★ 気持ちの行方 ★
クリエイター依戒 アキラ(wmcm6125)
管理番号198-1454 オファー日2007-12-17(月) 00:05
オファーPC 鴣取 虹(cbfz3736) ムービーファン 男 17歳 アルバイター
ゲストPC1 天月 桜(cffy2576) ムービーファン 女 20歳 パテシエ
<ノベル>

 タイムリミットはあと十五分。
 鴣取 虹(コトリ コウ)は焦っていた。
 けれども、動けずにいた。
 虹が立っている場所。虹のバイト先の一つである、カフェ「ハピネス」の店員用休憩室のドアの前。かれこれ、もう5分近くはこの場所に立っている。
 ふう。と虹は小さく息を吐いて、ポケットから折りたたまれたチラシを取り出す。
 朝刊の折込チラシだ。
 安売り。割引。アルバイト募集。虹にとって必要な様々な情報を教えてくれる折込チラシを、虹は毎日欠かさずにチェックする。そのチラシの中で、気になったチラシを今日は持ってきたのだ。
「よし」
 チラシを握って、虹。
 いつまでもドアの前に立っていても仕方が無い。虹はわざと大げさに首を振って悩んでいたものを振り払うと、ドアをノックして中に入る。
「お疲れ様っす! 休憩入ります」
 休憩室で休んでいたのは「ハピネス」の店長、天月 桜 (アマツキ サクラ)。桜は開いたドアに顔を上げると、虹の元気な声が飛んできたので、にこりと微笑んで返す。
「お疲れ様です。お客様が一気に来て、大変でしたね」
「そ、そうっすね。先月の雑誌でも紹介されてた新作目当てのお客様が多いっすね。店長の作るメニュー。美味しいっすから。顔だってかわ――」
 はっとして口を押さえる虹。あはは。と笑って取り繕う。
「ふふ。ありがとうございます」
 腕前を褒められて礼を言う桜。最後の部分は聞こえなかったようだ。
 しばらくぼんやりと休憩する二人。
 ちらちらと桜を盗み見る虹。途中、何度か視線がぶつかり、桜が微笑む。
 違う。こんなことがしたかったんじゃない。
 虹は気合を入れて立ち上がると、桜のところへといってチラシを見せる。
「新しく出来た雑貨屋。良かったら一緒に見に行かないっすか!?」
 突然の出来事に呆然と桜。無意識的に差し出されたチラシを受け取って見てみる。
 新しくオープンしたばかりの雑貨屋のチラシ。可愛らしいレイアウトなそれは、どちらかというと女の子向けの店だと分かる。
 見ている途中。自分が誘われたことを思い出して意識する桜。実は桜。少し前に起こった騒動で、ちょっと落ち込んでいたところがあったのだ。気晴らしに何かしたいと思っていた桜だったが、一人ではどうにも。と迷っていたところだったのだ。
 一方虹も、桜が落ち込んでいるのをどうにか元気付けてあげたい。と思っていたのだ。だから駄目で元々。と、勇気を出して誘ってみたのだ。
「いいですね。面白そう」
 笑顔で言う桜。
「ほんとっすか!?」
 いい返事が貰えると、願っていたが、思ってはいなかった虹。逆に桜が驚くくらい驚いて言う。
 その後、待ち合わせ場所や時間を決めて、先に休憩を取っていた桜が休憩室を出て行った。
 一人になった虹は段々と実感が込み上げてきて、小さくガッツポーズした。



 そわそわと時計を確認して、虹は小さく息を吐く。とある会社で応対の仕事をしているときだった。
 あと30分で仕事は終わる。それから一時間後には、桜との待ち合わせの時間だった。
 仕事が終わって直接いけるように、着替えは持ってきた。着替えた服は、次までロッカーに置かせてもらおう。と思っていた虹だったが、持ってきた服でよかったのかと心配になる。
 あまり気合いれすぎても、と普段着にちょっとプラスみたいな感じにした虹だったが、それでよかったのだろうか。と。
 もう一度時計を確認する虹。そろそろだと思っていたのにさっき見たときからまだ5分も経っていない。
 徐々に徐々に心配になってくる。なんか変なことをしてしまったり言ってしまったりはしないだろうか。桜を楽しませてあげれるだろうか。落ち込んだ気持ちを払拭させてあげれるだろうか。
 そんな具合で過ごす虹。やはり周りにも伝わるようで、虹は何度もからかわれた。
 なんだ。デートか? 
 そう言われた時、その言葉を虹は初めて意識した。
 デート。
 確かに、そうかもしれない。
 意識した途端。なんとも恥ずかしくなる。桜はそれを考えた上でOKしてくれたのろうか? と思ってしまう。
 虹は、桜に対する自分の感情に気がついていた。それは恋愛感情。最初はずっと、理想としての憧れだった。けれど、いつからだろう? 自分でも分からないうちにいつの間にか、それは恋愛感情へと変わっていたのだった。
 だからだろう。落ち込んでいる桜の顔を見ているのは、虹には辛かった。だから今日は絶対に楽しませないといけない。
 意気込んで、虹は再び時計を見る。そろそろ仕事の終わる時間だった。



