★ 御遣いは冒険がつきものでしょ ★
クリエイター槙皇旋律(wdpb9025)
管理番号616-4196 オファー日2008-08-20(水) 02:22
オファーPC ヤシャ・ラズワード(crch2381) ムービースター 男 11歳 ギャリック海賊団
ゲストPC1 ナハト(czmv1725) ムービースター 男 17歳 ギャリック海賊団
ゲストPC2 王様(cvps2406) ムービースター 男 5歳 皇帝ペンギン
<ノベル>

 晴天。
 澄み渡った青空には白い雲がぽつぽつと浮かんでいる。
 ギャリック海賊団のヤシャ・ラズワード、ナハト、王様の三人は銀幕の道を歩いていた。今夜の夕飯の御遣いを厨房のコックから頼まれたのだ。
「今夜は、なんだろうなぁ、飯」
 ヤシャが元気いっぱいに、夕飯のことを想像してうっとりとする。
 ギャリック海賊団の厨房が提供する料理は大変に美味しいのだ。
「楽しみだな」
 王様がペンギンの小さな足でぽてぽてと歩きながら顔を綻ばせる。
 王様は、元々はギャリック海賊団ではないが、コックの提供する料理に惚れこみ、無理やり船長を説き伏せて週休二日制で入団したという経緯を持つ。
「おなかすいたなぁ」
 ちらりとヤシャが王様を見る。
 つい、肉だと考えてしまう。
「ん、な、なんだよ。その視線は」
 王様が野生の本能で、ヤシャの視線に気がつき内心怯えて声をあげる。
「いや」
 齧ったら、美味しいのかなぁ。――ヤシャは心の中で言い返す。王様は頼れるのだが、どうしてもその引き締まって、脂の乗った肉体は肉の塊に見えてしまう。
「おまえなぁ、よせよ」
 ナハトがヤシャに呆れたような視線を向けた。
 ナハトの言葉にヤシャが唇を尖らせる。ナハトは、ふんっと鼻で笑った。
 ナハトとヤシャは決して仲は悪くないが、いかんせん口が悪いのでしょっちゅう喧嘩となってしまう。それも子犬同士のじゃれあいのようなもので、喧嘩するほどに仲がいいというタイプだ。
「あれ? あれなんだ」
 ヤシャが数メートル先にいる人だかりを見て声をあげる。
 御遣いをするには、どうしても先の道をいかなくてはいけないので、いやでもぶつかることになる。
「なんかイベントでもあるんじゃないのか?」
「イベントにしては、なんかきな臭い感じだな。おい、ここは慎重に」
「面白そう、いってみようぜ」
 ヤシャが走り出す。
「おい、こら、待て」
 ナハトが慌てて追うのに王様も慌てた。王様はペンギンなのでどんなに早く歩いたところでヤシャやナハトに追いつけない。さっさと人だかりにいってしまった二人になんとか追いつくのに必死だ。
 好奇心旺盛なヤシャは人の波を器用に縫って歩く。それにナハトも俊敏なので問題はないが。王様は小さい上に、歩みが遅いので一苦労だ。
人の波をなんとか日々の鍛えた足捌きで王様は歩くと最前列に、ヤシャが立ち尽くし、その横にナハトも立ち尽くしている。
「お前ら、俺の話をだな」
 王様は、そこで絶句した。
 目の前に猫の集団がいるのだ。
 すべて猫。
 右を見ても猫。
 左を見ても猫。
 その猫たちがずんずんと道いっぱいに歩いているのだ。
「な、なんだ、これ」
 王様が搾り出したような声を漏らす。

 にゃんにゃん
 にゃんにゃん

 猫たちは、そんなリズムよい鳴き声をあげつつ、道をふさぐようにしている。その猫の集団は、数メートルにも及んで、道を占領している。
 それも猫たちは、何かくわえている。
「なんだ、こいつら」
 ヤシャが一匹の黒猫を捕まえて、そのくわえているものを奪い取る。
 にゃーにゃーにゃー
 捕まえられた猫がいやいやと暴れだす。
「おい、優しく持ってやれよ」
 ナハトが言うがヤシャはとりあえず、奪った紙をじっと見つめたあと、差し出してきた。
「えーと、魚がほしいだってさ」
 怪訝としてナハトはヤシャの手の中にある紙を奪い取る。それは猫が書いたとは思えない達筆な文字でしっかりと書かれていた。
