★ スターへの招待状 ★
<オープニング>

 はあ、はあ。
 ブルーのドレスに身を包んだ美女が駆ける。
 石畳の廊下を彼女のハイヒールが叩く。
 後ろからはどどん、どどんという地響きが聞こえていた。
「こ、こんなの……聞いていないわっ!!」
 既に美女の髪は解け、乱れている。髪だけでない。
 青いドレスも走りやすいように、手で短く裂かれていた。いざとなれば、このハイヒールも脱ぎ捨てなくてはならないだろう。
 暗い。暗い道。道を照らすのは、月明かりと、ぽつぽつと灯された頼りない蝋燭の光。
 ドドドドンっ!!
 そして、それは現れた。
「ひっ!!」
 後ろではなく、彼女の前に、立ちはだかるように現れたのだ。
 まるでそれは、古の肉食恐竜。赤い瞳が赤い鱗がぎらぎらと輝く。
「グルルルゥ……」
 彼女は動けないでいた。
「い、いや……いやよ、こんなの……三流映画にも、ならないわ……」
 がたがたと振るえ、足が動かないのだ。
 恐竜の口から、白いもやが見えた。

 ごおおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 彼女がフィルムになったとたん、遠くから笑い声が響いた。楽しそうにあざ笑うかのように……。

 大きな城。そこにそれはいた。
 月明かりに照らされた赤い恐竜。その恐竜の額には、赤く輝く大きな宝石があった。


 今、アルシスの手には一枚の招待状があった。
「その招待状……どこでもらったんですか?」
 思わず、植村直紀が尋ねた。
 ここは直紀のいる対策課。そこにアルシスは来ていた。
「えっと……その、差出人の名前がなかったので、ちょっと調べてもらおうかと思いまして」
「差出人の名前がない?」
 その言葉にアルシスは頷く。
「悪戯とかじゃないんですか?」
「でも、時間も場所もきちんと書かれているから……もしかして、誰かと間違えたのかと」
 直紀が招待状を覗いて見る。確かに書かれている場所には、城がある。所有者は何処かの資産家だったような……。そして、パーティーの時間は夜の7時からとなっている。
「行ってみようかな?」
「え?」
「どうやら、これは僕のものみたいだし……それに、このパーティー、今日行われるみたいですから」
「………気をつけてくださいね」
 直紀は不安を感じながら、アルシスを見送る。
「まさか……最近、ムービースターだけが行方不明になる事件が出てきていますが……」
 すぐさまアルシスを追うが、もう彼はいなかった。
「無事でいてくれるといいのですが………」
 直紀は対策課で、アルシスの身を案じるのであった。

種別名シナリオ 管理番号78
クリエイター水樹らな(wnym5638)
クリエイターコメントお久しぶりです、水樹らなです。
今回はちょっとやばそうなパーティーのご招待です。
オープニングにありますとおり、パーティーの後半には恐竜が現れます。戦うか逃げるか、それとも他の道を歩むか。それは皆さんの行動によって決まります。
何かわかるかもしれませんので、頑張ってみてください。

なお、この招待状はムービースターであれば、誰にでも送られています。正装しなくても会場へ入れますが、正装した方が雰囲気を楽しめるかと思います。
ムービーファンの方やエキストラの方には、招待状はありません。ですが、アルシスや他のムービースターさんと一緒に入る事は可能となっています。
あるいは別の方法で潜り込む必要がありますので、忘れずに行動に書いておいてくださいね。でないと、パーティーに参加できずに終わってしまいます。

前半のパーティーは、かなり豪華な立食パーティーと舞踏会が行われます。よければそちらでも楽しんでみてください。

それでは、皆さんからの行動、お待ちしております。

参加者
太助(czyt9111) ムービースター 男 10歳 タヌキ少年
ファーマ・シスト(cerh7789) ムービースター 女 16歳 魔法薬師
梛織(czne7359) ムービースター 男 19歳 万事屋
沢渡 ラクシュミ(cuxe9258) ムービーファン 女 16歳 高校生
シャノン・ヴォルムス(chnc2161) ムービースター 男 24歳 ヴァンパイアハンター
ギリアム・フーパー(cywr8330) ムービーファン 男 36歳 俳優
<ノベル>

▼宴の主

 闇の中でその男は笑みを零した。
「また、彼らが来る……死ぬとも知らずに、ね」
 からんと音を立てて、男の手の中にある、グラスの氷が僅かに溶けた。
「さあ、おいで。もうすぐ……もうすぐ楽しい宴が始まるのだから」
 男の側で、巨大な影が動いた。

