★ 銀幕の中の戦場 ★
クリエイター相羽まお(wwrn5995)
管理番号484-6714 オファー日2009-02-18(水) 14:05
オファーPC ファレル・クロス(czcs1395) ムービースター 男 21歳 特殊能力者
<ノベル>

 ファレルは綺麗に片付いた自分の部屋のソファーで、ごろん、と寝返りをうつ。ファレルのために用意された部屋は、高級ホテルのスィートルーム並みに豪華であった。
 ここでの待遇は確かに良かった。
 しかし、ファレルは気づいていた。ここの人たちにとっては、自分たちは化け物か、実験動物に過ぎないことを。
 だから、戦うことを決意した。その先に何が待っているか分からない。でも、このまま希望もなく生きていることも、出来なかった。
 そろそろ食事の時間だ。食事も毎日豪華な食事が運ばれてくる。その時間に警備の人員の入れ替えがあり、セキュリティにわずかに隙ができることを、ファレルは調べていた。
 ――そろそろ時間ですね……。
 時計を見てそう感じた瞬間、不意に部屋の灯りが消えた。仲間の、電気を操る特殊能力者がビルの電源とセキュリティシステムを落としたのだ。
 反乱の開始だ。
 ファレルはソファーから起き上がると、扉を開け、仲間と合流するために廊下に出た。

 合流地点に向って走っていると……1人の少女がファレルへ駆け寄ってくる。
 セキュリティをダウンさせた特殊能力者のステラだ。
 ステラはファレルの姿を見ると、ギクッとしたようにちょっとだけ表情を変えてから、直ぐに何でもない表情を作り、ファレルの前に立った。
「ファレル……もう皆、集まって待ってるわよ。リーダーのあなたが最後なんて、気合が足りてないんじゃない?」
「分かりました、直ぐ向います。でも、貴女は何でここに……?」
 ステラの様子を見ていると、ファレルを迎えに来た様子ではなさそうだ。ファレルはステラがここに来た理由を、不審に思って聞いた。
 ステラは何度か気にしたように、ファレルが来た道の方を何度もチラチラ見る。
「それは……その……」
「その……?」
「アダマスをその……」
 アダマスもここの管理されている特殊能力者の1人だ。
 それを聞いてファレルは内心不愉快になる。
「彼を仲間にしようと説得しに行くつもりだったんですか?」
「えっと、その……その……」
「それは駄目です」
 アダマスは力に溺れている。アダマスがこの計画のことを知れば、まず間違いなくファレルたちを裏切り、ファレルたちの敵に回るだろう。
「で、でもっ、アダマスだって昔はあんなに優しい子だったし、ちゃんと事情を話せば、皆の力になってくれるよっ!」
「駄目です。貴女が彼に話そうとするなら、わたしは貴女を拘束します」
「でも……」
 ステラは困惑したような表情になる。でも、ファレルの本気を感じ取ったのか、やがて残念そうにコクンと頷いた。
「うーん……わかった……」
 その表情は明らかに納得いってなさそうだった。ステラは反乱のメンバーの中で最年少で、人の好意を無条件に信じる、特に無邪気な子だった。ステラもアダマスには邪険にされていたはずだが、それでもアダマスを助けてあげたいのだろう。
 だが、それでも反乱のリーダーとして、ファレルはそれを許可できなかった。ステラはともかく、アダマスだけは絶対に信用できない。
 がっかりしているステラを見ていると不思議と訳もわからず心が痛むのを感じだか、ここはその感情を無視することにした。
「では、行きます」
「はーい」
 ファレルはぐずぐずしているステラの手を取って走り出す。ステラはその手を躊躇いながら掴み、少し顔を赤めつつも、素直にファレルの後をついてきた。

 仲間と合流すると、ステラの特殊能力で閉じられた隔壁を次々に開けていき、ビルの管制室目指して進んだ。
 このまま逃げるのは容易い。でも、ここの施設をつぶさないと、追っ手も来るだろうし、またファレルたちと同じような犠牲者が生まれてしまう。
 管制室を乗っ取り、そこにあるデータを全て抹消する。その後に脱出する。これがファレルの考えた計画であった。