「おい、なんて書いてるんだ。俺にも見せてくれ」王様が首を伸ばして言う。
『にゃんこは、おなかいっぱいにおさかなをたべるために、みちをうばう。かいほうしてほしければ、たくさんのおさかなをさしだすがいい』
「こいつは、また……」
「猫が書いたにしては、きれーな文字だよな」
「あのな、ヤシャ、猫がそんなこと考えるはずないだろう……もしかして、猫を誰かが操ってるのか?」
 ナハトが顎に手を当てて眉を顰める。
 猫の大行進と侮るわけにはいかない。こうも猫が多いと道は通れない。それも車でつっこむなどという荒療法は後味が悪いし、車のタイヤがスリップする恐れだってある。まさに生きた壁。
 やっていることは、なんだか地味だし、少し可愛らしさを感じるが、物事を突き詰めて考えると、かなり深刻だ。
 ふみゃあ
 ヤシャに捕まっている黒猫が思いっきり暴れる。
「いて、いて、いてて」
 ヤシャの手にあった猫がひっかいてきた。たまらず手を離すと猫は仲間の中にはいってしまった。
「このままじゃ、前に進めないなぁ、どうしたもんか」
 王様がため息をつくのに傷つけられた手をぺろりと嘗めてヤシャはきょとんとした顔になる。
「そんなの簡単じゃん。大元 たどって、そいつをやっつけちまえばいいんだろう」
「やっつけるって」
 あまりにもヤシャが簡単に言うので王様は、眩暈を覚えた。それが大変なんだろう。そもそも、この黒猫たちを扇動している悪党がどこにいるのかもわからない。それに、そいつは、地味であるが、確実な作戦をたてている。それを考えたら、下手につっかかったら、大変ではないのか。
 王様、それらを言いたい。すごく言いたい。だが、そんな長々と説明して聞くと思えない。物事は簡潔かつ、わかりやすくいうべし。
「あ、だからな、そのボスがどこなのかを」
 王様、それでも忍耐という文字を心に刻み付けて、ヤシャに忠告をしようとする。ここは大人の忍耐と魅力を見せるときだ。
 ヤシャ、王様の言葉を最後まで聞くこともなく、黒猫の集団の上に足をのっける。
「ヤシャ!」
「とりあえず、つっきろうぜ」
 なんたる原始的かつ直感かつ素晴らしき一言。
「おまえ、猫がかわいそうだろう!」
 ナハトが叫ぶ。
「大丈夫だって、ちゃんと気合で力抜いてるから」
「なんだよ。その意味のわかんねぇこといって」
「猫がいないところ踏もうとしたら、猫が出てきたんだよ」
 ヤシャは踏んづけてしまった黒猫をころりと足で転がす。――にゃにゃ〜と猫、意外と楽しそう。――言ったように決して体重をかけていない。軽く足をのせただけであるが、猫の習慣か。ついころころと転がってしまう。それも意外と楽しいらしい。そうすると、他の猫たちもなんだかふみふみして、ころころしてほしそうな目でヤシャを見る。
「ナハトみろよ。こいつら、楽しいってさ」
「あのなぁ」
「けど、とりあえず、ここつっきんねぇといけないしさ」
 ヤシャはちらりと猫たちを見る。
 小さくて、ぷりぷりで、なんとも、まぁ
「肉」
 ぼそっ。
 ヤシャの言葉に王様、びく。だが、それ以上にびくりとしたのは猫たちだ。
 思わずヤシャを見ていた猫たち、怯えて、おろおろしはじめる。だがヤシャのじっと見つめてくる視線、外れない。
 これは、危険だ。――と猫たちの本能が告げる。
 逃げるしかない。
 どどどどどどぉぉぉぉ。
 猫の集団は、慌てて走り出す。
「お、いっちまった。追いかけようぜ。急がないと逃げられちまう」
 ヤシャが言う。
「のりかかった船だし、このまま猫が人に迷惑かけるのとめないのもなぁ。しかたねぇなぁ」
「さすが、ナハト! よし、ボスをやっつけにいこうぜ」
「こういうのは冷静にって、聞けよ。お前ら!」
 先に走り出していくヤシャとナハトに王様は頭痛を感じながら、慌てて二人を追ってぺたぺたと走った。
「お前ら、ぺんぎんの陸地での移動力を考えろよな!」


 銀幕市の公園。
