★ スイートクリスマス〜彼女(と彼)がサンタに着替えたら ★
クリエイター小田切沙穂(wusr2349)
管理番号899-6283 オファー日2009-01-09(金) 20:07
オファーPC 柝乃守 泉(czdn1426) ムービースター 女 20歳 異界の迷い人
ゲストPC1 有栖川 三國(cbry4675) ムービーファン 男 18歳 学生
<ノベル>

 12月に入ると、なぜか人はそわそわし始める。
 町に赤と緑のリボンや、クリスマスツリーが飾られるようになると、なぜか人は、テンションが上がる。
 それは常日頃、ミステリが三度の飯より大好きと噂される有栖川 三國とて同じこと。
 クリスマス一週間前のある日……
 
 「ケーキ販売員&レジ・品出し アルバイト募集 雑誌にも掲載された美味しいクリスマスケーキを売るお手伝いをしてくれませんか?」
は足を止めた。
 場所は、某ショッピングモールにある、結構大きなケーキ屋さんの前。ガラス張りの店頭に貼り紙があり、その向こうには、色とりどりの可愛い、いかにも洗練された味がしそうなケーキがきれいに並んでいるのが透けて見える。
「ふむふむ、『時給○○円、休憩時間45分』……これは好条件です」
 なにやらとっても欲しいものがあるらしい三國さん、早速お店に雇ってくださいと突撃。
 しかしながらやはりこの時期にこの好条件、応募者が殺到しているらしい。
 別途、説明会の日時を案内され、あらためて本店の事務所に赴くことに。
 そして説明会当日、アルバイト希望者はひとりひとり、店の責任者に面接される。
 ド短期バイトなのに丁寧な選抜方式なのは、この好条件ゆえ人気のバイトであるからだ。それに名の通った店ゆえ、接客マナーや敬語の使い方が厳しくチェックされるのである。
 それにしても、三國が面食らうほどに若い女の子の応募が多い。
 三國さん、香水と化粧品の匂いが充満する中を、すり抜けるように歩いて面接室へ向かわなくてはならなかった程。
 それも道理で、バイト条件自体が好条件であるうえ、クリスマス時期の販売員にはお店から可愛い可愛いコスチュームが支給されるのがお約束になっている。
 そのコスチュームが似合う人を雇うのがこれまたその店のお約束になっているわけで、この店のクリスマスケーキ売り子になるってことは、女子たちの間では一種のステイタスになっているらしいのだ。
 したがって店側も女子の期待を裏切っちゃいかんと、気合を入れて選抜する、ということだ。
 だがお立会い。
 毎年こんだけ女の子が短期バイトに殺到すると店側もそれなりの手間をさかなくてはならないが、それを軽減しようというので、お店のエライ人は今年、ある手を打っていた。
 それすなわち、「何でも屋さん」への依頼である。
 何でも屋さんというと、ツナギ着た兄ちゃんかおっちゃんというイメージがあるが、うら若い女性でしかも意外と力持ち、まじめな性格で仕事はキッチリしてくれるという評判。
 その何でも屋さんーーーすなわち柝乃守 泉さんは、三國が面接してるのとは別部屋で、本社のえらい人と打ち合わせ中だった。
「ふぅん、あの映画のムービースターさんが何でも屋さんをやってるとはね。
 娘が『流星ーーリュウセイーー』のポスター大事に持ってるよ。で、仕事の方だけど、寒空の下で店頭販売ってことになるんだけど、かまわないかな」
「はい、大丈夫です。寒さ対策して来ますから」
 泉さんは業務内容をメモにとりつつはきはき答える。
「では当日、●●時にお店に行きますね。ご依頼ありがとうございました」
 きっちり60度のお辞儀をして打ち合わせ室を出た泉さん、歩き始めようと身体の向きを変えたとたんに誰かにどっかんとぶつかった。
「あっ、すみませ……」
「ごめんなさ……」
 と互いに目線をあげて、泉と相手はびっくり。 
 ぶつかった相手が、友達の有栖川 三國だったから。
「三國さん?」
「あ、泉さん……?」
 ちょっと癖のある髪を面接のために整髪料で整えたらしい三國、メガネの奥の瞳をぱちくり見開いている。
「三國さんも面接ですか?」
「はい。もっとも私は、売り子じゃなくてレジ打ちもしくは品出し作業で応募してるんですけどね」