 しかし、あと少しで管制室というところで……ステラの顔色が変わる。
「この隔壁……開かないわっ!?」
 ファレルはステラに聞く。
「どういうことです?」
「えっと、多分、この隔壁だけ、隔壁を開くための機械が壊れているか、管理しているシステムが外部からアクセスが遮断されているんだと思う」
「なるほど……それなら別の手段を考えなくてはなりませんね」
「でも、おかしいな……警備システムをあたしが乗っ取ってるから、こんなに早く相手があたしの能力に対応してくるはずないのに……」
 それを聞いてファレルの脳裏を不安が掠めた。もしかして、考えたくはないけど、これはファレルの仲間の中に裏切り者がいるのかもしれない。そう考えると、予め準備されていたことに説明が付く。しかし、ということは、相手の仕掛けはこれだけじゃないはずだ。
「ここから直ぐ撤退します。ステラ、管制室へ通じる別の通路を探してください」
 しかし、ファレルの判断は間に合わなかった。轟音と共に、ファレルたちがやってきた方向の隔壁が閉まったのだ。
「なんでっ!? これは……どういうことっ!?」
 ステラは驚愕の声をあげる。
 この事態はステラの能力でも、察知できなかったみたいだ。おそらく敵は、セキュリティシステムとは別に有線で爆弾を仕掛けて、それを発動させることで隔壁が閉まるように細工していたのだろう。
 その時、仲間のレクスが大声でファレルへ呼びかける。
「大変だ、あれを見ろっ!」
 レクスが指している通風孔の方を見ると、白い煙が通路に向って、噴出している。あれはもしかして……毒ガス?
 テレポート能力使いのウェントスが慌てて叫ぶ。
「いけないっ、直ぐ逃げるぞ。外へ跳ぶから、意識をしっかり保てよっ!」
「待ってください。これは……罠です!」
 ファレルは慌ててウェントスを止めたが、間に合わない。周囲の景色が切り替わり、ファレルたちはビルの外の広い庭に来た。
 そしてそこには……沢山の兵士がいた。

「これは……どういうことだ!?」
 周囲を兵士に囲まれ、仲間たちはパニックのあまり怒号をあげる。
 そうした中でも、ファレルは冷静に事態を分析していた。
 非常事態にどこへ跳ぶかは、前もってウェントスや他の仲間と打ち合わせしていた。裏切り者がいるなら、それを聞いて、テレポートで跳んだ先に兵士を配置しておくことも可能だろう。
 ――やはり……仲間の中に裏切り者がいますね。……でも、一体、誰が……?
 ファレルはこっそり仲間たちの顔、1人1人を確認する。皆、ファレルの信頼しているメンバーばかりだ。この中に裏切り者がいるなど、どうしても考えたくはなかった。
 取り囲んでいる兵士は銃をこちらに向けている。このまま戦っても、勝ち目はないだろう。裏切り者が誰だかも気になるが、まずはここを何としても突破しないといけない。
 ウェントスのテレポート能力は1日に1回しか使えない。だから、テレポートで逃げることは、もう出来ない。
 必死にファレルは策を考える。
 そのとき、兵士たちの間を割って、1人の男が姿を現した。
 アダマスだ。
 アダマスは大声で宣言した。
「お前たちの反乱などという下らない企ても、そこまでだっ! 大人しく抵抗をやめろ!」
 たまらずステラが叫ぶ。
「アダマス! これはどういうことっ!?」
「ステラか……俺に反乱計画を教えてくれて有難うな」
「そんな……アダマスが……アダマスが裏切ったの?」
「裏切ったなんて、言い方が悪いな。最初から俺はお前たち、くずとは違う」
「そんな……アダマスにも参加して欲しくて……アダマスと一緒にいたくて、あたし、アダマスに計画話したのに……」
「よく話してくれたな。このことを上に放したら、上はこの功績を高く評価してくれたさ。これで俺はさらに高みへいける」
 2人の話を聞いて、ファレルは理解した。ステラがアダマスに計画を漏らしたのだ。それを当然のごとく、アダマスは上に通報したのだ。
 廊下ですれ違ったのも、アダマスを説得しにいったのではない。約束の時間になっても姿を現さないアダマスを心配して、迎えにいこうとしていたのだろう。
 ステラはなおもアダマスを説得しよう、と言葉を重ねる。