 地響きと共に……。


▼招待状を手に
 ここはとある事務所。いや、事務所を兼ねたある住人の部屋である。
「俺ん所に届く手紙は宛先不明ってのが多いなー」
 宛先不明の手紙。梛織(ナオ)は呑気に、その手紙の封を切った。
 彼は映画『Mission7』の主人公のムービースターだ。ハードなアクションが売りの映画で、宛先人不明の手紙を受け取った事から、自分の命を脅かす依頼を引き受けてしまうという万屋の物語。
 普通の人なら開けないものであるが……。
 開いた手紙の内容を見て、梛織は思わず喉で笑う。
「……なになに? 俺の新作発表パーティーみたいな! ってか〜」
 手紙の内容は、パーティーの招待状。
 はじめに言っておく。断じて梛織の新作発表パーティーではない。
「さてと、こうしてはいられないな。さっさと準備して行かないと!」
 かなりノリノリの勢いだが、果たしてどうなることやら?

 数時間後。
 パーティー会場の前に、一人の和服美人が立っていた。
 色黒の肌に、茶色の瞳。艶のある長い黒髪は、綺麗に纏められ、珊瑚玉の簪(かんざし)が付けられている。着ている和服も見事だ。桜の模様の入った上品な和服に、黒の帯に金の帯止めがしてある。
「………困ったな」
 和服が似合っているが、何処となく日本人離れした鼻筋をしているのは、気のせいだろうか?
「あれ? 君もパーティーの参加者?」
 そこに現れたのは、黒色のスーツに身を包んだ梛織だった。もっとも首元が苦しいのか、既にネクタイは緩められ、襟のボタンも外してあった。せっかくの正装が台無しである。
「あ、もしかして、英語で聞いた方がよかったかな?」
 梛織はそういって、英語で尋ねようと口を開きかけたとき。
「ありがとう。でも日本語で大丈夫。それに英語で話しかけられても、返事できなかったし」
「そう、それなら良かった」
 梛織はにこっと微笑む。
「俺は梛織。これでも万屋を経営しているんだ。何か困っているようだけど?」
「私は沢渡ラクシュミ(サワタリ ラクシュミ)よ。困り事って言うか……この城で行われているパーティーに参加したいと思っているんだけど……」
 ラクシュミの話によると、招待状がない客は入れてもらえないそうだ。
「どんなパーティーを行っているか、ちょっと気になって」
「ラクシュミ嬢のお望みのものはこれだな」
 梛織が取り出したのは、あの招待状。
「それは……」
「この招待状によるとだ、この一枚で何人でも入れるそうだ」
 どうする? と言いたげな視線を送る梛織。
「お願い、あたしも一緒に連れて行ってくれないかしら?」
 くすりと梛織は微笑む。
「喜んで、ラクシュミ嬢」
 梛織はラクシュミの手を取り、ゆっくりとパーティーが開かれると言う城内へと入っていった。

「招待状、か……」
 梛織とラクシュミが城内へと入った頃。
 また新たなゲストが城の前に現れた。
 アルマーニのフォーマルスーツを着ている、ハンサムな米国男性。その体つきはスーツの上でもがっしりと逞しい事が伺える。彼の名はギリアム・フーパー。派手なアクション映画のメイン俳優でもある。ムービーファンの彼だが、ある意味、ムービースターだと言えるだろう。もっとも、彼の場合、ムービースター特有の能力であるロケーションエリアを発動させる事ができないのが少し残念なところだろうか。
 ちなみに彼の手にしている招待状は、彼の演じる『バーニング・ハード』のムービースターから貰ったものであった。最も彼が招かざる者だとしても、ここに見破れる者は一人もいない事だろう。

 ――同じ顔した人の身に何かあったら、嫌じゃないか。俺だって彼らを適当に演じたわけじゃないしさ、愛着があるんだよ。何か起きた時、映画のように都合よく活躍できるとは限らないがね。

