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<ノベル>
カランカラーン♪
辺りに軽快な鐘の音が響く。辺りを歩いていた人は足を止めその音の主を見ていた。
「おめでとうございまーす! 一等賞出ましたー!」
「へっ? 一等?」
「わっ! すごいじゃないですか三國さん!」
たまたま買い物先で会った泉と三國。ちょうど二人の買い物を足すと商店街の福引の一枚貰えるので品物を一緒に買ったのだ。そしてじゃんけんで三國が福引を引くこととなり、見事銀色の玉を引き当てたのだった。思いもしない結果に驚く三國と喜ぶ泉。
「一等はこれ、『動物園二名様割引優待券』〜!今キャンペーンもやってるみたいだよー」
「キャンペーンですかー」
どんなキャンペーンかは忘れたけれど、と店員は申し訳なさそうに謝った。それを聞いた二人は一気に興味をそそられ、
「荷物置いたら行きませんか?」
「あ、ハイ! 是非!」
とすぐさま動物園に直行する事となった。二人は嬉々揚々と一度別れ、1時間後に動物園前で待ち合わせをするのだった。
そして約一時間後の動物園。結局動物園に来る電車の中で出会って一緒に来た二人は先ほどの割引券を使い、中へと入る。辺りには可愛らしい動物のイラストがあしらわれた建物や道標など何時になってもどれだけの年になってもワクワクするようなテイストが二人を迎え入れた。
「キャンペーンってどんなのですかね」
「ワクワクしますねぇ」
などとほのぼのしながら行く当てもなくぶらぶら歩いていると年配の係員がこちらに向かって小走りで寄ってくる。一瞬なんかしたかなーとか思ったが、係員の人の顔は特に険しいと言うわけでもなかったため、疑問の方が大きくなった。そして係員は不思議そうな顔を浮かべる二人に声をかけた。
「お客さん、もしかしてキャンペーン参加の方? ならこっちだよ」
わざわざ誘いに来てくれたのかと若干疑問に思いながらも三國と泉はその係員のおじさんについていく。二人で足並みをそろえ、どんなキャンペーンなんでしょうかねー、と話しながら歩を進める。
着いた先は猛獣館と呼ばれる肉食の動物を主に扱った施設だった。そして、施設の扉に張ってあったキャンペーンポスターを見て三國は驚愕の余り目を点にさせ閉口した。
『カップル限定特別キャンペーン! 仲良し猛獣の親子と触れ合おう☆』
どこから突っ込むべきか。☆か。☆なのか。猛獣とか言ってるのに可愛らしさを☆一つで紛らわそうなんてそうはいかないぞ。そういう突っ込み待ちなのか。いや、しかしココの突っ込みポイントは……
三國の瞬きが目に見えて増えた頃、泉はポスターをみて誤解している係員と話していた。
「あの、カップル限定なんですよね?」
「ああそうだよ。」
「それじゃあ私達……」
カップルじゃないんです、と言う前におじさんは間髪居れずに更に勘違いを続けてくれる。
「おう、どんどん見て行ってくれよ。」
「いえ、あの……」
「今日はスマトラトラの子供とお父さんに触れるからね」
「……」
三國とは違う理由で泉の瞬きが増える。否定をしようとした手が宙を行く当てなくゆらゆら揺れたが、せっかくだと思い、今だ思考回路誤動作中の三國をつれて係員の後を付いていった。
トラの檻へ向かいつつ事態を掻い摘んで三國に説明したところ、やっと落ち着きを取り戻し、とりあえずは流されるままにキャンペーンを目いっぱい楽しもうと決意したのだった。それにトラなら猛獣だろうが猫科の動物である。ごろんと腹を見せたり鼻を摺り寄せたりするじゃないか。そう思うと一気にワクワクが止まらなくなった。先ほどとは違い足取りの軽くなった三國を見て泉はそのワクワクが移ったのか楽しそうに笑った。
檻の前に着くとなにやら他の係員の動きが慌しかった。顔面蒼白である。心配した年配の係員が尋ねる。
「どうした?」
「そ、それが……」
「脱走しただぁ?! 馬鹿野郎、何してんだ!」