「仲間になってくれる、といったのは……嘘だったの!? あたし、アダマスのこと、信じてたのに!」
「仲間だぁ〜? 俺にそんなものはいないっ。ここにいる奴は皆、敵だ。俺は力が欲しいんだ。何ものにも屈しない、圧倒的な力がっ!」
「あたしはアダマスのこと、友達だと思ってるよ。昔はあんなに優しかったじゃないっ!」
「昔の俺は弱かっただけだ!」
 ファレルはステラの肩の上に手を置く。ステラは振り返り、泣きそうな顔でファレルを見上げる。ファレルはステラに向って首を振ってみせた。
「これ以上は無駄です。彼はもう……ステラの知っていたアダマスではないです」
「でも……ファレルぅ……」
 ステラは心底悲しそうな顔をする。その表情を見ているとファレルには、ステラがアダマスに計画を話したことを、責めるつもりにはなれなかった。ただ、ファレルはどうステラを慰めていいか分からなかった。困った顔でステラのことを見下ろす。
 そんなファレルたちへアダマスは宣告する。
「そうだな……これ以上の話し合いは無駄だな。降伏しないなら、死ねっ! やれっ!」
 アダマスは兵士たちへ指示を下す。兵士たちはファレルたちに銃を向け、発砲しようとした。
 ファレルは空気の分子を操り、壁を作り出した。これで銃弾をはじこうとしたのだ。だが、咄嗟のことなので、仲間全員を守る壁を作るのは無理だった。ファレルは反乱の失敗と、仲間の無残な死を覚悟する。
 しかし兵士たちが引き金を引いても銃弾は発射されなかった。
 ステラは焦ったように叫ぶ。
「ここは、早く逃げてっ! 今のうち、皆……逃げてっ!」
 ステラが兵士たちの銃についているコンピュータを乗っ取ったのだろう。今の時代、銃の命中精度とかを上げたり、銃のさまざまなシステムを管理するために、銃にも小型のコンピュータが取り付けられている。ただ、コンピュータの制御をオフにして銃を使うこともできため、ステラの行為も時間稼ぎにしかならない。
「ステラ、あなたも早くっ!」
「だめっ、今はこれだけの数の銃のコントロールを奪うので、手いっぱいなの。だから、ここを動く余裕はないのっ! だから、あたしを置いて、逃げてっ!」
「でもっ!」
 ファレルは焦る。仲間を……ステラを置いていくことなど、できない。
 しかし、兵士たちの役立たずぶりにじれたのか、アダマスがこちらへ歩み寄ってくる。
「もういい! お前たちの力など借りん! 俺1人でこいつら、全員葬ってやるっ!」
 アダマスはこの研究所で最強と呼ばれる特殊能力者であった。実際1人でもそれだけのことはできるだろう。ファレルなら……あるいはアダマスと戦えるかもしれないが、その間に兵士たちの混乱が回復してしまったら、どっちにしても仲間は全滅する。
「分かりました。必ず、助けにきます……」
 ファレルはそうステラへ言うと、踵を返す。そして仲間たちに指示して、アダマスとは逆方向の包囲網の一角を突破し、そのまま研究所を脱出した。
 その際に、アダマスや銃以外の武器を使った兵士の攻撃により、仲間にはかなりの被害が出た上、逃げていく過程で仲間たちは散り散りになってしまった。

 今、ファレルは反乱のメンバーであったフィニスと2人きりであった。
 場所はビルの外にある、人気のない街のどこかの路地……ここまで来れば、もう安心だろう。
「大丈夫ですか?」
「大丈夫じゃないわよ、まったく……本当にあいつ、化け物ね」
 アダマスとの戦闘で、フィニスもかなりの傷を負っていた。フィニスもかなりの実力者だ。それがまるで歯が立たないのだから、アダマスの強さは計り知れない。
 でも、フィニスの特殊能力は、不死能力である。どれだけ傷を負っても、身体をバラバラにされても死ぬことはない。
 それに実際、フィニスはそんなに酷い傷ではないみたいだった。
「それだけ元気なら、大丈夫ですね。では、私はいきます」
「行く……って、どこに? 折角、ここまで逃げてきたのに……?」
「ステラと……仲間を助けにいきます。約束しましたから」
「そんな、無茶よっ!? 今頃、ビルは凄い警戒網が敷かれているはずよ。そこに1人で乗り込むつもり!?」