 ここって条件も時給もいいんですよねーといまどきの学生っぽいことを三國は言ってるが、泉はくすっと笑ってしまう。
 ミステリーを読み出したら時間を忘れるとか声をかけても気づかないとか生体反応がなくなるとか言われる本の虫のくせに、三國は意外と賑やかな雰囲気が好きなのだ。
 きっと報酬うんぬんよりも、クリスマスの準備で忙しくも楽しげな人々の中でにこにこ笑っていたい人だ、と泉は結構的確に三國のキャラを掴んでいた。
 もっとも、報酬で新作ミステリー小説を買いまくることは想像に難くないが。
 既に面接済みで、無事採用する旨告げられていた三國と、依頼されて販売要員となった泉は、当日お店で会いましょうねと互いの場所へ帰ってゆく。
 しかしこれがクリスマスの悲劇の前兆となろうとは誰が想像し得たであろうか。
 ◆
 決戦当日。もとい、クリスマス当日である。
 「やっぱりこれなんだ……」
 当日指定された時刻に店を訪れるや否や、店長から売り子用のサンタガール衣装を支給された泉さん。
 マイクロミニーなスカート丈に若干哀愁を漂わせつつ、粛々と戦闘服、もといサンタガール衣装に着替えるのであった。
 何でも屋たるもの、引き受けたからにはあらゆる事態ドンと来いだと泉さんは自分に言い聞かせる。
 丈こそ「風の吹き込む店頭で仕事すんのに、なんじゃこりゃー! 女性には冷えが天敵だってことを知らねぇかオイ!」とツッコミたくなるようなブツだが、デザインが可愛さには泉もちょっぴり心が弾んだ。
 ふわふわのフェイクファーで縁取られたつややかな真紅のビロード地で、同じ生地の帽子には樅の木と赤い実がついている。
 着替え終わっていざロッカーから出陣!
 とドアノブに手を伸ばした泉だが、いきなりバン!とドアが向こう側から開き、約一名がなかに押し込まれ、泉にぶつかった。
「とにかくっ、頼んだからっ!」
 店長の焦った声が向こうで聞こえる。
「いきなり頼んだからって言われても、私は男ですから……」
 ロッカー室に押し込まれた人物は、くだんのミニミニーな衣装を手に途方にくれている。
「どうしたんですか? ……って……三國さん!!??」
 泉は衣装と、途方にくれた人物を見比べながら聞いた。いかなる運命のいたずらか、ロッカー室に放り込まれ、またもや泉とぶつかりかけた人物は有栖川 三國だった。
 三國が戸惑い顔で説明するところによれば、サンタガール販売員に来るはずだったバイト要員の女の子が、一人ドタキャンしたらしい。
 今から気合入れて面接しなおすのは到底無理、だったらクリスマス当日のバイト要員の他勢力からサンタガールできそうな戦力を抜擢しちゃえ! ってことで、品出し要員だったはずの三國がなぜか店長のおめがねにかなったそうだ。
 おはようございまーすと出勤してきた三國にいきなり店長が悪いねキミ売り子やってくんない? と畳み掛けたのだとか。
 いいじゃんいいじゃん時給アップするし被り物系バイトだと思えば体力的にも絶対楽っしょおまけにうちのケーキつけちゃうよ! と言葉巧みに店長が口説き、横から売り場主任の三十路おねいさんがにこにこ笑いながらミニスカ衣装を押し付けてきたんだそうな。
 でもって、あれ? これ……スカート? と戸惑ってる隙にロッカーに押し込まれたと。
「笑顔で男の子にミニスカ押し付けるって……何気に怖いですね」
 想像して鳥肌立ってる泉さん、三國に深く同情した。
「いえ、私も悪いんです。困る困るって言われると断りきれなかったし……なにより、今日のバイト代で買おうって決めてた小栗節太郎と梅野久作の全集がどうしても欲しくって」
 文学的ミステリーの金字塔と言われる大作家の名前をあげて三國は困り顔。
 泉さんがどんっと豊かな胸をたたいてにっこり笑う。
「大丈夫。三國さんなら出来ます。私も、精一杯手伝いますね」
「……ってことは……泉さんも僕にスカートを着ろと!?」
 三國さん大正解。泉さん、既に化粧ポーチを取り出しております。
「ちょっ、お化粧までしろって言うんですか!?」
 三國さん大正解。泉さん、化粧ポーチの中の口紅を選んでおります。三國さんと色を見比べて、どうやらベージュピンクと決めたようだ。
「だって、お店が開くまでに、あと7分しかないんですよ?」
 と、泉さん、可愛いお口で言い切りました。カーン、勝負あり!