 ギリアムはふっと苦笑を浮かべた。
「案内していただこうか?」
 門にいる案内人にギリアムはそう言って招待状を見せた。


▼華やかな仮面舞踏会
 ギリアムのように、招待状を不審に思う者は、ここにもいる。

 ――さて……招待状が送られて来たが、胡散臭さが全開だな。どう考えても裏に何かあるとしか思えない……が、それに乗ってみるのも面白そうだな。

 彼の緑色の瞳が、手元にある招待状から会場内へと移る。
 城内は煌びやかなダンスホールになっていた。500人以上が入る広いホールには、老若男女様々な人々……いや、ムービースターが揃っていた。
 天井にはクリスタルをふんだんに使った豪華なシャンデリア。
 ホールの隅に置かれたテーブルには、沢山のオードブル。しかもキャビアなどの高級食材を使用した物が所狭しと置かれている。
 そして、もう一つ。
 会場に来た者全てが、仮面をしていた。城内へと入る途中で渡されたのだ。
 今日は仮面舞踏会だからと。
 もちろん、彼も例外ではない。燕尾服を来て、正装してきた彼は、ご馳走よりも。
「あのシャンパンは確か……」
 年代物のシャンパンだったように思う。すぐさま、呼び止めようとしたのだが、他のムービースターにさえぎられて、そのチャンスを失ってしまった。
 と、目の前にシフォンワンピースの黒いドレスを着た女性と目が合った。長い髪を纏めている蝙蝠の形をした髪留めが、深紅に染まる髪に良く映える。
 女性はにこりと微笑んだ。
「どうやら、お前も一人のようだな」
「あなたも、ですわね」
 互いに顔を見合わせ、笑いあう。
「名前は?」
 ぶっきらぼうに尋ねる燕尾服の彼。
「名前を尋ねるときは、自分から、ではなくて?」
 女性にそういわれ、彼はああと呟く。
「これは失礼。俺の名はシャノン・ヴォルムス」
「ファーマ・シストよ。ファーマと読んでくださいまし」
 そう言って二人は握手を交わす。
「ところで、シャノンさま。もし宜しければ、一曲、お願いしても宜しいかしら?」
 それはファーマからのダンスの誘い。
「その後で美味しい酒を頂けるのなら、ぜひ」
 そのシャノンの言葉にファーマは思わず、笑ってしまう。
「ええ、構いませんわ。さっき、素晴らしいワインを見つけましたの。それを後でお願いしましょう」
 ファーマの手をシャノンは導く。
 二人とも素人とは思えない程の華麗なステップでホールを回る。
 ファーマのドレスがまるで美しい薔薇のように見えた。

 その横で、きらきらした瞳をご馳走に向けている元気な少年がいた。
 いや、少年というよりも、狸少年といった方が適切であろうか。
 ご馳走の為なら仕方ないかと、シルクハットにフロックコートを来てやってきた少年。今はその二つをフロントに預け、愛らしいスーツ姿になっていた。その頭には狸の耳、そして、お尻には愛らしい狸の尻尾をつけて。
「なあ、坊主。それ、本物か?」
 思わず梛織が尋ねる。
「ああ、本物だよ。だからって、引っ張ったら承知しないんだからな」
 そう言って狸少年は、持参したタッパーにつぎつぎとご馳走を入れていく。もちろん、狸少年もご馳走を頬張りながら。
「私は沢渡ラクシュミ。貴方の名前、教えてくれる?」
 ラクシュミの言葉に少年はにこっと微笑んだ。
「俺は太助(タスケ)! 姉ちゃんなら、俺のおなか、なでてもいいぞっ」
 その殺し文句にラクシュミは。
「それじゃ、後で撫でさせてもらおうかな?」
 くすりと微笑んだ。

 と、曲が止まった。
 ホールの中央にある階段から、一人の男性が現れた。
 彼もまた、仮面をつけている。
「ようこそ、ムービースターの諸君。今宵のパーティーはいかがかな?」
 どうやら、このパーティーを主催した本人のようだ。
「こんなにも沢山のムービースターの諸君に会えて、僕も嬉しいよ。どうか、最後までこのパーティーを楽しんでいってもらいたい」
 と、彼の前にギリアムが立つ。
「良ければ、あなたの名前を伺いたい。こんな素晴らしいパーティーを主催した、あなたの名前を」
 彼は答えた。
「僕の名は……そう、月影。月明かりのように君達を照らす者……そう覚えてくれると嬉しいんだが」
「月影……良い名だな」
 ギリアムは、月影と握手を交わした。

▼現れたるは深紅の魔竜
「どこが?」
 冷たい月影の声。
「どこがって、あなたの名前じゃないのか?」
 その声にギリアムは思わず声を荒げた。
「ああそうだったね。でも、覚えても意味はないよ。何故なら……」
 ギリアムの手を払いのけると、月影はその指を鳴らした。
「君達全員、ここで死ぬ運命なのだから」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……。

 何か大きな物が動き出した音が響く。
「ど、どういう事だ! 月影!?」
 ギリアムだけではない、シャノンも梛織も月影に詰め寄る。
「簡単だよ。僕は君達のようなムービースターが」
 にっとその唇を吊り上げた。

「大嫌いなんだよ。反吐が出るほどになっ!」

 グワシャアアアア!!!

