★ 【銀幕ウォーカーズ】恋とは、いと儚き物也 ★
<オープニング>

●告白の果てに……
「早智子さん、俺とつきあって下さい!」
 綺羅星学園の制服を身に纏った青年が、一人の少女に懸命に告白している。
 場所は、銀幕中央公園。時刻は夕刻、クリスマス用にデコレーションされた冬の訪れを告げる冷たい北風が吹いていた。
「ごめん、伊田崎君、私、あなたと会って、まだ、日が浅いし、いきなり、つきあってって言われても……。
 ごめんなさい!!」
 そう言って、少女は何処かへと去っていった。
「……」
 少年は、何も言うことが出来ず、そのまま、立ち尽くすだけで精一杯だった。
 少年の頬に一筋の涙が流れていた。

「何で、何でなんだよ!
 そりゃ、俺の方が成績悪いかもしれないし、色々劣っている面はあるかもしれない。だけど……」
 少年は静かに息を一つつく。彼の目の前から消えた少女の幻影に思いをはせながら……。
 再び、青年の頬に一筋の涙が流れていた。
「畜生、畜生、畜生〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」
 その中に、新たなる「忘却の茨」が生えつつあるのを知らず、青年は自宅へとかけだしていった。

●カエル男爵からの依頼
「そう言えば、そなたが平見舞音君だったかね?」
「そうですが、何か御用でしょうか?」
 ミッドタウンにある喫茶店「画廊喫茶マスダ」でカエル男爵は平見舞音に声をかけた。
「急なのだがね、折り入って頼みたいことがあるのだがいいかね?」
「はい、どういった用件でしょうか?」
「綺羅星学園の学生で一人、『忘却の茨』を生やしつつある青年がおるのだが、彼の失恋について、彼が納得行く方向で説得して貰いたいのじゃ」
「そうですか……。まず、その方の名前とかをご教授頂けないでしょうか?
 それに、一人だと難しい部分もありますので、他の方とも是非お誘いしたいのですが……。」
「名前は、伊田崎海人君じゃ。いるとしたら、綺羅星学園かダウンタウン南地区の自宅か銀幕中央公園じゃろう」
 舞音が懸命にメモを取ると、周囲にいる人間にこう告げて。
「皆さん、ある方の忘却の茨を取り除く方法を知っている方、いらっしゃいませんか?
 皆さんと共に、ある青年に生えつつある忘却の茨を取り除きたいのです。宜しくお願いいたします」
 長躯の青年は、深々と一礼をした。

種別名シナリオ 管理番号845
クリエイター小坂 智秋(wrcr4918)
クリエイターコメント【Warning!】
 このシナリオでは皆様のプレイング次第によって、「失敗」と言う結果が発生します。出来うる限りの手を打って、成功へと導いて下さい。
 
 いつも御世話になっております。舞音が広場にいきなり現れてびっくりした小坂智秋でございます。
 銀幕の迷宮を歩く「銀幕ウォーカーズ」の第3話となる今回は、恋愛がらみのシナリオとなります。
 皆さんには、青年の「忘却の茨」を摘み取って頂きます。
 伊田崎青年に、その失恋に納得行かせるように説得をして頂きますようお願いします。
 また、伊田崎青年に関する情報は下記の通りとなります。
 
  氏名:伊田崎海人
  年齢:16
  茨の生える要因:初恋で一目惚れした相手に告白したものの、相手から断られてしまった。
  主な趣味:釣り
  
 なお、この依頼には平見が同行いたします。彼に依頼したいことがありましたら、プレイングにて指示をお願いいたします。
 何も指示がなければ、ぼぉっと見ていますし、指示されて、無理だと思ったら、首を横に振るかと思います。
 それでは、皆様のご参加と「愛の季節」なプレイング、心からお待ち申し上げております。

