★ 前進の一本 ★
クリエイター霜月玲守(wsba2220)
管理番号105-6032 オファー日2008-12-21(日) 18:49
オファーPC 古辺 郁斗(cmsh8951) ムービースター 男 16歳 高校生+殺し屋見習い
ゲストPC1 森部 達彦(cdcu5290) ムービースター 男 14歳 中学生+殺し屋見習い
ゲストPC2 小暮 八雲(ctfb5731) ムービースター 男 27歳 殺し屋
ゲストPC3 音無 終世(cdyh3511) ムービースター 女 26歳 殺し屋
ゲストPC4 薄野 鎮(ccan6559) ムービーファン 男 21歳 大学生
<ノベル>

 しん、と辺りが静まり返っている。
 真ん中に位置するのは、小暮 八雲(コグレ ヤクモ)。自分を囲む、古辺 郁斗(フルベ イクト)と森部 達彦(モリベ タツヒコ)に向かい、に、と笑ってみせる。
「どうした、二人がかりで構わないぞ」
「それは、分かっています」
 達彦はそう言い、ぐっと足を踏みしめる。つう、と汗が背中を伝っているのが分かる。この場を支配する冷たい空気が、肌に痛い。
「本当に、いいんですか? 先生。自分は、本気で行きますよ」
 へへ、と笑いながら、郁斗は言う。笑いながらも、目は笑っていない。強がりに近い。郁斗もまた、この場のプレッシャーを感じているのだ。
「達彦、お前の得意は何だ?」
「古流武術です」
「体力に重点を置いてきたな?」
「はい」
 頷く達彦に、八雲は「なら、いい」と言って頷く。達彦は緊張を緩めない。相変わらずの空気が、緊張が解けることを許さない。言われたとおり、体力をつけることを重点的にやってきたというのに。
「郁斗、お前の得意は?」
「風読み、です」
「生かせそうか?」
「多分」
 ごくり、と郁斗が唾を飲み込む。風読みは完璧に出来ている。次にどのような風がも分かっている。それなのに、余裕は出ない。出させてもらえない。
 対峙しているのが、自分達の師匠だからだ。
 八雲はただ口元に笑みを浮かべ、立っている。だが、その場に流れる緊張感を生み出しているのもまた、八雲だ。不用意に動けば殺される、と人に思わせる空気をかもし出している。
 すなわち、殺気を。
 相手は自らの弟子だというのに。その殺気が緩む事はない。冷たく、重い空気だけが支配している。
「……正直、どう思います?」
 そんな三人を見ながら、薄野 鎮(ススキノ マモル)がバリバリとせんべいをかじった。
「そうだな、実力だけで言えば八雲が上だ。二人がかりであっても。ただ、八雲には能力使用を禁じている。だからこそ、二人には勝機がある」
 ずず、と茶を啜りながら、音無 終世(オトナシ ツイゼ)が言った。八雲の師匠にあたる彼女だからこその、分析だ。
「今までなら、同じ条件でも八雲さんが勝ってましたよね」
「郁斗も達彦も、よく修練している。それに、中々筋がいい。だからこそ、勝機はある」
「それにしても、動きませんね、二人とも。今までは、開始と同時に突っ込んで行ったのに」
 鎮はそう言って、茶を啜る。終世は少し笑い、ぱき、とせんべいを二つに割る。
「力をつけるのは、同時に力を知る。二人とも、八雲の力を改めて実感しているはずだ。こういう、音にも反応できないくらいに」
 終世の言葉に、鎮は「なるほど」と言って頷く。
「……達彦!」
 だん、と地を蹴る音が響くと同時に、郁斗が動いた。びゅう、と強風が吹く。動くきっかけとなりうる、風が。
「うおおおお!」
 郁斗に呼ばれると同時に、達彦は地を蹴る。まるで舞を踊るかのように、軽やかな足取りをしながら。
 郁斗は、宙を飛んでいた。強風にふわりと体を乗せ、上空から八雲を狙っているのだ。
「……その動き、良し!」
 にぃ、と八雲は笑う。大きく両足を開き、すばやく体を低く構える。
――だんっ!
 まずは一撃、達彦からの突きを腕で受ける。達彦の動きに合わせた防御のため、八雲には殆どダメージはない。
「ちぃっ!」
 達彦は舌を打ち、すぐに八雲から離れる。基本である、ヒット&アウェーだ。
「くそぉ!」
――がんっ!
