理由が聞きたかった。
 そんなりいの不満を感じたのだろう。オネエサマはりいへ聞いてくる。
「あなた、小説は読む?」
「ええ、読みますけど……それが?」
「小説とか漫画とか、好きだから読むのよね? でも、それを好きな理由、あなたは答えられる?」
 聞かれてりいは途方に暮れてしまった。小説を好きなのには理由はいらない。ただ、自然に小説が好きなのだ。
 改めて小説を好きな理由を質問されても、りいには答えられない。
「ちょっとそれは分からないです……」
「でしょ? 分からないわよ、そんなこと」
 りいは納得した。つまり女性がBLが好きなのは、小説や漫画が好きな理由と同じなのだ。人々の中には小説が好きではない人もいるように、女性の中にもBLが好きではない女性もいる。それだけの話だ。
 でも、やっぱりBLについて、詳しい知識は欲しかった。りいはオネエサマに頼み込む。
「じゃあ、俺に、BLについて詳しく教えていただけますか?」
「いいわよ、じゃあ、一緒に行動しましょう。これからあたしも場所を移して鑑賞するつもりだったから」
 オネエサマは快く承諾してくれた。

 夜のアップタウンの街を、ウィルはデジカメを持ってさまよっていた。
「何か、いいネタ、ないかな?」
 ウィルはこの街で起こったムービーハザードの噂を聞きつけ、美形スターがムービーハザードに巻き込まれたところを激写しようという思惑で、夜のこの街に来たのだ。
 写真はネットで売ってもいいし、同人のネタにもしてもいい。もしくはカ○ェ『楽園』の美★チェンジさせるときの脅迫材料のネタとして森の娘たちへ提供してもいい。夢はどこまでも大きく広がる。
 そのとき、近くのバーの扉が開いた。そしてそこから見覚えのある男の人が姿を現す。
「あーっ、あんたはッ!?」
 ウィルは叫んだ。ウィルの声に気づいて、その男の人も振り返る。ウィルを見て、その男の人も声を荒げた。
「おまえ、とんがり耳!? 何でこんなところにいるんだよッ!!」
「それはこっちの台詞だ。バイロ、なんであんた、こんなところに!?」
 その男の人の名前はバイロと言った。ギャリック海賊団の一員で、その正体は船長に飼われているオウムであった。ウィルとの仲は最悪といってもいいほど悪かった。
 バイロはウィルの全身を上から下に見回す。そして……ウィルがここにいる理由を察する。
「なるほどな、また悪巧みしてたのか。相変わらず腹黒い奴だな」
「な、なんだよっ!? まだオレの質問に答えてないだろ! お前、こんなところで何してるんだよ!? まさか、オレをつけてたのか!?」
「オレはいつも通りバーに飲みに来ただけだぜ! 何であんたなんかのあとをつけなきゃいけないんだよ」
「じゃあ、オレはこっちに行くから、付いてくるなよな。絶対付いてくるなよな」
「おまえこそ、酒がまずくなるから、オレのあと、ついてくるなよ」
 ウィルとバイロはお互いに相手の顔を睨みつけてから、フンッと思い切りそっぽを向いた。
 そのとき、不意に……
 どきっ。
 心臓の高鳴りを覚えた。
 まるで直ぐ傍に愛しい人がいるような、そんな感じだった。
 ウィルとバイロは自然とお互いの顔を見つめ合う。どきどき……心臓はさらに高まっている。
「何で、オレ、こんな気持ちに……まさか!?」
 ウィルは気づいた。自分もムービーハザードに巻き込まれたのだ。
「ギャー、一生の不覚ー!!」
 ウィルはわめき散らすが、そんなことでは、このバイロを愛しいと思う気持ちは消えない。
 バイロも気持ちは同じみたいだった。ウィルの手をそっと取って、撫で回す。
「ウィル……おまえ……このインクの付いたいかがわしい手が最高だぜ!」
「や、やめろよ!」
 ウィルは慌てて手を引っ込める。しかしバイロは気にせず、今度はウィルの後ろに手を回す。
「や、やめっ、そんなトコ……」
 何だか変な気持ちになってきた。ウィルはバイロに撫で回されているお尻をもぞもぞと動かす。まるでバイロにもっと……と強請るように……。
 ――何だよ、これ……こんなのオレのキャラじゃねぇぞ!?
 必死にそう思うものの、ついもっと気持ちよくなるように身体は動いてしまう。
「お願いだから……やめてくれ……」
 ウィルは目尻に少し涙を浮かべて、バイロに懇願した。バイロはきっぱり言う。
「いやだ」
「……何でだよっ!! そんなにオレのこと、嫌いか!?」
 ウィルはついわめき散らしてしまう。と同時に、胸がチクリと痛かった。バイロに嫌われているかも、というのが、ショックだった。
 バイロは情熱的な目で、ウィルを見つめた。そしてぎゅっと力いっぱい抱きしめた。
「違う! だが、やめるのはいやだ! おまえの全てをオレのモノにしたいんだ!」
 その言葉を聞いて、ウィルは嬉しかった。おずおずとバイロを抱き返す。バイロはそのままウィルをひょいと抱き上げて、お姫さまだっこした。突然のことにウィルはびっくりし、それから恥かしく思う。赤くなりながら、じたばた暴れた。
「こら、バイロ!? 放せよ!?」
「このまま2人だけで落ち着ける場所にいこうぜ? こっちだ……」
 バイロは大人の恋愛するためのホテル目指して歩き出した。