 つまりあれだ、無駄な抵抗はやめろみたいな。
 ……三國さん、覚悟を決めたか「薄めにお願いします」と、更衣室の畳の上に正座した。

「いらっしゃいませー」
 人気ケーキ店「シュクレ」の店先、特設クリスマスケーキコーナーに、真紅の衣装を身に着けたサンタガールが約二名、元気よくケーキを売りさばいている。
「お買い上げありがとうございました」
 可愛い売り子さん1号は銀髪に金色の瞳がサンタガール衣装にキラキラ映えて、目立つことこの上ない。
 もはや立ってるだけでクリスマスと七夕が一緒に来たようなめでたい感じの完璧コーディネートに、近隣店の販売員をはじめ客まで、あらゆる女性の羨望と嫉妬を一身に集めているが、本人は気づいてない。
 加えて胸元がむっちりなものでお辞儀するたび襟のボタンが飛ばないかと、お客さんが楽しく心配するというおまけつき。 
「こちらのブッシュ・ド・ノエルはモカテイストとショコラ、バニラ三種類の味があります。パーティー用詰め合わせでしたら、こちらのピュイダムールが三個セットで●●円ですので、お得ですよ」
 売り子さん2号は、おとなしげな印象の長身美女。黒いバッキーを頭上にのっけてるあたり、「実はひょうきんな人かも」と思わせるふしがなくもない。
 ちょっぴりハスキーな声だが、ケーキの説明がドラマの名探偵のセリフみたくよどみないため、「物静かな知的美人」てな趣もあったり。
 ほんのり薄化粧なところも控えめなヤマトナデシコぽくて、通りすがりの男性客までが「おっ」と目を留める。
 二人の売り子さんがこの寒空の下、ミニスカートをひらめかせつつけなげに接客してくれるためか、ケーキは半端ねぇ売れっぷり。
 休憩時間になると、売り上げ主任のおねいさんが、にこにこ顔で二人を呼んだ。
「お疲れさん。がんばってくれてるわねぇ。もしかしたら時給、もうちょっと上乗せできるかもよ。うちの店、ブッシュ・ド・ノエル完売は例年のことなんだけど、この時期にはあまり出ないパイ菓子やガトー・バスクまでなぜか売り上げがよくってね。コンベルサシォンが10個近く売れたし」
 にこにこにこにこ。
 おねぃさん、なぜかミニスカ三國(関係ないが語呂がいい)をじーっと見つめ、「奥であったかいお茶飲んでらっしゃい♪」と優しーく声をかけた。
 店の奥でしばしの休息。お店のまかないらしい、焼きたてクロックマダムとスープが昼食に出される。
「スカートがこんなに寒いなんて……。女性ってたくましいですね」
 と慣れない服装に三國は唇が紫色。
「タイツはいてれば、そうでもないですよ。あとカイロをこのへんに貼れば鉄壁です」
 と、泉さんはぽむっと自らの引き締まったウエストあたりを叩いてみせる。
 事実、寒空での店頭売り子対策として、ミニスカのベルトあたりにぺったりとカイロを貼ってあったりするのだ。
 異界の迷い人ってば、順応性高すぎ。さまざまな世界を渡り歩いてきたんだから無理もないが。
 そんなこんなでマッタリしてると、店長がバタンと勢いよくドアを開け、二人を交互に見つめながら言った。
「休憩時間中にごめん。……店頭の暖房が壊れて、客足が落ちちゃってね」
 たださえ客出入りが多くて風が吹き込み寒い店内、めいっぱい働いてたエアコンがお陀仏ったらしい。
 で、当然のことながらこの大事な時期に風邪引きたくないのが人情なのでお客さんが店頭をのぞいてケーキかわずに帰ってしまうという羽目に。