 銀幕広場のオブジェ前、桜は佇んでいた。
 待ち合わせの時間まではまだある。が、どうにも落ち着かなくて早めに出てきてしまったのだ。
 少し前の騒動で落ち込んでいた桜。虹からの誘いは素直に嬉しかった。
 ふと、桜は虹のことを考える。
 そう。いつだって彼は優しい。職場でもいつもにこにこと元気で。気がきいて。優しくて。きっと彼のことだから、自分が落ち込んでいるのに気がついて誘ってくれたんだろう。
 虹のことを考えると、どうにも心に違和感が浮かぶのを桜は感じる。
 なんだろう。
 考えても考えても。答えが思い浮かばないそのことが、桜にはどうしても大切なものに思えた。
「あ……」
 いつの間にか顔がほころんでいた自分に気がついて、桜は小さく漏らす。
 楽しみなんだ。そんなことを自覚する。
 人込みの中から虹の顔が見えるのが楽しみで楽しみで。これはきっと、先に着いた方の特権。
 そんなことを考えている自分に、桜は小さく含み笑いをする。
 その時、本当に人込みの中から虹が顔を出した。
 虹は桜を見つけると、途端に笑顔になり、急いで桜の前に向かう。
「ごめんなさいっすー! ま、待ちましたか?」
 おめかしした桜の姿にどきりとしながらも、虹。
「いえ。時間もぴったりですし、私も今来たところですよ」
 笑顔で桜が答えて、二人は聖林通りへと歩き出す。大まかに雑貨屋を目指しながら、途中の店を見てまわる。虹も桜も、普段は忙しい日々を送っているだけに、なかなかこんな風にゆったりと店を回る機会は無い。隣に誰かがいる楽しさを感じながら、二人は歩いていく。
 目的の雑貨屋に着き、中に入る二人。小奇麗な店内には、様々な物が売っており、チラシの効果もあってかそれなりに人がいた。
 虹と桜はゆっくりと一通り見て回る。
「折角ですし、何か欲しいですね」
 歩きながら呟いた桜の言葉に、虹は意気込んで答える。
「じゃあ、何か買ってあげるっすよ!」
「あ、いえ。そんなつもりで言った訳では……」
 勿論、無い。それでも虹は引かずに言う。
「わかってるっすよ。でも、折角っすから。色々ありすぎて迷うっすけどね」
 あはは。と笑いながら虹。断るつもりだった桜も、虹の好意を無駄にしない為に、真剣に選ぶ。
「あ……」
 何かを見つけて声をあげた桜。虹がその視線の先を見る。そこは、自分で石を選んでカスタマイズできる商品を扱っているスペースだった。
 そのスペースに行って楽しそうに石を選ぶ桜。ブレスレットの石を選んでいるようだ。
「できました」
 そう言って出来たブレスレットを虹に見せる桜。
 桜の花びらと星のモチーフを使ったシンプルなブレスレット。
 選んだ石とブレスレットの基本料金を精算してもらって品物を受け取る虹。その値段が思ったよりも大分安かったので、なんとなしに虹は言った。
「え、これでいいんすか?」
 その言葉に、桜は小さく笑って言う。
「それでは、もう一つ作ってお揃いにしましょう」
 何の気なしにそう言って再び石と向き合う桜。だが、対する虹は言葉を失っていた。
 それほどに、感動していた。
 あたりまえのように、お揃いにしましょう。と言った桜に、その嬉しさに。虹のこころは震えていた。