 ウィルたちの喧嘩をたまたまオネエサマたちは目撃していた。しかし2人はただ喧嘩して別れるだけなのは、おしい存在であった。オネエサマはこっそり、ムービーハザードの効果がウィルとバイロに及ぶようにしたのだった。その結果が、今の目の前の光景だ。
 りいはオネエサマに尋ねる。
「えっと……このまま……一緒にホテルへ行くつもりですか?」
 当然のように、オネエサマは言う。
「ええ、そうよ。そうしなきゃ、意味ないでしょ?」
「でも……中までは見れませんよ?」
 その手のホテルなのだから、普通はカップルが中でいちゃついているところは見られないだろう。
 そう思っていたのだが、オネエサマは自信たっぷりに笑っていた。
 ウィルとバイロは2人してホテルへ入っていく。オネエサマはその後に続いていく。中では女性の店員が受付をしていた。その受付にオネエサマは軽く声をかける。
「いつもの部屋、お願いね」
「はい、お姉さま、分かりましたわ」
 店員は可愛らしく笑うと、鍵をオネエサマに渡した。オネエサマはそのままホテルの奥へ行く。そしてウィルたちの入った部屋の隣の部屋に入る。
 浩美はちょっと期待した顔で、オネエサマの腕に胸を押し付けた。
「ねえ、オネエサマ、ここで何をするつもりですの?」
「まあ、直ぐ分かるわよ」
 オネエサマは部屋に入ると、ウィルたちの部屋とを仕切っている壁に据え付けられた鏡に手を伸ばす。鏡は両開きの扉のように開いて、その向こうの光景が硝子越しに丸見えだった。
「ねっ、この部屋、向こうの部屋が見えるように、マジックミラーになっているのよ」
 硝子からは、ウィルたちのいる部屋の全貌が見えた。
 オネエサマ、浩美、それにりいの三人は、窓の前に陣取って、ウィルたちカップルの様子を鑑賞をはじめた。