 「っむえっ!?」
 驚きの声とともに、泉の耳にネコミミがぴょっこんと出る。
「ごめん。さっき主任が大入り袋出るかもって言ってたけど、このままの状態で売り上げストップしたら、無理かもしれない。二人とも、接客マナーもすごくいいし、頑張ってくれてたのに、……ごめん。寒いのに悪いんだけど、包装済みのフロマージュとかホワイトケーキ用意してるから、店頭で売り切ってくれないかな……もし完売できたら、皆に出せるんだ、大入り袋」
 店長が心底すまなそうに言う。
 と、三國がすっくと立ち上がった。
「私、やります」
 カイロ貼って元気が出たのか、はたまた三國さん、大入り袋が出れば小栗節太郎と梅野久作全集のほかに赤木彬光全集も買っちゃえるぞと踏んだのか。
 ともあれサンタガール2号は、
「いらっしゃいませー。『シュクレ』のクリスマスケーキ、お安くなってまーす。いかがですかー」
 寒風に逆らうように、店の玄関先でハスキーな声で呼び込みを続ける。
 サンタガール1号は店内のクリスマスケーキコーナーと店頭を行ったりきたりしつつ、店頭分のケーキを新たに品出ししたり、おつり用の硬貨を渡しに言ったり。
 サンタガール二人がまたまたがんばったおかげで、店頭に出した分のケーキが数個、続けて売れた。
 ……のはいいが、売り込みの声ばかりか笑顔までも振りまいたせいか、客ばかりか関係なさげなのまで寄せ集めてしまった。
「ね、ケーキ買ってあげるからさあ、バイトフケて付き合わない?」
 ケーキを選ぶふりで、三國に囁く大学生風の若者出現。ブランドもんで固めた身なりといい、顔立ちは悪くないのに倣岸そうな物腰といい、似た感じの取り巻きを三人ばかり連れてるところといい、甘やかされて勘違いしたまんま成長しちゃったボンボンらしく、なんだかとっても上から目線。
 クリスマスになっても彼女いなくて男の手下連れてヒマそうに歩いてるのも道理ですねと客観的な推理が一瞬三國の脳裏を掠めたが、
『実は男なんでお断りします! 押忍!』
 なんていう身もふたもない断り方は店のイメージを損ねかねないし……
 とか思ってたら若者たちは図に乗って、三國にまとわりつくように取り囲み、
「彼女ー、クリスマスにバイトしてるくらいだから彼氏いないっしょ?」
「可愛いのにもったいないねぇ。俺らと来るんならリッチな会員制のクラブとか行けるよ? こんなバイトより絶対楽しいって」
「いえ、今忙しいので……」
 とやんわり断りつつ、なんだか相手のあまりの必死さに、気の毒になってきて、本当に寂しそうですねこの人たち、もしかして僕さえ我慢すればこの場は丸く収まるのかなー……なんて……って激ヤバな思考スパイラルに陥りかけてる三國さん。
 と、すすすっとKY若者集団に近寄ってきたサンタガール1号、もとい泉さん。
「何? キミも一緒に来たいってか?」
 と若者、とことん実にあつかましい。
 サンタガール1号は若者とサンタガール2号の間に割りこんで、サンタガール2号を背中にかばう形になった。
「ケーキ買わないんでしたら、そこどいていただけますか?」
 泉さん、まっとう至極な言葉を若者に投げかける。
 こっちのサンタガールも可愛いじゃん、もしかして俺一石二鳥? ウマー♪な表情を浮かべていた若者の顔がみるみる険しくなる。