「それでも……いきます」
 ファレルは強い意志を込めて、真っ直ぐフィニスの目を見つめ返す。それで説得は無理と悟ったのだろう。フィニスは、やれやれと溜息を吐き出して、立ち上がった。
「じゃあ……いきましょう」
「フィニスさんはここに、残ってください。他に逃げ延びた仲間を探して、合流し、何とか逃げる手段を考えてください」
「いやよ」
 フィニスはファレルの命令を一蹴する。
 真っ向から反抗され、フィニスの意図が掴めず、ファレルは不思議に思いつつ、黙ってフィニスの次の言葉を待つ。
「あのね、ファレル? 逃げ延びた仲間は仲間で、きっと何とかできる連中ばかりよ。それより、捕まった人やファレル、あんたたちが心配なの。だから、私もあなたに同行させてもらうわ」
 今度はフィニスが強い意志を込めて、ファレルの目を見つめてくる。これは止めるのは無駄だろう。
「分かりました。では、私の指示には従ってもらいます。それが条件です」
「ということは……何か作戦があるのね?」
「はい。あります」
 ファレルは計画を話した。フィニスは黙ってその話を聞く。そしてファレルが全て話し終えると、フィニスはニヤリと笑った。
「面白いわ」
「折角ですし、作戦のメインにフィニスさんを組み込みました」
「了解。その話、乗りましょう」
「お願いします。この作戦の成否はフィニスさんにかかっています」
 ステラと他の仲間救出のため、2人はビルに戻ることにした。

 計画は成功した。
 フィニスの陽動のおかげでまんまと兵士の警戒網を出し抜いたファレルは、ステラの監禁されている実験室を探し出し、そこに潜入した。
 そこには数人の、見張りの兵士と研究員がいたが、ファレルの敵ではなかった。ファレルはステラの縛めを解く。
 ステラはファレルを見て驚いた顔をし、そしてその目にみるみる涙を溜めていく。
「もう! ファレルの馬鹿っ! 何であたしなんか、助けに来たのよっ! 裏切り者のあたしを!」
 ポカッポカッと八つ当たりするかのように、泣きながら、ステラはファレルの胸板を叩いた。
 正直、ファレルは困惑してしまった。どうしてステラがこのような態度を取るのか、分からない。
「貴女は裏切り者ではありません。裏切ったのはアダマスです」
「でも……アダマスにこの計画のこと話したの、あたしだし……」
「貴女は別に我々を裏切るつもりはなかったのでしょう?」
「うん……あたし、友達だと思ってたアダマスを助けてあげたかっただけなの……」
「ならば、貴女のことを許します。ですから、一緒に逃げましょう」
「うん……」
 ステラは素直に頷く。
 ステラを助けたので、ファレルは次に捕まった仲間を助けたかった。それにはステラの協力も必要だ。
「システムに潜入して、捕まった仲間の場所を探すことは出来ませんか?」
「それが駄目なの……」
「駄目……?」
「うん……変な薬みたいのうたれて、その薬が切れるまで、特殊能力が使えないの……」
 ステラの能力はあてに出来ないみたいである。
 それなら、自分で捕まった仲間の居所を探すしかない。
「ステラ? 貴女は1人でここに残っててもらえますか?」
「って、ファレルは……?」
「私は他の仲間を助けに向います」
「駄目だよっ! それなら、あたしも行くっ!」
「正直に言います。力の使えない貴女は足手まといです。貴女を守りつつ戦う自信が僕にはありません。もう直ぐフィニスが来ますから……フィニスと一緒にこのビルを脱出してください」
「駄目だよ、そんなの!」
 そう叫んでから、ハッとステラは何かを思い出したように、ファレルの服を掴んで、まくし立てる。
「そう言えば、思い出したけど、このビルには爆弾が仕掛けられているらしいんだよ」
「爆弾?」
「うん、爆弾。それも大量の。反乱を起こしたあたし達は全て用済みだって。施設ごと全員廃棄処分にする、とか、話してたの、聞いた」
「それならば、なおのこと、貴女のことは連れていけません。貴女はフィニスと合流し、早くここを脱出してください」
「でも、爆弾の本体を守っているのはアダマスだって!」
「アダマスですか……」