 ホテルは外から見た限り、小さくて狭そうだった。
 でも、いざ入ってみると、中は思ったより広々としていた。
 部屋の中央には大きな丸いベッドがある。ベッドの直ぐ傍の壁には大きな鏡があった。あの前でいちゃいちゃしたら、自分たちのしている姿が鏡に映ってしまいそうである。そんなこと、想像しただけで、ウィルは恥かしくて死んじゃいそうだった。
 バイロはベッドの傍の家具の引き出しを、さっきから色々見ている。
「おー、ウィル、ウィル! 何だ、何だ、これ?」
 物珍しそうに、色々なおもちゃとか、色々な道具とかを取り出してはウィルに使い方を尋ねてきた。ウィルは勿論本当のことは言えないので、適当に口を濁しておいた。もし使い方を教えたら、ウィルに対して使われたら……凄い困る。興味はあるけど……。
 そんなことを考えていると、バイロが服を脱ぎだした。ウィルは思わず顔を背ける。バイロが服を脱いでいるところを見ていると、理性が飛んで、どうにかなってしまいそうだった。
 バイロは服を脱ぐとシャワー室の扉を開けて中に入る。
「オレ、先、シャワー、浴びてるな」
「あ、う、うん……」
 バイロの姿が見えなくなって、ウィルは安心した。そして何の気もなしに、バイロが入ったシャワー室に顔を向ける。
 ――うげっ!? すけすけで中が丸見えじゃないか!?
 ウィルの目に、しっかり全裸のバイロの姿が妬きついてしまった。何だか、お尻を触られていたときより、悶々とした気分になってくる。
 ウィルは必死に別のことを考えることにした。
 ――チクショウ、これ、全部、マンガのネタにしてやるッ!
 お金のことを考えると、少し落ち着いてきた。
 扉が開く音がして、バイロがバスローブを纏い、ベッドに近づいてくる。
 どきどき……せっかく落ち着いた心臓が、期待でまた高鳴り始めた。
 バイロはウィルの肩に手を置いた。
「おい、おまえもシャワー、浴びてきて、汗臭い身体を少しでも流してこいよな」
 あのすけすけの中でシャワーを浴びる!?
 正直、恥かしすぎて嫌だったが……でも、それを口にするは相手を意識しているみたいで、もっと嫌だった。
「お、おう……」
 何ともないふりをして、ウィルはシャワー室の前で服を脱ぎ、シャワー室に入る。バイロの視線を背中に感じ、凄く恥かしかった。でも、何とか耐えてシャワーを浴びる。
 シャワーを浴びている間は、バイロのことを忘れられた。
 そして頭に、1人の少女の姿が浮かんだ。対人恐怖症、口下手な彼女……。ウィルは彼女のことを心から愛していた。彼女のことを考え、今の立場を思うと胸が痛んだ。何だか、彼女に対して、酷い裏切りをしている気分だった。
 ――よし、やっぱりここは断ろう!
 ウィルはそう決心し、シャワーを止めると、バスローブを着て、シャワー室を出た。
「なあ、バイロ……悪いんだが、オレ……」
 ウィルは言いながらバイロに近づく。バイロはそんなウィルの腕を掴んだ。そして……腕を引っ張り身体を入れ替え、ベッドにウィルを押し倒した。
「このキュートな唇、ついばんでやりたいぜ☆。ギャリックほどじゃねぇけど」
 言いながら、ウィルのとがり耳をはむはむする。
「啄むな、アーッ」
 ウィルは赤くなってもがいた。でも、気持ちよさに身体は正直だった。身体の力は抜け……そして身体の芯がうずうずしてたまらなかった。
 ――セレエ!?
 しかし心の叫びは届かず、バイロはバスロープを脱ぎ、そしてウィルのバスローブを脱がせた。そして一気に……
 そのとき、朝日が窓から差し込んだ。
 バイロが人間の姿でいられる夜の時間が終わり、朝が来てバイロはオウムの姿に戻った。
 しかし、ウィルは、例えオウムであっても、裸のバイロが傍にいる、というだけで、落ち着けない。
「バイロ……オレ、今、一番おまえのことが気になってる……」
「(それは恋というやつさ。オレもおまえに……恋してるぜ)」
 そして2つの影は重なりあった――。

「って、オウムと人間の恋なんて、見ても面白くないわよ!!」
 オネエサマは切れた。それも当然だろう、やんちゃ系受けの少年とオレ様系攻めの少年の熱烈な行為が見れると期待していたのに、結局見れたのがこれだったのだから。
 りいは一応、2人を弁護する。
「でも、オウムと人間の恋なんて、滅多に見れませんよ? こっちの方が貴重じゃないですか?」
「やめてよ、あたし、獣○を喜ぶ趣味はないわよ!?」
 オネエサマは心底嫌そうに顔を顰めた。
 そんなことを話しているうちに、りいはトイレに行きたくなってきた。さっきからしきりに浩美からお茶を勧められ、断ったら悪いかなと思って、それを全部飲み干していたから、さすがに限界が来たようだ。
「すみません、ちょっと席、外しますね」
 りいは扉を開けて、部屋の外に出た。扉が不吉な音を立ててしまった。しかし、気にせずりいはトイレに向かうことにした。

「ようやく……2人きりになれましたね」
 浩美は嬉しそうに笑う。オネエサマはそんな浩美を見て、冷ややかに告げる。
「2人きり、といってもちょっとの間よ。りいが戻ってきたら、ここ、出るわよ。もうここには用はないわ」
「りいさん……戻ってこれると……いいですよね」
 意味ありげに浩美は言う。そのとき、初めてオネエサマは身の危険を感じた。
「な、なに?」
 思わずじりじりと浩美から後ずさり遠ざかる。浩美は怯えているオネエサマを見て、さらに嬉しそうに言う。
「オネエサマも読みが甘いご様子。私の実力はオネエサマのそれを凌駕していますわ」
 オネエサマはベッドを回り込んで、部屋の出口の扉へ走りよろうとした。しかし、浩美の動きはさらに早かった。オネエサマの手を掴んで捻ると、そのまま床に押し倒す。
 オネエサマは必死に暴れて抵抗する。
「いやっ、やめてっ!?」
「困っている顔も、怯えている顔も可愛いわ。オネエサマ」
 そういいつつ、浩美はオネエサマの着ているドレスの肩の辺りに指をかけて、一気に引き裂いた。オネエサマの白い肩が露出する。それに赤いブラ紐も。
「やめてっ!!」
 オネエサマは必死に肩を隠そうとする。しかし浩美はさらにドレスを破いていく。もう上半身に身に着けているのはブラだけ、という状態になった。
 浩美はオネエサマの上半身に顔を近づけると、肌の上に舌を滑らす。
「オネエサマの肌、柔らかい……それに甘い匂いがします」
 オネエサマはもう恐怖のあまり、声も出なくなっていた。くすんくすんと子供のように怯えてしゃくあげることしかできない。
 そして……オネエサマは同性愛などもう二度とこりごりという目にあわせられた。
 こうしてムービーハザード事件は、浩美のおかげで解決したのであった。