 雑貨屋での買い物のあと、二人はファミレスで夕食を食べた。
 食べ終えた後、楽しそうに今日の事を話す桜に、虹はほっとしていた。
 あの落ち込んでいた顔は今は無い。楽しそうな笑顔。
 しばらく話が続き、桜は化粧直しにと席を立つ。その時を見計らったかのように、虹は声をかけられた。
「やっほ。ココ君」
 声に顔を向ける虹。そこには三人の少女がいた。ココというのは虹のあだ名だ、鴣取 虹。苗字と名前の最初を取ってココ。
「あ……」
 それは虹のバイト仲間だった。「ハピネス」ではない。コンビニでのバイト仲間だ。
「えっと……」
 ちらりと化粧室に視線を向けて言葉を濁す虹。
「ココ君、見てたよー。彼女ー?」
 三人のうちの一人がニヤニヤと笑いながら言う。茶色のセミロングに眼鏡の娘だ。
「可愛いじゃん」
 そう言ったのは金髪のベリーショート。
 そしてもう一人の少女が虹の隣に座りながら言う。
「ねぇねぇココ君。あの人、彼女なの?」
 茶色のロングの髪をハーフアップにした娘だ。
「彼女、って訳じゃないっすけど……」
 化粧室を気にしながら、虹。
「やっぱり! ほら、言ったでしょー」
 ハーフアップが嬉しそうに他の二人に言う。
「あ、そうだ!」
 続けて虹に擦り寄って言う。
「ココ君。これからカラオケいかない? さっきの人も一緒でもいいからさ」
「こらこら。悪いってば。彼女が来ないうちに退散するよ」
 ベリーショートが笑いながら止める。
「やだー。ココ君も行こうよー」
 ハーフアップはそのまま虹の腕に抱きついて甘えたように言う。流石にちょっと良くない。と思い。やめるように言おうとした虹。
 だが、瞬間。動きが止まる。虹の視線はさっきまでと変わらず、だが、その先には桜が立っていた。
「あ……」
 席から立ち上がって何かを言おうとした虹。しかし、桜は虹のほうへは行かずに、店の外に駆け出していく。
「桜さんっ!」
 叫んで、追う虹。が、すぐにテーブルに戻って伝票を掴む。
「ココ君。ごめんっ! こいつ叱っておくから、許して」
 ベリーショートがハーフアップを指差して言う。その声を背中に聞きながら、虹は急いで会計を済ませて外へと出る。が、すでに桜を見失っていた。