 月影の言葉が終わるや否や、ホールの壁がいきなり崩れた。いや、壊された。
「きゃあああああ!!」
 城内にいる他のムービースター達が騒ぎ始める。
 壊れた壁から現れたもの。

 ―――額に血に濡れたような真っ赤な宝石を付けた、赤い赤い肉食恐竜が現れたのだ!!

 グオオオオオオオオォォォォンンンン!!!

 巨大な口を大きく広げ、恐竜は吼えた。
 逃げ惑う人々。会場はパニックの渦に巻き込まれた。
「き、貴様っ!!」
 ギリアムはすぐさま、月影に飛び掛ろうとする。
「いいのかい? 僕に構っていても。僕の可愛い恐竜が君の友達をこの世から消してしまうよ」
「くっ!!」
 掴みかかろうとする手を下ろし、ギリアムは、すぐさま恐竜のいるホールへと戻った。
「皆! 出口はこっちだ!! 早く!」
 そして、避難誘導を開始する。その後ろでは、月影の楽しげな笑い声が響いていた。

▼魔竜と戦う者
 ギリアムの迅速な誘導により、ムービースターの多くはホール外へと避難していく。
「まあ素敵! 新薬の原料におあつらえむきですわ♪」
 ファーマはそういって、ドレスの裾をたくし上げると、そこには様々な色の薬品が入った試験管が太もものベルトに固定されていた。それをいくつか抜き取り、すぐさま恐竜へと投げつける。
 ドゴオオオオンッ!!
 爆発。小さな爆発だったが、恐竜の鱗をいくつか剥ぎ取る事が出来た様子。
「あら、火力が足りなかったかしら?」
 恐竜の振るう尻尾の攻撃を躱しながら、ファーマは恐竜と投げつけた薬品の計算をし始める。
 そんなファーマを追い越して、恐竜は走り出した。
 恐竜の目指す先には梛織の姿が。
「なっ、何でこんなとこに恐竜がいるんだよっ!!」
 半ば囮になるような形で、梛織は逃げ出した。ホールを出て、城の廊下へ。
 恐竜は思っていたよりも足が速い。どしんどしんと床を振動させながら、梛織を追う。
 だが、このまま逃げていても、何とかなるのだろうか?
 相手は自分よりも大きく、足も長く早い。
 それに引き換え、自分の速度は、恐竜よりも速いといえども、恐竜よりも長い距離を走るのであれば、疲れるのは自分。疲れ果て、殺されるのなら、むしろ。
 梛織の足が止まった。
 振り返り迫り来る恐竜を睨みつける。
「しゃーねぇ! 相手してやるよっ!!」
 その声と共に梛織の周囲が一変した。
 壊れたパイプが恐竜の行く手を阻む。いや、それだけではない。床がいつの間にかベルトコンベアにもなっていた。天井が崩れ、空には月が見えた。月明かりに照らされ、現れた場所は。
 『廃棄工場』。
 眠りに付いたその工場は梛織というエネルギーを得て、今、ここに動き出す。
 そう、この廃棄工場が梛織のロケーションエリアであった。
 梛織は側にあったバルブを捻り、駆け出した。
「オオオオンっ!!」
 梛織の捻ったバルブは、恐竜に高熱の蒸気を浴びせる。のた打ち回る恐竜。
「これでも……食らえっ!!」
 いつの間にか梛織は古ぼけたショベルカーに乗っていた。
 ショベルカーごと恐竜に突っ込んでいく梛織。
 梛織は途中でショベルカーから脱出し、恐竜の最後を見届ける……はずだった。
「ギャアアアオオオオ!!!」
 腹をえぐられ、怒り狂った恐竜の目は、赤く血走っていた。
「……やっべー、やりすぎたか?」
 と、そこに。
「梛織さん、梛織さん何処ですか!?」
 和服のラクシュミが現れる。しかも間が悪い事に恐竜の側へ出てきてしまった。
「馬鹿、逃げろ!!」
「えっ?」
 ラクシュミが振り返るのと、恐竜の腕がラクシュミの足を掴むのは同時であった。
「きゃあああ!!」
「ラクシュミ嬢!!」
 すぐさま、梛織は側にあった梯子に登り、高台へ。
「離して、離してよ!!」
 振り回されながら、何とかその腕から逃れようとするラクシュミ。

 ――武器に、武器になるようなものがあれば、もしかしたら!!