参加者
湯森 奏(ctmd8008) ムービースター 女 17歳 復讐少女
<ノベル>

●恋とは、いと悲しき物也
 平見とかえる伯爵の話を遠目から聞く、影がある少女の姿があった。
「恋なんて、つまらない物をするからよ。でも、どんな馬鹿か顔だけでも見てみたいね」
 少女の名前は湯森奏、冷たく、物事に対して醒めた視線が平見とかえる男爵を捉え続けた。
「では、行って参ります」
「うむ、宜しく頼む」
 かえる伯爵はこういって、忘却の茨の取り除き方を教えた平見舞音を送り出した。
「あ、行くんだ〜。この街に来ても退屈な事ばかりだったから、絶対何かありそうだから、行ってみよう……」
 平見を追いかけるように人形のような容姿をした少女は、店のお代を払い、店から出て行った。
 彼に気づかれないように、彼女は静かに追う。
 一方、長身痩躯にヴィジュアル系の衣服を身に纏った紫髪の青年は、そのことに気づかずにいる。まずは、銀幕中央公園へと向かう。舞音は伊田崎青年がそこにいるだろうと考えたからだ。
 近くのバス停から、銀幕中央公園へ向かうバスに乗る。
 彼女もそれに急いで飛び乗って、彼の後を追う。
「ふふふ、まだ気づかないんだぁ……。偽善者さん」と呟きつつ、色白で透き通るような肌色を見せる少女は舞音を見つめた。
「次は、銀幕中央公園、銀幕中央公園でございます」
 バスの車内で無機質な女性の声で次の停留所を告げる。
 その言葉を聞いた車内にいる子供達が、一斉に早押しクイズで解答権を得んが如く、降車ボタンを押す。
 それと共に、機械的な音声で「次、止まります。バスが停車してから、順番にお降り下さい」と停車と降車時の注意を促すアナウンスが流れる。
 平見は、バスからの車窓を見て、静かにこう思うのだった。
「恋とは、いと悲しき物也。恋は人を狂わせ、病ませ、悩ませ、そして、傷つける物也。故に、恋とはいと悲しき物也」
 奏は車窓を見ながら、ふと思う。
「人は、怜悧なものよね。あの人、何処で化けの皮を剥がれるか楽しみだわ」
 それは、彼女が多くの人から裏切られた果てに殺されたと言う憎しみから来ているものであり、それだからこそ、浅ましく思うところもあるのだ。

 公園は至る所、クリスマスイルミネーションに飾られており、人々は来るべきクリスマスに向けて様々な準備に追われていた。

 平見がバスを降りると共に、奏もバスを降り、平見を追った。
「さて、あの人どうするんだか……」
 嘲笑と憎しみが相まみえる表情を浮かべ、彼女は平見が向かう銀幕中央公園へと向かった。

●恋とは、いと虚しき物也
 銀幕中央公園に着いた平見は、かえる伯爵から貰った資料を基に、伊田崎青年の捜索を始めた。
「ええ、そうですか……。ありがとうございます」
 結局なしのつぶてで、彼を見かけた情報を得ることは困難かと思われた。
「すみません、実は……」と平見が一人の少女に声をかけた。
「ええ、何か御用でしょうか?」
「実は、ある人物から、この青年を捜すようこの青年を見かけた事はありますでしょうか?」
 平見が伊田崎青年の写真を見せる。
「……この人、何か?」と少女が驚きの声を上げる。
 多分、彼女が見知った人なのだろう。そう言うところで
 平見がかいつまんで事情を説明する。その様子を遠くなら奏が冷やかしと侮蔑のまなざしを向けている。
「む……。妙な気配を感じますね。ちょっと違うところで話を伺いたいのですが……」
「え、ええ……」
 そう言って、奏から見えないところに移動する二人。
「こんな所で煙に巻かれてたまるかっていうの!」
 それを見た奏も、急いで移動する。二人を見失わないために……。
 その後、落ち着いたところで、話をする平見と少女。
「伊田崎君ですか……。確か、海釣り公園か、自宅の二択になると思います。
 彼が、どうかしたのですか?」
 不安そうな表情で、彼女は尋ねた。
「実は、告白に失敗したために、『忘却の茨』が彼の体の中に発生してしまい、その育成を阻み、除去することを依頼されたのです」
「そうですか……。まずは、海釣り公園へ行かれると良いと思いますよ。
 彼、釣りが好きですから……」
「そうですか……。ありがとうございます。早速、そちらへ伺おうと思います」
「ええ……。実は、彼、私の幼なじみなんです。彼のこと、宜しくお願いします。
 あの時、『告白しなよ』なんて、軽い気持ちで言わなかったら……」
「分かりました。何とか、彼の体にある茨を取り除いて見せます」
 その会話のやりとりを見ていた奏は「ふん、どうせ、出来るわけ無いよ。私がとことん邪魔してあげるよ」と呟いた。
 平見、怒ると怖いんだけどなぁ……。
「恋とは、いと虚しき物也」
 そう呟きつつ、平見はその青年がいると思われる海沿いの海釣り公園へと向かった。