 郁斗の蹴りは、低姿勢での防御からすばやく上空への受身に変えた八雲によって、つかまれてしまった。風に乗せた蹴りは、八雲の手によって勢いを失う。
「達彦の攻撃が防御されたら、その隙を突け! それでは、反撃を受けやすい。こんな風に、な」
 八雲はそういうと、郁斗の足を掴んだまま、大きく蹴りを繰り出す。上空から地上へと、郁斗は勢い良く地面へと叩きつけられてしまう。
 郁斗は「くそ!」と言葉を漏らし、受身を取る。いや、取る事ができた。八雲が攻撃すると言ったからできたのであって、もし言わなければそのまま何も分からず地面にダイブする所だっただろう。
「今の動きは、まあまあ良かったな」
 ばりばりとせんべいを口にしながら、終世が評価する。
「怪我はないですかね?」
「大丈夫だろう。いい受身が取れていた」
 鎮は「良かった」と答え、湯飲みを再び手に取る。
「もう一度!」
 だん、と再び達彦が地を蹴る。一撃目が駄目ならば、二撃目。二撃目が駄目ならば、三撃目……そう繋げることこそが、古流武術なのだ。耐えず動き続け、攻撃を仕掛けていく。だから、体力をつけるようにしてきたのだ。
「……だな!」
 郁斗も地を蹴る。いい具合に、風が吹いてくる。角度や力は違うから、それに合わせての攻撃を仕掛ける。風を読むことが自分の特技なのだから、それを活かさないでどうすると言われたのだ。
 体力をつけろ、風を活かせ。
 それらは八雲から散々言われてきた事だ。そうしてもう一つ。
「はぁ!」
「おらぁ!」
――だんっ!!
 達彦の下段の突きが八雲の重心をずらす。ほんの少しのずれだ。八雲ならば、あっという間に態勢を整えなおすことが可能だ。相手が、達彦だけならば。
「なっ」
――がんっ!!
 八雲が態勢を整えなおすその前に、少しだけずれた重心の所を狙って別の位置から郁斗が下段の蹴りを放つ。風の気流にのった郁斗の動きは滑らかで、八雲の防御をかいくぐることが出来た。
「あ」
――どんっ。
 呆気なく、八雲は地に膝をついた。反撃しようとしても、そこに達彦と郁斗の姿はない。
 達彦は一撃当てたからすぐに離れたし、郁斗は風に乗ってその場からすぐ離れたのだから。
「……そこまで、一本!」
 終世が立ち上がって、宣言する。鎮は「おお」と言って手を叩く。そうして、達彦と郁斗は、パン、とハイタッチをした。
「凄い、先生から一本取ったぜ!」
「本当だ。僕たちが、先生から」
 二人は興奮しながら、口々に「一本取った」と繰り返す。八雲は肩をすくめ、パンパンと膝を払いながら立ち上がる。
「おめでとう、二人とも。そして、お疲れ様」
 鎮はそう言って、笑う。郁斗は「はい!」と元気良く答え、満面の笑みを浮かべる。
「折角だから、お祝いでもしようか。初めて八雲さんから一本取ったんだし」
「それはいい。いい記念だからな」
 鎮の提案に、終世が頷く。
 八雲は「やれやれ」と呟くと、喜ぶ二人を見て苦笑を浮かべる。
 正直、一本取られると思っていなかった。力の加減をしていたとはいえ、今までならばこんな風に膝をつくことなんて考えられなかったし、今日の手合わせでもないだろうと思っていた。
 だが、弟子達は自分が思っている以上に成長しているようだった。達彦は体力をつけることによって、今までよりも素早く力強いヒット&アウェーを繰り出すことが出来ていたし、郁斗は今までよりも風を活かす動きをするようになっていた。
 慢心もあったか、と八雲は思う。所詮は弟子相手だ、と驕っていた部分もあったのかもしれない。
「俺も、まだまだだな」
 八雲は小さく呟き、空を仰ぐ。
 明日からの二人の修練メニューを、今一度考える必要がある、と思いつつ。


 薄野家で行われた「師匠から弟子が一本取ったお祝いの会」では、上座に達彦と郁斗が座り、皆から祝いの言葉を受けていた。そのたびに、二人は嬉しそうに照れていた。
「本当に、お前達には驚かされた」
 その中で、八雲は二人に声をかける。すると、二人は再び嬉しそうに「はい」と答えた。
「達彦は、しっかり体力をつけていたな。特に足への力が効いていた」
「有難うございます」
「郁斗は、風を活かす動きが出来ていた。風の読みも、間違えていなかった」
「有難うございます!」