 なんで逃げ出してしまったんだろう。桜は自問する。
 一度走り出してしまった足は、虹の呼び声に止まることなんて出来ずに、そのまま店を飛び出してしまった。
 なんだか分からない。けれどどこかもやもやする。
 それが桜の正直な気持ちだった。
 あの時、虹と、仲良くする少女を見たとき。すごく変な感じになって。言葉にならないけど、変な気持ちが湧き上がって。気がついたら走り出していた。今更戻ることなんて出来ない。今頃きっと、向こうは4人で楽しくお喋りしているのかな。
 公園に入り、ブランコに座る桜。ブランコに揺られながら、考える。どうして逃げてしまったんだろう。どうしてこんなにもやもやとするんだろう。
 考えても考えても答えなんて見つからずに、次第に辺りは暗くなり始める。そのことにすら桜は気がつかずに、必死に考える。その時、声がした。
「桜さんっ!」
 虹だった。あれからずっと、近隣を散策して桜を探していた虹。そしてようやく、電灯に照らされたブランコに桜を見つけて声を掛けたのだ。
「なんで、走っていっちゃったっすか」
 その問いは、桜自身も自問していた問い。
 だから桜は、笑顔で誤魔化した。
 だけど、うまく笑えなかった。
 結果。笑えていない笑顔。
 その笑顔は、虹の胸に突き刺さった。どんな言葉より、深く。強く。
「えっと……」
 何を言っていいのか。何を言えばいいのかが分からなくて、虹は言葉を濁す。困ったように目を泳がせ、眉を下げる。
 その瞬間。とくん。と、桜は胸が動くのを感じた。止まっていた時が動いたかのような、懐かしさ。原因はすぐに分かった。
 虹の困り顔。その作り方、仕草が。とても大切な人に、今はいない大切な人に似ていて。
 同時に、ずっと疑問だったもやもやの理由も理解する。自分はきっと。恋をしているんだ。って。
 じっ。と見つめ合っていた二人。虹への気持ちに気がついた桜は、途端に恥ずかしさが込み上げてきて顔が赤くなる。自分でもそれを感じた桜が、急いで両手で顔を覆う。
「やだ……。あまり、見ないで……ください」
 照れるように呟いた桜に、虹も意識してしまって一瞬で虹の顔も赤くなる。
「え、あ……と」
 目をそむけてこめかみを掻く虹。
 しばらくの沈黙。
「はははっ」
「うふふっ」
 どちらからともなく、含み笑い。
 それはやがて笑い声に変わり、さらにそれが笑いを誘って二人は大きく笑う。
 夜の公園。二人の笑い声が響く。とても楽しそうな。声だ。
 ひとしきり笑った後、桜が虹に問いかける。
「ココさんは、長い髪が好きですか?」
 どきりとする虹。さっきのハーフアップの少女のことだろうか。
「綺麗な髪が好きっすね。……桜さんの髪は、すごく綺麗だと思うっすよ」
 虹の言葉に、再び、とくん。と桜。大切な時間が動き出す。
「髪、……昔はもっと、長かったんですよ」
 話し出す桜。その大切な何かを抱くような優しげな口調に、虹は聞き入る。
「大切な人が、いたんです。とても、とても大切で。おかしなくらい、その人の事ばかり考えてた」
 本当に愛しそうな口調。けれども虹は、その時嫉妬のようなものはそれほど感じなかった。ただ、もっと聞きたいと思った。
「お菓子のことを真剣に考えたのだって、その人が原因。あの人の笑顔を見たかったから、もっと、もっと、色々な人の笑顔を、幸せを。作っていきたいと思った」
 言いながら、桜はポニーテールで束ねた髪を解いて、前に持ってきて、その髪を撫でながら続ける。
「ココさんと同じ。その人も、私の髪、綺麗だって。言ってくれたんです。そのときから、ずっと髪を伸ばしたんです」
 撫でていた髪を後ろに流し、桜は小さく首を振る。
「でも、居なくなってしまいました。だから、伸ばす意味を失った髪の毛も、切ったんです」
 何も、虹は言えなかった。
「でもまた、伸ばしてみようかな」
「似合うっすよ! 絶対!」
 呟いた桜の言葉に、勢いよく虹が言う。そして沈黙。
「ココさん。今日は楽しかったし、嬉しかったです。ありがとうございました」
 ブランコから降りて、帰りましょうか。と桜。
「あ、また今度!」
 急いたように切り出した虹の言葉に、桜はびっくりして虹を見る。
「また今度、誘ってもいいっすか?」
 ほのかに顔を赤くして、虹。
「是非。お願いします」
 同じく顔を赤くして、桜。
 お互い、照れて視線を合わせないように、並んで歩いていた。



 家に戻った虹は、同居人の恨めしそうな視線に気がつかない振りをしながら夕食を作っていた。仕事先から直接待ち合わせ場所にいった上に、そのことばかり頭にあって、同居人たちのお弁当を作り忘れていたのだ。
 にこにこと夕食を作る虹。色々トラブルもあったけど、概ねうまくいったと虹は思っていた。
 彼氏の存在。思い出という高い壁を知ってしまったものの、その大切な思い出を虹にも話してくれたことに、虹は喜びを感じていた。
「お待たせー。はは。ごめんな。遅くなった代わりに、おかず一品増やしておいたから」
 料理を運んだ虹、虹がつけているエプロンを見て、同居人が言う。
 あれ? ココくん。そのブレスレット、綺麗だね。 
 指の指された先、エプロンの肩にかかる部分に、桜の花びらと星のモチーフのブレスレットがかかっていた。

クリエイターコメントこんにちは。依戒です。

ああ。なんだかすごく初々しい。
あはは。なんというか。その。好きです。
例によって長くなる部分は後ほどブログにて綴りますので、よければ覗いていってください。

恋愛もの。微恋愛? うーん。適当なジャンルが思い浮かばない。
まあ大きく分けて恋愛としちゃいます。
2作目の恋愛物ですね。
恋愛って難しい……。
と、なんだか長くなりそうなのでやはりこの辺で。

最後になりますが、素敵なオファー。ほんとうにありがとうございました。
ほんの一瞬でも、幸せな気持ちを感じてもらえたのならば、私は嬉しく思います。
公開日時2008-01-05(土) 23:40
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