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<ノベル>
クリスマスツリーの森の話を聞きつけて、雪だるまを作るため集まった銀幕市民たちは、スノウマン1号からもうひとつの伝説を聞かされた。
「実は……ビッグツリーの木には、恋を手助けする魔法もあるらしいんです」
スノウマン1号は、木の枝の腕をふりふり、市民たちに語った。
巨大なツリー……ビッグツリーの枝に下がる無数のオーナメント。
そのどれかひとつを手にして、想う相手に告白すれば、恋は必ずかなうのだと。
◆
スノウマン1号のために、銀幕市民たちがクリスマスツリーの森を訪れて、雪だるまの友達を作ってやる……と聞きつけて、その日大勢の見物客が訪れていた。
市民たちの作った雪だるまが魔法で動き出し、人も雪だるまもにぎやかな声をあげている。
コレット・アイロニーは、そのイベントにやや遅れて到着した。
そして、コレットはデジカメ片手に、出来るだけ近距離から雪だるまたちの楽しげな様子を撮影しようと奮闘する。
彼女が暮らしている養護施設の子供が、風邪気味でクリスマスの森まで来られずに、せめて写真を撮ってきてほしいとコレットに頼み込んだのだった。
(あ、あれ可愛い……きっと真琴ちゃんが喜びそう)
風邪で寝込んでいる少女のことを思いながら、コレットが雪だるまたちに近づこうとしたとき、
「きゃ!?」
その足元を、小さな雪うさぎが駆け抜けていった。
思わずよろめきそうになるコレットを、誰かの腕が支える。
「ここからだと焦点距離が約3メートル。そのカメラの機能だと、やや画像がボケる可能性が高いです」
ファレル・クロス、何度か事件解決に共に赴いたことのある青年がそこにいた。
「あ……ありがとう」
コレットはファレルの腕を借りて、態勢を立て直す。
「よければ私が撮りましょうか」
ファレルが申し出た。確かに、コレットより身長の高いファレルの方が、この混雑でもいい写真を撮ってくれそうだ。
コレットがカメラを託すと、ファレルは何度かシャッターを切ってくれ、カメラを返した。
「ありがとう。同じ施設の女の子が、風邪で今日ここへ来れなくて、とても残念がってたの。代わりに写真をって頼まれて、それで……」
問わず語りにコレットはファレルに話していた。
幼いころから感情をコントロールする訓練を受けてきたというファレルはいつも無表情で、近寄りがたい存在であるらしい。コレットも当初は同じように思っていたが、いつのころからか、ファレルは何となく心許せる存在となっていた。幼いころから孤独であったという共通点がそうさせるのかもしれない。
そんなコレットの想いを知ってか知らずか、ファレルは珍しいことに口ごもりつつ、言った。
「で、この後の予定は?」
「ううん、特にないけれど……できるだけたくさんの写真を撮ってあげたくて」
「では、一緒にこの森を散策してみませんか?」
コレットは少し驚いた。ファレルがクリスマスの森に興味を持つとは思えなかったので。
「別に深い意味はありませんよ。ムービーハザードとしては珍しい例ですし、私としても少し観察しておきたいと思ったまでです」
いつもの無表情でファレルは言ったが……なんだか嘘っぽい気がした。
◆
「わあ……ビッグツリーの木って本当に奇麗……こんなにたくさんのオーナメントがキラキラしていて……」
「……そうですね」
「あっ、今、珍しい雪だるまが通ったわ。火星人みたいな感じの」
「……そうですね」
コレットは目にするすべてが美しくて珍しくて、思わずそのたびに声をあげてしまうが、対するファレルはどこか上の空。
なにか言いたいことがあるのに、それを言い出すタイミングを計りかねている様子である。
右手をずっとジャケットのポケットに突っ込んで、その中にあるものを取り出そうか取り出すまいか、もぞもぞ迷っている様子も見て取れる。
「ファレル?」
「……はい?」
「何か、私に……」
話したいことでもあるのじゃない? と言いかけた時だった。
一体の雪だるまがほわんほわんと近づいてくる。
金髪のカツラを被せられ、ピンクのハートマークのマフラーを巻いた小ぶりなやつだ。
「ねぇねぇお兄さんお姉さん、ビッグツリーの恋のおまじない、しに行くの?」
「まさか。ねぇ、ファレル?」