「あ? 俺らこっちの彼女と話してんだけど? キミらさあ、彼氏いないバイトづくめの寂しいクリスマスなんでしょ? 声かけてもらってありがたいと思わない?」
 どっから出てくるんだその上から目線。泉さんは動じずに言い返す。
「思いません。お金もほしいですけど、ここのケーキ、とっても丁寧に作ってあって、美味しいからみんなに食べてほしいです。だからお仕事しててとっても楽しいです。全然寂しいクリスマスなんかじゃないですよ」
 うっと詰まった若者に、さらに泉さんは一歩前に出て、若者の鼻先にケーキの箱を突き出した。
「ほら、いいにおいでしょ? 焼きたてのうちに売りたいから、私たちとっても、とっっても忙しいんです。
 ……だから、ケーキ買わないんでしたら、どいてくださいね? あんまりしつこくお仕事の邪魔されると、ケーキ冷めちゃいますし、怒りますよ?
 ……それとも何か、これ全部お買い上げですか?」
 笑顔で詰め寄られて、アワワワなKY若者集団。
 と、間髪いれずに三國が、
「お買い上げありがとうございます♪」
 と、さささっとケーキ5箱を手提げ袋に入れて突き出した。
 若者達、あわてて財布を取り出し、ほうほうのていでケーキをぶら下げたおまぬけな野郎集団となって逃げていった。
 泉さんの可愛くも目が笑ってねぇ! つーか黒いオーラ漂ってるし! 出るか超必殺ヒールドロップ!! な笑顔に完璧負けたわけだ。
 いや、泉さんの迫力ばかりではない。
 泉さんが涼やかに言ってのけた「とっても丁寧に作ってあって」「焼きたて」「いいにおい」というキーワードに、通行人が見事に反応して、店頭販売のケーキに群れ始めていた。
「やだ、あの客超マナー悪ぅい。店のおねえさん口説いてるー」
「やめて欲しいよねー。早くケーキ選びたいのにぃ」
 客集団が口々に聞こえよがしに言い始めたので、さすがのKYもいたたまれなかったものと思われ。
 KYどもが去るやいなや、客集団はわらわらとケーキをお買い上げ、瞬く間に完売となった。
 早い早いよこれって店の新記録だよと浮かれまくって店長が二人を出迎える。
「すっごいわ! 大入り袋出るからね、つまり時給とは別にボーナスが出るってことよ! あとこれね、店長から」
 売り場主任が二人に差し出したのは、予想外の中身にふくらんだ現金入り封筒と、店長からの特別プレゼントと称するクリスマスケーキの包み。
 ちなみに単なるクリスマスケーキではない。店一番の売れ筋商品、ブッシュ・ド・ノエル(ショコラ)と、パーティセット(カスタードクリームを詰めたピュイダムール、色とりどりのマカロン、バターの香りがたまらないガレット数種と乾杯用のシードル)ってどんだけスイーツスルコースやねんと突っ込みたくなるでっかい詰め合わせである。
「うわあ、これは僕たち二人だけじゃとっても食べきれないですよね、泉さん」
 と、仕事を終えて、可愛いけど寒いサンタスーツから、着慣れたジーンズとパーカー姿になった三國さんは嬉しそうだけど困惑顔。
「ですね。いっそ友達呼んでパーティでもします?」
 こちらもニットワンピとレギンスにブーツという、あったかい格好になった泉さんは建設的提案。
「お疲れ様っした、アニキ!」
 売り場のバイトたちが、お店から帰途に着く泉に敬意のまなざしと声を投げる。
 ナンパ野郎撃退&売り上げアップの武勇伝を目撃もしくは聞いた店員達は泉にアニキという称号を奉ったのだが、若い女性に対して微妙なんだってばよ!