 アダマスの特殊能力は、絶対無敵、と呼ばれている。どんな攻撃もアダマスには通じない。鉄壁の防御を持っている。
 一見、フィニスの不死の能力と似ていたが、フィニスの方は銃で撃たれた死なないまでも怪我をして、痛みを感じる。身体をバラバラにしたら動けなくなる。
 でも、アダマスは核兵器が間近で爆発しても怪我一つしない。そういう能力の持ち主であった。
 そして攻撃に関して言えば、己の鍛えられた肉体が武器であった。アダマスのパンチ一つで他の能力者を十分葬れる。それがアダマスが最強たる所以だった。
 ステラは一生懸命ファレルを説得しようと、さらにファレルの腕を掴んで言う。
「だから、アダマスを説得しないと、爆弾は解除できないよっ。だから、あたしを連れて行って」
「駄目です。貴女を連れていくつもりはありません」
 ステラを連れて行っても、もうアダマスを説得するのは無理だ。それはステラもよく分かっているだろう。
 それでもステラは、理由は分からないが、ファレルと一緒にいたいみたいだった。死んでもいいから、ファレルと一緒にいたいみたいだった。
 だからファレルは、ここは冷たく突き放すことにする。
「私はもういきます」
 ステラの手を振り払い、ファレルはステラから数歩離れた。ステラはもう無我夢中という感じに、ファレルへ声を叩きつける。
「1人でいかないで、ファレル! だって心配なんだもん!」
「アダマスがですか……?」
「違うわよ、あなたのことよ! この鈍感!」
 ステラは枕を投げつけると、再びワーッと泣き出す。
 ステラの行動はまったく意味不明だった。ファレルはますます困惑するが、しかし、こうしている時間もおしい。多少気になるものを感じつつ、ステラに背を向けて、ファレルは歩き出した。爆弾を止めるため、仲間を助けるため、そして裏切り者のアダマスと決着を付けるため……。

 研究室を出たところで、ファレルは眩暈を感じた。
 扉から出た先は廊下のはずなのに、いつの間にか街の雑踏の中にファレルは立っていた。
 ――テレポート?
 しかし、そこは見慣れぬ街であった。ファレルのいた世界とは明らかに異質な世界である。
 そこは広場みたいだ。そんなに暑くないのに、周囲にはヤシの木が植えられていた。いかにも昔の時代に走ってそうな自動車が道を走っている。建物のいかにも昔のものとしか思えない建物ばかりが並んでいた。
 ここはどころだろう、とファレルは辺りを見回してみる。かろうじて看板の文字が読めた。それには『銀幕市広場』と書いてあった。
 銀幕市などという地名、ファレルは知らない。それどころか、本来その文字は、ファレルの知らない文字で書かれていた。それなのに自分がすんなりそれを読めたのを、不思議には感じずにいられなかった。
 ファレルがそこに呆然と立ち尽くしていると、そこに幼い少年がやってきて、ファレルに声をかけてくる。
「おにーさん……ムービースターさん……?」
「ムービースター……?」
 ムービースターとは何だろう? この少年は何を言っているのだろう? ここはどこなのだろう? 心底ファレルは途方に暮れてしまう。
 それ以上何も答えないファレルに業を煮やしたのか、少年はファレルの手を引っ張った。
「おにーちゃん、こっち」
「何処へつれていくつもりです?」
「いいから、ついてきて。そこに来れば、おにーちゃんの疑問は全て分かるから」
 少年が連れて行ってくれた先は、銀幕市の市役所だった。
 そこで初めてファレルは、自分の住んでいた世界が、この世界では映画の中であったことを知った。

クリエイターコメント こんにちは、相羽まおです♪。この度はご依頼、有難うございました。
 今回も楽しく、そして誠心誠意込めて書かせていただきました。でも、微妙にオファーの文章の意図とずれてないか、心配だったりします。
 もしわたしの書いた文章を気に入ってくださって、また機会がありましたら、是非是非、オファー、よろしくお願いしますね。
公開日時2009-02-24(火) 19:10
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