 ラクシュミは意を決して、頭につけた簪を抜き取り、勢い良く恐竜の腕に突き刺した。
 鱗の上ではなく、その境目へと。

「ギャオオオッ!!」
「きゃあ!」
 簪の痛みに恐竜は堪らずラクシュミを放り出した。宙に舞うラクシュミ。
「おっと、ナイスキャッチ!」
 そのラクシュミを片手でキャッチしたのは、梛織。
「……梛織、さん?」
 天井から垂れ下がった太い鎖。それに捕まって、梛織は宙に飛ばされたラクシュミを上手くキャッチしたのだ。
「怪我はないか、ラクシュミ嬢」
 高台に着地し、そっとラクシュミを地面に降ろす。
「大丈夫よ、これくら……痛っ!!」
 どうやら、思っていたよりも怪我は酷いようだ。
「無理してはいけませんわ。わたくしの薬で治療いたしますわね」
 後から追いついたファーマの薬品によって、ラクシュミの怪我が癒されていく。
「ラクシュミ嬢の怪我落ち着いたら、俺達もさっさと逃げよう」
 気が付けば、恐竜は新たな獲物を見つけ、それを追いに行ったらしい。
 もう、その姿は見えなくなっている。
「ええ……」
 ラクシュミは痛みを堪えながら、頷いた。


▼魔竜の正体
「ちっ、気付かれたか」
 最後の一人を城外へと避難させるギリアム。
 しかし、そこで恐竜に見つかってしまったのだ。
「後は俺がいなくても大丈夫だな?」
 そう目の前のムービースターに尋ねる。ムービースターはこくりと頷き、すぐさま走った。
「お前の相手はこの俺だ。俺を追って来いっ!!」
 近くにあった燭台を掴み、恐竜に投げつける。それは上手く恐竜に当たり、恐竜は逃げるムービースターではなくギリアムを追い始めた。
「グオオオオン!!」
 口から白いもやのようなものを吹き出していく……。
「ま、まさか……」

 ごおおおおおおおおお!!!!

 何とか直撃は逃れたが、ギリアムの金髪の一部が焦げてしまった。
「おい、こんなの……聞いていないぞっ!!」
 恐竜との追いかけっこが始まる。
 通路を通り、階段を駆け上る。恐竜は階段を壊しながらギリアムを追っていく。
「くそっ!! こんなときに銃があれば……」
「お前の探しているものは、これか?」
 振り返るとそこに一人の男性……いや、さきほど会場で踊っていたシャノンだ。シャノンは腕から何かを取り出し、ギリアムに放り投げた。
「おわっと!!」
 それをしっかり受け止めるギリアム。
「これは……拳銃!!」
 オートマチックの拳銃。これならば、恐竜を倒せるかもしれない。
 ギリアムとシャノンが同じ拳銃を構えた。

 ダダダダダン!!!

「ゴオオオアアアア」
 血吹雪を出しながら、恐竜はもだえ苦しむ。
 先ほどの梛織やラクシュミが与えたダメージも深い。

 どうんっ!!

 やっと恐竜はその片足を地に降ろした。
 だが、まだだ。まだ恐竜は……生きている!!

「知ってっかデカトカゲ!」
 そこに現れたのはあの狸少年、太助。
「狸は……トカゲも食うんだぞ!!」
 ぼむんと、太助は巨大な狸へと変化した。
 恐竜よりも僅かに大きい。
 がぶりと、恐竜に噛み付く太助。
「ギュアアア!!」
 炎を吐く前に顎にパンチ。
 怯んだ隙にギリアムとシャノンが拳銃で援護攻撃も加える。
「結構、しぶといトカゲだなっ!!」
 何度か張り合った後、太助は恐竜に言い放つ。
 その太助の視線の先には、額に付いた赤い宝石。
 赤い宝石にシャノンの拳銃の弾が当たった。
「ギュアアアアアアアアア!!!」
 先ほどの攻撃よりも遥かに鳴き叫んでいる。
「もしかして、こいつが弱点か!?」
 太助はすぐさま恐竜の宝石を掴み。
「トカゲはトカゲらしく宝石なんて……付けるなぁーーー!!」
 ばりっという音と共に、その赤い宝石が剥がれた。