 そこは、いつも親子連れが賑わうはずだというのに、しーんと静かだ。その原因は、大量の猫がいるためだ。そして、そこには小さな猫たちの革命の基地となっていた。その中央にいるのは、巨大な黒猫。今回の騒動の原因らしい。
 成人男性ほどの大きい横にも縦にも大きな猫は真っ赤なマントをつけて、力説する。
「おみゃーら、なにをしてるにゃ! 猫の壁となって人々を混乱させるにゃ。そして、にゃんこのすばらしさを銀幕市のやつらにしらしめるにゃ。その第一歩の一箇所目の道を閉鎖させるので、なんでにげてるにゃーの」
 微妙なイントネーションと共に真っ赤なマントの巨大黒猫が言う。それに猫たちがしょんぼり。
「人間はにゃあ、われらにゃんこたちをペットとして飼うくせに、飽きるとすてるにゃ。そんなゆるせにゃーにゃ! だからこれ以上われらにゃーごたちがひどいめにあわないためにも、おろかにゃ人間たちにしらしめるにゃ。この知能いっぱいな吾輩と猫たちの行動力を持ってすればにゃ」


「巨大肉」
 ぼそっ。
 ヤシャは、もう巨大猫に釘付けだ。なんといっても横にも縦にもてぷりと越えている。もう動くたびにぷるぷると動く肉が、なんとも食欲をそそる。
「少しは緊張感を持てよ」
「だってよ、あれ、肉だぜ。肉っ!」
 目の前で猫たちに革命うんたらと力説している巨大黒猫にたいして、すでに肉という感想しかないらしい。
「そういう感想しかないのかよ。今の聞いたか。あいつらのしようとしていること、止めないと大変だぞ」
「うん。わかってるけどさ、肉じゃん! それにどうやって、あの紙にあの手で文字を書いたのとか気になる!」
 なんだか、妙にかみ合わない会話。
「お前ら、静かにしろ。ここは敵地だぞ」
 王様が窘める。
 猫たちを追って三人は公園まで来ると、こそこそと木々のところに隠れて、猫たちの集団を見ていた。
「美味しいのかな。あの肉。一口ぐらいかじってもいいよな」
 ヤシャがよだれをたらさんばかりに言う。すでにもう巨大黒猫を肉としか見ていない。
「一口もないだろう。相手は猫だぞ」
「んなことねぇって、齧ってもいいはずだ。あんなに大きいんだから」
「あのなぁ、齧るにしても、あいつを倒さないとだめだろう」
「そうだなぁ。よし、戦おう」
 単純かつ情熱的なヤシャの一言。
「倒した数で勝負だ。ナハト」
「あのな、オレ……武器持ってきてないんだぜ。どう戦うんだよ」
 ナハトが、少し言いにくそうに言い返す。
 簡単な夕飯の御遣いだと思っていたので、武器なんて置いてきてしまっている。こんなことならば、持ってくればよかったという後悔がナハトにはある。どんなときでも何があるかわからない。自分の単純だが致命的なミスにナハトとしては素直に落ち込む。
「大丈夫だぜ。ナハト」
 ヤシャがナハトの肩を叩く。
「俺がなんとかする」
「ヤシャ?」
 自信満々のヤシャにナハトはきょとんとする。
「ようは戦えればいいんだよな」
「まぁ、一応は」
「これでも使え」
 差し出されたのは棒切れ。
 たぶん、そこらへんに落ちていただろう、細い枝といってもいい。それを受け取ってナハトは眉を顰める。
「……これで、どう戦えっていうんだよ」
「戦えるだろう」
「……こんな細いの。ぱきって折れるだろうが」
 ナハトが言ったようにちょっと力をいれればぱきりと枝は折れてしまった。
「あーあ、仕方ねぇなぁ、えーと、ほら、こっちで」
 ヤシャが仕方なく落ちていた枝をまた拾って差し出す。
「お前にちょっと、一瞬、一秒でもちょっと期待したオレが馬鹿だった!」
 ナハト、怒鳴る。
「なんだよ。それ。これだって武器だろう」
 ヤシャも怒鳴る。
「こんなのでどう戦えって言うんだよ。んなの馬鹿にされるだろう。相手は猫とはいえ」
「んなことねーよ。やりかたによっては……たぶん」
「たぶんってなんだよ。たぶんって!」
 二人の白熱した言い合いは思わず立ち上がってのこととなっていた。それは、もう敵から丸見えである。