 結局ホテルでは、ウィルはオウムのバイロといちゃいちゃしただけで終わってしまった。それは充実した一日ではあったものの……身体の方は満足できなかった。
 その日一日、ウィルは身体がうずうずする欲求不満みたいな苦しみに耐えなければならなかった。ウィルがボーッとしているので、さっきからセレエは不思議そうにウィルのことを見ている。でも、ウィルがセレエに恋していたのは、遠い昔のことだった。今はバイロのことしか頭にない。もう心はバイロ一筋であった。
「バイロ……」
 こんな気持ち、おかしい……。ムービーハザードはもうなくなった筈なのに……どうしてあんなやつのことが気になるんだろう……。
 でも、バイロが好きというこの気持ちには嘘はなかった……。
 そうやって一日過ごし、深夜となる。ウィルは寝室に戻り、ぼーっと1人、窓の外を見ている。
 そんな時、扉が開き、バイロがウィルの寝室に入ってくる。ウィルは弾む声で、バイロを迎えた。
「あ……バイロ……」
「今夜こそ、お前をいただくぜ……?」
 バイロはウィルを抱きしめると、早速服を脱がし始める。もう恥かしくない。それより早くバイロのものを身体全体で感じたい、その気持ちでいっぱいであった。
 そして……2人は一つとなった。
 ウィルはくったりとベッドに寝そべってしまう。身体の……特に下半身に力が入らない。
 ウィルは幸せだった。でも、その幸せを壊してしまうことになっても、これだけははっきりさせなくてはならいなことがある。幸せが壊れるのが怖くて、それが悲しかったものの、ウィルはバイロへ聞いてみることにした。
「でも、いいのか? おまえは……ギャリックが好きなんだろ? オレとのことは遊びなんだろ?」
 バイロはびっくりしたように、ウィルをまじまじ見つめる。やがて、ウィルのとがり耳にキスしながら、優しく言った。
「ばかだな……」
 バイロの声はまるでお日様のようにウィルへ優しく降り注いだ。
「今、オレが一番好きなのは、ウィル、お前だ……」

 *  *

「何だよ、これはッ!?」
 パイロは絶叫した。手にはついさっきまで読んでいた本が握られていた。
「おいおい、売り物なんだから、そんなに強く握るなよな。もし汚れたら、お前が弁償しろよ?」
 ウィズは冷ややかな声でパイロに告げる。
 その本とは、ウィズ&りんはお&藤田博美共同執筆の小説「ドキドキ恋愛パニック」であった。
 この本に書いてあることは、実際のあの事件であったことを忠実に再現しているから、実話に近いといえば近い。でも、でっちあげの部分もそれなりにあった。特にウィルとバイロのラストのくだりは全然違う!!
「おまえ……何考えてんだよッ!? こんな本出して平気なのかッ!?」
「だって、登場人物の名前が違うだろ? フィクションだから、平気、平気」
 ウィズはにこっと意地悪そうに笑う。それからバイロという名前を差して、特に嬉しそうに言う。
「その名前、一番気に入ってんだ。両○使いのあんたにかけて、バイだから、バイロにしたんだぜ」
「てめぇ……いい加減にしろ!! オレは怒ったぜ!!」
 パイロは本を叩きつけると、ウィズにヅカヅカ近寄っていった。
 ウィズもそれに対抗して対抗して、身構える。
「あ、本、汚すな、といったのに、何てことしやがるんだ! 今日こそ、決着を付けてやるっ!!」
 こうしていつもどおりのどたばたが始まったのだった。

クリエイターコメント こんにちは、相羽まおです。今回はこのシナリオにご参加していただいて、有難うございました。

 こんな結果になりましたけど、一応、小説で書かれていた体験はほぼ実話だったのでしょう。
 でも、ラストの方に行くにつれて、作り話の度合いが段々高まっていったのだと思います。

 今回も楽しく執筆させていただいて、有難うございました。
 もし機会があれば、また、参加してくださいね。よろしくお願いいたします♪。
公開日時2008-05-02(金) 20:00
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