「ガアアアアアアアアアオオオオオオオオオンンンン!!!」

 のた打ち回る恐竜。動けば動くほど、その鱗が剥がれ、剥がれ落ち。
 転がりながら、辺りを壊しながら、恐竜はいつの間にか小さく小さくなっていった。
 太助もぼむんと元の大きさに戻る。
 と、同時に恐竜も。

「きゃうん」
 そこにいたのは、恐竜ではなく。
 哀れな派手に傷ついたみすぼらしいトカゲであった。それでも30センチ程の大きさであったが。
「あら、ただのトカゲだったんですの? これではまじないの材料にしかなりませんわね」
「え? マジ? 嘘だろ?」
「何だか、このトカゲさん……可愛そう……」
 丁度そこに、ファーマ、梛織、ラクシュミも到着した。
 トカゲは太助達6人の姿を見て、すぐさま逃げ出した。
 割れた窓から城の外へと。

 こうして、6人は長いパーティーを終えた。
 その後、城内をくまなく調べたが、月影の姿は、何処にもなかった。
 そう、城にはもう誰もいなくなったのだ。
 そう、誰も………。

▼パーティーの幕は閉じて
「結局、あのパーティーは何だったんでしょう?」
 道を歩きながら、ラクシュミが尋ねる。
「恐らく、我々を……ムービースターの命を狙った愉快犯……という所だろうな」
 シャノンが答える。
「ムービースターを狙う、か……全く困ったもんだぜ。お陰で俺の一張羅がどろどろだ」
 梛織の冗談めいた言葉に周囲の者達も笑みを浮かべた。
「面白いサンプルが得られるかと思ったのですが……残念ですわね」
 一人、ファーマだけ、どこか目的がずれている様だが。
「だが、こうして皆、無事で帰れるのだから、よしとしようじゃないか」
 ギリアムも話に加わる。
「そうそう、俺のご馳走もばっちり死守できたしなっ!!」
 太助は何処にしまいこんでいたのか、何処からともなく取り出したタッパーを自分の頭に乗せた。
「そのご馳走、どうするんですか?」
 微笑んでラクシュミは太助に尋ねる。
「そりゃ、決まってるだろ! 俺のじいちゃんやばあちゃんにあげるんだっ!!」

 ゆっくりと朝日が昇る。
 気付けば、もう朝になっていた様子。
 6人は連れ立って、帰路へと向かう。
 それぞれの、帰るべき場所へと………。


▼夜の闇に潜む幻影
 男の手には、とある事件を報道した新聞。
「時価数億円の、白銀のロザリオ。……美術館から盗まれる、ですか」
 愉快そうにその記事を男は眺めていた。
「先日の紅の雫は、まあまあ楽しめましたが……さて、このロザリオはどれだけ、僕を楽しませてくれるのでしょうか?」
 男は新聞を乱暴にテーブルの上に放り投げると、側にあった銀色に輝くロザリオを手に取った。大小様々な宝石までも埋め込まれたロザリオ。男は自分の細い白い指で、ロザリオをゆっくりとなぞるように滑らす。
「彼らの前ではつい、月影と言いましたけど……やはり本当の名を告げるべきでしたかね」
 誰もいない暗がりの部屋で男は笑みを浮かべた。
「麗しき夜の幻影……ナイトファントムだと」
 男は仮面をつけたまま、愉快そうに笑う。
 その不気味な笑い声が、部屋中に響き渡った………。

クリエイターコメント ご参加いただき、ありがとうございました。
 現れた恐竜は無事、倒されました。当日来ていたムービースター達も、怪我も無く全員無事です。お疲れ様でした。
 ですが、どうやら、まだ何かが起きている様子。
 もし宜しければ、ミッドナイトファントム〜黄昏の雫〜も併せてご覧いただければ幸いです。今回出てきた月影こと、ナイトファントムが出てきていますので。
 それでは、またお会いしましょう。
 もうすぐ、彼がまた動き出しますから……。
公開日時2007-03-21(水) 20:30
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