●恋とはいとわびしき物也
 銀幕市の海岸沿いにある海釣り公園、そこには一人の青年が何の気無しに、釣りをしていた。
「あぁあ、どうしてこうなっちゃったかな……。もうちょっと、上手く告白する方法が合ったはずなんだけどなぁ……」
 チャポン。
 餌を付けた針とウキ、そして、釣り糸が海に潜ろうとする音が聞こえ、青年は釣り糸を垂らし、静かに獲物がくるのを待った。
 ウキが動く。
「来た!」
 内心、青年はそう思い、釣り糸を引き始める。
 ロッドがしなり、釣り糸のテンションがピンと張る。そして、青年は、無我の境地でリールのハンドルを回す。
 パシャ!
 それから、数分後、青年は見事に魚を釣り上げた。
 それと同時に、ほぼ同じタイミングで、ふた方向から声が聞こえてきた。
「失礼、伊田崎海人さんですね?」
「みぃつけた」
「ああ、そうだけど、あんたは?」と紫髪の長身痩躯の青年に尋ねた。
「私は平見舞音と申します。実は、ある方からの依頼で……」と平見が事情を話していると、「失恋?ばっかみたい!なんでそんなに憎んでるの? 好きだった人なのに? もう好きじゃなくなったの?」とからかい嘲る少女の声がする。
「うるさい!」と少女を一喝するものの、少女は、止めようとしない。
「それで? どんな嫌な子だったの? 聞きたい、聞きたい、聞きたい!
 あははは、あなた、馬鹿だよ! そんなんで告白したんだからね!」
 平見が、静かに唇を動かす。
 その言の葉は、少女に対して、怜悧なものであった。
 次の瞬間、少女こと奏の体が、唇が動かなくなる。
 たとえ、内心、立ち直って欲しいと思っていたとしても、それを言の葉に乗せぬ限りは、誤解が生まれ、得てして、それが遠因で悲劇となるのだから……。
「しばし、頭を冷やすが良い」と何時もの平見とは思えないような冷たく怜悧な声色で告げる。
「失礼。では、話を続けましょう」
 何時もの声色に戻った平見がこう言うと、話をかいつまんで事情を話し始めた。
「ああ……、そうなんだ……。
 今、釣りさえしてれば、あの子のことを忘れることが出来るしなぁ」
「そうですか……。であれば、あなたにとって、あの恋は一体何だったのですか?」
「何だろう……。そう考えると、なんか、友達達にけしかけられて、それで、告白したのかな…」
「そうですか、そうすることで、少しでも気分は癒えますか?」
 奏の呪縛を解くが唇から発する言葉だけは彼に届かないようにしていた。
 平見は、どう考えても彼女は、人を癒そうという気がないと判断しているのかもしれない。
「いい加減、あの呪いを解けよ!! あの野郎!」
 そう思いつつ、会話をしている青年と少年を恨めしそうに見つめる奏。
 言葉で言おうとしても、青年がかけた呪縛で言の葉を紡ぐことは出来ないでいた。
「くそ……」
 そう言いながら、静かに青年と少年の会話を聞いていく。
 少年の話を静かに聞く青年。少年は、舞音に対して、思いの丈をぶつけていた。
「だから、俺は告白したくなかったんだ……。もうちょっと仲良くなったら、告白しようと思ったんだ……」
「そうですか……、であれば、お友達として、つきあって行って、自分なり相手なりのタイミングで、告白をすればいいかと思います。
 それよりも、今は、振られたことを忘れるべきだと思います」
「そうかぁ……」
 漸く、平見がかけた言霊の能力が切れたのか奏が、彼らの所にやってきていた。
「来ましたか……。少しは頭を冷やすことが出来ましたか?
 出来なければ、今度は容赦なく倒します。そのつもりで……」
「別に、あんたの為に来たわけじゃないんだよ。あの子の彼女がどんな子なのか、聞きに来ただけだからね」
 そう言いつつ、奏は少年の話を聞いていく。
「しばらく、釣りに没頭するよ。そうすれば、何となく彼女に告白したことも忘れられると思うからさ……」
「そうですか……」と平見が言うと、漸く奏が口を開く。
「わたしは、あなたがそう言うことに失敗したとしても、くよくよせずに前向きに生きるべきだと思う」
 漸く思うことを言うことが出来たのか、彼女はほっと一息ついた。
 それと共に、海人が抱いていた何か消えた気がした。

●人の繋がりとは、いとをかしき物也
 それから、日が暮れるまで、釣りを見学した奏と舞音は、そのまま青年を自宅まで見送った。
「今日はありがとうな……」
 伊田崎青年はこう言うと、自宅の玄関へと駆け込んでいく。
 それを見届けると、奏と平見は帰路へと向かう。
「ところで、奏さん、止まるところとかはおありなのですか?」
「別に……」
「そうですか……。今宵一晩、もしよかったらで構いません。私の部屋でゆっくりされたら如何です?
 何も無い部屋ですが、外で寝るよりは幾分ましかと思いますけど……」
「いい」
「そうですか……。残念ですね。人の繋がりとぬくもりは、大切にしないと行けませんよ。」
「わかってるよ。ほっといて!」
 そう言って、奏は平見の言葉も聞かずに、何処かへと去っていった。
 その日の舞音の日記の最後には、こう閉められていた。
「人の繋がりとは、いとをかしき物也」

クリエイターコメント ご参加頂きありがとうございました。
 今回、「判定有り」と言うところで、厳しい判定をせざるを得なかった部分があります。
 こういう結果になり、申し訳ございません。
 また、次の機会にご参加頂けると幸いです。

 今回、ご参加頂きありがとうございました。
公開日時2008-12-09(火) 18:40
感想メールはこちらから