「おい、こら、馬鹿、お前ら!」
 王様、焦る。
 ここで見つかれば、多勢に無勢。
 いくら相手は猫とはいえ、無数に相手にすれば自分たち三人だけでは勝ちようがない。
「にゃーん」
 ああ、気がつかれた。
 無理もないことだが王様としては頭が痛いが、ここは、仕方ないとばかりに立ち上がる。見つかったというならば、それはそれでやるしかない。
 猫たちが王様たちに向かって飛び掛ってくる。
「ヤシャ、ナハト、きたぞって、おい」
「だから、棒切れでどう戦えっていうんだよ」
「だから、ふりまわしてだよ」
 二人の言い合いは、まだ続いている。
「この状況で喧嘩するな、お前ら」
 王様、二人に言いながら、はっと気がつく。
 一匹の猫が王様にむかってきた。猫と鳥。決して仲はよくない。むしろ、悪い。王様は、じりじりと後ろに下がる。猫はじりじりと前に出る。
「くそ、鳥と思ってやるがな」
 にゃーん。
 猫が飛び込んできた。
 王様は胸を張って、どーんと体当たり。
「ペンギンアターック!」
 ぺーんと向かってきた猫が弾かれる。
「勝った」
 鳥が、猫に勝った瞬間。
 そんなことに感動している暇もなく、猫たちがじりじりと迫ってくる。
 王様はヤシャとナハトに視線を向けた。まだ喧嘩を続けていた。
「お前ら、戦え! 敵だぞ!」
「え、あ、本当だ。……よし、任せろ!」
 ヤシャが元気よく応じる。
 そして猫たちを見る。
 猫たちは、ヤシャを見る。
 真っ向からの視線勝負。
 じりっと猫たちが後ろに下がる。ヤシャに何か感じたらしい。本能的に怯えている。じりじりと逃げだす猫たち。
 一方、ナハト。
「くそー、棒切れでどう戦えっていうんだよ」
 まさか素手で戦うわけにはいかないので、とりあえずヤシャに渡された棒切れを持って困惑している。ナハトの周りいる猫たちはいつ、飛びかかろうかという態勢。まさか猫たちを棒切れで弾く――なんてことは、たぶん、できない。猫を叩いたら、それだけでこの棒、折れてしまいそうだ。武器を忘れたのは自分のミスにしても。これは、ないだろう。これでどう戦えというのか。
 にゃにゃあ。
 猫たちの唸り声。
 とりあえず、棒を振ってみる。
 こんなことして意味もないと思っていたら、不意に猫たちがナハトの振っている枝をじっと見ている。
「ん?」
 ちょっと地面に置いて枝を降ると、猫たちは尻尾をふって、じっとナハトの枝を見る。
 猫の本能。
 つい動いているものを追ってしまう。
「えーい」
 ぽいと枝を投げてみると、それに猫たちが群がる。思わず追ってしまう猫の本能。思わず枝を奪い合っている。
 可笑しい。
 猫にしてみても、こんな奪い合いをするなんてと思ってナハトは先ほど、自分たちがいたところをみる。木を見て理解した。
 良く見ると、その木はマタタビだ。
 猫たちはマタタビに酔っ払っているらしい。
「……勝った?」
 ナハトとしては、多少不本意であるが、勝ったことに変わりはない。
「ナハト、やったなぁ」
「ああ、まぁな。マタタビのおかげだな」
「やっぱり枝がよかったんだな」
「うーん」
「枝に倒れてるぜ」
 えっへんとヤシャ。
 確かに枝はヤシャが提供したものだが、ナハトとしては素直にヤシャに感謝できない。
「おまえ、別にそこまで考えてないだろう」
「そんなことないぜ。たぶん」
「たぶんって、なんだよ。やっぱり何も考えてなかっだろう!」
 言い合いしている二人にたいして真面目にペンギンアタックを繰り出して猫たちを弾き飛ばしている王様。
「お前ら、少しは俺を手伝え」
 はぁはぁと最後の一匹を思いっきりペンギンアタックで弾き飛ばして疲れきった王様は息を切らして、ため息。
 だが元気な二人は言い合いをやめない。本当に元気だ。

「おみゃーら、なにをしてるにゃぁか! 敵かにゃ。ふふん、吾輩の配下のにゃんこたちをやっつけるとはいかなる……アホのガキ二人に……ペンギン?」