 八雲は「よくやったな」と笑う。達彦と郁斗も、嬉しそうに「はい」と答え、笑う。
 和やかな雰囲気が、その場を包んだ……のだが。
「で、八雲。どういう事だ?」
「……え?」
 突如終世からすごまれ、八雲はゆっくりと終世の方を見る。終世の顔は笑っているが、目は笑っていない。
「あの、どういう事、ですか?」
「こっちが聞いているんだ、八雲。お前、弟子達に負けるってどういう事だ?」
「どういう事といわれても」
 弟子達が、想像以上に成長していた、とはなんとも言い辛い。
 八雲が困っていると、その横から「そうだよ」と鎮が便乗する。
「八雲さんは師匠なんだから、弟子である二人に負けるのは情けないじゃないか」
「そ、そんな事言われても」
 八雲の背中に、つう、と冷たいものが流れる。和やかだった雰囲気の祝いの席が、一気に反省会のものへと空気を換える。
「負けた原因、お前の慢心だろう?」
 終世が、ぴしゃりと言い放つ。痛いところを突かれた、と八雲はぐっと言葉を詰まらせる。
「反論しない所を見ると、図星のようだな。お前、まだ弟子達が自分に勝つことはないと高をくくっていたんだろう?」
 終世の言葉に、再び八雲はぐっと黙り込む。何も反論が出来ない。そのままだからだ。
「八雲さん、弟子たちには『油断は敵だ』とか言っているのに、どういう事なんだい?」
 びしっと鎮が突っ込む。勿論、反論できない。
 終世と鎮に怒られる八雲を見て、弟子達は顔を見合わせる。
「……油断、してたのか、先生」
「そう、みたいですね。油断していて、ようやく一本」
 郁斗と達彦は思い返す。
 攻撃を出す前の、異様な緊張感を。動いたら殺されるのではと思うくらいの、冷たく重い威圧感。力をセーブしているのだとは言っていたが、それ以外は全力でやっているのだと思っていた。いや、そうとしか思えなかった。
 しかし、終世と鎮の言葉によって、それは違うことが分かった。八雲は油断していた。弟子達が勝てるはずないと、高をくくって。
 油断して、慢心を抱き、高をくくって……ようやく一本。
 無論、前ならばそれでも一本取れなかった。がむしゃらに向かっていっても、用心していても、一本を取ることはできなかった。それが取れるようになっただけでも成長したといえるだろう。
「なんか、悔しいですね」
 ぽつりと、達彦が漏らす。郁斗も同じだ。ようやく背中が見えたと思っていた。次は力をセーブせずに、と言ってみようかとも思っていた。
「全く、弟子に負けるとか、論外だよ」
「本当に、情けない!」
 鎮と終世は、相変わらず八雲をきつく叱っている。八雲は終始、俯いている。その姿は傍から見るとかっこ悪いことに違いないのだが(実際、他の住人はくすくすと笑っていた)郁斗と達彦は違った。先ほどまでの浮かれていた気持ちが、ぽん、と引き締まる思いがした。
 次から、八雲は郁斗と達彦との手合わせにおいて、慢心を抱くことはないだろう。もっともっと冷たく重い緊張感を二人に与え、相手をする。下手すると、力のセーブですらしないかもしれない。
「強くなりたいな」
 ぽつり、と郁斗がもらす。ずっと抱いている、だが今までとは違う思いのこもった言葉を。
「強くなりたいです」
 達彦が頷きながら答える。郁斗と同じ思いを抱いて。
「その情けない状況は、誰のせいだ? 言ってみろ、八雲!」
「あ、あの、俺、ですが」
「駄目じゃないか、八雲さん。しっかりしなきゃ!」
「あ、すいません」
 繰り返されるやり取りに、薄野家の住人達は笑う。その中で、郁斗と達彦は違う意味で笑みを浮かべてその様子を見ていた。
 その目に宿るのは、新たなる決意であった。


<前進する一本を胸に抱いて・了>

クリエイターコメント お待たせしました、こんにちは。霜月玲守です。いつも有難うございます。
 今回は弟子さん達が一歩前へ進むという事で、心身ともに前へ進む様子を書かせていただきました。終世さんと鎮さんのコンビが、書いていて本当に楽しかったです。
 少しでも気に入ってくださると嬉しいです。ご意見・ご感想等、心よりお待ちしております。
 それでは、またお会いできるその時迄。
公開日時2009-01-22(木) 18:40
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