私たちはお友達同士よね、と言わぬばかりにコレットが無邪気に笑いかける。
なぜだかファレルは石像のように固まっている。
ちび雪だるまはおかまいなしにおしゃべりを続けた。
「ビッグツリーのオーナメントを一つ、手に持って、この森のどこかで告白すれば、絶対恋人同士になれるのになあ〜〜〜。オーナメントの中でも、特にぃ、赤いリボンがお勧め! ……あれ?」
ちび雪だるまは、ビッグツリーを見上げて小首をかしげた。
「あれえ? 赤いリボンがない。もしかして誰かが持って行って、あれを手にして誰かに告白しようとしてるのかなあ?」
ちび雪だるまのおしゃべりに、なぜだかひどくファレルは狼狽し。
「……行きましょう、コレットさん」
「?? どうしたの?」
急に足早にその場を去ろうとするファレルに戸惑いつつ、コレットはちび雪だるまに暇を告げた。
だが、恋の魔法の話はコレットにも、別な意味で気がかりとなっていた。
「スノウマンさんは、みんなの幸せを願ってくれてるけど……私が、スノウマンさんの幸せを願うことは出来るのかな……」
金髪に降りかかる雪がレース飾りのように彼女をふんわりと繊細に飾り、しばしファレルはただその姿を見守っていた。
コレットはスノウマン1号を思いながら言葉を継ぐ。
一人ぼっちの苦しみには、想像するまでもなく共感できるのだ。なぜなら彼女も一人で寂しさを抱えて成長してきたから。
「みんなの幸せばっかり願っていて、スノウマンさん自身が幸せになれないのは、寂しいと思うから。ねえ、ファレル?」
「『幸せ』という概念が私にはわかりかねますので……」
ファレルはそれだけ答えた。
結局最後まで、ファレルは寡黙なままで。
いつのまにか森を一周し終えて、風邪ひきの友達が気になっていたコレットは、ファレルにそろそろ帰ると告げた。
「おかげで、いい写真がいっぱい撮れたわ。ありがとう」
「……それはよかったですね。では」
ファレルは大股に去ってゆく。
これでいい、とファレルは思った。
むしろ自分に、そう言い聞かせていた。
スノウマン1号から、恋の魔法の話を聞いて、半ば衝動的に赤いリボンのオーナメントをもぎ取って、大切にポケットに入れていたが、いざコレットを目の前にすると告白できなかった。
ムービースターとしての生は、人間のそれとは違う。
もし、銀幕市にかけられた魔法が解けたなら、フィルムの中へと戻って行かねばならないさだめなのだから。
所詮人間ではない自分、明日この街から消えるかもしれない自分が人間である彼女と恋愛をする権利などないと、ファレルは思っていた。
恋が叶ったとしてもし自分がフィルムに戻ったら、コレットはどれだけ悲しむだろうか。
それくらいならば、
(今夜は、一緒に森を巡れただけで良しとしましょうか)
ファレルはポケットの中で、赤いリボンを握りしめた。やわらかなびろうどの感触。
コレットが身につけているのとよく似たリボンだった。
いつもと違うファレルの後姿が気になって、見送っていたコレットに、顔見知りの市役所員が声をかけてきた。
「向こうでパーティーやってるみたいよ。あら、さっきまで一緒にいた彼は? てっきりデートかと思って、声かけようか迷っていたのよ」
去ってゆくファレルを指して、市役所員が問う。
「ああ、彼はね、ともーーーー」
友達なの、と言いかけて。
寂しげなファレルの背中を見ていると、別な感情が湧きあがってーー
「彼は……とっても大切な人」
コレットは言いなおした。
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クリエイターコメント | 友達以上恋人未満の微妙な距離なのでしょうか。お二人が結ばれることを祈りつつ書かせていただきました。いつの日か「I swear to you」となればいいですね。
※このパーティーシナリオは、イベントに関連した特別なシナリオですので、ノベルの文字数が規定以上になっています。
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公開日時 | 2008-12-29(月) 02:20 |
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