その言葉が聞こえてきた時、三國の思考回路は一時停止した。そんな三國に気を使いながらも泉が係員に尋ねる。どうやらスマトラトラの親が脱走したらしい。それを聞いて泉は
「ええと、戻ってくれば良いんですよね?」
「ああそうだが……もしかしてムービースターの人か?」
「はい。宜しければ手伝わせてください」
強い眼差しを係員に向け、協力を申し出る。すると係員は
「そりゃ助かる。一応この施設には柵があるから施設内からは出られないけどよ」
と言って、簡単に間取りを教えてくれた。
「それだけわかれば十分です」
そういうと、泉は三國にちょっと行って来ますね、と言って駆け出していった。
そのわずか5分後、トラと仲良さそうに戻ってくる泉の姿が。これには係員も凄く感心していた。一同(三國も含めて)拍手。照れくさそうに頭を下げる泉だった。
「いいなぁ、猫になりたいなー」
キャンペーン用に準備している係員とトラの親子を見ながらポツリと三國が呟く。あの気ままに生きている感じや目つき鼻つき、何もかもがうらやましく思えてきて思わずぽつりと口からこぼれていた。その言葉を聞いて泉は思いついたように
「じゃあなってみますか?」
「はい?」
思わずひっくり返った声で返事してしまっていたが泉が自分の頭に触れて見る見るうちに目線が低くなっていくのがわかる。気がつけば泉の脛半分位にまでなっていた。コレは何だろうと口走ろうとしたら口から出るのは「にゃー」ばかり。自分の手元を見てみると肉球。どうやら泉の能力で本当に猫になってしまったらしい。
「触れていないと戻ってしまうので抱えておきますね」
そうにこりと笑うと泉は黒猫となった三國を抱え上げキャンペーンの子トラと親トラに会いに行く。
猫のままの三國は若干滑り落ちそうになりながらも子トラとコミュニケーションをとろうとしていた。子トラが興味深そうにこちらを見て鼻を摺り寄せてくる。三國もふんふんと鼻を鳴らしながら手(現在は前足だが)を伸ばし子トラに触れようとする。それをおもちゃかと思い子トラは三國の手にじゃれ始める。慌てた三國はしっぽをびくりと伸ばすがそれも目に入った子トラがじゃれ始めて……そんな光景をほほえましく見ていると、親トラがやってきて頭を泉にこすり付ける。泉は片手で三國を抱えながら親トラの顎の下を撫でてやると気持ち良さそうに喉を鳴らす親トラだった。
その後も猫のまま猛獣館を回って色々な動物たちを見て回った二人。
本当はこの姿のまま自由気ままに歩き回ってみたいと思ってみたりもしたが、泉の腕の中が思った以上に気持ちよくて思わず腕の中で寝てしまいそうになったのは三國だけの秘密で。
泉も色々な動物を見てその動物の行動に驚いたり笑ったり、腕の中の黒猫の毛並みがとても気持ちいいので思った以上になでてしまったり。
変身を解いた後も二人であの動物はここが可愛いとか、変な模様があったなど他愛もない話で閉園時間まで語り合い、いつもと違う楽しい一日を過ごしたのだった。帰り道に、また来たいですね、といった三國に泉は笑顔ではい、また来ましょうねと応えた。今までで一番楽しかった動物園だったかもしれないと二人は思っていた。夕暮れの空がいつもより明るく感じる時だった。
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クリエイターコメント | お待たせしました。動物園プラノベお届けにあがりました。 自分も某人気動物園とか行きたいんですが暇がない!その分二人には沢山遊んで来て貰いました。トラ可愛いですトラ。 でもどんな動物でも赤ちゃんは可愛いと思うのです。赤ちゃんは正義。
ノベルで少しでもほのぼのしていただけたら幸いです。 この度はオファー真に有難うございました。 |
公開日時 | 2009-05-04(月) 19:00 |
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