 三國は三國で、売り場主任のおねいさんに、ねっここのバイトおいしいでしょバレンタインデーもショコラケーキ特売するんだけどまたバイトしに来ない?来るわよね絶対来てよねエッ女装はもうやだ? なんでよ? なんでー? なんでなのー? と叫ばれ少し考えさせてください年度末は学業が忙しいんですーとうまいこと逃げている。
 そして……
 双方のお友達をご招待してお土産スイーツを食べつくすことにした泉さんと三國さん。
 この店のマカロン食べたかったんだよおおぉ〜〜と涙にむせんだり、んまんまと無言でブッシュ・ド・ノエルをほおばっていたり、それぞれ泉たちから贈られた甘い幸せに浸る友人達を前に、泉さんは本当のサンタさんってきっとこんな気持ちなんでしょうね……とぼんやり想像した。
 泉さんがぼうっとしてるのにはわけがある。
 三國さんとの「今日はお疲れ様です」「お疲れ様でした」の乾杯ついでにシードルをひとくちばかり飲んでしまったため、アルコールに激弱な泉さんは酔いが回り始めていたのだった。
 「あっ、そうらぁ〜。わたひぃ、三國ひゃんに、ぷれれんとがあるんでひゅよ〜」
 リンゴ100%のシードルがやたら口当たりよかったもので、ついついごくんごくんと続けざまに飲んでしまった泉さん、呂律が怪しくなってますが。
 手元のバッグからがさごそとなにやら取り出し、三國さんの首に巻きつける。
「これ……僕に? あったかいです。ありがとうございます」
 三國さんがメガネの奥から10メートル四方範囲の生き物全部癒してしまいそうな微笑を投げかける。
 それは樅の木の葉の色、深緑のマフラー。両端に雪の結晶の編みこみ模様があって、三國の考え深げな横顔にとても似合う。
 泉さんは続けて、もう一枚、ちっちゃいマフラーを取り出す。
「これはミナひゃん(注:ミナちゃん=三國のバッキー)のでひゅ……ひっく」
 出来上がっちゃってる泉さん、こたつに入っている三國のすぐそば、本棚にちょこんと座っているバッキーのミナにも、三國のとおそろいの深緑のマフラーを巻いてあげた。
「よく似合いまひゅ〜。んもうミナひゃん可愛いにゃあ〜(すりすり)」
「泉さん……それ僕のバッキーじゃなくて貯金箱です。招き猫型の」
 大丈夫かおい。
 ともあれ三國は泉のバイト中の武勇伝を友人達に披露し、友人達は拍手喝さい。
 パチパチと友人達が惜しみなく贈る拍手の中、泉は酔っ払ったあげくにこっくりこっくりとうたた寝を始めていた。
 素敵な夢を見てるので、口元には笑みが浮かんでいる。おそろいのサンタ衣装を着て、三國をはじめ友達一同とともに空飛ぶソリでプレゼントを振りまいている夢。
 たぶん、ある意味正夢だが。

クリエイターコメントたいへん長らくお待たせいたしました。申し訳ありません。
 泉さんは苦労性世話好きないいんちょ(委員長)タイプ(何)なら、三國さんは物静かで、細かい用事をいつのまにかすっと片付けてくれてそうな図書委員さんでしょうか。 三國さんにはぜひまた「シュクレ」でバイトしていただきたいですね。いや下心なんて全然(略)。
 そして泉さんは事前にバイト制服試着されたのか気になった小田切です。だって泉さんのバヤイ、ジャストサイズ過ぎると谷間が(略)。 
公開日時2009-03-28(土) 10:50
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