 巨大黒猫は、護衛の猫たちが倒れたのにどのような者たちが猫たちを倒したのか。
 自分が知恵を授けた猫たちだ。そうやすやすとやられるはずがない。だとすれば、猫たちの本能などを考え、知的に戦ったのだろうと予想していたのだ。
 それがまさか、この三人。
 いや、二人と一羽。
「はずかしいにゃ。にゃんこが鳥なんぞに負けるとは! それもまるまると肥えて飛べないようなのに」
「失礼な! お前には言われたくない」
 王様は言い返す。
「ふふ、おみゃーら。ここまでは運で乗り切ったようだが、そうそう容易くは吾輩はやられにゃいぞ」
「あいつはボスなんだ。何かあるかもしれない、今度こそ冷静に」
 王様が冷静に言う。
「あっ」
 ナハトが声をあげる。
「ん、なんだ」
「あれ」
 ナハトが指差す方向。
 かぷっ。
「ふみゃああああああああああああああああああああああ」
 巨大黒猫の悲鳴をあげる。あたふたと逃げ惑うその巨大黒猫の尻尾にヤシャ。
「ヤシャ、お前、なにしてんだよ」
「ん、ぺっぺっ、うわ、毛だらけだ。口の中」
 ヤシャが口から尻尾を吐き捨てて言うと、口を拭った。
「いや、だって、齧ってもいいかなぁって、ほら、でかいから、わからないかなぁって、これでも遠慮したんだぜ」
「遠慮って、お前……」
 ふみゃあ、ふみゃあと巨大黒猫は自分の齧られてしまった尻尾を両手で抱きしめて、泣き出している。
「鬼だにゃ、おめー、尻尾を、吾輩の尻尾をっ」
「んなことねぇぞ。ちゃんと尻尾をすこし齧っただけじゃないか」
「何が、齧っただけにゃ! それも、ああ、もう、人の作戦をめちゃくちゃにしやがってにゃ。ええい、にゃんこたち」
 巨大黒猫は怒りに震えていた。完璧な作戦が、気がついたらだめになっていて、もうそれだけでも苛々しているのに、その上で尻尾を攻撃されるとは。こいつらは何を考えているのか。荒事よりも考えて動く派であるらしくて、怒りと突然の事態に混乱――どうも自分の作戦通りにことがはこばないと混乱してしまうのが頭脳派の弱いところだ。
「にゃ、あれ?」
 命令しても猫たちがヤシャたちに向かっていかない。
 猫たちは逃げてしまったのだ。
 もう自分しかいない。
「じゃあ、今度は先っぽだけ齧る!」
「にゃあ!」
 一匹になって、ヤシャが迫ってくる。
 ヤシャとしては狙っていた肉こと巨大黒猫に笑顔で迫っていく――もし尻尾があれば、もうはちきれんばかりに振っているだろう。
 ぞっ――。
 このままだと、喰われる。本当に喰われてしまう。
「ご、ごめんなさい。も、もう悪いことしません」
 巨大黒猫は怯えて泣きながら謝った。両手に大切な尻尾を抱えて。
 そして三人に囲まれて巨大黒猫はしょんぼりとした。
「もう猫たちを使って悪いことしないか」
「あい」
「今後はちゃんと普通に生きていくか? お前たちの主張もわからないわけじゃないけど、こんなことするなよ」
「あい」
「もう鳥を、特にペンギンを馬鹿にするなよ」
「あい」
 なんとなくドサクサに紛れて、妙なことまでいわれているが、ただもう謝るしかない。
「もう、悪いことしましぇん」
 巨大黒猫は泣きながら尻尾を守りつつ誓った。
 それに三人はそれぞれにくたくたに疲れていたが、満足もした。
 気がつくと、空にある太陽はもう沈みかけようとしている。
「よっしゃ、事件も解決したし、帰るか」
「そうだな。腹減ったし」
「美味しい料理が食べたいな」
 三人は悠々と帰っていく。
 もちろん、お遣いのことを忘れて。
 数分後、船に戻った三人は、さんざん時間をかけたというのに、肝心の買い物を忘れたために頭上に恐ろしい雷が落とされることとなるのであった。

クリエイターコメント今回はオファーをありがとうございます。
大変楽しませていただきました。
どこまでも元気なヤシャくんとナハトくんを書くことに全力を。王様、がんばれ。
公開日時2008-08-28(木) 19:00
感想メールはこちらから